SLAYER'S CREED   作:EGO

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長々と続いたSLAYER'S CREED、エピローグ第一話。
ログハンのお仕事編です。
奥さんとのイチャイチャは次回まで我慢してください。


Epilogue
Memory01 闇に生き、光に奉仕する


 ──五年後。都、城内。

 

 上等な絨毯が敷き詰められ、等間隔に並ぶ柱には職人の技が光る燭台が嵌められてはいるものの、時間帯としてはまだ昼だ。蝋燭の出番にはまだ早い。

 壁に飾られた絵画は神代の戦いを描いたものや、時には王家の歴史を描いたものと、その種類は様々だ。

 そんな美術でもお目にかかれない絵画を横目に観賞しつつ、彼は黙々と廊下を歩いていた。

 表は黒、裏地は赤の上等なコートを纏い、折られた襟にはアルファベットの『A』を模したような紋章が刺繍され、彼が何に所属し、どれ程の地位にいるかを、彼らを知る者にのみ知らしめる。

 左手を覆う革の籠手(ガントレット)は上等さよりも丈夫さや軽さを意識したものだろう。

 武骨なそれに隠された白銀の刃には鋭い輝きが宿り、振るわれる時を今か今かと待ちわびていた。

 その隣につけられた短筒(ピストル)は、試行錯誤の末にようやく完成させたものだ。

 いまだに着なれない上等なコートの着心地に眉を寄せつつ、肩を回した。

 首もとを締めるネクタイは適当に結んだだけのもので、上等なコートに反してどこか気の抜けた印象を相手に与える事だろう。

 だが、それは彼の瞳を見ていないからだ。

 背後から近づいてくる気配を感じ、彼は瞳を揺らした。

 蒼い瞳の虹彩には僅かに金色が散り、見る者によっては夜空をそのまま閉じ込めたと称するだろう、美しい瞳。

 彼はゆっくりとした足取りで止まると、深々とため息を吐いた。

 

「──出てこい」

 

 声に僅かな苛立ちを込め、フードを取り払いながら振り替える。

 彼の初雪のように白い髪が尾のように揺れ、背後から近づこうとしていた何者かに威圧するような視線を向けた。

 彼の人を殺せそうな視線を受けて「ひゃっ!?」と声を出したのは、廊下の角から顔を出していた子供たちだ。

 年は五歳にも満たない、()()()()()大して変わりはしないだろう。

 彼らは「みつかった~♪」と何やら楽しそうに騒ぎながら、廊下の奥へと消えていく。

 その直後に彼らを追いかける侍女(メイド)がぱたぱたと駆けていき、すれ違い様に「申し訳ありません」と頭を下げていった。

 一人取り残された彼は頬を掻き、「頑張れよ」とどこか同情するような目を彼女の背に向けた。

 遊び盛りの子供というのは、冒険者の子供であろうと()()()()()()であろうと違いはあるまい。

 小さく息を吐きながら肩を竦め、踵を返して再び歩き出す。

 足元に絨毯が引かれている事を差し引いても、彼は一切の足音を立てない。それは彼の体に刻まれた技術(スキル)であり、一歩一歩にその熟練度を伺わせる。

 途中すれ違う侍女や執事にも丁寧に会釈をしながら、廊下を進むこと数分。

 城内に鎮座する両開きの扉の前で足を止めた。

 あれから幾度か訪れ、またこうして訪れる事となった場所。

 変わらないという事は難しい事で、何か一つでも変われば、連動するように別の何かも変わる。

 まさに歯車仕掛けの細工のように、小さな歯車一つがずれてしまえば、また別の形へとなってしまうのだ。

 

 ──まあ、結果論だか。

 

 あれから多くの変化があった。

 告白直後にお陰で酔いが覚めたらしい仲間たちに祝福され──とてつもなく恥ずかしかったが、同時に嬉しくもあった──、何度も相談を重ねた結果住み慣れた辺境の街に居を構え、時には冒険──本来の意味でだ──に出掛け、また愛する人の場所へと帰る。

 その過程で手に入れることになった、腰に下がる現在の愛剣の赤い柄を撫でながら、彼は微笑を浮かべた。

 二年も経てば家族が増え、少しでも一緒にいるべく冒険を控え、その分後進の育成に力を入れた結果、いつの間にやら『冒険者になるなら西に行け』という言葉まで出来てしまった。

 それが巡りめぐってこの場に行き着き、こうして上等な格好をするはめになったのだが、それで新人たちの生存率が上がるのなら満足だ。

 

 ──いや、(こっち)に来ると家族に会えないな。

 

 脳裏を掠めた満足感を訂正し、意識を切り替えるように咳払いを一つ。

 そしてまた変な考えを起こす前に扉に手を置き、慣れた動作で押し開けた。

 瞬間彼の視界に飛び込んでくるのは、無人の大広間の中央に鎮座する円卓だ。

 美しい石材を磨き上げたそれは、有史以来から残される遺産。祈る者(プレイヤー)たちが手を取り合い、混沌の手勢と立ち向かうと決めた証だろう。

 そこにまさかの一番のりという結果に彼は僅かに目を剥きつつ、小さく息を吐いて「失礼する」と告げてから入室。

 窓に填められた色硝子を通した陽の光に目を細めつつ、取り決め通りに決められた円卓の席に足を向けた。

 ずかずかと無造作な、けれど一切足音をたてずに無人の広間を歩く彼は、初見なら亡霊と思われるほどに存在感が希薄だ。

 けれど確かに彼はそこにいて、いつの間にやら円卓の一席に腰を降ろしていた。

 雑嚢から書類類を引っ張り出し、念のためと中身を最終確認。

 ぺらぺらと紙を捲る音のみが響く大広間は、さながら彼のみの入室を許したかのようだ。

 静寂とは何か一つでも音が出るだけで消えるものならば、孤独とは誰かが部屋に入った時点で終わるものだ。

 ぎぎぎと重い音をたてながら扉が開かれ、次々と大広間に入室した参加者が円卓へと腰かけていく。

 途中で彼に気付いて露骨に媚びへつらうような挨拶をするものや、時には友人のように挨拶を交わすもの、時には親の仇を見るように睨むものなど、その反応は様々だ。

 円卓に加わった順でいえば、彼が一番最近──つまりこの中で一番の新参者だ。

 だが彼を慕う貴族令嬢や貴族の御曹司の親、彼に助けられた結果大成した商人など、この場にいる中で彼に借りがある者も多い。

 つまる所、彼は新参者でありながら、その発言には相当な力があるということだ。

 それを気に食わないと思うことも相手の勝手、少しでも媚びて自分を後ろ楯にしようとすることも勝手だ。

 彼は彼らの挨拶に柔らかな笑み(営業スマイル)を浮かべつつ丁寧に返していくが、彼の両隣には誰も腰かけない。

 そこに誰が座るのかは、彼が円卓に加わってから決まっているのだ。

 

「お隣、失礼しますわね」

 

 一言声をかけてから、ゆるりと彼の隣に彼女が腰を降ろしたのはすぐの事。

 自らが腰かけた椅子に天秤剣を立て掛け、儚げではあるが同時に優しげな笑みを浮かべる女性が纏うのは、その肉感的な肢体を隠す──ようでいて強調するような、白い薄布。

 その美貌はすれ違う誰もを魅了し、そうして足を止めた人に向けて笑みをこぼすのは、一重に彼女の機嫌が良いからだろう。

 書類一枚一枚と真摯に向き合う彼は彼女が隣に腰かけた事に気付いていないのか、ただ黙々と書類に目を通す。

 女性は視界に映る彼の横顔を絶景を眺めるように見つめる。

 蒼い瞳が僅かに揺れながら書類の中身を読みとき、無意識の内に動いている唇は妙な色気があり、何より真摯に仕事に打ち込む彼の姿は見ていて心地が良い。

 その視線を一身に浴びる彼は居心地悪そうに身動ぎし、「何かようか?」と横目で彼女に目を向けた。

 透き通るほどに白い肌、陽の光を浴びて宝石のようにきらきらと輝く金色の髪、そして曇り一つない碧眼が、彼の視界に収まった。

 同時にようやく隣に座ったのが何者かを理解し、今度は心からの笑みを浮かべて彼女の方へと向き直る。

 

「大司教か、先日ぶりだな」

 

「ええ。わたくしにとってはお久しぶり、ですけれど」

 

 彼の挨拶に女性──剣の乙女は柔らかな笑みで返し、にこにこと上機嫌そうに笑みを深めた。

 もう三年も前になる。人生初めての恋愛と失恋をほぼ同時に経験し、半ば自棄になりかけたのは。

 その時はまあ語るのも憚られる程に取り乱したが、今はこうして落ち着いている。

 

『お前の想いには答えてやれない。その代わりと言っては何だが』

 

 彼はそう言って、いかなる手を使ったかはわからないが、自分の見えざる瞳を癒してくれたのだ。

 まあ、その反動で彼はしばらく寝込むことになり、彼の妻と手分けして介抱することになったが、それは良い思い出だろう。

 

「陛下のおなりです!」

 

 円卓の据えられた幾らかある豪華絢爛な玉座は、それぞれの種族の代表が座るためのもの。

 混沌との大規模な戦争もない今は、陛下と呼ばれて大広間に入ってくるのはこの国の王だけだ。

 どことなく弛緩していた空気が張り詰め、談笑していた者たちが一斉に口を閉じた。

 彼らにならう形で彼も意識を切り替え、大広間に入室した人物たちに目を向けた。

 老いた大臣、赤毛の枢機卿、褐色肌人の宮廷魔術師、銀甲冑の近衛騎士、その他金等級の冒険者、銀色の髪を揺らす、異様に気配の薄い小柄な侍女。

 彼らをさながら一党を率いる頭目のように連れて歩くのは、この国の王である美丈夫だ。

 王族の衣服に包まれた体は彼ほどではないが筋肉質であり、さながらたまに冒険に出ているような雰囲気すらある。

 彼はちらりと獅子の如く双眸を彼へと向け、僅かに笑みながら目を細めた。

 だがそれは彼とて同じ事。少しばかり用事ができ、その出先で偶然顔を合わせた事があるのだ。一度や二度なら偶然で済ませるが、そろそろ二桁に突入するとなるとこれは必然だろう。

 二人の目配せに気付いた銀色の侍女はため息混じりに彼へと目を向け、小さく会釈。

 それを同じように返してやるのと、王が玉座に、その配下が円卓の席についたのはほぼ同じ。

 これより始まるは御前会議。時には国の行く末さえも決める、とても重用な会議。

 彼が冒険者として駆け回っていた頃から僅かに老けた──あるいは大人びたというべき──王は、円卓をかこむ者たちを見渡すと、王としての気迫と共に口を開く。

 

「では、定刻だ。始めよう」

 

 そうして王は獅子の如き凛々しさを持って笑みを浮かべ、報告に耳を傾け始めた。

 

 

 

 

 

 彼にとって、この御前会議に呼ばれるようになったのは本当に偶然が重なった結果だ。

 妻との結婚、第一子の誕生を皮切りに力を入れ始めた後進の育成。

 家族との時間を増やすべくギルドに交渉し、訓練場でものを教える対価に一定の給料を勝ち取った彼は、それに報いるべくやれることから手を出していった。

 いつぞやに助けた知識神の寺院と交渉し、週に何度か字を教えに来てもらえるようにした。相手は割りと乗り気で話を受けてくれた。

 助けた貴族令嬢が当主となった家から、僅かばかりの資金援助を頼んで回った。予想の倍以上の資金が集まった。ついでに貴族の次男三男、家出した貴族令嬢もよく来るようになった。

 街から訓練場に至るまでの道に松明台を設け、夜間でも街への道を分かりやすくした。ついでに柵を設けてゴブリン対策もした。

 狐を経由して『眠る狐亭』と提携を結び、いわゆる給食制度を始めた。

 他にも多くの事柄を突き詰め、改善し、実行していった結果、いつの間にやら訓練場は『冒険者の学校』とまで呼ばれるようになり、多くの冒険者となろうとする者たちが集まるようになったのだ。

 様々な貴族から支援を受けた為か、あるいは貴族出の冒険者が増えた為か、その話は割りと早い段階で王の耳まで届き、その代表者として彼はここに呼ばれるようになったのだ。

 

「それでは西の訓練場──もとい学校の方はどうだ」

 

 王がどこか楽しげに話題を振ってくると、彼は小さく息を吐いてから立ち上がった。

 いまだにこうして話をするのには慣れない。

 彼はそう思いつつ円卓を囲む者たちを見渡し、もう一度息を吐いた。

 

「まず今回の参加者についてだが──」

 

 そう言って彼──かつてならず者殺し(ローグハンター)と異名をとった冒険者は、王や貴族たちに向けて話し始めた。

 先程まで眺めていた書類には一切目もくれず、頭に入れた情報を一言一句違わずに言葉へと変える。

 何人が授業を受け、誰が青玉等級となり卒業した。

 誰が冒険中に死んだ。誰が故郷への帰省を余儀なくされた。誰がいつの間にか来なくなった。

 結果の全てを数字に変え、等級が上がった事は誇らしく、死んでしまったのは感情を排して淡々と、全ての情報が残酷なまでに淀みなく言葉となる。

「学校は駆け出しを支援するためのものだ」と彼は言い、現に一定の等級──青玉が妥当だと決めている──となったものは卒業と告げて送り出す。

 強さの基本は教えた。それをどう昇華させるのは個人次第だと、彼は言う。

 その後強さを見つけて生きようが、見つける前に死のうが、送り出した彼には関係のないことだ。

 それでも死んだ者はどういった冒険に挑んで死んだのかは把握しているのだろう。

 

「──卒業生の話だが、何人かは銀等級への昇格試験間近だそうだ」

 

 そうして生き残り、かつての自分と同じ等級まで登り詰めた者の名前が、最後の最後に告げられる。

 貴族や商人がごった返すこの場で名が出れば、何かの拍子に名指しの依頼があるかもしれない。

 詰まる所、これは宣伝。後輩たちの為の繋がり(コネクション)作りの一環だ。

 現に幾人かの商人はその名を手元の紙に記し、幾度が頷いている様子が見てとれる。その商人たちな皆、ローグハンターに恩のある人々だ。

「──冒険者に関しては以上だ」と彼が言葉を締めくくると、王は上機嫌そうにうんうんと頷いていた。

 彼の王とてかつては冒険者だったのだ。冒険から離れて久しいとはいえ、後進の成長を喜ばずしてどうする。

 

「運営資金の問題や授業時間の設定あたりにはまだ粗が多いが、少しずつ改善の兆しが出始めている。まあ、本当に少しずつだが……」

 

 王の前であろうといつも通りの口調で話す彼を、咎めようとする者はいない。

 諦めたと言えば聞こえは良いが、そもそもとして彼に強く出れる人間なんぞ滅多にいないのだ。

 彼がただの剣だと言わんばかりに腰に下げている剣は、かつて魔神将の一体が持っていた、とある呪いの込められた魔剣。

 それを彼が持っているということは、つまり「討ち取った」という事実を示し、それを知る者ほど彼と正面切って戦う愚を犯さない。

 まあ裏業界(ローグギルド)から手を伸ばした所で、彼を討つには足りないどころか逆効果なのだが……。

 そんな貴族たちの思惑を知りながら放置するローグハンターは、誰にも聞こえないように鼻を鳴らして肩を竦めた。

 

「報告はこの程度だ。質問は」

 

 一通り話し終えたローグハンターは円卓の面々に問いかけ、何もないと判断を下して「以上だ」と告げて腰を降ろす。

 隣に座っていた剣の乙女が周囲の視線を無視し、一人演説を行った彼の姿に恍惚の面持ちとなっていたが、大きめの咳払いを合図に表情を引き締めた。

 次なる議題は冒険の種とも言える問題だったが、ローグハンターは気にも止めない。

 それは国の南の方の話だったからだ。基本的に西の辺境と都を往復するだけの彼には、あまり関わりのない話だろう。

 

 

 

 

 

 御前会議が終わりを告げたのは、まだ低かった陽が天頂に至ろうとした頃だった。

 ローグハンターは退屈からくる欠伸を噛み殺しながら書類を纏め、乱暴に雑嚢へと押し込む。

 

「あら、お急ぎなのかしら?」

 

 隣の剣の乙女が問うと「予定が詰まってる」と短く返すのみ。

 彼女は「そうですか……」と残念そうに言うと、「お昼をご一緒にと、考えていましたのに」と不貞腐れたように唇を尖らす。

 ローグハンターは「そうなのか」と言うが、手を止める事はない。先程も言ったが、いかんせん予定が詰まっているのだ。

 彼はちらりと足早と大広間を去っていったとある貴族に目を向け、次に意味深に彼に目を向けていた外交官と視線を合わせた。

 目配せのみで言葉を交わし、ローグハンターは小さくだが確かに頷いた。

 今回の狙いはあの男だと確認したのだ。

 

「ではまた今度。何かあればすぐに連絡をくれ。子供らに会いたいなら、隙を見て遊びに来い」

 

 座席から立ち上がりながらそう告げて、「では」と彼女に背を向けて歩き出した。

 彼の背を視線で追いかけ、「また今度」と嬉しそうに声を弾ませる。

 当の彼は人混みにまぎれた途端に姿が見えなくなり、足早にどこかへと行ってしまう。

 彼の背中に見とれていた剣の乙女はハッとして自らの荷物を纏め、ゆらりと座席から立ち上がる。

 まことに残念ながら昼の予定が空いてしまった。こうなれば至高神の神殿に戻るほかなく、その道中は平和なものだ。

 数年前まで威張り散らしていた物乞いの王なる人物がいつの間にか殺害され、今は灰被りの女王という闇人が都の物乞いや貧民窟を牛耳っているという。

 言葉だけ見れば物騒になっていそうだが、実際にはより平和になっているのだから笑えてしまう。

 きっとその時も彼が頑張ってくれたのだろうと、何となくだが察しがついた。

 

「本当に、不器用なお方」

 

 首に下げるお守り変わりの鷹の風切り羽を撫でながら、剣の乙女は小さく呟いた。

 

「けれど、わたくしはお慕いしておりますわ」

 

 彼はいつだってそうだ。言うべき事をはっきりと言い、悪や混沌を決して許すことはない。

 それこそがならず者殺し──ローグハンター。

 貴族や商人、村落を狙うならず者。

 邪神を復活させんと暗躍する邪教徒。

 その過程で生み出された名状しがたい肉塊、あるいは悪魔。

 果てには都に侵略しようとした魔神将。

 仲間たちと共にその悉くを討伐した彼は、けれどその呼び名は変わらない。

 ある者は言った、彼こそは西の守護者だと。

 ある者は言った、彼こそは秩序にして善なる戦士だと。

 ある者は言った、彼こそは魔を討つ者だと。

 ある者は言った、彼は家族の為に偽りの神を殺したのだと。

 そしてそれらを聞いたものが言った。

 彼は魔を討ち、神さえも滅する者。

 

 ──けれど、彼は世界を救うことはない。

 

 故に彼の異名は変わらず、故にその偉業が残ることはない。

 剣の乙女は今でも慕う彼の為に「ご武運を」と豊満な胸元で聖印をきると、可笑しそうに笑った。

 祈った所で、彼の信条はいつだって変わらない。後輩たちにも伝わり、いつしか更に広がっていくであろう言葉。

 

「──運は自分で掴むもの、でしたわね」

 

 

 

 

 

 その貴族は円卓に招かれる程に有能だった。

 戦があれば必ず馳せ参じ、時には兵や騎士を率いて先陣をきる。

 それこそが彼の誇りであり、それこそが彼の責務だと、回りの者には言っているし、何よりそれを信じている。

 馬鹿な奴らだと、貴族の男は自分を信じる者たちを嘲笑った。

 それは表向きの話だ。彼は混沌の手勢と組んで村を焼き、そこから女子供を拐い、それを高値で売りさばく──奴隷商人と呼ばれる男だった。

 若い頃は全うに働き、金を稼ぎ、出世を目指していた。だが、少しの手間でそれよりと稼げる事がわかれば、そちらを優先するようになった。

 いつからか燻っていた欲望の火は、目に見える炎へと変わってしまったのだろう。

 

「これが城の見取り図。そしてこれが」

 

「警備の巡回表か」

 

 その貴族が住まう屋敷の一角。窓を閉ざし、黒い厚手のカーテンで封がされたその部屋に、二人の男の声が響いた。

 窓から見えるであろう都は双子の月に照らされ、どこか幻想的な輝きを放っているというのに、彼らはそれを意図して隠すように窓を封じているのだ。

 貴族の男は目の前に立つ闇人の男に目を向けながら、淡々とした口調で言う。

 

「二年前、一度王の跡取りを拐う計画は失敗している。二度の失敗は許されまい」

 

「二年も前の事だ。もう警戒も緩んだだろう」

 

「確かに城内を駆け回っているがな」

 

「只人というのは、馬鹿な奴らばかりだ」

 

 城の守りを嗤う貴族の男と同調した闇人の男は、嗤いながらその双眸を細めた。

 貴族の男から渡された書類を凝視し、その字体や文字の歪みから、それが信頼に足る情報かを調べ始めたのだ。

 だがそれもものの数秒で終わり、「良いだろう」と得意気な笑みを浮かべた。

 

「決行は明日。王の跡取りたる子を拐い、それを依頼人へと売り飛ばす」

 

「王族の子供だ、高く売れるぞ……!!」

 

 闇人の言葉に貴族の男は狂気を孕んだ笑みで頷きながら、「では、また会おう」と右手を差し出した。

「ああ。ではまた明日に」と握手に応じる為に闇人も右手を差し出した瞬間、

 

「──それは面白そうだな。俺も混ぜて欲しいね」

 

「「ッ!」」

 

 突如として響いた第三者の声。

 二人は弾かれるようにそれぞれの得物を抜き放ち、声の主を睨み付けた。

 奴隷商人に堕ちたとはいえ貴族だ。剣術の心得はある。

 部屋の片隅に置かれた小さな机に腰かけながら、目深くフードを被った男が、そこにはいた。

 表は黒、裏地は赤に染められた上等なコートを前をはだけさせる事で着崩し、その割には丁寧に折られた襟には何かのシンボルが刺繍されている。

 左手を包む武骨な革の籠手には今はカップが握られ、何が入っているのか別として湯気が立っていた。

 二人は目配せしながら摺り足で男との間合いを確かめるが、当の男はカップに注がれていた何かを一気にあおり、

 

「ぶっ!」

 

 思い切り噴き出した。

 げほげほと咳き込みながら膝を叩き、「あいつが入れた方が断然美味いな」と悪態をつく。

 勝手に飲んでおいてそんな事を言う男など、無礼以外の何だと言うのだ。

 貴族の男は額に青筋を浮かべつつ、「貴様、何者だ!」と声を張った。

 問われた男はフードの下で面を食らいつつ、「今日の朝に会っただろう?」と相手をおちょくるように肩を竦めた。

 それでもわかっていない貴様の男に「城でだ」と挑発するように付け加えた。

 朝に城で会った人物などそう多くはない。いや、何よりもあの格好は──!

 

「貴様は……っ!」

 

「思い出したか」

 

 貴族の男の反応にローグハンターはフードの下で目を細め、血のように赤い愛剣の柄に手を置いた。

 寄らば斬ると目で語りかけながら、「投降するなら今しかないが」と最初にして最終警告。

「投降?はっ!笑わせる」と闇人が鼻で笑うと、彼の影から獣たちが這い上がり、涎を垂らしながら喉の鳴らす。

 貴族の男も剣を構えるが、その視線が向かうのは部屋の扉の方向だ。

 

「そうか……」

 

 ローグハンターは露骨に残念そうに肩を竦めると、腰かけていた机から降りる。

 床に着地する音は愚か、机が軋む音さえ出さないのは、持ち前の彼の技量によるものだ。

 

「ならばせめて、楽に逝け」

 

 彼は静かに告げながら、鞘から剣を抜き放った。

 一切の音をたてずに抜かれた刃は深淵を思わせる程に暗く、見るもの全てを呑み込む不思議な力に満ちていた。

 闇人と獣たちは、あれは危険だと告げてくる本能を努めて無視し、彼へとにじり寄る。

 

「勇敢と無謀は違うぞ?」

 

 ローグハンターの言葉が聞こえた時には、もう全てが終わっていた。

 前にいた筈の彼は自分の背後におり、ずるりと音をたてて視界が床と近くなる。

 不意に目を動かして見上げてみれば、そこにあるのは首から上が失せた自分と、切り裂かれた獣たちの体だ。

 首だけになっても数秒は意識があるという。その数秒の内に二人の表情は困惑と恐怖に目を見開き、そのまま固まったかのように息を引き取った。

 ローグハンターはやれやれと言わんばかりに首を振ると、闇人の目に手を添えて閉じてやる。

 

「──安らかに眠れ。恐怖もなにもない、永遠にも等しい円環(サークル)の中で」

 

 静かに冥福を祈り、それを終えると立ち上がると愛剣へと目を向けた。

 濡羽色だった刃には赤い血の痕が残されているが、まるで刃に吸い上げられたかのように消えていく。

 

 ──決して折れず、曲がらず、どんなものでも斬り、決して癒えぬ傷を与える対価に、一度抜けば必ず血を吸わせなければならない。

 

 剣に血に飢えた魔が宿っているのか、血に飢えた魔が剣となったのか、それは定かではないが。

 

「……やはり手に馴染むんだよな」

 

 妙に手に馴染む握り心地にどこか安堵を覚えつつ、ぐるりと部屋の中を見渡す。

 

「逃げたか」

 

『おや、珍しい事もあるものだ』

 

 彼の気の抜けた呟きに返したのは、フードの中に隠れていた小さな白い獣だ。

 額の宝玉が輝き、それと繋がる何者か──声からして女性が答えてきたのだろう。

 ローグハンターは肩を竦め、「他の連中は?」と問うた。

 

『うん、問題ないとも』

 

 獣越しに何やら楽しそうな声が伝えられる。

 きっと向こうにいる彼女──女教諭は笑っているのだろう。

 何せ今回が彼女が作ったものの初披露なのだから。

 

 

 

 

 

「くそ!くそ!くそっ!」

 

 貴族の男は廊下を走りながら悪態をついていた。

 まさか計画が見つかっており、こうも早く刺客を送り込んでくるとは。

 何がいけなかった。何を間違えた。何が甘かった。

 自分の失敗を心得は考えるが、それが思い付く事はない。何も失敗していないとしか思えないのだ。

 

「ッ!」

 

 そんな男の前に、一人の人影が現れた。

 黒を基調とした衣装を纏い、右肩には黒いマント。闇に紛れる為の衣装であることはわかるが、胸元の膨らみや腰の括れから女である事は確実だろう。

 

「何者だ……っ!?」

 

 気配もなく前に現れた女に向け、貴族は突剣の切っ先を向けながら問いかけた。

 瞳には怯えの色が強く、脅しが脅しとして機能していない。

 女は気だるげにため息を吐くと、右手に握られていた鷲を模した飾りの付けられた杖を弄び、「……降伏」と艶っぽい唇を動かして問いかけた。

 

「するわけないだろう!」

 

「……そ」

 

 興奮する男とは対照的に女の方は静かなものだった。

 左手を包む武骨な革の籠手に一瞬目を向け、教えられた通りに小指を動かした。

 僅かにものが摩れる音がなったかと思えば、そこから白銀の刃が顔を出す。

 

「……なんだ、それは!?」

 

「……さよなら」

 

 驚き狼狽える貴族の男が見たのは、自らに迫る女の残像のみだった。

 彼女の技量はローグハンターには程遠いが、狼狽えて隙を見せた相手を殺すことは造作もない。

 ローグハンターと賢者の学院の女教諭を中心にして作られた、この世界における暗殺者の象徴(アサシンブレード)は、新天地においても確実な結果を残す。

 

 ──相手を殺め、束縛を打ち破るのだ。

 

 喉から血を噴き出して倒れた貴族の男は、何をされたのかすらわかってはおるまい。

 女アサシンはホッと息を吐き、アサシンブレードを納刀。殺害報告の為にハンカチで相手の首もとの血を拭う。

 

「終わったか」

 

 不意にかけられた問いに彼女は一度頷き、声の主へと目を向けた。

 自身と同じフード付きの黒い衣装に身を包んだ男アサシンに「……ん」と頷きながら血の染み込んだハンカチを差し出し、「……終わり」と静かに呟く。

 

「了解。マスターは?」

 

「……さぁ」

 

 ハンカチを受け取った男アサシンの問いに、女アサシンは首を傾げた。

 ともかくアサシンブレードの動作に問題はない。これなら今後もお世話になる事だろう。

 

「……皆は?」

 

「じい様と坊主は下の奴隷を連れ出してる。合流するぞ」

 

「……ん」

 

 女アサシンは先んじて走り出した男アサシンの背を追いかけ、音もなく走り出す。

 仕事は何も殺しだけではない。殺した後に起こる混乱を納め、時には人助けをしなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

『終わったみたいだ』

 

「そうか」

 

 白い獣からの報告に、闇人の懐を探っていたローグハンターは小さく頷いた。

 取引として差し出されていた書類をぶんどるように奪い、それを丸めて懐へと押し込む。

 

「あいつらは」

 

『助けた人たちを馬車に乗せてるよ。あと五分もすれば出られる筈だ』

 

 淡々と行われる確認に、女教諭は上機嫌に応じた。

 理由は聞かなくとも教えてくれる事は、何度か仕事をした時に知った事だ。

 

『いやぁ、アサシンブレードは問題なく使えたよ。キミのそれを作ってから随分と経ってしまった』

 

「素材が貴重だからなぁ……」

 

 彼女の言葉にローグハンターは遠い目をしながら答え、「やはり鉱人との繋がり(コネクション)を増やすべきか」と僅かに思慮。

 ローグハンターの籠手につけられているのは、アサシンブレードと短筒、ついでにエアライフルの簡略版であるエアダート。

 アルタイルが残した書物を解析し、解読し、そしてローグハンターが垣間見た未来(シンジケート)を真似た改造を施されたものはこれのみで、他のアサシンに支給するには素材が足りぬ。

 

「問題だらけだな」

 

『いつも通りだろう?』

 

「確かに」

 

 ローグハンターの呟きにまた女教諭が反応し、彼は苦笑混じりに頷いた。

 同時にこの場でやるべきことを終えた為か、疲れを解すように体を伸ばし、重々しい唸り声をあげる。

 

『随分と年寄り臭いねぇ』

 

「もう三十代だぞ……」

 

『まだ若いじゃあないか』

 

「どうだかな」

 

 いい加減に慣れた自分の白い髪を掻きながら、「撤収するぞ」と獣越しに仲間たちに告げた。

 了解の連呼が響けば、遠くから馬の鳴き声と蹄の音が続く。

 

『キミはどうするんだい?』

 

「俺は──」

 

 女教諭の問いかけに応じようとした瞬間、部屋の扉が蹴破られた。

 ローグハンターは状況の割にゆっくりと扉の方へと目を向け、「遅かったな」と苦笑を浮かべた。

 彼の視線の先、この部屋の唯一の入り口である扉を前に、堂々たる佇まいを見せるのは一人の男。

 闇の中でさえ白く眩く輝く鎧、盾、兜、籠手、そして既に抜き払われた剣一振り。

 タカの眼を使わずともわかる、数多の加護が刻まれた魔法の武具に彩られた男こそ、巷に噂される都市伝説の一つ。

 

「闇の中で悪を討つ都市の騎士(ストリート・ナイト)。或いは金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド)。いや、こくお──」

 

 彼が何かを口にしようとした瞬間、金剛石の騎士が動く。

 全身を鎧で固めているにも関わらず、その動きは並の冒険者のそれの比ではなく、等級で示せば銀等級以上であることは明白。

 床を砕かん程の踏み込みと共に振るわれた輝く一閃は、しかしローグハンターを捉えるにはまだ足りぬ。

 軌跡を見切った彼は血濡れの魔剣をそこに差し込み、片腕の力のみで受け止めた。

 ぎりぎりと火花を散らしながら競り合う両者の視線が交錯し、ローグハンターは笑みを浮かべた。

 

「今回も俺たちの方が速かったな。付き人はどうした、馬車を追わせているのか?」

 

「だとしたらなんだ!」

 

「同じく世直しをする仲じゃあないか。もう少し優しくしてくれても良いだろう」

 

 言葉に込められた僅かな興奮を察しつつ、ローグハンターは肩を竦めた。

 それで相手が引き下がる訳もなく、互いの剣を弾く共に数歩分の間合いを開いた。

 金剛石の騎士は剣と盾を油断なく構えつつ、ローグハンターに告げた。

 

「久方ぶりの再会だ。少し体を動かそうではないか」

 

「そう言うなら、帰って嫁さんとよろしくしてろ」

 

 ローグハンターが魔剣を肩に担ぎながらそう告げると、金剛石の騎士は僅かに肩を揺らした。

 兜の下で笑っているのだろう。だがすぐに落ち着かせると、ぐっと重心を落としてすぐに動ける姿勢となった。

 

「寝静まった妻を起こす趣味はない!」

 

「それには同意する!」

 

 二人がそれぞれ叫んだ刹那、二人の体がぶれた。

 瞬時に飛び出した二人の刃がぶつかり合い、甲高い衝突音を響かせた。

 目にも止まらぬ連撃を互いに放ちながら、けれど相手を決して傷つける事はない。

 傷付くことがないのではなく、そもそも当てる気がないように相手を傷つけることはないのだ。

 断続的に続く剣撃音を聞きながら、ローグハンターはちらりと窓の方へと目を向けた。

 入り口は騎士の背後だ。越えられなくもないが、流石に無防備な背中を晒すわけにはいかない。

 

「余所見とは、余裕ではないか!」

 

 意識を割いたからか僅かに鈍った体の動き。そこを見誤る事なく狙い撃つ金剛石の騎士の一閃が放たれた。

 剣圧のみで首を落とせるだろう名剣の一閃を、だがローグハンターはもはや化け物じみた反応を見せた。

 瞬時に体を屈めて一閃の下を潜り抜け、片手をついて体勢を整えつつ、下から抉るように渾身の──けれど能力(アビリティ)は使わずに──蹴りを騎士の鎧へと叩き込んだのだ。

 彼が履いているのはただの靴だが、響き渡ったのは甲高い金属音。

 金剛石の騎士が肺の空気を吐きながら壁に激突すると、ローグハンターは「俺の勝ちだな!」と告げて窓へと飛び込んだ。

 ばりんと窓を割りながら屋敷から飛び出すと、空中で体勢を整えながら能力(アビリティ)──落下制御(イーグルダイブ)を発動。

 地面に無傷で着地を決めると、能力の発動で痛む頭を無視して走り出す。

 背後から「追え!」と声がすれば、茂みに身を潜めていた密偵が飛び出してきた。

 黒い装束に包まれた小柄な何者かではあるが、その正体を知るローグハンターはため息一つ。

 かくいう追いかけてくる女性もまたため息を吐くが、そこに手を抜いている様子はない。

 やれやれと首を左右に振ると、目の前に迫った塀を素早くよじ登り、着地場所を見ること身を投げた。

 都の外れにある屋敷だが、数分でも走ればすぐに見慣れた大通りに出る。そこまで行けば振りきれるだろう。

 着地と共に再び走り出し、遅れて小柄な密偵が後ろに続く。

 更にその後方に金剛石の騎士が操る馬車が続けば、彼は乾いた笑みをこぼした。

 捕まればどうなるかは知らないが、色々と聞かれるに決まっている。

 

『それで、これからどうするんだい。いくらキミとて馬からは逃げられないだろう?』

 

「この近くに橋があるだろう。大きめの奴だ」

 

『ああ。もうすぐ見えてくる筈だ』

 

 獣越しに女教諭と相談しつつ、ローグハンターは眉を寄せた。

 

「灰被りの女王に会ってからと思ったが、予定が変わったな」

 

『おや、もう帰るのかい?』

 

「ああ。よろしく伝えてくれ」

 

『あいつは歯軋りしそうだねぇ。まあ、任せてくれたまえよ』

 

 女教諭の了承を受けた彼はフードの中で丸くなっていた獣を掴み、「また今度な」と告げて道の端に優しくではあるが投げ捨てた。

 獣は持ち前の身体能力で空中で体勢を整え、四本足でしっかりと着地。どこかを目指して走り出した。

 橋にたどり着いたのはそれと同時。彼は歓喜の笑みを浮かべつつ、その中頃まで走り抜いた。

 そこまで来ると足を止め、多少荒れた呼吸を整えながら欄干へとよじ登る。

 

「ええい、そこまでだ!」

 

 そこに突っ込んできたのは、密偵を御者台の隣に乗せた金剛石の騎士だ。

 妙に生き生きとした口調で彼に待ったをかけ、言われたローグハンターは彼の方へと向き直った。

 互いの視線を交錯させながら見つめあうこと数秒。ローグハンターは愉快そうに笑みを浮かべ、両腕を広げた。

 

「さらばだ騎士よ。今回の勝負も俺の勝ちだ」

 

 そう告げた彼の瞳が蒼から金へと色を変えた。

 体を巡る先駆者の血を呼び覚まし、この世界の理を僅かに歪ませ、肉体に秘められた力と封じられた一部の能力(アビリティ)を解放する。

 それこそが隔世(覚醒)状態。天上の神々を困らせる、文字通りのぶっ壊れ(チート)状態だ。

 彼はその状態を維持しつつ、背中に昇りくる朝日の暖かさを感じ取った。

 橋から眺める日の出など、まさに絶景なのだろうが、今は堪能している場合ではない。

 彼は両腕を広げたまま、背中から足元を流れる川へと身を投げた(イーグルダイブ)

 驚く金剛石の騎士と密偵を他所に、彼は能力(アビリティ)を発動。

 その名も単純──高速移動(ファストトラベル)

 一度行ったことのある街になら、瞬き一つの間に行くことが出来る。

 洞窟や遺跡などの危険地帯からの離脱は出来ないが、街から街への移動は楽なものだ。

 まあその変わり多くの制約があるのだが、それはとても些細な事。

 

 ──愛する家族の下に瞬時に帰れるのなら、多少の負担は安いものだ。

 

 彼がそうして思わず笑みを浮溢した瞬間、新たな日の始まりを告げる雷鳴が、都の一角に響き渡った。

 

 

 




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期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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