SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory08 人喰い鬼(オーガ)

「━━人喰い鬼(オーガ)。予想通り、出てきたな」

 

 ローグハンターは驚いた様子もなく、不敵に笑んだ。

 それを挑発と受け取ったのか、オーガは憤怒の表情を浮かべる。

 

「予想通り、だと。貴様、この我が魔神将より軍を預かったことも予想通りだと言うのか!」

 

「軍?ゴブリンしかいなかったが……」

 

 ゴブリンスレイヤーが首を傾げ、周りを見渡す。

 その軍とやらも、たったの四人が黙々と進めた作業によって全滅しているのだが、オーガは不敵に笑う。

 

「ゴブリンどもは全滅か。だが、三匹も連れてくればすぐに増える。幸い、目の前には女が━━━」

 

 言い切る前に、ローグハンターのグレネードランチャーが火を噴いた。

 僅かに放物線を描いて飛んだグレネードは、オーガの顔面に直撃し、スリープガスを直接叩き込む。

 途端にオーガは足をふらつかせ、頭を振って額を押さえる。

 

「……?な、なんだ……」

 

「効いたようだな。散れ!」

 

 効果を確認したローグハンターの号令で、一党は各々の持ち場を目指して走り出す。

 ローグハンター、銀髪武闘家は細工のされたロープダートを片手に回廊を駆け上がり、妖精弓手と女魔術師も二人に続き、オーガの顔を狙える位置についたら二人と別れて身を潜める。

 蜥蜴僧侶、ゴブリンスレイヤー、女神官、鉱人道士の四人はオーガの視界におさまりながら、戦鎚の間合いの外に出ることを意識して身構える。

 鉱人道士は赤い壷の中身をあおるとそれを吹き出した。

 飛沫は霧となり、意識がはっきりし始めたオーガの体を包み込む。

 

「《呑めや歌えや酒の精(スピリッツ)。歌って踊って眠りこけ、酒呑む夢をみせとくれ》」

 

酩酊(ドランク)』の術が、覚醒しかけていたオーガを再び微睡みへと導き、さらに時間を稼ぐ。

 ローグハンターと銀髪武闘家が作戦の要だ。二人が位置につくまで、何が何でもオーガをその場に釘付けにしなければならない。

 その時は、すぐに来た。

 フリーランを会得済みの二人は多少の瓦礫や段差、穴を気にせず走り抜ける。

 二人ともそれなりの装備重量の筈なのだが、それを感じさせないほどに動きは森人にも似て軽やかだ。

 女魔術師はオーガを警戒しつつも二人の動きを観察し、少しでも盗み、早く追い付けるようにと意気込む。

 ローグハンターと銀髪武闘家の二人がたどり着いたのは、オーガの上に位置する場所。

 二人は鉱人道士がロープダート数本を束ねて製作した『強化ロープダート』の端を柱に巻き付けて固定、さらに組み合わせて輪を作る。

 その輪は、オーガの首に見事に巻き付く大きさだ。

 

「━━ぬうわ!眠りの術とは、小癪なことを!」

 

 気合い一閃と共に覚醒し、オーガはその戦鎚を冒険者たちに向けるが、明らかにその数が減っていることに気づく。

 彼は「逃げ出した腰抜けどもと、それを守ろうとする愚か者ども」と判断し、目の前の四人に意識を集中させる。

 逃げ出した冒険者など、恐れるに━━。

 オーガがニヤリと笑った瞬間、女神官が錫杖を掲げて祈りを捧げた。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたくしどもに、聖なる光をお恵みください》!」

 

 彼女の祈りに優しき地母神は応え、『聖光(ホーリーライト)』の奇跡は無事に発動した。

 余裕の笑みを浮かべていたオーガの視界を焼き焦がし、上から降下した二人の姿を覆い隠す。

 二人は腕で目を庇うオーガの肩に乗り、そのまま首にロープをかけると、何の躊躇いもなく飛び降りた。

 二人の行く先には蜥蜴僧侶。彼は強靭な両腕を大きく広げ、落ちてきた二人をしっかりと抱き止めると、ゴブリンスレイヤーに向けて一度頷いて見せた。

 

「チィ!冒険者どもが、何を考えて━━」

 

「泥だ、早くしろ」

 

「ほいきた!《土精(ノーム)水精(ウンディーネ)、素敵な(しとね)をこさえてくんろ》!」

 

 ゴブリンスレイヤーの号令に素早く応じ、鉱人道士は触媒である石を放って『泥罠(スネア)』を詠唱。

 転がった石はオーガの足元で止まり、それを中心に泥が広がり、足場を悪くしていく。

 

「潰せ!」

 

 再び飛んだゴブリンスレイヤーの号令に答えたのは、妖精弓手と女魔術師の二人。

 

「任せなさい!そっちも行けるわね!」

 

「大丈夫よ!《サジタ()……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)》!」

 

 妖精弓手が矢を放ち、女魔術師は『力矢(マジックミサイル)』を射ち放つ。

 光が止んだのはそれとほぼ同時。オーガが目を庇った腕を退かした瞬間に、二つの矢が左右それぞれの目を撃ち抜いた。

 

「がぁあああ━━━ッ!」

 

 不意打ちのダメージに体が大きく後ろに仰け反った瞬間、重心がずれたことでギリギリでバランスを保っていた足を『泥罠(スネア)』に取られて滑らせた。

 その瞬間、強烈な力で首を締め付けられ、あれほど吸えていた空気が吸えなくなり、喉が潰れて言葉さえ発せなくなる。

 豪快に足を振り上げ、飛び散った泥がゴブリンスレイヤーたちに降りかかるが、彼らの攻撃はそれで終了だ。

 背中から倒れそうになったオーガの体重を、首にかけられた一本のロープだけが支える。

 オーガの首には強靭なロープがかけられ、両目を潰されて何も見えず、足を踏ん張ろうにも泥で滑ってそれが許されない。

 つまるところ、今のオーガは━━━。

 

「『絞首刑』と言ったところか」

 

 ローグハンターは安全な場所で体についた泥を払いつつ、じたばた暴れるオーガに目を向けた。

 手にした戦鎚を取りこぼし、両手で首のロープをどうにかしようとしているが、オーガの指で摘まむには余りにも細い。

 圧迫された首にロープが食い込み、血の巡りが一気に遅くなったからか、頭の各所に血管が浮かび始めた。

 死ぬまでかなりの時間がかかりそうだが、別に構わないだろう。

 妖精弓手と女魔術師が降りてくると、若干の同情の念が込められた視線をオーガに向けた。

 そのオーガはいまだに暴れているが、少しずつ大人しくなり始めている。

 ゴブリンスレイヤーは顎に手をやり、大きく息を吐いた。

 

「……見張りをたてて、休憩だ。少なくとも、動かなくなってからも数分待つぞ」

 

「生命力が高そうだからな。動かなくなっても、死んだフリの可能性もある」

 

 ローグハンターが頷くと、女魔術師に目を向けて優しく笑った。

 

「指示通り、完璧だったぞ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 まっすぐ見つめられて照れたのか、女魔術師は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 そんな彼女の反応にも慣れたもので、ローグハンターは苦笑する。

 銀髪武闘家は二人のやり取りに不機嫌そうに頬を膨らませると、ぶんどるようにローグハンターの腕に抱きついた。

 

「ちょっと、私には~?頑張ったでしょ~?」

 

「そうだな。よくやった」

 

 女魔術師に向けたものとはまた違う、親愛の情が込められた笑みを浮かべ、彼女の髪を優しく撫でる。

 

「ふへへ、もっと誉めて~」

 

 気持ち良さそうに目を細めてさらに催促しているが、ローグハンターは手を止めた。

 彼の視線の先には、ついに動きを止めたオーガの姿。

 死ぬと筋肉が仕事を辞めるため、内側にあるものが次々と垂れ出てくると言うが……。

 

「死んだのか?」

 

「確かめる方法はある」

 

 ゴブリンスレイヤーの問いかけに、ローグハンターはタカの目を発動させてオーガを睨む。

 本来はっきりと見える赤い影が薄くなっているが、まだ僅かに色が残っている。

 

「……もう少しと言ったところだな」

 

「ならば待つだけだ。不用意には近づけん」

 

 首を吊られたオーガを警戒しつつの小休止。

 ふと、ローグハンターが何かを思ったのかゴブリンスレイヤーに目を向けた。

 目を向けられた彼も、何かを思っていたのか首を傾げる。

 

「……随分とあっさり終わったな」

 

「ああ。恐ろしい魔物と言われたが、オ……なんだったか……」

 

「『オーガ』よ。五分前のことくらい覚えなさい」

 

「ゴブリン以外に興味はない」

 

 妖精弓手のツッコミを気にすることなく、ゴブリンスレイヤーはそう断じた。

 この戦いから学んだものもない。今の作戦も一党がまだゴブリンスレイヤーとローグハンターの二人だけで、ゴブリンへの知識が乏しかった駆け出しの頃に、何度かやったものだ。

 あの時はゴブリンが大量にいる洞窟で、ホブを確実に仕留めるためにやったことだが、あの時のほうが大変だった。

 

「━━ゴブリンのほうが余程手強いな」

 

 ふと、ゴブリンスレイヤーがそう呟いた。

 彼の切り札を切ることなく、仲間の協力があったにしろ思いの外あっさりと、その名前を忘れた魔物は倒せたのだ。

 これならば、ゴブリンの巣穴に挑むほうがまだ厳しいだろう。

 彼の言葉に一党全員が苦笑して、ローグハンターがフードを取り払った。

 彼が依頼先でフードを外すのは、祈りを捧げる前触れだ。

 タカの目に赤い影が写らなくなったことを確認し、一度棍棒で小指を殴って本当に死んだかを確かめる。

 その名前を忘れられた魔物が死んだことを確認した彼は、ゆっくりと瞑目して静かに呟く。

 

「━━汝の名は我が胸に刻まれり。眠れ、生まれ落ちた地獄の底で」

 

 人喰い鬼(オーガ)はこれ以上ないほどあっさりと、そして何も出来ずにその命を失った。

 数の暴力。ゴブリンたちが最も得意とするその戦法は、冒険者たちが使えば、恐ろしい魔物すら殺せるのだ。

 これを知らない若者たちは、ゴブリンを「数だけの雑魚」と呼ぶだろう。

 その数が、その言葉を言った彼らにとって最大の脅威になることも知らずに━━━。

 

 

 

 

 

 オーガの出てきた広間の奥には、たいしたものは何もなかった。せいぜいゴブリンだが、出会った個体は全て寝ぼけ眼で、戦意の欠片も感じられない。

 そもそも戦おうとするゴブリンはいなかったのだ。彼らの頭目だったオーガが死んだのだ、彼らに戦う理由はない。

 だが、こちらが逃がす理由もない。

 戦意が無かろうが、ゴブリンはゴブリンだ。その全てを屠ることが、ゴブリンスレイヤーの仕事(ロール)

 そして、彼を補佐することもまた、ローグハンターの仕事(ロール)なのだろう。

 遺跡のゴブリンを皆殺しにし、遺跡の入り口にまで戻ってきた彼らを待っていたのは、煌びやかな武具を纏った森人の戦士たちと、彼らが用立てただろう馬車だった。

 彼らこそが、竜牙兵が無事にあの森人を送り届けた証明だろう。

 

「お疲れ様でした!中の様子、ゴブリンどもはどうなり━━……?」

 

 ゴブリンスレイヤーたちは、無言で馬車へと乗り込んでいく。

 流石の彼らでも、疲労が溜まっているのだろう。

 

「……ともかく、我々は中の探索に入ります。どうぞ、街まではゆっくりとお休みください」

 

 怪訝そうにしながらも無粋に踏み込んでくることもなく、森人の戦士は遺跡の中へと潜っていく。

 彼らの背中を見送った御者が馬へ声をかけ、がたがたと音を立てて馬車を走らせる。

 彼らが遺跡に潜っている間に、陽は沈んでまた昇ろうとしていた。

 行きに三日をかけた行程も、馬車に乗れば一晩で済むだろう。

 一党たちは(ほろ)の中で各々楽な姿勢で休んでいる。

 否、ローグハンター一人だけが、いまだに警戒をしていた。

 彼の肩には銀髪武闘家が寄りかかり、無防備な寝息を立てている。

 女魔術師は、女神官と肩を寄せあって寝ているようだ。

 彼女はオーガを討伐した後、女神官を誰よりも気遣っていた。変に疲れが出たのだろう。

 

「………ねぇ」

 

「ん」

 

 他の一党メンバーが寝息を立て始める中、いまだに眠る気配のないローグハンターに、寝転んだまま妖精弓手が声をかけた。

 銀髪武闘家を起こさないように気を遣い、頭だけを動かして彼女に目を向ける。

 

「あんたら、いつもこんなことやってるの?」

 

「いつもではないが、毎回似たようなことはしている。俺はならず者(ローグ)どもを相手に、あいつはゴブリンどもを相手にな」

 

 彼はそう言うと、蜥蜴僧侶に過労を心配されたゴブリンスレイヤーに目を向ける。

 ここ最近、ゴブリンスレイヤーは休んでいない筈だ。昔は無理やりにでも休ませていたが、ここ最近は無理強いはしていない。

 過労を心配されたのは彼にも言えることだが、それを棚にあげて相棒の心配をしていた。

 その目は弟を心配するように優しいもので、自分のことには余りにも無頓着だ。

 

「……あんた、冒険者よね?」

 

「ああ」

 

「冒険、してるの?」

 

「……ああ」

 

「嘘ね」

 

 ローグハンターの返事をそう断じ、彼女は息を吐く。

 彼女にとって、冒険とは楽しい物だ。

 未知を体験し、新たなものを発見する。そこにある筈の喜びも、高揚感も、達成感も、何もない。

 残ったのは気持ちの悪い疲労だけ。

 これではただ淡々と作業をして、その報酬を貰っているだけだ。

 だが、目の前の彼とオルクボルグはそれを許容しているし、変わろうともしていない。

 妖精弓手は決意を秘めた表情で彼に言う。

 

「いつか必ず、あんたらを『冒険』に連れ出してやるわ」

 

 ━━覚悟しときなさい。

 

 彼女はそう告げると目を閉じ、寝息を立て始めた。

 一方的な宣言にローグハンターは苦笑して、左手のアサシンブレードを優しく撫でる。

 

「━━『冒険』は、俺の役目(ロール)ではないさ」

 

 その呟きに応える者は、誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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