そうして、私達は旅に出ることとなった。
旅と言っても、使用した際には誰かがすぐに気づけるようにと、大広間に設置したワープマーカーへといつでも、少なくとも月に一度は帰ることを約束した上での、とても気軽なものだったけれど。
「気の向くまま、自由気ままな旅ってのも面白そうだけど。
『功績を立てる』っていう目的があるのなら、ある程度行動と行き先に目星をつけておいた方がいいな」
そう言ったリンクが私に尋ねたのは、『重要ではあるけれど、現状において優先事項とはなっていない問題案件とは何か』ということだった。
案をまとめて、提出して、お父様達に認めていただこうと必死になって、色々と調べものをしていた私には、そういうものに関する心当たりも確かにあった。
リンク曰く……本当に重要で早急な問題にはお父様達が既に取り組んでいる、下手に手を出しても邪魔になって印象を悪くするのがオチだと。
ならば狙うのは次点、優先順位の問題で後回しになってしまっているだけの、解決もしくは好転させることが出来れば間違いなく国の利益となるような案件だと。
リンクの懸念は正しく、以前の私がお父様達を困らせてしまっていた理由そのもので。
最も大きな問題しか見えていなかった私では、思いつくことも考えることもできなかったことをスラスラと口にするリンクは、本当に凄いと心から思った。
そうして私が、以前得た知識を元にまとめた旅の目標は、以下のようなものとなった。
『ゾーラ族との国交の再締結』
『ゴロン族から鉱石を購入する際に付加されている高額な税の緩和もしくは撤廃』
『リト族から向けられている悪感情の融和』
『ゲルド族との通商を再開し、交易場への立ち入り及び参加許可をもらう』
「どの民族も、かつてはハイラルと友好な関係を築いていたらしいのですが……」
「待って待って待ってゼルダ、昔のハイリア人は一体何をしたの」
「記録によれば……ゾーラ族の子供を、『珍しい魚』として飼うために誘拐しようとしたとか。
ゴロン族の大らかな気質を利用して、長年に渡り鉱石を買い叩いていたことが族長の代替わりで発覚したとか。
リト族の弓と歌を、見世物小屋で披露させようとした者がいたとか。
ゲルド族は男に媚びたがっていると思い込んで、交易場のゲルド族に求愛という名の侮辱をして回った者がいたとか」
「………………何やってんの」
「………………本当に」
信用できる資料をほんの少し見ただけで、彼らの大切な誇りと言えるものを尽く踏み躙ったことが察せられる。
彼らと再び友好な関係を結ぶことは、ハイラル王家にとっては代々の悲願なのだ。
「現状維持で特に大きな問題がないせいで、対応こそ後回しになってしまっていますが。
これらの件を何とかできれば、それは間違いなく『功績』となるでしょう」
「そうでなくても、これらに関しては個人的に何とかしたいと思うな、俺は……」
そう言って項垂れたリンクは、何やら酷い衝撃を受けたようだった。
『思い入れ』とも言えそうなものを感じるその様子を、少しだけ不思議に思いながらも、そのまま話を続けることにした。
『特定の地方で定期的に発生する異常気象の解明』
「不意に巻き起こる強風と共に、多量の落雷や氷雪、更には炎が降ってくるという謎の異常気象が報告されています。
地域の住民は不安な日々を送っているようですが、屋内にいる限り被害は免れるので、対応を後回しにされてしまっているのです」
『迷いの森の探索』
「どんなに気をつけ、目印などを残しても、迷って霧に巻かれた挙句に最初の場所へと戻ってきてしまうという謎の森です。
奥地に辿り着いたとして、何かしらの具体的な成果があるかどうかは不明ですが、多くの者達が挑みつつも出来なかったことを成し遂げればそれは快挙でしょう」
『大妖精の泉の捜索』
「稀に発見される小さな『妖精』が、人に恩恵をもたらしてくれることは確認されています。
その妖精を統べる者、出会った者に大いなる祝福を与えてくれるという大妖精様が暮らしている泉が、どこかに存在しているそうなのです」
『各地に点在している馬宿の実態調査』
「行商人や旅人など、人の行き来を支える重要な要となる場所なのですが、運用の殆どをその地の人に任せきりになってしまっているのが現状です。
本来ならばきちんと視察を行ない、要望や改善点を確認した上で、きちんと支援を行うべきなのです」
『動物や植物などの詳細な生息地及び生態の調査を行なう』
「どの地域のどこに行けば、何を効率的に探し出せるか。
これを細かくまとめることが出来れば多くの者が助かります、殆ど進んでいないせいで今は手探り状態ですから」
『訪れた場所、出会った人達の困り事や相談事に真摯に対応する』
「……ごめんなさい、これは私の我がままです。
王家の手が届かないところで、きっと、沢山の人が色々な悩みを抱えています。
全部をどうにか出来るとは思いません、だけど……せめて出会った人の、私達で何とか出来ることなら、してあげたいと思うのです」
頬が熱くなるのを感じながら、俯きながらの私の言葉に、リンクは笑いながら頷いてくれた。
無為で適当な日々を過ごすことのないように、目標達成の明確な期限を作ることにした。
今から、一年よりも少し前。
私とリンクが初めて会った日、リンクの次の誕生日までに、これらの10の案件をひとつでも多く解決していく。
改めてそう誓い合った次の日の朝、私達は、城の皆に見送られながら旅立った。
ブレワイ内での描写で例えるならば、旅の目的が決まったことでシーカーストーンのマップに黄色い二重丸が表示されました。