無限の使い魔   作:クリスタルウォール

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最後の一体

後のことを君に託して僕だけ消えるのは……やはり狡いことなのかもしれない。

 

でも、君ならきっとやり遂げると、僕は信じているよ。

 

だから、さよなら。

 

()の役目は……これで全て終わりだ。

 

……俺は、俺とあの老人が望んだ世界を作れたのかな。

 

――――――

 

――――

 

――

 

光が、視界を包む。

 

その後に広がる木々と空……空!?

 

ばかな、なんだここは……見渡す限りのもの全てが自然で出来ている!

 

木の家や石でつくられた塔のような物も見えるが……複雑な合金で出来た物は何一つない!! 全てがデータやサイバー空間でしか見たことのない物が、俺の目の前に広がっている。

 

「せ、先生! 筒みたいな棺の中の人間が、目を覚ましました!!」

 

声がする……筒の中の人間?

 

カメラやセンサーによる五感の調節が終ると、俺は更に驚いた。

 

まず五感があるなんて、今の俺はサイバーエルフではないのか……。

 

そして手を見る。これは……おれのオリジナルボディ? ますます訳がわからない。破壊された体、消えていくはずだったレプリロイドとしての魂。それが全てもとに戻りひとつになって、カプセルの中にある。

 

理解出来ない。

 

正直驚くのにも、理解するのにも、メモリと回路が疲れ始めている感じがする。ひとまずは起こっていること全てを知ってインプットしてから。もうそれから悩むことにしよう。

 

カプセルへ信号を送る。さて、内側から開いてくれると良いのだけれど、どうだ? まだあまりエネルギーの充電も済んでいないこの体で、出るのを許可してかれるだろうか、念のために緊急信号で送信した。

 

――ウィィン――

 

お、大丈夫そうだな。

 

「ひ……人? 生きているの……?」

 

「人ってもしかして、俺のことかい?」

 

まさか俺を人に見間違うなんて……どういうことなんだ。少し嬉しいけれど。

 

って、なんだこの子! 髪の色が桃色で、しかも白人の金髪のように輝いてる。

 

人間と言ってくれたこの子には悪いが、逆に俺にはこの子が人間には思えないよ。

 

何せスキャンしてみたら頭皮から生えてる本物の髪の毛ときた、染色でも植毛でも、ナノマシンでも機械の体でもない。ただの髪だった。

 

「え、ええそうよ。私がサモン・サーヴァントで呼び出したんだけど……まさか人間が呼び出されるなんて。」

 

「サモン・サーヴァント?」

 

意味は何となくわかるが、聞きなれない単語が飛び出してきたな。

 

「何よ、使い魔召喚の儀式よ。あなただって不思議な鎧を来てるのに知らないってことは……まさか、戦士なのに平民なの?」

 

待ってくれ、話が続いて聞けば聞くほど、意味不明になっていくぞ。

 

「すまない、言っていることが良く解らない。」

 

「サモン・サーヴァントを知らないなんて、あなたいったい何処の田舎から……ううん、鎧からしてわけわかんない格好だし、辺境から来たのよ!」

 

サイバーエルフになる前はそれこそ、都市部の中央辺りにいたと思うんだけどな。

 

しかし……び、B級扱いや不良品扱いはされたことはあるけれど、田舎者扱いは流石に始めてだ。

 

「うーん、やっぱりあまり解らないな。ひとまずそちらの誤解から解こう。その後に出来れば詳しく、君たちのことを教えてほしい。」

 

「誤解?」

 

「ああ。まず俺は人じゃなくて、レプリロイドだよ。」

 

「れぷり……ろいど?」

 

……これは伝わってないな。まさか、レプリロイドを知らない? そんなこと……それこそアマゾンの奥地すら機械が管理してからは、知らないなんて田舎ですらあり得ないはずだけど。

 

まさか、ここは過去の世界を、もしくはレトロファンタジー世界を再現したサイバー空間なのか?

 

いや、ネットワークの繋がりすらカプセルと俺との間にある通信回線以外、何も感じられないし、目の前の人や周りの植物はどのセンサーからも、反応がハッキリと有機物として表示されている。間違いなく、ここは現実空間のようだ。

 

驚かないで状況を知ろうとしても、疑問がどんどん増えていくな。

 

そもそもなんで、ここに俺はいるのだろうか。いや、サモン・サーヴァントというものが転送のコード名だろうというのは解る。

 

そうじゃなくて、俺が俺としてここに在ることか解らない。スクラップと消えかけのサイバーエルフでここに呼ばれたというのならともかく、調整カプセルの中から新品同様でだなんて、どう考えてもおかしいだろ?

 

まさかまた、あの老人が消えかけた俺に何かを……? しかし、あの老人とは妖精戦争以降顔を会わせてない。

 

それに……この世界は自然しかない。人類が退化したのか文明が滅んだのかは解らないが……世界に俺を……いや、レプリロイドや機械残すことをするやつがいるのか?

 

「ちょっと、れぷりろいどって何よ。説明しなさい!」

 

いけないな、誤解を解こうとしていたはずなのにまたこちらで考え込んでいた。

 

「うーん、レプリロイドっていうのは……いうなれば機械、かな?」

 

「機械? 水車とか、時計塔とかそういうやつ?」

 

「ずいぶん原始的なものと一緒にされてるな……でも、そうだよ。俺の遠い遠い先祖、機械の始まりがそういうものさ。」

 

「嘘。」

 

「えっ?」

 

「そんなわけないでしょ、こんな人と話せる機械なんて、スクウェアクラスのメイジの作るゴーレムですら、今まで一度も見たことも、聞いたこともないわよ。」

 

「ゴーレム……良く解らないけどそれって、魔法で動くとか物語で言われる、主人を守る人形だよね? それは近い気がするな。俺は人を守るために作られたんだと、自分では思っていたしそうやって生きていたからね。」

 

「むぅ、まだそんなことを言って……そこまで言うなら証拠見せなさいよ。」

 

証拠か……俺が人と違うところ、というより人に出来ないことになると、やはりコレかな。

 

「きゃっ……う、腕が急に……!?」

 

「どうかな、これで少しは信じてもらえたかい? って、あ! ちょっと何をするんだ、危ないぞ!?」

 

「だって、やっぱり信じられないもの! 単にこの鎧がマジックアイテムなだけかもしれないでしょ!!」

 

まさか手をバスターに変えても信じてもらえないとは、流石に困ったな……あ、そうだ。

 

「ひゃん!」

 

しまった、なにも言わずにしたから転ばれてしまった。

 

「いたた、何すんのよ……って、きゃああぁっ!? う、腕、腕が……あ、あれ?」

 

「これで信じてもらえたかい?」

 

武装解除。手に戻して、肘から先を切り離してみたが、少し先を考えなさすぎたかもしれないな。

 

しかし、悲鳴をあげていたのも忘れて、ピンクに輝く髪の彼女はまじまじと、切り離した俺の腕の接合部を見ている。幸い怪我もないみたいだ……もしもあったらイレギュラー認定されてたのだろうか。

 

「あなた、ほんとに人間じゃあないの?」

 

「ああ、というか生き物じゃないんだ。さっきも言ったけど人を守るために作られた機械、レプリロイドさ。」

 

「れぷり、ろいど……それがあなたの名前なの?」

 

「レプリロイドはそうだな……種族名かな。君が先程言った水車とか、時計塔とかと同じだよ。」

 

「それじゃあ、機械なのにあなたには名前があるのね?」

 

「ああ、そういえば名乗っていなかったね。今さらだけど始めまして。俺はエックス。えーと、そういえば君の名前は……?」

 

「ルイズよ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」

 

「ルイズちゃんか、よろしく。」

 

「な、馴れ馴れしくちゃんなんてつけてんじゃないわよ!」

 

「じゃあ、ルイズで。」

 

「ご主人様を呼び捨てにするゴーレムがどこにいるのよ!」

 

「うん? ご主人様って、どういうことだい?」

 

少しまた気になる単語が出てきたな。彼女があの大きな建物の総司令官かなにかなのだろうか?

 

「……少し、よろしいかな?」

 

「あなたは?」

 

ルイズと話をしていると、一人の男が話しかけてきた。良かった、なんか落ち着く頭だ。もう少しして禿が完全になると、腹のたつ頭に感じそうだけれどね。

 

「失礼、私は教師のジャン・コルベールと言います。」

 

「教師? ではここは学校なのですか?」

 

言われてみれば後ろ遠くに見える人間たちはルイズと同じ格好だ。そうか、すごくデザインが古臭いように見えるが制服なのか。学校ね……人間は俺たちレプリロイドみたいに、情報をダウンロードすれば覚えられるわけじゃないもんな。

 

「ええ、トリステイン魔法学院といいます。ご存じありませんか?」

 

「申し訳ないが、全く解りません……見るもの何もかも初めてなものばかりで、宜しければ子供に教えるように、俺にご教授願いたい。」

 

どうやら落ち着いて状況把握の話が出来そうな人のようだ。

 

「ふむ……そうでしたか。おや、あなたの腕は先程見たときは両方あったように見えましたが……?」

 

「ああ、今はルイズが――」

 

「そ、それは……!?」

 

突如、コルベール先生が俺の前から消えたかと思うほどの早さで動いて、ルイズの抱えている俺の腕を彼女から素早くひったくった……って、ええっ!?

 

「あ、あの……。」

 

「こ、コルベール先生!?」

 

ルイズと二人して声をかけるが、まるで聞こえていないかのように、コルベール先生は俺の腕をいじくり回して夢中だ。

 

あ、なんか杖みたいなものを出してぶつぶつ言ってるぞ……えっ? なんだあの杖、完全に単なる木製の物なのに、杖が輝いている!

 

「何だい……あれは?」

 

思わずルイズに尋ねたら、彼女は何を言っているんだと言うような顔で俺を見返した。

 

「何って、単なるディテクトマジックじゃないの。」

 

「ディテクトマジック……?」

 

「呆れた、あんたゴーレムなのにそんなことも知らないの?」

 

「いや、俺はゴーレムじゃなくて……というより、そもそもコルベール先生がしていることは一体何なんだ?」

 

「何って……まさかエックス。あんた、魔法まで知らないって言うんじゃあないでしょうね……。」

 

「魔法だって!?」

 

こうしている間にも、少し足された情報をもとにいろいろな仮説を立てて、俺なりにここ、トリステインがどこなのか、ずっと考えていた。

 

かなりレプリロイドらしくない考えだけど、最初はもしかして俺が完全に消えた後に少し先の未来で、ある程度の時を渡る技術でも生まれたのかと思った。止める開発までは短時間とはいえ進んでいたからだ。

 

それにより俺という存在を過去より呼び寄せて、復元しようとした誰かが何かの原因による実験失敗で逆行、暴走し、俺は予想以上に過去へとわたってしまったのではないかと、かなり無茶な推論だが技術の古い世界を見ている以上そう考えるしかなかったんだ。少しだけなら未来に行って、自分の時代に戻れた悪い研究者がいたらしいけれど……過去まで戻れてしまった話ではなかった。

 

だかしかし……過去の世界で人類が本当に魔法を使えたという記録は、少なくとも俺が生きていた時代までに一度もない。奇跡の話や聖人の伝説は存在するが、確固たる証拠となるものを残せていたものは、無い。

 

ならば、ここは一体……そうして次に俺に考えられたのは、気が遠くなるほどの未来ということ。

 

文明を資源が枯渇して維持できなくなり、そここら衰退した人類が新たな文明を栄えさせるために進化した姿が、今のコルベール先生のしている魔法だという可能性だ。

 

この場合だと、俺がこうしてここに居ることの疑問は消えないが、過去への時の移動などという夢物語な馬鹿げたものも、これならば実現していないし、考えられるのではないだろうか?

 

もっとも、古代に栄えた超文明が滅び……それでも新に人々は力を得て生きてくなんて、それこそ物語のお話そのものだけど。

 

そう分析しているうちに、今度はコルベール先生がすがるように寄ってきた。

 

「き、君! 名は何と言うのかね!?」

 

「お、俺はエックスと言います……。」

 

「ふむ、エックス君! すまないが、君の体にもディテクトマジックを試させてはくれないか!!」

 

「ええと、そのディテクトマジックとは一体、どういうものなのですか? 出きれば危険なものはやめていただけると助かります。」

 

「ふむ……ディテクトマジックを知らないのか。とすると、まさか本当に……いやいや、失礼した。この魔法に危険はございませんぞ。対象としたものや周囲など、何があってそれがどんなものか知る魔法にすぎませんから。」

 

「スキャンみたいなものですか……そういうことでしたら、俺は構いませんよ。」

 

「おお、では早速!」

 

安全なものでほっとしたとはいえ、危険なものか俺としては解らなかった以上、出来れば腕にかけるよりも先に聞いてほしかったところだけれど……ここではそんなこと常識で聞くことでもないのか。

 

とにかく、直接魔法を体感することになったわけだけど……これでどんなものか解るかな?

 

パウダースノーのような光が俺に降り注ぎ、体を包む。

 

「おお、やはり……しかしこれは一体どういうことなのか……。」

 

コルベール先生はなにやら成果を得られたようだが、俺の方は解析してもただの光でしかなかった。うーん、俺が古い存在だから未知の物質を解析できないだけなのだろうか。それともこの光自体は、物理的には本当にただの光でしかないのだろうか? だとすればまた物語の中だけの古い話にしかなかった存在になるが、魔法使いはさしずめ超能力者といったところか。

 

あくまで発光現象は副産物で、ディテクトマジックというのはレントゲンのようにエックス線とかを用いて得られた情報を、脳が受信するものなのかと思っていたんだけどな。

 

しかし、俺が観測用レプリロイドではないとはいえ、人間が今では機械に解らないことを解ってしまえるなんて……文明自体は衰退しているかもしれないけれど、人間としてはものすごい発展と進化を遂ているな。超能力を操るレプリロイド、なんてのはファンタジーすぎて流石に作られたなんて話も聞いたことは無かったし。

 

「ちょっとエックス、いい加減これつけなさいよ。手の無い人間みたいなあんたを見ているのは、なんだか怖いわ。」

 

「あ。そういえばそうだ、ありがとう。」

 

手をルイズから受け取り、接続し直す。軽くバスターに変形させてたりして、しっかり機能するか確認した。

 

「本当に不思議なことばかりだ。こんなにきれいな世界の空を見るのも、魔法にディテクトマジック、初めてだらけだよ。」

 

「だからー、ゴーレムなのに何であんたは魔法が解らないのよ。」

 

「いや、似てるとは言ったけれど……多分ルイズの知るそれと俺はきっとだけど、本質的には大きく違うんだ。」

 

ルイズにもう一度説明しようとしたら、コルベール先生がうんうんと頷きながら割って入ってきた。

 

「その通りですぞ、ミス・ヴァリエール。おそらく、エックス君は魔法を知らないのでしょう。」

 

「ミスタ・コルベール? それはどういうことですか?」

 

「信じられないことですが……すごく簡単なことです。エックス君はなんと、魔法で動いていないのです。」

 

「……は?」

 

ルイズの口が空いたまま塞がらなくなっている。少しして、何を言っているんだとコルベール先生を睨み始めた。

 

「ディテクトマジックで確認しましたが、事実です。彼に魔法の反応は一切無い。どういう仕組みでどうやって動いているかは解りましたが、そもそもどうすれば彼のような存在を作ることが出来るのかは解りません。しかし……これは事実です。」

 

「そんな! じゃあ魔法の力もなしに、平民がエックスを……こんな喋る機械を作ったって言うんですか!?」

 

「そうです。一体彼の国ではどんな技術が発展しているのやら……驚くばかりです。」

 

「まさか……東の国から呼び出したのでしょうか?」

 

「その可能性は無い……とは言い切れませんな。ですがミス・ヴァリエール、彼は間違いなくあなたの呼び出した使い魔。何をもって彼を生き物と定義付けされたのかは解りませんが、史上初の行いだと思われますぞ。」

 

「私が……はじめて……。」

 

「そうです。そしてはじめての魔法の成功……おめでとうございます、ミス・ヴァリエール。」

 

「あ……ああっ! そ、そうよ……そういえば私魔法で、自分の魔法でっ!!」

 

なんていうか俺も、二人の会話から何となく解るこの世界の常識や、魔法に驚くばかりだけど、それはどうやら向こうも同じだったみたいだ。

 

そして俺を呼び出したのもどうやら、転送システムとかじゃあなくって、魔法によるものみたいだな。それが多分サモン・サーヴァントなのだろう。

 

なんかこの二つだけでもう……相当何でもありに魔法というものが思えてくるぞ。これなら、こんな便利な力を人間自身で使えるようになったんじゃ、機械工学や技術が発展しなくても、彼等だけで生きていけるだろうなあ。人を助ける為に生きてきた俺からすると、なんだか少し複雑だけれど、人類が他の者や物からの脅威に立ち向かえて、生存率が上がることは良いことだと思えた。

 

そしてルイズはどうやら、今はじめて魔法を成功させたみたいだ。よほど嬉しかったのか、ぽろりぽろりと涙を流している。良かったなと思うと同時に、簡単に出来ることでもないのかと認識を改めさせられた。

 

「ええと、感動しているところ申し訳ないんだけど……今度はこっちが質問をしてもいいだろうかルイズ、コルベール先生。」

 

「ぐす……もうっ、何よ。平民が作っただけあってレプリロイドってのは無粋なんだから。」

 

「ごめん、でもコルベール先生の言うように、俺には何も解らなくって。」

 

「ふん……いいわよっ、今は気分良いから、何でも教えてあげるわ。」

 

「ありがとうルイズ。それじゃあ早速だけど――」

 

俺の話をして情報を擦り合わせようとしたら、コルベール先生に止められた。

 

「ごほん、私もエックス君の話にはたいそう興味はあるので、是非今すぐにでも聞きたいのですが……ミス・ヴァリエール、まだ儀式は終わっておりませんぞ? まずは儀式の完遂からですな。」

 

「え、あっ……そうだったわ。」

 

そういってから急に、今度はもじもじとしだすルイズ。喜怒哀楽の激しい性格で、マーティーみたいな子だな。

 

「エックスは人間じゃないからノーカウントよ……それ以前に、これは正当な儀式なんだし、そういう風に考えるのが邪でハレンチなのよルイズ……。」

 

なにを数えるものなのか知らないけれど、彼女にとってはずいぶんと深刻なことのようだ。ところで、この子も俺がボディのコスチュームをデザインしたら、怒るのかな? なんて考えていると、彼女が俺の目の前に立って見つめてきた。

 

「ルイズ?」

 

「感謝しなさい。モノがメイジにここまでしてもらえるなんて、まずあり得ないんだからっ。」

 

「うん?」

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン――この()に祝福を与え、我の使い魔となせ……んっ!」

 

「むぐ……。」

 

えっ……これは確か人間でいう、キスというやつじゃないか? な、何をどうしていきなりこんなことを!?

 

「と、突然に何をするんだルイズ!」

 

俺はルイズの肩を慌てて腕で倒れない程度に押し、彼女を引き剥がした。流石に俺だってこれがどういう事かは解るし、いくらレプリロイドとはいえ未知の体験には慌ててしまう。

 

「こういうことは、ちゃんと大切な人間同士で――ぐわああぁっ!?」

 

俺は突然、電撃が走ったような感覚に襲われた。思わずさらにルイズを突き飛ばす。

 

「きゃっ、え、エックス!」

 

その後実際に体からバチバチとスパークを発しながらうずくまると、ボディからWARNINGの警告信号と、体に起きている異変のリストが送られてきた。

 

――口元より未知の命令信号を感知。受信拒否、失敗。命令は体内に侵食し左手に集中、プロテクト不可。緊急の為のアームパーツのパージ、失敗しました。侵食が上位命令として扱われており、こちらの操作の権限が受け付けられません。

 

なんだこれは、まさかウイルスプログラムか何かをルイズが俺に……!?

 

いったい、なぜ!?

 

「あ、ぐうぅっ……!?」

 

右手がバスターにもならないままに発光し、やがてその光が手の甲へと集束していく……まさか、これも魔法なのか?

 

「うわぁあぁ――――――っ!!」

 

最後にひときわ苦しい感覚に襲われると、ようやくそこで痛みは消えた。レプリロイドの感覚でここまで()()と感じたのは、はじめてじゃないか? シグマのウイルスが体を駆け巡ったときのような、嫌な感じだった。

 

「はぁ、はぁ……いったい俺に、君は何を……。」

 

「私が呼び出したアンタに、使い魔としてのルーンを刻んだのよ。」

 

「なん……だって、使い魔?」

 

「そうよ。使い魔とした生き者に、ルーンを刻むと何かの力を与えたり、喋れるようにしたりすることが出来る……というより、出来たりするのよ。」

 

「俺は生き物じゃないし……もとからしゃべっているんだけど……それよりも、 ものすごく痛かったよ。」

 

「変なの。みんなの呼んだ生き物達はむしろ大して痛がってなかったのに……生き物じゃ無いあんたが痛がるなんて。」

 

ようやく痛みのひいた俺の手を見ると、ルーン文字という遥か昔の言語で書かれたものがあった。ええと、ガンダ……ルヴ? 

 

「おお、これはなんとも見たことの無いルーンですな。失礼、スケッチをさせてもらいますぞ。」

 

コルベール先生は俺のことを無視して腕の文字をスケッチしていく。彼から察するに付けられる印はどれも違うものなのか……。

 

「ルイズ、君に聞きたいことか増えたよ……。」

 

「ルーンを刻まれてもそんなこと言えるなんて……物なのに苦しむ態度と言い、あなた本当に意味わかんないわね。生き物……ううん、やっぱり人間にしか見えないわ。」

 

「俺は逆に、そろそろ君が人間に見えないよ……。」

 

「ちょっと、どーゆー意味よ!」

 

「どうって……髪とかキスだけでこんなことのできる魔法とか……もう全部かな。」

 

「き、ききき……あ、あ……あんたねぇ!」

 

俺のプロテクトをキスだけで破るなんて、本当に人間とは思えない。想像したくないが、シグマがしてもきっと無理だと思う。

 

「俺が――知らないこと――ばか……り――あれ?」

 

まずい、さっきの放電(スパーク)で、ボディのエネルギーが散って……カプセルから出たときもほとんど無かったし、補助タンクも、空――だ……。

 

「え、エックス? エックス!?」

 

ダメだ……エネルギーチャージが終わるまではもう……うごけな……い。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

「何なのよ、もう。」

 

私はせっかく呼び出した使い魔が突然倒れたのをみて、まさか壊れてしまったのかと思った。だって、機械にコントラクト・サーヴァントを試みたメイジなんて居ないもの。き、キスしてから気づいたけれど、何が起きるか解らないじゃない!

 

でも、コルベール先生が再びディテクトマジックをかけると、どうやらエックスは単にガーゴイルやゴーレムに術者の精神力が無くなって動けなくなったのと同じで、ただそれでも壊れたり形を維持できなくなったりはしない……そんな状態みたい。人間で言えば眠っているだけらしいの。そんでもってなんか寝てる間のうちに光を食べてるらしくって、しばらくすれば起きるって教えてくれたわ。

 

なんだ……心配して損した。

 

そう思って少しイラついたので、こいつの頬をつつく。柔らかい……本当に人間なんじゃないかって思えるほど、ていうか顔は人間とおんなじね。それに整っていて、なかなか悪くない顔をしてるわね……うん。

 

ふと、コントラクト・サーヴァントをした時に触れた唇に目がいった。

 

ぽかぽかと、ほっぺが何故か熱くなっていく。

 

だ、だから! エックスは機械!! レプリロイドであって、人間じゃないのよ!

 

もうっ、人じゃなくてドラゴンとか、マンティコアみたいなレプリロイドが出てきてくれてたのなら、きっとこんなこと考えないで済んだのに~っ!!

 

ったく、起きたら使い魔としてちゃんと働いてもらうんだから。

 

それにしても、エックスの手……軽かったな。いや、女の子の私としては十二分に重いものなのよ? でも金属の触り心地で固いのに、そうとは思えないほどものすごく軽かったのよ。別に薄くもないし……いったいこいつ、何で作られてるのかしら?

 

あ……浮遊(レビテーション)の魔法でコルベール先生に連れていかれるエックスを見て歩いてきたら、あいつが入っていた……ええと、棺? 原っぱに置いてきちゃった。まあ、明日で良いわよね。私じゃ連持っていけないし……サモン・サーヴァントは成功したけれどもしもまた失敗したら――

 

「呼び出した使い魔がいきなり倒れるなんて、災難ねぇルイズ。」

 

「……何の用かしら、ツェルプストー?」

 

そんな風に前を見ずに頭でいろいろ考えながら歩いていると、寮の入口に嫌なやつ、というか一家の宿敵がいた。こいつはキュルケなんとかツェルプストー……わがヴァリエール家から恋人を奪っていったことのある家系の子孫で、憎たらしい怨敵よ。え、間の名前? 知らないわ……察しなさいよバカ、こんな奴をフルネームで言いたくないのよ、なんて自問自答してみたり。

 

「別に。ただ私はそんなことになって残念ねって、お悔やみの言葉をいってあげようとしただけよ?」

 

うわ……解散になったのに、わざわざ私にそう言う為だけにここで待ってたのかしらコイツ。ほんっと嫌な女、私の大っ嫌いなタイプだわ。

 

「そんなの、要らないわ。ツェルプストーのあんたなんかに心配なんかしてもらっても、嬉しくも何とも無いし。」

 

「あらそう。じゃあついでに私の使い魔も紹介するわ。おいでフレイム~❤」

 

「……サラマンダー?」

 

「そうよ、誰かさんと違って一発で成功。しかも見てみなさいよこの尻尾の炎! これって絶対火竜山脈にいる子よ。好事家なんかに見せてもきっと、値段なんてつけられないんだから!」

 

ああこいつ……絶対ついでじゃなくって、こっちが本命ね。私が悔しがるのを愉しみたかったのよ。

 

「そう、良かったわね。」

 

ふん、誰がその手にのってやるもんですか。

 

「何よ……それだけ?」

 

「ええそれだけよ、それじゃあ失礼するわね。」

 

それに、火竜山脈が何よ。私の使い魔はそんなどこかで見たことあるのや、何匹もこのハルケギニアにいる奴じゃないんだから。

 

はーあ……エックスが目を覚ますまで、何してようかしら。私までなんだか、眠くなってきた気がするわ。

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

目が覚めると、今度はベッドの上だった。ご丁寧に布団までかけられているのに、メットは何故かはずされてないな。

 

気を使ってくれるのは有難いけれど、カプセルやタンクからエネルギーを補給してない時は、日光からエネルギーをとるしかないから、布団は被せないでほしかったけれど……。

 

さて、充填にどれくらいかかったのやら……げ、一日経ってるじゃないか。

 

「うおっと!」

 

慌ててベッドから降りようとして、思わずつんのめった。布と綿で出来たベッドで眠るの初めてで、どうもバランスを崩したらしい。

 

改めて体にインプットして、今度は普通に起き上がると、大慌てで黒髪のメイド服を着た子が入ってきた、日本人のような顔つきだ。

 

「あぁっ! 良かった……目を覚まされていたのですね!!」

 

「ん、君は……?」

 

「お願いします、使い魔さん! ミス・ヴァリエールをどうか助けてください!!」

 

「ちょっと、いきなり何を言っているんだ。落ち着いてくれ……いいかい、ルイズがどうしたんだ?」

 

「は、はい……み、ミス・ヴァリエールが私なんかをかばったせいで、グラモンさまと決闘をされているのです。」

 

「決闘だって……?」

 

嫌な感じがする。人間同士で争うこともそうだけれど……昨日の得られている情報から気になっていることが、ひとつあるんだ。

 

「ミス・ヴァリエールは魔法を使えないのに……あぁ、どうか、どうか使い魔さん……!」

 

「だ、だから落ち着いてくれ……それにルイズが魔法を使えないってことはないだろう? 現にこうして、俺を呼び出して昨日成功させているじゃないか。」

 

やはり魔法を争いにも用いているみたいだ……確かにそれなら急いだ方が良さそうだが、彼女のこの反応はいったいどうしたって言うんだ?

 

「いいえ、失礼ながら申しますと……その、ミス・ヴァリエールは魔法が使えないのです。使い魔さんを呼び出したこと以外は必ず失敗をしていて、今日の授業でも失敗してしまったようでした。ですが……相手はドットとはいえミス・ヴァリエールとは違い魔法を使いこなしています。そんな人の青銅のゴーレムたちに、まともに魔法の使えない立ち向かうなんて、無謀すぎます!!」

 

「青銅の、ゴーレムだって!?」

 

バカな……そんな相手に、ルイズは生身ひとつで立ち向かっていったのか!? こんなの、人間がメカニロイドを相手にするようなものじゃないか!

 

昨日から気になっていたこと。それは魔法を使う人間はどこまでも人間だったって所だ。

 

魔法を攻撃に転じると、どのくらいのことが出来るのかは俺はまだ知らないが、とにかくそれを受けるのは、俺のいた時代の人間の体と変わらない。

 

青銅の塊が人間に襲いかかってくるなんて、その身で攻撃を受ければ骨なんて簡単に折れてしまう! この子が慌て怯えるのも、当然のことだったんだ!!

 

「くそっ……なんてことだ!!」

 

もはやどうしてそうなったかなんて、細かいところを聞いてる余裕もない。今すぐ彼女を、ルイズを助けにいかなくちゃいけない!

 

「君、その決闘はどこで行われているんだ!」

 

「ヴ、ヴェストリの広場です。」

 

ダメだ、場所を聞いても全然わかんないぞ、こうなったら……仕方ない!

 

「あっ! どこへ行かれるのですか!?」

 

「これからルイズのところに行く、君の名前は!?」

 

「わ、私はシエスタと申しますっ。」

 

「よし、それじゃあシエスタちゃん。悪いけれど案内を頼む……揺れるから、しっかり捕まっていてくれよ!」

 

「ちゃ、ちゃん!? って、きゃあ! な、何を……ええっ!?」

 

彼女を抱きあげて開けた窓から外へ出ると、俺は壁へと走り出した。

 

そこから一気に壁を蹴りあげていく。

 

「か、壁を上っている……!? な、なにこれ……魔法?」

 

「ちょっとしたテクニックさ。さ、もうすぐ頂上だよシエスタちゃん……ヴェストリの広場ってのをここから指差してくれ!」

 

「え、えっと……あちらです!!」

 

あれか! 確かに桃色の目立つ髪の毛の女の子が、青緑色の何かに突っ込んでいるのが見える……ズームしてみて間違いない、ルイズだ!

 

「見つけた……ありがとう。危ないから、君はここで待っていてくれ!!」

 

この距離とこの高さなら、問題無い!!

 

「え、あっ……使い魔さん!?」

 

シエスタをゆっくりその場に下ろしてから、俺は勢いをつけて塔の頂上からルイズのいる場所、ヴェストリの広場まで飛び降りていった。

 

「ルイズ――――――ッ!!」

 

「え、何……きゃあぁっ!?」

 

彼女が怪我をしない程度の距離に着地して、地面を抉る。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「ひ、人が降ってきたぞ!」

 

「いや、よく見ろ……あれは昨日ルイズの呼び出した使い魔じゃないか!!」

 

どうやら周りに居た人間は、決闘のギャラリーだったようだ。とと、それどころじゃない。

 

「ルイズ、大丈夫か!?」

 

「あ、あんた……。」

 

「よかった……大きな怪我は無いみたいだね、立てるかい?」

 

どうやら、手加減されていたようだ。打ち身こそ少しあるが、骨が折れたりしてる様なところは見当たらない。

 

「ダメ……立てないわ。」

 

「そんな、まさかどこか怪我をしているのか!?」

 

センサーかカメラの不調か!? 彼女におかしなところはどこもないぞ……?

 

「そ、そうじゃなくて……あんた、エックスがすぐ近くに降ってきたから。」

 

「えっ。」

 

「びっくりして……腰が、抜けちゃったのよ。」

 

………………。

 

「はぁ……なんだ良かった、それだけか。」

 

「それだけか、ですって!? 全っ然、それだけじゃないわよ!! あんたがご主人様を戦闘不能にして、もう! どーすんのよこのバカ!!」

 

ルイズが叫んだ次の瞬間、どっと周りに笑いの渦が起きた。

 

「あっはっはっは! 流石ゼロのルイズの使い魔だ!」

 

「ははは、まさか主人を倒しちまうなんてさぁ……ゼロどころかマイナスじゃね?」

 

ぐっ、やってしまったみたいだ……確かに、これは決闘のルール次第では自滅になってしまうのか。しかしひどい言われようだな……そう思っていると、青銅のゴーレムの後ろにいる男が、俺を見据えていた。

 

「やれやれ、全くだよ。喋る人のようなゴーレムと聞いて気になっていたんだが……君は随分と粗暴なことをするんだな。」

 

「君が、ギーシュさんか。」

 

シエスタの言っていた決闘相手のドットメイジは、バラを片手に持ち、それを振ってゴーレムに警戒の構えをさせたままに、動かしていた。

 

やはり、この青銅のゴーレム達は魔法で命令を受けて動いてるのか。

 

さしずめこの時代の、メカニロイドってとこかな。その司令塔がレプリロイドではなく人間ってのがやっぱり、びっくりな所だけど。

 

「ほう、僕を解って、言葉を返せるなんて……そんなところだけは、確かにすごいな。それで君は、何をしにここに来たんだい?」

 

「俺は、ルイズを助けに。」

 

「助けるも何も、君が勝負を終らせてしまったじゃないか。動けない者では流石に勝負にはならないよ。ルイズ、ここでもう降参して僕に謝りたまえ。」

 

彼の提案を俺としては正直受けたかった。ここで終わらせられるのなら、それに越したことはないし、女の子が鉄の人形と戦うなんて、そんなことはされられない。

 

でも、それはルイズが許さなかった。

 

「イヤよ! 私は間違ったことをしたなんて思っていない……何より、女性として貴方を許せないわ!!」

 

そんな彼女に、どこかで俺は眩しさを感じた気がする。けれど同時に無茶が過ぎて、なんとか立ち上がろうとする彼女を、肩を掴んで止めていた。

 

「私はまだ敗けを認めてなんかいない!」

 

「お、おいおいルイズ、やめるんだ!」

 

「何よ、もとはといえばあんたが来たからこうなったのよ……!」

 

「それは、そうだけど……。」

 

「これ以上、私の邪魔しないでっ。最後まで私は諦めない……どんな状況や相手にだって、諦めないんだから!」

 

何が彼女をここまでさせているのかは、慌てて来たからわからない。

 

けれどこの姿は、足りないものを命で埋めようとする……そんな昔の俺にそっくりで――なんとかしてあげたいと、この時はそう思えたんだ。

 

「そっか……それなら、ここからは俺が相手だ。」

 

「エックス……?」

 

ゴーレムがギーシュさんを守るように、俺もルイズの前にかばうように立ち上がった。

 

「ふむ……君が続きを引き継ぐと言うのかね? 良いだろう、僕はそれでも構わないよ。」

 

「そうか、ならついでにひとつ頼みがあるんだ。」

 

「言ってみたまえ。」

 

「ありがとう。君のゴーレムと、ルイズの代わりに戦うレプリロイドである俺……勝負はどちらかが動けなくなるまでで、本人達を傷つけるのは無しの勝負としないか。」

 

彼女を助けるためには、決闘を終わらせるしかない。でも、ゴーレムがルイズを襲っていたようにギーシュさんを討つなんてことは、俺には出来ない。だから、このルールで勝負をしたかった。

 

「ほう……なかなか自信家じゃあないか。」

 

「それはどうだろうな、でも……君だってこの方がゴーレム使いとしても、紳士としても良いだろう?」

 

彼が勝負にのってくるように、プライドをあとは刺激してやる。

 

正直、彼のこともよく知らない以上、彼が紳士かは解らない。でも、女の子に手心を加える余裕はあるみたいだし、矜持だってあるだろう。敗けを認めそうにないルイズを気絶させるまで殴って終わらせるより、ゴーレムの強さを示せる相手とやりあいたいはずだ。

 

「確かに……いかに僕を笑い者にしたとはいえルイズは女の子。僕としても彼女をいたぶるような趣味はない。いいだろう、その勝負を受けてあげようじゃないか……でもっ!」

 

そう叫ぶとギーシュさんが勢い良くバラを振るい、花弁を散らした。

 

「ゴーレム使いとして戦えと言うからには、全力だ。よもや、卑怯とは言うまいね?」

 

散った花びらがそれぞれ変化していき、最初のと合わせて合計七体のゴーレムが並び立つ。

 

魔法ってのは、質量保存の法則すら無視するのか。まさか、あの青銅のゴーレムの材料が花びら一枚なんて……。核反応の逆作用でも作り出したのか、その応用で? いや、無理だ。不可逆とか以前に、既存の概念で考えるのはもうやめよう。今の問題はそこじゃあ無い以上、そういうものだと受け入れるしかない。

 

「なるほど。それが君の本気の魔法ってことか。こいつらをすべて倒せばつまりは……。」

 

「ああ、僕の精神力はそれで全部だからね。そんなことができるのならば、君の勝ちだよ。さあ、始めようか。」

 

そう言うとギーシュさんがゴーレムを逆扇状にして俺を取り囲むように陣形を組んだ。

 

「ちょっとやめなさいエックス、ダメよそんなの! あなた一体なのよ、あんたがでっかいのならともかく、自分より大きなゴーレム七体になんか勝てるわけ無いじゃない!!」

 

「おいおい……さっきまでは、君こそあれに挑もうとしていたんだぞ? ルイズがそうするのが良くて、俺はダメってことはないだろ。」

 

「そ、それは……そう、なんだけど……やっぱりダメよ! あんたは使い魔で、ギーシュみたいに私が作ってる訳じゃないもの……もし壊れても、直してあげられないのよ!?」

 

「そうか、そんな心配をしてくるていたのか……君は自分から危険に飛び込むくせに、本当は随分と優しい子みたいだな。よっと。」

 

「きゃっ! え、エックス……あなた、き、ききききき貴族にいきなりな、何を……。」

 

危ないので、ルイズを抱きあげてから少し遠くにどける。

 

「心配するなルイズ、人を守るのが俺の使命だし……なにより、俺は負けたりなんかしないさ。」

 

「エックス……。」

 

「信じてくれ。」

 

「絶対よ……絶対。せっかく呼び出したのに、昨日の今日で壊れたりしたら、許さないから!」

 

「ああ、約束するよ。」

 

じっと俺の顔を見るルイズを見つめ返してから笑って俺はゴーレム達の10メートル強近く前まで戻った。

 

「待たせた、始めよう。」

 

「ふ、なあに……お別れの挨拶くらい。」

 

「そうか。でも生憎と、俺はまだ倒れるつもりも、負けるつもりもない。」

 

「そうかね、でも……果してそんな夢物語が起きるかな!?」

 

彼の杖が前に突き出されてから、横に払われると同時にゴーレムが襲いかかってきた。

 

やはり、ただの青銅だが勝手に動いている。

 

見た目通りの耐久とは限らないが……恐らくは――っ!

 

「起きるさ、俺が起こしてみせる!!」

 

「なっ……早い!? だが、突っ込んで来るとは考えが浅はかすぎたねっ!」

 

力強く踏み込み、地を駆ける。

 

そのまま腕をバスターに変えて、更に低く俺は地を滑るようにダッシュした。

 

「くらえっ!」

 

エックスバスターを射つ。一度に放てる数は限りがあるけれど、その連激が一体のゴーレムの頭と腕を吹き飛ばし、腰の間接を砕いて行動不能にした。

 

「ば、バカな……僕のゴーレムが! けれど、そこまでだ!!」

 

やった、思った通りそこまでの頑強さはないらしい。これが、レプリロイドのような固さになってたら流石に手こずった。しかし、魔法は今までを見てきた限りひとつのことしか出来ないと、そう推測できた。転位、スキャン、ルーン文字の刻印、ゴーレムの製造、ゴーレムの操作……どれもひとつずつだ。それならば、耐久強化は今はできて無いはず。どうやらその考えは正解だったらしい。

 

通常弾の三連撃でどうにかなるのなら、このゴーレムはさしずめメットールってとこだな。

 

そんなことを実感していた俺に、青銅の槍が振り下ろされる。

 

「嫌……エックスぅ!」

 

遠くににいるルイズが、目を覆った気がした。

 

激しい金属音が鳴り響き、火花が散る。

 

「ルイズ……信じてくれって言っただろう?」

 

俺に叩きつけられた槍は接触部の刃が潰れ、それを振り下ろしてきたゴーレムの胴には、三つの風穴。カウンターでバスターを叩きこんだ空洞の鎧は形を維持できなくなり、めりめりと裂けるミカンのように、腕の重みで胴体を崩しながら倒れていった。

 

これで、二体……。よし、なんとかなりそうだ! 思わず腕がなまっていないことと、魔法相手でも自分の力が通用すること、今の時代にも出来ることがあることに感情が昂った。

 

「うそ……。」

 

「なっ……まさか何ともないのか!?」

 

ギーシュさんには悪いけれど、俺はもちろん何ともない。メットで受けたのでちょっとだけ首の間接が反応したけれど、しっかりと衝撃は吸収しきれている。

 

「か、関節だ……連携して鎧の隙間を狙えば!!」

 

「遅い……くっ!?」

 

なんだ? さっきまで何ともなかったのに……急に体が軽く……いや、軽くなるのは良い。だけどこれは、全身のエネルギーが高まりすぎている! 弱めることが出来ない!!

 

「なんだ……急に攻撃をやめてどうしたと言うんだい。しかしこれは好機!」

 

「エックス、どうしたの!?」

 

くそっ! このままのエネルギーでバスターを射つと、円を組んで見ている他の生徒達の所にまで飛んでいってしまうぞ!!

 

どうする……って、なんだこれは!? 左手のルーン文字が光っている! それに、ここから迸るエネルギーを感じる。まさか、これが原因なのか。

 

左手をパージ……ダメか、昨日のあの時のように出来ない。

 

「はっはっは、どうしたのかね! 先ほどの動きと今の攻撃で、無茶をし過ぎたのかな!?」

 

むしろ力が有り余って困っているんだ!

 

焦れば焦るほどエネルギーが流れ込んでくる……まるで、目の前の敵を人間ごと撃てと言わんばかりに。このルーン文字、まさか俺をイレギュラーにしようとしているのか!? 

 

いや、落ち着け。これは本来生き物につくものだってルイズは言ってたはずだ。それならば、イレギュラーへ誘導する機能なんてあるはずが無いんだ。それなら、これはあくまで単なる力を与えてくれているにすぎない。

 

それじゃあ、きっかけはなんだ? 二体倒すまで発動しなかったのは、どうしてなんだ。

 

一体目はさっきの考えを信じて、青銅なら貫けるだろうと倒した。

 

二体目はとっさに、反射のように。

 

それから……喜んで、ルーンが輝いて、焦って、更に輝いて……ん? 喜ん、で? 焦って……?

 

これは、まさか俺の感情をエネルギーに変換する魔法なんじゃあないか? 人のように、俺の思いを根性論(オカルト)とかじゃなくて、本当に力に出来る……そんな魔法。

 

すべての感情でそうしてしまうのは頂けないけれど、ならば対処法も……ある。

 

落ち着くんだ。ゼロのように、冷たくただ目の前の敵を倒すことだけに集中……出来たら俺はそもそもB級だの言われたりしてなかったよな。

 

ならばいっそ、もうこの力を借りてやる。もっと、一撃必殺にまで高めて……今だ!

 

「せいっ!」

 

脚を狙いに来た姿勢の低くなったゴーレムの頭を踏み台にして、そのまま空へ跳ぶ。すかさず縦に半回転して、ゴーレムの胴体をロックオン。

 

「当ぁたれえぇ――――っ!」

 

天からゴーレムを地面に縫い付けるように、ショットを五発放った。

 

「嘘だ……こんなバカな……!」

 

全弾命中、これで七体全てを倒しきった。俺とルイズの勝ちだ!

 

それにしても、アームパーツもつけていないのに、弾丸がここまで連射できるなんて。しかも威力も通常弾以上だ。魔法、なんてすごい……いや、恐ろしい力なんだ。

 

「わっとっと……!?」

 

「えっ、ちょっとどこ行くのよエックス!」

 

まずい、飛びすぎた……! 軽いノーマルボディでこんな出力を出したことなんてなかったから、力加減が……どこまで行くんだこれ!!

 

「ぐえっ!」

 

中央にあった大きな塔から端々に見えた塔の壁に激突。なんとかバランスをとってずりすりと壁より滑り落ちる。

 

あ、シエスタちゃんが……終わったし降ろしてあげなきゃな。それと、うん? あそこの窓に見えるのは、コルベール先生と博士みたいな老人か? 視線の先は……窓がないようで壁しかないみたいだけど、なんか随分変わったところを見て、深刻な顔をしてたな。

 

「ふう、これでなんとかなったかな。」

 

「ちょっとエックス! あなた体は大丈夫なの!?」

 

ゆっくりと壁を伝って降りると少しして、人混みを分けルイズが寄ってきた。ペタペタと、俺の体が凹んだりしてないか、確かめているようだ。

 

「ああ、ほらね。傷ひとつ無いだろルイズ。」

 

「本当だ、あなたってすごいのね。」

 

「そうかい? それはともかく、これで決闘は終了かな。」

 

「ええ、あなたが塔まで飛んでっちゃったから追いかけようとしたら、ギーシュが私を呼び止めて謝ってきたわ。私たちの勝ちよ。」

 

「それは良かった……けれどそもそも何が理由で喧嘩なんてしたんだ。」

 

「ちょっと、喧嘩じゃなくて決闘よ。あいつが、メイドは何も悪くないのに、自分の罪を彼女に(なす)り付けたからよ。平民を守るのが本来貴族のあるべき姿なのに。あんなの、貴族のすることじゃない……だから私は、見ていられなかったの。」

 

なるほど、それがシエスタちゃんでルイズはそれを助けようとしたのか。

 

「そっか、偉いなルイズ。」

 

つい見た目通りに扱ってしまい、ルイズの頭を撫でた。回りの生徒達は俺より大きい人ばかりだったし、きっとルイズも俺の予想よりは年上なんどろうけれど、まぁ良いじゃないか。

 

「ちょっと……使い魔の癖に生意気よ。」

 

ほら、こう言うけどルイズも手を払ってないしね。

 

「そうそう。その辺りをまとめて今日こそ教えて欲しいんだけど、この後良いかい?」

 

「い、良いけれど……てか、あんたが昨日は勝手に寝ちゃったん ゃないの。」

 

「よし、決まりだ。じゃあまずはシエスタちゃんを降ろしに行かないと。」

 

「シエスタって誰よ?」

 

思わずずっこけた。すごいなルイズは……友達とかじゃなくて、名前も知らない人間を守ろうとしたのか。本当にイレギュラーハンターみたいだ。

 

「君が助けようとしたメイドだよっ! 屋根の上においてきちゃったから、彼女一人じゃ降りられないんだ。」

 

「屋根の上って……。」

 

「折角だしルイズも来るかい? 彼女もきっと、君に感謝の言葉を言いたいんじゃないかな。」

 

「どうやってよ! 私はフライの魔法なんて出来ないわよ!!」

 

「こうやってさ!」

 

そう言って決闘前みたいに俺はルイズを抱えあげた。

 

――――――

 

――――

 

――

 

「きゃ! あ、あんたまた軽々しく貴族にこんなことを……こ、こんな……うぅ~っ。」

 

あいつがまた、許可もなくお姫様だっこで私を担ぎ上げる。

 

こっ、こんなこと簡単に貴族にしたりしちゃ、ダメなのに。全くこいつは、本当に常識知らずなんだから。

 

それでいて……とっても常識破りだわ。

 

不思議な光で、あっという間にゴーレムを倒しちゃうし。殴られたのに、火の塔まで吹っ飛んだのに、傷ひとつついてないし。今もどうやってるのか全然わかんないけれど、足だけで塔の壁をすいすいかけ上がっていく。

 

レプリロイドって、本当にワケ解んないわ。

 

壁を上っていく間にエックスの鎧と顔を見る。宝石みたいで、きれいで曲線的な空色の蒼い鎧と、まっすぐな瞳。

 

そんな色が表す風のように颯爽と現れて、私を助けてくれた使い魔を近くで見てたら……綺麗だなって、つい思っちゃった。

 

そう、イーヴァルディの勇者みたい……私の……はっ!?

 

いけないわルイズ、しっかりしなさい!

 

だ、だから……っ! エックスはね? 使い魔なんだから、そんなの当然なのよ、と・う・ぜ・ん!

 

()は当たり前のことをしただけなのに、それを私が拡大解釈しちゃってどうすんのよ!

 

けれど……。

 

「ねえ、エックス……。」

 

「何だい、ルイズ?」

 

もう機械とか生き物じゃないとか、私にはそういう風に彼を見ることだけは、どうやってもできなくて――

 

「あ、ありがと……その、助けてくれて。」

 

人が人に返すようにそう言ってしまったら、私がそんなことをを滅多に言わないのを知らないからか、エックスは何も気にせず爽やかな笑顔で、こう返してきた。

 

「君達にそう言ってもらえるのが、何より俺は嬉しいよ。」

 

ほんと、人みたいで変な使い魔なんだから。




今がいつの時代なのかもわからず、混乱と誤解したままに、この世界を知ったエックスはルイズと町へ向かう!

次回、無限の使い魔"不思議な一本"

「エックス、目立つからその兜を外しなさいよ!」

「ええっ!?」




本当は始めはティファニア主人公にしようかなって思ったのですが……それだとガンダールヴがガンダールヴ()になりそうだし、なにより"槍"が色々あってこそのエックスだと思うので、定番通りルイズ主人公のお話となりました。
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