のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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25 のどか様は嫌われたい

「これは……」

 

手に取ったのはあの雑誌

初体験騒動の元凶である女性向け雑誌である。

 

(これのお陰で貴重な情報を得られましたが)

(まだ置いてありましたか……)

 

これによって想い人の極秘情報を得たものの

途轍もない勘違いを起こしてしまったため、複雑な表情でその雑誌をパラパラと眺める

そうしていると目に付くとあるページ

 

(……これは?)

 

特別付録!

雑誌にはよくある袋とじ付録!

その内容はハッキリ言ってくだらないモノが大半であるが

このように袋とじにし、一目際立つカラーにして、特別感を出すことで

その中にある情報があたかも貴重で信憑性の高いモノだと錯覚させることが出来るのである!

 

(絶対にオトす恋愛テクニックですか……)

 

普段であればこんなモノに引っかかる彼女ではないが

想い人のことで頭がいっぱいであり、ここ最近の進捗状況の乱高下によって少し精神が参っているため

 

(ハサミは……)

 

藁でも何でもすがりたい、そんな状況なのである。

袋とじを開くためにハサミを捜索し始め、その内容をこっそりと読み始めた。

 

 

~~~~~~~~~

 

 

「おはよーございまーす」

 

そんな声と共に部室に入るのは須賀京太郎。

その挨拶に返すのは先に部室にいた原村和であるのだが

 

「…おはようございます」

 

「ん?ああ、おはよう」

 

どうも様子がおかしい

いつもであれば真っ直ぐ見つめてしっかりと挨拶を返してくれるのだが

本日はそっぽを向いたまま低いトーンで返してくる。

 

(体調悪いのかな?)

 

そんな風に心配する彼であったが

 

「おはよー」

 

「咲さん、おはようございます」

 

宮永咲が部室に入ってきた時はいつも通りはっきりと挨拶を返す

 

(ん?)

 

「そういえばこの前ですね~」

「え、なになに~」

 

そして普通に談笑し始める二人。

そんな様子に違和感を覚える京太郎。

そう、あの宮永咲と原村和が仲良くしていることに違和感を覚えている……わけではなく

 

 

(そういや最近は和とよく話していたなァ)

 

 

彼女――原村和が話しかけてこない事に違和感を覚えていた!

思い返せば、部室に入ると真っ先に話しかけてきて、『今日はいい天気ですね』とまずは天気から話すのが通例だったが

本日はなぜだか

 

「~ということがありまして」

「あはは、大変だったね」

 

彼を無視して宮永咲と談笑している。

 

(まあ、これが普通だよな)

 

などと思いつつも、どうしても彼女から目が離せずソファーに座り込む須賀京太郎。

頭の中はややモヤモヤ。

 

ここで皆さんはお分かりの通り、これは勿論

 

 

(効いていますね)

 

 

密かにニヤリと笑う原村和の策略である!

先ほど開いた恋愛テクニックの中に書いてあったのは

 

(あえて冷たくする、まさかここまで上手くいくなんて……)

(ああいう本も侮れませんね!)

 

押してダメなら引いてみろ!

あえて距離を取ったり冷たくすることで、寂しさや不安感を煽り、相手に自分を意識させる戦法!

この戦法、大きな弱点としては相手がある一定以上の好意を持っていないと意味がなく

少し前の須賀京太郎に同じ戦法を行っても特に何も意識されずに終わってしまっていたが

 

ここ最近の頑張りや日頃から会話しようとする努力が功を奏し

 

(ふふふ…こちらをチラチラ見ています)

(とてもいい気分です)

 

この作戦が見事炸裂!

あの須賀京太郎にモヤモヤ感を抱かせることに成功し、まずは一手優位に立つ!

 

一方こちらは須賀京太郎

 

(最近、和と仲良くなってたけど)

(そういや以前はこんな感じだったなァ)

 

のんきに過去へと思いを馳せているが

一応、のどか様を意識はしている!

 

(さて…これだけでは勘違いで済まされるかもしれません)

(さらに追撃しましょう)

 

第二の矢を放とうとする彼女!

隣の少女との話を切り上げ、紅茶をつぎ始め

 

「咲さん、紅茶をどうぞ」

「ありがとう、和ちゃん」

 

まずはこの少女に一杯

 

「須賀君もどうぞ」

「おっ、サンキュー」

 

そしてお次に彼に一杯渡す……が

 

(ん……これ)

(すっくな!!?)

 

中に入っているのはほんのちょっと!!

一杯とかいう単位を遥かに下回る!!

思わず咲の方に渡されたカップをバッと確認するが、中にあるのは適正量。

これには流石に彼も異常を感じ取る!

 

(は?え?)

(こ、これは流石に……)

(意図的だよなァ)

 

思案、焦り、不安。

人一倍他人と接してきた彼にとって嫌がらせは初めてされることではないが

この少女からされるとなると話は別である!

 

(和がこんなことするって……)

(単なるイタズラ?)

(いや、それは考えにくいし、それならすぐにネタを明かすはず…)

(やっぱ俺がなんかしたのか?)

(思い出せ……最近あったことを……!!)

 

イタズラだけでこんなことはしないであろう。

ドッキリという線も考えはしたものの、それを企画しそうな片岡優希や竹井久が部室にいないため、可能性は低い。

となると、彼女が自ら何らかの理由を持って、嫌がらせをしてきているわけである!

そうなると、彼自身が原因であると考えるのが自然!

 

(ケーキの感想……メールの返信……あとは……)

 

ドツボにハマる京太郎!

まさに彼女の作戦通り!

 

そしてこちらは

 

(不安がっています、いい感じですね)

(次は……)

 

そんな彼の反応を観察し、さらに作戦を実行しようとするが

 

(……あれ)

(どうしてでしょうか……)

(何だか、胸が……)

 

突然襲い掛かる目まい、動悸

なぜだか胸がきゅっと締め付けられてしまい、体に力が入らない!

これは……

 

迷走神経反射!!

人間は急激な精神負荷を受けると自律神経が乱れ、血圧と脈拍が低下する!

ゆえに、体や脳に行きわたる血液が少なくなり、このような症状が発症したのである!

 

つまり彼女は

 

(……き、嫌われていませんよね?)

 

途轍もない精神的ストレスを受けていた!

 

(こんな意地悪してしまって)

(もし、もしも須賀君に嫌な女だと思われたら)

 

なんやかんや不器用ながらも今まで好意を示してきた彼女であったが

意図的に冷たくしたりするのは初めての行動!

そして、元々の実直で素直な性格と反した行動を取ってしまったため

気がつかないうちに大きな精神的負荷を抱えてしまう!

 

(そもそも、須賀君から何とも思われていなかったら)

(こんなことしたら……嫌われるに決まっています)

 

その結果、自律神経の乱れが発生し、ネガティブ思考も誘発!

 

(おしとやかで家庭的な娘が好きと言っていましたが……)

(須賀君と仲の良い咲さんだって、家庭的ですし……)

(やっぱりあの二人の方が……)

 

次々と浮かんでくる不安要素!

 

(私は……須賀君に何かしてあげましたか?)

(ただ一緒に部活にいるだけで)

(やったことと言えば麻雀を教えていただけですし)

(そんなの、私以外もやっています……)

 

もはや自分から揺さぶりをかけたはずなのに、自分のメンタルに大ダメージ!!

目には涙が溜まっていき、もはや決壊寸前!

軽い嫌がらせをしただけでこの始末、そこが彼女の良いところであるのだが、それには気付きようもない。

 

 

 

 

(やはり、私が須賀君と付き合うなんて――)

 

 

 

 

そう考えていると

 

 

「あの、和」

 

 

後ろから聞こえる声

 

 

「なんですか……?」

 

「いや、その、俺が何かしたんだろうけど、全く分からないごめん」

「だけど、和とは仲良くしたいから……機嫌直してほしいなァって」

「何でもするからさ」

 

 

何故か彼から謝ってくる。

彼女はそんな彼に対し申し訳なくなる一方で

 

 

(……よかったぁ!)

(それに、須賀君が仲良くしたいって言いました!)

(もうっ!やっぱり須賀君は私に気があるんじゃないですか!)

(ほんと意地悪です!)

 

 

メンタル復活!

そして、メンタルが落ちてから上がったため、彼に対する愛おしさがいつもよりも高くなり

その行動は

 

 

「いえ、大丈夫です」

 

「え、でも…」

 

「それより須賀君、次はちゃんと紅茶を淹れますね♪」

「ほら、そこに座ってください」

「あっ、須賀君が読んでた教本を取りましょうか?」

 

「お、おう…」

 

 

愛情マシマシなのである!

まさに気遣いに気遣いを重ね、彼女本来のお淑やかな優しさをフルに発揮!

 

 

「今日は寒いので体が冷えてはいけません」

「ひざ掛けを貸しますね」

 

「あ、ありがとう」

 

「……最近、頑張りすぎていませんか?」

「疲れたらいつでも言ってください」

「はい、熱い紅茶です、火傷しないようゆっくり飲んでくださいね♪」

 

「和こそ、頑張りすぎじゃァ…」

 

「そんなことありませんよ」

「私はちゃんと睡眠を取っていますし……あっ」

「ごめんなさい、須賀君の好きなチョコが切れていました」

「今から購買で買ってきますが、他に何か欲しいものありますか?」

 

「え、いやいやそんなことしなくても……」

 

「いえ、須賀君には長い間雑用をして貰いましたし」

「遠慮しなくて大丈夫です」

「では、適当に買ってきます」

 

「ちょっ……行っちゃった」

 

「……京ちゃん」

 

「……なんだ?」

 

「和ちゃんになんかした?」

 

「何もしてねーよ」

 

「じゃあ…今のなに?」

 

「……わかんね、俺が聞きたい」

 

 

(でもまあ……)

(やっぱ、こういう女の子っていいよなァ……)

 

 

――お淑やかで家庭的

彼の好みである。

 

 

 

 

【本日の勝敗】

 原村和の勝利

理由:アピールに成功したため(なお作戦)




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