のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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6 須賀京太郎は告られたい

清澄高校麻雀部、麻雀に携わる人々でその名を知らない者はいないであろう。

彼女らは前年まで無名どころか、団体戦に出場すらしていなかった。

しかし!今年度の長野大会において、あの天江衣を有する龍門渕を抑えて優勝を果たし、遂には全国をも制した高校である。

そして所属する部員はたった五人の少女、ろくに控えもいない状況で栄冠を手に入れたのだ。

その経歴や異常さから、瞬く間に全国にその名は知れ渡り、今では魑魅魍魎住まう魔窟として扱われている。

 

…しかし、この情報には一つ、誤りがある。

 

そう、この麻雀部の部員は六人、幻のシックスマンが存在するのである!

その六人目の部員こそが

 

「うし、掃除終わりっと」

 

この物語の二人目の主人公、須賀京太郎である!

彼は名前からもわかる通り、れっきとした男性であり、それゆえ団体戦メンバーには名を残すことは無かった。

メディアも彼のことをわざわざ取り上げることはせず、誰からも特に注目を浴びることはなく、世間一般では清澄高校麻雀部は五人として認識されたのである。

そんな彼を清澄高校の有象無象たちは、女子麻雀部の腰巾着だと非難して…いるわけもなく、むしろ他の部活に勧誘などもされており、彼は平穏な毎日を過ごしていた。

 

「あとは戸締りして…」

 

彼はまさに温厚篤実といった人間である。同じ部の皆がインハイで頑張っているときはサポートに徹し、普段の学校生活においてもその煌びやかな髪をなびかせ雰囲気を明るくし、困っている人を見かければ親切に声をかける。

生まれもった容姿や才能に恵まれた原村和とは違い、容姿もそこそこ才能もそこそこである彼であったが、普段の振る舞いから原村和と同じくらい非常に評価の高い人間である。

それゆえ、女子同士の恋バナにおいては鉄板とも言っていいほど名前が挙がりやすい

 

が、そんなことを彼は知る由もなかった!!

 

「ん、あれは…」

 

窓から見えるクラスメイト、一人はサッカー部のエース、もう一人は女子テニス部のレギュラー、そんな二人が仲良さそうに手をつないで歩いているではないか。

これには須賀京太郎も血の涙を流し、リア充爆発しろと某会計のように呪い始め…

 

(あの二人はやっぱ付き合ってたんだな)

 

ない!

それどころか、『良かったな、おめでとう』と心の中で祝福し始める。

もはや男子高校生離れした精神力、落ち着き、精神的には成熟していると言っても過言ではない。

しかし、そんな彼でも所詮は男子高校生である。

 

(俺もあんな風に彼女が居たらなァ…)

 

人を好きになり、告白し、結ばれる。そんな甘酸っぱい恋を体験してみたいとは思っているのだ!

それに、彼女というものは華やかな高校生活を迎えるにあたって必要不可欠といっても過言ではない。

一緒に祭りに行ったり、そこで手を繋ごうと頑張ってみたり、花火に見とれる彼女の横顔を眺めてみたり、そんな夏を過ごしてみたり…

だが、それは彼女がいないと成立しないのである!!必要条件である!!

 

(彼女か…)

 

そんなことを思っている須賀京太郎、別に気になる人がいない訳でもない。

しかし、その人物は…

 

(和と一緒に…なーんてな)

 

才気煥発、容姿端麗、才色兼備、全国クラスのアイドル原村和である。

インターミドルの覇者でもあり、今年の全国大会個人戦においても一年生ながらも上位の成績を収めた人物である。

そんな女子としても雀士としても全国有数レベルの彼女と付き合うだなんて、無理無理むーりのかたつむり…と思っているのである。

 

この説明でおわかりいただけただろうか、この須賀京太郎…

 

非常にめんどくさい。

 

いや、乙女というべきか、女々しいというべきか、非常にまごまごしているのである。

彼女が好きなんだけど、釣り合わない云々とかいうどーでもいいことを考えて身を引こうとしている臆病者である。

いや、厳密には身を引こうとしてはいない。むしろ、この前のように映画館に誘ったりと自分から近づこうとはしているのだが

 

(まあ、和は俺のことを友達だと思ってるみたいだし、恋愛的な云々とかでは無さそうだしな)

 

あろうことか、この男、恋愛感情を切り離している!

愛ゆえに人は苦しまなければならないのであれば、愛など要らぬ!と言わんばかりの発想、まさに男子高校生離れした精神力である。

どうしてこんなことになっているのか?

 

実を云うと、彼がこんなことになったのには訳がある。

 

彼は中学校時代はハンドボールに打ち込んでおり、運動神経も抜群であったため、非常にモテていた。

それに、彼自身も非常に恋愛に飢えており、モテたい!という一心で身なりを整えたり、ニキビのケアをしたり頑張ってはいたのだが…

彼の博愛精神、これが非常に厄介だった!

彼はクラスのアイドルから教室の隅の日陰の子まで、誰に対しても優しく接するため、他所からすると好感度というものが測りにくい人間であるのだ。

それに、彼はハンドボールに打ち込んでいたため、そういうのにはあまり興味がないのでは?という説も浮上してしまい、更には隣りにいつも宮永咲が存在していたため、諦める人間も多かったのである。

 

しかし、彼はこんな事情をしらない。

彼からすると、モテるために努力して、女の子にも話しかけて、部活にも精一杯打ち込んだにも関わらず、モテない。そういう認識になってしまったのである。

よって、彼は恋愛に関しての自己評価がすこぶる低く、女子を恋愛対象として見ることを諦めがちになったのである。

 

そう、この男こそが

多くの女子を落とすスケコマシでありながら、全くもって恋愛経験のなく、悟りを開いてしまった、現代社会の生んだ歪み

モンスター童貞なのである!!

 

「あ、須賀君」

 

「ん、和か、どうしたんだ?」

 

そんな彼も全くもってドギマギしないという訳ではない。

部室の扉から現れた原村和、そのサイドテールの髪をなびかせ、可愛らしい声で名を呼ぶ。

そんな彼女を視認して、少しばかり気分は高揚してしまうものである。

 

「いえ、エトペンを置いていってしまいまして」

 

「え?一通り掃除したんだけど、居たっけなァ?」

 

「えーとですね…あっ、こんなところにいました」

 

(ロッカーの中!?)

 

いつものように奇行に走る彼女に驚きつつも、エトペンを抱きしめる彼女を和みながら見守る。

 

「で、須賀君はもう帰るところですか?」

 

「ああ、戸締りも終わったし、そろそろ帰ろうかなって」

 

「なるほど…」

 

口に手を当て、何やら考え始める彼女。

 

「ちょっとだけ、お付き合いしていただきませんか?」

 

しばらくして、何やら勘違いしそうになる一言を発する。

一瞬だけドキッとするものの、平静を保つ須賀京太郎。

 

「ん、なんだ?」

 

「…20の質問っていうのは知っていますか?」

 

「うーん?」

 

「私がこれからとある『もの』を思い浮かべます、それを須賀君が質問していって当てるというゲームです」

 

「なるほど、つまり俺が20個質問していって正解を当てることが出来たら勝ちっていうことか」

 

「ですが、20個も質問したら大抵のことは分かってしまいます」

 

「まあ、そうだよな」

 

「ですから、その半分、10個の質問で当ててくれませんか?」

 

いたずらっぽく笑いかけてくる彼女、その表情は初めて会った頃とは大きく違い…

 

「…よし、その勝負受けて立つ!」

 

「須賀君ならそう言ってくれると思っていました」

 

「ま、ちょちょいっと当ててやるぜ!」

 

「因みに、私に関するものなので、私と一緒に過ごしてきた須賀君ならすぐに当てられると思いますよ」

 

「ほほう、和も煽るようになってきたか」

 

まず最初の質問を考え始める須賀京太郎。

 

「それは触れられる?」

 

「はい、触れることが出来ます、言葉や概念ではないです」

 

「電化製品?」

 

「いえ、電化製品ではないですね」

 

「えーと…それは常温?」

 

「いえ、常温ではありません」

 

まずは広い範囲から絞り込んでいく。

触ることが出来て、電化製品ではなく、常温でもない。

これらからすると、食べ物や生き物の線が濃厚になってくる。

それに、原村和に関連するものであるので

 

(今度はそっちから絞っていくか)

 

「それは和が所有してる?」

 

「いいえ」

 

「それは和の家にある?」

 

「いいえ」

 

「それは…和は触れたことがある?」

 

「はい、あります」

 

所有もせず、家にある訳でもなく、それでも触れたことはある。

分からなくなってくる須賀京太郎、どうにもこうにも思いつかないので

 

(ちょっと違う角度の質問もしてみるか)

 

「それは…和が好きな物?」

 

だが、この質問はうかつだった!!

藪を木の棒でつつくかの如き行為、彼自身は深い意味を持ってしたわけでもなかったが

 

「……はい」

 

顔を赤らめ、もじもじと恥ずかしそうに答える原村和。

こんな彼女を見て須賀京太郎

 

(…!!?)

(えっ、なんだこの表情は!?ちょっと恥ずかしような、照れているような…!?)

 

混乱状態に陥る!!

 

まさかの反応が帰ってきて、これは何かピンポイントで打ち抜いてしまったのではないかと不安になり始める。

それもそのはず、彼女がこんな表情をすること自体が非常に珍しい、まさに恋する乙女のような様子、まるで…

 

(ま、まさか…)

 

「そ、それは生き物?」

 

「……っ、は、はい」

 

先ほどまでの平然として様子から一転して、受け答えだけでも恥じらうように言葉を紡ぐ。

そんな彼女の様子から鑑みるに、これの答えは…

 

(お、俺だったりするのか!?)

 

こういう結論に至るのは必然である。

好きかどうかという質問から一転して様子がおかしくなる、つまり好きということがバレると恥ずかしいということである。

この状況でそのようなことになる答えといえば、『須賀京太郎』のみである。

しかし、彼はモンスター童貞、確証が得られるまでは動かない。

 

「そ、それは人間?」

 

「…!、……はぃ」

 

言葉尻が弱くなる彼女、次第に顔が俯いていき、その表情は読み取れなくなってしまった。

 

(こ、これは…)

(遠回しな告白!!?)

 

これには鉄壁のディフェンスを持つ彼であっても、そうは思わずに居られない。

いや、思わない方がおかしいであろう。わざわざ帰ろうとしているのを引き留め、ちょっとしたゲームに誘い、そして今、二人きりの部室でこんな表情をしているのだ!

これが遠回しな告白でなければ、果たして何なのであろうか?

 

(残る質問はあと一つ…ならば!)

 

須賀京太郎、意を決す!

 

「その人物は…金髪?」

 

「………はい」

 

須賀京太郎、自身の髪の色は金髪である。

親から譲り受けたこの髪色、今日ほどそれに感謝した日があっただろうか。

 

(俺じゃん!確実に俺じゃん!!)

 

いくらモンスター童貞である彼であろうと、この情報、そしてこの状況であれば、そう確信してしまう。

確信しないはずがない!

 

(苦節15年…思えば長かった)

(彼女を作ろうにも一向に出来ず、義理チョコばかりが増えていく一方)

 

懐古する彼、ちなみに義理チョコの中に本命が多数混じっていたことなど彼は知らない。

 

(そして今、あの和が、原村和が俺に…!)

(そうだ、和とはこの八か月色々と…色々と…)

 

彼女との思い出を嚙みしめ…

 

噛みしめて…?

 

 

 

(あれ…なんで告白してきてるんだ…??)

 

 

「では質問は以上になります…」

 

「か、回答をお願いします」

 

俯いていた顔を上げ、そう尋ねる彼女。答えを書いた紙を顔を隠すかのように口元に持っている。

しかしながら、その瞳は潤んでおり、まるで何かを期待しているかのように真っ直ぐとこちらを見つめている。

そんな彼女を見て、彼は少しばかり息を吸い、そして――

 

「答えは『天江衣』…そういえば、エトペン関連で仲良くなっていたよな…」

 

「……せいかいです」

 

潤んでいた眼は一転して光を失い、紙を投げ捨てる原村和。

 

「い、いやぁ、なかなか難しかったなァ!」

 

「そうですね、では、もうこんな時間ですし、さっさと帰りましょうか」

 

「えっ?あっ…あぁ、そうだな!」

 

「ほら、早くしてください、須賀君」

 

エトペンを乱暴にカバンに詰め込み、さっさと部室を出ようとする原村和。

そんな彼女に慌ててついていく須賀京太郎。

 

(やっぱ、そんなマンガみたいな展開なんてあり得ないよな)

(今回こそは上手く行ったと思ったのですが…もうっ!須賀君のいじわる!!)

 

この物語は、天才少女原村和と凡人須賀京太郎の恋愛頭脳戦…

否、このポンコツな二人がすれ違いつつも奮闘するお話である。

 

 

【本日の勝敗】

須賀京太郎の勝利

ただし、チャンスを逃した模様

 

 




いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
感想も書いていただき、ありがとうございます。非常に喜んでいます!
なぜか日間ランキングに入っていて驚きました、ありがとうございます!

今回は京太郎視点のお話でした、いかがだったでしょうか?
元ネタの某会長とは別ベクトルで面倒くさいですが、その性質上、基本的に受け身になります。
でもまあ、やるときはやる…かも。

あと、この話においても原村和は内心色々とアタフタしているので、それも脳内補完して読んでみて欲しいです。

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