SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory02 街の闇を駆ける(シャドーラン)

 ローグハンター一行は、剣の乙女に言われるがまま礼拝堂に腰を降ろし、彼らの前に彼女自身もゆっくりと腰を降ろした。

 剣の乙女は彼ら三人を見渡し、そして沈鬱な表情で話を切り出す。

 

「半月ほど前の事ですわ。夜分遅くに、神殿から使いに出した待祭の娘が、殺されました」

 

「……神殿の待祭。狙われていたのか?」

 

 彼が問いかけるが、剣の乙女は困ったように首を振り、「それはわかりません」と呟いた。

 

「ですが、生きたまま切り刻まれたようだ、と。見つけた者は、申しておりました」

 

 彼女の言葉には淀みはないが、ローグハンターの耳には僅かな怯えが含まれているように聞こえた。

 だが、追及は後だ。話を聞かなくては。

 

「……本当に、酷い事件でした。光と秩序は、それが世に生まれた時より、負け続けている……とは、申しますが」

 

「━━この世に悪の栄えたことはなくとも、潰えたことはない、か」

 

 ローグハンターはぼんやりとそう告げた。

 いくら法の神殿のお膝元とはいえ、ここはまだ辺境に属する場所だ。

 中央に比べれば、まだ悪と呼べる者が付け入る隙も多いだろう。現に事件は起きてしまっている。

 剣の乙女は彼の言葉に頷き、両手を組んで短く神へと祈りを捧げた。

 その祈りを終えると、剣の乙女は再び口を開く。

 

「その事件を皮切りに、犯罪が増えていきました。ささやかな窃盗、通り魔めいた傷害。婦女子への暴行や、子供の誘拐なども……」

 

「……酷い、ですね」

 

 銀髪武闘家は悲痛な表情で呟き、女魔術師も小さく頷いた。

 たった一人、ローグハンターだけが顎に手をやって思慮している様子だった。

 剣の乙女は彼の姿を一度見ると、更に言う。

 

「守衛に夜間の巡回をやらせておりますが、その犯人はいまだ見つからず、被害は大きくなるばかり」

 

「そこで、その手のものに慣れている俺たちに依頼を出したと?」

 

 彼の確認に剣の乙女は頷き、苦笑混じりに言った。

 

「わたくしも役職柄、よく貴族の皆様とお話しますので」

 

「「「ああ……」」」

 

 彼女の言葉に三人は間の抜けた声を漏らす。

 貴族たちの間に巡る噂が、まさか巡りめぐって彼女に至るとは、中々面白いものである。

 ローグハンターは咳払いをして気を引き締めると、剣の乙女に問う。

 

「この街の地図と何か目印になるものはあるか」

 

「すぐに持ってこさせます」

 

 剣の乙女はそう言うと、礼拝堂の脇に控えていた神官に目を向けて一度頷いた。

 その合図を受けて、その神官は音もなく礼拝堂を去っていく。

 武僧の類い、それもかなりの手練れだろう。

 彼は顎に手をやりながらそれを確認し、意識を戻して話を切り出した。

 

「相手を生きたまま切り刻むというのは、何となく儀式じみている。邪教徒か、黒魔術師か……」

 

「誘拐ならともかく、窃盗とかも起きてるんでしょ?邪教徒が、そんな盗みなんかやる?」

 

 銀髪武闘家の問いかけに、彼はその表情をしかめた。

 

「そこがわからん。夜の闇に紛れて盗みを働くのは、どちらかと言うとゴブリンのしそうなことだ」

 

「だよねぇ」

 

「相手が貴族で、遺跡から発掘した物を盗むならともかく、ささやかな窃盗ですからね……」

 

 彼らは何となしにそう言ったが、その会話で僅かに剣の乙女の表情が曇った。

 何かに怯えているのか、袖をぎゅっと掴んでいる。

 それに気づいたのはローグハンターだけだが、彼は何かを言うことはない。

 その犯人を見つけ出すのが自分たちの仕事なのだ。勝手な考えで犯人像を固定してしまえば、肝心な物を見逃すことになるだろう。

 

「お待たせしました」

 

 先程の神官が戻ってくると、街の地図とボードゲームの駒と思われる何かを複数個差し出した。

 剣の乙女はそれらを受け取り地図を床に広げ、駒をその脇に置く。

 ローグハンターたちは地図を覗きこみ、彼女に言う。

 

「どこで事件が起きたのか、わかる範囲で良い、教えてくれ」

 

「わかりました」

 

 剣の乙女は地図を指でなぞり、見えていない筈なのに何の迷いもなく駒を置いていく。

 インクと紙の質感の違いで、彼女は地図を読んでいるのだろう。

 一つ一つの事件の詳細を話し、駒を置き、また次の駒をと繰り返していく。

 一通り駒を置き終えた彼女は一息吐き、そして神殿の場所を指差した。

 

「わたくしたちがいるのは、ここです」

 

「街を一望出来る位置なんだな」

 

 ローグハンターはその事を確認し、剣の乙女は一度頷いた。

 

「はい。それが、どうかしまして?」

 

「……この神殿の一番高い場所はどこだ」

 

「?……裏の物見櫓でしょうか。そこからなら、遮蔽物もなく街を一望出来ますわ」

 

「そうか、登っても?」

 

「構いません。余り人は行きませんが、開放されているはずです」

 

 ローグハンターはその事を確認し、そして満足そうに頷いた。

 彼が何を考えているのかはわからないが、その彼は再び表情を引き締め、無言で地図を撫でると目を閉じた。

 相手は邪教徒か黒魔術師、もしくはゴブリン。

 襲われたのは一人で夜の街を歩いていた女性。

 盗みに入られたのは、ちょうど家の持ち主たちが外に出ていた時間帯。

 様々な要因を考え、切り捨て、組み込んでいく。

 そして最終的にたどり着いた答えは、何だかんだでとてもシンプルなものだ。

 彼は女魔術師に目を向けて小さく首を傾げた。

 

「魔術師、いいか」

 

「なんですか?」

 

 問われた彼は苦笑して、余った駒を手元で弄っていた銀髪武闘家に目を向け、女魔術師に訊いた。

 

「俺とこいつを、信じてくれるか」

 

「もちろんです。一党に入れてもらった時から、信じています」

 

 彼女の淀みのない答えに彼は満足そうに笑い、剣の乙女と神官に目を向けた。

 

「一着、神官服か何か余っていないか」

 

「余り、ですか?倉庫を探せば何着か見つかると思いますが……」

 

「なら良い。街の人たちに外出を控えるように言ってあるか?」

 

「神殿前の先触れに話させてはいますが、中々うまくは……」

 

「……不確定要素もあるのか。ならば━━」

 

 彼は銀髪武闘家が弄っていた駒を奪い、それを街の一角に置いた。

 

「━━この区画で仕掛ける。守衛はこの地区に近づかせず、他の地区の見回りを強化してくれ」

 

 街のとある区画を指し示した彼は、疑問符を浮かべる剣の乙女に目を向け、不敵に笑んだ。

 

「相手が見つからないのなら、相手から来てもらうだけだ」

 

「━━私は囮役、ですか」

 

 彼の作戦を察した女魔術師が言うと、彼は再び確認を取った。

 

「無理にやれとは言わん。駄目ならこいつか、また他の作戦を練るさ」

 

 その目には本気で心配している様子が現れており、彼も今も何か策を練っていることは確実だ。

 だが、彼女は頷いた。

 

「大丈夫です。お二人の強さは、私もよく知っていますから」

 

 そのセリフに銀髪武闘家は歓喜にうち震え、がっしりと女魔術師の肩を掴んで真っ直ぐ彼女の瞳を覗いた。

 

「任せといて、絶対守ってあげるから!」

 

「護衛は得意だ、安心してくれ」

 

 二人はそれぞれ言うと、女魔術師は笑う。

 

「では、私の命、お預けします」

 

 二人はその言葉にしっかりと頷き、ローグハンターが再び思慮を深める。

 

「そうと決まれば問題は衣装だな。在庫があるのなら、神官でいくか。それともこちらで用意して街娘でいくか……」

 

「神官服の在庫の確認行っとく?サイズが合わなきゃ動きずらいだろうしさ」

 

「そうね。大司教様、よろしいでしょうか」

 

「ええ、構いません。案内と、仕立てをお願いできる?」

 

 先程の神官は頷くと、ローグハンターが顎に手をやりながら言う。

 

「……なら俺は、物見櫓を登ってみる。仕立てが終わって時間があれば、視察ついでに街に出るぞ。夕暮れ時になったら本格的に準備をしたいから、どこか空き部屋はあるか。この際懺悔室でも良いんだが」

 

 彼の冗談混じりの言葉に、剣の乙女は苦笑しつつ言う。

 

「空いている部屋があるので、そこを使ってください。後程ご案内いたしますわ」

 

 剣の乙女がそう言うとローグハンターは頷き、二人に目を向けた。

 その意図を察した銀髪武闘家は頷いて、女魔術師と神官に声をかける。

 

「それじゃ、倉庫を見に行こ。私も神官服着てみようかな?」

 

「余り蔑ろにしない方がいいわよ?あの()に怒られるわ」

 

「それもそうだね。キミ、また後でね」

 

 彼女がそう言うと、神官に連れられて二人は礼拝堂を後にした。

 残されたのはローグハンターと剣の乙女のみ。

 彼は再び地図を眺めると「よし……」と呟いて立ち上がった。

 

「物見櫓は、一旦外に出てからか?」

 

「いえ、そこを曲がっていただければすぐですわ」

 

「わかった。では、また後ほど……」

 

 彼はそう言うと礼拝堂を後にしようとするが、途中では立ち止まり、振り返ることなく言う。

 

「……あんた、夜は眠れているか」

 

「……大丈夫ですわ」

 

「なら良いんだが……」

 

 それ以上詮索することはせず、彼は物見櫓を目指して歩き出す。

 

「………」

 

 一人残された剣の乙女は自分の胸に手を当て、激しくなった鼓動を静めようと努める。

『ゴブリン』。それは彼女にとって、決して忘れられない魔物の名前だ。

 

 

 

 

 

 法の神殿裏、物見櫓の屋根の上。

 そこに立つローグハンターは街の地形を瞬時に叩き込み、自分が示した区間に目を向けた。

 橋が複数と入り組んだ路地。敵が出てくるとすれば、どこからか。

 そこまで考え、諦めたように息を吐く。

 ここから見ていても仕方ない。実際に近くに行ってみないことには、対策も考えにくいだろう。

 降りようと彼が下に目を向けると、狙ったかのような位置にそれはあった。

 物見櫓の脇で、山になっている干し草。

 なぜそこにあるのかは考えない。ただそこにあるのなら、使うだけだろう。

 彼は周囲に目を向け、誰も見ていないことを確認してから両腕を広げて身を投げる(イーグルダイブ)

 僅かな浮遊感の後に、重力に引かれて背中から干し草の山に落ちた。

 彼はすぐさま転がり出ると体についた干し草を払い、なに食わぬ顔でその場を後にした。

 

 

 

 

 

 陽が沈み、二つの月に照らされる水の街。

 縦横無尽に走る運河は二つの月に照らされ、何とも不気味な光を反射していた。

 そんな水の街を、たった一人で歩く少女がいた。

 法の神殿の修道服に身を包み、赤い髪を夜風に揺らしている。

 彼女━━女魔術師は小さく息を吐き、そっと上を見上げた。

 彼女の視線の先にはフードを目深く被ったローグハンターと、黒い外套に身を包み、スイッチを入れた銀髪武闘家がいた。

 二人は屋根の上に乗り、銀髪武闘家は彼女に目を向け、ローグハンターは周囲を警戒している。

 そして、ゴーサインが出た。

 彼女は小さく頷き、一人で歩き始める。

 路地裏の闇を警戒し、道に積まれた箱の影を警戒し、時には背後も警戒する。

 たった一人でこれをやっていたら、間違いなくおかしくなっていただろう。

 だが、彼女は一人ではない。視界の上端を、二つの影が疾走しているのだ。

 彼らは屋根から屋根へと跳び移り、時にはぶら下がったまま窓から窓へと移っていく。

 自分も彼らのように動けるようにならなければならないのだから、頑張らねば。

 その時、二つの月が雲に隠れ、辺り一面が急に暗くなっていく。

 同時にローグハンターが足を止め、手で『止まれ』と合図をした。

 銀髪武闘家も足を止め、屋根の上から女魔術師の周囲を警戒し、彼女に大丈夫だよと言うように手を振って見せた。

 ローグハンターは耳を澄ませ、そしてそれを聞いた。

 この五年で聞き慣れてしまった『下卑た笑い声』。つまり、彼女を狙っているのは━━。

 彼は銀髪武闘家に目で合図を送ると、屋根から屋根へと跳び移り、女魔術師の視界から消える。

 ただそれだけだというのに、急に強烈な不安にかられる中、彼女の横に伸びる路地の奥から何やら物音がした。

 小さい何かが、懸命に足音を消しながら近づいて来ているのだ。

 彼女はゆっくりとその路地に目を向け、それを見た。

 闇の中に浮かぶ、一対の鈍く輝く瞳。それには獲物を見つけた悦びが浮かび、確実に自分を狙っていることに気づいた。

 次の瞬間、その何かは上から襲いかかった何かに潰され、断末魔もなくその命を摘み取られた。

 その時、風に流された雲が月の前から退き、再び辺り一面を照らす。

 そして、彼女は確かに見た。

 押し倒されて白目を剥いたゴブリンと、そのゴブリンの眼窩に短剣を、その首にバスタードソードを突き立てたローグハンターの姿だ。

 彼はその二刀を引き抜き、腰に戻すと大きくため息を吐いた。

 

「━━明日になったら、あの大司教に話を聞くぞ」

 

 ならず者(ローグ)退治かと思ったら、まさかのゴブリン退治。

 だが、その裏に何かいるのも確かなことだ。

 銀髪武闘家は女魔術師の横に降り立ち、彼女の肩に手を置き、ベタベタと触り始める。

 

「魔術師ちゃん、怪我してない?」

 

「大丈夫です。ちょっと、疲れました……」

 

「おんぶしてあげるから、ちょっと休みなさい」

 

「……はい、少し、お言葉に甘えます」

 

 彼女がそう言うと、銀髪武闘家は彼女に背中を向けてしゃがみ、倒れこんだ体をしっかりと支える。

 

「面倒なことになりそうだな……」

 

 彼はそう漏らし、二人に目を向けた。

 余裕のありそうな銀髪武闘家と、疲労困憊の女魔術師。

 

 ━━動き出す前に休憩だ。あいつを万全にしてやらないと……。

 

 頭目として、一党内の体調管理は基本中の基本だ。それを怠れば、間違いなく全滅する。

 

 ━━だが、あの大司教、何か隠していないか?

 

 ふと、そんな事が脳裏によぎった。

 だが、それを確かめる手段はない。とりあえず、目の前の障害を排除してからだ。

 

「とりあえず、お前は魔術師を連れて神殿に戻れ。ついでに待機している守衛も呼んできてくれ」

 

「わかった。気を付けてね」

 

「そっちこそ、気を抜くなよ」

 

 彼らはそう口にして一旦別れる。

 事が動き出すのは、月が沈んでまた陽が昇った時だ。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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