朝日が照らす道を歩く一人の少年。少年の年齢は15歳くらい。金色と赤のオッドアイに薄い青色の髪をしている。少年はある建物の前まで来ると立ち止まる。
少年が立ち止まった建物の入り口には『筆記試験会場』と書かれた看板が立て掛けられている。
「おう、零」
立ち止まっている少年は背後から声を掛けられる。声を掛けたのは黒色の短髪に茶色い瞳の少年。声を掛けられた少年――零は心の中で溜め息を吐き、黒髪の少年の方を向く。
零「君も受けるんだ、直之」
少し怠そうに零は言う。黒髪の少年の名は芦山直之。零と同じ中学校に通っており、零に良く話し掛けてくる人物である。
直之「おう!其れを聞くって事は零もか! お互い頑張ろうぜ!」
満面の笑みで肩を叩く直之。零は心の中で溜め息を吐きながら2ヶ月と1週間前の事を思い出していた。
□■□■□■
――2ヶ月と1週間前。休日だった零は下宿していたアパートでスマホを側に置き、ベッドの上で横になっていた。
零(どうしようかな…)
深く溜め息を吐きながら寝返りをうつ。此の時零は教師や学校側から進路について色々言われていた。
教師や学校側から零に進路について聞くのは未だに零が受験先などについて言ってないためである。零の学力は上の方であり、運動神経もかなり高い。其のため其れなりに良い高校に行ける程である(ようするに教師が評価を高めたいためである)。
何処を受けようか悩む零のスマホに電話が掛かる。零は相手を確認し、スマホに出た。
零「何の用、父さん?」
眠そうに用件を訊ねる。電話の相手は秋里 剛毅。零の父親である。
剛毅『急に連絡して済まんな。実はお前の進路について話があってだな』
零「進路?」
剛毅『そうだ。何処を受験する予定だ?』
零「いや、未だ何処を受けようか悩んでいる段階だけど…」
剛毅『そうか』
零が未だ何処にも願書を出していない事を告げると剛毅は少し嬉しそうに呟いた。
零「父さん?」
剛毅『ああ、済まんな。で、零よ。唐突だが『深海棲艦』と『艦娘』に関しては知っているな』
剛毅に問われ、零は何を今更聞くんだろうと小首を傾げる。
□■□■□■
――今から数十年以上も昔に突如として謎の生命体が全世界の海に現れて人類から制海権を奪った。謎の生命体達は船舶を攻撃して人を襲って殺害し、陸上攻勢によって沿岸部の都市にも被害を出した。
各国は謎の生命体達を【深海棲艦】と呼称。世界中の国々による大規模な反攻作戦に打って出た。
しかし、結果は惨敗。此の作戦には日本も数万人規模が作戦に参加した(後方支援として)。だが、帰ってきたのは数百人程度だったと言われている。
各国が絶望に陥る中、深海棲艦の一団が突如現れた少女達によって撃破された。
彼女達は大戦時に活躍した艦艇の魂が受肉、具現化した存在だと話したと言われている。各国は彼女達を『艦娘』呼称した。
各国は、彼女達と共に反攻作戦を行う事を決定。日本でも法や軍を整備した(自衛隊を海上自衛隊を母体とした【海軍】と陸上自衛隊を母体とした【陸軍】に分けた。なお、航空自衛隊は陸軍と海軍に分かれて消滅した)。
そして、海軍は『鎮守府』を建て、内部や一般人等から艦娘を指揮する者――『提督』を任命し、着任させている。
□■□■□■
零「――って話でしょ?」
剛毅『そうだ』
零の返答に満足げに頷く剛毅。其れから剛毅は何度か深呼吸を繰り返すと話を続けた。
剛毅『では海軍高校についても知ってるな』
其の問いで零は剛毅が何故こんな質問をしているのかを察して内心で溜め息を吐く。
海軍高校とは軍の中でも海軍に進む者を育成している高校。卒業者の中には『提督』に成った者も多いという(大学もあり、高校時の試験及び成績がトップ10以内で大学へ進学する場合は入学試験が免除される)。
其の高校の入試は今から2ヶ月と1週間後。つまり剛毅の用件は――
零「…受けてみないか、って聞きたいの?」
剛毅『……そうだ。実は俺の親友が海軍の者でな。大将と中将に昇進したらしい。其れで祝おうと先日会ったんだが其の時に人手不足と嘆いていてな。其処でお前の話をしたんだが受けさせてはみないかと言われてな』
零はやれやれ、と頭を左右に振りながら考える。高校の試験は筆記、適性検査の2つで髪型、服装等は自由(此れは在日の人達を考慮したりしているためである)。
適性検査に関しては内容が秘匿されているので知りようがないが、筆記試験の内容は零にとって其処まで難しいものではないので自分は別に受けてみても良いとは思っている。
零「…母さんは知っているの?」
剛毅『知っている。母さんはお前の意思を尊重するそうだ』
零「そう。……受けてみても良いよ」
剛毅『良いのか?』
零「別に受けてみても良いよ。進路について悩んでたとこだし。ただ受験料とかに関しては任せても良いかな?」
剛毅『分かった。受験料は此方で何とかする。・・・またな』
零「ん。バイバイ」
そう言って零は通話を切る。零はスマホを置き、寝返りをうって天井を見る。
零「…さて、どうなるかな?」
そうポツリと呟き、零は目を閉じた。
□■□■□■
零「…はぁ」
直之「ん、どうした零?」
零「…何でもないよ」
零が頭を左右に振りながらそう呟き、スマホを見る。時間は8時00分。試験開始まであと1時間である。
直之「っと、もうそんな時間か。行こうぜ、零」
零「…分かってるよ」
再度満面の笑みを浮かべて先に行く直之。零はスマホを鞄に仕舞い、其の後を追うのだった。