清澄高校麻雀部
本日は13時からの練習であるが、その一時間前には少女が一人。
(よし!準備は出来ました!)
プレゼントの梱包を確認。
ケーキも中身を確認した後、涼しいところに避難させる。
そして手鏡で髪型も確認!
(少し時間が余ってしまいましたね)
何度確認を行っても余りある時間。
そんな時間を
(まだですかね……?)
(須賀君は少し早めに来るので、あとちょっとでしょうか)
椅子にちょこんと座り、髪をくるくると弄って待ちぼうけ。
そうしていると聞こえてくる足音。廊下を響かせる一人の足音。
これは――
ハッとして現状確認、髪型よし!プレゼントよし!セリフよし!
あとは適当な教本を開いて、何食わぬ顔で待つのみ!
そうして体勢を整えたところで、ドアの開く音。
その方向には
「こんちわー」
本日の主役!須賀京太郎である!
「須賀君、こんにちは」
「おっ、和早いな」
「ええ、少し暇をしていまして」
まずは様子見。
教本を読みつつ髪をくるくると弄り、さりげなーくアピールする!
流石の須賀京太郎もこれには
「…おや?髪型戻した?」
話を振らざるを得ない!
いくら鈍感といえども釣り針に食いついたら陸の上の魚
あとは原村和の独壇場!
「ええ、今日はツインテールの日らしいので」
「へぇー、そうなんだ」
こうやって適当に相槌を打ってくるのは既に計算済み。
そこで攻め手を緩めず、彼からの返答を引きずり出す!
「どうでしょうか?」
「へ?」
「似合ってますか?」
「え、そりゃあ、昔の髪型だし似合って……」
「……」
無言の圧力!
瞳孔は開ききっており、『違う』と暗に伝えてくる!
そんな迫力に気圧された彼には選択肢は残されておらず
ゆえに感想を言わざるを得ない!
その結果
「……あ、あー、そのぉ」
「すげぇかわいい」
「……」
「……い、今の無し!」
「無しってなんですか!?」
「だ、だめだめだめ!!ホントごめん!!頭おかしくなってた!!」
「おかしくなってませんよ!!」
大爆発!!
彼は嘘をつくのが苦手な少年であり、ゆえに咄嗟に答える際には正直な感想が飛び出てしまう!
今回のこの言葉、本人も言うつもりの無かった本心であり、その言葉が原村和にダイレクトアタック!!
いきなり飛んできた剛速球を避けることも出来ずに直撃!!
そしてお互い混乱し始める!
「いや、違うんだ、つい思ってたことが口から」
「つまり、かわいいって思っていたんですか!?」
「違くないけど違う!それは無し!ノーカンノーカン!!」
もはや誕生日など頭の片隅に追いやられているが
これは好都合!須賀京太郎が失言したため、このままグイグイと問い詰めれば、うまいこと行きそうである。
だが
「おーっす!」
「こんにちはー」
そこに入り込む二人の邪魔者
そして
「おい京太郎!誕生日おめでとうだじぇ!」
「あっ、京ちゃんおめでとー!」
話題を誕生日へとシフトさせてくる。
せっかくの好機を潰され、不機嫌になるのかと思いきや、意外にも冷静。
(むむむ、いい所でしたが仕方ありません)
(ここは変に逆らわず、誕生日をお祝いする方向へ)
普段であればヒートアップして、有無を言わせず問い詰めていたであろう。
そしてそこで流れに置いてかれ、そこの魔王に邪魔されて……というのがいつもの流れであったが
本日の彼女はのどっちモード!理性や羞恥心が蒸発している代わりに、処理能力はいつもの数倍!
現に今もこんな思考をしつつ
(須賀君おかわわわわわわわわわ!!!)
(顔を赤らめて照れくさそうにしている姿……さいこうですね)
(かわいいって、かわいいって言ってくれました!!)
(しかも『すげぇかわいい』って!!やりました!!完全勝利です!!)
(先にどれを渡しましょうか)
(ケーキは皆さんが揃ってからにして……ぱっと見が良いのはぬいぐるみですね)
(プレゼントは私ですね)
(けっこんしましょう)
(そうしましょう)
他にも多数のCPUが稼働!
いくつもの思考を同時並行で行っているのである!
……その大半が機能不全に陥っているが、それはさておき
「そうでした、須賀君、お誕生日おめでとうございます」
「みんな……!ありがとう!」
まずは誕生日の流れに乗る。
そして冷静に様子見
(私のプレゼントはぬいぐるみ、ケーキ、雀卓)
(インパクトには十分です!焦る必要はありません!)
(ですので、一番最後にするのがベスト――)
そして最適計算を開始!演算した結果、順番はラストがベスト!
「じゃ、京ちゃんこれあげる」
「ん……ってまた小説かァ」
「今回のも面白いよ!」
「ま、じゃあ、ありがたく読ませてもらうよ」
目の前では自称幼馴染と彼との慣れたやり取りが行われているが
のどっちモードと化した彼女からすれば
(は?咲さんは何回も須賀君の誕生日を楽しんでいるのですか、そうですか)
(ふふっ、いつも通りすぎて彼も呆れていますね)
(咲さんの小説、ネットでも評判のやつですね、私も読んでみましょうか)
(私のプレゼントとは被っていませんね、予定に変更はなしと)
この通り……?
いくつかは憎悪に汚染されているものの、なんとか冷静な対処に成功?
そして次は親友の番であるが
(ま、ゆーきは大丈夫……)
その彼女、何を思ったのか
「ちょっと待つんだじぇ!」
どこからかリボンを取りだし
「ん?」
体にくるくると巻き付け
(え?)
そして彼の前にずずいと寄って
後ろ手で上目遣いで見つめつつ、もったいぶらせつつ
「ゆ、優希?なにを……」
「プレゼントは……」
「た・わ・し♪」
「……たわし?」
「……てへ♪」
「今までのタコス代をいい加減返しやがれー!!」
「ぐわあああああ!!」
たわしを取り出す!
皆さんも一度は思いついたこのギャグ、それを見事にやってのけた片岡優希!
その代償として彼からグリグリの刑を食らっているが、タコス代を考えると当然の報いである。
(危ないところでした、親友に手をかけるところでした)
(わたしは被ってしまいました)
(ゆーき、あとちょっと近づいいたら……)
そして原村コンピュータにも大ダメージが入っているが……
ここでいつの間にか
「京太郎、そこまでにしとけ」
染谷まこがスッと話に入り込む!
実はたわし騒動中に部室に入っていたのだが……
その時の光景――原村和の眼光により一瞬フリーズしていたのである。
「あっ、染谷部長こんにちは」
「ううぅ~」
「誕生日おめでと、これはわしと優希からのプレゼントじゃ」
そしてスッと渡される大きめな包み
それと共にサラッと明かされる事実
「え?優希も?」
「プレゼント自体は優希の提案で、わしは費用の補助って感じじゃな」
「えー、なにかなー…ってフライパン?」
「前に鉄のフライパンってカッコいいよなとか言ってたから、それで買ったんだじぇ!」
「安いのじゃなくて、長く使えるように高いの選んだからの」
「そのタワシ使って手入れしたら、ま、十年は持つかもしれんけぇ」
「おー…凄い意外…」
「…微妙だったか?」
「いや、めっちゃ嬉しい!ありがとう!」
「というかこれ、高かったんじゃないか?五千円超えそうな――」
思いも寄らぬ展開になり、彼もこれ以上になく喜んでいるものの
原村和は焦らない!
なぜなら
(私はプレゼントが三つもあります)
(やろうと思えば四つに増やすこともできます!)
絶対の自信!
あの二人がどれだけいいフライパンを買おうが、咲さんがどれだけの名作を渡そうが
ぬいぐるみ、渾身のケーキ、そして雀卓には勝てるわけがない!
(そうです、この三つを渡せば成功は間違いありません)
(手間も、お金も、気持ちも、全てにおいて全力を……)
そう、これだけ想いも物資も資金も詰め込んだのだから
(全力を……?)
失敗なんてしない
『というかこれ、高かったんじゃないか?五千円超えそうな――』
はず……?
(五千円で高い……?)
否!!
プレゼントの重さには限度がある!!
今回の原村和のプレゼント、ケーキは材料費だけだとしても,余裕で合計11万は超えている!!
お友達の誕生日に渡す額としては高いというものではない!
大学生のカップルでもそんな額渡す人間は少ない!というか社会人でもほぼいない!!
まず、雀卓を渡したとしよう
『えっ、じゃ、雀卓?』
『ちょ、ちょっと待って、心の準備が……』
『え?どゆこと?』
間違いなくこうなる。
本日の主役は錯乱状態!周りの皆も混乱し部室内は阿鼻叫喚!
彼女の愛情の重さが露呈し、どうにかするために女性陣だけの緊急集会が開始される!
そもそも、いくら誕生日といえどもプレゼントに手作りケーキ、ぬいぐるみ、雀卓なんて渡そうものなら
好意があるのはほぼ間違いなく露呈する!というかこれで恋愛感情なかったら、それはそれで恐ろしい!
そんなことに今更気が付いた原村和!
(!!?)
(わ、私はなにをしようと!?)
しかし時間はない!
ここで渡さなければ、渡すことが出来ずにズルズルと引きずり、そのまま今日が終わってしまう。
それだけは、それだけは好意が露呈することよりも避けたい!!
(まずはぬいぐるみを!)
大きな袋に入ったぬいぐるみを鷲掴み、そのまま彼に近寄って
「須賀君、これは私からのプレゼントです」
「おっ、ってデカいな!」
「開けてみてください」
「……サメ?」
「ええ、サメです」
「なんでサメ?」
「……?カッコいいですよね?」
「えっ……これは可愛いんじゃないか?」
「私が持っている中では一番須賀君に似合いそうかと」
「えっ、あ、ありがとう」
「?」
思ったよりも反応が不思議な感じだったものの、ドン引きされる事態は免れほっと一息。
そしてお次を考えるが
(あっ、教本を用意していましたが……)
教本はインパクトに欠けるし、雀卓は渡せるわけがない!
すると残るはケーキであり
「……とりあえず、サメはしまっとくか」
「えー、のどちゃんみたいに抱いて打たないのか?」
「京ちゃんも強くなれるかも」
「い、いやいや、そんなことしない」
「なんじゃ、つまらんのぅ」
もはや誰も動かない!
あとはサプライズとしてケーキを見せたら
この手の込んだケーキを披露すれば
(……ケーキ)
ふとケーキについて思い出し、素早く隠密に行動して
窓際にひっそりと置いてあったケーキの箱を開けて中身を確認!
中身はもちろん完璧、別に形も崩れていない……が
(これ、手が込みすぎてません?)
そんな事実に気がつく!!
彼女の作ったショートケーキ、普通ではない。
まず段数、スポンジが三層になっており、イチゴはそれぞれの間に一層!
そして上にはイチゴがたくさん乗ってあり、真ん中にはホワイトチョコに『Happy Birthday 京太郎くん!』とパイピング!
側面にはお店のケーキのように溝をいくつも書き込み、きれいな縞模様になっている!
もはや手作りの範疇を超えている!
(こ、こんなものを渡したら……)
『おー、すごく手が凝ってるな』
『そんなに俺の誕生日を祝いたかったのか』
『お可愛いやつめ』
『和ちゃん……京ちゃんとお幸せに!』
『あらあら~、和もやるじゃないの!で、式はいつにするの?』
原村コンピュータのシミュレーションにより脳裏に浮かぶ景色。
好意を見抜かれ指摘してくる京太郎、ニコニコしながら祝福する宮永咲
そしてニヤニヤしながら煽ってくる竹井久!現在はいないのになぜか入り込む竹井久!
(これはいけません!)
(そ、そんな、まるで私が須賀君のことが大好きって言ってるようなものじゃないですか!)
復活してくる理性。
客観的に場面を見ることが出来るようになり、本能に従った行動にストップをかける。
そして対案を考え
(そうです、完成度を逆手に取りましょう)
(お店で買ったと言い張れば、通るはずです!)
一瞬にして思いつくのは、お店で買った作戦!
どれだけ完成度が高かろうと、お店で買ったと言い張れば、その愛情の重さは垣間見えない!
これなら告白認定される危険性も回避できる
が
(別に私の手作りと言わなくても)
(須賀君にとってはケーキはケーキですし)
(そこに何の違いも――)
『すげぇかわいい』
先ほどの言葉。
理性をかなぐり捨てて、彼に詰め寄った結果、得たあの言葉。
あの言葉を聞いた時、心の底から、嬉しさがこみあげてきて
あんな想いが出来るのなら、また体験出来るのなら――
ツインテールが腕にそっと触れる。
何回も
『…かたいです』
失敗して
『…ああっ!?』
試行錯誤を繰り返し
『分量はこっちのほうが……』
何度も練習し
『俺はもう限界、しぬ』
『わ、私もお腹が……』
彼が喜んでくれると思い
『……うん、イチゴを取り寄せた甲斐がありました』
工夫を凝らした
『京……太……郎……く…ん…!…っと、出来ました!』
このケーキを
『そーっと……慎重に……よし!』
褒めてほしい/喜んでほしい
「須賀君」
「ん?なんだ?」
振り返る彼
そんな彼を目の前にすると、どうしようもなく緊張してしまい、逃げ出したくなるが
「これ……頑張って作りました」
「え?」
震える声をなんとか抑え込み――
「開けてみてください」
真っ白い箱を彼に手渡す。
「お、おう……ってケーキだ!!」
「え?……ホントだじぇ!!?」
「す、すごい……お店で売ってるのより凄いかも……」
「な、なんじゃこりゃぁ……一日そこらで作れるもんじゃないけぇ」
いろんな所から感嘆の声が聞こえてくる。
それだけでも喜ばしい、どうしようもなく血が通っていくのが分かる。
「せっかくですし、頑張って作ってみました」
「皆で食べましょう」
ケーキを切り分ける。
スッと入るナイフ、クリームもいい具合に保っており、スポンジもフワフワのままである。
皿に一つずつ乗せていき、そして六個目の皿には、少し大きめのピースを乗せ
その上にメッセージの書かれたホワイトチョコを乗せ
「誕生日おめでとうございます、京太郎くん♪」
彼に手渡し。
「……ありがとう」
「なーに照れてんだじぇ!」
「うっせ!」
「うーん、このスポンジふわふわ……」
「イチゴも酸味が効いてて……さいこうだよぉ……」
「……うまい!こりゃ凄い!!」
「須賀君、美味しいですか?」
「……うん、めちゃくちゃ美味しい、毎日食べたいぐらい」
「ふふっ……ありがとうございます♪」
「のどちゃん流石だじぇー!うまーい!」
「やっほー!須賀君誕生日おめでとー…ってケーキあるじゃない!私のは……」
「はい、竹井先輩もどうぞ♪」
「えっ、やけに機嫌いいわね…もぐもぐ…おいしい!」
今日は須賀京太郎の誕生日。
原村和――彼女のお陰で、この日は忘れられないものになりそうである。
【本日の勝敗】
敗者無し
理由:ケーキがとても美味しかったため
いつもお気に入り登録や評価等ありがとうございます!
のどか様も恋路を応援するコメントが増えてとても喜んでいます!
これからものどか様を弄ってあげてください!
今回は素直になったのどか様.
初めからやれ