のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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4 のどか様は待ちたくない

デート!

それは恋人同士もしくはそれに準じる関係の男女が遊びに行くことをいう。

具体的には、一緒に食事やショッピングを楽しんだり、演劇などの鑑賞、もしくは遊園地などに行って楽しむなどなど…多岐にわたる。

しかし、決してこれらの行為そのものが目的というわけではない!

では、その主目的とはなにか?

お互いの仲を深めることである!

二人きりでお互いのことを深く知り触れ合うことによって、その関係をより親密にすることが目的なのである。

ゆえに、デートで行う遊びの内容もさることながら、それに付随するファッション、細かな仕草、会話能力、なども大変重要である!

 

さて、ここに一人の少女、原村和が物陰に佇んでいる。

ときたまチラリと時計を確認しては、顔をひょっこりだしてキョロキョロと辺りを見回している。

おわかりいただけただろうか、そう、これは…

 

待ち合わせである!

 

家が近所とかでない限り必然的に発生するイベントの一つ、待ち合わせ。

これが意外にもくせ者であり、集合時間の何分前にその場所に居るかが重要である。

ギリギリだと相手を待たせてしまうし、余裕を持った行動を取れない人間だと思われるかもしれない。

では、早めに待っておけばいいじゃないか、と皆さん思うであろう。

しかし、原村和はそれを許せない。

 

(私が先に集合場所に居るだなんて…そんなの)

 

(まるで私が今日のデートを楽しみにしているみたいじゃないですか!!)

 

ご覧の有様である。

この女、非常にめんどくさい。

 

(楽しみにしすぎて夜眠れなかったり、服を選ぶのに時間がかかったり…)

 

(なんてことはありませんでした!ええ、一切ありません!!ありえません!!!)

 

誰に言い訳をしているのだろうか。

ここで彼女の昨晩から今までを振り返ると、

日課であるネトマをしても珍しく負けが込み、早々に切り上げて風呂に入っても長湯しすぎてのぼせてしまい、ベッドに入っても熱が冷めず午前四時などという微妙な時刻に起きてしまい、仕方ないので服を選んでいたら三時間近くかかってしまい、家に居ても落ち着かないので早めに出発して現在に至る。

 

つまるところ、彼女は非常に緊張しているのである。

 

インハイでも自由気ままにマイペースで鉄仮面だったあの原村和が緊張するだなんてあるのだろうか?と、皆さんお思いになられるかもしれない。

しかし、今回のデートというのは麻雀やテストとは訳が違う。

予習が出来ないのである。

彼女にとって麻雀やテストというものは、牌効率などの計算に沿って打ったり、記憶したものを書き写したり、予め積み重ねた経験や知識によって結果を左右できるものである。

ゆえに、これらは『自分の努力によって、結果を明確に左右できるもの』という分類になり、落ち着いて対処すればなんてこともなかった。

だが、今回のデートはどうであろうか。

予習しようにも何をすればいいか分からない、そもそも何が正解か分からない、それに類似の経験をしたことがない。

これらの理由により、彼女にとって『デート』とは未知との遭遇であり、心構えすら出来ない状況である。

とはいえ、そんな彼女でも彼女なりに策を案じて臨んだようである。

 

(まずは須賀君が来たのを確認してから…)

 

第一の作戦、待ち伏せである。

先に集合場所にいるのは上記の理由により却下されたが、かと言って彼を長く待たせるのはもってのほかである。

もしも、集合時間ギリギリを狙っていったとしたら…

 

『あっ、和…遅かったな』

 

『え、その隣の子は誰だって…?』

 

『いやぁ、和待ってたら逆ナンされてさ。和よりもかわいいし、今日はこいつとデートしてくるわ、じゃあな!』

 

なんて事態が起きるかもしれない!!…と、原村和は危惧している。

そんな杞憂はさておき、現在時刻は十時、集合時間の三十分前である。

 

(まだですかね…)

 

集合場所の監視を開始して、既に一時間が経過!!

いくら厚着しているとはいえ、現在一月、寒空の下でずっと待ちぼうけしていれば体はめっきり冷え込んでしまう。

モコモコとした可愛らしい防寒具をより一層体に密着させ、なんとか暖を取ろうとするも熱源がなければ温まらない。

 

(流石に寒いですし…自販機でコーヒーでも買いましょう)

 

そんな感じでゴワゴワと行動を開始し、自販機へと進路を定める原村和。

彼女の脳内ではコーンポタージュもアリですね、などと思考は温かい飲み物の方へとシフトしている。

 

だが、その一瞬の隙が仇となった!

 

「…よっ!」

 

「ふぇっ!?だ、誰ですか!」

 

後ろから突如現れる金髪の男性。

そう、この男が件の人物である…

 

「うおっ!?俺だよ!須賀京太郎!」

 

須賀京太郎だ。

 

「あ、え、ええ、須賀君でしたか、すみません…」

 

「いやいや、俺も急に声かけて悪かった、ビックリさせちゃってごめんな」

 

彼は張り巡らしていた警戒を解いた一瞬の隙に彼女の近くまで接近していたのであろう。

そうして彼に気づかずに物陰から跳び出した彼女を捕捉したというわけである。

この不意打ちに対して大きく動揺してしまうものの、すぐさま平静を保つ原村和。

 

(え、ええ、過程はどうであれ結果的には同時刻に集合場所に来たように見えるので問題ありません)

 

事実はどうであれ、奇しくも同時刻に来た、ということを主張すれば問題ないのである。

たとえ原村和が寒空の下で一時間以上待ちぼうけをしていたと仮定しても、彼女自身がそれを言わなければ彼は知る余地もない…はずだった。

そう、須賀京太郎はどこから現れたか…それを踏まえると

 

「そういや和」

 

「なんですか?」

 

「さっきまで、電柱の前でジッとしてたけど、なんかあったのか?」

 

(…???)

 

必然である。

須賀京太郎は後ろから現れたのだ。この真っ直ぐな道路の後ろから現れたのである。動向なんてバレバレである。

それに、電柱の陰でコソコソ動くピンク色の髪なんて目立つにも程がある。目につかない訳がない。

よって彼は、彼女が思っているよりも遥か先に彼女を捕捉していたのである。要するに、自販機に向かい始める前から見られていたのである。

そして今、原村和は混乱に陥った!

 

(あれ?どうして須賀君がそんなことを…?)

 

(いや、それよりも言い訳を…)

 

その頭脳をフル回転させる原村和、口先さえまともに動けば、誤魔化すことなど容易い。

 

「いえ、ちょっと靴ひもを結び直してまして」

 

「え?それ、靴ひも無いようにみえるんだけど…」

 

「女の子には色々あるんです!」

 

「お、おう」

 

『女の子には』という言葉は非常に便利なものである。これを使えば触れにくく、かつ滅茶苦茶な言い分であろうと納得せざるを得ない状況を創り出せるのである。

多少のゴリ押しはあったものの、なんとかして須賀京太郎を納得させることに成功。

これで彼女は何の問題もなく『待ち合わせ』を遂行したのである!

 

(これで待ち合わせは完了です!あとは一緒にデートするだけ…)

 

彼女の脳内では既に、ロマンティックな映画を見つつ、そっと手を添えてきたり…とかいう光景が繰り広げられているのである。

 

(そうして須賀君は高ぶった想いを私に…きゃー!)

 

第一関門を突破した原村和!

彼女のデートはまだまだ続く…




本当は映画見るとこまで書くつもりだったけど、待ち合わせだけで長くなったので。

お気に入り登録等ありがとうございます。感想も書いていただきありがとうございます。
感想でも色々と楽しみにしてくださっているようですので、元ネタのような雰囲気をうまく作れるよう頑張ります。

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