昼休み!
それは退屈な授業の合間に発生するオアシス、この時間においては生徒は自由であり、遊ぶもよし、会話するもよし、寝るもよし、基本的に何をしてもいいのである。
だが、この時間内に皆が必ずしも行うことが一つだけある。
それは、昼食である!
ある人は学食に赴き、ある人は持ってきた弁当を食べ、またある人は道端のコンビニで買ったパンを頬張っている。
午後に待ち構えている授業や部活をこなすためには、この休み時間でエネルギー補給をしなければならない!
ここは清澄高校麻雀部、普段は昼休みに誰もいないのだが、今日は事情が違う。
「昼休みだじぇ!」
人一倍元気そうにはしゃいでいるこの少女は片岡優希、清澄高校麻雀部の先鋒を務めた猛者である。
しかし、そんな肩書からは想像がつかないほど子供っぽく、ロリロリしいというのが実情である。
「優希ちゃんは何を作ってきたの?」
こちらの大人しめな少女は宮永咲、清澄高校麻雀部の大将を務め、その活躍っぷりから魔王とも呼ばれている。
しかし、こちらもそんな肩書とは裏腹に控えめな少女であり、普段の言動からはとても闘争心というものは感じ取れない。
「優希のことだし、タコスでも作ってきたんじゃねーの?」
「いえ、ゆーきは恐らくタコライスかと」
そしてこの二人は、皆さまご存知の原村和と須賀京太郎である。
ここに麻雀部の一年生が集結して、一緒に昼食をとろうとしているのだが
「流石のどちゃん!私が作ってきたのはタコライスだじぇ!」
「おいしそう…」
「おおっ、美味しそうだな!よく分かったな和」
「タコライスの方がトルティーヤといった特殊な具材が必要じゃありませんし、作りやすいので」
ただ単に弁当を食べるだけではない。
これは、現実世界で一体どれだけの人間が体験したのか分からないイベントである、
弁当交換会!
二人以上の複数人で予め示し合って手作りのお弁当を持ってきて、その弁当をお互いに食べ合うというものである。
だが、高校生である程度の弁当を作ることができる人間はそう多くはない。それに手間もかかる。そもそも親がキッチンを使ってて弁当を作る暇がない。といった理由により、実際は開催されることが少ない。
しかし、この四人は一味違った!
宮永咲、親が別居中なのもあって、基本的に家のご飯は自分で作っているのである。弁当なんて朝飯前。
片岡優希、一番心配されていた彼女であったが、特定の料理だけは作れることが判明する。
原村和、こちらも親が別居中なのもあるし、そもそも料理は好きな部類に入るので弁当なんて楽勝である。
須賀京太郎、数ヶ月前までは何も作れなかったがタコス作りから料理に目覚める。今では晩飯をたまに作る程度にはなっている。
このように全員が条件を満たしているので、弁当交換会が開催されたのである。
…が、おかしいとは思わないだろうか?
手作り弁当を作ってきて、わざわざ交換するだなんて、そうそう発生するイベントではない。
某野球ゲームでいうなれば、天才型を引いて尚且つとあるマッドサイエンティストが二回現れ成功するぐらいの確率である。
そう、これも…
(ようやくこの時がきました!)
原村和の策略である!
時は三日前に遡る。
――
とある昼休み、暇なので校舎周りを散歩していた原村和、その視界に二人の影が入り込む。
一人は目立つ金髪を揺らす少年、もう一人はぴょこんと立った寝癖が特徴的な少女。
須賀京太郎と宮永咲である。
その二人、一体何をしているのかというと…
(あれは…お弁当?)
昼食を一緒に取っているようだが、彼の膝の上にはお弁当が一つ。
すかさず距離をつめ、二人に話しかける原村和。
「こんにちは、一緒にお昼ですか」
「お、和か」
「和ちゃん!」
極めて自然に話しかけられたことに安心しつつ、さっそく本題に入る。
「で、そのお弁当は…もしかして」
そう、彼が弁当を食べているというのは非常に珍しい。
彼は基本的に学食のご飯か、コンビニで買った諸々の食材のどちらかを摂取しているのだが、この弁当箱で食べているのは原村和の観測史上初めてのことである。
ゆえに、彼女の脳内では二つの仮説が組み立てられた!
一つ目は隣りに居る宮永咲がお弁当を作ってきた。だが、この説は弁当の内容を見るに極めて可能性が薄い。宮永咲自身の弁当と内容が乖離しているからである。
二つ目は――
「ああ、俺が作ってきたんだ」
彼の手作り弁当!
なんとも甘美な響きであろうか、その事実だけでもよだれが垂れそうになるが、内容も素晴らしかった!
ハンバーグ、玉子焼き、ウインナー、ひじき、そして白飯の上に乗っかった佃煮。
彼の弁当は茶色が多く、栄養バランスを鑑みるとあまり良いものとは言えない。しかし、それは彼女の知っている弁当とは大きく異なり、
(私も食べてみたいです!)
そのことが彼女の興味を強く引いた!
大きなハンバーグ…彼女の弁当に参戦したことは一度もない一品。主役だぜと言わんばかりにふんぞり返っている。
玉子焼き…家によってはしょっぱかったり、甘かったりする。彼の家のはどうなのだろうか。
ウインナー…斜めに切れ目の入ったウインナー、焦げ目がいいワンポイントになっている。
ひじき…彼女の弁当にも入っているが、彼のには大豆が混じっている。
そして佃煮…形状から察するに小魚、じゃこの佃煮であろう。艶のある茶色が食欲をそそる。
どれもこれも興味を引き、先ほど昼ご飯を食べたにも関わらずお腹が空いてくる。
だが、おひとつ食べたいとお願いするのも図々しいと思われるかもしれないし、そもそもプライドが許さない。
(須賀君のお弁当…いやでも、ここで頂戴だなんてお願いするのも…)
葛藤、恥を捨てて実を得るか、尊厳を守るか、彼女は必死に思考する!
しかし
「京ちゃん、そのハンバーグと唐揚げ交換しない?」
「いいぜ!」
そんな彼女を尻目に、彼のお弁当からスッとハンバーグを抜き取る宮永咲。
(え、ま、待ってください、咲さん、まさか…)
箸によって捕らえられたハンバーグが宮永咲の口の中へと入っていき、一噛み、二噛みと咀嚼され、喉を通り抜けていく。
「おいしい!熱々のハンバーグもいいけど、冷めたハンバーグも旨みがギュッと凝縮されているみたいで、とっても美味しいよね!」
満面の笑みで頬張り、自分の弁当箱の白ごはんを口に詰め込む。至福のひと時であるのは間違いない。
それに対し、原村和。
(そうですかそうですか、咲さんはそういうことをするんですね)
(失望しました)
(友達だと思っていましたが…もう二度と迷子になっても助けてあげませんから!)
凍てつく波動、その足元から全てが凍り付くのでないかと錯覚するほどの冷徹なオーラ。
そんなオーラを幸福の中にいる宮永咲は感じ取れなかったが…彼は気づいてしまった。
(和!?なんだあの軽蔑しきった目は…!?)
須賀京太郎、恐怖を覚える。
(ま、まさか…)
その原因を探るも、思いつくのは一つ
(俺の弁当…ヤバい?もしかして、豚の餌レベルに思われている?)
自身の弁当をハッと見る。個人的には満足のいく出来であったのだが、原村和の表情を見るにヤバいのかもしれない!という考えに行き着く。
宮永咲は美味しそうに自身の弁当を食べてくれているものの、ときたま変なところもあるので信頼には値しない。
(咲さんなんて知りません!絶交です!)
(何故だ…どこがダメだって言うんだ!?)
――
これが三日前の出来事である。
そしてこれはその次の日、つまり一昨日のことであった。
――
昼休み、そんな自由時間に親友と共に過ごす彼女、その脳内では彼の弁当を手に入れるための最適解を計算している。
(いいアイデアを思いつきました)
(自然な流れで須賀君のお弁当を貰う方法、それは…)
彼女の灰色の頭脳によって導き出された答えこそ
(皆で一緒にお弁当を持ってきて、食べ合えばいいんです!)
弁当交換会である!
もしも、一対一で弁当を交換しようだなんて持ちかけたら、『えっ、そんなに俺の弁当が食べたかったのか?お可愛い奴め』と言われてしまうかもしれない。
しかし、複数人で交換し合う中でもらうことに関しては問題ないのである!
木の葉を隠すなら森の中。どさくさに紛れてしまえば特別な意識なんてされるわけもない。
問題はどうやって弁当交換会を開催するかと云う部分であるが――
「タコスうまー!」
美味しそうにタコスを頬張るこの少女、片岡優希を利用すればなんてことはない。
「そう言えば、ゆーき」
「んぐんぐ…なんだ、のどちゃん?」
「昨日、須賀君が手作りの弁当を持ってきていまして、とても美味しそうでした」
「ほうほう…京太郎の手作り弁当…」
興味を示す片岡優希。
「それで思いついたのですが、今度みんなでお弁当を作ってきて交換し合うってのは面白そうじゃないですか?」
「ナイスアイデアだじぇ!さっそく提案してみるんだじぇ!」
そう言うと、すぐさまスマホを取り出し連絡し始める。
彼女と須賀京太郎は友達的な意味でとても仲良しであり、そんな彼が弁当を作ってきているとなると気になるのは自然の摂理である。
(ゆーきはホントにいい子ですね、私の思い通りに動いてくれます)
計画通りに事が進み、ほくそ笑む原村和。
片岡優希とは中学からの付き合いであり、今では親友と胸を張って言えるほどの仲である。
ゆえに、その思考回路はすでに把握済みであり、彼女がどのような行動をするかは手に取るようにして読めるのだ!
それを利用した今回の策略、いつも突拍子のない彼女が提案すればすんなりと開催に至るであろう。
…決して、原村和が自分で提案するのが恥ずかしいと思っているとか、そういうのではないのである!
――
そして、現在に至る!!
(私も早起きしてお弁当を作りましたし、須賀君もちゃんと持ってきたようです、ノープロブレム!)
この女、前日から仕込みを始め、朝は四時に起床して弁当を作り始めたのである。
彼女の父親もその気合の入りようを不思議に思い、今頃は弁当の中身を確認して驚愕しているであろう。
弁当の内容にも抜かりはなし!彼の弁当を手に入れるだけでなく、自分の料理上手なところをアピールするいい機会でもある!
原村和、お弁当奪還&アピール大作戦、実行開始である!!
次の話に続く
いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
感想も書いていただきありがとうございます!
この話はもっと短くなる予定だったのですが、書いているうちにいつもの倍近くの長さになっていたので、前編後編に分けることにしました。
お弁当っていつもの料理と違って熱々の状態で食べれるわけじゃないから、色々と工夫が大事だよね。