のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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12 のどか様は愛でたい

「どうだ京太郎!」

 

「うーん、50点ってとこか…」

 

「それならこっちはどうだじぇ!」

 

「そもそも優希は髪型的に似合わないんじゃァ…」

 

和気藹々と会話している男女、少女はアピールするかのようにクルっと一回転、少年はそれを真剣に評定中、何やら楽しんでいる様子である。

そしてその少女の傍らには多種多様な玩具が詰め込まれた箱が置いてある。

そんな放課後の一幕、それを扉の前で眺めているのが

 

「何しているんですか?」

 

本物語の主人公、原村和である。

さあ今日も部活だ頑張ろう――何を頑張るかはさておき――と意気込みドアを開いたら、そこではファッションショーもどきが開催されているではないか。

更に見慣れた少女の頭には何やら玩具、いわゆるネコミミが付いている。

この状況には少し唖然とし、首をこてんと傾げてそう尋ねる。

 

「お、和」

 

「見れば分かるじぇ!」

 

「少し掃除してたらネコミミ見つけて、ちょっと遊んでいるんだ」

 

どうやら見たまんまで正解のようである。

チラリとネコミミ少女を一瞥すると、ツーサイドアップの髪とネコミミが混在しており、ごちゃごちゃしてしまっている。

しかもネコミミの色は黒であり、一体感がまるでなく、まあギリギリ落第…かな?という感じである。

そんなミスマッチ少女は放っておいて、彼女が目を付けたのはもちろん…

 

(須賀君がつけたらどうなるのでしょうか…)

 

彼、須賀京太郎である!

今回ばかしは妙なプライドよりも知的好奇心が大きく勝り、彼女の脳内では『とりあえず付けさせてみたい』という思考が大半を占めている!

とはいえ、片岡優希が付けているネコミミは色がミスマッチなのもあり、とても似合いそうにはない。

 

(他のはありませんかね…)

 

ワイワイと遊んでいる彼らを横目に、玩具の詰められた段ボール箱に辿り着き、ガサゴソと中身を漁り始める。

出てくるのは、ハリセン、ピコピコハンマー、花札、置き傘、テニスボール等々…なぜ入っているのかが分からないモノばかり。

一向にお目当てのモノは見つからず、アレしかないのかと漁るのをやめようとしたまさにその時、手に触れるふさふさした感触!

その何かを手でグッと掴んでゆっくりと引っ張ると

 

(これは…)

 

そこに現れたのは、薄い茶色の犬耳である!

色合いも彼の髪色に丁度合いそうであり、彼自身のイメージにもピッタリである!

この犬耳を手に取っては、彼の背後からゆっくり近づき、その体躯を目いっぱい伸ばして、付けようとするも…

 

(と、届きません!)

 

届かない!身長の差とは残酷なものである。軽くその場でぴょんぴょんするも、たわわ果実が揺れるのみ。

近くに踏み台になりそうなものは無く、その無駄に高い身長をうらめしそうに睨みつけることしかできない。

どうしようかと困っていると、チャリンと何かが落ちる音。

 

「おっと、小銭が落ちたじぇ」

「なにやってんだ…よいしょ」

 

片岡優希がお金を落とし、それを屈んで拾ってあげようとする須賀京太郎。

まさにファインプレー、彼女はいつも原村和の理想通りに動いてくれるとてもいい友達である。どこぞの魔王とは大違い。

 

(よくやりました!ナイスですゆーき!!)

 

その一瞬のチャンスを逃さず、彼の頭に犬耳をカポッと嵌める!

 

「ん?なんだこれ…付け耳?」

 

「おー!犬が犬になったじぇ!」

 

「なにをー!」

 

金色の髪に犬耳、そして彼のどこか大型犬を連想させるような性格も相まってか、そのシンクロ率は90%越え!

彼はこういう種族ですと初対面の人に紹介すれば何人かは騙せそうである。

 

「というか、和がやったのかこれ!?」

 

「いやー、のどちゃんもやるようになったな!」

 

「ええ、つい出来心で…でもよく似合ってますよ」

 

悪気はあった、だが反省はしていない!そんな風に堂々たる態度で開き直り、さらっと受け流す。

そうしているとドアが開き来客が一人、今は部長の染谷まこである。

 

「おー、京太郎に耳が…よぅ似合っとるのぉ」

 

「えぇ、須賀君がゆーきの時に私は犬耳ですね」

 

「そうじゃな……え?」

 

「つまり、ゆーきが作った時間は元々須賀君と犬耳だったってことですね」

 

「…ど、どうしたんじゃ和?」

 

「いえ、私は心肺停止なだけです」

 

「ホントに大丈夫か!!?」

 

――犬耳と男子高校生

本来であれば融合に失敗し、遺伝子配列に異常をきたし、おどろおどろしいキメラが生成されるのだが

前述のように彼の髪色、性格がまるで大きめのゴールデンレトリーバーを彷彿とさせるからか

金色の犬耳と須賀京太郎がお互いの利点を潰すことなく相利共生をしているのである!

そして原村和からすると、この二つの相性は

 

(かわっ、おかわわわわわわわわわわわわわわ!!)

(え、須賀君に犬耳つけただけで…こんな…かわいい…えっ、これ凄くないですか?!!)

 

奇跡的相性!!

 

いつも見惚れている彼がその三倍はお可愛くなり、その存在自体がもはや彼女に異常をきたし、思考の99%を持っていく!

彼女は隣の染谷先輩のことなど一瞬で忘れ去り、その脳内メモリに犬と化した彼の映像を必死に書き込んでいる!

 

(これはいいです…最高です…)

 

「おーい和…だ、大丈夫かのぅ…?」

 

呆ける原村和、そんな彼女を心配する染谷まこ、だがその呼びかけは一ミリも伝わらない。

さらに彼女の思考回路はヒートアップし、とある発想に行き着く!

 

(これ…ずっとこのままでいいですね、そうであるべきです)

 

遂に思考回路がキマりにキマり、それが当然であるかのように結論着く!

須賀京太郎は犬耳であるべきである、彼女の中の議会では全会一致で可決され、すぐさま施行へと移り始める。

 

「じゃあ、お遊びはここまでにして、そろそろ始めましょう…」

 

「待ってください」

 

「へ?」

「じぇ?」

 

凛とした声が響き渡り、辺りの注目を一身に集める。

そしてこう一言

 

「須賀君は勝つまでそのままでやりましょう」

 

「えっ」

 

この女、あろうことか私利私欲に走り、彼に枷をかける!

そしてタチが悪いことに

 

「い、いやいやそれは…」

 

「須賀君は最近あまり勝ててませんし、気合い入れるためにもやってみてもいいと思います」

 

「で、でもなァ」

 

「それに一位を取らないといけなくなるので、須賀君の苦手な高打点の狙い方の練習にもなりますし」

 

「ぐっ…」

 

即興でそれっぽいことをでっち上げ、あたかも正論のような雰囲気を作り始める!

この発言は間違ってはいないのだが、その根幹は個人の欲望にまみれている。

どうにかその企みを防ごうにも、いつもストッパーの役割を果たしている原村和がこのような発言をしているため…

 

「いいじぇ!賛成!」

 

「お、おう…まあおもしろそうじゃの」

 

誰も止める人間がいないのである!

これには須賀京太郎も言葉を飲み込み、受け入れざるを得ない状況に。

 

ところで、客観的には今の彼女はどうなっているのだろうか。

彼女の脳内はほぼ全て『おかわわわわわわわわわわわわわわ!!』って占められているものの

表情を緩め、そんなことを悟られてしまっては、まるで須賀君を可愛いと思っているように見えてしまうため

唇を噛み、痛みによって表情を無理矢理引き締め、『私は別になんとも思っていません』っという風にかもし出している…というのが本人の理想である。

 

実際は、その表情が引き締めきれず、口端が歪み、微妙にニヤてしまっている。

それでいて目は引き締め、キリリとした表情をかもちだそうとしているため

 

(あの表情!人を見る目じゃねぇ!)

 

まるで悪役のようなニヤケ顔になってしまっているのである!

これには須賀京太郎も恐れ戦く!その目はまるで虫けらを見るかの如く冷めきっている!

 

(この姿がそんなに滑稽なのか!?)

(そんな姿を…麻雀で勝つまで…?)

 

そして組み立てられる方程式、冷徹な笑みを浮かべるほど滑稽な姿を強制してきている原村和、元々は天使のような存在だった彼女がそんなことをするとは思えない…が

ここ最近、生真面目な彼女がお茶目なイタズラをしてきたり、冗談を言ってからかってきたり、色々と変化が生じているのを観測しているため、とある一つの結論に行き着く。

 

(の、和がドSになってしまった!?)

 

とんでもない結論に行き着いた京太郎であったが、あながち間違いではない。

彼女は小さい頃から厳しい父親に躾けられ、いわゆる悪い行為というのは抑圧されてきて育ったのである。

しかし、ここ近日の出来事によりその箍が緩み、そういう行為に対する罪悪感が薄まってきているのである!

 

そんな暴走状態な原村和は止まらない!

 

「もし今日中に勝てなかったら…その姿を写真に残しましょう」

 

「あと、一位を取るまで部活中は犬耳を付けることにして…」

 

「さんせーい!」

 

(ちょ、ちょっとやりすぎじゃないかの…?)

 

(え、今日だけじゃないの?)

 

ストッパーがいない部室、少し引きつつもこの状況を楽しんでいる染谷まこ、悪ノリ大好き片岡優希、そして暴走のどっち、まさしく四面楚歌である。

どこに助けを求めようにも、帰ってくるのは『とりあえず卓につこう』の一言ばかり、そしてそのまま全国優勝した面子に放り込まれる大きな子犬。

その対面にはデジタル麻雀の鬼、原村和が佇んでいる。いつものペンギンは何処へと封印され、ただひたすら口を歪めつつジッと見つめてくるばかり。もはやホラーである。

そして始まる犬耳麻雀。ただでさえ一位を取るのは至難の業である上に

 

「ロン、3900」

 

「ツモ、4000オール」

 

原村和が鬼神の如き強さを発揮し三人もろとも圧殺する!

あの片岡優希でも追いつけぬ一瞬の隙をも見せぬ速攻!それでいて尚且つ重い一撃!

染谷まこもこれには目を丸くして被害を最小限に抑えるために耐えることしか出来ず、あっという間に南場になって片岡優希は気分が下がり為すがままに。

こんな芸当をしている彼女の脳内はどうなっているのだろうか……?

 

 

(かわいいですね須賀君とてもかわいいですよいいですねここは天国です出来ることなら彼を膝にのせてなでなでしてあげたいですね)

(今日ずっと勝てばあの写真は手に入りますし明日は膝枕を罰ゲームにしてその写真も撮ってそうやって毎日コレクションを増やすことも可能ですね我ながらとてもいいと思います)

 

 

御覧の有様である。

 

とめどなく溢れる欲望の奔流!その流れが麻雀の山にも及ぼしているかの如く豪運!

引けばカンチャンが埋まり、曲げれば一発で引き、切れば裏目ることはない!もはやデジタル関係なく鬼神の如き働きである!

それでいて尚も表情を変えずに淡々と打ち続ける原村和、そんな彼女を目の当たりにして

 

(ダメだ、勝てる気がしねぇ!!)

 

もはや蹂躙されるしかない哀れな大型犬。点棒を万遍なく毟られ、そして迎えたオーラス、一位とのその差は八万点を超えている。

一応ラス親であるが…逆転するには何連荘が必要であろうか、考えるだけで気が遠くなる。

 

(これ、一生犬耳はずせねぇかも…)

 

しかしただの偶然か

 

(この半荘はとても時間を稼げましたね、あと出来て一半荘でしょうか、そしたら須賀君の犬耳写真を…)

 

それとも必然の天罰か

 

(…いえ、上がりやめ無しのルールですからここは須賀君に時間を稼いでもらって…)

 

彼女の手から滑り落ちたその白い牌は

 

「ろ、ロン!」

 

震えた声によって止められた。

 

(須賀君はもう張ってましたか、まあ多少は仕方ありま)

「こ、国士無双…十三面待ち?」

 

「………え?」

 

「…じぇじぇ!?国士無双!?」

「は、はぁ!?京太郎お前、まだ三巡目じゃぞ!?」

 

「お、俺だってこんなこと初めてで…手、手の震えが…」

 

「そ、それを試合でやるんだじぇ!全国狙えるじょ!」

 

「出来たら苦労しねーよ!!」

 

「…ま、何はともあれ、これで京太郎の逆転一位じゃのぅ、おめでとさん」

 

「ええそうですね、私が須賀君に犬耳である時間を終わりましたね」

 

「……え?」

 

「つまり須賀君へ犬耳する未来にもう私を失ったということです」

 

「の、和…おぬしもう頭が…」

 

阿鼻叫喚となる部室、犬耳のことをすっかり忘れて騒ぐ須賀京太郎と片岡優希。

その傍らでは、これから予期していた須賀君コレクション計画が瓦解し真っ白になっているピンクと、それを見舞う現部長。

再起動には暫くかかりそうである。

 

と、突然ドアが開き、そこで現れるのは元部長の竹井久。

 

「やっほー、皆元気にしてた…ぷっ、ねぇねぇ須賀君」

 

「え?」

 

「はい、チーズ!」

 

「お、おお…あっ!」

 

「はーい、須賀君の犬耳写真いただきましたー!」

 

「け、消してください!せっかく勝ったのに…」

 

「あ、ごめーん、もうラインにあげちゃったわ」

 

「あああああああ!!」

 

さっと写真を撮ってラインにアップロードし始める。

それに嘆くは須賀京太郎、一世一代の豪運を使い果たしたのにこの始末。

悲しき哉。

 

【本日の勝敗】

須賀京太郎の勝ち

理由:部活通算三回目の一位




お久しぶりです.
感想等ありがとうございます。返信は出来てませんがとても励みになっています.
今回ものどっちが暴走してしまいましたが,むっつりすけべなので許してください.

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