結界の基点までの道案内を女神ハイリアの巫女たるゼルダが務め、時に強大な魔物が立ちはだかることもある道中の妨げをリンクが尽く切り開き、当代の賢者はそんな二人を心から信じて危険な道行きを共に急ぐ。
懸命に務めを果たそうとする彼らだけでなく、彼らの奮闘を知る全ての者が一丸となって、世界の危機へと立ち向かっていた。
聖剣の勇者と女神の巫女を中心に、全てが順調に回っている。
世界は間違いなく救われると、全ての者が疑うことなくそう思っていた。
不安を、違和感を覚えたのは、気付くことが出来たのはただ一人。
世界を回す輪の中心で、共に、隣に立っていた彼女だけだった。
「リンク…リンク、ごめんなさい………」
勇者と呼ばれるに相応しい優れた戦闘の才を持ち得ている彼の心が、強者の矜持と慢心ではなく、弱者の慈愛と憂虞にこそ寄り添えるものであることを、自分は知っていた筈なのに。
彼が、世界を救う務めと人々の信頼に潰されそうになっていたことにようやく気付いた、気付けた時には、もはや手遅れだった。
その重荷を誰にも負わせず、悟らせず、たった一人で最後まで抱え続けることが自身の、『勇者』の務めなのだと。
そんな悲しい覚悟を、たった一人で固めてしまっていた。
恐くて、辛くて、泣きたくて。
今すぐにでも投げ出してしまいたいのが本音なのに、優しい彼はそれが出来ない。
開き直ってしまえるほどに強くない、しかし潰されてしまうほどに弱くもない彼は、自分なら大丈夫だからと、まだ耐えられるからと、『不安』という人々の重荷を片っ端から引き受けてしまっている。
あなた一人で背負わないでと、どうか私にも分けてほしいと。
……そんなことが、今更言える筈もなかった。
そんな彼に真っ先に自身の重荷を預けてしまったのは、彼も同じように不安で堪らなかったことを察せられずに一人でさっさと安心してしまったのは、他でもない自分だったから。
不安と戸惑い、恐怖に揺れながら自らの立ち位置を必死になって探していた彼に、間違った勇者像を植え付けてしまったのは、紛れもない自分自身だったから。
厄災ガノンを討伐するまでの旅路の中で、彼が自分に弱みを見せてくれること、その重荷を分けてくれることだけは絶対に在り得ないと、ゼルダは確信してしまっていた。
疎まれているのではなく、むしろ誰よりも信頼し合っていたからこそ。
我が身を削ってでも大切に、守るべき人だと思ってくれているからこそだということを、欠片の疑いも抱くことなく察してしまえたが故に。
勇者と姫巫女、世界の命運を負った二人の心境を置き去りに、厄災討伐の準備は哀しいほどに順調に、着々と進んでいく。
少しずつ、しかし確実に、決戦の時は近づいてきていた。