のどか様は告らせたい   作:ファンの人

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前回のあらすじ!

お弁当交換会開催!←原村和の策略!

~~経緯~~
須賀君のお弁当 (おいしい) 咲 (ころすぞ) 和              

和<お弁当を食べたい…!
↓扇動
優希<お弁当交換会やるじぇ!


8 お弁当をいただきたい 後編

上記のように片岡優希を上手く利用することにより、お弁当交換会を開催することに成功!

弁当の内容にも抜かりはなし!彼の弁当を手に入れるだけでなく、自分の料理上手なところをアピールするいい機会でもある!

 

(須賀君は家庭的な女の子が好きみたいですし…うまくいけば――)

 

『おおっ!和の弁当すごい美味しいな!』

『毎日作ってほしいぐらいだぜ!』

『だから和、俺と結婚してくれ』

 

(なーんてことになるかもしれません!!)

 

原村和、最近妄想の激しい恋する乙女である。

だが、そこまでとはいかずとも、高評価を得られるのは間違いなし!

彼の弁当を堪能することもでき、家庭的な女の子アピールすることもできる。まさに一石二鳥!

そのピンク色の頭脳は伊達ではない。

 

「咲の弁当は…なんか弁当っぽくはないな」

 

「昨日のお夕飯の余りだからね」

 

「いかにも家庭的ってな感じだじぇ!」

 

そうこう思案していると、宮永咲の弁当が開示されているではないか。

その内容は、煮物や焼き魚にポテトサラダ、ほうれん草の胡麻和えに白菜の漬物が所狭しと入っている。

いかにもな和風の晩飯をそのまま弁当に詰め込んだかのような内容、これはこれで美味しそうである。

 

(咲さんのも美味しそうですね…でも、まだ許していませんから!)

 

理不尽な怒りを胸に秘め、お次の番は

 

「では、私のお弁当はこんな感じです」

 

原村和である。

この女、平然とした表情でサラッと出しているが、この作品は前日から入念に準備した傑作である。

彼の好みをこれまでのリサーチの結果から推測し、それでいて華やかさを保つために試行錯誤を繰り返した。

その試行回数は極秘であるが、彼女の父の体重がやや増えたのは事実である。

 

「わっ…すごい、和ちゃんすごいよ!」

 

「さっすが私の嫁だじぇ!」

 

彼女のお弁当の中身は、玉子焼き、唐揚げ、人参の胡麻炒め、ブロッコリー、エビフライがキチンと詰め込まれている。

一見、普通の弁当にも見えるものの、この料理一つ一つには様々な工夫がなされているのだ!

彼女の玉子焼きはふんわりと仕上がっており、冷めてもなお、その柔らかさは変化していない。

唐揚げは香辛料をしっかりと使って冷めても味がはっきりするよう工夫してあり、衣も油を吸いすぎない薄いものにしてある。

人参の胡麻炒めは油がややテカってキラキラと輝いており、その味はご飯に間違いなく合うであろう。

ブロッコリーは彩りを考えた結果詰め込んだものである、底にはマヨネーズが敷いてある。

そして、エビフライ!身がプリプリで大きいエビをしっかりと揚げ、衣も厚すぎず薄すぎずの絶妙なところを攻めていった一品。

このエビフライ、これだけではない。別にタルタルソースが用意されているのである!

天江衣であれば両手をあげて狂喜乱舞するであろうお弁当。

 

そんなお弁当は彼の心を

 

「うおぉ…すっげぇうまそうだな!」

 

グッと掴んだ!

それもそのはず、彼の好物である玉子焼き、唐揚げ、エビフライが入っているのである!

これにはテンションアゲアゲでご機嫌な須賀京太郎、今にも箸を伸ばさんとしているではないか。

 

(ふふっ…あんなにはしゃいで、かわいいですね)

 

(ま、須賀君の好物をふんだんに入れてあるので、それも当然と言いますか、必然といいますか)

 

そんな彼のリアクションにご満悦なのは原村和。

こんな風に内心余裕ぶってはいるものの、頬に赤みがささっているのは隠せていない。

そんな彼女は置いといて、次の番は

 

「じゃ、最後は俺のだな!」

 

待望の須賀京太郎のお弁当である。

三日前に見たのはタンパク質豊富なお弁当であったが、今回はどうなのだろうかとワクワクしていると

 

「今回は自信作だ!」

 

「わわっ…すごい!」

 

「おおっ!京太郎のくせにたいそうな弁当だじぇ!」

 

今回のお弁当は、アスパラベーコン、タコさんウインナー、玉子焼き、きんぴらごぼう、プチトマトに主役であろうハンバーグが大きなお弁当箱にぎゅうぎゅうに詰められているではないか。

前回見たのよりも色鮮やかになっており、華やかな見事なお弁当である。ボリュームも申し分ない!

 

(す…すごく美味しそうです)

 

思わず、つばをゴクリと飲み込んでしまう原村和。

しかし、それだけでは終わらない!

 

「これだけじゃないぞ、この水筒にはな…」

 

「も、もしかして」

 

「豚汁だじぇ!」

 

(豚汁!?)

 

豚汁!具だくさんの美味しいみそ汁である!

寒い冬にはぴったりの一品、保温性の高い水筒に入っているので湯気が立つほど熱々のままである。

彼の豚汁には大根、人参、ごぼう、豚肉、こんにゃく、じゃがいもが入っており、一杯飲めば芯から温まり、具だくさんなのでお腹が膨れることは間違いなし!

凍えるような気温が続くこの頃、熱をもった料理というだけでも垂涎ものであるのに、熱々の大根なんて…もうたまらないのである!

 

(何としてでもあの豚汁を手に入れましょう!)

 

原村和、目標は豚汁!

さっそく声を発しようとするものの――

 

「京ちゃん、豚汁ちょーだい!」

 

(咲さん!?)

 

先に発声したのは宮永咲!

彼女の目の前でその豚汁を奪い去る!

 

「そう言うと思ったよ、ほらよ」

 

「ありがとう!まずはお弁当のご飯を…」

 

温かい汁物と冷めたご飯との相性が最高なのは言わずもがなである。

昔からお茶漬けには冷や飯と言われていたように、やや乾燥してカチカチになったご飯にも役割がある。

一口ご飯を口に詰め込み、すかさず豚汁をすするとアラ不思議、カチカチだったご飯がパラパラとほぐれ、豚汁と絶妙にマッチングするのではないか!

 

「ん~最高!」

 

宮永咲、三日ぶりに至福のひと時を味わう。

世間では魔王と恐れられている彼女も飯の前ではご覧の有様。

 

ところで、彼の弁当についておかしいと思わなかっただろうか?

おかずが弁当いっぱいに詰め込まれてあり、その一つ一つは見た目が良くなるように工夫がこされてある。特にタコさんウインナーなんて代表格である。三日前は切れ目が入っていただけだったが、今回はご丁寧にタコさんがひょっこり佇んでいる。

それに豚汁、お弁当だけでも十分なボリュームであるのにも関わらず、さらに一品重ねる行為。

明らかに三日前とは気合の入りようが違う。

これは弁当交換会に向けて頑張ってみたのだろうか?

 

否、それだけではない

 

(どうだ和)

 

(今回の弁当は文句のつけようもないだろ!)

 

この男、三日前のことを根に持っている!

自分の自信作をまるで豚の餌を見つめるかのような視線を送った原村和

――実際にはその視線を宮永咲に向けていたのだが――

そんな彼女に一矢報いようとしているのである!

 

(確かにこの前のお弁当は、彩り、栄養バランスを考えると酷い出来だったかもしれない)

 

(でも、今回の弁当は見た目も重視し、野菜も十分に入れ、さらには豚汁を用意する鉄壁の布陣!)

 

(彩り良し!栄養良し!これなら和も認めるはず…)

 

前回の茶一色の弁当から工夫を凝らし、アスパラやプチトマトを入れることによって色彩を整え、豚汁に野菜をたっぷり詰め込むことによって栄養バランスを取ることに成功!

文句など誰がつけられるだろうか、そんな完成度の高い弁当である。

 

しかし!

 

(ば、馬鹿な、これでもまだ足りないっていうのか!?)

 

凍えるような視線、目から冷凍ビームが出そうなほどである。

心なしか部屋の温度が1、2℃下がったかのような錯覚をしてしまう。

 

(…人の形をした醜い魔物、須賀君にいつも付きまとっている寄生虫、麻雀にポイントを全て振った能無し)

 

(咲さん)

 

(私はあなたを絶対に)

 

(赦さない……!)

 

実際は彼の弁当ではなく、幸せそうに豚汁をすする宮永咲に冷凍ビームを放っているのだが、彼はそんなことには気づかない!

 

(和が暗殺者のような眼をしている!!?一体何が…)

 

(咲さんなんて…絶交です!)

 

(豚汁…さいこうだよぉ…!)

 

(唐揚げおいしいじぇ、さっすがのどちゃん!)

 

何が不満なのか思案し始める須賀京太郎!

大事な友人を呪い始める原村和!

幸せそうにご飯を頬張る宮永咲!

いつの間にか唐揚げを強奪している片岡優希!

 

(まさか、塩分過多なのか!?それも評価基準なのか!?)

 

明後日の方向へと思考が飛び立つ須賀京太郎、彼は調理師免許でも取るつもりなのだろうか?

このまま膠着状態が続く、誰も彼も動けない、静寂が辺りを包み込む。

 

(このままでは…須賀君のお弁当が…)

 

そんな静寂を破ったのは――

 

「タコさんウインナー欲しいじぇ!」

 

「優希は好きだっただろ?タコライスと交換してくれよ」

 

「うむ、よきにはからえ!」

 

片岡優希である。

 

(ゆーき!?まさかあなたも…)

 

この子、『タコ』とつく食べ物には目がなく、彼の弁当のタコさんウインナーに目をつける。

そんな親友もバーサーカーと化した原村和からすると呪うべき敵であり…

 

(ゆーきは信じていたのに…そうですか、ゆーきも咲さんと同類なんですね)

 

こうなるのは必然である!

だがしかし、彼女は一味違った!!

 

「ほら、のどちゃんも京太郎の弁当食べるんだじぇ」

 

「え、えぇ!?」

 

「このハンバーグとか美味しそうだじぇ!あーん♪」

 

タコさんウインナーを口に入れた箸をスッと返して、彼の弁当箱からハンバーグを強奪し、原村和に箸を向ける。

これは、彼の弁当を自然に食べることが出来る好機!

 

(ゆーき…!)

 

(そうです、ゆーきはいつも私を支えてくれて、助けてくれて)

 

(そして今も、こうして私のことを思って、箸を向けてくれています)

 

(そんなゆーきを、あの悪逆非道な咲さんと一緒にするだなんて…どうかしていました)

 

感謝…!圧倒的感謝…!

目の前の親友に最大限の感謝を込めてお祈りし、そして口を開けて、その大きなハンバーグを一口で頬張る。

噛んだ瞬間溢れる旨味、歯を程よく押し返すほどの弾力、ピリッと効いている胡椒。まさしく望んでいた一品である!

口いっぱいに溢れるハンバーグ、頬は大きく膨れており、普段の彼女なら恥ずかしいと思うが、今はそんなことは気にしない。

須賀京太郎、そんな彼女の反応を見て…

 

(優希!そこを代われ!)

 

――須賀京太郎、悟りかけているとはいえ、健全な男子高校生である。

出来る事なら、『あーん』とかもしてみたいのだが、そんな度胸は彼にはない。

場の雰囲気が一気に和やかになり始める、すると

 

「和ちゃん、京ちゃんの豚汁いる?」

 

宮永咲が豚汁の入った水筒を差し出しているではないか!

これには呪い殺さんとばかりに恨んでいた原村和も

 

(咲さん…!)

 

(見直しました…!悪逆非道は撤回します!)

 

多少は発言を撤回する、他は撤回しないようである。

彼女から豚汁を受け取り、熱々の大根を口に入れると…十分に煮込んであるからであろう、口の中でスッと溶け、豚肉の旨みが詰まったスープが染み出てくるではないか!

すぐさま他の具材も沢山頬張り、汁をすすり、あっという間に一杯を食べきってしまう。

この食べっぷりには須賀京太郎も思わず

 

「どうだ、気に入ったか?」

 

ニコニコしながら問いかける。

しかし相手は原村和!無駄にプライドが高く、素直にものを言えない女の子。

彼女の返答は…

 

「はい!とっても美味しいです!」

 

…古来より食事をしながらお話しをするという手法はよく使われている。

ご飯を一緒に食べることでリラックスでき、安心して対話できるのである。

この少女、原村和も変にマウントを取ろうとせずに、純然たる笑顔を咲かせつつ、そう答える。

 

「なら良かった!じゃ、和の弁当も食べてみていいか?」

 

「ええいいですよ!好きなだけ食べてください!」

 

「じゃあ、まずはエビフライを…」

 

「エビフライを食べるのでしたら、このタルタルソースを使ってください」

 

「おおっ!?タルタルソースもついているのか!どれどれ…うめぇ!めちゃくちゃ美味しい!」

 

「ふふっ…そう言ってくれると嬉しいです」

 

「京太郎!この唐揚げも絶品だじぇ!」

 

「お、どれどれ…!うまい!冷めてるのに味がしっかりしてる!」

 

「味付けを工夫しまして、香辛料を効かせてみました」

 

「優希ちゃんのタコライスもおいひぃよ!」

 

和気藹々と昼休みは過ぎていく、静かな旧校舎に響き渡る話し声、楽しげな雰囲気は寒い冬に熱を与えてくれる。

原村和、須賀京太郎、この二人の仲も少しは温まったであろう。

 

春はまだ先である。

 

【本日の勝敗】

両者勝利

理由:どちらも目標達成したため

 




いつもお気に入り登録等ありがとうございます。
感想も書いていただきありがとうございます!
思ったことをなんでも書いていただけると、とても励みになります!

個人的には弁当の唐揚げは衣が薄めのカリカリした感じのやつが好きです。
豚汁作るときにゴボウを入れるけど、ゴボウ余るし使い道少ないから、きんぴらごぼうも作るのは自分だけじゃないはず…

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