真っ先に階段を見つけ、次の
今までの道が荒く削っただけの岩窟とすれば、この先は何者かの意志により、膨大な時間をかけて整備された神殿のよう。
僅かな傷や汚れはあれど、元は凹凸一つなく磨き上げられただろう石材が上下左右を囲み、冒険者に進めと促すように奥へと続いている。
だが、彼らのやることは変わらない。
「GBR!?」
「G──ッ!?」
「GRA!?」
ゴブリンの群れを蹴散らす。それだけだ。
銀髪武闘家の脚刀がゴブリンの首を飛ばし、妖精弓手の一矢がゴブリンの眼窩を貫き、リューの木刀の一撃がゴブリンを纏めて吹き飛ばす。
「流石に多いねっと!」
跳ね飛ばした首の落下に合わせて身をよじり、思い切り蹴り飛ばしながら悪態を吐く銀髪武闘家。
放たれた生首は奥で弓を構えていたゴブリンに直撃し、矢を放つのに一拍の遅れを生み出し、
「ゴブリンなんだから当然でしょ!」
その隙を見逃すはずがない妖精弓手がすかさず矢を放ち、痛苦に喘いでいたゴブリンの口腔を貫いた。
「そうだけどさ!」と彼女に反論できずに唸った銀髪武闘家は、跳びかかってきたゴブリンにその苛立ちをぶつけるように拳を叩き込む。
ぎち……!と骨が歪む異音と共に血を吐き、その場に蹲ったゴブリンの後頭部を踏み砕いて撃破し、続けざまに跳びかかってきたゴブリンには顔面に掌底を叩き込み、その壁に叩きつけた。
骨が砕け、肉が爆ぜる湿った快音を響かせ、ゴブリンの脳漿が壁の染みとなる。
「そんじゃ、次……!」
返り血に頬を汚し、掌にこびりつくゴブリンの脳漿を見せつけながら叫び、その気迫に怯えたゴブリンたちが一瞬たじろいだ瞬間、リューの疾風の如き剣戟がそれら全てを終わらせた。
戦闘の音に包まれていた廊下に静寂が戻り、冒険者たちは小さく息を吐く。
「終わったようです」
リューが返り血一つない木刀に手癖のように血払いをくれる中、後ろに控えていた牛飼娘が銀髪武闘家に近づいた。
「これ使って」と手拭いを差し出し、銀髪武闘家は「ありがと」と感謝しながら頬の血や掌の肉片を拭っていく。
血塗れになってしまった手拭いを「今度新しいのあげるね」と断りを入れてから雑嚢にしまい、牛飼娘は「じゃあ、今度一緒に買い物だね」と約束する。
友人同士が笑顔の交換を終えると、銀髪武闘家は血塗れの廊下を見渡す。
「ちょっとやり過ぎたかな?」
「いいんじゃない?ゴブリン殺すべしってね」
妖精弓手がゴブリンスレイヤーの真似をしながら言うと、銀髪武闘家は「ならいっか」と苦笑混じりに体を伸ばした。
戦闘で疲労した体が伸びる感覚が心地よく、力を抜きながら伸ばした腕を降ろす。
そうして呼吸を整えた冒険者たちは奥へと進む。
ゴブリンの奇襲はあれど、それすらも容易く返り討ちにして無機質な廊下を進んで行くと、
「分かれ道、ですね」
「だね」
彼らの前に左右に分かれる二股の廊下が姿を見せた。
女神官が後方も警戒しながら呟いた言葉に銀髪武闘家が頷き、妖精弓手と
二人が分かれ道を偵察し、他の冒険者が周辺を警戒する。
「どっちが正解かな」
「見る感じ右かしらね」
腕を組みながら左右に伸びる廊下を睨む銀髪武闘家。
彼女の足元に這いつくばり、右に続く廊下の方が下へと進んでいることに気づく妖精弓手。
何かを求めるなら左。先を急ぐなら右。ということか。
さてどうしたものかと悩む二人だが、とりあえず仲間たちと合流した。
分かれ道の推察を共有し、どうするかを話し合う。
「って言っても、今更寄り道してもね……」
「どちらにせよ進んだ先に罠があるなら、少しでも前に進むべき、でしょうか」
「正解の道なら、私たちで罠の解除した方が後ろの連中も楽になるでしょ」
銀髪武闘家、女神官、妖精弓手がそれぞれの──けれど同じ答えを口にすると、リューと千草、牛飼娘も頷いた。
「賛成です。既に誰かが最奥にたどり着いているかもしれない」
「桜花がいるかもしれないし、誰もいなくてもなにか仕掛けがあるかもしれないし」
「私は皆にお任せ、かなぁ……」
リューと千草が仲間との合流に賭け、牛飼娘は素人として変な混乱を起こさないように慣れている冒険者に任せることを選ぶ。
ならば進もうと冒険者たちは右の道を行く──その前に、雑嚢から
ローグハンターならこんなものも必要ないが、他の冒険者たちが通る時に訳も知らずに左に進まれても困る。
今度こそと冒険者たちは出発し、最深部を目指して進んでいった。
ローグハンター達も遺跡区画へと侵入を果たし、最深部を目指していた。
岩を削っただけの岩窟からだいぶ歩きやすい道へと変わり、彼らの速度も自然と上がる。
「戦闘があったな」
そしてたどり着いたのは、ゴブリンの惨殺体が放置されている廊下だった。
強い力で蹴り殺されたものから矢で撃たれたもの。他にも何か鋭利なもので切り裂かれたもの。
壁にもゴブリンが叩きつけられたのか、飛び散った脳漿と壁の凹みがゴブリン達を襲った者たちの精強さを物語る。
ベルも流石に壁が凹んでいることには驚きつつ「誰がいたんでしょう」と疑問符を浮かべ、ゴブリンの残骸を観察した。
ゴブリンスレイヤーも小さく唸る中、ローグハンターだけはその目を輝かせていた。
彼の『タカの眼』にははっきりと映っているのだ。ここで行われた戦闘の一部始終が。
見慣れないエルフの疾風の如き剣戟が。
もはや見慣れたエルフの神技じみた弓術が。
何より、その体術でゴブリンを蹴散らす妻の姿が。
ローグハンターの表情が変わったことは、ゴブリンスレイヤーにも、付き合いの短いベルにもわかった。
「見つけたか」
「ああ。あいつらだ」
ゴブリンスレイヤーの問いかけにローグハンターは声色を跳ねさせ、僅かに口角をあげた。
だがすぐに異変に気づき、目を細めた。
他にも女神官らしき人影と、もう一人小柄な人影もあるが、問題はもう一つ。
見覚えのある輪郭は、自分よりもゴブリンスレイヤーとの関わりが深い。
というか多分お互いに想ってはいるが、深くは踏み込まないでいる関係と言うべきか。
「牧場の奴がいる」
「なんだと」
「俺を疑うのか?」
「いや。だが、あいつもいるのか」
隠す必要もないと告げたローグハンターにゴブリンスレイヤーが小さく唸る。
「急ぐぞ」
「ああ」
ゴブリンスレイヤーの指示にローグハンターは即答し、困惑気味のベルへと目を向ける。
「おそらくお前の仲間と一緒だ。行くぞ」
「はい」
三人とも警戒は怠らず、けれど先に進む足が速まる。
罠らしいものもなく、あるのはゴブリンの死体ばかり。銀髪武闘家らの獅子奮迅の活躍を『タカの眼』なしでも教えてくれる。
そんな無惨な残骸を横目にたどり着くのは左右への分かれ道。
隠し通路はなかった。銀髪武闘家達が他の道に行った可能性はない。
「壁に印が」
ベルが指差す場所にあるのは壁に描かれた矢印。
僅かに掠れてはいるものの、見たままで読むならば。
「左、でしょうか」
「矢印はそうなっているな」
ベルとゴブリンスレイヤーは左の通路を示す矢印に目をやり、示されるがまま左に目を向けるが、
「いや、右だ」
ローグハンターが待ったをかける。
『タカの眼』が示すのは、銀髪武闘家が右を示す矢印を描き、仲間たちと共に右の通路へと進んでいく姿。
そしてその矢印を消し、左の通路で待ち受けるゴブリンの姿だった。
「あいつらは右に行った。これは罠だな」
俺を騙せると思ったかと小さく鼻で笑い、銀髪武闘家は右に行ったと改めて告げる。
問題は左にはゴブリンがいることが確定していること。このまま右に進み、銀髪武闘家らが何かと戦闘していた場合、わざわざ挟み撃ちの形を作ってしまうことになる。
「どうする。念のため、潰してからいくか?」
仲間との合流を急ぐ気持ちもわかるというか、今すぐにでも追いつきたい気持ちもあるが、敵を引き連れていく可能性があるとなれば話は変わる。
ゴブリンスレイヤーはベルに目を向け、「どうする?」と問いかける。
ゴブリンスレイヤーの答えは既に決まっているが、一党の意識の統一するという意味でもその問いは必要だ。
ベルが「行きましょう」と左の通路を睨みながら告げると、立ち止まる冒険者たちに我慢できなかったのか、廊下の奥からいくつもの黄土色の眼光が迫ってきていた。
ローグハンターの頭の中には下卑た嗤い声が響き渡り、反射的に発動した『タカの眼』には三十にも迫るゴブリンの大群が映る。
「ベル。さっきの撃てるか」
「はい!」
「なら、やるぞ。溜め終わったら言え」
ローグハンターの問いかけにベルは胸の前で拳を握りながら返すと、ローグハンターは抜刀と同時に飛び出していく。
ゴブリンスレイヤーも「ゴブリンは皆殺しだ」と紅の眼光を放ちながら走り出し、ゴブリンの群れへと挑む。
ベルの握られた拳に燐光が宿り、小さな鈴の音と共に粒子が集まっていく。
同時に先鋒を務めたゴブリンの鼻面にローグハンターの膝が、もう一匹の眼窩にはゴブリンスレイヤーの投げナイフが突き刺さる。
その断末魔を合図に、三人とゴブリンとの戦闘が幕をあげるのだった。
先に進む銀髪武闘家の一行と、その背を護るためにゴブリンとの戦闘に突入したローグハンター一行。
だが剣の乙女の一行には、いっそ不気味なほどな静寂に包まれていた。
ゴブリンの襲撃はおろか罠もない。ただ無機質な通路を進むだけの時間が過ぎていく。
「……油断しろとでも言いたげね」
「ええ。ここまで何もありませんと、逆に身構えてしまいます」
だが冒険者たちの間にあるのは程よい緊張感だった。
冒険者たちが油断した瞬間を狙い罠をしかけ、
「迷宮には意志があるとは、有名な話ではあります」
剣の乙女はかつての失敗を思い起こすように眼帯越しに瞳を撫でながら言うと、アミッドと桜花もなにか覚えがあるのか表情を固くした。
二人にとってのダンジョンとは、無尽蔵にモンスターを産み出す魔境である。
同時に冒険者たちの間には『ダンジョンには意志がある』と断言する程度には、明確に殺しにくる瞬間というものがある。
だからこそ、ダンジョンでは決して油断してはいけない。それは
「だからこそ気をつけねばなりません。全てが上手くいっている時こそ、足元を掬われることがあるのです」
「ここが最深部?」
銀髪武闘家らがたどり着いたのは、とても広い空間だった。
建物五階分に相当する縦方向への吹き抜けに、円を描くように等間隔に並んだ極太の石柱。
広間の外周に沿うように続く螺旋階段が上へと登っていき、どこに続くかもわからない出入り口が複数口を開けている。
だが冒険者たちが目を向けたのは広間中央。そこに鎮座する祭壇だった。
ドス黒い瘴気を纏い、その奥には脈動するように明滅を繰り返す何かがある。
「あれを壊すなりすればなんとかなるんじゃない?」
「流石に
妖精弓手が興奮したように笹葉の耳をピンと伸ばして言うと、銀髪武闘家が辺りを警戒しながら言う。
確かに祭壇は怪しいが、逆に怪しすぎる。他に何かある、確実に。
冒険者としての勘が警鐘を鳴らす中、バタバタと騒がしい足音と喧しい嗤い声が広間を囲む出入り口の奥から聞こえ始める。
「皆、来るよ!」
「ここが正念場ってやつね!」
銀髪武闘家の警告に妖精弓手が打てば響くような声で応じ、手頃な瓦礫の上に飛び乗って射線と視界を確保。
そして耳を揺らして足音を探り、真っ先に入ってくる入り口に向けて弓を向ける。
「お二人は私の後ろに」
「私が前を。シルヴィア、私と共に!」
女神官が牛飼娘と千草を連れて瓦礫に身を潜め、リューと銀髪武闘家が前衛に。
彼女の言葉に振り向くことなく拳を掲げることで応じた瞬間、
「GORAAA!!」
ゴブリンたちが姿を現す。
小柄なものから弓を構えたもの。五匹の
「GBRAAAAAAAAA!!」
そして彼らに檄を飛ばすのは骨で作られた王冠を被る
深く息を吐き、頭の中でバチリと何かが嵌る音がした。
心臓の鼓動が早まり、増大した血液の循環に耐えるように四肢の血管が浮かび上がる。
瞳が熱を持ちながら視界を拡張し、吐き出す息にも熱がこもる。
「来い……!」
拳を構えながら銀髪武闘家が吼え、それが合図となってゴブリンと冒険者たちの戦いが幕を開ける。
ゴブリンたちの矢が放たれる間際、妖精弓手の緩やかな弧を描く曲射が一列に並んだ五匹を纏めて射抜いてそれを阻止。
銀髪武闘家とリューが同時に駆け出し、片や蹴りで、片や木刀で、前衛を務めるゴブリンを薙ぎ倒す。
たった二人で数十匹のゴブリンを相手取り、後ろには行かせないとド派手に立ち回る。
普通の個体のゴブリンなどものの数ではない。文字通りに撫でただけで雑兵は屍を晒し、援護しようと弓を構えればすかさず妖精弓手に射抜かれ、呪文も唱える隙を与えない。
「GBR!」
ゴブリンロードはホブとチャンピオンに指示を出した。
唾を吐きながら出された指示は手短ではあるが、それを聞いた彼らの顔が醜悪に歪む。
どうせ倒せた奴にあの雌を独り占めにさせてやるとか、それ以外だとしても褒美は弾むぞ程度の下賎なものだろう。
だがどんなに体格に恵まれようともゴブリンはゴブリン。本能には逆らえない。
ゴブリンの隊列を掻き分け──文字通り、邪魔な兵士を蹴散らし、その血肉を礫にして銀髪武闘家とリュー、妖精弓手を攻撃しながらホブとチャンピオンが迫ってくる。
「デカいのが来るわ!」
「見ればわかる……!」
瓦礫の上から飛び退き、飛ばされてきたゴブリンの死体を避ける妖精弓手。
同時に叫んだ警告は、前衛二人には少々遅かったか。
銀髪武闘家とリューの前には、見上げるほどの巨体を持つホブゴブリンとゴブリンチャンピオンがたどり着く。
下卑た嗤いをそのままに、品定めするように舌なめずりする。
銀髪武闘家の豊満な乳房や肉付きのいい四肢を、リューの細身に引き締まった肉体を、どう弄んでやろうかとその瞳が嗤っている。
「シルヴィア。私のことを、信じてくれますか」
「今さらなに言ってるの。信じるに決まってるでしょ」
リューからの問いかけに銀髪武闘家は当然と言わんばかりに頷くと、リューはその信頼に答えるべく、切り札を切ることにした。
「魔法を使います。援護を」
「任せて!」
リューの言葉に即答し、拳を構える銀髪武闘家。
リューも木刀を構えながら、詠唱に入る。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に
妖精の歌が戦場に静かに響く。
彼女を中心に魔力が高まり、その迫力にゴブリンたちも臆するが、それも一瞬のこと。
「GBRAAAAAAAAAAAAA!!」
「GBBBBRRRRRRR!!!」
彼らは己を鼓舞するように吼え、二人に向けて突貫を開始。
すかさず始まるのは妖精弓手の援護。放たれる矢弾がホブの眼窩を貫き絶命させるが、チャンピオンはその巨体を盾代わりに掲げて突き進む。
生き残ったホブも手頃な死体を盾代わりに、残ったチャンピオンは棍棒を盾に。
無論、妖精弓手がその程度で打ち損じるかと言われれば答えは否。
放つ矢弾は寸分の狂いなく盾でも庇いきれない足や手、肩を射抜き、ついでに呪文を放とうとしていたシャーマンを仕留める。
そして盾を作ったことで自ら死角を増やしたホブの懐に、銀髪武闘家が踏み込んだ。
「イィィィィヤッ!!」
怪鳥を響かせながら放つ拳が鳩尾を撃ち抜き、肋骨諸共に肺を破裂させる。
ガボガボと血の泡を噴きながら倒れるホブには一瞥もくれず、チャンピオンが振り下ろされた棍棒を回避。
潰され、粉砕されたホブの肉や骨の欠片が飛び散り、礫となって銀髪武闘家の頬に傷をつけた。
「【愚かな我が声に応じ、今一度
リューの詠唱は続く。ホブたちの隙間を潜り抜け、呪文を放とうとしたシャーマンを斬殺しながら、彼女は加速していく。
戦場に似つかわしい美しい歌が、彼女を中心に響く。
ゴブリンたちもそれに嫌な予感を感じ、止めようとするが、
「デリィヤァ!!」
彼女に意識を向けたホブの顔面に銀髪武闘家の膝蹴りが叩き込まれ、鼻諸共に頭蓋を砕かれる。
そのまま首に手をかけて引き倒し、後方から放たれた『
「GB!?」
杖を掲げていたシャーマンは仕留め損なったと悪態を吐くが、その瞬間に頭に矢が突き立った。
間抜けな断末魔と共に倒れるシャーマンには一瞥もくれず、チャンピオンを煽るように「こっちこっち!」と声を張り上げる銀髪武闘家。
ほれほれと手招きしつつ、べっと舌を出して更に煽る。
「GBRRBA!!」
「GBRRRRRR……!」
チャンピオン二匹とホブの意識がそちらに流れ、ホブたちが彼女に向けて殺到していく中、
「【来れ、さすらう風、流浪の
リューの歌は終わりを迎えようとしていた。
彼女の体内を渦巻く魔力が臨界へと至り、風となって彼女を包む。
「GB……!」
「余所見するな!」
愚かにも銀髪武闘家に肉薄したがらリューへと意識を向けてしまったホブが一匹、彼女の蹴槍の餌食となる。
股間に叩き込まれた鉄靴が何かを砕いて潰し、その想像を絶する激痛にホブは悲鳴をあげてのたうち回る。
その悲鳴の中、リューの歌が完成する。
「【星屑の光を宿し敵を討て】」
詠唱が終わると生まれた十数の光球に彼女が纏う風が集っていく。
唸る轟音。肌を震わせる圧倒的なまでの魔力。
銀髪武闘家は素早くその場を離れて手頃な遮蔽に飛び込んだ瞬間、
──ルミノス・ウィンド。
リューは魔法名の宣言と共に光球を発射。
暴力的な魔力を孕んだ光球がゴブリンたちに降り注ぎ、着弾と同時に炸裂。
断末魔の叫びすら赦さず、その肉体を打ち砕く。
ホブも、チャンピオンも、シャーマンも、そしてロードすらも例外はない。
魔力の爆炎と轟音、そして旋風。
生存不可の抹殺領域を生み出し、それに囚われたあらゆる存在を無に期していく。
そして轟音が止み、爆煙も晴れて戦場に静寂が戻るとそこにあったのは残骸だった。
千切れたゴブリンたちの手足や頭部があちこちに散らばり、血の海となっている。
ただのゴブリンも、ホブも、シャーマンも、チャンピオンも。例外は──。
「GBB、RRR……」
いた。ロードだけに両脚と右腕を失った状態で生き残り、祭壇に向けて這い進んでいた。
単にリューから一番遠かったというだけで生き残った哀れな王は、何かに縋るように祭壇を目指していくが、
「そこは死んどいてよ」
その前に立ちはだかった銀髪武闘家が無感動に足を持ち上げ、無慈悲に振り下ろす。
彼女の足で頭蓋を潰され、脳漿をぶち撒けながらその命を終える。
ホッと息を吐いた銀髪武闘家がリューへと目を向けると、彼女は仕留め損なったことが不服なのか少々不機嫌そうだ。
妖精弓手は「お疲れ様〜!」と瓦礫に腰掛けながら手を振り、女神官と千草、牛飼娘が物陰から顔を出して手を振っている。
さて、後はと振り向いた銀髪武闘家の視線の先にあるのは禍々しい祭壇。
壊せばいいのだろうが、どうやれば壊れるのかがわからない。殴ればいけるだろうか。
銀髪武闘家が迷っていると、不意に祭壇が光り輝いた。
瘴気の奥で何かが脈動し、魂を揺さぶってくる。
銀髪武闘家が目を見開いて構えをとる中、不意に足元から音がした。
ずりゅずりゅと、何か湿ったものが滑る音だ。彼女が視線を下ろすと、そこには頭を失ったロードの死体が、引き寄せられるように祭壇へと近づいていっていた。
いいや、ロードだけではない。他のゴブリンも死体も同様に、祭壇へと集まっていく。
これはやばいと直感した銀髪武闘家が祭壇から離れようとした瞬間、生者を拒む衝撃波が彼女を吹き飛ばす。
不可視の何かに殴られて吹き飛び、床を転がっていく彼女とは逆にゴブリンの死体は次々と祭壇へと飲み込まれ、やがてあちこちにある出入り口からもゴブリンの死体が集まり、祭壇へと呑み込まれていく。
瘴気が広がる。生物が腐った異臭が鼻につき、冒険者たちは顔を顰めた。
光が集う。瘴気の奥で、何かが産まれ落ちようともがいていた。
「今度はなによ!何が起きてるの!?」
妖精弓手が油断なく弓を構えながら叫ぶが、生憎と答えられる人物はいない。
その異変は文字通り迷宮全域で起きていた。
ローグハンターの一行も全滅させた伏兵の死骸がどこかに引っ張られていくことに目を疑いながらもそれを追いかけ、剣の乙女たちも同様。
迷宮の奥で何かが起きようとしていると冒険者たちは先を急ぐ。
そしてそれを見守る神々もまた、それに驚愕を露わにしていました。
本来の
大変だ!大変だ!と《幻想》が騒ぐ正面では、《美》の女神が頬杖をつきながら「落ち着きなさい」と《幻想》を宥めます。
もっとも、《美》の女神も多少狼狽えてはいるのです。物語も終盤。この冒険の結末はと手に汗を握って応援していたら、いきなり『金色の骰子』が転がってきて、盤面を掻き回してきたのです。
けれど骰子の主人はいません。だって彼が──ローグハンターが殺したのですから。
じゃあ、これはなにと聞かれれば、『置き土産』という他にありません。
ただの嫌がらせか、あるいは『かつて来たりし者』がこの迷宮に用意していた何かを偶然発動させてしまったのかはわかりませんが、とにかく奴が手を加えていたようです。
こんなことにも気づかないとは情けない!
《幻想》は頭を抱えますが、けれどその目はやる気満々です。
ここは四方世界。
ならば《幻想》がすることはただ一つ。
と、その前に。
『巻き込んじゃってごめんね』
こちらの争いに巻き込んでしまった《美》の女神に精一杯謝っておきます。
盤に額を擦り付けて、全身全霊で。
「いいわよ、このくらい。けれど、そうね……」
《美》の女神は困ったように笑いながらそう言いますが、その視線は彼女の世界の冒険者へと向けられます。
「この子達が無事に帰れなかったら、ちょっとは恨むかも、ね」
そう言ってコツンと、リューとベルを示す駒を指で小突きます。
「それで、これはなに?」
《美》の女神は現れた敵を汚物を見るような目で見下ろしながら《幻想》へと問いかけます。
ぱらぱらと専用のルルブを──ローグハンターの出身世界について纏めたものです。とても頑張って作りました──をめくり、それっぽい敵キャラを見つけます。
『これは────』
数十。あるいは百を超える死体を飲み込んだ祭壇が──そこに安置されていた何者かの遺体が、体の内を苛む激痛に悲鳴をあげた。
瘴気を突き破ったのは十数本の腕だった。病的なまでに青ざめた肌が不気味に脈動し、関節を出鱈目な方向に折り曲げながら体を支えるように床にめり込む。
何かが立ち上がる。あまりにも細い両脚が、床を砕くほどの力で大地を踏み締め、その巨体を持ち上げる。
纏う瘴気が薄くなり、その奥で金色に輝く幾何学模様が浮かび上がった。
それに見覚えのある銀髪武闘家ら四方世界の冒険者たちは表情を歪め、彼らの露骨な反応に異邦の冒険者たちは困惑する。
そんな中、ついにそれは姿を現した。
死体を継ぎ接ぎした結果生まれた、哀れな肉塊にして破壊の化身。
元の顔を隠すように貼り付けられた金色の仮面には幾何学模様が浮かび上がり、それが彼が何者かを証明する。
かつて来たりし者たちにとってもそれは禁忌であり、それは冒涜であり、存在そのものを抹消された古代兵器──ヘカトンケイル。
『お前、誰だ……』
幾人の人と魔物の声が混ざり合う不気味な声で冒険者たちに語りかけ、怪物が喋った事実に驚く彼らの反応など見向きもせず、激痛に苛まれる頭を抱えた。
胸部に埋め込まれた心臓代わりの
────苦痛を。死を。世界に破滅を。
『ぐるぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
怪物は物理的な破壊力を伴う咆哮をあげ、驚倒する冒険者へと飛びかかるのだった。
期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー
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見たい!
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別にいいです……。