のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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今回も番外編ちっくです





19 そして原村恵は天を仰いだ

一月も昨日で終わり、現在二月一日。

二月といえば日付が少ながら、バレンタインというカップル御用達イベントがあったり

節分があったり、そして一年間の締めくくりである学期末試験がある!

まさしく勝負のひと月!ここで攻め切れなければ、そのまま逃げられ、去っていく…ということもあり得る。

 

だが、この二月はそれだけではない。

 

そんなイベントなんぞよりも重要なイベントが存在する。

 

それは――

 

(明日は須賀君の誕生日です!!)

 

誕生日!!

須賀京太郎16歳の誕生日である!!

彼はその長身と活発な性格から、てっきり夏生まれかと思われがちだが

なんと生まれた日は2月2日!同級生の中でも年下の方である!

そんな日付を原村和はひと時も忘れることなく、一月に入ってからはまだかまだかと待ちわびていた。

なぜなら

 

(誕生日でしたら、何をしても不思議ではありませんね)

 

免罪符!

誕生日だからどんだけ祝ってもアプローチしても不思議ではない!

彼は主役なのだから、プレゼントを送っても、デレデレして接してもなんらおかしくない!と少女は思っている。

事実、今までこの部活で誕生日が迎えられた際には、各々が誕プレを渡し、いつもよりも接触が増えていた。

そのため、彼の誕生日が来たあかつきには、謎のプライドなどというリミッターを一時的に解除し、思いきり接近しようと考えているのだ!

 

(ふふふ…楽しみです♪)

 

(須賀君は喜んでくれるでしょうか……)

 

 

そして思い返すは明日のための準備の日々――

 

その準備に欠かせなかった人が一人いた――

 

~~~~~~~~~

 

 

彼の名前は原村恵。

職業は弁護士、妻とは別居中であるものの仲は良好。

今は一人娘と暮らしており、その娘とはいざこざがあったものの

結果的には自分が折れる形になり、今現在は仲が修復されている。

そんな彼は痩せてはいるものの、やや老けている風貌を気にしており、

そのため、休日には運動を欠かさず、食事は栄養からきっちりと管理して

健康的な身体づくりを目指し、少しでも若々しさを残そうとしているのだが

 

 

彼は今、そんな計画を――

 

 

「お父さん、これも食べていただけませんか?」

 

 

実の娘にぶち壊されそうになっていた!!

 

 

「……なあ和」

 

「なんでしょうか?」

 

「お父さん、これで今日のケーキ、3ホール目なんだが」

 

「……?そうですが?」

 

「多くないか?」

 

「いえ、お父さんは痩せすぎなのでこのくらい食べませんと――」

 

 

そう、彼の娘の名前は原村和!

須賀京太郎に恋する乙女である!

 

 

「……で、どうでしょうか?」

 

「もぐもぐ……うん、甘い」

 

「スポンジはどうですか?」

 

「フワフワしているし、十分だとは思うが……」

 

そんな一人娘から繰り出されるケーキ、ケーキ、ケーキ!!

なぜか食事ごとに出されるケーキ!!朝ごはんはケーキ!昼もお弁当と一緒にケーキ!夜もデザートにケーキ!

しかも材料費抑制のため、朝と昼のケーキはスポンジとクリームのみ!甘ったるくて仕方ない!!

 

「……うーん、ちょっと時間が経つとすぐに潰れてしまいます」

 

「なあ、なんでこんなにケーキを」

 

「次は焼き時間を――」

 

「……聞いてないか」

 

そんなにケーキを焼いている理由を聞こうにもすぐさま反省会が行われ、その耳には声をも届かず。

抗議を諦めイスから立ち上がり、なんとかして甘ったるいショートケーキを消費するためにコーヒーを用意し始める。

そしてカップが真っ黒に埋め尽くされ、その水面に浮かぶ自分の顔を見つめて

 

 

(太ってないよな)

 

 

心配する!

昔はそれこそ大食いの部類であり、食べても食べても太らず、若い頃は色々と無茶をしていたのだが、年を経るにつれ流石に食べなくなってきた。

しかしここ最近、なぜか食べる量が全盛期に戻りつつあるのである!

その原因は皆さんお分かりの通り、原村和のせいである。

彼女の意志もあり、基本的に料理関連を娘に任せているのであるが

お昼に弁当を二つ分食わされたり、晩飯も尋常じゃない量出てきたり、なぜか頑張り始めているお菓子作りの味見役という名の処理役をやらされたりと

その摂取カロリーは成人男性の必要量の遥か上を行く!!もはやアスリート並みの摂取量!!

運動も何もせずに放っておいたら糖尿病まっしぐらである!

ゆえに

 

 

(もしかして、俺を殺そうとしてるのか…?)

 

 

こういう思考に行き着くのも仕方ない。

 

 

(確かに勝手に進路を決めようとしたり、麻雀にケチつけたりしたが……)

 

(だが、それで殺意を……)

 

(いや、案外しょうもない理由で犯罪に走る輩はこの目で見てきた)

 

(ここは、ゆっくり話し合って理解していくしかないな)

 

 

そして始まる論理的思考。

有り余った糖分のせいでおかしくなってしまったのか、実の娘から殺意有りと判断!

そして和解する方向へと進路を確定!

 

 

「和」

 

「なんですか?今忙しいので後にして欲しいです」

 

 

まずは自分から歩み寄ろうとしたものの、一蹴!

見向きもされずに一蹴されて、取り付く島もなし!

 

 

「ああ、ごめん」

 

「……」

 

 

そして娘はまたケーキを焼き始める。

あれが焼き上がったら、また俺の胃袋に……なんてことを考えるだけで胃酸が逆流し始める!

ケーキを流し込む触媒として活用していたコーヒーのせいもあり、もはや胸焼けは限界!

 

(このままではマズい!)

(俺の健康が損なわれる!!)

 

そんな体調の異常を感じ取り、腹を括って表情でキリリと引き締め、凛とした様子で佇み

 

 

「和、こっち来なさい」

 

「もうちょっと待ってくだ――」

 

「和」

 

「……はい」

 

 

そして父親の威厳というものを久々に発揮!

渋々ながらも娘と対面することに成功!

 

 

「……最近どうしたんだ」

 

「異常な量の弁当や料理、更にはお菓子を作り始めて」

 

「……」

 

「材料費もバカにならないし、お父さんの胃袋も限界だ」

 

「ごめんなさい」

 

「いや、謝罪はいい、それよりも……うぷっ」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ちょ、ちょっと待て、今胃薬を……」

 

「……」

 

「……んくんく……ふぅ」

 

「……という風にお父さんの胃袋は限界だ」

 

「次のケーキは私が食べます」

 

「そうしてくれるとありがたい……じゃなくて」

 

「どうしてこんなにケーキを作るんだ」

 

 

訪れる静寂

俯いて黙りこくる一人娘、それを何も言わずに見守る。

 

 

「……と、友達の誕生日なんです」

 

「友達、部活のか」

 

「ええ、それでサプライズということで手作りケーキを」

 

「なるほど」

 

 

そうして訳を聞くと、思ったよりも可愛らしい返答。

別に殺意を抱かれていたわけではなく一安心するも、合理的な考えを口に出してしまう。

 

 

「だが、それなら売ってるケーキでもいいだろう」

 

「これらの材料費、全てを投げ打てばかなり良いケーキが買えるし」

 

「そもそも、いくら短期間で努力しても、職人の長年の経験に勝てるはずが――」

 

 

これが自分の欠点なのだろうなと思いつつも、長年のクセはやすやす止まらず、勝手に口が回っていく。

そうして娘の努力を否定してしまい、また、心の距離が離れていってしまうと思っていたが

 

 

 

 

 

「違います!!」

 

 

 

 

 

「たしかに、美味しさはお店のケーキの方が断然いいです!」

 

「ですが、大切な人のために、自分の手でケーキを作って、それを食べてもらって」

 

「もし、もしそれを美味しいだなんて言って貰えたら」

 

「どれほど嬉しいことでしょう……なんて」

 

「夢を見るのはいけないことですか」

 

「たしかに、傲慢かもしれません、自分勝手かもしれません」

 

「ですが……ですが……」

 

 

 

 

 

怒号が鳴り響く。

そして彼女の心中が、ゆっくりと、尻すぼみではあるが、吐露されていく。

こんな娘の姿を見たのは初めてかもしれない。面と向かって、感情的になって、声を荒げる姿なんて。

そして、誰かのためを一心に思い、そんな理想に思いをはせる姿なんて――

 

――そう言えば、自分も昔はそんな時期があった。不器用ながらも頑張ったあの時はそうだった。

 

 

 

「……分かった」

 

「…え?」

 

「ケーキでもなんでも持って来なさい、全部食べてやる」

 

「で、ですがお父さん、胃が……」

 

「胃はなんとでもなる、あとは糖分だけだな……しばらく白飯は抜きにしてくれ」

 

「……わかりました、ありがとうございます」

 

「……その代わりにだな」

 

 

「今度、その友達のお話をしっかり聞かせてくれ」

 

 

「……」

 

「……返事は?」

 

「……べ、別にそういう関係では」

 

「返事」

 

「……はい」

 

 

そうして俯く娘を確認し、背もたれに寄りかかり天を仰ぐ。

一つはこれからの食生活等の健康面を憂い、もう一つは……

 

 

(俺にそっくりだ)

 

 

恋愛事に関しては父に似てしまった娘の恋路を憂う。

そしてため息を一つ。

相手が積極的であることを願うばかり。

 

 

 

 

そして二月はやってくる。

 




いつも感想や評価等ありがとうございます!!
とても喜んでいます!

今回はのどか様のお父さんのお話でした.
あの夫婦はなんかハチャメチャな恋愛してそうというか,なんというか

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