SLAYER'S CREED   作:EGO

22 / 150
Memory13 宴

「私たちの勝利と、牧場と、街と、冒険者と━━……」

 

 妖精弓手は戦いを終え、ギルドへと戻ってきた冒険者たちを見渡し、最後にゴブリンスレイヤーに目を向けた。

 

「いっつもいっつもゴブリンゴブリン言ってる、あの変なのにかんぱーい!」

 

 彼女の音頭に冒険者たちが応え、次々と手にした杯を掲げる。

 これで何度目の乾杯か数えていないが、そんな細かいことを気にしていては冒険者は務まらない。

 冒険者たちは返り血も乾かさないままギルドに集い、戦勝を祝って勝どきをあげた。

 そんな彼らを眺めるローグハンターは、いつもの衣装ではなく、平服だった。

 流石に脳みそや頭蓋骨の欠片がへばりついた服を着て、豪華な食事が出される宴に参加は出来ないだろう。

 それでも手首にアサシンブレードが填められている辺り、油断をしている訳ではない。

 だが問題はそこではない。彼の隣に座る銀髪武闘家だ。

 

「あ、そっちの頂戴」

 

「ん。ああ、これか」

 

「それそれ」

 

 先の負傷が響いてか、両腕に包帯を巻かれ、がっちり固定されてしまっているのだ。

 お陰で食べたいものが食べられず、飲みたいものも飲めない。

 そこで彼女はローグハンターに我儘を言い、彼を良いように使うようにした。

 ちなみに女魔術師は「お邪魔をしては悪いので」と言い残し、かつての一党の二人の元で談笑していた。

 銀髪武闘家は彼女の姿を眺めて優しく笑い、横に腰かけて食事を口に運ぶ相棒に声をかけた。

 

「良かったね、あんなに笑ってるよ?」

 

「そうだな。あの顔が素なんじゃないか?」

 

「そうなの?無愛想な顔しか覚えがないんだけど」

 

 彼女はわざとらしく笑って言うと、彼が食べていた霜降り肉に目を向けた。

 

「あ、一口頂戴」

 

「ん、ほら、口開けろ」

 

 彼は一口大に切られた肉をフォークで突き刺し、それを彼女の口の前に持っていく。

 彼女は大口を開き、一口でそれを頬張った。

 

「むふぅ、蕩ける~」

 

「蕩けているのはおまえの顔だ。流石にだらしないぞ」

 

「良いじゃん別にさ~。久しぶりにスイッチ入れたから疲れたんだよ~」

 

 だらしなくテーブルに突っ伏し、彼女はそう漏らす。

 彼は苦笑混じりにため息を吐き、自分の料理に手を出し、彼の稼いだ報酬を確認した。

 森に潜んでいた狼に乗ったゴブリンども━━冒険者たちにはライダーと呼ばれている━━を彼一人で潰し、その数は数えて二五匹。

 それに加えてロードの報酬である金貨一枚。

 つまり、彼はあの戦いで、誰にも知られることなく二六枚もの金貨を稼いで見せたのだ。

 さて、この金貨で何をしようか。武器は大丈夫だ、使っていない。ならば防具か。いや、あまり意味はない。

 彼は顎に手をやり、思慮を深める。

 

「銀髪の、火酒じゃ。この前は飲ませ損ねたが、ほれ」

 

「あ、いいの?飲んじゃうよ?」

 

 だからこそ、横でそんなやり取りをしていることに気づかなかった。

 銀髪武闘家が「ふへ~」と息を吐いたことを合図に、彼はビクリと反応し、その顔を青くしてゆっくりと振り向いた。

 その瞬間、その唇を目の前の人物の唇で塞がれた。相手は言うまでもなく、銀髪武闘家だ。

 鉱人道士は何かを言われる前に退散し、杯片手にくるくる回っていた妖精弓手が、ギルドの端でがっつりキスをしている二人を発見する。

 

「なあ!?あ、あんたたち、こんな所で何をやってるのよ!?」

 

 彼女は狼狽え、怒鳴りながら二人を指差した。

 それを合図に冒険者たちの視線が二人に集まり、そして騒いでいた彼らを黙らせる。

 二人の事情を知らない一部の女冒険者や女性職員たちが悲鳴をあげたが、一番の大ダメージを負ったのは女騎士だ。

 彼女も真似しようかと酒に手をかけるが、本気の表情の重戦士に止められた。

 銀髪武闘家はそっと顔を離して、無邪気に笑い、すぐさま妖艶な表情を浮かべる。

 

「あはは……。キミって、可愛い顔、してるよね~」

 

「……誰だ、こいつに酒を飲ませたのは」

 

 そんな彼女とは対照的に、ローグハンターはその異名に恥じない気迫を放ち、冒険者たちを睨み返す。

 睨まれた彼らは顔を青くしながら目をそらし、決して目を合わせようとはしない。

 そんな彼の口元の傷を彼女は舐めまわし、そして首を傾げた。

 

「あれ、治らないな~。唾つければ治るって聞いたんだけどな~」

 

「本当に誰だ、誰が飲ませた!?」

 

 ローグハンターの声に焦りが混じり、気迫がだいぶ弱くなりながらも冒険者たちを睨み付けた。

 彼らは一斉に鉱人道士に目を向け、視線を向けられた彼は気まずそうに目をそらす。

 

「おまえか!飲ませるなと言ったろ!」

 

「そうじゃが、今日は無礼講じゃろう?飲ませたっていいじゃろうが」

 

「そうだよねぇ?ぶれっこーだもんね~」

 

 もはや舌が回らなくなり始めているが、彼女に抱き着かれるローグハンターはそれどころではない。

 

「くそ!受付嬢、解毒薬(アンチドーテ)はあるか!」

 

「売り切れです」

 

 頼れる受付嬢に目を向けたが、笑顔の彼女にバッサリと切り捨てられた。彼女の隣には解毒薬をあおる槍使いの姿。あれが最後の一つだったのか。

 彼は視界を巡らせて、藁にもすがる気持ちで相棒に目を向けた。

 

「ゴブリンスレイヤー!おまえは━━」

 

「品切れだ」

 

「嘘つけ!おまえ予備も含めて持って━━」

 

「むぅ。無視するな~、妬いちゃうぞ~」

 

「後で構ってやるから、離れろ……!」

 

 絡み付く銀髪武闘家を剥がしながら苦し紛れに言うと、彼女は計画通りと言わんばかりにニヤリと笑った。

 

「後っていつ?あ、わかった、ベッドの上?」

 

「……鉱人(ドワーフ)!」

 

 顔を赤くして彼女の声をかき消そうと叫んだが、時既に遅し。

 冒険者たちは冷めた目で彼を睨み、小さな声で「爆発しろ!」だの「見せつけやがって!」だのと囁き始めた。

 彼が呼んだのは鉱人道士だけなのだが、彼の呼び方は基本種族名なので、他の鉱人たちも反応する。

 だが彼らは構うことなく、出された酒を次から次へと飲み干していった。

 鉱人道士は髭をしごき、火酒をあおって豪快に笑った。

 

「頭巾のの弱点は銀髪のか!これは良いことを知ったわい!」

 

「だ、誰のせいで……!」

 

「こ~ら~、無視するなぁ~。またキスするよ~」

 

 銀髪武闘家に捕まり、顔や髪の毛をもみくしゃにされるローグハンター。

 彼は頭をかきむしり、彼女を引き剥がすと席から転がるように離脱した。

 

「ああ、クソ!おまえら覚えてろよ!」

 

 そう言い残し、彼はギルドから退散した。

 

「もう、照れ屋さんなんだから~」

 

 彼女はご機嫌そうに笑い、彼が残していった食事をつつき始めた。

 両手の包帯を邪魔そうにしながら、どうにかフォークを持って食事を進める。

 この後何だかんだでゴブリンスレイヤーが兜を外すという大事件が起きたのだが、この場にいないローグハンターと酔っぱらっていた銀髪武闘家は、彼の素顔を見ることはなかった。

 

 

 

 

 

「ふへ~、お星さまが回ってるよ~」

 

「もう、しっかりしてよ!」

 

 ギルドから眠る狐亭までの道。酔ったまま夜空を見上げる銀髪武闘家を必死に支える女魔術師は、彼女の評価を再び改めた。

 彼女は戦闘中は間違いなく銀等級だ。それは間違いない。だが、日常生活ではずぼらな女性であることも間違いない。

 敬語で接しようとした矢先にこの醜態を晒されてしまうと、尊敬する気も失せるというもの。

 彼女は大きくため息を吐いて、そっと後ろに振り返った。

 先ほどから、何者かがつけてきている。そんなような気がするのだ。

 泥酔した女性をつけるなど、きっと録な奴ではない。彼女は警戒しつつも、眠る狐亭を目指す。

 

「♪~」

 

「……?」

 

 そんな時に、後ろから口笛が聞こえた。正確には路地裏からだ。

 誰かが誘っているのか、挑発しているのか。

 見に行こうかとも思ったが、すぐに辞めた。今は銀髪武闘家の介抱が優先だ。

 

「♪~」

 

 しばらく歩き、また口笛が聞こえた。だがこれも無視。

 

「♪~」

 

 また口笛。流石の彼女も額に青筋を浮かべ、その音の主を怒鳴ってやろうと考えたが、それはすぐに辞めた。

 

「遅かったな」

 

 いつの間にか、頭目である彼が正面に立っていたのだ。

 彼は気まずそうに頬をかき、女魔術師に謝った。

 

「すまない、面倒を押し付けたな」

 

「そうですよ、まったく……」

 

 彼女は緊張が解れたのか、安心したように息を吐いた。

 銀髪武闘家も遅れて彼に気付き、上機嫌そうに腕をブンブン振り回す。

 その腕を怪我しているというのに、何をやっているのやら。

 彼はため息を吐き、二人に歩み寄る。

 

「傷が開くぞ、まったく」

 

「ふへへ、おんぶして~」

 

 彼女の我儘に再びため息を吐き、背中を向けてしゃがみこんだ。

 彼が何かを言う前に彼女はその背に身を任せ、寝息を立て始める。

 女魔術師はそんな彼女に若干引きながら、先に進んだ彼を追いかける。

 月を眺めながら歩く彼らの表情は、心なしか晴れやかなものだ。

 彼らはゴブリンを倒し、街の平穏を守り抜いた。いつも通り、それだけだ。

 ただそれだけだというのに、ここまで嬉しいことがあるだろうか。

 だが、平穏というのは総じて長続きはしないもの。また、ゴブリンやならず者(ローグ)どもが騒がしくなるだろう。

 彼は横目で女魔術師に目を向け、小さく笑んだ。

 

「明日から、またよろしく頼む」

 

「はい、任せてください」

 

「ふへへ、がんばろ~!」

 

 酔いながらも銀髪武闘家が笑って返し、二人は少し驚きながらも笑った。

 毎日のように戦いに身を投じているのだ、一時の平穏を謳歌するぐらいなら、神様も多目に見てくれるだろう。

 彼はタカの目を通して、その二つの月を睨み付けた。

 暗くなった視界では、その二つは光源としか処理されない。

 タカの目をもってしても、その先にいる神々の姿は、いまだ見えない━━━。

 

 

 

 

 

 翌日、路地裏で気絶していた暴漢数名がお縄となった。

 そして、彼らは口を揃えて言ったのだ。

 

『口笛を吹く悪魔に会った』

 

 その日から、辺境の街の治安が僅かに良くなったのは気のせいではないだろう。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。