のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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10 のどか様が見ている

冬の日差しは鋭く、刺すようにして辺りを照らす。

影は長く尾を引き、太陽の周りに日暈が現れている。

 

さて、ここに二人の男女がいる。片方は金髪でガタイのいい長身の少年、もう片方はやや小さめで色々と控えめな少女

そんな二人は隣り合って歩きつつ、仲睦まじそうに会話している。

 

「ははは、咲はおっちょこちょいだなぁ」

 

「それを言うなら京ちゃんだって…」

 

はたから見ると一風変わったペアのように思えるものの、その距離は触れ合えそうなぐらい近く、仲が良いことが伺える。

実を言うとこの二人――宮永咲と須賀京太郎は

 

幼なじみなのである!

 

幼なじみ!

幼い頃から親しくしていた友達のことであり、仲がとても良いことが多い。

また、小さい頃は羞恥心が薄く、変なプライドも持っていないため、大きくなってから仲良くなった友達よりも自然体で接することができる。

渾名で呼び合ったり、距離感がナチュラルに近かったり、スキンシップがやや激しめだったり…などなど。

明るく社交的で心優しい少年とやや内向的で才能溢れる少女、この二人も幼なじみだからこそ近い距離感で接することができ、他の人には見せない一面をお互い見せあっているのだ。

宮永咲はやや強気でワガママな一面を、須賀京太郎はお節介で落ち着いた一面を見せているのである。

 

まるでラブストーリーの主役を張れそうな二人。

そう!この物語はこの二人の穏やかながら愛を育んでいく恋愛物…

 

などではない!!

 

(…)

 

主役はそんな二人を遠目で監視しているこの少女、原村和!

現在16歳、才色兼備でまさに完璧少女と言っても過言ではない!

しかし、そんな彼女は物陰に潜み、光のない漆黒の眼でジッと二人を見つめている。さながら呪いの日本人形のようである。

 

(…相変わらず、仲が良さそうですね)

 

「そういやさ、高久田のやつがさ――」

 

「うんうん…」

 

この二人の一挙一動を瞬きせずにじっと見つめる。

彼女は何をしているのだろうか?

 

(うぅ…長年の付き合いなのは分かりますが)

 

(距離感近すぎませんか?)

 

「ってことがあって」

 

「あははは!」

 

(物理的にも近すぎます!もう少し離れるべきです!!)

 

そう、原村和は

 

不安なのである!!

 

口ではフリーを謳っている須賀京太郎だが、そもそもフリーなのがおかしいぐらいの優良案件なのである。

男女ともに友達が多く、運動も得意であり、社交的であり、性格は良!顔立ちも超絶イケメンではないものの、普通に人気があってもおかしくないレベルだ。

ゆえに、全校生徒からモテモテ…ではないが、彼のことが気になるという女は多数いるのは間違いないのである!

しかし、彼に特定の恋人は居ないし、それっぽい人物はいない。…ただ一人を除いて

その人物とは

 

宮永咲である!

 

須賀京太郎と宮永咲が一緒に居るという目撃情報は多数報告されており、全校生徒の殆どがその二人の関係性を知っている。

図書室で、屋上で、廊下で、階段の踊り場で、グランドで、旧校舎で、教室で、清澄高校のあらゆるところで目撃されており、それゆえ必然的に『あの二人は彼氏彼女の関係』という噂が広まっているのだ!

ゆえに、須賀京太郎と宮永咲の関係性は『暗黙の了解』となってしまい、誰も彼にアタックしないのである。

しかし、噂は噂、本人たちに確認を取ってみたところお互いに『そういう関係ではない』と否定するばかりである。

原村和もそのことは知っており、つい最近まで『あれはただ単に仲が良いだけ』で済ませておいたのだ。

 

だが、本当にそうなのだろうか?

 

(や、やはり、咲さんと須賀君は)

 

(付き合ってたりするのでは…)

 

(そ、そんなオカルトありえません!)

 

彼と彼女がカップルではないという証拠は、本人たちの証言しかないのである!

それ以外の言動はまさにカップルそのもの、休日に遊びに行っているのも目撃されている。

つまり、『本人たちは恥ずかしくて否定してるだけ』という可能性も十二分にあり、本当は付き合っている…なんてことになっているのかもしれない。

もしもそうであれば、『須賀京太郎に告らせたい』だなんて言ってる場合ではないのである!既に試合終了である!

 

そんな不安から、原村和は行動を開始した!

 

(むむむ…)

 

手っ取り早い方法は、実際に自分の目で検証することである!

そう、彼女は二人の行動を監視して『付き合っていない』ことを検証しているのである!

彼女の脳内では『付き合っているわけないでしょう』という希望的観測が大半を占めており、安心を得るための監視であるのだが

 

「おいおい、葉っぱついてんぞ」

 

「え?どこどこ?」

 

「ほら、ここだよ」

 

(そんなに顔を近づける必要ないじゃないですか!!)

 

そんな彼女の希望的観測とは裏腹に、この二人は人目を憚らずイチャイチャしているではないか!

いや、実際には髪についた葉っぱを取ったり隣り合って雑談しているだけなのだが、原村和はそんな普通の行為にすら嫉妬する!

 

(こう、葉っぱを手でペイっと捨てるだけでいいじゃないですか!)

(なんで顔を近づけるんですか!?)

 

否、顔を近づけるとは言っても肩を寄せてる程度である。確かに男女の距離としては少しばかり近いかもしれないが、幼馴染の距離としては適正程度。

だがしかし、原村和の持っている物差しは

 

(…私との時はそんなに近づかないのに)

 

自分との距離感である。

自分と会話している時の距離感と比べてしまうため、全体的にどうしてもこの二人が『近い』と感じてしまうのだ。

そのことにも原村和自身は気づいており

ゆえに

 

(やっぱり、須賀君にとって私は…)

 

好感度の差というものをどうしても感じてしまうのだ。

原村和、彼女自身と須賀京太郎との距離感を振り返ってみるものの、物理的な距離は一歩離れた程度であり、会話するときも端々に気づかいが感じ取れ、何もなければ話しかけてこない。

それに対し目の前の宮永咲はどうだろうか。物理的な距離は肩が触れ合っており、会話は遠慮が見えない砕けた様子、そして暇してなくても話しかけられている。

前者と後者、仲が良さそうなのはどちらかと聞かれたら無論、後者――宮永咲――である。

そんな現実を目の当たりにして打ちひしがれている原村和、目の前の魔王を呪う気力もなく、ただただコソコソと監視するのみ――

 

などと原村和が落ち込むだろうか?

 

(いえ、逆に考えましょう)

 

そう、彼女はある一つの可能性に辿り着く

 

(異性として意識されているから、距離があるんです!)

 

羞恥心!

思春期の男女ともに異性と話したりするのが恥ずかしいと感じるものである。

それに恋愛感情が入り込むと尚更である!顔を見るだけで意識してしまい、恥ずかしくて避けてしまう!…なんて事例もあるほどである。

 

(ええそうですよ、咲さんはぺったんこですし、須賀君は全く意識してないんですよ)

(そして私に対してはどうしても『女』を意識してしまうから距離を置いてしまう、そうに違いません)

 

原村和、友達をディスりつつもポジティブシンキングによりなんとかメンタルを保つ。

事実、原村和の言う通り須賀京太郎の宮永咲に対する感情は『友愛』に近く、恋愛感情のそれとは一線を画している。逆もまた真なり。

つまり男女の関係とは程遠いということである。

 

 

「おーい、咲、小テストどうだった?」

「うーん、この問題がね…」

 

小休みも

 

「咲、レディースランチをだな…」

「はいはい、分かってるよ」

 

昼休みも

 

「京ちゃん、窓拭き終わった?」

「ああ、もう終わるとこだ」

 

掃除時間も

この二人、ずっと一緒にいるのである!

 

(な、ななななんですか!?)

(なんでずっと二人一緒なんですか!!?)

(まるでイチャラブカップルみたいじゃないですか!!)

 

これには原村和、激おこ。

いや、激おこを通り越してムカ着火ファイヤーである、はらわたが煮えくり返りそうなほど憤怒している。

 

(れ、冷静になりましょう、同じクラスなだけですから…)

(ええそうです、会話内容もなんの変哲もないただの与太話…)

 

なんとか心を落ち着かせようと努める原村和、しかし!

 

「じゃ、部活行こっか」

「エスコートしますよお姫様」

 

(ああああああああああああああ!!!!)

 

堪忍袋の緒が切れた!!あろうことかお姫様呼び!!!しかも手を差し出しているではないか!!!

まさかこいつら、手を繋いで部室まで移動する気なのか?そう思うと更に怒りがこみ上げてくる!

マグマの如くグツグツと腹の中が煮えたぎる、怒りのあまり手の震えが止まらない!

 

「もうっ、からかわないでよ!」

「でも、こうでもしないと迷子になるだろ?」

「いくらなんでも校内ではもう迷わないから!」

 

宮永咲はこれを拒否。

それもそのはず、須賀京太郎のこの行為は迷子常習犯である咲をからかう目的なのである。

そんな茶化したお誘いに乗るほど鈍くはない…が

 

(す、須賀君と手を繋いで…)

 

沸騰している原村和の脳内では、そんな示唆にすら気づけない!

というか、もはやまともに会話を聞いていない!

 

(そこ代わってください!なんで咲さんがそんなとこにいるんですか!!?呪いますよ!!)

 

ご覧の始末、もはや欲望が先巡り、本来の目的を完全に忘れている。

 

(もう我慢できません!!)

 

なんと原村和、ここで暴挙に出る!

 

「咲さん」

「へ?」

「うおっ、和か」

 

ゆらりと躍り出るのは原村和、突然のエンカウントに身構える須賀京太郎と宮永咲。

その目は焦点が定まっておらず、さながら十徹してテスト勉強した強者のようである。

そんな様子を見て心配そうにする二人、しかし彼女はそんな視線も意に介さずズンズンと近寄っていき

 

そして

 

「す…」

 

その手で――

 

「すぐに部室にいきましょう!!!」

「うぇえ!!?ま、まって和ちゃん…」

 

彼女の小さな手のひらを思い切り引っ張った!

西部劇の引き回しの如く、物凄い勢いで引きずられる宮永咲。

そんな有名人二人を奇異の目で見つめる群衆達、残される須賀京太郎。

 

(あああああ!!私の意気地なし!!なんで咲さんを連れて行くんですか!!!)

「和ちゃん!いたいいたい!!ものすごくいたいよ!!」

 

悲鳴をあげるものの、その一切を無視され、廊下の奥へと消えていった。

 

「…仲いいなァ」

 

 

【本日の判決】

宮永咲の有罪

―校内引き回しの刑―




お久しぶりです!
いつもお気に入り登録等ありがとうございます!
感想も書いていただきありがとうございます!

ついにアニメの『かぐや様は告らせたい』が最終回を迎えましたね、やっぱ会長かっこいいわ
原作も買いそろえてしまい、読み更けていたら更新を忘れていました。

ここの咲さんは友愛度MAXな感じです、放っておいてもへーきってな感じですね。
まあ、こんな距離感でずっと居たら周りもそりゃ勘違いするというかなんというか…ね。

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