遅れてしまいすみません汗
ではどうぞ
夢を見ている。
日本に来て初めてになる、シロウの記憶だ。シロウが先に日本に行ってしまい、イギリスに残されたときには普段一週間ペースで見ていたものが、見れなくなっていた。シロウに聞いたら単独行動の力で魔力のパスを切っていたのが影響らしい。
ともあれこれは記憶だ。夢の中なのに夢を見ているとわかる、明晰夢。
しかし、いつも見ていた戦場の風景ではないことにすぐ気づいた。そもそも室内なのだ。さっきまでさくら荘の自分の部屋で漫画を描いていて日付も変わった所で寝てしまったのだ。
ここは、どこだろう………そんなことを思った。
家がある。イギリスにはない日本家屋の庭だ。今回見ている風景は静かな満月の夜、日本家屋と思しき家の庭に、椎名ましろは立っている。
後ろから、建物の方から声が聞こえてくる。
「誰………?」
これはシロウの記憶。
つまり、シロウが出てくるはずなのだ。少なくとも今まではエミヤシロウという紅い外套の騎士が傷つきながら、心を殺しながら戦う風景だったはずだ。しかし今回後ろで話している人は2人。どちらもシロウではない。
縁側、という名前だったはず
古き日本家屋には当たり前に備えてある窓辺の席から、二人の人物が浴衣を着て満月を見上げていた。
一人は壮年と思しき黒髪の男性、一人はまだ少年と言っても良い幼い赤い髪の男の子。
どことなく、シロウに似ているような気がした。
『子供の頃、正義の味方に憧れてた』
黒髪の男がふと、そんな事を呟いた。
正義の味方。男の子なら憧れるだろう。シロウもその1人だったのだろうか。以前シロウは自分のことを正義の体現者だと言っていた。正義の味方のことかと問うたら、アレは単なる掃除屋だとも。
思えばシロウが何故闘っていたのか、私は知らない。
多くの者を助けたはずなのに貶され、罵倒される。確かにシロウは多くの者を助けた。しかしその裏で少数の人間は見捨てたし、助けられないものは切り捨てた。
それでも、守ったものがあるのだから、せめてそれにぐらい讃えられていいはずのことをしていた筈だ。
そんなこと日が来ることは叶わなかったが…
『なんだよそれ、憧れてたって、諦めたのかよ?』
『うん、残念だけどね。正義の味方は期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ』
やはり、とましろは確信した。
この男の子はシロウなのだと。
確かに、面影はあるが、肌や瞳、髪の色が全く違うから、この少年がシロウであるとはとても思えない。
でも、ましろには何となく解かるのだ。この少年は、幼き日のシロウなのだと。何度かシロウの体を漫画の資料にするために触ったこともあるが、見ただけでは骨格すら変わっているように見える。
『そっか、それじゃしょうがないな……』
『うん、ホント……しょうがない』
どこか不満げな顔の男の子の顔。
そして正義の味方になりたかったと語る男はきっとシロウの父親なのだろう。しかしその顔は何処か死期を悟った鳥を思わせた。
しかし、次の男の子の言葉にましろは衝撃を受けた。
『うん、しょうがないから、俺が代わりになってやるよ』
「シ……ロウ?」
声が震えた。
何故なら今まで見てきた夢のシロウの行動。およそ全てが自己犠牲。確かによく言えば正義の味方だ。先程からの疑問が解けた。解けてしまった。
『じいさんは大人だから無理だけど、子供の俺なら大丈夫だろ。任せろって、じいさんの夢は、——————』
——きっと形にしてみせるから——
『ああ……安心した』
「シロウはずっとこの約束のために?」
そんなこと。ただの一般人の男の子ができることじゃない。
この約束を生涯守り抜くなんて、正気じゃない。一体どうすればここまで自分を貫けるのか。新たな疑問が芽生えてしまう。
男の方は、静かに息を引き取った。だけど、今のましろにはそれを気にする余裕など無い。
ああ、分かってしまった。分かりたくなかったことだけど、分かってしまった。
この男の子、エミヤシロウ……衛宮士郎は壊れているのだ、と
人としての大切なものを欠落しているのだと
何故ならあんな地獄を約束を守るためのみに進み続けることなんて出来っこない。私はシロウが心底怖くなっていた。しかし、それ以上にある1つの感情が心の中に広がっていた。
やがて目の前の景色は遠のいていく。今から夢が覚めるのだろう。
覚める瞬間一瞬だけ、無限に広がる紅い大地に突き刺さる剣の丘が見えた気がした。
目が覚めたときには涙していたことに気づいた。あのとき心に広がった感情がなんであったかは思い出せない。しかしそれはあったかくて、心地いいものだった気がする。
時間をみればまだ5時。起きるにはまだ早過ぎる時間だ。早起きなんて経験がないし、第一まだ眠くもある。今からシロウのベットに潜り込もうかと考えて、はだけているワイシャツなど気に留めずほぼ半裸で部屋を出る。
あのとき感じた感情がなんであったのか。本人はまだ知る由も無いが恐らくそれは———————
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