SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory02 君の名は

「デリャ!」

 

「GBR!?」

 

 松明の明かりに照らされる広間に、銀髪武闘家の怪鳥音とゴブリンの悲鳴がこだました。

 蹴りの一撃で腹を捌かれたゴブリンは、臓物をぶち撒けながら地面に転がり、それを飛び越えて次のゴブリンが来るが、

 

「シッ!」

 

 素早く放たれた裏拳(バックフィスト)がその頭蓋を砕き、灰色の脳髄が壁にばら撒かれた。

 

「GBRR……!」

 

 顔に返り血を浴びたゴブリンは狼狽え、後ずさった瞬間を銀髪武闘家は見逃さない。

 足元に転がった剣を蹴り上げ、柄頭を殴りつける。

 瞬間、甲高い金属音と共に剣が矢の如く放たれ、二匹のゴブリンの頭を貫通して壁に突き刺さった。

 

「これで四つ!」

 

 鋭い視線を周囲に向け、牛飼娘にゴブリンが近づいていない事を確認し、そのまま残りの二人の方に目を向ける。

 

「一匹一匹は大した事ないが、キリがない!一体何匹いる!?」

 

 斧を振り回す大男はゴブリン二匹を纏めて斬り伏せながら悪態を吐く。

 彼の言う通りゴブリンの個の力は極めて弱い。伊達に『最弱の魔物』と呼ばれてはいないのだ。

 だが、やはり脅威はその数だ。時には欠片も油断もしていない玄人(ベテラン)冒険者の一党を返り討ちにしてしまう程に。

 そしてその毒牙に真っ先に襲われたのは、大男の背後で弓を射っていた少女だ。

 この中でも比較的弱い──そして護衛にも隙がある──と判断されたのだろう。一匹が射殺された隙に五匹が彼女に飛びかかり、押し倒し、鋭い爪でもって彼女の衣服を破いていく。

 

「えっ!?きゃああああ!」

 

 布が裂ける音と共に少女の悲鳴が広間に響き、銀髪武闘家が対応しようとするが、牛飼娘に襲い掛かろうとするゴブリンの姿を認めてしまい、下手に動けない。

 

「い、いや……な、なんで……!?いやあああ!」

 

 その間にも少女に群がるゴブリンたちは衣服を破き、彼女を欲望の捌け口にせんとするが、

 

「────ッ!この、餓鬼どもがぁぁああああああああああ!!!!」

 

 大男の激情の咆哮がゴブリンたちを威圧した。

 ひっ!と牛飼娘が小さく悲鳴を漏らす中、銀髪武闘家もまた凄まじい剣幕に思わず目を見張る。

 彼の迫力にゴブリンたちも少女への意識を逸らす中、大男が少女に群がるゴブリンたちに切り掛かった。

 一撃、二撃と、斬撃が走る度にゴブリンの体が半ば四散するように斬断され、周囲に肉や骨の破片をばら撒いていく。

 

「うわぁ……彼より速いんじゃないの、あれ」

 

 そして、ローグハンターと比較しても更に速い乱撃に感嘆にも似た声も漏らし、ついでに飛びかかってきたゴブリンを殴り飛ばし、壁の染みに変えた。

 

千草(ちぐさ)、千草ぁ!無事か!?」

 

 ゴブリンを蹴散らした大男は少女──どうやら千草という名らしい──に駆け寄った。

 

「う、うん。服を破られちゃったけど、平気だよ……」

 

 千草は破られた服の切れ端でどうにか隠すべき場所を隠していくが、その肌には無数の引っ掻き傷がつけられてしまっている。

 大男は彼女の姿に苦虫を噛み潰したような表情となると、突然千草を抱き寄せた。

 

「……っ!」

 

 ポッと顔を耳まで赤くする千草。

 人前で随分と大胆な行動をする大男に銀髪武闘家が「わ〜お」と感嘆の声を漏らし、牛飼娘が赤面しながら顔を逸らした。

 

「側にいろ。離れるな。絶対に守る。お前に指一本も触れさせはしない」

 

「で、でも、こんなにくっついてちゃ、動きにくいんじゃ……っ!」

 

「関係ない。お前を守るためなら──近付くもの、全てを薙ぎ払う!」

 

 その宣言を裏付けるように、片手一本で振り回した大斧が次々とゴブリンを切り伏せ、屍の山を築いていく。

 

「あぅ……うぅ……」

 

 千草は顔を真っ赤にさせ、頭から蒸気を吹きながら意味のない声を漏らす。

 

「……二人ってそういう関係なのかな?」

 

「さあ?でも、あの()は彼のこと好きなんじゃない?」

 

 そんな二人の姿に牛飼娘が疑問符を浮かべ、銀髪武闘家は昔の自分を思い出しながら苦笑いをこぼす。

 もし自分が千草と同じ目にあったとして、ローグハンターならどうするかを思い浮かべ──。

 

『生かして返さん。皆殺しだ……ッ!」

 

 額に青筋を浮かべてブチギレた彼の姿を幻視し、その後に慰めてとか何とか言えば甘えさせてくれるんだろうな〜と、終わった後のことも考えてしまう。

 そんな思考をしながら、ゴブリンを蹴り殺し、踏み潰し、殴り壊す様は、事実悍ましいと言ってもよい。

 

「だが、何なんだこいつらは!?女ばかりを狙い、服を剥くなど……!」

 

 そんな彼女の思考を引き戻したのは、大男の疑問の声だった。

 その声に思わず銀髪武闘家と牛飼娘は疑問符を浮かべるが、そんな彼への返答はイチイの矢の一矢と聞き馴染んだ上の森人の声だった。

 

「なにって、オルクよオルク。……只人(ヒューム)的に言えば『ゴブリン』ね!」

 

「な!?」

 

 放たれた矢が空中で軌道を変え、ゴブリンの眼窩を撃ち抜く。

 大男の驚愕の声を他所に、闇の奥から「ふふん!」と得意げに鼻を鳴らす音が聞こえてくる。

 

「気配さえ掴めれば、目を瞑ってたって当たるんだから!ほら、いいわよ!」

 

 そして打てば響くような返事の代わりは、神々への祈りの言葉。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください》!」

 

 祈祷の言葉が終わると共に、眩いまでの光が広間を照らした。

 松明の心許ない明かりではない、影すらも消し去るほどの光量にゴブリンたちはたじろぎ、大きすぎる隙を晒す。

 

「今のうちに一気にやる!そっちの人も!」

 

「わかった!はぁあああ!!」

 

 その瞬間、銀髪武闘家と大男が一気に動き出し、残りのゴブリンを次々と葬っていく。

 

「ほらほらほら、突っ立ってると死んじゃうよ!動いても殺しちゃうけどね!!」

 

「……なんか、生き生きしてない?」

 

「ローグハンターさんがいないからでしょうか?」

 

「ああ、逆に?」

 

「どう逆なんですか?」

 

 そうして前線で暴れ回る銀髪武闘家の姿に、現れた増援──妖精弓手と女神官は、なんとも気の抜けたやり取りを交わすのだった。

 

 

 

 

 

「これが、ゴブリン……?本当に、そうだったんだ」

 

「……今までなんだと思って戦ってたんだ?」

 

 松明でゴブリンの死体を照らしながら、ローグハンターは溜め息を吐いた。

 隣では白髪の少年が首を切られて死んだゴブリンの見下ろしながら首を傾げていた。

 

「でもゴブリンって、一番弱いモンスターじゃ……」

 

「その認識も間違ってはいない」

 

 何かを確かめるように呟かれた言葉に、ゴブリンスレイヤーが首肯した。

 頭巾(フード)を被った男と、彷徨う鎧(リビングメイル)じみた男に挟まれた少年は、二人が放つ妙な圧に困り顔を浮かべ、もごもごと口を動かしながら言葉に迷っていた。

 ローグハンターはそんな白髪の少年の横顔を見つめながら、視界の端に映る粗雑な矢羽に目を細める。

 

「ところで大丈夫か。肩から矢が生えてるが」

 

「……言われたら、また痛くなってきました……っ!」

 

 ローグハンターの指摘にハッとした少年は、今更のように肩を押さえて苦悶の表情を浮かべた。

 ローグハンターは溜め息混じりに短剣を取り出し、くるりと手のひらの中で回し、逆手に持ち直す。

 

「肩が腐ったらどうするつもりだったんだ。……貫通させて抜くか、傷口を裂いて取り出すか、どっちがいい」

 

「う、動きに支障がない方でお願いします」

 

「じゃあ、傷口裂くぞ。軟膏と包帯はあるか」

 

「軟膏と包帯、ですか?回復薬(ポーション)じゃなくてですか?」

 

 松明で軽く短剣の刃を炙りながらあれこれと指示を出すが、少年は不思議そうに首を傾げた。

 

「流石に水薬(ポーション)だけでどうにかなる傷じゃないと思うが……」

 

 彼の言葉にローグハンターもまた首を傾げた。

 確かに水薬(ポーション)は便利だが、急激に傷を塞がるような代物ではない。この場においては、包帯や軟膏で確実な止血と治療が必要だと思うのだが。

 

(こいつの『ポーション』を使えばどうとでもなるとでも言わんばかりの態度、気になるな。余程いい薬に救われたのか、あるいは腕のいい薬師が知り合いにいるのか)

 

 ローグハンターはとりあえず回復薬(ポーション)使ったけば大丈夫とでもいいたげな様子の少年の姿に違和感を覚え、首を捻った。

 

「……妙に噛み合わんな。言葉自体は同じ筈なんだが、全く違う物を想像しているような……」

 

「それよりも解毒の水薬(アンチドーテ)はあるか」

 

 短剣を炙り終え、いざ処置開始と意気込むローグハンターに、ゴブリンスレイヤーが何かに塗れた鏃を差し出した。

 二人からすれば見慣れたそれは、ゴブリンが使ってくる毒矢の鏃に他ならない。

 ローグハンターは再び溜め息を吐き、白髪の少年に問いかける。

 

「運がないな。で、解毒の水薬(アンチドーテ)くらいは持ってるな?」

 

「……えっと……その……」

 

 こちらの問いかけに答えない少年の様子にローグハンターは目を細め、ゴブリンスレイヤーは小さく唸る。

 

「ないのか。流石に準備不足が過ぎるぞ」

 

「まあ、俺たちも駆け出しの頃は散々やらかしたがな」

 

「むぅ……」

 

「あ、あの、待ってください!ゴブリンが毒を使うんですか!?」

 

 そんな失敗(ミス)だらけの少年を励ますように、軽い昔話を始めた二人に向け、少年が思わずといった形で声を張り上げた。

 

「使う。自分の糞尿だのそこらの毒草だのを混ぜたものをな」

 

「糞尿!?」

 

「手足が痺れ、呼吸ができなくなり、終いには死ぬ。……この矢をいつ受けたかは知らないが、大丈夫そうだな。毒が塗られてなかったのか?」

 

 焦る少年を他所に、ゴブリンスレイヤーとローグハンターは慌てない。むしろ毒にやられる様子を見せない少年を意外そうに見つめ、勝手な推理を口にする。

 

「あ、はい。Lv.3(レベル・スリー)になって、『耐異常』のアビリティを発現させたので、激毒でもなければ大丈夫です」

 

「……力量(レベル)?」

 

「……能力(アビリティ)?」

 

「は、はい。(レベル)技能(アビリティ)

 

「「「…………」」」

 

 やはり噛み合わない。

 三人はほぼ同時に同じことを思いながら、口を閉じた。

 同じ言葉のはずなのに、意味が違う。先程の『ポーション』の下りと似たようなことが、また起きている気配がする。

 

「……とにかく抜くぞ。力抜け」

 

「は、はい!お願いします!」

 

 考えるのも面倒になり始めたローグハンターは、多分違う国の冒険者が自分と同じようにこの洞窟に放り込まれたのだろうと目星をつけ、さっさと治療することにした。

 慣れた手付きで軽く傷口を裂き、鏃を取り出して適当に放り投げ、化膿止めの軟膏を軽く塗ってやり、包帯を強めに巻いてやる。

 

「これでいい。さて、それじゃあ情報交換といくか。とりあえず、お互い名乗るところから、か?」

 

 

 

 

 

 一陣の風が、ゴブリンの群れを引き裂いた。

 いや、それは風ではない。軽やかでいて、その軽さの中に致命的なまでの暴力を孕んだまさに『疾風』の如き何かが、残りのゴブリンを蹂躙していったのだ。木刀(・・)で。

 

「間に合った──わけではありませんね。争う音が聞こえたので駆けつけたのですが」

 

 ひらりと揺れる緑のケープ。覆面に隠された顔は窺えないが、隙間から溢れる薄緑の髪や笹葉のように尖る耳のおかげで彼女が森人(エルフ)だという事がわかる。

 空色の瞳が銀髪武闘家らに向けられ、そのまま大男と千草の方に流れていった。

 

「一足遅れたようだ、申し訳ない」

 

 そして謝罪の言葉が投げかけられた大男が「無事だったか!」と安堵の言葉を返していた。

 後ろの千草は「私は大丈夫です」と控えめな声をかけ、襤褸切れ同然の服で肌を隠す。

 彼女の姿に「もっと早く来れていれば」と更に申し訳なさそうに俯いた。

 

(真面目な人、なんだろうなぁ)

 

 そんな彼女の姿に銀髪武闘家はそんな感想を抱きつつ、彼女と勝負になればまず勝てない現実に内心で溜め息を吐いた。

 

「とにかく、これでモンスターは全滅したわけだが……」

 

 不意に大男が銀髪武闘家らに目を向けた。

 続くように千草も彼女らに目を向け、「一緒に戦ってから聞くのも変な感じだけど……」と遠慮気味に問いかけた。

 

「貴方達は……?」

 

「見ての通り、冒険者よ。そっちも同業者でしょ?見た事ない装備なのは気になるけど」

 

 彼女の問いかけに答えたのは妖精弓手だ。

 彼らの装備を興味深そうに見つめる彼女を他所に、女神官が彼女らに言う。

 

「とにかく、皆さんご無事で何よりです。それよりも、どうしてここにいるんですか!?」

 

 そのまま皆の無事に安堵しつつ、彼女の意識が向くのは銀髪武闘家と牛飼娘だ。

 

「そうよ!あんたならともかく、牧場のあなたがこんな場所にいたら危ないじゃない!」

 

 女神官に続いて妖精弓手もツッコミを入れ、銀髪武闘家と牛飼娘は困り顔で苦笑を漏らす。

 

「私はなんか光ったなって思ったら、いきなりこんな所に」

 

「こっちは牛の面倒を見てたらうとうとしちゃって、起きたらこんな場所で……」

 

 二人は端的になぜここにいるのかを説明するが、妖精弓手も似たようなものなのか「面倒なことになったわね〜」とどこか他人事だ。

 

「ま、石の中にいるよりはマシね!」

 

 そしてすぐに現状を笑い飛ばした。

 彼女の余裕を感じさせる言動は、こういった状況でも助けになる。

 

「ところで、彼はいるの?」

 

「あ、私の方も!あの人見てない?」

 

 牛飼娘と銀髪武闘家はそれぞれの想い人の所在を問うが、二人は首を横に振ることで返答されてしまう。

 

「ただ来てるとは思うわよ。さっきまでオルクボルクとゴブリン退治してたわけだし」

 

「はい。途中まではゴブリンスレイヤーさんたちと一緒だったのですが、いきなり光ったかと思ったら、散り散りに」

 

「こっちもなんだよね〜。ならず者殺し(ローグハンター)の一党が洞窟で迷子って、とんだ笑い話だよ」

 

 二人の言葉に銀髪武闘家も続き、とりあえずそれぞれの一党の頭目(リーダー)はどこかにいるだろうと結論づける。

 

「……?他にオルクボルク、ゴブリンスレイヤー、ローグハンターという奴がいるのか?」

 

 そんな三人のやり取りに質問を投げかけたのは、大男だ。

 千草に自分の上着を着せてやりながらこちらの話に聞き耳を立てていたのだろう、会話が途切れた時機(タイミング)を見て横槍を入れてきた。

 

「あ、いえ。オルクボルクとゴブリンスレイヤーは同じ人の別々の呼び名のようなもので、ローグハンターはえっと、この人の──」

 

「私の旦那です!」

 

「えっ……」

 

 彼の問いかけに女神官が言葉に迷いながらも説明する中、銀髪武闘家が豊かな胸を張りながら得意げ(ドヤ顔で)笑った。

 その声に驚いた様子を見せたのは千草だ。羨むような視線を銀髪武闘家に向け、その豊かな胸と自分の平らな胸を比べてずぅんと暗い雰囲気を纏う。

 

「オルクボルクとゴブリンスレイヤーは『小鬼殺し』。ローグハンターは『ならず者殺し』って意味よ。いい冒険者には異名が付き物でしょ?」

 

 妖精弓手が続けた説明に、ようやく合点がいったのか大男が頷いた。

 けれどその表情はどこか複雑そうでいて、千草の方も彼を気にしているのか彼の服の裾を控えめに掴んでいる。

 

「つまりは二つ名か。どんな冒険者なんだ?」

 

「オルクボルクは変な奴よ!薄汚れた鎧着て、安っぽい兜被ってるのよ!」

 

「別に変ってこと、ないと思うけどなぁ」

 

「ローグハンターさんは、この人の説明した方がいいかと」

 

「彼はすごい真面目な人。誰もやりたがらない事を率先してやりまくった結果、他の冒険者がモンスター退治ばっかやってる横で、盗賊だの山賊だのを倒しまくっちゃって、まあそれに着いて行った私も私だけどね?そしたらローグハンターなんて呼ばれるようになって──」

 

「多分、欲しいのは見た目の情報だと思いますよ?」

 

 いつにない程に饒舌な銀髪武闘家の様子に女神官がやんわりと止めに入り、「あ、そっか」と照れたように笑いながら咳払いした。

 

「白い髪に蒼い瞳。でも基本的に黒い格好してフード被ってて、いつの間にか後ろにいたりする」

 

「ならず者退治ばかりする、冒険者」

 

 銀髪武闘家の夫自慢を聞き流しつつ、何か気になる事があるのか神妙な面持ちで俯いた大男は、噛み締めるようにそう呟いた。

 まるで自分にもそんな人がいればよかったのにと、懐古しているような、どこか切なげな顔だ。

 

「……名前ほど怖い人じゃないよ?優しいし」

 

 そんな彼の変化に気付きつつ、深掘りはマナー違反だと気にしない事にした銀髪武闘家が話をそう締めると、後ろで律儀に終わるのを待っていた森人(エルフ)が前に出た。

 

「とにかく情報を交換しましょう。状況を整理したい」

 

「あ、そうじゃない!そっちはどこの森の子なの!?」

 

 彼女の話の鼻を折り、ずいっと前に出た妖精弓手が森人(エルフ)に声をかけた。

 

「あまり(さと)については話したくない。それよりも、友人を助けていただいて、感謝します」

 

「いいのいいの。冒険者は助け合いでしょ?この耳にかけて、見捨てないわ」

 

 うまいこと話題を変えられながらも、そのまま話に乗っかった妖精弓手は耳をぴこぴこと上下させながら微笑んだ。

 隣の銀髪武闘家には犬みたいと失礼な感想を抱かれるが、森人(エルフ)は違ったようだ。

 自分の耳よりも鋭く長い耳を見つめ、ハッとしたように妖精弓手に問いかける。

 

「……貴方は、まさか高貴な身分の御方ですか……?」

 

「え?ああ、まあね。上の森人(かみのもりびと)。なんか自分から言うのも変な感じね」

 

 たまに銀髪武闘家は愚か、本人すらも忘れているのではないかという情報を口にした瞬間、森人(エルフ)は目を見開いて驚愕し、慌てながら覆面を外した。

 

上の森人(かみのもりびと)──つまり王族(ハイエルフ)!?こ、これはとんだ無礼を……!」

 

 森人(エルフ)特有の美しすぎる顔に銀髪武闘家らが感嘆の息を漏らす中、彼女は恭しく一礼した。

 いきなりの変わりように「そんな畏まらないでよ」と困惑気味になる妖精弓手。

 

「助けたのはお互い様なんだし、ほら顔あげて」

 

「し、しかし、王族を相手に……っ」

 

 気にせず接して欲しそうな妖精弓手だったが、あまりにも露骨すぎる態度に逆に気を良くしたのか、「むふー」と嬉しそうに鼻を鳴らした。

 銀髪武闘家はそんな彼女の様子に首を傾げ、問いかける。

 

「……?なんか嬉しそうだけど、どうかした?」

 

「こんなお姫様扱いって新鮮っていうか、久しぶりっていうか」

 

「ふふ。なら私たちもそうした方がいいでしょうか?こう、跪いたりしてみたり」

 

「そういうのは彼の方が似合いそうだよね。元は騎士だったみたいだし」

 

 一応は姫であることは承知しているが、今更そんな態度もなと遠慮していた女神官と銀髪武闘家は、それっぽく妖精弓手に向けて一礼してみる。

 

「わー!わー!ちょっと、やめてよ!友達じゃない!そっちの子も、いい加減顔あげて!」

 

 そんな友人二人のおふざけに、やはりと言うべきか違和感が凄まじいのか鳥肌を立てながら辞めさせようとする。

 森人(エルフ)を中心にして始まったじゃれ合いを眺めていた大男は、ゴブリンの死体を忌々しそうに見下ろしながら呟く。

 最弱のモンスター、ゴブリン。だが自分たちの常識が通じない、まるで節操を知らない餓鬼のような悪意に満ちた怪物。

 

「全員が合流できるまで、安心はできんな……」

 

「ベルさんにアミッドさん。大丈夫かな……」

 

 彼の心配に千草も同意した。

 彼らも冒険者ではあるが、相手が相手だ。不覚を取っていないといいのだが……。

 

「とりあえず、自己紹介から始めましょうか。このままですと不便ですし」

 

 二人の不安を払うように、女神官の声が冒険者たちの耳に届く。

 確かに背中を合わせて戦ったとはいえ、彼らは互いの本名すら知らない関係だ。順番が逆のような気もするが、今更なのでそこは誰も気にしない。

 

「……そうですね。失礼致しました。尊き御方に対しては、私から名乗るべきだった。リューです。リュー・リオン」

 

「俺はカシマ・桜花。こっちは──」

 

「ヒタチ・千草、です」

 

 森人(エルフ)、大男、少女の順に名乗り、銀髪武闘家はその名を馴染ませるようにぼそぼそと彼らの名を繰り返すが、リューを見つめながら眉間に皺を寄せた。

 

「……?私の顔になにか?」

 

「あ、いや、ごめんなさい。あの、リオンって呼んでいいですか?なんだか呼びにくくて」

 

「……っ」

 

 銀髪武闘家が単に呼びにくいという理由での確認に、なぜかリューは驚き、そして懐かしみ、そのまま落ち込むように目を伏せた。

 

「構いません。好きに呼んでください。それに、敬語でなくても構いません」

 

「……そう?ならよろしく、リオン」

 

 銀髪武闘家は彼女の心遣いに感謝しながら、許可されたのだからと容赦なくタメ口で挨拶した。

 その挨拶にリューが余計に何かを懐かしむように、そして悲しそうに目を細めてしまうが、お構いなしに挨拶を返す。

 

「私はシルヴィア。シルって呼んでいいよ」

 

「シル、ですか?」

 

「うん。変?」

 

「ああ、いえ。愛称の方が私の友人と同じ名前でしたので」

 

「ならシルヴィーでも、そのまんまシルヴィアでも、まあ私だってわかればそれでいいよ」

 

「わかりました。シルヴィア」

 

 リューと銀髪武闘家(シルヴィア)。二人の挨拶が終わり、次に女神官と妖精弓手が名乗りをあげる。

 

「そうだ、ついでに握手でもしとこっか!」

 

「え、あ……っ」

 

 そして挨拶といえばと握手でしょと言わんばかりにリューの手を取る銀髪武闘家。

 

「「…………」」

 

 リューはなぜか彼女に手を握られている状況に驚き、銀髪武闘家は流石に馴れ馴れしくし過ぎたかとちょっと反省。

 結果、二人は手を繋いだまましばし見つめ合い、固まってしまう。

 

「え、何よ、どうかした?」

 

「さあ、どうかされたのでしょうか?」

 

 ちなみにだが、リューに限らず彼らの世界のエルフは、心を許した相手でもなければ肌同士で触れ合うことはしない。初対面の相手と握手など、できる筈がないのだ。

 だができてしまっている。その事実にリオンは驚き固まり、逆に彼女の手を握り返してしまう。

 

「「…………」」

 

 リオンは繋がり合う互いの手を無言で見つめ、銀髪武闘家は困ったように笑うのだった。

 

 

 

 

 

「俺はジブリールだ。ローグハンターとも呼ばれているし、呼ばれ慣れているから、そっちで呼んでくれ」

 

「ゴブリンスレイヤー、と呼ばれている」

 

「僕はベル・クラネルです。えと、よろしくお願いします」

 

 銀髪武闘家らが友好を深めているのとほぼ同時刻。ローグハンターたちもまた、互いに自己紹介をしていた。

 白髪の少年──ベル・クラネルは、二人が見た目ほど怖い人物ではないとわかってきたのか、その表情も心なしか先ほどまでよりも柔らかい。

 

「それじゃ、ここからどうするかだが……」

 

「移動する前にやる事がある」

 

 ローグハンターが今後の指針を決めようと頭を捻る中、不意にゴブリンスレイヤーがゴブリンの死体に近づいて行く。

 そのまま短剣で腹を掻っ捌き、手拭いで臓物を包んで血を搾り出していく。

 

「あの、ゴブリンスレイヤーさん?」

 

「奴らは臭いに敏感だ。女、子供、エルフ、そして真新しい金物の臭いにさえ気づく」

 

「あ〜、え〜と……」

 

「その鎧、少し綺麗すぎるな(・・・・・・・・)

 

 血まみれの手拭いと臓物を片手に、ゴブリンスレイヤーが戻ってくる。

 顔を真っ青にしながらやばいと思った頃にはもう遅い。背後に回っていたローグハンターがベルを羽交締めにし、ニコリと微笑んだ。

 

「大丈夫だ、すぐに慣れる」

 

「え、いや、ちょっ、待っ──」

 

 洞窟の闇の中に、湿った摩擦音と哀れな白兎の悲鳴が木霊するのだった。

 

 

 

 

 

 




感想等ありましたら、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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