SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory10 休日 女性陣

 ギルドに併設された酒場。

 そこの座席の一つに腰掛ける銀髪武闘家は出された骨付き肉を豪快にかじり、舌鼓を打った。

 

「あ~、染み渡る~」

 

 口の回りに食べ滓をつけながら、恍惚の表情を浮かべる。

 その対面の席に座る女魔術師は、バターを塗ったパンをかじり、小さくため息を吐く。

 頭目には慣れろと言われたが、そう簡単には慣れないだろう。

 都の賢者の学院を卒業し、晴れて冒険者となった彼女は、冒険者とはどういうものかを理解している。

 明日も知れぬ身だからこそ、その日を後悔のないように過ごす。

 そう、それは理解している。だが、

 

「あれ、魔術師ちゃんどうかした?全然進んでないけど」

 

「大丈夫よ。……だから綺麗に食べなさいって」

 

「む~。硬い、硬いよ魔術師ちゃん!美味しく食べられればそれで良いでしょ?」

 

「もう、いいわ……」

 

 女魔術師は再びため息を吐き、パンを頬張る。

 目の前の彼女の強さを知るからこそ、いわゆるイメージというものがあった。

 仕事に真面目な頭目と五年も過ごしてきたのだから、彼女もそれ相応の人物だと彼女は思っていた。

 蓋を開けてみれば、彼がいなければ必ず痛い目にあっていると断言出来るほど、どこか適当な人物だ。

 敵を威圧するその鋭い視線は、仕事中に限ったこと。休日は人懐っこい目をしていて、優しそうだ。

 頭目はよく五年も付き合ったなと思う。だが、驚くことに二人は一党の仲間以上の関係だ。

 

 ━━本当によく付き合ったわね。

 

 女魔術師は最後の一欠片を口に入れ、そんな事を思った。

 彼が真面目な分、相手が適当になってしまったのか。

 彼女が適当な分、相手が真面目になってしまったのか。

 女魔術師は小さく首を傾げ、僅かに思慮した。

 そして、ふと思ったのだ。

 

 ━━もしかして、両方なのかしら?

 

 相手が真面目なぶん適当になり、適当なぶん真面目になった。それを延々と続け、今に至ったとすれば……。

 その考えに思い至り、彼女は再びため息を吐いた。

 処置無しだ。こうなれば頭目も自分が支えなければならない。

 静かに覚悟を決めた彼女とは裏腹に、銀髪武闘家はその体のどこに納まっているのか気になるほど食を進めていた。

 金額は、言うまでもない。前回の遺跡のゴブリン狩りの報酬が異様に高かったから止めないだけだ。

 

「ぷへ~、ごちそう様~」

 

 大量の肉が山になっていたというのに、皿の上は綺麗になっていた。

 ほとんど野菜を頼まない辺り、本当に食べたいものだけを食べているのだろう。

 そこは冒険者らしいと言えばらしいのか。

 女魔術師は水を一口飲んでホッと息を吐き、戻ってこない頭目の姿を探す。

 衣装の見た目が見た目のため、ギルドに人が少なければすぐにでも見つけられる。

 その姿が一向に見えないということは、まだ工房にいるのだろう。

 

「あ、魔術師さん。来ていたんですね」

 

 カウンター裏のスペースから受付嬢が出てくると、女魔術師に小さく手を振る。

 彼女は小さく一礼で応えると、銀髪武闘家を残してカウンターへと向かう。

 受付嬢は優しく笑むと、時計を確認して苦笑した。

 

「おはようござい━━もう、こんにちはの時間ですかね?」

 

「ふふ、そうかもしれません。それで、用件は」

 

 女魔術師も苦笑で返し、そのまま話を切り出した。

 受付嬢は表情を引き締め、書類を彼女に差し出す。

 彼女はじっとその書類を隅から隅まで目を通すと、その目を輝かせた。

 

「う、受付さん、これは……」

 

「はい、『昇格審査通知』です。この後、大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫です!むしろ今すぐにでも!」

 

 思わず声を張り上げてしまった彼女は、ハッとして赤面しながら振り向いた。

 彼女の視線の先には、嬉しそうにニヤニヤと笑う銀髪武闘家の姿。

 正面の受付嬢も、困り顔で笑っていた。

 三角帽子を目深くかぶり、つばを押さえて顔を隠す。もっとも手遅れなのだが、今の彼女は冷静さに欠ける。

 受付嬢は微笑しながら彼女に言う。

 

「では、審査は二階奥の部屋で行いますので、ついてきてください。大丈夫ですよ、質疑応答をするだけですから」

 

「は、はい……」

 

 顔を真っ赤にしたまま彼女は頷き、受付嬢に連れられてギルドの二階に消えていく。

 一人残された銀髪武闘家はその背中を見送ると、立ち上がって体を伸ばした。

 体勢が体勢のため、その豊満な胸が強調されて、一部の男性冒険者がちらりと彼女に目を向けている。

 そんなものお構い無しと、彼女はギルドの裏庭の演習場を目指して歩き始めた。

 食後に動かなければ太る。太ってしまえば、彼について行けなくなってしまう。

 彼女も在野最高の銀等級。自分の肉体的なコンディションを整えるのは自分の仕事だ。

 

 

 

 

 

 彼女がギルドの裏に出ると先客がいた。

 演習場で模擬戦をしているのは、彼女と同じ銀等級の『重戦士』と新人と思われる三人だ。

 一人目は彼の一党の斥候(スカウト)

 二人目はいつかに助言をした、頭に鉢巻きを巻いた新米剣士。

 三人目は、見覚えのない新米戦士。

 三人で果敢にも挑んでいくが、重戦士はものともせずに蹴散らしていく。

 

「相変わらず、力強いね~」

 

 彼女がそう言うと、観戦していた女性四人が振り返る。

 一人は重戦士の一党に属する銀等級冒険者の『女騎士』。銀髪武闘家とは対照的な金色の髪が風に揺れた。

 

「ん、ああ、おまえか。元気そうだな」

 

「勿論よ。お腹も一杯だしね」

 

 銀髪武闘家はそう言うと、他の三人に目を向けた。

 一人目は重戦士一党の巫術師(ドルイド)の女の子。

 二人目はあの新米剣士と一緒だった武闘家の少女。

 三人目は、またも見覚えがないが、天秤を模した剣を持っているから、至高神の神官だろう。

 

「久しぶりだね、武闘家ちゃん。あれからどう?」

 

「はい。彼と、この人たちと頑張ってます」

 

 女武闘家は横の新米神官の肩に手を置きながらそう言った。

 あれから新人たちは、新たな二人を加えた四人の一党を組んだようだ。

 銀髪武闘家はうんうんと頷き、優しく笑う。

 

「そうそう、はじめの内は色んな人と付き合うのよ。横の繋がりは大切だからね」

 

「ローグハンターとばかり仕事に行くおまえが言うか?」

 

 女騎士のツッコミに、銀髪武闘家はいたずらっぽく笑った。

 

「そのおかげで、私たちは一党の仲間以上の関係になれたけど?そっちはどうなの?ほれ、ほれ、秩序にして善なる聖騎士志望の騎士様?」

 

「ッ!お、おま、それを━━」

 

 女騎士は顔を赤くしながら重戦士に目を向け、聞かれていないことを確かめた。

 幸い、彼は模擬戦に集中している。聞こえていなかったようだ。

 ホッと息を吐く女騎士をよそに、銀髪武闘家はため息を吐いた。

 

「もう、冒険者歴だとそっちが上じゃない。彼だって、あなたより後輩なのよ?」

 

「し、知っている」

 

「年齢は、彼が上かな?確か二十四とか言ってたし」

 

「そうなのか?だとしたら、随分と中途半端な歳で冒険者になったのだな」

 

「はい、話題を逸らさない。で、何かアプローチしたの?」

 

 真剣な表情で問いかけるが、女騎士は気まずそうに目を逸らした。

 二人の会話は、それぞれの想い人に関するものだ。

 銀髪武闘家がローグハンターに惹かれたように、女騎士も重戦士に惹かれている。

 女冒険者は行き遅れるというジンクスがあり、女騎士はそれに見事に当てはまっているのだ。

 相手として重戦士に目をつけたは良いが、仲は全く進展しない。

 まあ、銀髪武闘家とローグハンターは常に二人だったことに対して、重戦士の一党は五人いるのだ。アプローチもしにくいのだろう。

 銀髪武闘家はわざとらしくため息を吐き、新人三人に目を向けた。

 

「キミたちも気をつけてね。銀等級になっても、勝てないものはあるから」

 

『はい……』

 

「はいじゃない!おまえに出来て私に出来ない事はない筈だ!証明してやる、勝負しろ!」

 

「ほー、言ったな?言ってしまったな?上等よ、やってやるわよ」

 

 二人で凄まじい気迫を放ち始め、それを感じた模擬戦中の四人も手を止めた。

 重戦士は冷や汗を流しながら二人に目を向ける。

 

「お、おい、おまえら……」

 

「邪魔をしないでくれ。これは決闘だ」

 

「ふふん。なら容赦はしないわよ?」

 

 女騎士は両手剣と盾を構え、銀髪武闘家は鉄製の籠手を嵌めて感覚を確かめる。

 二人の目は真剣そのものであり、若干の殺気まで込められているほどだ。

 在野最高の銀等級二人の決闘となれば、他の者たちには手の出しようがない。

 

「行くぞ!」

 

「ばっち来い!」

 

 掛け声と共に金と銀は動きだし、ぶつかり弾ける。

 それを眺める新人たちは、その戦いを焼き付けようとしっかりと見つめ、重戦士はため息を吐く。

 

「……あいつらを怒らせるなよ、命が足りねぇ」

 

 彼の一言に皆が頷く。

 女騎士の気合い一閃と銀髪武闘家の怪鳥音をバックに、ギルドの演習場はぼろぼろになっていくのだった。

 

 

 

 

 

 昇格審査から戻った女魔術師は回りから顔を見られないように俯きながら、歓喜にうち震えていた。

 彼女の首から下がる認識票は白磁から黒曜へと代わり、ようやく冒険者として新たな一歩を踏み出せたのだ。

 銀髪武闘家に報告しようと駆け足で戻ってきたはいいが、肝心の彼女がいなかった。

 探そうとも思ったが、とりあえず落ち着こうという気持ちが勝った。

 だが、落ち着かない。むしろ僅かに冷静になったことで、喜びが膨れ上がっていくのだ。

 ずっと俯いていたからか、彼女に近づく彼のことにも気づくことが出来なかった。

 端から見れば俯いて震えているのだから、頭目として心配するのは当然だろう。

 彼は彼女の対面の席に座り、首を傾げて声をかけた。

 

「……何かあったのか?」

 

「ふぁい?……!!」

 

 思わず間の抜けた声が漏れ、そこでようやくローグハンターが目の前に来ていたことに気づく。

 ローグハンターは苦笑して、女魔術師に問いかける。

 

「何か良いことでもあったのか?随分と嬉しそうだが」

 

「……はい。その、あの……」

 

 無意識に緩んだ頬を必死に押さえながら、黒曜へと変わった認識票を見せた。

 ローグハンターは僅かに目を見開いて、そして嬉しそうに笑った。

 

「そうか、上がったのか。この前のオーガのお陰か?」

 

「はい。銀等級が多かったとはいえ、オーガ討伐の実績は大きいですから」

 

「そうなのか」

 

 安全策を取って首を吊ったのだが、やはり強大な敵だったのだろう。

 それを相手に全員無事だったのは、幸運だったのか。

 いや、違う。確かに幸運だっただろう。だが、あのメンバーがいたからこそ勝てたのだ。

 彼らが訪れず、冒険者として同行してくれなければ、間違いなく負けていた。

 これまでのゴブリンスレイヤーの戦いが彼らとの出会いを持ってきてくれた。

 そして、そのゴブリンスレイヤーの仲間として、自分たちが同行した。

 だからこそ勝てたのだ。これこそまさに━━、

 

「━━運は自分で掴むもの、か」

 

「……?」

 

 ローグハンターの呟きに女魔術師が首を傾げた。

 彼は小さく笑い、彼女にこう言った。

 

「俺の先生から教わったことだ。覚えておいて損はない」

 

「はい。運は自分で掴むもの、ですか……」

 

 その言葉を復唱し、小さく笑う。

 ギルドの裏からぼろぼろの女騎士と銀髪武闘家が担ぎ込まれたのはその直後。

 一党メンバーが負傷したということで、彼らの休暇が若干延びたのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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