SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory05 夜営

ローグハンターをはじめ、八人が街を出発してはや三日。

二つの月が輝く夜空の下で、彼らは焚き火を囲んで夜営の体勢となっていた。

やることもなく暇なのか、妖精弓手がこう問いかける。

 

「そういえば、みんな、どうして冒険者になったの?」

 

「そりゃあ、旨いもん喰うために決まっとろうが。耳長はどうだ」

 

鉱人道士の解答ついでの返しに、妖精弓手は満天の夜空を眺めながら言う。

 

「……私は外の世界に憧れて、ってとこね」

 

「拙僧は、異端を殺して位階を高め、竜となるためだ」

 

「えっ。あ、いえ。宗教はわかります。私も、教えのためですから」

 

「ゴブリンを……」

 

「あんたは何となくわかるから良いわ」

 

蜥蜴僧侶と女神官も続き、ゴブリンスレイヤーが返そうとしてそう断じられた。

銀髪武闘家は顎に手をやり、少し考えて言った。

 

「んー、私は、お父さんとお母さんに『一旗あげてくる』って、飛び出してきたんだよね~」

 

「私は、どこまで行けるのか知りたいからってところね」

 

女魔術師は杖を掲げながらそう呟いた。

残るは火の番をしていたローグハンターのみ。

彼は焚き火をつつきながら、小さく笑んだ。

 

「人助けのためだ。世界を救えないのなら、目の前の誰かぐらい助けたい」

 

ふと彼も夜空を見上げ、タカの目を発動させる。

満点に輝いていた星が見えなくなり、その先にいるものさえ見えそうだ。

だが、見えない。そこに何かいるかもしれないが、人間では見ることが出来ないものなのかもしれない。

 

「━━それと、個人的に秩序を乱すならず者(ローグ)が嫌いなだけだ」

 

その言葉に宿った僅かな憎悪に気づいたのは、銀髪武闘家だけだろう。

誰よりも親密にこの五年一緒にいたのだ。ほんの僅かな感情の変化に気づけないようでは、一党はやっていけない。

今回の行程で最後の夕食となる今回の食事は、気持ち豪華なものだ。

肉が焼け、スープが出来ていくなか、ふと女神官がローグハンターに問いかけた。

 

「ローグハンターさん。あの、どこかの宗教に属していたことがあるのですか?」

 

「どうした、いきなり」

 

「いえ、この前の依頼でお祈りをしていたじゃないですか。それにその胸の十字架も。その、気になってしまって……」

 

「ああ、そういうことか」

 

ローグハンターは焚き火の番を銀髪武闘家に変わって貰い、苦笑しながら女神官に言った。

もちろん、一部本当のことは隠してだ。テンプル騎士となった時に、騎士団のことは口外しないと誓っている。

 

「……父から、死者には敬意を払うようにとも言われた。ただ、それだけだ」

 

「へー、良い父親ね。どんな人なの?」

 

興味が引かれたのか妖精弓手が問いかけると、ローグハンターは僅かに考え、そして言う。

 

「……俺に斥候(スカウト)の技術の基本を教えながら、洞窟に残された先人たちの遺産をよく調べていたな」

 

「やっぱり、強かった?」

 

「今の俺は、父となら良い勝負が出来る筈だ。先生には、俺が五人いても勝負にすらならないだろう」

 

真剣な顔の彼は、嘘を言っている様子はない。

彼の師匠に当たる人物には、奇襲がほとんど意味をなさない。その驚異的な反射神経で、完全な奇襲に反撃(カウンター)を当てられるのだ。

つまり真っ向勝負をするしかないのだが、実力が離れすぎている。

あっさり見切られ反撃で死ん(カウンターキル)で終わりだろう。

銀等級、もっと言うと対人戦闘のプロである彼がそう言いきった事実に、各々面をくらった様子だ。

ゴブリンスレイヤーだけは何かわかるものがあるのか、「そうだな……」と力なく呟いていた。

蜥蜴僧侶も二人の言葉にうんうんと頷き、焼けた肉を一党に回していく。

香辛料のおかげか香ばしい匂いが夜営地を包み、銀髪武闘家の腹の虫が鳴いた。

 

「ねえねえ、食べて良い、もう我慢できないんだけど!いただきます!」

 

「ほっ!銀髪のはわかっておるの。野菜しか食わん兎擬きとは大違いじゃわい!」

 

「だ、誰が兎よ!野菜だって美味しいでしょ!」

 

豪快に肉を食べる銀髪武闘家を鉱人道士は愉快そうに笑い、一切肉に手を出さない妖精弓手を弄る。

種族の掟なのか、それとも彼女が食わず嫌いをしているのか、妖精弓手は肉を受け取らずに隣の女神官に回してしまう。

その代わりと女神官の作っていたスープを皿に注ぎ、それを一気に飲み干してホッと息を吐く。

両手に串に刺さった肉を持つことになった彼女は、おろおろと隣のゴブリンスレイヤーに目を向けるが、既に彼の手には肉がある。

見かねたローグハンターがその肉を受け取り、既に肉を平らげた銀髪武闘家に「おかわりだ」として渡す。

彼女は何を言っているかはわからない、だが嬉しさを滲ませた声を出し、その肉に食いついた。

 

「……餌付けですか」

 

「まあ、大食いなのは確かだからな」

 

気持ち悪いものを見るように言う女魔術師と、苦笑混じりのローグハンター。

彼は女魔術師がお堅いと言って良いほど真面目なことを知っている。突拍子のない行動をする銀髪武闘家は、地味にストレスの原因になっているのかもしれない。

顎に手をやって小さく息を吐き、銀髪武闘家に目を向ける。彼女は手遅れ、打つ手なし。

 

「……すまないが、こいつにも慣れてくれ」

 

「はい……」

 

むすっとしながら頷いた女魔術師の頭を撫で、申し訳なさそうに笑った。

 

「頼む」

 

「……はい」

 

照れ臭そうに頬を赤くしながら目をそらし、そっぽを向いて返事をする。

肉を食べ尽くした銀髪武闘家が、二人がイチャイチャしていると見えたのか、「キー!」と変な声を出したのはすぐ後のこと。

彼らの横では鉱人道士が差し出した火酒が振る舞われ、妖精弓手が真っ先にダウンした。

野伏(レンジャー)が誰よりも早く酔いつぶれるなど、言語道断も良いところだ。

だが、幸いにもこの一党には銀等級斥候(スカウト)であるローグハンターがいる。彼女が倒れても、どうにかなるだろう。

鉱人道士もそれをわかっているのか、彼に無理強いはしない。その分ゴブリンスレイヤーが餌食になったが、彼はそれなりに強いのか、妖精弓手のようにはならなかった。

 

「あ、お酒飲んでる。私にも━━」

 

「駄目だ」

 

銀髪武闘家が火酒を受け取ろうと手を伸ばすが、ローグハンターに止められた。

不満げに睨む彼女をよそに、ローグハンターはかつて無いほど盛大なため息を吐き、鉱人道士に目を向ける。

 

「こいつに、酒を、飲ませるな」

 

「お、おう。そこまで言うなら止めとくわい」

 

目は口ほどにものを言うと聞くが、実感は湧いたことはない。だが、この瞬間にそれが事実だと、鉱人道士は理解した。

まあ、極端に酒に弱くて、飲むと次の日まったく動けなくなるとか、そんなもんじゃろ。

鉱人道士はそう推理し、彼女に出そうとした酒をゴブリンスレイヤーに差し出す。

ゴブリンスレイヤーは黙って受け取り、僅かに間を開けてからがぶりと一息で飲み干した。

その後も夕食は続き、ゴブリンスレイヤーの持ってきたチーズが一党内━━特に蜥蜴僧侶━━に大好評だったことを含めて、少し騒がしい夕食は進んでいく。

その横で、ゴブリンスレイヤーの装備の点検が終わった頃━━妖精弓手が手を出そうとして怒られた━━を見計らい、ローグハンターは黙々と装備の点検を始めていた。

ピストルに詰まりがないかを確かめ、あれば磨き、火薬と弾を込める。

エアライフルも同様に、細い棒で銃身の内側を磨いて、装填用のレバーが動くかを確かめる。

彼の淀みのない手つきを見ていた鉱人道士が、感嘆にも似た息を吐く。

 

「頭巾の。おまえさん、手慣れとるな」

 

「これの模型を弄るのは、子供の頃からやっていた。今なら、目を閉じていても出来る」

 

「私はその筒に興味があるのだけど」

 

妖精弓手がピストルに手を伸ばすが、銀髪武闘家に止められた。

 

「危ないから触らないほうがいいよ。指無くなっちゃうから」

 

「ッ!」

 

妖精弓手は慌てて手を引っ込め、僅かに後退り。

森人はそのほとんどが生まれながらの弓の名手だ。

弓手の指は、何ものにも代えられない大切なもの。吹き飛んでしまったら、弦が引けぬ。

大袈裟に反応した妖精弓手を小さく笑い、彼の横顔を眺める。

駆け出しの頃からだいぶ大人びたその横顔は、頼りがいのあるものだ。

彼の弄る小さな筒が、使えば一瞬で他人の命を散らせるものとわかっているのは、彼と銀髪武闘家と女魔術師、ゴブリンスレイヤーぐらいだろう。

そんな恐ろしいものを躊躇いなく触って弄るのは、彼以外には出来ないことだ。

鉱人道士は髭をしごき、ローグハンターの手首に目を向けた。

衣装の都合で見えにくいが、確かに何かがつけられているのだ。

 

「……頭巾の。その手首にあるものは、なんじゃい」

 

「む。ああ、これか」

 

ローグハンターはそう言うと、僅かに小指を動かす。

するとどうだろう。手首に隠された仕込み刀(アサシンブレード)が飛び出してきたではないか。

驚く鉱人道士と目を輝かせる妖精弓手を尻目に、ローグハンターはすぐさま納刀すると、優しくその鞘を撫でる。

 

「死んだ父から継いだ、大切なものだ」

 

「ほぉ。おまえさんの故郷の刀鍛冶は、面白いものを作るもんじゃな」

 

見せてくれと言いたいところだったが、親の形見という大切なものに興味本位で触れて、もし壊しでもしたら、首をへし折られそうである。

実際に、彼は躊躇いなくそれを実行する度胸と、成功させられる技量を持つ。

出来れば敵にはしたくない。

鉱人道士は髭をしごき、内心でそんな事を思っていた。尤も彼らは銀等級の冒険者。そう易々と私情で人は殺さないだろう。

そんな中、ふと蜥蜴僧侶がこう切り出す。

 

「気になるものついでに一つよろしいか」

 

彼は問いを口に出す前に、奇妙な仕草で合掌した。食後の儀礼だという。

 

「小鬼どもは、どこから来るのだろう。拙僧は、地の底に王国があると父祖より教わったが」

 

鉱人道士は大きくげっぷをすると、髭をしごいて言う。

 

「わしは、堕落した圃人(レーア)森人(エルフ)だと聞いておる」

 

「酷い偏見ね。まあ、私のところは鉱人(ドワーフ)の成れの果てって聞いたけど」

 

妖精弓手がそう言うと、鉱人道士と睨みあう。

また口論でも始まりそうだが、その前にと女神官が答える。

 

「私は、誰かが失敗すると一匹湧いて出る、と聞いてますね」

 

「あ、私も私も。だから失敗するな!ってね」

 

「躾の言い伝えだから、だいたいの只人(ひと)はそう信じているんじゃないかしら?」

 

女神官に続いて銀髪武闘家、女魔術師がそう続く。

それを聞いた鉱人道士が、小馬鹿にするように笑いながら妖精弓手を指差す。

 

「そこの耳長娘を放っておけば、うじゃうじゃ増えるということかいな」

 

「し、失礼ね!私の弓の腕を知らないくせして!」

 

「後ろから撃たれたらたまらんわい」

 

また騒ぎ始める二人だが、ゴブリンスレイヤーの「俺は」という呟きで口を閉じた。

点検を進めるローグハンターを除き、一党たちの視線は彼に集まった。

 

「……俺は、月から来た、と聞いた」

 

「月?あの空に浮かぶあの月か?」

 

蜥蜴僧侶の問いに、ゴブリンスレイヤーは頷く。

 

「緑の方だ。あの場所には、草も、木も、水もない。岩だけの場所だ。奴らは、そうでないものを欲しく、羨ましく、妬ましい。だからやって来る」

 

ゴブリンスレイヤーの淡々とした語りに、皆が聞き入っていた。

 

「……だから、人を妬むとゴブリンになる。姉から、そう教わった」

 

「珍しいな、おまえがおとぎ話を語るとは」

 

点検を終えたローグハンターが、エアライフルを担ぎ直しながら苦笑した。

なにかの返答を求めていたのか、無言のゴブリンスレイヤーに彼は首を傾げ、小さく鼻を鳴らす。

 

「……寝たか」

 

「火酒が効いてきたのかの。ところで、頭巾の。おまえさんの故郷じゃ、なんと躾られたんじゃ?」

 

ゴブリンの出所の話から若干逸れ始めているが、ローグハンターは顎に手をやった。

それもそうだろう。彼のいた場所にはゴブリンはいない。ゴブリン並のどうしようもない奴はいただろうが、そのゴブリンは空想上の生き物だ。

ローグハンターは暫し考え、父から聞いた話を口にした。父が熱心に調べていた『洞窟画』の話だ。

多少の改変を加えて、それっぽくすることも忘れない。

 

「俺は、地下の底に『邪悪なる魂』が封じられていて、その眷族が主人を探して闇の中をさ迷っていると聞いた」

 

躾に関してではなく、割りと本気のゴブリンに関する話に一党は耳を傾け、聞いたこともない話に妖精弓手が食いついた。

 

「え、なになにその『邪悪なる魂』って!」

 

「神様から生まれた双子のことだ。世界に言葉持つ者を作った『善なる魂』と、彼らを苦しませる化け物と病を作った『邪悪なる魂』。二つはそれぞれの眷族たちを率いて戦い、最終的に『善なる魂』が勝った。だが、戦いを生き残った『邪悪なる魂』の眷族たちは、復讐するために、人を襲って病気を振り撒いているとな」

 

「それが、ローグハンターさんの故郷に伝わるお話ですか?」

 

女神官の問いかけに頷き、少し作ったような悪い顔で笑って見せた。

 

「異教徒と呼ぶか?」

 

「い、いえ!そんなつもりは!」

 

勢いよく首を横に振る女神官に、彼は苦笑した。

 

「冗談だ」

 

「珍しいね、キミが冗談を言うなんて」

 

笑う銀等級二人に対して、女神官は不機嫌そうに頬を膨らませる。

女魔術師はそんな彼女に対して、可笑しそうに小さく笑った。

場の空気がある程度緩んだところで、ローグハンターが咳払いをして表情を引き締めた。

 

「見張りは、さっき決めた通りか。しっかり寝ろ、肝心の明日が失敗するからな」

 

起きていた面々は、それぞれ頷いて毛布にくるまっていく。

銀髪武闘家は最初の見張りとして起きているローグハンターの頬を撫で、ニコッと太陽のように笑う。

 

「……お休み」

 

「ああ、お休み……」

 

自然に綻んだ頬を気にせず、彼はそう返した。

彼女といる時だけは、彼も少しは人間臭くなれるのだ。演技でも無理やり浮かべるものでもなく、心の底から。

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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