コードギアス 血刃のエルフォード   作:STASIS

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第十二幕 The Vilebloods

 日付が変わるよりも早く、レオはベルベットと共に馬を駆り、所定の場所に着いていた。エルフォード邸からもほど近い、建国期の古城エーベルスタインを囲むように築かれた小さな街。かつて幼き日のレオやベルベットも幾度か訪れたその街は、昔と変わらぬままちょっとした田舎町として程々に栄えている。あの頃と同じように街を囲む城壁──もはや防衛機構としては機能しておらず、ただの景観でしかない──の上に立ち、レオは隣に立つベルベットに視線を向けた。

 

「……また、懐かしい場所に来る羽目になったものだ」

 

「そうね。お墓参りでもしておく?」

 

 そう問うたベルベットに、レオは鋭い視線を返した。

 エーベルスタイン城という城は、実はエルフォード家とも関係の深い場所である。この城は建国期の英雄ヴァルター・フォン・エーベルスタインの、そして彼の死後領主の座を引き継いだナイトハルト・フォン・エルフォードの居城であり、以後も代々のエルフォード家の居城であった。一族が現在の邸宅に移り住んだのは現当主ローガンの時代になってからだが、一族の墓などは今も変わらずこの地にある。

 ……当然、フィオレの墓もここにある。

 

「それで、貴女の追う相手は確かにこの街に?」

 

「ええ。見失ったのもちょうどこの場所。あれから一日と経っていないけれど、彼にこの街から何処かへ行く当てがあるとも思えないわ」

 

 ベルベットの仕事とは、とある男を追って捕らえるという至極シンプルなものだった。血の繋がりが無いとはいえ家族。誰よりも義父からの信頼が厚いであろうベルベットが直接動かねばならぬ程の、しかもそうして派遣されて来た彼女がむざむざ逃走を許す程の相手なのだ。ベルベットとて素人ではない。単純に見えるこの仕事には、余程複雑な事情が絡んでいると見える。

 

「市民がその男の味方となる可能性は? それこそ、その男を匿うような?」

 

 そう問い掛けながら、レオは何時ものフードを目深に被る。

 

「いいえ、あの男はすでに領内で指名手配済みの男よ。そんなに広い街では無いから住民も一通り洗えたけれど、指名手配犯を匿うような不届き者は居ないはず。田舎町だから、よそ者が入ればすぐに気付かれるでしょうし」

 

「と、なるとその男は単独でここから逃げ延びる他ない。狙うとすれば一通りのない夜中。それまで街のどこかで潜伏していた……と言ったところか?」

 

 と、そこまで言った所でレオの視界の端に動くものがあった。城壁に身体を隠して様子を窺うと、寝静まった民家の植木から人影がのそのそと這い出て来るところだった。

 黒いフード付きの外套で顔を隠した男だ。ギアスを発動して確かめると色は赤。恐らくはあれが探している相手だ。

 

「……あれだな。随分とあっさり見つかるものだ」

 

「ええ。見つけるまでは簡単な相手よ。そこからが大変なんだけれど、ね……」

 

 ベルベットの含みのある言葉に、レオは眉を潜めた。そうこうしているうちに、人影は慎重に通りへと歩き出す。

 

「なんというか、かなり気配に敏感よ。その上逃げ上手、こちらの偽装も鋭く見抜かれる。必ず背後から一撃で昏倒させる事。やむを得なければ殺害も許可されているわ」

 

「了解。では私はこのまま尾行に。姉上は……」

 

「悪いけれど、今回は貴方にお願いするわ。スパイみたいな活動も苦手ではないけれど、彼には私の技術は通用しないみたい」

 

「……では、終わり次第連絡する」

 

 まるで鳥の如く、レオは月明かりの中へと身を躍らせた。

 現在この街にはベルベットの手回しにより凶悪なテロリストが街に逃げ込んだ疑いがある、として夜間の外出禁止令が発令されていた。先月に付近の街で爆破騒ぎが起きた直後というだけあって、これには一応の説得力はあった。故に、今この時間に外を彷徨く一般市民は存在しない。だからレオがここで出会うとすれば、それは現地の警官か、ターゲットの男に他ならない。

 古びた城壁の出っ張りや柱を経由して、なるべく音を立てず民家の屋根の上に降り立つ。そのごく僅かな音さえも聞きつけたか、尾行対象の人影は即座に物陰に引っ込んでしまう。暫く観察していたが、人影は一向にそこから姿を見せない。

 

“そこにはもういません。右前方をご覧下さい”

 

 不意に女の声が脳裏に聞こえて、レオは電流に打たれたかのようにそちらへ視線を向けた。果たして、今まさに通りを横切って柱の影に隠れたあの人影がそこに居た。してやられた、と気付き、レオは気配を消したまま屋根を伝って人影を追いかけた。

 敵ながら見事な技術の持ち主だった。専門の訓練を積んだ工作員でさえ、こうも見事に追跡者を欺ける者は少ない。あの人影の正体は、恐らくはロンゴミニアドかエルフォード邸か、どちらかに侵入した工作員、或いは暗殺者の類なのだろう。それこそ、ヴァルクグラムとジョナサンを殺されたかの“フランシスとアマネウス”が報復として送り込んで来たか。

 ……いずれにせよ、捕らえてみれば全て分かる。紅く揺らめく視線で、レオは人影を視界に捉えつつ闇の中を駆けた。

 

 やがて二人は街の東端からメインストリートを避けて迷路のような旧市街をジグザグに進みつつ、ようやく中央広場手前の公園に差し掛かっていた。いよいよ古城までは目前、と言ったところにまで来ていたレオの聴覚が、遠くを走る自動車の走行音を捉えた。

 恐らくは、今追いかけている人影の進む先から聞こえて来る。彼から大分遅れて公園を横切り、大通りを渡ろうとしていた人影の方もそれに気付き、今来た道を駆け戻って公園に植えられた大樹の影へと身を潜めた。

 巡回の警察も軍も、レオ達の事情など知る由も無い。標的の男と同様、レオもまた彼らに見つかってはならない立場にある。屋根上から歩道橋に降りたレオは、そのまま影に身を潜めて様子を伺った。

 音の主は、大型の警察車輌だった。人影にとっては運の悪い事に、その車輌は彼が公園に逃げ込むよりも早く通りに入って来ていた。見事に姿を見られていたようで、車輌は彼が消えた公園の前で停車し、乗っていた四、いや五人の警官たちが降りて来る。

 

「そこに居るのは分かっている! 大人しく出て来い!」

 

 公園の闇の中へと銃を向けた警官の声に反応して、闇の中で動くものがあった。別の警官が手早く車載のライトで照らすと、闇に紛れて移動しようと試みた男の姿が煌々と照らし出された。それでもなお逃げようとする男に、警官は銃を向けて「止まれ」と叫ぶ。

 ……先程ああも見事にレオから逃れた割に、今度はこんなにも杜撰な逃げ方をして失敗する。技術力には相当にムラがあるようだ。その素性がいよいよ分からなくなったところで、男は観念したように姿勢を正した。

 

 さて、どうしたものか。呆気ない終わりに、レオは頭の中でベルベットの言葉を反芻した。任務内容はあの男を捕らえる事。しかし、別に現地の警官から掠め取ってでも此方の手中に収めろ、とは言われていない。こういう場合は敵の素性次第で判断は変わって来るのだが、生憎とレオはその情報を持っていない。

 ……とりあえず、この場で自分の出番は無いだろう。義姉上は警官に出し抜かれて恥を掻く羽目になったな、などと思い、レオはその場を離れようとした。だが、現場に背を向けたその瞬間、突如として公園の闇の中に銃声が鳴り響いた。

 

「!?」

 

 何事だ、と公園に再び視線を向けたレオは、そこであり得ぬ光景を見た。先程まであの男を追い詰めていた警官が、今度は味方の警官目掛けてその手の拳銃を乱射していたのだ。しかも、それを見た他の警官もあの男そっちのけで銃撃戦に興じている。彼らの流れ弾に当たらぬよう身を低くして、レオは歩道橋を転げ落ちるように地上へ降りた。

 味方が味方へ銃を乱射する異常事態は、流石にレオも見過ごせ無い。レオは闇に紛れて柵を飛び越え、公園に駆け込むや否や手近な警官の一人に飛び掛かって、その手から銃を弾き飛ばした。

 

「落ち着け、あれは味方だ! 何を考えている!?」

 

 だが、間近で目の当たりにした警官の顔は明らかに異常だった。目を剥いているとか、異常な表情を浮かべているとかではない。()()()()()なのだ。如何にも真剣に職務に取り組む人間の顔だった。警官は何の躊躇いも無く、まるでいつも通り犯人と対峙しているかのようにレオの身体を押し退けた。

 

「大人しく──」

 

 そう言ってベルトから警棒を抜こうとした彼は、次の瞬間背後から頭蓋を撃ち抜かれた。力なく地面に倒れ伏し、破壊された顔面からぐちゃぐちゃになった()()が溢れ出る。彼を撃った警官もやはり異常行動を見せており、抵抗すれば射殺する、などと口走りながら味方の警官へと銃を乱射している。

 ギアスで確かめると、彼らの存在は最早赤色に染まっていた。別段レオ個人に対する敵意は見出せなさそうではあるが、何があったかああも錯乱したかのように銃を乱射されては障害と看做す他ないだろう。突然の事態を飲み込みきれていないながらも、レオはその赤の群れの中から抜け出し、本来追うべき相手の姿を闇の中に探った。

 求める姿は、公園の奥の木々の合間にあった。走り去ろうとするその姿を追って、レオも闇の中を全力で疾走した。時折背後を気にして速度が落ちる男に追いつくのは簡単なことで、間もなくレオは低めの枝から木の上へと駆け上がり、更にそこから空中へと躍り出て、男に背後から飛び掛かった。

 

「ぐぁぁ!!」

 

 うつ伏せに倒れた男の背中に伸し掛かり、横向きに伏した男の眼前に拳を打ち込み、見せつけるように仕込み短剣を起動する。

 

「貴様、何をした!?」

 

 まずその問いが口から飛び出た。状況からして、あの警官たちの狂乱にこの男が関わっている可能性は高い。

 

「その、声……お前は……」

 

「答えろ、あれは何が起こったんだ、貴様がやったのか!?」

 

 だが、男は問いに答えない。逆に何かを理解したような表情を浮かべ、レオへと顔を向けようとする。

 

「なるほど、お前がそうか……哀れな人形めが……」

 

 決して正対するな、というベルベットの指示が脳裏を過り、咄嗟にレオはその顔を押さえ付けた。だがそのせいで姿勢が僅かに崩れ、その隙を突いて男は腰から短剣を抜いてレオの脇腹を刺そうとした。刃こそは飛び退いて躱したものの、それで男の拘束は解けた。

 

「だが、私はこんな所で死ねん、貴様も狂え! 彼奴らのように!!」

 

 そして、男の視線がレオに向けられる。その瞬間、レオの意識は赤色に染まり────

 

 

 

 

“させるか!!”

 

 不意に脳裏に叫びが轟き、視界は突然クリアになった。目の前には、何やら()()()()()、勝ち誇ったような表情を浮かべる男の姿。そして、まるで彼からレオを庇うかのようにして屹立し、男を睨む霊体の女の存在感。レオも……いや、双方共に事態を飲み込めぬまま、一瞬の沈黙が場を包み込んだ。

 

「何!?」

 

 一瞬後、男が驚愕の声を上げる。同時にレオも状況を──その男の()()()()の意味を理解し、レオは男と眼を合わせぬよう素早く身を屈めた。続いてその姿勢から下半身をバネのように使って男に飛び掛かる。ガードどころかその攻撃に反応することすら許されず、瞬時に放たれたレオのタックルが男の鳩尾に叩き込まれた。倒れ込んだ男に今度こそ仕込み短剣を突き付けるが、男は急所に攻撃を受けた直後であるにも関わらず、コートのポケットから短剣を抜き放ってレオの短剣の軌道を逸らした。

 地面を転がってレオから距離を取った男は、そのままレオにその短剣を放り投げ、公園の奥へと走り去って行った。飛んで来た短剣を間一髪で回避すると、レオは仕込み短剣を収納し、男を追って走り出した。

 

“主よ、あの男……”

 

「ああ、分かっている」

 

 既にレオには、あの警官達に何が起きていたのかを理解していた。そしてベルベットの警告の意味も、あの男の、“紅く輝く眼”の意味も。

 

 あの男もまたレオと同じ、ギアスを使う人間なのだ。

 

(奴のギアス、お前が無力化したのか?)

 

 暗闇を駆け抜けながら、レオは女に問いかけた。恐らく、先程男の目が光ったあの一瞬に彼はギアスを発動したのだ。警官と同じように、レオを狂わせて逃げようとしたのだろう。そしてそれを……

 

“ああ。あれはお前のギアスと違い、直接相手を「視る」ことで効力を発揮する。そして、私にギアスは効かない。だから、私の身体で壁を作った。”

 

(というと、あのギアスの力はお前のような曖昧な存在に阻まれただけでも効力を失う訳だな?)

 

“逆に、私のような物理世界の法則から外れた存在だからこそあの力を阻めた、と言ったところだ”

 

 彼のギアスから逃れられた理由が分かったところで、レオは足を止めた。既に公園は抜けており、目の前には月明かりに照らされた古城エーベルスタインがその威容を誇るように聳え立っていた。そして、あの男の痕跡もまたその城の中へと吸い込まれている。

 エーベルスタイン城はその役目を解かれた現在、城内の礼拝堂や闘技広場など一部の施設だけが一般に公開されている状態で、本来城そのものは閉鎖されている筈であった。だが今、閉鎖されている正面大扉は錠前が破壊されており、大扉も僅か開き、隙間が出来ている。奇襲を警戒しつつ、レオは大扉を引き、素早く城内へとその身を滑り込ませた。

 

 扉を抜けた先にある大ホールは、最後にここを訪れた時のレオの記憶……フィオレの葬儀の時に訪れた当時の記憶のままだった。城の主が消えて久しいにも関わらず手入れはされているのか、無人の城内に黴臭さの類いは感じられない。そして一方で、大勢の暮らした生活の痕跡もまた感じられない。完全に人の体温を忘れ去った冷え切った空気。その空気を掻き乱し城内へと入り込んだ闖入者の痕跡を感じ、レオは外套を払って腰に佩いた刀剣の柄を露出させ、いつでも抜刀出来るようそこに手を添えながらホールを進む。

 

(……奴が居たら教えろ)

 

 先程以来、ギアスを警戒してずっとレオの正面に立ち続けている女の背中に無言で告げた。が、女は何処か心ここにあらず、といった様子で、暫くしてもう一度同じ事を告げると女はようやく我に返った。

 ……彼女を壁とすれば敵のギアスを阻む事は出来る。が、彼女は別にレオの一部でもなんでも無く、仮に接近戦に至ったとすれば彼女には対応出来ない事態も出て来るだろう。

 それともう一つ。眼前を塞がれる都合上、レオもまたギアスを封じられる形となる。ギアスを使うことであの女の存在をより明確に感知できるのだから、この状態でギアスを発動しても視界の大部分はあの女に塞がれてしまう。

 何か手を考えなければならない。意識の隅で思案しつつ暗いホールを抜けて廊下に差し掛かったレオの足が、闇の中で唐突に柔らかい何かを踏んだ。

 

「……」

 

 確認すると、それはあの男が着ていた外套だった。罠を警戒しつつ触れてみると、微かにまだ暖かい。古びた物ではあったが損傷は無く、また血の痕跡は無い。怪我を負って無理な走り方をして脱げた、という訳では無さそうだった。

 つまり、故意に脱ぎ捨てたのだ。だが、何のために?

 レオにとって……つまり追跡者側にとって、この外套は情報源だ。落ちていた向きから逃走した方向を割り出せる可能性があり、また損傷具合で標的の状態も知れる。逃走者側としても、これを逆に使って追跡者を故意に誘導する事が出来る。

 ──その時、不意に閃く物があった。今、レオとあの男はそれぞれ追跡者と逃走者の関係性に置かれているが、同時にこの城の中へと逃げ込んだ事で、逃走者は一点、レオに対してアドバンテージが取れるようになった。

 即ち、暗い城内の地形を利用した待ち伏せ。この廊下は決して狭くは無いが、レオの進む方向が一筋に絞られる。加えて柱等が埋め込まれた壁面は凹凸が激しく、また調度品も数多い。隠れ場所には困らない。

 

「ッ!!」

 

 即座に、外套を放り捨てて調度品の影に飛び込む。ほぼ同時に、闇の中に立て続けに閃光が閃いた。暗闇の中から放たれた無数の銃弾が、ほんの一瞬前にレオの居た空間を切り裂く。海洋生物のように宙を舞う外套が銃弾の雨に打たれて激しく悶え、正真正銘のボロ切れとなって力なく床に落ちる。

 

「外した!?」

 

 そう声を上げたのは、間違い無くあの男だった。手にした銃は、恐らく警官の死体から奪ったのだろう。彼が怯んでいる隙に距離を詰めようと、レオは今いる調度品の影からより彼に近い柱の影へと跳んだ。が、男は反撃するでもなく、弾切れになった銃を投げ捨てて、足音を響かせながら廊下の奥へと逃げ去った。それを追うべく廊下に飛び出したレオだったが、壁面に控えている一対の騎士甲冑を視界に捉えるとすぐに立ち止まった。

 この甲冑。通路左の側はブリタニアが未だ欧州に在った頃の時代のもの、右の側はブリタニア大陸に移ってからの物だ。鎧、武器含めどちらも実際に使用された物であり、どちらの甲冑にも単純な手入れだけでは誤魔化し切れない傷跡が見受けられた。

 甲冑はどちらも剣を構えた姿勢で固定されている。その片方の手から、剣だけが不自然に消えていた。

 

「──成る程、心置きなく斬れる、というわけか」

 

 間違い無く、彼が持ち去ったのだ。これで標的は銃に代わり新たに剣を手にした事になる。一方でレオは仕込み短剣も、愛用の刀剣も装備している。仕込み短剣は実質的な奇襲用の武装であり、既に一度使用しその存在が敵に知られている以上アドバンテージたり得ない。そして互いにギアスは使えない。だから、条件はほぼ同じだ。

 

 暗い廊下を、レオは駆け抜けた。過去に足繁く通った城内の構造は、案外今でも頭に残っている──あの廊下でフィオレと駆けっこをして義母の雷を喰らった、この階段をフィオレが転げ落ちて泣き止ませるのに苦労した、等々。だから、文字通り闇雲に逃げ惑うあの男よりも、レオの方が移動速度は速い筈だった。だが、いくら走ってもあの男に追い付ける気配が無い。彼我の単純な移動速度がほぼ変わらないのだ。この薄暗い中で、向こうは恐らく初めて踏み込む場所の筈なのに。

 ならば、手を変えよう。単純な“追いかけっこ”で片が付かないと悟ると、レオは進路を変えてあの男とは別の方向へと走った。城内の構造はレオの方が良く知っている。何枚か扉を抜けると、レオは最初のホールの上層階に出た。吹き抜け構造になっているホールの外周を囲むように通路が巡っていて、手摺りの向こうに大きな円盤状のシャンデリアが頑丈な鎖でぶら下がっている。レオは手摺りを乗り越えると、そのシャンデリアの上に飛び乗った。そしてそのまま次のシャンデリアへ飛び乗り、勢いに乗ったまま反対側の通路へ飛び移った。

 先程までレオが居た通路は、隣に建っている礼拝堂へと続く渡り廊下を除き、完全にこのホール外周を囲む形になっている。今、レオはこのホールを渡って反対側に辿り着いた。だから、ここからならあの男の頭を抑えられる。

 

 扉を蹴破って廊下に出たレオは、ほぼ想定通りのタイミングであの男と鉢合わせた。男はレオが彼の姿を視界に捉え刀剣の柄に手を掛けるや否や、即座に振り返って今来た道を駆け戻る。だが、双方の距離は先程よりも相当縮まっていた。

 そして、そこから男の逃げ込んだ先は礼拝堂の上層回廊だった。こちらも先のホール上層の通路に似た構造だが、礼拝堂の半分までしか通路が続いていない。それを理解し、逃げ場は無いと悟って足を止めてしまった事が、男にとっての不運だった。振り返った男が次の瞬間見たものは、一筋の斬撃の煌めき。レオは素早く抜刀して、男の両眼を一文字に斬った。

 

 ギアスが“視る”ことで発動するのならば、“視えなく”すれば良い。視覚を奪えれば、その後の戦闘は圧倒的に有利となる筈だ。

 ……目を斬る、という行為に既視感を覚える。顔を顰め、レオは即座に男へ蹴りを放つ。激痛に苦悶する男は、しかし放たれたレオの蹴りを見事に躱して見せた。そして視界が全く無いであろう状態から、手にした剣の鋒を正確にレオに向けて来た。

 

「ギアスを封じた、か……だがこれで勝てたとは思うな!」

 

 一撃、二撃、と鋭い刺突が放たれた。目が見えていないとは思えない程に正確な一撃だ。それを防ぎながら、レオはある一つの可能性に思い至る。

 

「貴様……元々目など見えて居なかったのか……」

 

 男は無言で肯定した。それで、今まで見てきたこの男の奇妙な点にも合点が行く。何らかの理由で視力を失ったこの男は、代わりに残る感覚が鋭く発達しているのだ。故に音や気配には敏感でも、例えば自分が光に照らされている事には気付けない。

 

「ああ、貴様らのお陰でな!」

 

 含みを込めた言葉と共に、更なる斬撃が飛んで来た。基本的にブリタニア式の剣というのは他国の剣に比べてサイズと重量で勝る物であり、それをブリタニア人固有の身体力でもって時に片手で軽々と振るうのがブリタニア式剣術だ。これに対し、レオの刀剣は軽く、また細い。直接斬撃を受け止めたが最後、レオの刀剣は呆気なくへし折れてしまうだろう。故にレオは器用に男の斬撃を弾いて受け流し続けていたが、それもいつまで保つかは分からない。斬り返そうにも通路は狭く、上手く刃を振るえそうにない。だからレオは、ただひたすらに防御に徹して機を待つことにした。

 

「私は貴様らを……許さない!」

 

「何の、事だ!」

 

 的確に相手の攻撃を捌きながら、レオは相手の叫びに答えた。相手が言葉で何かを叫んで来るのなら、それを利用してこの状況を崩せるかも知れない。

 

「私をこんな身体にし、ギアスの探求の為に多くの仲間達を無為に殺して来た──」

 

 激情と共に男が大きく剣を振り上げる。計算通りだ。その隙にレオは後ろへ跳びつつ刀剣を引き、刺突の体勢を取る。このまま敵の攻撃をやり過ごして即座に突けば、敵の刃を抜けて致命傷を与えられる。そう確信しての行動だった。

 

「──貴様らエルフォードの一族を!!」

 

「何!?」

 

 だが、次に放たれた男の言葉にレオは一瞬戦いを忘れ反応してしまった。結果、後退しきれずに次の一撃をレオは躱し損ね、弾き返すこともままならずレオの手から刀剣が弾け飛んだ。唯一の武器が下層の闇の中へと消え、男が更なる一撃を放つ。後退して避ける事が出来なかったレオは、咄嗟に仕込み短剣を起動してその刃を受け止めた。

 だが、あの刀剣で受け止めきれない攻撃を仕込み短剣で受け止め切れる道理は無い。仕込み短剣は音を立ててへし折れて、レオは背中から床に倒れ込む。

 これで終わりだ、とばかりに男は剣を振り下ろした。万事休す、となったその時、レオは視界の隅に折れた短剣の切っ先を捉えた。床を転がって攻撃を躱し、短剣の残骸を掴む。掴んだ手が生温い液体で濡れるのも構わず、レオは男の首筋へとその刃を投げ付けた。投げられた刃は今度こそ役目を果たし、男の首筋へと吸い込まれて行った。

 

 ひゅう、と空気の抜けるような音を立てて、男は剣を取り落とした。力なく倒れた男の身体が、手すりを越えて下層へと落ちてゆく。レオはよろよろと立ち上がると、彼を追って下層へと降りた。降りた先で刀剣を回収し、血塗れの床に倒れ伏している男のそばに膝をつく。

 

「さっきのはどういう意味だ、貴様と、いいやギアスと我が一族に、どういう関わりがある!?」

 

 まだ息があると見るや、レオはその襟首を掴んで問い詰めた。が、男は無言で……いや、僅かに笑みを漏らした。

 

「答えろ、目どころか耳も聞こえない、などとは言わせないぞ」

 

「お前、何も知らないのか? あの男に一番近い場所に居ながら、あの男の本性を知らない、と?」

 

「どういう意味だ」

 

 男が咳き込み、血を吐いた。残された時間は少ない。レオは更に語気を強めた。

 

「今すぐ答えろ!!」

 

「……昔からそうだ。この国には昔から、ギアスを研究しギアス使いを生み出す研究機関がある。奴はそれに長年出資し……いや、積極的に協力している。それが、お前の──」

 

 不意にレオの頭上でプシュッ、という音が響いた。同時に男の言葉は途切れ、忘我の表情を浮かべた男の頭が床に落ちた。レオは男から目を離して上層回廊を見上げた。いつの間にかそこに立っていた外套の人影が、開いた窓から外の夜空へと消えて行く。

 レオは死んだ男に顔を戻し、彼の前髪を除けて額を露わにした。そこには小さな穴が空いていた。

 

 肝心なところを聞きそびれたが、一族に対する疑惑は残ったままだ。レオは男の目を閉じてやり、短剣の刃を抜き取ってから、足早に礼拝堂を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィオレの復讐を誓ってから、一つだけ、どうしても出来なくなった事がある。それは、この手でフィオレの墓石に触れる事だ。

 

 城内での戦いから一日。ベルベットはあの夜の内にエルフォードの邸宅に戻っていたが、レオはまだその街に残っていた。ベルベットが冗談めかして言ったように、フィオレの墓に顔を出す為だ。

 エーベルスタイン城と公園の封鎖は既に解け、もうどこにもあの男や警官の死体も、戦いの痕跡も残っていなかった。街の人々はそんな事があった事さえも知らず、今日もいつもと変わらぬ日常を過ごし、のんびりと散歩し、談笑したりしている。この辺りには義姉の手際の良さを感じ、素直に感服する他ない。

 

 そんな市民たちが立ち入れぬ城の奥地に、エルフォードの墓地はあった。重く冷たい大扉を抜けて敷地に入ると、のどかな田舎の空気を一変させる、無感情で、無表情なモノリスが立ち並ぶ光景が目前に広がる。

 これが、建国期より続くエルフォード一族代々の墓所なのだ。かつて、故国を追われた女王を守って新大陸へと渡り、その生涯を守り抜いた果てに“皇帝になれ”と言い残された初代ブリタニア皇帝リカルド・ヴァン・ブリタニアのように、主君ヴァルター・フォン・エーベルスタインの遺志を継いだナイトハルト・エルフォードから続く歴代の墓。いずれのモノリスにも錚々たる名前が刻み込まれている。だが、その伝統ある血族の下流に立ってはいても直接の血縁では無いレオにとって、価値ある名前はこの中に一人しか存在しない。

 

 レオは敷地の中央へと進み、最も目立つ形で設けられたナイトハルトの墓所に一礼すると、すぐに全く別の方向へと進んだ。目立つ場所にあるエルフォード達のモノリスには目もくれず、敷地の端も端、最早敷地を囲む森に飲み込まれそうになっているモノリスの前で立ち止まった。

 それが、フィオレが決して幸多くは無かった生涯の果てに、最後に辿り着いた場所だ。訪れる者も少ないはずのそこに、先客が一人居た。

 

「エリナ……?」

 

「あ……レオ……」

 

 エリア11へ発って以来通信モニター越しにしか見ていなかった、紫色の髪の少女がそこに居た。あれからそう大した時は経っていないのに、既に彼女には皇族としての気品と風格の一端を持ち始めたように見える。

 

「──ご無沙汰しております。殿下」

 

「いえ、今は気にしないで下さい。ここでは私は、ただのエリナで居たいのです」

 

 跪こうとしたレオを、エリナは手を上げて止めた。

 

「……彼女の友達だった、一人の人間として」

 

 寂しげに、彼女はフィオレの墓を見遣る。共通の大切な人を失った者同士、並び立って彼女の墓跡に祈りを捧げる。勿論、フィオレはすでに死者。この世の先にある世界の住人だ。生者は死者を祀り、敬意を表し祈る。死者にとっては今更そんなものは必要無いのかもしれない。だが、生者にとってそれは重要な意味を持つ行為だ。

 死者を敬す行為は、実質死者を遠ざける為の儀式でもある。喪われた死者という幻肢痛を脳が勝手に知覚しないように。そしてそれでも、死者が生者としてこの世に存在していたことを忘れない為に。

 エリナもレオも、フィオレを決して忘れない。そしてレオは、忘れないからこそ、今も闇の中で戦い続ける。

 

 明日には、再びエリア11へと戻る事となる。だからレオは、最後にここに訪れねばならなかった。一族に、友に疑惑が生まれ、戦う意義に迷いが生じてしまっている。だからここで、今一度決意しなければならなかった。もうレオは、この戦いを止める訳には行かない。止めてしまえば、彼女はこの世で受けた苦しみを肯定する事になる。生者であるレオにとって、それはあってはならない事だ。

 

「……それじゃあ、また会いましょう、フィオレ。それまで、どうか安らかに」

 

 フィオレの墓石に触れて、エリナはそう優しく言った。彼女は墓石から離れてレオに場所を譲ったが、レオはそのまま踵を返した。

 

 蔦が絡み始めたそのモノリスに、フィオレの名前が刻まれている。そこに、フィオレはきっと眠っている。例え身体はバラバラとなり、その一部しか棺に入って居ないとしても、彼女の魂はきっと、そこに居る。

 

「なあ、フィオレ」

 

 かつて、レオはこの墓にこう問うた事がある。

 

「そこは、この世界よりも安らかな場所なのかい?」

 

 もしもそうならば、ここは彼女にとって、最後の安らぎの場所だ。幸せも知らず、世界の底辺に生まれ、そしてひと時の幸せを得た故に、人として死ぬことを許され無かった彼女が、最後に許される聖域だ。

 だからこそ、これを血塗られた手が触れる事は許さない。例えそれが自分自身の手であっても。彼女は人生の最期を、暴力により迎えた。その暴力の象徴たる血の汚れに染まった自分は、もうその聖域に触れられない。聖域に、血を持ち込んではならない。だから、レオにはもう、彼女のように墓に触れる事は叶わなかった。

 

 

「では、明日にはもう?」

 

「はい。またあちらへと」

 

 エリナが迎えの車を待つ間、昨晩ここまで乗って来た愛馬を引きながらではあるが、レオは僅かな時間ながら彼女と話す時間を得られた。相変わらず護衛を外したがる癖のある点は変わらないようだが、それでもエリナは、きっちりと護衛のSPを受け入れている様子だった。流石に墓所にはSPと言えど立ち入れなかったようだが、墓所を出た途端、何処からともなく警護隊の……レオのかつての同僚達が現れていた。彼らの存在に気付けなかった辺り、自分でも気付かぬ内にかなり感傷的になっていたらしい。

 

「そう、ですか……」

 

 エリナの表情は暗い。それとなく問うてみると、思わぬ返答が返って来た。

 

「だって、最近の貴方は……何か、前と変わったような気がするのです。エリア11での任務というのは、そんなに大変なのですか?」

 

「変わった、とは?」

 

 予感がありつつも、問い返す。

 

「……何処か、怖くなりました」

 

 まさについ先日、エミーリアに言われたのと同じ事を彼女も口にした。流石にショックだったのか、そこからの会話はレオの記憶には残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 エリア11へのトンボ帰りを前にして、屋敷に戻ったレオは続々と積まれてゆく難問の内の一つと対峙していた。

 机の上に並べられたのは、分解した仕込み短剣。その横に、破損した短剣の切っ先。

 

“……駄目ですか”

 

 肩越しに作業を覗き込んでいた女が問い掛けた。レオは同意しつつ、破損して使い物にならなくなった部品を幾つか小箱に放り込む。

 

(駄目だ。刃は完全に折れているから全交換が必要な上に、基礎部分にもダメージが出ている。毒を仕込んで居なくて良かったよ。仮にそんなものがここに入っていれば大惨事だ)

 

 基部に存在する小さなカプセルのような部品をレオは持ち上げた。ヴァルクグラムに使った時のような毒物を仕込む事が出来るその部品は完全に潰れ、亀裂が走ってしまっていた。

 

“交換部品はあるのですか?”

 

(無い)

 

 そう、無いのだ。この武器は規格品ではなくレオの手による自作品であり、必要な部品はほぼ全て自分で製作しなければならない。勿論部品のストックは幾つか存在し、それを組み込むことで修復出来る箇所も存在するが、最も重要な部品……即ち短剣部分が無い。

 一般的な短剣と違い、仕込み短剣の剣は腕に隠せなければならないから小型化が必要となり、また毒物を仕込む都合上専用の穴を開ける必要がある。そんなものがそう易々と手に入る物ではない。

 と言って、今から新しく剣を作る時間は無い。本来なら剣のストックも一振り用意してあったのだが、そもそもこの折れた剣自体が、ちょうどヴァルクグラムの一件の直前に交換したばかりだったのだ。

 

(正直、参った。どうしたものかな、これは)

 

“とりあえず、仕込めそうな短剣を探すしかありませんね。手持ちの剣やナイフに何かありませんか?”

 

 彼女の言葉に従い、レオは手元にある短剣や投擲ナイフをありったけ引っ張り出して机の上に並べた。しかし、投擲ナイフは短すぎるか持ち手と一体化しており、短剣は太過ぎて仕込み短剣に入らない。一通り試して全てが徒労に終わると、レオは思い切り椅子の背もたれに体重を預けた。

 

 これは正直、お手上げかも知れない。明日の出立よりも早く新しい短剣を見繕いに行く時間は恐らく無いだろうし、そもそもそんなものは見つかるまい。エリア11に着いてから探す、という手もあるが、これも結果は同じだろう。と言って、エリア11で剣を作っている余裕があるかどうか。増してエリア11では、ブリタニア本国以上にこの短剣が必要な機会が多いだろうに。

 折れた剣を持ち上げて、作業用の手袋を嵌めた手で弄ぶ。考えてみれば現代の部品でこれを修復出来ないのは当たり前で、これは古い文献を基にして作り上げた代物なのだ。現代に伝わっていない以上、これは歴史の何処かで廃れた武器。過去の遺物の再現に過ぎないのだ。

 

 ……過去?

 

 不意に、レオは左の拳を握り、その上に短剣を持ってきて普通の短剣のように見立ててみた。あまりにも細い短剣。そのシルエットに、何だか見覚えがあった。暫し考えて、レオは椅子から離れて来客用ローテーブルの横に膝をつき、その下から黒い革張りのトランクを引っ張り出した。

 中にあるのは、黒檀の箱。そしてその中にあるのは、女の眠っていた遺跡から持ち出した一振りの短剣。レオはそれを取り出して、折れた剣とその短剣とを重ねてみた。

 

 まるで生き写しのように、二振りはぴったりと重なった

 

 レオは再び机に戻ると、短剣を分解し始めた。女はそれを黙って見ている。驚いたことに分解してみると、その刃は明らかに仕込み短剣用のそれと同じような規格になっており、寧ろ後から無理矢理持ち手を付けたようにも見えた。

 グリップから刃を取り外して、仕込み短剣にその刃を移植する。流石に毒物用の穴は無いので、毒のカプセルは取り外す。代わりにそのスペースに、超小型のバッテリーを設置した。そして交換品の箱から小さな筒のような物を取り出して、短剣の真下に添えるように装着する。

 

 気付けば、夕方だったはずの空は闇に塗りつぶされており、時計を見ると夜もすっかり更けてしまっていた。何時間も取り組んでいたその作業から離れると、レオはその成果を左腕に装備する。

 仕込み短剣は、完全に機能を復旧していた。遺跡から持ち出した短剣は仕込み短剣の機能を何一つ阻害する事は無く、元からそこにあったように収まっている。しかも、以前よりも動きがスムーズになっていた。

 そして、そのブレードの下には単発装填式のダートガンが隠されている。バッテリーの容量は極めて少ないから、実質的に二発の発射が限界となり、命中精度にも正直期待出来そうに無い。だが、今回のようなケースを考えると、仕込み短剣自体にも一定の戦闘力があるべきだろう。兼ねてから考えていた改造プランを、この機会に実行に移した形になる。

 

 動作テストを終えて、レオは背後に居るであろう霊体の女に振り返った。

 元々、エルフォード一族が代々受け継ぐ領地にあった遺跡から持ち出した代物なのだ。かつてのエルフォード一族ゆかりの品があの遺跡にあったとて不思議ではない。問題は、この女の方だ。

 この短剣は、元々彼女の所有物だったらしい。では、この剣を持つ彼女もまた、エルフォード所縁の人間なのか。

 

 じっと、女の気配のする虚空を見る。そして向こうも、やはりレオをじっと見ている。

 

 やがて、長い沈黙の果てに彼女は言葉を発した。

 

“……お察しの通り、その短剣はエルフォード一族所縁の品です。と言うよりも、貴方の言う文献に記されていたオリジナルのそれでもあります。”

 

(では、お前は)

 

“はい……私もまた、貴方と同じ、エルフォード一族の人間です”

 

 そして、彼女は語りはじめた。自身の過去の断片を。

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