成り代わりリンクのGrandOrder 外伝   作:文月葉月

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嘆願と実力行使

 

 その後数日かけて、俺とゼルダはシーカーストーンで遊び倒した。

 何の機能が残っているのかと、それをきちんと動かせるのかを確認する為に始めたことだったけれど、そんな真面目な話が頭から完全にすっぽ抜けるのにあまり時間はかからなかった。

 驚いたことに、『ブレス・オブ・ザ・ワイルド』においては百年置いた時点で多少出てしまっていた不具合が、数百年ぶりの起動の筈なのに全く見受けられなかった。

 マグネキャッチやビタロックなど、重要かつ強力な機能のどれもが問題なく使うことができた。

 

 これはやはり、宝物庫にかけられていたであろう魔法の影響か…プルアや、彼女の後に続いたであろう技術者達の努力の賜物かもしれない。

 一番便利で頼りにしていた、この時代にはタワー以前に入力する為の元データが無いので諦めていたマップ機能が、自分で作成・編集できる柔軟な仕様へと改造されていたことからも、本編終了後の語られない歴史の中でも頑張っていた人達が居たことは見受けられた。

 

 確認を進めるうちに、期待以上のものを見つけることもできた。

 何と『ワープマーカー』、更には『マスターバイク零式』といったダウンロードコンテンツのアイテムまでもが収納されていたのだ。

 馬の訓練施設を貸してもらって、後ろにゼルダを乗せて…何気にスピード狂だったことが明らかになってしまった彼女の歓声と、騒ぎを聞きつけて集まってきた野次馬達の驚愕の喧騒を聞きながら、俺はとある重大な決意を固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーカーストーンの仕様確認を、城の至る所で、隠す気も無いまま行なっていたおかげで、「先日賜った品に関して王に申し上げたいことがある」という申請はあっさりと通った。

 仰々しく通された謁見の間にて、俺の手の中にあるシーカーストーンに、あの時は豪華な宝物の中になぜか紛れていた石のガラクタとしか思われていなかったものに、痛いほどの視線が注がれているのを感じる。

 仲良くなった文官から聞いた話を、例の側近が「あんな凄いものを平民上がりに持たせることはありません、徴収しましょう!」と王に訴え、「彼に見る目があっただけの話だ」と一蹴されていたということを思い出した俺とゼルダは、張り詰めた空気の中でこっそりと笑い合った。

 

 城内で噂になっていたおかげで、もはや説明するまでもなかったシーカーストーンの存在を軸に申し出たのは、俺とゼルダに旅に出る許可を与えてほしいというものだった。

 ゼルダの傍にいるかぎり、功績を上げる機会に恵まれないと言うのならば……ゼルダを連れてその機会を探しに行けばいいだけのこと、逆転の発想というやつだ。

 シーカーストーンに満載された便利機能に加えて、魔物に囲まれたとしても問題なく逃げ切れる速さと耐久性を備えているマスターバイクと、例え本当の危機に陥ったとしても瞬時に帰還することができるワープマーカーの存在を押し出せば、許可をもぎ取れる自信は十分あった。

 

 予め話を通したことでやる気になっていたゼルダ自身も、自らの言葉で必死の思いをぶつける。

 自分が未だ無知で未熟であること、与えられた知識では理解したつもりになるだけだということ。

 城の者達から教えられた広い世界をこの目で見て、感じて、王家の務めを果たさなければならなくなる時の為の備えとしたいこと。

 王や重鎮達の忙しく責任のある立場でそれは叶わない。

 幼く、未熟で、だからこそ自由な自分だからこそ果たせる務めだと思っていること。

 それは、『姫』という臣下から『王』へと向けられる嘆願という形で発せられた、『娘』から『父』への渾身の我がままだった。

 

 王が『王』としてだけでなく『父』としても揺れ始めていることに気付いた側近が、慌てた様子でこの話の至らない部分を探し出す。

 そうして見つけたのは、姫の護衛役が俺一人になってしまうということの不安と不信だった。

 その点を、城内一の強者たる兵士長にして、ゼルダガチ勢の筆頭でもあるインパに対して指摘することで、賛同者を増やして流れを掴もうとする手腕自体は流石だと思うけれど。

 ……生憎と、既に手は打ってあるのだった。

 

 

「リンクが付きっきりで御守りすると言うのならば、私に不安はありませんね。

 もはや一兵卒程度では、束になってかかろうとも相手にならなくなってしまいましたから」

 

「……………は?」

 

 

 思わず間抜けな声を漏らしてしまった側近の、王の、その場に居合わせた重鎮達の、我が耳を疑いながらの二度見三度見が向けられる。

 それを何食わぬ顔で流しながら、俺は、澄ました表情で片目を瞑ったインパへと口の端を僅かに上げる仕草で応えた。

 前もって味方を増やしておく根回しは当然……むしろ俺にとっては、ゼルダのことを本当に大切に思っているインパに認めてもらうことは、何よりもの優先事項だった。

 

 

「信じられないと仰るならば、今この場で証明することも出来ますが」

 

「い、今この場で……?」

 

「姫様、こちらへ!」

 

 

 自身を呼ぶインパの声に、ゼルダは、俺と目を合わせて頷き合ってから駆け出した。

 自分の傍という安全地帯まで、ゼルダが来たことを確認したインパは、部屋の脇で置物のように立っていた鎧姿の兵士達へと合図を送る。

 途端に彼らは、日々の鍛錬の成果が窺える見事な身のこなしで、俺へと向けて一斉に襲いかかってきた。

 それに対して俺が背中から抜いたのは、騎士見習いに形だけでもということで支給されていた、思いっきり振れば切れないことはない程度の安物の剣。

 対して相手は複数、しかも得物は王や民を守るための実戦を意識した上物の槍。

 開始時の状況からして圧倒的な差があるのに加えて、成人したばかりの年下を相手に、大人げなく全力で向かってきた兵士達。

 それを全員まとめて、傷ひとつ負うことなく、謁見の間の高級絨毯へと沈めてやった。

 

 

「……おいリンク、お前少しは手加減しろ」

 

「それは、大勢で一斉に、全力で襲ってこられた俺の台詞だと思うんだけど」

 

「その余裕ぶりでよく言うぜ」

 

「そもそも、情けも容赦も遠慮も一切要らないって言ったのはお前だろ」

 

「まあね、ありがとう」

 

 

 城で務め出してから約一ヵ月。

 インパが指揮する兵士達の鍛錬に、ゼルダが見学している間で参加させてもらった俺は、ゼルダと最初に会った時の戦闘で多少なりとも掴んでいた、『睡眠学習』ならぬ『追体験学習』で得た『リンク』の戦闘能力と勘を完全に自分のものにすべく頑張っていたのだ。

 今ここで転がっているのは、みんな、その為に散々協力してもらった馴染みの顔ばかりなのである。

 今日、この時の警護の当番をこの面子にする為に、インパだけでなく、鍛錬場で共に過ごした兵士達が揃って協力してくれた。

 地道に築いた人脈と、気を使った根回しはやはり大切だと、何気に実感させられた一件だった。

 騒めく重鎮や側近達の向こう側で、玉座に座った王様が、今にも声を上げて笑い出したいのを堪えているのが見える。

 インパの傍で、目をキラキラさせながら俺のことを見守ってくれていたゼルダに、俺も渾身の笑みで応えた。

 






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