無限の使い魔   作:クリスタルウォール

2 / 2
A:ねえVAVAさん……タイトル違わない?

V:アクセルと言ったか。例えば第2話のタイトルが最後の一本だろうと、不思議な一本だろうと俺たちには大差ない。

A:そりゃまあ、出てないからね!


奇妙な一本

「……と、いうわけよ。解った?」

 

「ああ、大体はね。」

 

ルイズからここがどこで、魔法とは何かの手解きを受ける。

 

それでもおれが何故復旧してここに居るかは、解らなかった。

 

ただ、場所はヨーロッパあたりの大陸の地形をしたハルケギニアという所で、俺はそこの小さめな国であるトリステインという国で、ルイズの魔法、サモン・サーヴァントの結果として呼び出されたらしい。

 

そして、その理由は呼び出したメイジを主として助ける使い魔にするためだという。

 

どういう因果か、機械なのにルイズの使い魔として呼び出されたのが俺で、生き物でもないのに使い魔とした証のルーンを、コントラクト・サーヴァントでつけることができてしまったというわけだった。

 

単に形式的なものではなく、俺自身のパラメータの所属が、イレギュラーハンター第17支部でも、ネオ・アルカディアでもなく、ルイズの本名になっていた。端末もなしにどうやったのか解らないが……今の俺の所属する勢力は、彼女一人ということになる。場所、チームではなく人ひとりに仕えるなんて、なんだか騎士みたいだなと思うと同時に、彼女に振り回されてしまわないかと、不安にかられる。

 

待てよ……? 個人としての所有する戦力、使い魔として呼び出す以上スクラップでは、話になら無い。だから最適化して呼び出した結果として、俺が新品同様になったのだろうか?

 

無いとは言い切れないのが、魔法というものの恐ろしいところだ。花びら一枚から青銅の像が出来るような世界だし。

 

しかし、それならサモン・サーヴァントでは転送と、最適化の二つの行程を一度に出来ていることになるな。魔法が一つのことしかで出来ないという考えは、改めた方が良いかもしれない。もっとも、他に「死にかけてたのに呼ばれたら、元気になった!」なんて話をしてくれる生き物がいない限り、これも根拠のあることではないんだけど。

 

「う~ん、使い魔か……。」

 

俺の体の原因はそこまで考えてひとまず保留して、その後のことについて考えてみる。

 

「何よ、嫌なの?」

 

「まあ、嫌かどうかで言えば、そこまででないよ。人のために戦っていたのは、間違いないんだし。」

 

「じゃあ何よ~。」

 

「いや、俺に務まるのかなって思ってさ。」

 

「はあ!? 何言ってんのよあんた、その、えつくすばすたあ? っていう銃になる手であっという間に、ギーシュのゴーレムをまとめて倒したくせに……何ワケの解んないこといってるのよ。」

 

「いや、それはそうなんだけど……ルイズ。」

 

「な、何……?」

 

急に真剣な顔で彼女を見た俺に、ルイズはすこしたじろぐ。

 

「俺には、人を傷つけることができないんだ。」

 

「……へ?」

 

俺には、レプリロイドには人が撃てないし、撃ちたくもない。

 

この時代は……レプリロイド同士の争いのない世界だ。それはとっても喜ばしくて、もうこれ以上何かを壊すためや、平和を維持するために無茶な力をもつ仲間が作られたり、人の必要、不必要で俺たちに犠牲を強いることが無いのは、共存こそ出来てないのは残念な事だけれど、素直に嬉しい。

 

けれど、レプリロイドが完全にいなくなったせいで、人はまた人間同士で争う世界にまで文明が戻ってしまっている。

 

しかも魔法というものが生まれてしまったせいで、人は機械に頼らず、自力で成し遂げてしまおうとする傾向が強くなって、人間同士での争いの時代から、もうずっと抜け出せなくなってしまっているみたいだ。

 

そんな世界で俺が果たして、人間だらけの戦場で何が出切るっていうんだろう。

 

「君が教えてくれた魔法で例えると、ギアスのようなものが俺にはかけられている。だから、俺には人を撃つことや、敵軍のいる橋を落とすとか、彼らの乗った船を沈めるとか、間接的に人を殺める結果になることすら出来ないんだ。」

 

「そんな……嘘でしょ、人を殺さない兵器?」

 

たじろいでいたルイズの顔に、落胆が広がり始める。人を殺せないことで落胆されるのなんて、さすがに俺も辛い。

 

何もかもが、この体を動かせていたあの頃とは真逆になったような、そしてどちらかと言えば体を失ってからの世界、人もレプリロイドもまとめて、力ある人間が都合の良いように動かそうとしていた頃を思わず思いだして、眩暈を起こしたような感覚に陥りそうになる。

 

友が理想の世界を実現できなかったとは思わない。けれど世界は残酷で、時を経て人は過ちを繰り返したのかと思うと、やるせなかった。

 

「それだけの力を持ってるのに……それならあんたはいったい、何に使われてたっていうの!?」

 

そんな俺の気持ちを知らないルイズは、役立たずだと罵るように俺に怒鳴り付けた。人を守るために立ち上がる彼女だが、人が争いの中心となるこの世界では、そんな正義感のある少女でも、いや、だからこそ俺が仲間を討つように、いつかは人を殺めてしまうのだろうかと思うと、とても悲しい気持ちになる。

 

「……壊れて人に害なすようになったレプリロイド、イレギュラーを破壊するのが俺の使命であり、人々を守ることに繋がっていたよ。」

 

「人のために、同族を殺していたの?」

 

「そうだね。」

 

「じゃあどうして、人のために人は殺せないのよ!?」

 

「ルイズ、考え方を変えてみてくれ。俺はあくまで機械なんだ。俺で人を殺すっていうのは、風車で街に行こうとするようなものなんだよ。どうやったって、出来ないだろう?」

 

「……。」

 

「解ってくれたかい?」

 

「……解んないわよ。」

 

「ルイズ……。」

 

「解れないわよ!! あんたは機械でも考えることが出きて、私たちと話せてたし、笑ってた! 心を作ってもらったのに、どうしてそれだけ出来ないのよ、選べないのよ!!」

 

「……。」

 

そうあってほしいと作られているからだ。そう言って彼女は納得すると思えない。何より、それは俺にとって本当の理由じゃない。

 

「あんたを作った人は身勝手で残酷だわ! 心を持たせるのに逆らうことは赦さないなんて、自分の欲をぶつけられるモノを求めた人間の独り善がりよ!! 確かに人間に害意なんて持って欲しくないし、革命なんて貴族の私からすれば嫌だけど……それをあなたが選ぶことは自由であるべきじゃないの!? そしてそれが起きてしまうのなら、それは人間の怠慢のはずよ!! ペットですら飼い主を認めたり選ぶ事は許されるのよ!?」

 

違う、恐らく俺を作ったあの老人は、決してそんな人じゃない。けれど、彼女の言っていることも一理あると心が認めてしまって、そこはなにも返せなかったから、俺は俺の意思を示せるところだけを答える。

 

「ルイズ、たとえ選べたとしてもそんなことを、俺は選ばないよ……。」

 

人を傷つけたくなんて、ない。

 

しかしルイズのこの後の発言が、俺を揺さぶってきた。

 

「どうしてよ……ならエックスはもしも、もしもよ? 相手を殺さなければ、私が殺されちゃう……そんな時でもただ見ているだけなの!?」

 

「それは……っ!」

 

「……私の方が大事って、敵を射つって、すぐに言ってくれないのね。」

 

解らない。レプリロイドやイレギュラー相手にそんなことはあっても、人間相手に戦ったことも、バスターを向けたことすら無い俺には、その時にどう動けるのか、本当にシミュレートしても動けずに、どうすべきか解らなかった。

 

「最初にエックスを呼び出したとき、魔法もない、生き物ですらもない使い魔で……私がまた失敗したんだと思った。」

 

「ルイズ……。」

 

「でも、あんたはとっても凄くて……頼もしい使い魔だった。そう思えたのに……。」

 

「聞いてくれ、ルイ――」

 

この時何を言おうとしたのかは、俺にも解らない。ただ悲しみの顔に変わっていく彼女を見るのが辛くて、咄嗟に声が出ただけかも知れない。

 

「出てって!! あんたなんか使い魔失格よ……こんなのを呼び出すなんて、やっぱり私はまた失敗したんだわ!」

 

大粒の涙を流して、枕を投げながら最後に言った彼女の言葉が、俺に突き刺さる。

 

「頼れると信じて()()()に殺されるのなんて、私はごめんよ!!」

 

回路がショートした気分だった。俺が、ルイズを殺してしまう……間接的とはいえ先程ルイズの例えた瞬間にもしも、俺が悩んで動けなかったのならまさしくその通りのことが起きる。それでも、人を殺めることなんて、俺には出来なくて……。

 

それっきり彼女は布団をかぶり、軽くすすり泣くような声しか出さなくなってしまう。今は、もう何を言っても聞いてもらえそうになかった。助けるのが間に合わなくて、悲しむ人を作ってしまったことはあっても、自分のせいで直接人間に泣かれるなんてのは、生まれてはじめてだった。

 

「少し、俺も外で考えてくるよ。」

 

そう言いながらも結局俺は、何も考えられないままにただドアを開けて、寮塔を出ていった。

 

「ふう……。」

 

こんな悩みを持つのは、初めてだな。今までで一度も体験したことがなく、難しい問題だ。夜空を見あげながら人間らしい動作をしたところで、何も解決策が出てきはしなかった。

 

ふと見上げた空は、よく見ると月がなくて星が消えていた。

 

「何だ……うおぉっ!?」

 

「きゅい?」

 

空をその身で隠していた者がいたのだ。それは羽ばたきながら俺の近くへと降ってきた。現れたのはまさかの、竜。

 

「ドラゴン……なのか? レプリロイドではなく、生きているのか。」

 

「きゅいぃ♪」

 

かわいい声で泣いて、俺に顔をすり寄せてきた。以外と人懐っこい、というか温厚な生き物なんだな。

 

「れぷりろいど?」

 

「うん?」

 

そんな竜にじゃれつかれるという貴重な体験をしていると、その竜の背中から女の子の声がひとつ聞こえてくる。

 

竜が頭を下げると、そこからひょこりと出てきたのは、ルイズより背の小さい女の子だ。

 

眼鏡をつけた……青い髪、これも勿論ルイズ同様に地毛。そして大きな杖を持って、もう片方の手には本を抱えている。何だか本当に、わたしは魔法使いですといった感じの子だ。

 

「れぷりろいどとは、何?」

 

竜から降りてくるなり、青髪の少女は俺に問い詰めてきた。コルベール先生のように、知識を求めるタイプの人間なのかな。

 

「ええと、そうだな。俺がレプリロイドなのだけれど……簡単に言えば人のように考えて、話す存在だよ。」

 

「……亜人?」

 

ゴーレムとはまた違った答えが帰ってきたな。亜人、か……今の時代は人にも種族があるのだろうか。

 

「亜人はよく解らないけれど、人、というよりも生き物じゃないよ。」

 

「生き物じゃ、ない……。」

 

「うん。気になるなら俺にディテクトマジックをかけてみてくれ。」

 

少女はこくりと頷いてから杖を振るう。こちらもこのときに再鑑定をしてみたけれど、やはり前と結果は変わらず……何も解らないな。

 

そして今まで無表情だった少女の顔が、明らかにビックリしている。瞳が揺れるままに、彼女はまた俺の顔を見てきた。

 

「信じられない……。」

 

「どういうものかは解ってくれたみたいで何よりだ、ええと君は……。」

 

「タバサ。」

 

「タバサちゃんか、俺はエックス。機械だし、生き物じゃないけれど、それが俺の名前だ。」

 

ゴーレムでもない、魔法もなく動いて喋る機械はやはり、誰にとっても新鮮なようだ。彼女がここにやって来たのは別に俺が理由でも無かっただろうに、自己紹介が終わった今でも立ち去ることなく、ここを離れずにいる。

 

「何を、していたの。」

 

「うーん。ちょっと、考え事をね……。」

 

「考えごと?」

 

「そうだな、考え事というよりは悩み事かな?」

 

またタバサちゃんが驚いたというような顔をしている。この子は今のところすぐに顔を戻すし、他の時はスゴく無表情なんだけれど……もしかしてこれはかなり珍しいものを見ているんじゃないだろうか。

 

「機械のあなたが……悩む?」

 

「ああ。正直初めての事過ぎて、悩みで回路が壊れそうだよ。」

 

「そう。」

 

「俺が人間を殺せないせいで、ルイズの使い魔としてどうあれば良いのかわからなくてね。」

 

「……。」

 

それ以上踏み込んでこないタバサちゃんに、気がつくと自分から話をしていた。何をやっているんだ俺は。仲間が一人としていないせいだろうか? 人恋しいって、こういうものなのだろうか? そう思いながら全て先程起きたことを、話し終えてしまった。

 

「不思議。」

 

「ははは、ルイズにも言われたよ。」

 

「あなたの言う人間がどこまでなのかも解らない。」

 

「え、どこまでって?」

 

今度はタバサちゃんから説明を受けて、俺の方が驚いた。

 

彼女が最初に俺を間違えた亜人という存在、それはなんと羽の生えているらしい翼人や、社会に紛れ夜に人の血を吸って生きる吸血鬼に、人……メイジとは違う自然を利用した魔法を操る耳の長い宿敵、エルフといった様々な種類の人間がいて、それらをまとめてそう呼ぶらしい。

 

「彼らは、人にとって忌避される厄災となる者が多い。あなたは、それをどうする。」

 

ルイズとの問題すら解決していないのに、更なる問題が出てきてしまった。

 

長き時を経て人に似た、人類を祖先に持つかもしれない存在なんて、まさか人類自体がそこからさらに枝分かれしていたなんて、予想外にもほどがある。そんな種族の異なる人間同士でも、対立しているのか……。

 

俺は、人を討てなくてはいけないのだろうか。そう考えた瞬間、あるレプリロイドが頭の裏に浮かんでいた。

 

ーー私たちは、自分の意思でイレギュラーになれるのですよーー

 

ーー意思を持ち、進化した私たちに、貴方がた旧世代のレプリロイドが、何を出来るというのです?ーー

 

人がこのような時代を迎えるのならば、この時代を知れば知るほど、もしかして彼の方が正しかったんじゃないか、(ルイズ)に呼び出されるべきは彼だったんじゃないか……そんな考えが過る。(ルミネ)なら彼女の期待に応えることも出来ただろう。今の人間と共に歩むレプリロイドとしては、一番かもしれない。

 

ここまで自分と比べてから、ルミネが人を支配し、滅ぼそうとしていた事を思い出す。そんな彼もまた、ルイズの言うことを聞くとは思えないと考えて……弱気になって何てことを考えてしまったんだと、自分に活を入れる。

 

どうも俺という存在をルイズ……人に否定されたようで、考えることがマイナスだったり変な"もし"や"たられば"に、陥っていたみたいだ。

 

ーーほんと、人間くさいよなお前ーー

 

そうだな、こんなことは君なら考えないよな。

 

ーー戦わなくてはならないんだ、その運命とーー

 

形は違うけど、今まさにそんな状態だよ……ゼロ。

 

そこまできて、ようやく何か引っ掛かりのあることに気がついた。

 

何に、引っ掛かっているんだろう。

 

戦う……この時代を相手に、俺が俺として戦うということは、どういうことなのかと考え直してみると、そこに答えはあった。

 

「そうか。」

 

「……?」

 

「そうだよ、そうだったんだ……俺は、レプリロイドなんだから。」

 

「どうした……のっ!?」

 

思わずタバサちゃんの肩を掴んで顔を見る。

 

「ありがとうタバサちゃん、俺の答えが見つかったよ!!」

 

そう言ってから、ルイズの部屋へと走り出した。

 

「……私は、その答えを聞いていない。」

 

走り去ったあと、彼女がこういったのを知るのは、またしばらく後の話。

 

「彼の手……暖かかった。あれで機械?」

 

「きゅい、精霊も何もあの子の周りにはいないのに、変な感じなのね――あたっ!」

 

「喋らないで。」

 

「もう、お姉さまは酷いのね! 助けてくれたことは感謝してるけれど……もう少し優しくしてほしいのね!」

 

「善処する。」

 

「……本当なのかしら?」

 

「……。」

 

「どーして黙るのね!」

 

――――――

 

――――

 

――

 

 

 

ルイズの部屋の扉の前に立つ。軽く、コンコンとノックをした。

 

「ルイズ。」

 

返事はない。でも俺の耳が、もそもそと布団の中の彼女が動いたことを聞き取る。そこに彼女はいる事がわかれば、それだけで良かった。

 

「俺は、レプリロイドだ。兵器としての力を持っているけれど、単なる兵器じゃない。やっぱり人は、どうあっても殺せない。」

 

そう。これだけは結局どうやったって、俺には変えることはできない。

 

しかし……俺だから出来ることだってあるんだ。

 

「でも……俺はレプリロイドだからこそ、自分で考えて君を守ることが出来る。」

 

人と人が争う。本音を言えばそんな時すら来て欲しくない。それでも、その時に俺も出来ることは、あったんだ。

 

「君が言ったような状況なんて、絶対に起こさせやしない! そんな風には、君を守る俺がさせない!!」

 

それが俺の答えだった。何も相手を倒すだけがレプリロイドの仕事じゃない。仲間や人の命を守ることだって、レプリロイドの立派な使命だ。

 

少しして、カチャリと鍵の外れる音がした。開いた扉の隙間から、泣き腫らした顔のルイズが覗きこむように俺を見つめてくる。

 

「……嘘だったら、許さないわよ。」

 

「ああ。」

 

「それなら、あんたをまた使い魔として認めてあげる。」

 

「ルイズ……。」

 

「もう、これ以上そんな台詞を扉の前で言われたら、私が恥ずかしいんだから……早く入ってよね!」

 

「……? なんだかよく解らないけれど、そうするよ。」

 

そうして部屋に戻るこの瞬間、ひとつだけ思うことがあった。

 

俺は確かにルイズに呼び出され、使い魔として在るように彼女に求められている。

 

けれど、そんな彼女を狙う敵も人間だ。俺が手を出すことはないけれど、願わくば彼らにも死んで欲しくはないし……本当に危ないときは死なせてはいけないと、願ってしまった。これは果たして、人と人の関係に対し口を挟む……そんなレプリロイドの反逆、俺の傲慢なのだろうか……?

 

彼女という勢力に所属してしまっている以上、俺が望むようにきっと全ての人は救えないだろう。この時代はそういうものなんだと解っていてそれでも、そう思わずにはいられなかったんだ。

 

――――――

 

――――

 

――

 

「う~ん。やっぱり、ビックリするほどの時間が経っているみたいだ。」

 

翌朝、今度は魔法や、人々の歴史について教えられる。

 

魔法の始祖ブリミル。今の時代の人たちから宗教的なシンボルにされている、魔法の使える人類のおそらくは最初に台頭した者。彼の魔法による発展からなんと6000年も経っているみたいで、天より来たとか色々と尾ひれや伝説がついてしまってる上に、写真や映像記録の媒体とかが今の時代にはもう何もないせいでどうにも正体がはっきりしないけれど、そこが人類の魔法の時代へのターニングポイントだろう。

 

この時点ですでに、人類は魔法の無い上に古い文明のような生活をしていて、古代ローマとかそんな感じか、それ以下の様子だったらしい。

 

俺の時代から資源が枯渇し、知識が消え、俺に似たものすら埋もれたのか風化したのか、とにかく誰もレプリロイドを知らなくなるまで……果たしてどれ程の時が必要なのか解らないけれど、そんな彼の時代も今の時代も、俺の時代とは常識が違いすぎた。

 

「またそれ……? ねえ、エックスは東の国が作ったレプリロイドでしょ?」

 

「だから、違うって言ってるじゃないか。」

 

「だって……そんな古代遺跡にある石像ならともかく、あんたみたいなワケわかんないのがそれよりももっと、もっと昔にあったなんて信じられないわよ。壊れてても良いから証拠になる()()()ひとつ見つかってすらないし……あなたの事が本当と言えることなんて、なんにも無いじゃない。」

 

そう、俺が俺を過去のものだと証明出きるものは、何も無い。結局はサモン・サーヴァントによる修復の件も含めて、全ては推論でしかないんだ。

 

「確かにそうだけど、東の国からってのは間違いなく有り得ないよ。」

 

「どうして?」

 

「ルイズ、見栄は無しで答えてみてほしい。君たち貴族はこの国の平民が全員反乱を起こしたら、勝てると思うかい?」

 

「数は怖いけれど……勝てると思うわ。」

 

「じゃあ俺がその中に一体居たら、どうだい?」

 

「それでも、スクウェアメイジがかなり居る王宮直属の軍隊のメイジ達と、お母さまなら勝つんじゃないかしら。」

 

おっと、意外な答えだ。スクウェアまで強くなると、魔法はどこまで強くなるんだろうか。ドット、ライン、トライアングル、スクウェア。四段階しか評価のない以上、相当な隔たりがそれぞれにありそうだけれど。何より、そのひとまとめに母を入れずに最後にもってきた辺りまだ上か、より特別な存在として彼女の母は在るようだ。

 

「それじゃあ、平民みんなが俺のバスターを持っていたら?」

 

「か、勝てるわけないでしょそんなの! ルーンの詠唱を終える前に何発も拳程の大きさの弾が飛んでくるじゃない。あんなすごい銃を兵隊全員が持ってたらいくら母さまでも……ううん、エルフの街だってきっと勝つのは難しいわよ……あ!!」

 

あの夜の誓いの後の部屋の中、それでも何が出来るか知っておかないと不安だ。そう言うルイズが自分の使い魔のことを知りたいと言った時に俺のスペックは一通り説明してある。まあそれは建前で、本音は俺のことをもっと知ろうとしてくれてただけ、みたいだけどね?

 

母ですら無理そうにいってくれる辺り、自分の使い魔だからという気もちも少しあるのかもしれないけれど、どうやら俺はある程度にしっかりルイズの評価を得ていたようだ。

 

それからここまで言うと、ルイズも気づいたらしい。

 

「そういうことさ。東にどんな国があるか解らないけど、レプリロイドを作ったり、俺のバスターだけでも作れるようになったのなら……きっとその国はすぐに量産できるようにして、侵略戦争や偵察をしたと思うよ。悲しいけれど人間は、力を増すと欲望も増やしてしまうことが多いからね。でも、そんな話は何も聞かないだろう?」

 

「確かに……サハラ近くを歩く商人がたまに(うち)にも何人か来てたけれど、貴方のつけているような金属や、武器とか見たことないわ。うう、そう考えるとむしろエックスの言う通りのが良いわね。もしそうだったら、強いスクウェアメイジだって数がそこまで多いわけじゃないんだし。悔しいことだけど……むうぅ、トリステイン国が負けるなんてぇ~っ!」

 

「まあ俺は一人だし、東もきっとそんなことはないと思うから、頭のなかだけの敵にそこまで悔しがらなくてもいいんじゃないかな。」

 

爪を噛んで、本気で仮想敵に悔しがるルイズに思わず苦笑いすると、彼女はふくれっ面のままに俺をにらみ返す。

 

「何よ、あんたがそう思わせたんじゃない。」

 

「仕方ないじゃないか……証明するにはこれしか浮かばなかったんだ。」

 

「ふんっ。」

 

「ル、ルイズ~。」

 

こういうところ、ちょっと理不尽だよなルイズって。口に出すとまた怒るたろうから言わないけれど、すっごく人間だなって思う。やっぱり、本物は違うものなんだな。

 

「うーん、あとは何の話をしようかしら。」

 

彼女が心を静めてからしばらくの間、他に何か聞いたり教えることはないかと悩みはじめて、少しの静寂の間を終えて、ルイズが突然ぽんと手を叩いた。

 

「エックス、武器か盾を買いに行くわよ!」

 

「えっ、俺にはバスターがあるのに、急にどうしたんだ?」

 

「だってあなたのそれ、火とか風の魔法を打ち落としたりは出来ないじゃない。私を守ってくれるんなら、弾く盾か、止めるための剣が必要でしょ。」

 

なるほど、確かに彼女の言う通りだ。避けるだけじゃ限界もあるし、逃げられないときに背中を向けて抱き締めるように庇って俺自身を盾にしていたら、そこからどうしようもなくなってしまう。

 

「それなら、剣の方がいいかな? 昔使ってたことも少しだけどあるし、何よりバスターに何かあった時も戦えるしね。」

 

「決まりね、それじゃあ剣を買いに行きましょう……あと、固定化もかけてもらいましょうか。」

 

「固定化? それはさっき建物とかにかけるものだって、ルイズは言ってなかったか?」

 

「ふっふっふ、確かに基本は建物にかけたりする魔法よ。でもこの魔法はより物質を固くしたり、品質が悪くなるのを避けるための魔法なのよ。あなた、機械なんでしょ? それなら馬車の車輪のとこみたいに、油を必要としたりもしてるんじゃないの?」

 

「油なんて、よく知ってるなルイズ。」

 

「……昔子供の頃、来賓としてパーティーに招待されたのよ。その時の相手側が馬車の整備を怠けたのか、そこまでまわすお金が無かったのかは知らないけれど……とにかくギシギシ嫌な音のするうっさい馬車に、何時間も乗せられたことがあったの。理由を聞いて私凄く怒っちゃったわ。本当に、今も思い出してだけで嫌になってくる……!」

 

「ず、随分と大変だったんだな……それで、油が固定化とどう繋がるんだ?」

 

「簡単に言うと、油が切れなくなるわ。金属の方もずっと綺麗なままになるの。」

 

「は……はあぁっ!?」

 

驚かせてやったと、してやったりという顔でルイズか俺を見てる。けれど、これはいくらなんでも驚かずにはいられない。

 

なんだそれは。確かに言われるまで何も考えてなかったけれど、俺のメンテナンスは深刻な問題だった。

 

ハルケギニアに俺用のオイルだグリスだ、その他諸々のメンテナンス用品も、機材も揃えられるわけがないが、そもそもそんなの自体が要らなかった。

 

油自体の劣化そのものを防ぐなんて……いたずら半分に食べ物とか飲み物にかけたら、どうなってしまうんだ?

 

「エックス、ほら行くわよ。お金はしっかりと使い魔の世話代として用意してたし、折角だから地のスクウェアメイジに、全力でかけてもらうんだから!」

 

「お、おいおい。随分と気前がいいんだなルイズ。」

 

「当然よ。だってそうしたらその分だけ……ちゃんとエックスが私を守ってくれるでしょ?」

 

ね? と、言いたげなその時のルイズの笑顔が、何だかこそばゆく、微笑ましかった。あの悲しまれたままにならなくて、本当に良かったと思う。

 

「ああ。常に万全の状態でいられるようになるのなら、もっと君を守ってみせるさ。」

 

だからそう素直に笑顔で答えたら、なぜかまたルイズが顔を真っ赤にして、理不尽なことを言い出した。

 

「あ、あたりまえでしょ! そ、そんな素直に答えて……もうバカじゃないの!? ほら行くわよ!」

 

「ええっ!?」

 

バカって、どうしてそんなことを俺は言われたんだ!? 人間って、人間の女の子本当によく解らないや。

 

良く解らないままに、俺も外に出ていった。

 

「って、まさかこれに乗るのか……? なあ、魔法の乗り物とかないのかいルイズ。」

 

「そんなエックスみたいなものが、そう簡単に有るわけ無いでしょ。移動用のガーゴイルやマジックアイテムなんて、多分王家とかにあるくらいよ。」

 

「そっか……そっかあ……。」

 

目の前にいるのは、鼻息をならす四足歩行生命体、馬。

 

「なによ、まさか乗れないの?」

 

「いや、多分それは無理じゃないとは思うけれど……。」

 

生き物の背中に乗るのは初めてで、むしろ少しワクワクしているほどだ。流石に馬でも三時間近くあるらしい距離を、己の足でダッシュし続けるのは嫌だしね。

 

ただ欲を言えば……昨日ドラゴンを見てしまったので、そういうデータにない生き物か、この時代に作られた魔法で出来たものに触れてみたかった。

 

「まあ、良いか。よっと……こうかな?」

 

データにしか残っていない、馬の乗り方を書かれた通りに行い、手綱を握って操作する。

 

「そうそう。 なによ、十分やれるじゃないの。」

 

そう満足そうにうなずくルイズの横まで馬を動かすと、彼女が片手をあげてきた。

 

「それじゃあ、はい。」

 

「……はい?」

 

「何よ、鈍いのね。後ろに乗れないじゃないの、とっとと手を引っぱりなさいよ。」

 

「えっ、ルイズも一緒に乗るのかい?」

 

「ええ。最初は私も別のに乗って行こうかと思ったけれど、エックスが十分に乗りこなせてるし、使い魔に任せることにしたわ。」

 

確かに無理して、俺より疲れやすい人間のルイズまで、労力を割くことはないか。

 

「そういうことなら、それっ! あとは……これを念のために着けてくれ。」

 

俺はルイズを、どの段階でこうするつもりもがあったのか、よく見ると大分長くて大きめな取り付けられている倉の後半部分に、彼女を引っ張りあげて俺のメットを渡した。

 

「兜? 何でこんなの渡すのよ。」

 

「念のためだよ。頭から落ちたら、危ないだろ?」

 

いつの時代だって、安全運転は大切だろう。

 

「そんな粗っぽい運転したら許さないわ。」

 

「しないよ。でも、君に何かあったら悲しいからね。万全を期すためだと思って被ってくれないかな?」

 

俺のミスでルイズ(ひと)に怪我をさせたりしたくないからこその、メットだった。

 

「また、そういうことを貴族に軽々しく言う……。」

 

「ええと、確かに女の子がつけるのは似合わないかもしれないけれど……ダメかい?」

 

「そっちじゃなくて……こほん! そ、そんなこと無いわよ。ていうかエックス……あなた、髪の毛もあったのね。」

 

「おいおい。まさか禿げてるとでも思ってたのか?」

 

「……ちょっと。だって、要るのそれ?」

 

俺としては、あった方が嬉しい。そういえばシグマはないことを気にしたりしていたのだろうか。イレギュラーになってからはともかく、隊長としての頃のシグマはどうだったんだろう。

 

「確かにレプリロイドとして考えて、髪の毛が要るかどうかで言われると難しいけど、こっちの方が話しやすくないかい? 坊主に生まれてきたレプリロイドもいるけれど、威厳が強すぎて人と話していたときは、人のが萎縮しちゃっていたよ。」

 

「うーん、確かにそうかも。私としても、ヴァリエール家の使い魔としてはこっちの方が爽やかでいいわ。」

 

「なら、それでいいじゃないか……さあ、街へ行こうか! って、どっちだい?」

 

しまった、目標地点のビーコンもネットによるナビもない。どこへ行けばいいんだろう。

 

「……踏みならされて草の少ない道をずっと行けば、トリスタニアよ。」

 

「あ、あぁそっか。その手があったな……お、おいルイズ、どうしてそんな呆れた目で俺を見てるんだ!」

 

言いたいことは解るけれどやめてくれ。俺には初めてのことだらけで、気づく余裕がな無かっただけなんだ……多分。

 

「ちょっと考えればすぐ解ることを、あんたが解らなかったせいよ! 私の使い魔ならもうちょっと、そういうところもしっかり格好良く締めなさい!」

 

「そんなこと言われても……焼け跡やエネルギー痕からの犯人追跡はともかく、そういうのは解らなくてさ……。」

 

いや、ジャングルやらに調査やイレギュラー討伐へ向かったこともあるんだ。少し考えれば解ることなのに、何をいってるんだ俺は。

 

「都合のいい時だけ兵器に逃げて、言い訳してんじゃないわよ! エックスはレプリロイドなんでしょ、もっと考えてよね!」

 

「ぜ、善処します……。」

 

案の定、更にルイズに叱られた。そんな騒ぐ俺たち二人を気にもせず、馬は力強く地面を蹴り、颯爽と土がむき出しになっている道を走り始めた。

 

――――――

 

――――

 

――

 

散々だったわ。え、エックスの乗馬のテクニックのことじゃ無いわよ。むしろそっちはなだらかで、すごく楽だったのよ。ま、ヴァリエール家の使い魔としてこれくらいは当然よね。

 

散々だったのはね、お金よ。固定化ってメイジのランクで強度とか度合いも変わるから、かけてもらうならスクウェアメイジを何人かって思って、そういうギルドや紹介してくれそうなお店を探したの。でもね、全うな地のスクウェアクラスになる人たちは、それこそ固定化やら錬金の魔法で貴族たちの生活、建築と色々引っ張りだこで、国の正式な手続きを踏まえないと会えないって言われたの。だから仕方ないけど、今回は見送って何人かのトライアングルメイジを見繕ってもらい、重ねがけをすることでひとまず、スクウェア一人分の固定化をエックスに付けようとしたんだけど……。

 

甘かったわ。エックスって小さいから安くて楽に終わると思っていたのに。

 

こいつの体の中って何層もの板みたいな部品や、糸……針金? みたいなものとかネジとか歯車とか、もうっ。とにかく! 部品が数えきれないくらい一杯あるみたいなの。

 

それで、固定化ってもちろん表面にかけるものなのだけれど当然、裏がそのままじゃエックスには意味が無いのよ。 

 

だから家みたいに窓や扉、煙突みたいな穴や隙間を満たしてそこ以外囲えばいいものはともかく、車輪と軸とかみたいな物だと、水が染み込むように固定化はかけるんだけど……こんな全身ミルフィーユと、パスタの塊みたいな奴へ固定化をかけきるにはいったい、どれくらいの精神力が必要になったと思う? ねぇ?

 

 

一回り全身から中までかけきるだけで、4人のトライアングルメイジの精神力が尽きて倒れたわ。

 

 

勿論全員で一回りよ。スクウェアの強度になんて出来なかったし、費用としてとられた金貨にして480枚。なんちゃってな背伸びした平民の家が買える出費よ。彼らは、予想外の全力を出してやりきれたのと、精神力が完全に尽きたせいで数日は魔法が使えないとはいえ、予想外の収入に喜んでるみたいな顔をして気絶していったけれど、こっちとしては痛手過ぎて泣きたいくらいだわ。

 

 

 

確かに何があるかなんて解んないからひとまず全部……600枚持ってきてたけれど半分もかからないと思っていたのに……これをせめてあと二回はかけないと安心できないなんて。

 

うぅ~、予想外の出費だわ。

 

「あの人たち、大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ。あれが彼らの仕事だし、あれだけお金があれば、数日は魔法が使えなくても護衛くらい雇えるわよ。」

 

「なるほど、そういう経費のせいでスクウェア一人より高くなったのか。」

 

「一応もう、トライアングルクラスなら劣化は気にしなくてもいいとは思うけれど……って、エックス、あなた文字を読めるの!?」

 

「ん、ああ……文字はともかく文法や単語はどうやら、ほとんど俺のいた頃の西欧と変わらないみたいだったから、とりあえず単語単語のカタコトでならね。単位とか違うものもあるけれど……そこはまたおいおいと覚えていくよ。」

 

「……。」

 

ハルケギニアの歴史を話すことになったときに、これでも読んで覚えなさいと言ったら、言葉は話せているのにどうしてかしら? 何故かエックスは文字が読めなくて、昨日教えてくれって言ってきたばかりなのに。

 

もう単語を読めるまでになっているなんて……こいつ、学習速度もすごい。

 

言葉を発して、人の顔を覚えたり魔法とかを理解するだけでも凄いのに、どうやったらこんなに早くものを覚えられるのよ。優等生の人が良く言う例えじゃなくて、ホントに頭の中にいくらでも書ける本があって、メモを書き込めたりしてるのかしら? 物語を覚えさせれば吟遊詩人は廃業だし、歴史や書物を覚えさせたら図書館が要らないし、いつもすぐ横にいるからすぐ調べられるし、ちょっとここまで来ると怖いわね。

 

「ルイズ。」

 

「な、何よ。」

 

そんな風に少しだけ使い魔に畏怖を感じたからか、それとも少しだけ申し訳なさそうな顔をしつつも、真面目な顔と気持ちのある声を突然したものだからか、思わず両手を怯えるように胸元に寄せて、後ずさっちゃった時のこと。

 

くぅ、と……私のお腹がなった。

 

「……っ!!」

 

思わず寄せた手を今度はお腹に向け、自分で抱くように隠す。

 

遠く周りまで聞こえてることはないみたいだけれど……近くにいた人間が歩きながら視線をこっちに向けていたのは、勘違いじゃないわ。

 

「ああ……間に合わなかったか。」

 

「間に合わなかったかって……な、何よ……っ!!」

 

「いや、だって朝の食事もなしにこっちに来てもう昼過ぎだろ? そろそろルイズは何か栄養になるものを食べた方がいいんじゃ……って、言おうとしたんだけれど。」

 

「なら、早く言いなさいよ!!」

 

「す、すまない……。」

 

「やだ、もう……恥ずかしさで死んじゃいそう……!」

 

みっともない顔を隠したくて堪らなくなった私の両手は、最後にほっぺに行きついた。

 

このバカ使い魔! 解ってたならもう少し気を利かせなさいよ……!!

 

さっきの真面目な顔はそれか……真面目な顔をしていたのは、こうなると恥ずかしいだろうと言う気遣いなのか、それとも機械らしく動けなくなることを心配してなのか。気を使うところがこいつの場合どっちの理由からなのか……。

 

人間みたいにしか思えないけれど、まだまだ人としてのデリカシーが無いせいで解らないわ。

 

す、すぐに抱き上げてくるし……廊下で恥ずかしいこと言うし!

 

そんなことを思い出して恥ずかしさを加速させていた私に、追い討ちを書けるかのように、エックスが更に余計なことを言った。

 

「お、おい……あまり大声を出すと余計に何かとみんながルイズを見てしまうぞ。」

 

「ふえ……っ!?」

 

ただでさえサファイアのような鎧を来たエックスが近くにいるせいで目立っていたのに……こんな会話を、大きな……声で。

 

手のひらよりもほっぺが熱くなっていくのが解る。

 

熱と羞恥で目まで潤んじゃう。

 

口はもう何も言えなくて、ひきつった笑みを浮かべるだけだった。

 

そんな泣き笑いのような顔で思わず周りを見た。今度は足を止めて何事かと見てくる人の方が、足を止めずに去っていく人より間違いなく多くなってる。

 

違うのは解っているのに、まるでさっきのお腹の音を聴かれたせいで視線が集まっているようで、私の顔は、とうとう真っ赤っ赤なラズベリーみたいのように、耳元まで染まりきった。

 

「~~~っ!!」

 

「あ、ルイズ待ってくれ! 君はさっきそっちは日用品や道具屋だって言ったじゃないか! レストランとかがあるのはあっちだろう!?」

 

耐えきれなくなって駆け出した私に、バカ使い魔が酷いことを言ってきたわ。

 

だから……もっと女の子に気を使ってってばぁ!!

 

"るいず"なんて私知らない、他人、あいつは誰か別のことを言ってるの、そうなるように更に足を早めるけれど、エックスはどんどんその距離を縮めてくる。

 

「それと! そろそろメット……返してくれないか?」

 

変な言葉が、更に私に突き刺さった。

 

ピタリと足を止める。付け心地のすごさと、恥ずかしさで手を顔に当てていた時は気づかなかったけど……。

 

私、もしかして町に来てからずっと今まで、変な兜だけ着けたメイジだったの?

 

「ぐすっ、もうやだ……。」

 

視線はエックスじゃなくて私にも来ていたのかもしれないと思うと……そうじゃないと願いたくても、怖くて結果は知れなくて。

 

「もうやだぁ!」

 

私はたまらず泣き出した。

 

――――――

 

――――

 

――

 

疲れた。レプリロイドの俺がこう言うのも変な話だが、とにかく精神的に疲れた。

 

あれから泣き出したルイズが動かなくなってしまって、とにかく目立った。

 

そのままというわけにもいかないから、手をとって人気の無いところまで逃げようとするとその手を払うし……仕方ないので抱き上げて壁を三角蹴りで登り、屋根づたいに逃げたら今度はポカポカと俺の顔やボディを叩くし……そこからアーマー部分に小指を強く打ち付けて、更に泣かれた。

 

終いには泣いてる子供――に、見えたらしい――の貴族を拐う誘拐犯と間違えられて、事情を説明しようとしたら、またルイズが……その、子供扱いされたことに怒って杖を振り回して、てんやわんやなことになった。

 

どうにか逮捕もなく、俺のことはヴァリエール家の従者と彼女が何故かごまかして、注意されるだけで難を逃れたけれど、もう散々だった。

 

「とりあえず、はいこれ。買ってこいって言われたものだと思うんだけれど……。」

 

「ん……。」

 

今俺たち二人は、噴水広場前にいる。と、言っても今の俺の発言から解る通り俺は、ルイズに頼まれた買い出しから帰ったところだけれどね。

 

あれから俺とどこかに行くと噂になりそうなのと、ルイズの腹がまたいつ鳴るか解んないので、彼女は音の誤魔化せる噴水に留まると言って俺に買い出しを命じた。まあ、俺一人でも結局目立ってしまったんだけれど、ついてくる人間はいなかったのが幸いだった。

 

「それじゃルイズ、メットを返してくれ。」

 

何故か言うことを聞かないとメットを返さないと彼女がごねたのだ。確かにそろそろ返してくれと言ったけれど、返して貰うのはそんな急いでた訳じゃない。それに、別に買い物くらいならお安いご用なんだけれど。正直イレギュラーやゴーレムとかと戦うよりも平和的で、むしろとこか嬉しい。

 

「……こ。」

 

「ルイズ?」

 

「こ、これのせいで私は……私はっ!」

 

まずい! 慌ててルイズから引ったくるように、メットを取り返した。

 

「なにすんのよ!」

 

何するも何も、地面に叩き付けそうだったじゃないか。代えか無いので、それは正直勘弁してほしい。

 

「そっちこそ、メットに当たるなんてやめてほしいんたけど……これは固定化、まだかけてないだろ?」

 

「あ、そういえば……そうだったわ。」

 

やっぱり気づいてなかったみたいだ。もっとも、ルイズくらいの力じゃとうにもならないとは思うけれど、それでも大切なメットを叩きつけられるのはなんか、嫌だしなぁ。

 

「とりあえず、ご飯、いやお菓子かな? 買ってきたこれを食べて落ち着いてくれ。」

 

「……ありがと。」

 

「どういたしまして、かな?」

 

包みを開いて、もふもふと買ってこいと言われたもの……クックベリーパイを食べはじめたルイズ。慌てなくても誰も取らないと思うんたけれど、余程お腹が空いていたみたいで、小動物のようにかじりついている。これじゃ身長の年齢以下の子供みたいだ……なんて考えた途端に、ルイズがこっちを睨んできた。

 

まさか心を読まれたのか……やはり、魔法(オカルト)の時代に生きている人間は勘も鋭いのか……って、なんだかルイズのようすがおかしいぞ?

 

みるみる涙目になって、背中を向けるとそこをとんとんと、指差しはじめる。

 

どうしてそんなことを……?

 

「ま、まさか食べ物を喉に詰まらせたのかルイズ!?」

 

「んぐ……んーっ!」

 

慌てて背中を叩くが、一向に良くならない……かなり強く叩いているつもりだが、詰まりは取れないようだ。息が出来ずに苦しいのか、どんどん彼女の指の動きが激しくなる。

 

しかし、俺はそこまで力強く叩くことができなかった。これ以上強く叩こうとすると、万が一に彼女を怪我させる可能性があり、傷害行為とみなして体が動かないんだ。ライフセーバーのような救急活動に特化したレプリロイドやメカニロイドたちは、人間がこういう時はどうしてたんだろう……あ、ライフセーバーはレプリロイド専門だったなって、こんなことを考えてる場合じゃない!

 

「ま、まずいぞ……ど、どうすればいい!?」

 

俺ではもう手がなく、誰かに助けを求めようと周りを見たが今度は逆に誰も近くに居なかった。買い出し前はちらほら見かけていた広場の周りでくつろいでいた人は、どこへいったんだ……!?

 

仕込みの時間のはじまりとか、午後の仕事前の休憩時間が終わってしまったのか……回りには影すら残っていない。

 

「ど、どうする……!」

 

「ダ~リン! やっと見つけたわ!!」

 

「だ……っ!?」

 

そんな時に、少し先の建物の角から出てくると、俺を見るやすぐに走って近づいて来る人が現れれた。真っ紅な友のアーマーカラーを思い起こす、髪。そんな髪を持つひとりの女性が、俺に抱きついてきたんだ。

 

「き、君はたしかギーシュとの決闘の時に、タバサちゃんと遠くに居た子……だよね?」

 

「やん、もう。タバサは名前呼びだってのにあたしだけ君なんてつれないわ。私のこ・と・は……キュルケって、名前で呼んで?」

 

そう言って首に手を回して胸元に抱き寄せるキュルケと名乗る女の子。ずいぶん大きいな……いや、身長がさ。この子もマーティみたいに気の強そうな子だしかわいいってのも解るんだけど、身長の高い女性というのはなかなかに新鮮で、そっちに気が回ってしまう。だから……今はそんな場合じゃないだろ!

 

「そ、それより……る、ルイズを助けてやってくれないか!! 窒息しそうなんだ!」

 

「え、ルイズ……?」

 

二人して噴水の方をみると、鬼が居た。

 

「んぐぉ、んぐぅむおぉ、んもももぉが、おもももぉ!!!」

 

ルイズが必死の形相でこちらを見ている。何を言ってるかは全くわからないが、キュルケを警戒……いや、威嚇しているのは解った。

 

良くあんな声が出せるな……喉の声帯より手前でパイをつまらせているんだろうか……それなら鼻で呼吸できそうだけど。

 

「ふぅん……ふふっ。」

 

「!」

 

次の瞬間何を考えているのか、キュルケまでもが俺の唇へとキスをする。まさか、彼女も俺にコントラクト・サーヴァントをしようとしているのか!?

 

また美人だとか、恥ずかしいとかそういう感想より先に、今度は不安が現れた。

 

そんな時が止まったような感覚と周りの空気の中で、しかしいくら警戒してもその時間が訪れることはなく……その静まりきった広場で飛び散りざまに音を立てていく噴水の水と、その近くでわなわなとルイズだけが震えて動いていた。

 

「かはっ……! ツェーループースートーおぉおっ!!」

 

すると、ルイズの口から怒号と共に勢いよくクックベリーパイが飛び出す。彼女の怒りによるお腹からの叫びが、喉のつまっていたものを吹き飛ばしたようだ。

 

「あんたぁっ! 人の使い魔になんてことしてくれてんのよおぉっ!!」

 

「何よ。助けてあげるお礼の前払いをしてもらっただけじゃない❤ でもルイズ……予想通りとはいえいくらなんでもそれは、はしたないわよ。」

 

「う、うるさいうるさいうるさぁい! あんたがエックスにき、キスなんていきなりしたからよ!! 往来の場であんな……はしたないのはそっちでしょ!!」

 

前払いと言うことは、今の行為はこの結果を測予済みのことであって、初めからルイズを焚き付けてこうさせるのが最初から狙いだったのだろうか?

 

すごいなとは思いつつも、そんなことに唇って使うものだったかな……ちょっとどうなんだと思い、キュルケという人間がどういう人なのか判断する材料にした。

 

そしてルイズとキュルケが喧々囂々としていると、遅れてタバサちゃんがキュルケの来た方角からやって来る。

 

「やあ。あの赤い髪のキュルケって子は、タバサちゃんの知り合いかい?」

 

「友達。」

 

「なるほど……また随分正反対な感じの子だね。」

 

「……変?」

 

「いや、そんなこと無いよ。俺とその友達も、二人とは少し違うけど、いろいろと正反対なところがあったからね。」

 

「作られたモノのあなたにも、友達が居たの?」

 

「ああ。」

 

最初は先輩で、途中からは仲間で、時に争って、それから未来を託されたり託したりして……性格は俺が悩むのに彼はいつも迷わなくて。少しセンチメンタルな気持ちになりながら昔を思い返す。

 

「何があっても信頼できる……そんな仲間だったよ。」

 

「……そう。」

 

そこまで話終えると、タバサちゃんと一緒に未だに喧嘩を続けている猫と狐のような二人をみる。

 

キュルケの先ほどの妖艶な雰囲気もどこへいったのか。ルイズとからかい合いや張り合いをしている彼女は、なんだか子供らしさが強く出ていた。もしかしたらルイズが着飾らずに話せる存在なのかも知れないな……内容はからかいなので、される側はたまったものじゃないけど。

 

「ぜー……ぜー……だいたい、ダーリンって何よ。エックスは私の使い魔で、レプリロイドなのよ! 機械に恋なんて馬鹿げてるわ!!」

 

「はー……はー……あら、そうかしら? 機械ってことは彼は老いないのよ? 子供や跡取りを作る必要のある長男ならともかく、そうじゃないなら最高の相手じゃないかしら!」

 

「はん、流石は色ボケ女ね。見てくれだけでエックスを見るなんて、結局あんたも人じゃなくてモノとして扱ってるんじゃない。ああ、そっか……だからあんたの男遊びは直らないのね。男性をアクセサリーとしてしか見てないんだわ。」

 

「……ゼロのルイズが言ってくれるじゃない。そっちこそ、恋のこの字も知らないくせにエックスを寮の塔、ましてや自分の部屋に連れこんでるなんて。本当はあなたこそ、色に飢えてそんなことしてるんじゃない? 恋のステップも知らないからって飛ばしすぎなんじゃないかしら!」

 

「だっ……! だだだどぅあれが!!」

 

「あら! そんなに動揺してさては――」

 

どうやら騒ぎの中心は俺らしいが……正直聞かなかったことにしたい。でもデータとして記憶領域にはっきり残っているし、今もこうしてルイズとキュルケの会話は耳がしっかりと捉えている。

 

女の子(マーティ)とか、異性に見とれた事くらいは、下品な言いかをするのなら性的にみたことくらいは、俺だってあるけれど……深く考えたことはない。

 

こういう話は全くわからない未知の世界のままだ。キュルケの言うことが本当ならば、彼女は俺を好きらしいけれど……変わってるねと、他人事の視点しか、思考している回路の最初に出てきたものはそれだった。

 

以前そんな話をアクセルがした時、ゼロも確か()()()()()()()とか言ってたな。俺も、人に好かれること自体は嬉しいとは思うけれど……疑問の方がこうして強く出ている。そしてキュルケたちの好きとは多分、根本的な理由が違う気がする。

 

レイヤーなんかはゼロのことが好きみたいだったから、作られた心とはいえレプリロイドでも恋愛とか、そういうことは有り得るんだろうけどきっかけは何なんだろう。体験したことが無いから解らないな……。

 

「あぁ、もう! あんたと話をしてたら頭がおかしくなる上に日が暮れるわ……エックス、行くわよ。」

 

そんな悩みを掘り下げる暇もなく、キュルケとの喧嘩を不毛と論じたルイズが、今度は俺についてこいと言いながら歩き出した。確かに今日街に来た理由は、もうひとつある。

 

「それじゃあたしも……。」

 

「あんたはついて来んじゃないわよ!」

 

「あたしが何処に行こうと、ヴァリエールのあなたが止める権利なんて無いじゃない。」

 

「こ、この……っ!」

 

ルイズはキュルケが同伴することも嫌みたいだな……なんだかキュルケからルイズに対する気持ちと、ルイズからキュルケに向ける気持ちは、これもまたどうも違う気がしてきた。キュルケと違ってルイズからは、憎悪に近いものを感じるし……どうしてなのかは後で聞いてみようか。

 

「……エックス、今だけ許してあげる。私を抱えなさい。」

 

「突然どうしたんだ……よっ、これでいいかい?」

 

結局ついて来ようとしたキュルケが、俺の腕に抱きつくのを割って止めにルイズが入ってから、そんな命令を言い出した。そうか、何だか結構抱えてしまっていた彼女だが、ルイズとしてはあまりされたくないことだったのかな。

 

確かに冷静になると、キスは気軽にするものではないと俺も言った癖に、シエスタちゃんを迎えに行こうとした時、最初にルイズも抱えて連れていったのは俺を男性とし、ルイズを女性とするのなら少し遠慮知らず過ぎたように思える。

 

今日のはまあ、非常事態の避難活動として仕方ないと思ってほしいけれどね。

 

何はともあれ、命令されたことを終えるとルイズはキュルケにニヤリと笑って、それから前を指差してこう言った。

 

「エックス、あっちにある武器屋まで全速! ダッシュよ、早くしなさい!」

 

「え、あ、了解! それぞゃふたりとも、また後で!!」

 

所属に登録されているせいか、可能なことについ反応してしまった俺は、脚や足よりダッシュのブーストによる火を吹かしながら、地面を滑るように駆けていった。

 

「あ、こら! 待ちなさいよヴァリエール!!」

 

「速い……。」

 

遠ざかっていく二人の声を聞きながら、ある違和感に気づく。

 

「フットの温度が……上がらない?」

 

武器屋までずっとダッシュ、というのはエネルギーは問題なくても、オーバーヒートの危険を考えると無理があると思っていたのだが、何時まで経っても脚部のコンディションはオールグリーンのままだった。

 

「何のことかは解らないけれど……何かが変わらないのは、固定化のお陰じゃないかしら?」

 

「あ! そうか。これが魔法の効果なのか……すごいな。」

 

固定化の魔法は一定以下の変化を受け付けないのか、だんだんと熱を持って変わっていくという事が起きないようになっていた。体を動かすエネルギーも、各部配線や基盤を流れて循環しているのにその形跡や負荷は一切無かったりしてるし……いったいどういう魔法なんだろう。

 

「でも、どうしてこんなに急いでるんだよ、ルイズ。」

 

「そんなの、キュルケをあんたの近くに居させないために決まっているでしょ!」

 

「じゃあその事なんだけど、一体どうしてあそこまで彼女を嫌うんだい?」

 

「それは――ってエックス、武器屋はそこの路地裏辺りよ。もうここまで来てたのね……信じらんない、馬より速いわ。」

 

回避行動時に瞬間の速度を出すための機能だからか、軽く飛ばした今でもだいたい6~70キロくらいだろうか 。あっという間に目的地についたようだ。またこの状態を嫌がられても困るので、続きを聞くより先にひとまずルイズを下ろすと、お預けを食らった。

 

「まぁ……キュルケのことはそうね。帰り道にでも話してあげるわ。」

 

「ルイズ、揺れる馬の上で話すのは危ないぞ?」

 

「……は? 何言ってんのよエックス、あなた馬より速くて揺らないんだから帰りは私、あなたに乗って帰るわよ。」

 

「お、おいおい。抱えられるのは嫌そうだったのに……俺が抱えて帰るのか?」

 

あ、と何かに気づいて、しまったという感じでルイズの顔が赤くなる。

 

「かっ……勘違いしてんじゃないわよ!? 私は別にそういう……その、異性とかの見方をしていてあんたにされるのが嫌な訳じゃないのよ。ただ機械のあんた……使い魔が勝手に私にそういうことをする、そんな態度が嫌なだけなんだから!」

 

「あぁ、そういうことだったのか……それならこれからは、必要そうならまず許可をもらうことにするから、それで良いかい?」

 

「え、ええ……! そうしてちょうだい。ささっ、行きましょ。」

 

そわそわとルイズが路地裏にかけ入り、それを俺も追っていくなかで、嫌なのはそういうマナー的な問題だったのかと胸を撫で下ろしていた。

 

ルイズが俺を異性相手と意識してしまって嫌だったよりは、こっちのが原因だと助かるからね。

 

一般人相手だと、ほとんどが災害救助みたいな緊張時……助けるために触れるのが当然みたいな時しか、俺は接したことが無い。異性に対して感情から来るしていいこと、してはいけないことにも、情けない話だが疎い。だから、今後もこういう無遠慮なことは起こしかねないけど、心の問題ではなく、ルールの問題であるのならばやりようはある。一つ一つ直していけばしっかりと対処できるようにもなれるだろう。

 

「ええと、ビエモンの秘薬屋ってとこ……その隣の……あれね、入るわよ。」

 

そうして見つけた武器屋はなんだかかび臭そうな、少しみすぼらしい感じの建物だった。

 

ルイズは人なのに、良く躊躇わずにこんな建物に入れるなと思いながら俺も中に入ると、室内はさらに埃っぽく陰湿な雰囲気だった。

 

奥のカウンターには、疲れた顔をした店主と思われる人がひとりだけ。昼間なのに酒でも飲んだのか鼻を赤くして、こちらを疲れた目で見ている。

 

「貴族様が武器屋に何のご用で? こんな成ですが、ウチはまっとうな商売をしてまさぁ。」

 

「客よ。金貨100で買える良い剣を頂戴。」

 

「100ぅ? 貴族様、名剣は立派な家に、さらに上の剣となれば城に匹敵するお値段ですぜ。」

 

「な……平民の武器がどうしてそんなに高いのよ!」

 

「平民のだからこそ、ですわ貴族様。貴族様は杖が無くなっても、恥ずかしいかもしれないがそこからまだ剣を使える、選択がある。ですが平民は最初から剣しかありやせん。だからこそ、その一本に命を預けるため、金をかけてものが作られ、戦士もまたそれを求めるんでさあ。」

 

一振りか予備と合わせて二本程度の装備を徹底的に鍛え上げるのは、固定化の保護を含めこの時代の戦いかたとして一理あると思えたけれど、はたしてこの怪しい店主がその言葉を正しく使っているのだろうか。

 

というのも、1000エキューだの値札に書かれている、一見立派そうな壁に並ぶ武器は、一部のものが長年そこにあったのか、劣化が俺の目だと見える。それってつまりは固定化も何もかかってなさそうというワケで、終いにはしっかりと混ざりあった合金ですらないものまでそのくらいの値段で置かれてある。あ、怪しい……。

 

「100エキューなら、その樽の中のが精々ですかねぇ、けけっ。」

 

「こんな、みすぼらしいものしか……。」

 

金の無い貴族と見なされたのか、店主が露骨に態度を変えて指差した先にある武器を見て、悔しそうにルイズは歯噛みしていた。

 

でも、吹っ掛けられてる可能性のある相手に、彼女の性格だと無理してお金を使ってしまうかも……。

 

それならむしろこの方が良かったかもしれないな。目的はあくまで非常用なんだし、それこそ固定化をかければ防御に用いるものとしては気にする必要も無いだろう。

 

「まあ、そう落ち込むなよルイズ。案外当たりもあるかもしれないじゃないか。」

 

そう言って樽の中を見ると、本当に存在した。

 

ひとつだけ。俺のカメラやセンサーでも、何で出来ているのか解らない剣があったんだ。ぱっと見はただの錆びた鉄なのに、それをなぜか鉄と解析できない剣だった。

 

「これは……何だ?」

 

『お、何だお前? 喋る前から俺さまの良さに気づくなんて、なかなかやるじゃねえか!』

 

「おわ、剣が喋った!?」

 

樽から抜き出したスクラップ工場にありそうな鉄板……もとい大剣がひとりでに鍔本を動かしてカチカチとならすと、声が聞こえてきた。

 

「まさかそれって、インテリジェンスソードなの? 本物があるなんて……。」

 

「へい。しかしどーにも状態は悪いし、口も悪いしで扱いに困ってましてね……あの中の仲間入りって訳ですわ。」

 

メカニロイドかとも思ったが、ずいぶん流暢に話す辺り違うようだ。ルイズたちの発言を考えるに、恐らくはこれも魔法で出来ているのだろう……知性ある剣、か。

 

『……いや、お前さん本当に何なんでぇ? 人どころか生き物ですら無いみてぇだな。モノだってのに、こうして俺っちと普通に話してやがるし訳わかんね。』

 

それと、どうやら不思議なものを見てる気分なのは、向こうも同じだったらしい。

 

「俺のこと……レプリロイドを解るのか?」

 

『れぷりなんちゃらってのは知らねーが、お前さんがどんなものか、手にしてる奴の事を俺はなんとなく解るのさ。悩めて、生きてる様な機械か……こんな奴の手に取られたのは初めてだけどな、しかも使い手と来てやがる。』

 

目覚めてから一番驚いた。恐らくこの剣は俺のことをこの時代で最も理解しているだろう。

 

「使い手? 使い手って何のことだい?」

 

むしろ、俺以上に俺のことを解ってるのかもしれない。

 

『知らん、忘れた……。』

 

「えっ……。」

 

どうしようか、前言を取り消したくなってきたぞ。

 

『よし決めた。てめ、俺を買え。』

 

そして突然こんなことまで言い出すし……まあ良いんだけれど。

 

「俺としてはそうしたいところだけど……。」

 

ルイズの方を見ると、あからさまに嫌そうな顔だ。でも俺としては、出来れば自身以外からのコンディション把握や、知識の拡張としてこの剣は持っておきたい。

 

「なあルイズ、俺としてはこの剣がちょっと不思議な感じで、これにしたいんだけど……。」

 

「えぇええ……? 喋る剣なだけよそれ。」

 

「いやそうじゃなくって、この剣……俺にも材料が良くわからないんだ。ひょっとしたら本当に掘り出し物かもしれない。」

 

そうこそりと告げて、コンコンと軽く大剣を叩く。やはり、返ってくる反動や反響は、鉄の材質のものじゃなかった。

 

『いてっ……おうおう、この6000年を生きるデルフリンガーさまをその辺の鉄屑と一緒にすんなよ! 俺様にかかりゃメイジですら雑魚同然、ずんばらりよ!』

 

「そんな見てくれで随分生意気な剣じゃない……なんかムカつくわ。」

 

デルフリンガー、名前まであるのか。しかし、彼の発言はどうやらルイズの購買意欲を削いでしまったらしい。慌ててさらに良いところを探してルイズに勧めてみる。

 

「頼むルイズ……っ! 今こいつは6000年って言ったけれど、そういう知識が得られるだけでも俺としてはありがたいんだ!! ほら、君にばかり聞いているのも悪いだろうし……さ。」

 

『お前……。頼られるのは嬉しいけれど、おいらとしちゃ剣として使ってほしいぜ。』

 

しかしそれでも、それではダメよとルイズは首を振った。

 

「忘れてるのエックス。ここに来た理由は私を守りながら戦える剣を探すためなのよ。こんな錆びた剣じゃ、直ぐに折れちゃうわよ。」

 

「ルイズ、気になってるのはその事なんだ。この剣……デルフリンガーはどうもただ錆びてるだけじゃないみたいだ。軽く叩いてみたけれど、鉄より全然衝撃を吸収してくれてる。多分だけど……そこの壁のよりも丈夫だよ。」

 

「はあ……? あんた、お仲間欲しさの嘘なら許さないわよ。」

 

「そんなことは思ってないって。ただ安い鉄や高い鉄の武器よりは、すごくお買い得なだけだよ。損はさせないと思う、絶対に。」

 

そう言ってルイズに懇願すると、店主までもが助け船を出してくれた。

 

「貴族様、貴族様。あれでしたら50エキューで構いませんぜ……?」

 

『てめ……このくそ親父! 厄介払いみてぇに……!!』

 

「黙ってろデル公! 買われてえならその口閉じてやがれ!!」

 

理由は全く違えど三者三様のお勧めを受けて、ルイズはため息をはきつつ店主のいるカウンターへと、金貨袋を出しながら歩いて行った。

 

「まあ……50なら良いわ。はい、数えてちょうだい。」

 

「へへ。毎度……!」

 

どうにかこうにか、デルフリンガーを買うことに成功。彼と二人で改めて自己紹介をする。

 

「良かった……宜しくなデルフリンガー。俺の名前はエックスだ。」

 

『エックスか。良い名前じゃねーか、よろしく頼むぜ相棒……うぉっ!?』

 

そしていろいろと話したいことや聞きたいこともあるので、それじゃ早速街を出るまでは話でもしようかと思ってた俺から、突如ルイズがデルフリンガーを取り上げると、持ちきれずに落とした。

 

「きゃっ! お、重っ……この、えいっ!」

 

『てめ。なにすん――……』

 

それでもなんとか持ち上げ直して、間髪いれずにルイズは鞘へとデルフリンガーを納めると、店主がくれたらしい布切れでぐるぐる巻きに鞘と鍔を巻いてしまった。

 

「ふんっ! これで静かになったわ……店主が教えてくれたのよ、喧しいときは鞘に納めなさいって。ほら、エックス持ちなさい。それと、さっさと帰るわよ。」

 

「あ、ああ……。」

 

「何よその顔。文句でもあるの?」

 

「いや、そんなことないさ! これでもっと君を守ってあげられると思うし、だからありがとうルイズ、感謝してるよ。」

 

話を今出来なくなったのは残念だし、デルフリンガーの状態を可哀相だとは思うが、それでもルイズにお礼を言う。俺のわがままを聞いてくれたんだ、その事に対しては感謝の気持ちしかなかった。話はまた帰ってから、ルイズの居ないところで聞くとしよう。

 

俺からの礼の言葉にルイズは気を良くしたのか、それからなにも言うことなく店を出ていったが、少しして足を止めると部屋からでた時とは違い真面目な顔で俺を見てきた。

 

「……こんなヘンテコなの買ってあげたんだからもっと感謝しなさいよね。」

 

「解ってるよ、それにさっき言ったことも本当だって使って証明して見せるさ。」

 

「どれのことよ……まぁ、あなたには全部そうしてもらうわ。約束よ。」

 

「ああ、約束だ。」

 

これは彼女なりの確認なんだろう。感情があるからこそ俺が自己の為に、早速あの誓いをないがしろにしてないかどうかを、俺の反応を見て確認したいんだと思った。

 

だから、俺もあの誓いを嘘なんかにしない為にもう一度真面目に受け答えて、返す。

 

「そう……じゃあエックス、帰るわよ。ここにいたらきっとキュルケが追ってくるわ。」

 

「他に寄る所はないのかい? たとえば、お昼はあれで足りてるのかな? 途中で吐いてたけど……ぐわっ!?」

 

不意にビンタを食らった。

 

「あんたは……抱き上げること以外にもどうやら女の子に対するデリカシーをいろいろと教えてあげなくちゃあ、いけないようね?」

 

いかん、また地雷を踏んだみたいだ。

 

それから結局ルイズは余った金貨で、すこし高めのレストランでランチを取って、俺はそこで様々な講義を受ける羽目になった。

 

……女の子って難しい存在なみたいだよ、ゼロ。




A:このエックスは人間にデリケートすぎじゃない?

V:所詮、この時の奴は鬼ではないからな。

A:けっこー考えないで周りごとゲシゲシやっちゃってる僕やあんたじゃあ…こんな風に接してたら逆に回路がイレギュラー化しそうだよね。あれ? 次回予告は無いのかな?

V:さあな……。

    
次回第3話 破壊の札 


A:今度はちゃんと、予告通りだといいね、へへっ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。