SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory03 異文化の衝撃(カルチャーショック)

「ぅぅ……」

 

 ゴブリンの血を塗られ、トマトのように赤くなってしまったベルが今にも泣き出しそうな声を漏らしながら頬を垂れていく血を拭った。

 周囲に立ち込める鉄臭さは彼を汚す血の鮮度を示すようでもあり、文字通り頭から血を被ったという現実を彼に叩きつける。

 横で申し訳程度にゴブリンの血を顔や鎧に塗ったローグハンターが言う。

 

「冒険者なら血塗れになる程度で泣くな」

 

「血と臓物の臭いは冒険に付き物だ。鼻で呼吸をしろ、じきに慣れる。少なくとも、只人(ヒューム)の鼻はそうできている」

 

 その横では躊躇うことなく頭から血を被るゴブリンスレイヤーがそう告げ、二人に取り付く島もない様子にベルは肩を落とす。

 

「な、慣れるって言われても、こんなこと誰にも教えられたことなくて……」

 

 ベルの脳裏には冒険者としての常識を教えてくれた様々な人の姿を思い浮かぶが、彼らからの教えでも『血を被って臭いを消す』なんてことはなく、むしろ血塗れで帰ってきたせいで怒られた記憶があるくらいなのだが。

 

「まあ、やらないでいいならやりたくはないが……」

 

「今教わった、それでいいだろう」

 

 そんな彼の言葉にローグハンターは同情混じりの視線で首肯し、ゴブリンスレイヤーは無知を責めることなく、次に活かせと告げる。

 

「うぅ……。そもそも、なんでモンスターの死体が残るんだろう……?」

 

 言い返す気力もなく、今にも泣き出しそうな声を絞り出したベルは、哀れにも腹を掻っ捌かれた三匹のゴブリンの残骸を見下ろしながら、心底不思議そうに疑問を投げた。

 彼の疑問にローグハンターとゴブリンスレイヤーは顔を見合わせ、お互いにわからんと言わんばかりに小さく唸った。

 

「逆になんで死体が消えるんだ?」

 

「死体は、隠すでもしなければその場に残るものだと思うが」

 

 そして自分たちにとっての常識を口にし、ベルの言葉を否定する。

「えぇ……」と二人の言葉に不思議そうに声を漏らしたベルは、再びゴブリンの死体に目をやり、いっこうに灰になる気配を見せないそれから視線を外した。

 

「いい加減移動するか。またゴブリンに囲まれたら面倒だ」

 

 そうして視線をあげたベルの耳に届くのは、周囲を警戒しながらも雑嚢を探るローグハンターの声だった。

 彼はそのまま松明を取り出し、ゴブリンスレイヤーの松明から火を貰う。

 

「あの、魔石灯は使わないんですか?」

 

「なんだ、その魔石灯って」

 

 ベルの口から出た聞き慣れない言葉に、ローグハンターが聞き返す。

 

「……?魔石を使った灯りです。迷宮都市(オラリオ)の魔石製品なんですけど……もしかして、知らない、とか?」

 

「「ああ」」

 

 そして常識を教えるように魔石灯なる道具の説明し、二人に恐る恐ると問いかける。

 だが彼の淡い期待を裏切るように、ローグハンターとゴブリンスレイヤーは存じないと返す。

 一応角灯(ランタン)のようなものかと頭の中でその姿を思い浮かべるが、魔石とはなんだと根本的な問題にぶつかってしまう。

 名前からして魔力を持っていそうではあるが……。

 

「便利な品ではありそうだが、頼りきりになれば死ぬ」

 

 思慮を深めるローグハンターを他所に、知らないことに加えてここにないからと、さっさと思考を切り上げたゴブリンスレイヤーがベルに言う。

「そ、それは確かに……」と何か似たような経験があるのか、頷いたベルは気を取り直すように二人に問うた。

 

「それで、話を戻すんですけど……」

 

「なんでここにいて、これからどうするかって話だな」

 

「はい。貴方たちも気づいたらここにいて、仲間とはぐれたんですよね」

 

「ああ。その認識で構わん」

 

 ベルが話を本来の方向に戻し、ローグハンターとゴブリンスレイヤーがそれぞれ応じる。

 三人とも訳もわからずここに放り込まれ、仲間たちともはぐれた。ついでに言葉は通じるのにどこか話が噛み合わない。

 前例のない未知の状況に陥りながら、ローグハンターとゴブリンスレイヤーはいっそ怖いほどに冷静だった。

 

「なら、すぐに合流しないと」

 

 一人焦るように仲間との合流を急かすベルを、ゴブリンスレイヤーは「いや」と一言で制した。

 驚く彼を見ながら、ゴブリンスレイヤーは言う。

 

「あれらも冒険者だ。俺よりも腕っこきのな。心配はいらん。──そんなことよりもゴブリンだ」

 

「そんなことて……。ロ、ローグハンターさんはどうなんですか?」

 

 ゴブリンスレイヤーの信用の裏返しと言えば聞こえはいいが、流石に投げやりすぎる言葉にベルは思わず声を漏らし、そのままローグハンターにも問いを投げた。

 

「心配に決まってる」

 

「ですよね!」

 

 そして腕を組み、嘆息混じりに告げられた言葉にベルは勢いよく食いつくが、

 

「妻とはぐれたんだ、心配しないほうがおかしいだろう」

 

「え?」

 

 ローグハンターがなんて事のないように放り込んだ言葉に驚愕し、思わず聞き返してしまう。

 

「……妻?まさか、夫婦で冒険者を?」

 

「ああ。正確には冒険者同士が結婚して夫婦になった、だが」

 

 彼の問いかけにローグハンターが頷き、一応と情報を付け足した。

 

「あいつだって凄腕の冒険者だ。ゴブリンに遅れはとらないとはわかっているが、前に一度だけ、それで大変な事態になってな」

 

 はあと深々と溜め息を吐き、思い出すのは都での一件だ。

 たかが世捨て人の集団との戦闘。普段なら苦戦もせずに終わっただろう戦いだったにも関わらず、彼女は刺され、生死の狭間を彷徨った。

 今回もそうならないとは限らない。せめて後輩たちかゴブリンスレイヤーの一党と一緒なら安心できるのだが。

 

「先は急ぎたい。が、背後からゴブリンに襲われる間抜けにはなりたくない。合流して早々に囲まれたは笑えないからな」

 

 ローグハンターは自身に冷静になるように言い聞かせるようにそう言い、「あそこ見てみろ」と洞窟の暗闇を示した。

 暗がりからこちらを除く黄土色の瞳。それが二対。

 

「ゴブリンの斥候か。巣が近いのかもな」

 

 ゴブリンスレイヤーも気づいていたのだろう。一瞥もくれずにそう言うと、腰帯に吊るしている短剣に手を伸ばした。

 

「お前は右を」

 

「任せろ」

 

 ローグハンターとの間に交わされたやり取りはそれだけだった。

 彼もまた腰から投擲用の短剣を取り出し、放ったのはほぼ同時。そしてゴブリンの悲鳴が二つ上がった。

 

(短剣を投げて仕留めた!二人とも遅いのに(・・・・)速い(・・)……!)

 

 

 ベルは胸中で、二人の動きをそう評した。

 彼の知る冒険者には、文字通り見えないほどに速い者が多い。そういう意味では、まだ目で追える二人の動きははっきり言って遅い部類に入る。

 だが不意打ちで今の動きをされた場合、果たして反応できるだろうか……。

 

「あの、こんな暗いのに見えてるんですか?」

 

「まさか。練習した。奴らの喉の高さを狙って」

 

「練習って、どれくらい……」

 

「沢山だ」

 

 ベルの疑問にゴブリンスレイヤーはさも当然のようにそう返した。

 自称凡人である彼ができることは、まぐれを無くして確実に成功させられる技術を身につける事だけだ。

 

「じゃあ、ローグハンターさんも?」

 

「……いや、俺は見える」

 

 その流れで問われたローグハンターは、ほんの一瞬言うべきかを悩む素振りを見せるが、これから背中を預ける相手という事で情報の開示を決めた。

「え?」と困惑の声を漏らすベルに、ローグハンターは目元に手をやりながら言う。

 

「俺の場合は体質なのか、この『眼』は暗視ができる」

 

「そういう 技能(アビリティ)が使えるっていうことですか?」

 

「さあな。物心ついた頃からできたから、何とも言えん」

 

 一応鍛えはしたがと注釈を入れながら、疑問符を浮かべるベルに向けて、簡単に言いたい事だけを告げた。

 

「斥候役なら俺に任せろ。俺の『眼』は何も見逃さない」

 

「そういう事だ。俺たちは戦闘に集中すればいい」

 

「は、はいッ!」

 

 一党を支える『眼』となることを買って出るローグハンターに、さも当然というように応じるゴブリンスレイヤー。

 二人の信頼しあう様子に、『眼』のことはよくわからないながらも応じるベル。

 

「それで、話を戻すんですけど……」

 

「ああ。斥候が来たからには、巣が近くにあるはずだ」

 

「……ダンジョンに、ゴブリンの巣ですか?」

 

「ゴブリンの巣はダンジョンだろう?」

 

 ようやく回ってきた本題を切り出そうとすると、ローグハンターがその続きを口にし、同時にベルから疑問が湧き出した。

 それもゴブリンスレイヤーがすぐに答えてしまい、ベルは「それは、そうかもしれないけど……」としどろもどろになりながら首を捻った。

 

「洞窟、廃墟、遺跡。まあなんであれ人里の近くに奴らは巣を作り、増え、勢力を増していく。先程の一団だけでも二十は超える。かなりの大規模な巣穴と見て間違いない」

 

「で、その群れの斥候役をさっき仕留めたからな。そろそろ警戒し始める頃合いだ」

 

「待ち伏せし、俺たちを奇襲するつもりだろう。付き合ってやる義理もない」

 

 そんな疑問符を浮かべるベルを横目に、ゴブリンスレイヤーとローグハンターは話を進めていく。

 何なのこの人たちと若干引いた目で二人を見るベルだが、至極真面目に話す二人の言葉に耳を傾ける。

 おそらくこのゴブリンに関しては二人の方が詳しい。なら二人の判断を聞きつつ、臨機応変に動くべきではないか。

 

「面倒だ、あれをやる」

 

「祈る時間だけくれ。あいつらが巻き込まれないようにな」

 

「指輪は持たせているのだろう?」

 

「それは、そうだが……」

 

「あ、あの、何をするつもりですか?」

 

 そして再び勝手知ったると言わんばかりに話を進める二人に、ベルが再びの疑問を投げた。

 返答代わりに渡されたのは、何かの指輪だ。

 

「それを着けろ。着けたら、あの岩に登れ」

 

 ゴブリンスレイヤーは通路の端の岩を示し、先んじて登っていたローグハンターが「こっちだ」と手を振って合図してくれる。

 

「は、はい?」

 

「万が一巻き込まれたら、死ぬ気で泳げ(・・・・・・)

 

「え?泳ぐ?ダンジョンで?」

 

 ローグハンターの手を借り、岩に登ったベルに次々と情報が投げつけられる。

 そんなことをしている内に、ゴブリンスレイヤーは雑嚢に手を入れて巻物(スクロール)を取り出した。

 

「頼むぞ、神様。あいつらが巻き込まれたら、本気で呪うぞ」

 

 ローグハンターは顔の前で手を組みながら天井を見上げ、ぼそりとそう呟く。

 祈りというには脅すような声音なことを、ベルはとりあえず気にしなかった。

 

「──やるぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーが告げた瞬間、巻物(スクロール)の封が切られた。

 超自然の発光と共に、解き放たれるのは大量の海水。

 

「って、水ぅぅぅぅぅ!?」

 

 転移(ゲート)巻物(スクロール)を利用した水責め。岩に登っている三人は多少濡れるだけで済むが、通路の先で待ち構えていたゴブリンがどうなるかなど、もはや聞くまでもない。

 通路の奥から響く断末魔の叫びも濁流の音に掻き消され、三人の耳には届かない。

 

「ゴブリンが、溺れて……」

 

「横道もあるだろうが、これである程度の数は減らせるはずだ」

 

「窪地ならなお効果的だな」

 

 濁流で押し流されてきたゴブリンの死骸を見つめながら、ベルが呆然としながら声を漏らす。

 彼とて多くのモンスターを討伐してきた。だがそれは短剣をはじめとした様々な武器によるものだ。環境を利用した──モンスターの溺死など聞いたこともない。

 ゴブリンスレイヤーはふむと水責めの効果を確信するように唸り、ローグハンターはまだやりようはあるとどこか不満そうだ。

 

「あ、あの、なんで水がこんなに……?」

 

転移(ゲート)巻物(スクロール)だ。海に繋がっている」

 

「なるほど、だから大量の水が──って、溺れたらどうするんですか!?」

 

 突然の水責めに説明を求めるベルに、ゴブリンスレイヤーは手短な説明で済ませた。

 一応合点がいった様子を見せるベルだが、すぐさま自分たちが巻き込まれた場合の心配を口に出す。

 その心配を取り払うべく、ローグハンターが言う。

 

「さっき指輪を渡されただろ?あれを付けれてれば水中でも呼吸できるから、問題ない」

 

「問題ありますよ!ていうか問題しかないですよ!?そもそも海って!水中呼吸って!魔道具(マジックアイテム)ですよね!?そ、それをこんな贅沢に使っちゃっていいんですか!?頼りきりになれば死ぬって……!」

 

「それで使い惜しんで死んでは元も子もあるまい。使うべきなら使うべきだ」

 

 彼の言葉に矢継ぎ早に言い返すベル。だがゴブリンスレイヤーがあっさりとそれを切り捨て、水面を睨みつけた。

 バシャバシャと水が跳ねる音がしたかと思えば、ゴブリンたちの怒号が冒険者たちの耳に届く。

 

「流石に全滅は望みすぎたか。やるぞ」

 

 それが届いた瞬間、ゴブリンスレイヤーが腰帯に吊るした中途半端な剣を抜き、我先にと走り出す。

 ローグハンターもその後ろに続き、ベルがさらに遅れて続く。

 どうにかこうにか這い上がってきたゴブリンたちの動きは緩く、彼らの敵ではない。

 闇の中からゴブリンたちの悲鳴があがり、戦闘は何の苦戦もすることなく終わりを告げる。

 そして水が引いていくのを見届け、冒険者たちは前進を開始する。

 

「ぜ、全滅……。ダンジョンで水責めして、モンスターを全滅させるって、なに……」

 

 濁流に飲まれて壁に叩きつけられて死んだ個体や、仲間と絡み合った末に溺れ死んだ個体など、冒険者たちの進む道にはゴブリンたちの死体が転がっていた。

 ゴブリンスレイヤーとローグハンターは途中で死体から装備を拝借していくが、その背中をベルが困惑したまま項垂れる。

 

「モンスターから装備を奪う……。血を被って臭い消し……。常識が、僕の常識が崩れていく……っ」

 

 ボソボソと二人の異常行動を整理し、自分の経験や知識と照らし合わせ、やはりおかしいでしょと結論付けるベル。

 だがそんな彼の言葉を意図して聞き流した二人は、同時に「「行くぞ」」と告げてローグハンターが先導(ガイド)を開始した。

 

「歩きながらでも情報交換の続きをしておくか。さっき言ってた『オラリオ』とかいう街とか、お前の師匠の話、とか」

 

「は、はい!えっと、オラリオっていうのは──」

 

 

 

 

 

「参ったな……」

 

 不意に漏らした桜花の声に、冒険者たちの視線が彼に集まった。

 

「話を整理すると、俺たちは常識の通じない『領域』に入り込んだようだ」

 

 人の何倍も悪辣にした挙句、女子供ばかりを狙うモンスター。

 そして殺してもいつまでも消えないゴブリンの死体。

 彼らの世界ではまるで違うモンスターに、桜花は困惑しながらも眉間に皺を寄せた。

 

「……そう、ですね。私たちもそんな『領域(レルム)』があるなんて聞いたこともありませんし」

 

 女神官もまた先程説明されたオラリオという都市の話を思い出し、神妙な面持ちとなっていた。

 神々が地上に降臨した神時代。

 モンスターが巣食うダンジョンと、それに蓋をするように作られた迷宮都市(オラリオ)

 神々から【恩恵】を授けられ眷属となり、モンスターと戦う力を得た人類。

 天上から見守ってくれる四方世界とは違う、神が物理的に身近な世界。

 

「私達も初めて知りました。神様たちが、地上にいらっしゃらないなんて……」

 

 千草もまたそんな四方世界の当然を理解できないと言わんばかりに首を傾げ、妖精弓手が「案外、こっちが少数派(マイナー)なのかもね」と苦笑していた。

 そして銀髪武闘家は──。

 

「…………」

 

 無言で眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて何やら思慮している様子だった。

 地上に降臨した神。

【恩恵】を与え、眷属とする超常の存在。

 その情報だけ受け取ると、思い出されるのは『かつて来たりし者』だ。

 散々夫に迷惑をかけた挙句、彼の命と魂を利用しようとした畜生。

 

「あんまり、いい話には思えないかな」

 

 彼女の思い浮かべる神が最悪な部類のおかげで、彼らの世界があまりいいものには思えないようだった。

 神の気まぐれ一つで、大惨事になる予感がしてならないのだ。

 

「シルヴィア?」

 

 そんな彼女の呟きに気づいたリューが反応するが、銀髪武闘家は「何でない」と誤魔化すように笑った。

 

「それにしても、冒険者って一言で言っても場所が違うだけでこんなに変わってくるんだね」

 

 少々露骨に話題を変えると、頷いたのは牛飼娘だ。

 考え込む銀髪武闘家の気持ちをある程度察しつつ、とりあえず後で話そうと決めて話題を次へ。

 

「でも同じ冒険者(・・・・・)なんでしょ?素人の私としては、お任せするしかないかなって」

 

 この中でも堅気側の人間である彼女にとって、銀髪武闘家たちとリオンたちは同じ冒険者に他ならない。

 彼女から見ればその道の玄人(ベテラン)が大勢いるのだ。自分は後ろを付いていくしかできない。

 

「常識の通じない『未知』を相手取る。そう言葉にすれば普段のダンジョン探索と変わりはありません」

 

「その『未知』の毛色が違いすぎる気がするがな」

 

 リューが今の状況を『未知』と断じ、桜花が嘆息混じりに首を横に振った。

 確かに『未知』に挑んでこその冒険者ではあるが、少々常識外れにも程がある状況に、流石の彼らとて嘆いてしまう。

 

「えっと、ゴブリンスレイヤーって人とローグハンターって人が、ここにいるかもしれないんですよね?」

 

 千草が不意に投げた問いかけに、妖精弓手が頷いた。

 

「まあ、他にもいるかもだけど、あいつらなら大丈夫でしょ。伊達に私の一党じゃないわ」

 

 どこか自慢げに告げられた言葉に、銀髪武闘家は確認ついでに疑問を投げかける。

 無論、思い浮かべるのは鉱人道士と蜥蜴僧侶だ。

 

「一党って、いつもの?」

 

「ええ」

 

 その問いに妖精弓手がすぐに頷き「じゃあ、大丈夫か」と銀髪武闘家も胸を撫で下ろす。

 彼らは自分よりも腕利の冒険者だ。余程のことがなければ、無様に屍を晒すこともないだろう。

 それに合流できれば、頼りになる人たちでもある。できれば彼らも迷い込んでいて欲しいというのが本音でもある。

 

「できれば、あの()たちと一緒に居てくれればいいんだけど……」

 

 自分がここにいるということは、女魔術師や令嬢剣士、剣の乙女も来ている可能性が高い。

 他の冒険者が多ければ、それだけ合流できる可能性も高くなるのだが。

 

「とにかく、お互いの仲間と合流するのが先決だな。この暗闇で不意を突かれれば危うい」

 

 桜花が腕を組み、暗闇の奥を睨むようにそう告げるが、

 

「……彼の場合、そこまで心配いらない気がするけどなぁ」

 

「まあ、大丈夫でしょ」

 

 牛飼娘と銀髪武闘家が何とも曖昧な表情でそう返し、妖精弓手や女神官も苦笑を漏らした。

 

「ゴブリンスレイヤーさんは洞窟での戦いに慣れていますし……」

 

「ローグハンターの奴に限って言えば暗視できるでしょ?流石我らが友、アルタイルの血族よね」

 

 女神官はゴブリンスレイヤーとの冒険の経験から、妖精弓手は色々と規格外のローグハンターの『眼』を引き合いに出し、そこまで心配している様子を見せない。

 

「あなたたちの仲間と一緒なら、安心なんだけどね」

 

 銀髪武闘家は桜花たちの仲間だという冒険者の安否の方を心配していた。

 ゴブリンスレイヤーとローグハンターと合流できていれば、余程のことがなければ死にはすまい。色々と酷い目にあうかもしれないが、それは必要経費というものだ。

 

「そのローグハンターという人物と貴方の()には、そんな長い繋がりがあるのですか?」

 

「ん?ええ、そうなのよ。何百年も前にあいつの先祖がさ、誰もいない森からいきなり出てきたんだから!」

 

 リューが只人(ヒューム)とかなり親密な関係を持つ王族(ハイエルフ)のいる里という、彼女の常識ではまずあり得ない状況に困惑してしまうが、妖精弓手はそんな彼女の困惑など知らんと言わんばかりに笑った。

 

「アルタイルはもう死んじゃってるだろうけど、里の爺様とローグハンターは仲良しだしね!あいつだけじゃなくて、こいつが着てる鎧とかも爺様たちが作ったものだし」

 

「…………え?」

 

「結婚式と時には、ドレスを贈ってくださいましたしね」

 

「…………王族(ハイエルフ)が、友人とはいえ只人(ヒューム)のために、ドレスを……?」

 

「結婚式なら、あなたのお姉さんの結婚式も見に行ったもんね。懐かしいや」

 

「貴方の姉ということは、王族(ハイエルフ)の結婚式に、参加……」

 

 妖精弓手から始まった暴露大会に女神官が続き、牛飼娘が懐かしむように笑った。

 そんな彼女らの談笑にリューが困惑し、自分がよく知るエルフ像との隔絶に表情が固まっていく。

 エルフとは排他的で、結婚式をするからと森に多種族を呼び込むなど言語道断で、そんなことをすれば間違いなく排除の対象にされる。

 人との交流が深い森もなくはないが、そこまで親密な関係を築けている場所など聞いたこともない。

 シルヴィアの鎧やローブに目を向ければ、暗がりでわかりにくいが確かに流麗な紋様が刻まれており、それはリューがよく知るエルフの紋様にも似ている。

 じっと見つめられる事になった銀髪武闘家は困ったように笑い、「私もなんでこうなったかわからないんだよね」と頬を掻いた。

 

「彼自身は普通の人、ではあると思うんだけど」

 

「暗視できる眼を持っている只人(ヒューム)は、普通ではないと思うんだが……」

 

 一応の注意としてローグハンターを普通の人であることを強調する銀髪武闘家だが、すぐに桜花がツッコミを入れた。

 階位(レベル)が上がった結果に夜目が効きやすくなったならわかるが、単純に暗視ができる眼を持つなど本当に只人(ヒューム)なのか。

 

「彼の話題ばっかり話してるけど、そっちの仲間はどんな人なの?ベルっていう人がいるのは聞いたけど、もう一人いるんでしょ?」

 

 そんな男を旦那にしたという銀髪武闘家の姿に桜花が変なものを見るように見つめる中、彼女は疑問を口にした。

 リューたちの話では、彼らの仲間がもう二人いるそうなのだ。

 その一人がベル。もう一人がアミットという少女らしいのだが。

 

「ともにいれば、死することを想像させない法外の『聖女(セイント)』。貴方がたのお仲間と合流できていればいいのですが」

 

 彼女の疑問にリューが答えた。

 銀髪武闘家らのその『聖女』を知らない冒険者たちが感嘆の声を漏らす中、リューは未知なる領域ではぐれた仲間たちの無事を祈るように暗闇の奥に目をやるのだった。

 

 

 

 

 




感想等ありましたら、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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