「あなたの前に動物用の檻があります」
「その中に猫は何匹入っていますか?」
「……なんだそれ?心理テストか?」
「うん、部室に置いてあったからちょっとやってみようかなーって」
本日は部室に五人揃っており、現在は休憩中。
ソファーに座り、本を片手に質問する宮永咲、それを聞く須賀京太郎。
その傍らでは原村和がお茶を用意している。
「心理テストって実際当たるのかなァ」
「答えてみないと分かんないよ」
「そうだなぁ」
(……)
「八匹だな、小っちゃい子猫が檻いっぱいに」
「……ふふっ」
「なんだよ、結局なんなんだ?」
「こ、これはあなたが欲しい子供の数を表しています!」
「……え?」
「あはははは!京ちゃんったら子沢山がいいんだー!」
「いやでも……当たってる気がする……」
(……!?)
(そ、そんなにですか!?)
「ちなみに私は二匹だったよ、私の方が経済的だね」
「そういう話じゃないだろ!」
(ど、どうしましょう……)
(一年に一人のペースでも八年……)
(い、今のうちに体力をつけておきましょう)
心理テスト!
抽象的な質問から人の本心を聞き出す問題!
その多くはバーナム効果を用いて、誰にでも当たるような答えを用意することで
あたかもホントに当たったかのように思わせるものが大半である。
しかし、その中では心理学に基づいた実践的なものもあり、医療の現場などで使われている。
「お茶入りましたよ」
「あっ、和ちゃん聞いてた?」
「ええ、須賀君は子供がたくさん欲しいみたいですね」
「な、なんかそう言われると恥ずかしいなァ……」
「染谷部長も優希ちゃんも一緒にやろうよ!」
「ふっふっふ、この優希様にかかれば心理テストなんぞ全問正解…」
「いや、そういうもんじゃないじゃろ」
今回はこの文学少女が皆を巻き込み、談笑するための種をまく。
そして本をパラパラとめくり
「あっ、これいいかも」
「じゃ、いくよー」
とある問題にロックオン!
「あなたは今、薄暗い夜道を歩いています」
「すると後ろから肩を叩かれました、その人は誰ですか?」
またもや抽象的な質問
皆でうんうんと頭を捻る……
が
「うーん、どういう質問でしょうか?」
「後ろからかァ……」
「そうじゃのぉ……」
これも勿論、原村和の――
(そうですね…夜道を歩いて、肩を叩かれ、後ろを振り向いたら)
(金髪……須賀君が――)
否
(ふっふっふ)
(流石は咲ちゃん、いい問題を選んだじぇ!)
これは片岡優希の策略である!!
先日、せっかくお膳立てをしまくったのにも関わらず
仲は進展するところが悲惨なことになってしまい、距離感がいつも通りになってしまった二人を見て
流石に痺れを切らしたのか、今回もまた介入する!
今回の仕込みはこうである。
まずは恋愛心理テストの本を用意し、部室に放置。
すると新しい本はとりあえず読まずにいられない文学少女がそれを手に取る。
彼女は、ミステリー物だけでなく恋愛小説も好みであるため、そういった恋バナというのには非常に興味がある。
ゆえに、この内容を見ればさっそく身近な人で試さずにいられない、つまり須賀京太郎が必然的に巻き込まれるのである。
そして、この展開まで持って行った!
(この問題の答えはズバリ好きな人!)
(頭の中が京太郎でいっぱいなのどちゃんは間違いなく須賀君って言うはず――)
さらにそれだけではない!
長年の付き合いと経験から親友の思考回路は把握しており
その上で好きな人、伴侶に何をする等、かなりのアピールポイントになりそうな質問のページは少しだけ開いた跡をつけた。
これによって、進展せざるを得ない質問を抽出させることに成功したのである!
「ねぇ、和ちゃんは誰になった?」
「そうですね…私は――」
そして原村和は口を開き、決定的なひと言を――
が
(いや、待ってください)
(咲さんの表情が怪しいです!)
すんでのところで勘づく!
口元がニヤニヤニマニマとほんの少しだけだが笑いをかみ殺せていない!
そんなことに気がつき、回り始める思考回路。
(ここでもし、答えが好きな人とかでしたら……)
『答えは……好きな人でしたー!』
『おっ、のどちゃんは京太郎にゾッコンだじぇ!』
『これはもう結婚するしかないわね!婚姻届はここにあるわ!』
『式には呼んでくれ』
『なんだ和、そんなに俺のことが好きだったのか』
『お可愛いやつめ』
(間違いなくこうなります!!)
(それだけは絶対に避けなければいけません!)
したり顔の宮永咲、そして妄想にお馴染みの煽ってくる竹井久!
そんな場面が脳裏に浮かび、すぐさま答えを変更!無難な答えは同性の――
「――咲さんですかね」
「え、えー、そうなんだー…えへへ」
目の前にいる宮永咲の名を咄嗟に出す!
別に好意的には思っているがラブではない。
しかし、文学少女はそんなことも知らず、予想外の答えに少しまごまご。そしてニヤニヤ。
(ふぅ、どうやらそういう質問だったみたいですね)
そんな友達の様子を確認して、ほっと一息一安心。
一方、そんな親友の様子を確認して
(ぐっ、まさかのどちゃん、勘づいたか)
心の中でぎりりと歯ぎしりをする策士な少女。
予想外の行動を取られ、次の一手を考え始める。
そしてこちらでは
(夜道……後ろから……)
~~~~~~~~~
『はぁっ、はぁっ!』
『やっぱ、やっぱあいつは……!』
『そ め や せ ん ぱ い?』
『ひ、ひぃ!?わ、わしは何も見てない!』
『悲しいですが』
『お別れしないといけませんね』
~~~~~~~~~
「わしは和じゃな」
「えぇ!?い、意外な答え」
「ああ、間違いなく和じゃ」
完全に心理テストの意図から逸れた想像をし始める染谷部長!
体をカタカタと震わせ、虚ろな目でどこかを見つめる。
(え、染谷部長って私のこと……)
(ごめんなさい、いい人でとても頼りにしていますが恋愛感情はありませんね)
染谷部長は勝手にフラれた。
確かに彼女にドキドキしてはいるが、それは恋愛感情ではなく恐怖である。
そして片岡優希は
「私ものどちゃんだじぇ!」
「あら、ゆーきもですか」
「たぶん、忘れ物を届けに来たんだな!」
無難に答えを出しつつ
心の中で
(ま、京太郎がのどちゃんって答えたら……いける!)
と期待する。
別に京太郎からのどちゃんだとしても、好意があるみたいな雰囲気になるだけで十分!
お互いにある程度好意は持っているわけなため、周囲がそういうものだと認識すれば本人たちも自然とそう思い始めるのが世の理。
その時を虎視眈々と狙っている……が
この少女、重大なミスを犯している。
「俺は――」
「咲だな」
「えー、そうなの?」
「いやだって、絶対に迷子になった咲が……」
「もうっ!そんなことないよ!」
須賀京太郎と宮永咲の付き合いは長い!!
ゆえに、こういった誰が話しかけてくるかといった質問は付き合いの長い人物の方が想像しやすいし
更に彼女がよく迷子になるということもあり、この場面で思いつくのは宮永咲しかいないのである!
「で、答えはなんなんだ?」
「あっ、そうだった、答えは好きな人でしたー」
「なんだそりゃ、あてにならねぇな」
「ひどーい」
(わ,わしが和のことを……!?)
サラッと明かされる答え。
内心やってしまったと頭を抱える片岡優希。
チラリと親友を横目で見ると
(……は?)
(なんですか、なんなんですか?)
(自分でそんな質問選んでおいて、須賀君にそう言わせるなんて)
(この世の悪、魔王、避雷針……)
(咲さんなんてモブ少女として生きていけばいいんです)
この世の憎悪を全て煮詰めたようなどす黒い瞳をあの二人に向けている!
思わず背筋に冷や汗が伝う!
「私も別に京ちゃんに好かれても何とも思いませーん」
「あぁ?いつも助けてやってんだから多少は感謝しろよ?」
(は?須賀君に好かれているのにその態度はなんなんですか?)
(その角切り落として、一切の特徴もなくしますよ?)
(○しますよ?)
(や、ヤバい!のどちゃんがヤバいじぇ!!)
(ひぃぃ!!やっぱり絶対に違う!!こりゃ恐怖の感情じゃけぇ!!)
こうしてあの二人が軽口叩きつつ談笑するだけで威圧感は更に倍増!
遂に心の中で殺害予告までし始める原村和!
親友の暴走に焦る片岡優希!
殺気を感じ取り体を震わす染谷まこ!
そんな状況とはいざ知らずじゃれ合う須賀京太郎と宮永咲!
動いたのは片岡優希!
「じゃ、次は私が出すじぇ!」
宮永咲の手元から本を奪い取り、とりあえず話題を逸らすために質問を繰り出すことにする。
パラパラとページをめくり
「えーとなになに」
「広大なお花畑があります」
「そこから自由にお花を持ち帰れるとしたら、どれくらい持ち帰りますか?」
「とのことだじぇ」
とりあえず目に入ったのを出題。
しかしこの質問、片岡優希自体も答えを把握していない!
「ま、私は二、三本ぐらいで十分だじぇ」
「私はそうだなぁ…一束ぐらいかな」
「わしは…あそこに飾る分と、あそこも飾りたいし…」
とりあえずそれぞれ答え始める。
この質問が何を意図するかは誰も知らず
そして、この少女は
(……量ですか)
(ふむ……何を意図しているのでしょうか)
(まあ、これは先ほどのようなことは起きなさそうですし、素直に答えますか)
質問の裏側を考えるものの、どう答えても危機的状況に陥ることはないと判断。
ゆえに素直に答えることにする!
「そうですね、私は……両手では抱えきれないほどたくさん持ち帰りたいですね」
「おっ、意外だな、和は少なめかと思ってた」
「遠慮しなくていいのでしたら、お庭をお花で埋め尽くせるぐらい持ち帰って育てたいです」
「和ちゃんらしいね、メルヘンチックっていうか、かわいらしいっていうか…」
「俺は大きな花束が作れるぐらいかな」
「そういう京太郎も意外にも多いのぅ」
「いや、持ち帰れるならせっかくだしそんぐらい欲しいかなァって」
「で、答えは何なの?」
「そうだったじぇ、えーと……」
原村和はお庭をお花で埋め尽くせるほど、須賀京太郎は大きな花束程度。
両者ともに多く持ち帰る!
そしてこの質問の答えは
「……好きな人に対する愛情の大きさらしいじぇ」
「あー、そういう質問か、完全に実家のことで頭がいっぱいになっとった」
「和ちゃんが一番大きいね、好きな人が出来たらとても尽くすってタイプなんだね!」
「……」
「和ちゃん?」
「……そ、そんなオカルトありえません!」
「ただの当てずっぽうです!」
「またまたー、そんな恥ずかしがらなくていいのに」
「京太郎も案外大きいじぇ」
「俺は今流行りの尽くす系男子だからな!」
「でも和には負けるなー、なんたってお花畑だもんなー」
「わ、私はそんなに重い女じゃありませんからね?」
「一部分はとてもおも」
「ゆーき?」
「……なんでもないじぇ」
(和の愛情が大きい……あんま想像できないなァ)
(す、須賀君に重い女って思われたらどうしましょう……)
(のどちゃんのは合ってる気がするなー)
本日も有効打は打てず。
心理テストは案外当てになりそうである。
【本日の勝敗】
勝者無し
理由:片岡優希のくたびれもうけ
いつも感想等ありがとうございます!
優希さんが共感できる仲間が多くてとても喜んでました!
心理テスト,皆さんはどうでしたか?
自分は完全にまこさんと同じような発想になりました.