今回はちょっと番外編,時系列も少し前です
現在十月
秋も深くなり、寒さが厳しくなってくる頃。
空模様は曇り、薄く長い雲が空を覆い、差し込む陽の光はいつもより少ない。
そんな薄暗い生徒会室、そこには男女が一人ずつ。
「内木くんって彼女いるのー?」
「いや…いるわけないじゃないですか」
会長竹井久と副会長内木一太の両名である。
彼女がからかい、それに飽きれつつも彼は返す。いつものやり取りである。
「まあ、そんな物好きそうそういないわね」
「ちょっと!それは酷くないですか!?」
「だってロリコ…」
「違いますよ!」
そんなやり取りをしつつ、引継ぎの資料作成や整理を行い、テキパキと仕事を進めていく。
「ようやく終わりそうですね」
「そうね、長かった生徒会もおしまい、これで解放されるわー」
「会長がサボってたからこんなことに…」
「うっ、そ、それは予想外にも色々あったというか…」
「まあ、まさか全国制覇するとは思いませんでしたよ」
「私もよ、これから暫くは青春を悠々自適と楽しめるわ」
「僕は受験があるので、全然解放されませんが」
「あら、それは大変ね」
「もうほとんど決まっている人は楽でいいですね」
どうやら生徒会としての活動も間もなく終了するとのこと。
こうして二人きりで仕事するのも後わずか、ちょっぴりセンチメンタルな気分になる二人。
「じゃ、帰りますね、お疲れさまです」
「おつかれー!また明日!」
そして部屋を去る副会長
そんな姿を会長は見送り、そして――
「………」
「………あぅあぅあぅ」
「私のバカーー!!!」
「今日こそは、今日こそは告白するって決めてたじゃないのよーー!!!」
一人の乙女の悲鳴が木霊する!
そんな彼女は、あの副会長に恋をしていた!
そして、どこぞのピンクとは違い、その恋心を認めていた!
「彼女いるのーって聞いて、そして私はどう…?って詰め寄ってって流れだったのに」
「なによあれ!!なんでそこで憎まれ口叩くのよ!!ばかばかばかばか!!」
だがしかし彼女は生まれつきの悪待ち少女!
正直な恋心を言おうとすると、なぜだか出てくる憎まれ口。
彼とはなんやかんや一年生からの付き合いで、一緒に生徒会に入り、部室で一人暇してた時に呼び出して一人遊びの相手をさせたり
そうこうしていると、徐々に気になってきて、頼りあるとは言えないが、あの包容力がとても心地よくて、そこで漸く恋心に気がつき
そしていざ告白しようと、一回、二回、数回、十数回、数十回!!
そのいずれも、告白の言葉を紡ぐことすら出来ず!!
生徒会の時期も終わり、タイムリミットはあと僅か!!
そうしてジタバタ地団駄を踏んでいると、どこからか聞こえるノック音
すぐさま体勢を立て直すと聞こえてくるは
「あ、あのー、部長……じゃなくて、竹井先輩ですよね?」
「声が聞こえたんですが、どうかしました?」
後輩――須賀京太郎の声。
今年の春、最初に入った新入部員であり、五人目として我らが魔王を連れて来た救世主である。
このメンタルが限界に近い状態で、そんな救世主の声が聞こえ、竹井久の出した結論は――
(そうよ、須賀君ならなんとかしてくれるわ)
「ちょうどよかったわ、ちょっと入ってきてー」
「え?じゃあ、おじゃましまーす…」
脳死。
何の根拠もなく、なんとかしてくれると考え、彼を中へと招き入れる。
「何か力仕事でもしてたんですか?」
「いえ、それはもう終わったからいいの」
「それよりも聞いてほしいのは別の件よ」
「別の件?」
とりあえず悲鳴の件をサラッと流すために嘘をつき、そしてすぐさま本題へ
「その、友達がね」
友達の話!
これが枕詞に入るときは十中八九本人の話である!恋バナであれば尚更!
「好きな人に告白したいけど、上手くいかなくて困ってるのよ」
「え?普通に告白するんじゃダメなんですか?」
「それがね、彼を目の前にすると竦んで、話題を変えちゃうらしくて…」
「あー、なるほど……」
そしてシレっと話し始めるのは、自分の現状。
話せば話すほど、私なにしてんだろ…と気分が落ち込んでいく。
しかし、目の前にいるのは救世主。彼に頼めば、五人目だろうと雀卓だろうとお手の物。
彼女の中では、いるかいないか分からない神よりも信頼できる存在である!
「でも、俺の意見って役に立ちますかね?」
「まあ、別の視点の考えって重要じゃない」
「それもそうですねぇ…うーん…」
そうして思案するメシア
そんな彼の提案は――
「やっぱ逃げ出せちゃうからダメなんじゃ」
「え?」
「ほら、いざ告白しようと思っても、話題を変えれてしまうから上手くいかないというか」
「だったら、もう引けない状態に追い込んでしまえば、もう告白するしかないんじゃァ」
「なるほどね」
背水の陣!
背後に水、その名の通り一歩も引けない状況に身を置き、決死の覚悟で事に当たることである!
彼の提案はあくまでもガッチガチの真っ向勝負、他人をどうこうではなく、自分を鼓舞することを薦める!
「じゃあ、きっちりと呼び出して…って感じかしら?」
「いえ、それじゃまだまだですね」
「え?」
さらに彼は続ける。
「もっと追い込まなきゃダメです」
「も、もっとぉ!?」
「そうですね…衆人環境の中で告白するとか」
「しゅ、衆人!?」
「周りがそういう雰囲気になれば、逃げることすら出来ないですし…」
公開告白!
周りの雰囲気も後押しすることで、成功率はグーンとアップ!まさに数の暴力である!
それに、いざ逃げようにも周りがそれを許さない!ゆえに、告白するしかないのである!
流石の竹井久も、いくらメシアの提案といえども、この提案にはたじろぐ。
(さ、流石にそんな大事にはしたくないわ)
「あの子シャイだし、大事にはしたくないと思うの」
「あー、そうなんですか…だったら…」
そしてまたまた思案する救世主。
頭を捻って、捻りに捻って出た結論が
「…先に動く!」
「へ?」
「こう…言うより先に行動して、言わざるを得なくすれば…」
「えーと…どういうこと?」
「そのですね……ほら、壁ドンとかいい例ですよ」
「壁ドン?」
「ええ」
「……女が男に?」
「……はい」
壁ドン!
いつ頃からか、この言葉はうるさい隣人の壁を叩くことではなく
壁際で手をダァン!と叩きつけ、逃げ場を無くし、相手をドキドキさせる吊り橋効果によって、告白成功率を高める手法を指すようになっていた!
実際にこれを使っている人は見たことないが、創作物ではある意味定番である!
だが、その定番は男が女にする場合であり、逆のパターンは滅多に見ない。
「い、いやいや、それは流石にないでしょー」
「いやでも、そんぐらい激しくアプローチしないと逃げ場を失えないといいますか」
「いやー,例えやったとしても,そんなの引かれちゃう――」
思わず反論をする竹井久。
案を欲しがっているはずなのに、否定してしまうのは自信の無さの表れであろう。
だが
「そうでもないけどなァ」
「え…えぇ!?」
「いや,男側も不安なんですよ、好意持たれてるのかはっきり分からなくて」
「だから逆に,女の子からそこまでアプローチしてきたら」
「ちょっと良いな程度に思っていた女の子でも、全然オッケーになったりするらしいというか」
「そ、そうなの?」
「案外、男子ってそういうもんですよ」
ここで思わぬ情報!
ガツンと一発アプローチするのはリスクが高いと思われていたが
男子高校生の意見によると、そういう女の子もいいよね!という風な認識だそうだ。
「特に、ガツガツ来ない男子にはそうするべきだと思いますね」
「ガツガツ来ない……」
「男でも、相手から来るのを待っていたりするので」
「待ってる……」
「そういうのには、こう、壁際に追い詰めて思い切りダァン!して、私のものになれとでも言えばイチコロですよ!」
「イチコロ……」
「今の時代、男女平等ですし、思い切っていくのも~~」
……皆さんお気づきかもしれないが、この男、完全に他人事である。
彼はこれが部長の友達の話だと信じ切り、それゆえに真剣具合は極めて低い!
真面目に考えてはいるものの、思いついたものを片っ端からぶん投げ、あとはノリでどうにかしている!
また彼は、普段の竹井久の理知的な様子から『まあ、多少話を盛っても、いい具合に調整してくれるだろう』と予測しているのも相まって
その発言は過激に過激に、面白半分で話を盛っていく!
確かに普段の竹井久なら、この話を面白がりながら聞き、誇張表現を抜き、いい具合に調整していただろうが
今は違う。
(壁ドン……ありね!)
会長、完全にトチ狂う。
彼の狂言を鵜呑みにし、頭の中で組み立てられる告白計画!
(まずは壁ドンして…そこで、『私のものになりなさい』って高圧的に命令すれば……!)
なぜそれでいけると思ったのか、これが分からない。
(これならいける!確実にいけるわ!)
竹井久。
実はプレッシャーに弱く、逼迫した場面ではミスをすることもしばしばある。
~後日~
生徒会室を渇いた音が鳴り響く
「か、会長…?」
追い詰められているのは少年
「内木くん……」
少女はそんな少年を真っ直ぐ見つめ
一呼吸おき、決心して
「私のものになりなさい」
「……は、はい」
……恋愛とは何が正解かは分からないものである。
【本日の勝敗】
竹井久の勝利
理由:壁ダァン!!
いつもお気に入り登録や感想等ありがとうございます!
感想や評価を頂けると筆者がとても喜びます.
のどか様は恋路を応援する感想が来たときは喜んでます.
今回は竹井久のちょい前話
彼女の救世主,須賀京太郎伝説はまだまだ続く…?
ちなみに京ちゃんはこの会話を『そういやそんなことあったなー』程度でしか覚えてません