SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory06 異文化の衝撃(カルチャーショック) 再び

「……片付いたか」

 

 桜花はその呟きと共に深く息を吐き、大剣を背負いながら剣の乙女らへと振り向いた。

 大剣は血に汚れているものの鎧には傷ひとつない。完勝である。

 女魔術師と令嬢剣士が、大立ち回りを繰り広げた彼に感嘆にも似た息を漏らす中、剣の乙女が「助けてくださって、ありがとうございます」と頭を下げた。

 

「助かりました」

 

「ありがとうございますっ」

 

 それに続くように女魔術師と令嬢剣士も頭を下げると、桜花は居心地悪そうに頬を掻いた。

 彼としてはか弱い乙女達を護るのは当然のことで、何より相手は畜生以下のゴブリンだ。容赦する理由もない。

 ようは助けて当然の状況だったから助けただけで、礼を言われるほどのことでもないと思っているのだ。

 

「お見事でした」

 

 そんな照れ臭そうにする彼も、見知った顔の登場にハッとする。

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】!?無事だったのか!?」

 

「はい。貴方が来なければ、危うかったですが」

 

 アミッドも顔見知りの登場に少し安堵した様子を見せ、僅かに表情を和らげた。

 

「お知り合いなのですか?」

 

 些細な表情の変化ではあるが、目敏くそれに気づいた令嬢剣士が問いかけた。

「はい」「ああ」と二人がそれぞれ返事をすると、なるほどと頷いた。

 ならば桜花はオラリオという場所の冒険者で、自分達とは一応は同業者ということになるのだろう。

 まあ、純粋な白兵戦能力では確実に向こうが上で、頼り甲斐も向こうに軍配があがりそうだが。

 

「あんなに激昂しながら立ち回りは冷静そのもの。いい先生に恵まれたのか、余程の修羅場を潜ってきたのか。悔しいけど、私たちもまだまだね」

 

 女魔術師は嘆息混じりにそう呟き、桜花の立ち回りを思い出す。

 ゴブリンたちを引きつけ、同時に怯えさせるように雄叫びをあげ、間合いに入った相手を一振り一殺。

 大剣(だんびら)は壁や天井に掠りもせず、地形と間合いの把握する能力も高い。

 今は個人技ではあったが、本来なら頭目として仲間たちを率いるための技能だ。

 どことなくローグハンターを思い出す程度には、恐ろしい程に正確で、大胆で、冷静な大立ち回りだった。

 彼の年齢でそこまでの領域に至るのに、果たしてどれだけの苦労と努力を重ねてきたのか。

 

「……俺は武神(タケミカヅチ)様の眷属だ。どんなに感情が乱れようと、戦場を俯瞰する術は教わっている」

 

 女魔術師の声が届いていたのだろう。桜花は何かを思い返すように神妙な面持ちになりながらそう返した。

 

「ファミリアの団長として、最悪を選ばないために」

 

 そして過去に何かあったのか、噛み締めるようにそう呟きながら小さく唸る。

 ローグハンターがこの場にいれば彼の行動に感謝しつつ、そんな最悪を選ぶかもしれない状況になるなと口酸っぱくして言われそうだなと女魔術師は少し遠い目になった。

 あの人、鷲の目を借りて戦場を物理的に俯瞰するんだよなといっそ笑いたくなる。

 

「貴方のような方を、極東では武士(もののふ)と呼ぶのでしょう」

 

 アミッドが彼の在り方を──常に己を律し、弱きを救い悪しきを砕く──そんな真っ直ぐで、強い生き方を目指す彼を褒め称える。

 

「よしてくれ。俺はそんな立派な男じゃない」

 

 だがそれすらも謙遜するように受け取らない桜花。

 謙虚が過ぎるのではと令嬢剣士が半ば呆れていると、彼は鎧の上に羽織っていた外套をアミッドに羽織らせた。

 

「嫁入り前の娘が、そんなに破けた服で肌を晒すんじゃない」

 

 彼女の服は確かに掠めた矢や槍が傷つき、あちこちが破けてその下の柔肌を剥き出しにしていた。桜花はそれに気づき、外套を渡したのだろう。

 彼の優しさに触れたアミッドは微笑んだ。

 

「流石は【武神男児(マスラタケオ)】。武神の眷属は紳士でもあるようですね」

 

「やめてくれ、その二つ名はいまだに慣れん。まあ、悪い気はしないが」

 

 桜花は言葉の通り、照れたように頬を朱色に染めながら顔を背けた。

「マス、マサラ?」と突然湧いてきた謎の言葉に令嬢剣士が困惑し、「マスラタケオよ」と女魔術師が訂正した。

 

「どんな意味ですの?」

 

「さあ?大司教様はご存知ですか?」

 

「いいえ。わたくしも初めて聞く言葉です」

 

 令嬢剣士、女魔術師、剣の乙女が揃って首を傾げる中、アミッドが説明していなかったと三人に言う。

 

迷宮都市(オラリオ)では昇華(ランクアップ)した冒険者に二つ名を与える習慣があります。【武神男児(マスラタケオ)】はこの方、桜花様の二つ名になります」

 

 そして桜花を手で示しながらそう告げて、三人はなるほどと頷いた。

 

「それにしてもマスラタケオって、なんか背中が痒くなるわね」

 

「確かに、言うのも聞くのもむず痒くなります」

 

 女魔術師、令嬢剣士がそんな二つ名の存在に何とも言えない表情を浮かべた。

 言語化が難しいが、何と言うか痛いというか、聞いてるこちらが恥ずかしくなるというか、背中がむずむずする独特な違和感のようなものを感じてしまう。

 

「初めて聞く者が驚くのも無理はない。神々が授ける名だからな。俺たちでも驚くような壮大なものも多い」

 

「そっちの神様って、割と適当なところない?もしくは変にノリがいいとか?」

 

 彼の補足説明に、女魔術師は呆れたように半目になりながら溜め息を吐いた。

 個人を象徴する名前は大事ではあるが、何というか語感の格好良さよりもお巫山戯感を感じてしまうのは気のせいだろうか。

 

「そうなのか?俺の同郷の者には【絶†影】。それと同じ時期に二つ名を与えられた者には【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)】という凄まじい名を与えられた者もいるが」

 

「「…………」」

 

 彼の少し興奮気味に、そして早口で告げられた言葉に女魔術師と令嬢剣士は顔を見合わせて困惑を露わにした。

 何だろう。やはりオラリオの神々は少し、いいやだいぶお巫山戯が入っているような気がする。

 聞くのも言うのも小っ恥ずかしくなる二つ名を眷属に与えた挙句、眷属たちもそれを良しとしている。

 

異文化の衝撃(カルチャーショック)ってやつなのかしらね」

 

「いくらなんでも強烈が過ぎますわ!?」

 

 女魔術師が遠い目で全てを受け入れようとする横では、令嬢剣士が声を荒げて混乱を露わにする。

 

「そうでしょうか?わたくしも『剣の乙女』などと呼ばれていますし、あなた方の頭目もならず者殺し(ローグハンター)と呼ばれておりましでしょう?」

 

「それとこれとは話が違いますわ!?」

 

 剣の乙女は大して気にした様子も見せずに微笑み、令嬢剣士が悲鳴をあげる。

 確かに『ローグハンター』は二つ名である。それが彼個人を意味していのか、彼の一党を意味しているのかは、その時によって解釈が分かれるところだが、少なくともあの呼び名は自然と生まれたものだ。

 こう、こう呼んだら面白くね?とかこう呼んだら笑えね?とか、そんな邪な感情は入り込んでいない筈。

 

「文化の違いにあれこれ言うのは野暮よ」

 

 うごごごごと困惑気味に唸る令嬢剣士の肩を叩き、女魔術師が思考をやめ、『慣れるわよ』とでも言いたげに遠くを見つめた。

 彼女らのやり取りに桜花が小さく声を漏らしたかと思うと、三人に問いかける。

 

「そちらの三人も、その『ローグハンター』の関係者なのか?」

 

「ええ。私とこいつが一党で」

 

「わたくしは一番弟子ですわ!」

 

 女魔術師の返答に不服を申し立てる令嬢剣士。

 女魔術師は溜め息混じりに「こっちは弟子よ」と訂正し、剣の乙女は「今は(・・)ただの友人です」と何やら意味深な笑みを浮かべた。

「そ、そうか」と彼女の圧に気圧される桜花。そんな彼に女魔術師が「三人()ってどういうこと?」と問いを返す。

 

「ああ。その妻を名乗る銀髪の武闘家とさっきまで一緒に行動していたんだが、俺だけ落とし穴に落ちてな」

 

 己の未熟を恥じるように口を噤む桜花に、女魔術師が詰め寄った。

 

「さっきまでって、まさか今は一人きりなの!?」

 

「い、いや。顔馴染みらしい小柄な神官とハイエルフ。それに俺の仲間も一緒だ」

 

 いきなり目の前に詰め寄った女魔術師から離れつつ、向こうも向こうで一党を組んでいると説明した。

 女魔術師は「ならいいわ」と胸を撫で下ろす。

 アミッドが「少々心配し過ぎでは?」と疑問符を浮かべると、令嬢剣士は「奥様に何かあれば後が怖いですから」と苦笑した。

 

「後はあの方の安否がわかれば安心なのですが……」

 

 

 

 

 

「再確認をする。何ができる?」

 

「え?何がっていうのは……?」

 

 ゴブリンの気配もない広間。松明を地面に置いての小休止中。

 ゴブリンスレイヤーがベルに問いかけた。

 その質問の意図が読み切れず、困惑するベルにローグハンターが言う。

 

「前衛なのは間違いないが、得意な武器とか、使えるのなら魔法を何回とか、そういう得手不得手の確認だ。ここまで戦い通しだったからな、今さらになるが」

 

 ゴブリンスレイヤーの圧縮された質問を、おそらく意味することを読み解きながら翻訳するローグハンター。

「なるほど」と合点がいったように頷いたベルは二人に黒い短剣(ナイフ)を見せた。

 

「一応、この短剣をメインに使っています。とても大事なもので、僕にも何かできるかも、道を切り開けるかもって思えるんです」

 

 足元に転がる松明の明かりを浴び、その刀身に刻まれた文字を浮かび上がらせる黒い短剣。

 ローグハンターとゴブリンスレイヤーは揃ってその短剣を凝視すると、ローグハンターが目を細めた。

 

「これ、かなりいいものじゃないか?」

 

「ああ。師の短剣に雰囲気が近い。いいや、むしろ……」

 

 ゴブリンスレイヤーはローグハンターの左腕──正確には籠手に仕込まれた黒き真の銀(ミスリル)の刃に目を向ける。

 

「むぅ……」

 

 いいや、そんなわけがないと小さく唸った。

 ローグハンターのそれは何万年と生きた森人の鍛冶師が、外なる神の力の断片を利用してまで鍛えられたものだ。ベルの短剣がそれに比類する業物だとは流石に思えない・

 鉱人道士がいれば正確な価値もわかったかもしれないが、自分はただの戦士でしかない。武器の鑑定は管轄外だ。

 

「とにかく、いい武器だ。大切に使え」

 

 だがその短剣が丁寧に手入れされ、ベルにとっての半身であるとは聞かずともわかる。

 ゴブリンスレイヤーはそう告げれば、ベルは「はい!」と溌溂な返事をした。

 

「で、他には。予備(サブ)の武器とかはないのか」

 

 ローグハンターがさらに問うと、ベルは「炎の魔法(ファイヤボルト)も使えます!」と勢い良く応えた。

 

「俺たちよりもよっぽど優秀だな」

 

 根っからの前衛であるローグハンターは嘆息混じりにそう告げた。

 一応使おうと思えば使えるだろう。だが『かつて来たりし者』との戦いが例外なだけであって、何の知識もなく使っていいほど、魔法は簡単でなはい。みだりに使って魔術の深淵に飲み込まれて発狂など笑えない。

 

「何回使えるんだ?」

 

 ローグハンターらにとって呪的資源(リソース)は貴重だ。出し惜しめば死ぬが、かといってばかすかと無駄に使うわけにもいかない。

 故の確認。まあ前衛との兼業なら、一度か二度がせいぜいだろう。それでも十分ではあるのだが。

 

「えっと、前に試した時は七十回くらいでした」

 

「そうか、七十回。………………七十?」

 

 ベルの言葉にローグハンターが固まり、ゴブリンスレイヤーもまた「七十回か」と自分に言い聞かせるように数字を繰り返した。

 ローグハンターはベルを見る。「どうかしましたか?」と首を傾げる少年が噓を吐いている様子はない。

 むしろこの状況で噓を吐くのなら利敵行為もいいところだろう。

 

「あ、あの!変かもしれないですけど、別にズルをしたとかじゃないです!成長期らしくて……ッ!」

 

「別に疑っちゃいない。だが少し驚いただけだ」

 

 ローグハンターが頭痛を覚えながらそう呟くと、ベルも「そうなんです!」と食いついた。

 

「僕も驚いてて!それに神様からも成長が速すぎるって驚かれちゃって!」

 

「神?」

 

 そして何度かそういった不正を疑われたのだろう。少々声音を強くして説明するベルが漏らした言葉にローグハンターが反応した。

 まるで神と会ったことがあるとでも言いたげな少年を見やると、彼は短剣を撫でながら告げた。

 

「僕にこの短剣(ナイフ)を授けてくださって、僕を眷属(ファミリア)に迎えてくれた。大切な(ひと)です」

 

 ただ静かに、けれど限りない信頼と感謝の込められた言葉に、ローグハンターは押し黙った。

 どうやら神に会ったというのも真実のようだし、彼にとって神とは親のようなものなのだろう。少なくともベル目線ではそうだ。

 その神に実は裏の顔があり、『かつて来たりし者』と同類の可能性も捨てきれないが、その時どうするかを決めるのはベル自身だ。

 

「神様からの恩寵(ギフト)、か」

 

 そこまで口にして、彼は言葉に迷った。

 自分もまたその恩寵(ギフト)を授けられたが、蓋を開けたら碌なものではなかった。

 神を自称する女に振り回され、色々と酷い目にあってきたのだ。この少年がそうならないとも言い切れない。

 

「大事にしろ。だがそれ以上に注意しろ。力には責任が伴うものだ」

 

 だから、あくまで警告に留めた。

 自分も恩寵(ギフト)によって多くの人を救ったのも事実なのだ。彼にもそうなってほしいとは思う。

 隣のゴブリンスレイヤーが小さく息を吐き、「そろそろ行くぞ」と松明を交換した瞬間だった。

 ローグハンターの頭の中に喧しい嗤い声が木霊した。

 ローグハンターは溜め息を吐き、「お客さんだ」と皮肉交じりに立ち上がる。

 その言葉を証明するように群れをなしたゴブリンが広間へと雪崩込み、三人へと迫ってくる。

 

「数が多い!どうしますか?」

 

「先程の指輪は着けているな」

 

「は、はい!」

 

「問題ない」

 

 ゴブリンスレイヤーの確認にベルとローグハンターが応じると、ゴブリンスレイヤーがベルへと告げた。

 

「《火矢(ファイヤボルト)》だ。好きなだけ撃て」

 

「え!?好きなだけ!?」

 

「早くしろ。奴らに手番(ターン)を渡すな」

 

 ゴブリンスレイヤーからの適当な指示に驚いていると、口元を布で覆ったローグハンターが急かしてくる。

 ゴブリンスレイヤーが何を狙い、ローグハンターが何を思っているのかはわからないが、ベルは意を決して右手を突き出し──、

 

「ファイヤボルト!」

 

 炎雷を放った。

「詠唱は!?」と驚くローグハンターを横目に、ベルは言われた通りに「ファイヤボルト!ファイヤボルト!」と炎雷の弾幕を展開。

 直撃したゴブリンが爆散し、掠めたがけでも四肢をもぎ取る圧倒的なまでの火力と連射能力。

 ゴブリンたちは断末魔の叫びをあげながら屍を晒していく。

 

「な、なんだか息苦しくなってきたような……ッ」

 

「構わん。続けろ」

 

「は、はいッ!ファイヤボルト!」

 

 ゴブリンスレイヤーの指示のもと、ベルは炎雷を放ち続ける。

 広間の入り口にはゴブリンの死体や残骸が積み重なり、生物が焼ける嫌な臭いが漂ってくる。

 ベルがその臭いに眉をひそめると、不意に撃たれていないゴブリンたちがもだえ苦しみながら倒れ始めた。

 何かを欲するように手を伸ばしながら、泡を吹いたかと思えば白眼を剥く。

 

「はぁ……ッ!はぁ……ッ!な、なんで!?撃ってないゴブリンが倒れて……ッ」

 

 妙な息苦しさに喘ぎながら困惑の声を漏らすベル。

 その横でどこ吹く風だと言わんばかりに肩を竦めたローグハンターは、ベルに向けて言う。

 

「例え魔法による炎でも、結局は炎だ。燃えるためには色々と必要なんだが、その中で一番大切なのは酸素だ」

 

「さ、酸素ですか?」

 

「炎も俺たちにみたいに呼吸してるってことだ。それで、狭い空間で炎が勢いよく燃え続けると、酸素が失せて窒息する」

 

 ローグハンターがだいぶ掻い摘んでゴブリンたちが倒れた理由を説明すると、ベルは額に流れる汗を拭いながら合点がいったように頷く。

 

「な、なるほど。だからゴブリンが──」

 

 そこまで言って、ふと気づく。

 

「それって、僕たちも危ないんじゃないですか!?」

 

 そして下手をすれば自分たちもゴブリンと同じ末路だったのではと慌てるベルに、ローグハンターはさも当然のように頷いた。

 

「これなら直接撃ち込んだ方が楽だし安全か」

 

「そうだな。手間を取らせた」

 

「そうだなじゃないですよ!?最初に説明してください!?」

 

呼気(ブリージング)の指輪を渡してあるだろう。あれがあれば窒息はせん」

 

「それでもです!?」

 

 なんというか手慣れている二人にベルは振り回され、先程から叫びっぱなしだ。

 さっきまで酸欠気味だったのに元気だなと呑気なことを思うローグハンターを他所に、ゴブリンスレイヤーが言う。

 

「どこかで大休止をとるべきだな。七十発も撃てるとはいえ、休息をしない理由にはならん」

 

「思えばここに来てからずっと移動してるな。どこかで本格的に休むのもありか」

 

 彼の言葉にローグハンターも同意し、ベルへと目を向けた。

 

「お前もそれでいいか。もう一踏ん張り頼むぞ」

 

「は、はいっ!」

 

 彼の確認にベルも頷くと、ローグハンターの先導で歩き出す。

 罠を見つければローグハンターが解除し、待ち伏せさえもあっさりと見抜いて警告を発する。

 万が一さえも赦さないローグハンターの瞳に、ベルは「すごい」と感嘆の声を漏らす。

 ゴブリンスレイヤーは少年の背中を見つめ、「そうだろう」とどことなく自慢げな声を漏らす。

 

「え?」

 

 突然声をかけられたベルが振り向くと、ゴブリンスレイヤーはローグハンターに目を向けながら言う。

 

「あいつも、あいつの一党も、俺より腕っこきの冒険者だ」

 

「ゴブリンスレイヤーさんも凄い冒険者だと思います」

 

「いいや。俺は冒険者よりも『なんか変なの』らしい」

 

「な、なんか変なの……?」

 

 ゴブリンスレイヤーの自虐とも取れる言葉にベルがフォローを入れるが、すぐに首を振ってさらに自虐を重ねた。

 ゴブリンスレイヤーにとっての冒険者とは、未知に挑んで金銀財宝を手に入れる──そんな冒険を繰り広げる者たちのことだ。

 ゴブリンばかりを追いかけ、追い詰め、殺す。自分は冒険者ではないと今更になって自嘲する。

 

「ゴブリンスレイヤー」

 

 そんな彼に背中越しにローグハンターが声をかけた。

 肩越しに振り向き、細められた蒼い瞳に僅かな怒りを込めて彼を睨む。

 

「なんだ」

 

「お前はもっと自信を持て。冒険者歴で言えばそっちの方が長いんだぞ」

 

「え!?そうなんですか!?」

 

「ああ。年齢はあちらが上だが、ギルドに登録したのは俺の方が早い」

 

 ローグハンターの言葉にベルが驚きを示し、ゴブリンスレイヤーが肯定する。

 ほんの数ヶ月とはいえ冒険者歴はゴブリンスレイヤーの方が上なのだ。ローグハンターから見れば正真正銘彼は先輩であり、頼れる親友でもある。

 

「何も冒険するだけが冒険者じゃない。下水掃除から商人の護衛まで。世のため人のために依頼をこなして、世界をほんの少しだけ住みやすくするのも仕事だろう」

 

 そしてローグハンターが普段から思っている自論を展開し、ゴブリンスレイヤーの行動を肯定する。

 ローグハンターは微笑みも共にそう告げて「背中は頼むぞ、都市最優」とひらひらと片手を振った。

 

「ああ。任せろ」

 

 彼の言葉と信頼に、ゴブリンスレイヤーの声色が僅かに跳ねる。

 確かにゴブリンスレイヤーの方が先輩ではあるが、ローグハンターの方が数年だけ長く生きていて、少しだけ人生経験が豊富なのだ。

 ゴブリンスレイヤーも彼のことを頼れる男だと認識しているし、信頼もしている。

 そんな彼から背中を託されるのなら、全力でやる他にあるまい。

 松明を掲げながら進む二人を追いかけるベルも、思わず微笑みをこぼした。

 確かに変な人たちかもしれないが、それ以上に経験豊かな冒険者でもあるのだ。

 この人たちとならきっとここから脱出できると、経験は少ないながらも働いた直感がそう告げてくる。

 

「いいところだが、ゴブリンだ。備えろ二人とも」

 

「ああ」

 

「はいっ!」

 

 そんな三人の出鼻を挫くように、闇の奥からゴブリンが迫り来る。

 冒険者たちは真正面から群れを迎え撃つべく、それぞれの得物を抜き放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想等ありましたら、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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