のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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22 須賀京太郎は眠れない

長野県にある一軒家

二階建て、庭付き、プール付き、カピバラ付き、もはや豪邸といっても差し支えない。

そんな家の二階にて、自分の部屋に籠ってベッドに胡坐をかき、目の前のサメとにらめっこしているのは

 

「……あー」

 

須賀京太郎、本日16歳の誕生日である。

先ほど、親からも軽いお祝いをされて、本日二個目のケーキを摂取し、ここにいる。

 

だが、思い返すのはそれよりも前のこと

部活にて皆からプレゼントを貰い、更にはケーキも用意され、皆で過ごした楽しい時間。

その後の部活の内容は悲惨だったものの、そんなことは頭の片隅に置いて

 

とあることを考察していた。

 

(このサメのぬいぐるみだけじゃなくて)

 

(手作りのケーキも用意してたし――)

 

 

そう、彼は

 

 

(これ、もしかして)

 

(和って)

 

(脈あり?)

 

 

原村和のことで頭がいっぱいである!!

 

(待て、落ち着け!冷静になれ!)

 

(ツインテールにしてたのは、ただそういう記念日にあやかっただけ!)

(プレゼントもぬいぐるみとケーキ、和ってお嬢さまっぽいし別にふつー……)

 

何度も考え直し、いやそんなうまい話があるわけ……と考えるが

 

(……ふつーなわけねぇだろ!!)

 

(なんだあのケーキ!?)

 

そんな思考はケーキによって一瞬にして破壊される!

まさにロジカルデストロイヤー

 

(この時期にイチゴをあんなに用意するだけでも大変なのに)

 

(スポンジやクリームもあの完成度で……)

 

(飾り付けもヤバかったよな……)

 

(なにあれ、お店で売ってる一番高いやつじゃん)

 

(それに、誕生日プレートすら作ってあったし)

 

どう考えても俺の意識しすぎ、はいはい自意識過剰乙で済まそうにも

あのケーキがそうはさせんぞと回り込んでくる!!

 

「……あああぁぁぁ……」

 

そうしてうめき声を上げつつポスンと枕に顔をうずめる。

そして目の前にあるサメに視線を移し

 

(これも……)

 

思い返すはあのやり取り

 

『私が持っている中では一番須賀君に似合いそうかと』

 

このセリフ

一見、何の変哲もないように思えるが

 

『私が持ってる中では』

 

これ!

これが問題である!

 

(つまり、このサメのぬいぐるみって……)

 

(和が使ってたやつ?)

 

そう!あの言い方、口調、話の流れ、どれを汲み取っても彼女が持っているものからサメが選ばれたことになる!

つまり、このサメはあの原村和が使っていた、なんなら抱きしめていた可能性もあるのである!!

 

(そうなるよな……)

 

そのつぶらな瞳のサメをジッと見つめ、そう思案する。

そして思い浮かべるのは、あのペンギンのぬいぐるみ――胸に押し潰されてむぎゅむぎゅと変形していたあのペンギン

もしかしたら、このサメも――

 

(……いやいや、何考えてるんだ俺は!)

 

なんて邪な考えを何とか振り払おうとする京太郎!

だが男のサガというのは逆らえないものであり、一つの考えに行き着く!

 

(……まずは確認するのが重要だよな)

 

(も、もし和が頻繁に使ってたのなら、匂いが……)

 

これは果たして彼女のお古なのかどうなのかを確認するために、匂いを嗅いで判断しようとする!

傍から見ては立派な変態行為!だが今は誰も見ていないし、事情を知らなければぬいぐるみを顔に押しつけてるだけである!

 

男、京太郎、ここで深呼吸し

いざ、確認せんとそのサメのぬいぐるみを顔に――

 

(あっ、これめっちゃいい匂いする!)

 

する前に気がついてしまう!そして反射的に顔を背ける!

サメが彼女の使用物と分かってしまったため、確認などという大義名分を失われ

このままサメを吸ってしまえば、ただ邪な思いを抱いた変態になってしまう!

それは彼の理性がなんとか押しとどめた!

 

(あー、これ完全に使われてたわー)

(めちゃくちゃいい匂いするー!)

 

(なんでこんなモノくれたんだ和ぁ!?)

 

(あー!ああああー!!)

 

だが悶々としてしまうのは避けられない!

そのサメを抱きしめるわけにもいかず、かと言って封印するのは勿体ない。

そうしてまた始まるにらめっこ!脳内では理性と欲望がせめぎ合う!

 

また、それだけではない

 

(それに……言動も……)

 

『どうでしょうか?』

 

(ま、まさか……あれも俺にかわいいと言われたくて――)

 

執拗にツインテールの感想を求めてきた。

あの行動も、もしかして俺に――

 

(いや、それはないな)

(流石に自意識過剰だ)

 

なんてことにはならないのが、須賀京太郎――モンスター童貞である。

あれはあれ、これはこれ!の精神によって、ツインテールの件はただ単に気が向いただけと結論付ける!

 

(あー、はずかしはずかし)

 

(そもそも和が俺に惚れる要素がどこにあるんだよ!)

 

更に精神を正常にするために、拗らせ根性を発揮!

自己評価を低くすることで、こんな男に惚れるわけ……で済まそうとする!

確かに、彼からすると、ほんのりとした恋心を胸に秘め、普通に接して過ごしていただけかもしれない……が

 

彼の普通はひと味違う!

基本的に他人を気遣い、自分に出来ることは何か考えてお節介を焼いたり、いい気分になってくれるよう話を盛り上げたり

心を傷つけないよう静かに寄り添ったり、距離感も人によって微調整、まさに一流のコミュ強なのである!

 

(そんなマンガみたいな展開あるわけないし)

 

ある。

お前は知らないかもしれないが、現にそうなっている。

 

そしてつらつらと並べる否定の証拠!

ここ最近の彼女の言動も振り返って

 

 

(それに、よくよく考えたら、和の素振りだって――)

 

 

『あ、すみません、須賀君のはこっちでした』

 

『暇ですし家まで送りますよ』

 

 

(――あれ?)

 

 

墓穴を掘る!

思い出すは間接キス事件、相合傘未遂事件。

あのどちらにおいても、彼女は大胆に行動してきた!

そして今日も

 

『誕生日おめでとうございます、京太郎くん♪』

 

満面の笑みを浮かべながらケーキを、自分だけに手渡してきた!!

あの表情、声色、どれを思い出しても胸が自然とドキドキしてくる!

 

(おおおおおちつけけけけ)

(ままままだあわあわあああああああ!!)

 

京太郎、バグる。

何としてでも勘違いをしないように頑張ってきたが、理性のダムは決壊寸前!

顔が熱くなり、心臓もドキドキと、体中に血が巡っていき、脈拍が上がっているのがはっきりと分かる!

もはや願わぬ淡い恋と思っていたものが急に現実味を帯び、混乱、錯乱、狂乱!

 

(もう告っちゃっていいんじゃないか?)

 

その結果がこれ!

それだけはダメだ京太郎!それだとタイトルを達成してしまう!!

だが彼はここで終わるようなタマではない

 

 

(いや、待て、ここで告白して……)

 

 

『えっ……告白ですか?』

 

『私はそんなつもりなくて……』

 

『あっ、もしかして……誕生日のアレ、勘違いしてしまいましたか』

 

『まあ、童貞ですし仕方ありませんね』

 

『お可愛いこと……』

 

 

(なんてことになったら二度と立ち直れねぇええええええ!!!)

 

 

瞬時に脳内のどか様を起動!

予想できる最悪のパターンでシミュレーションをし、告白する勇気を奪い取る。

『童貞ですし仕方ありませんね』なんて言われた日には首に縄を括りかねない。

この荒療治によって、平静を取り戻すことに成功!

 

 

(そう、そうだ)

 

(別にこのままでも何の問題もな――)

 

そしてそう結論付けようとするが

 

 

~♪

 

 

メールを知らせる音が聞こえ

その内容を読んでみると

 

(の、和から!?)

 

お相手は渦中の存在、原村和!

すぐさま内容を確認すると

 

『改めてお誕生日おめでとうございます』

『ぬいぐるみは私のお気に入りのです、大事に扱ってください』

『また、ケーキは食べたくなったらいつでも言ってくださいね』

『では、おやすみなさい』

 

とても丁寧な口調で書かれた丁寧な内容。

そんな内容、読めば読むほど――

 

 

(や、やっぱ和って俺のこと――)

 

(いや!んな訳ねぇだろ!)

 

(で、でも、いつでもケーキ作るって――)

 

(いや!社交辞令だ!!)

 

 

頭の中で堂々巡り。

そうして夜は更けていく

彼はしばらく寝れそうにない

 

 

【本日の勝敗】

須賀京太郎の負け

理由:言わずもがな




いつもお気に入り登録等ありがとうございます!
なんか日間ランニングに入ってて驚きました!ありがとうございます!
のどか様も喜んでいました!

今回は久々の京ちゃん回,これはヒロインですね

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