真・恋姫無双~呉の麒麟児   作:南斗星

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何年ぶりかの投稿


第一章 第一話 洛陽での出会い

昼夜を問わず、疾走する馬がある。

 

足元の泥土を跳ね飛ばし、ただ道を前へと。

 

 

 

「嫌な雑務を押し付けられた」

 

馬上の太史慈は、内心でそう愚痴た。

 

元々期限までに都に上奏するには、今よりも10日は前に出立せねばならぬに、今更どう急いだ所で間に合うわけがない。自分達の怠慢が原因なのに、その尻拭いを俺にさせるとは。

 

 

 

俺の才能を引き出そうとして?

 

いいや、そうではないだろう。

 

やつらにとってはもうすでに手遅れなのだから、そこに才は関係がない。

 

ただ自分達の怠慢による失敗を、若輩で新入りの俺に押し付けたいだけなのだ。

 

 

 

それにこれには古参の将達も係わっているのだろう。

 

古参の将で固まった孫呉の将に、新参の俺が入ったことが気に入らんのだ。

 

元々俺の帰参は、雪蓮の独断によるもの。

 

それが黄蓋達にはどうしようもなく許せんと見える。

 

 

 

内心の愚痴とは別に太史慈はますます馬を急がせる。

 

自分にこの仕事を押し付けたやつらの思惑を知らぬほどこの若者は愚鈍なわけではない。

 

彼らはただこの失敗の責が自分達から離れればいいのだ。

 

ただ太史慈は彼らとは違い、自分を知っていた。

 

他の者には不可能に見えても、自分なら可能に出来ると。

 

 

 

太史慈は昼夜兼行で馬を駆けさせた。

 

従も連れずただ一騎、都への道を疾走する。

 

ろくに睡眠も取らず、飯も馬上で食らい途中馬だけを替え、昼夜を問わず身体に鞭打ち洛陽へ急ぎに急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

太史慈が疲労困憊となりながも何とか洛陽へと着いたのは、期限までまだ数日余裕はあるであろう夜だった。

 

――ついに着いた。

 

ここまで自分の脚で日数を稼ぎ、なんとか期限内に辿り着けた。呉の老害共ではまだ道半ばであろう。内心であざけりながらもほっと息を吐いた。

 

後は日が明けて役所が開くのを待つだけだ。

 

太史慈は道中、ろくに休憩らしい休憩も取ってなかったので、今日くらいは存分に飲み食いし英気を養おうと思い、宿に馬を預けると酒場へと繰り出した。

 

 

 

洛陽は初めてだ。

 

流石は天子のお膝元、東莱郡などとは人々の活気が違う。

 

とにかく人が多い。

 

太史慈は天下の往来を歩きながらそう思った。

 

道端に茶屋や屋台、飯屋などが点々と店を並べ、腹拵えする客の姿などがあった。

 

太史慈も腹の虫に急かされながら、どの店に入るかと忙しく目を動かす。

 

その太史慈の目がふと路上に吸い寄せられた。皮の巾着が男達の足に踏まれているのだ。

 

「これはしたり!」

 

と拾い上げて見れば、けっこう重く、ずしりとした手ごたえがあるのだ。

 

「どなたか巾着を落とされた方はおらぬか」

 

と周りの客に呼びかけると、ニ、三人が慌てて懐を探るが、落としていないと分かると、すぐに店へと入っていく。

 

しばらくそうやって呼びかけたものの、持ち主らしき者は現れないので、明日にでも役人に届け出ることにしとりあえず飯屋へと急いだ。

 

 

 

店にも男達の活気で満ちていた。

 

酒の匂いと煙草の煙に男達の熱い語らい。

 

 

都も田舎も変らぬ場所。

 

飯を食らい酒を流し込むと体が満たされていくのを感じた。

 

――こいつはいい。体が喜んでいやがる。

 

つかの間の休憩だな。

 

明日に上奏を済ませれば、また同じ道を帰らねばならん。帰ればまた黄蓋たちが無理を言ってくるだろう。

 

――まあいいさ、この酒はここまでの自分に報いるための褒美だよ。

 

外では急に降り出した雨のせいか、人の出入りが激しくなってきた。

 

店にはますます活気で満ち、騒がしい喧騒に包まれる。

 

――1人で飲む酒は暗くなっていけねえ。こんくらい騒がしいくらいが丁度いい。

 

酔った男達の声に耳を傾けながら、太史慈は杯を重ねた。

 

 

 

 

 

外の雨も小降りとなり太史慈もだいぶ杯を重ねた頃、奥の方から客の騒ぐ声が聞こえてきた。

 

「ない…ないで…ない!」

 

失せ物をしたらしく、大仰な声を出して、懐などに手を突っ込んで探しているのが、太史慈のほうからも嫌でも目に付くのである。傍らに武器を置いたおそらく武将であろうその客は、胸にさらしを巻きつけただけという男の劣情をもようしそうな格好をした美しい風貌に鋭い目をした女性であった。

 

店の主人は、客の捜しものにいちいち構ってはいられないという素振りでいたが、あまりに必死に捜す様子に無関心を装ってもいられなくなったらしく女性に近寄り声をかける。

 

「お客人、何を失くされましたか」

 

「巾着や…たしかにここに、この帯の下」

 

「おお、嫌じゃ」

 

巾着と聞き、主人は慌てて首を振った。

 

「知りませぬぞ。わしゃ疑われるようなことはしておりませぬ」

 

「あんたを疑ってなんかあらへんわ。どこかで落としたんやろか」

 

と、しきりに床を捜すのである。

 

太史慈は先ほど表で拾った物を思い出し懐に手を当てる。

 

――ひょっとしたら、最前の

 

と当てがった手を懐に入れ先ほど拾った巾着を取り出す。

 

そして、立ち上がって女性の前に行き、目の前に拾った巾着をぶら下げてみせる。

 

あっと目を丸くした女性が、思わず巾着を手に取ろうとするのを、太史慈はさっと引っ込めて確認する。

 

「あなたのものかな」

 

「せや、うちのもんや」

 

「左様か。この店の前で拾ったのだが、明日にでも役所に届けでようかと思っていた」

 

女性は素早く巾着を手にし、ほっと安堵の表情を浮かべた。

 

「いやァ…助かったで。これが見つからんようやったら、うち大恥をかいとったで」

 

と言いながら、中身を調べるのも忘れない。

 

「ちゃんと金は揃っているだろうな。拙者、一文たりともくすねておらんぞ」

 

「いややわ、そんなつもりないで…ははは」

 

と誤魔化すように笑う。美人だが、笑うと目の線が潰れて愛嬌がでる。

 

「どうやあんさん。よければこっちで一緒に飲まへんか」

 

「えッ、一緒にとは」

 

「巾着を拾ってもろうた縁や。それに今宵はぱーっと賑やかにやりたいものと思ってたところや。ここの勘定くらいうちに持たせてくれや。なあ!」

 

太史慈にとっても願ってもない申し出であった。一人静かに飲むのも良いが、今日をばかりは誰かと飲みたい気分であった。そう思いすぐに乗り気になった。

 

「そりゃ、いい……やりましょう。やりましょう。」

 

 

 

 

 

それから後のことは、店の主人である由達にとって、あまり思い出したくはないことばかりである。

 

気がついたら、乱痴気騒ぎが始まっていたのであった。

 

店にいた他の客もいつの間にやら混ざり、それに店の従業員、由達自身も巻き込まれ、飲や歌えの大騒ぎである。

 

その喧騒の中、立膝で互いを向き合う格好で、太史慈は先程の女性と杯のやり取りをしていた。

 

聞けば相手の女性は、張遼 字を文遠といい、現在の相国(漢代に於ける廷臣の最高職)である董卓に使える将軍だという。

 

「左様でござるか、相国様の……失礼仕った。その御家来で、」

 

「いやいや堅苦しいのは好かんで、気楽にいこうで。で、あんさんはどこの出や」

 

「某は莱州の片田舎にある東莱郡の一役人にすぎませぬ。こたびは主君から命ぜられたお役目で洛陽に出てきたのでござる。ご存知ないかもしれませんが、東莱郡は青州との境にありまする。こたびはそこといざこざを起こしましてな。まあ聞けば中身など大した事の無い、互いが互いに意地を張ってるだけのようなものですが、それでお互いの意見を先に帝に上奏すべく使者を出したというわけなのですが、青州の使者が出立してから1週間も遅れを取ってからようやく上奏文の用意が終わる始末。今更どう急いでも青州より先に着くわけはない、そこで新参者の拙者に帳尻を押し付けてきたというわけでござる」

 

「うむ、なるほどな」

 

初対面同士が嫌でも打ち解けて話す羽目になって、それぞれが仕官する所の話しからすることになったのである。

 

「しかしあんさんの顔から察すると、間に合うたんやろ?1週間も遅れて出立して、それでもあんさんの方が先に着きおったわけや。……ただもんやあらへんな」

 

そう言って目を細めるとまるで獲物を見つけた猫のようでもある。

 

「そういえばうちの名は言うたけど、あんさんの名はまだ聞いてなかったな、東莱郡といえば袁術の配下か」

 

そう言って顎をしゃくるような仕草をする。

 

「これはしたり拙者としたことが迂闊であった。拙者は公路様の客分である孫伯符の配下で太史慈 字を子義と申す者」

 

それを聞いた張遼はくわっと立ち上がる。

 

「太史慈!あんさんがあの太史慈か、神亭山であの万夫不当と知られる孫策と互角に討ち交わしたという」

 

こちらを見る猫の目がますます細くなった。

 

「いやーうち黄巾相手に暴れる孫策をこの目で見とるさかいな、あないな化けもんと互角に戦えるちゅう話しを聞いて以来あんさんは一度会うて見たかったんや。おっと人んとこの主捕まえて化けもんは失礼やな、かんにんしたってや」

 

興奮を抑えきれない様子でこう詰め寄ってくる。

 

「いやそれほどのこともありませぬ。それより張遼殿こそ神速とその名を知らしめてるではありませぬか。黄巾との見事な戦いぶりは拙者の耳にも届いておりまする」

 

太史慈がこの青年にしては珍しく明るい声を発する。

 

「いやーうちのことも知っててくれたんか、なんや嬉しいわ」

 

張遼も、吉報に浮き浮きと弾んでいた。

 

「なんや夢のようやわ。巾着なくしたんかと思うた時はどないしよ思ったけど、これが縁になるとはなあ」

 

そう言うと張遼は太史慈の横にどっかと腰を据える。

 

「のう、今日はとことん飲もうや、ほれほれ」

 

と酒を勧めてくるのである。

 

「よーし飲みましょう、それ貴殿もほーらほら」

 

と太史慈も酒を勧める。

 

周りの者にはふらつきながら、見真似手真似で踊りだす者もいる。

 

二人も周りに合わせやんやの喝采である。

 

座はいやが上にも盛り上がり知らずに夜が更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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