のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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20 のどか様は髪を結う

本日、2月1日は金曜日である!

そして明日、2月2日――須賀京太郎の誕生日は土曜日である!

 

(幸運ですね……!)

 

 

そして部活は昼から夕方にかけて行われるため

プレゼントやサプライズの準備をするのには好都合!

 

(まずは明日のスケジュールについておさらいしましょう)

 

メモ帳を開くとそこには事細かにスケジュールが記載されており

ケーキも分量から焼き時間、調理におけるポイント等もしっかり載せてある。

こんなもの見なくても大丈夫であるが、念には念を入れるのがのどか様である。

 

(明日の部活は1時からですので)

(家を出るのは早めにして、11時半)

(ケーキはなるべく作り立ての方が美味しいですから~~)

 

そしてスケジュールのおさらいと訂正箇所がないかチェック!

 

(ここは少し無理がありますね)

(ここはお父さんが台所を使いそうなので~~)

 

思いも寄らぬアクシデントが起き、ケーキを用意できずに部活を迎えることがないよう

失敗した際の予定や、リカバリー方法も用意済み!

まさに万全である!

 

(まあ、これでしたら大丈夫そうですね)

 

振り返りを終え、メモ帳をパタンと閉じて、椅子にもたれてほっと一息。

 

 

 

 

(あとは――)

 

 

 

 

 

『おおっ!?これ、和が作ってくれたのか!?』

 

『ええ、ちょうどお菓子作りにハマっていまして』

『いい機会ですし、挑戦してみようかなと』

 

『うめぇ!毎日食べたいぐらいだ!付き合ってくれ!』

 

『ふふっ、仕方ないですね……いいですよ』

 

 

 

 

 

(――と言った風に告白されるのを待つだけ!)

 

 

 

 

 

などと色々と突飛な妄想に耽り始める!

なぜケーキでそれがいけると思ったのか、そして告白されると思ったのか。

その思考回路は脳内ピンクにしか理解できず。

そうしてイメージをしていると

 

 

(量は足りるでしょうか、他の皆さんも食べるでしょうし)

(飲み物も必要ですね、紅茶はこの前のが残っていたはず)

(あっ、ケーキに名前を入れてもいいかもしれません)

(パイピングの練習をしてみましょうか、上手くできたら本番にも導入して――)

 

 

湧いて出てくるアイデアの数々。

その奔流は止まることを知らず、そのまま彼女を突き動かし、余りある材料を使って練習を開始する。

その練習中にも

 

 

(ケーキだけプレゼントというのも味気ないかもしれません)

(最近、須賀君は麻雀頑張っていますし、私の使った教本を――)

(ランニング関連のモノを見繕うのもありですね)

(スケジュールを前に詰めたら買い物する時間も――)

 

 

溢れ出る思考

研ぎ澄まされる感性

それでいてパイピングの手は一切乱れず

 

 

(ぬいぐるみというのもアリですね)

(私が使ってたものを渡して、須賀君がそれを抱きしめるというのも――)

(あっ、自動雀卓もいいです)

(でも、須賀君のお部屋に置くスペースがあるのでしょうか)

 

 

その思考は彼を一心に思うが故に――

 

 

(いえ、肩たたき券みたいなのもいけるかもしれません)

(須賀君がチラチラ見ているコレを――)

 

 

故に――

 

 

(いえ、いっそリボンを体に巻いて――)

 

 

故に暴走する!!

 

 

彼を思う一心のはずだった思考に、いつからか欲望も混じり始め

その方向は私利私欲の方面へ、そしてR-18な方面へと移行する!

このままでは『プレゼントはわ・た・し』をやりかねない!

 

そしてその思考は醒めないまま

 

 

(……あっ、もう11時です、片付けて寝ませんと)

 

 

就寝の時刻がやってくる。

そしてのどっちモードと化している彼女は、半自動的にベッドにイン!

再起動されず、理性が崩壊した状態でスリープモードに移行したため

のどっちモードのまま誕生日を迎えてしまう!

理性は終身モード!

 

 

 

 

――そして、運命の日はついに来た!

 

 

 

 

 

けたたましく鳴り響く目覚ましの音と共に朝6時に起床!

身だしなみを軽く整え、パパっと朝食を用意、そのまま父を起こし早めに準備するよう促す。

そして濃い目のコーヒーを用意して、カフェインの効果で集中力をガンガン上げる!!

7時半には父を見送り、そのままケーキ作りに移行。

慣れた手つきで作業を進め、オープンでスポンジを焼き、クリームを作り、イチゴをカット。

そして機械のように恐ろしい程丁寧かつ素早い手つきで組み立て、あっという間に完成!

それだけでは終わらず、昨日練習したパイピングを開始!

数回の試行錯誤の末に、『Happy Birthday 京太郎くん!』と華麗なパイピングを作成!

もはやお店で売ってる品と大差ないレベルである。

 

そして後片付けを行い、時計を確認すると現在10時半。

 

 

(プレゼントを見繕う時間は……やめておきましょう)

(となると、ぬいぐるみと教本を……あれとあれが良さそうですね)

(雀卓は……うーん……)

(とりあえず、通販で頼んでおきまして)

(後日渡す感じで…、今日は引換券的なものを渡しておきましょう)

 

 

スケジュールの微調整を行い、これからやるべき行動を把握!

そして自分の部屋に赴き、パパっと荷物とプレゼントを用意!

ケーキも予め用意しておいた箱に綺麗に詰める!

焦りもせず、油断もせず、予め組み込んでおいたプログラム通りに行動する!

 

 

(時間も少しありますし、雀卓を買っておきましょう)

 

 

時間が微妙に余ったため、パソコンを起動。

通販サイトから雀卓を見繕い、素早くスクロール!

あっという間に目星を付け

 

 

(ふむ……)

 

(安くて点棒表示あり、それで点棒ケース無し……完全にデジタルですか)

 

(これを頼んでみましょう)

 

 

約十万の買い物をなんの躊躇いもなくワンクリックで済ませる!

大人ですら少しぐらいはためらう大きな買い物である。

だが!彼女の膨大な愛の前には些細なものである!

 

 

そうしてパソコンを閉じようとするときに、目に入るのはネットニュースの一文。

 

 

(2月2日はツインテールの日……)

 

 

くだらない記念日

だが、彼女にとっては少しばかり縁がある――

 

 

彼女、前は両側を結んだツインテールが主な髪型であった。

そう、部活に入った当初もあの髪型だった。

 

 

そしてこの文面、思い出すあの頃――

 

 

 

 

 

『えーと、原村和さんって言うの?』

 

『えぇっ!?インターミドルで優勝したの!!?』

 

『すげー!え、メチャクチャすごいじゃん!!』

 

『かわいくて麻雀強くて……え、頭もいいの!?』

 

『完全無欠っていうか、才色兼備っていうか、完璧美少女ってまさにこのことかァ…すごいなァ』

 

『あっ、ごめんごめん、俺は須賀京太郎って言うんだ』

 

『麻雀は初心者だけど、これから頑張っていくから、よろしくな!』

 

 

 

 

 

顔を赤らめつつハイテンションで話す背の高い男性

ガタイも良くて、髪も金髪でいかにもな感じだったため、ちょっと怖いというのが第一印象だった。

でも、隣の親友からの紹介を聞き、本心から褒めてくる彼を見て

そんな警戒心はすぐに解け、仲良くなれそうだと感じた。

 

 

 

 

そんな彼が初めて褒めてくれた姿――

 

 

 

 

ほぼ無意識に髪を結っていた

 

 

 

 

鏡を見ると、少しだけ幼く、子供っぽくなった気がして

照れ臭くなってきて、外そうかと思ってしまったけど

 

 

 

 

それでも、彼が

 

 

 

『ツインテールっていいですよねェ、あどけない感じがとてもかわいい……あっ』

 

 

 

そんな変化に気づいてくれて

 

 

 

『いや、違うんだ、これは部長が』

 

 

 

あの時みたいに、ツインテールを

 

 

 

『染谷先輩!?俺はロリコンじゃないですからね!?』

『確かに、あどけなくてかわいいって言いましたが!』

『どちらかと言えばお淑やかで豊満な方が……あっ』

 

 

 

かわいい、って言ってくれたら

 

 

 

『の、和、これは違うんです』

『違う、違うから!話を聞いて!』

 

 

 

どれだけ嬉しいだろうか

 

 

 

そう思うと、外そうとする手が止まる。

久々のツインテール、本日はツインテールの日、ただあやかっただけである。

そう自分に言い聞かせ、聞かれたときの言い訳も脳内でシミュレーションし、鏡の前で一呼吸。

 

 

 

(そろそろ時間ですね)

 

 

 

時計を確認、荷物も確認、ケーキも確認。

そして誰もいない家を後にし、たくさんの荷物を持ちながら悠々と道を歩いて行く。

 

 

そして、新たに結んだ髪を撫でる。

 

 

(今日は須賀君の誕生日です)

 

 

本日は2月2日、彼女の想い人――須賀京太郎の誕生日である。

 

 

 

続く




いつも感想等ありがとうございます!!
これからも引き続き読んで頂けたら嬉しいです!

今回は少し回想ありのお話
京ちゃんは無意識的に褒めまくりそう

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