SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory02 冒険者

 二ヶ月後、とある森の中。

 優しい風に揺れる木々の音を聞きながら、俺は『エアライフル』━━その名の通り、空気圧で音もなく(ダート)を飛ばす銃だ━━を構え、視界を巡らせる。

 村での仕事は俺が怪我人なだけあり、畑仕事や子供たちの面倒━━と言いながら、一緒になって授業を受けていた━━時間が多かった。

 一ヶ月前に包帯が外れたこともあり、少し前に狩りに出ることが許された。

 邪魔になるほど伸びた髪を後ろで纏め、院長の夫が使っていたという衣装を借り、村の猟師たちと何度か森に繰り出した。

 最初こそ弓を使っていたのだが、慣れない俺には扱いにくく、院長と村長に頼み込むことでエアライフルだけを返してもらい、故障をしていないかの確認をするために一人で狩りに出たのだ。

『タカの目』を駆使し、隠れた鹿やウサギがいないかを探す。

 敵や野性動物が草むらに隠れていようが、肉眼では何もないように見える壁に描かれた絵であろうが、見えない痕跡を見ることが出来るこの力は、仕事以外にも役に立つ。

 実際は、その先にある『真実』を、もっと言うとさらにその先さえも見通すものらしいが、詳しくは知らん。

 そんな事を思いながら周囲を見渡し、タカの目で暗くなった視界に、強調された赤い影が映ることを確認した。

 

 ━━いた。

 

 足は四本、頭に角のようなものがある。雄鹿だろう。

 タカの目を解除し、音をたてないように細心の注意を払い、エアライフルの射程内に移動する。

 エアライフルに『スリープダート』━━相手を強制的に眠らせるもの━━を装填し、銃口を向ける。

 決して殺気を漏らさず、相手の不意を打つ。

 漏れた殺気は『囁き声』となり、相手に危険を知らせてしまうのだ。

 距離は十分。このダートなら、一発当てれば捕獲できるだろう。

 ゆっくりと息を吸い込み、止める。

 手振れを抑え、いざ撃たんとした時だった。

 

 パキ……!

 

「っ!」

 

 俺の背後で枝が折れる乾いた音がした。

 そんな異音を鹿が聞き逃すことはなく、その健脚を活かして逃げ出そうとするが、それを許すわけにはいかない。

 照準を僅かに修正、引き金を引く。

 音もなく放たれたダートは鹿の後ろ足の付け根に突き刺さり、鹿は構わずに走り出そうとするが、数歩歩いたところで倒れこんだ。

 ホッと息を吐き、鹿に近づく前に後ろに振り返る。

 

「あ……」

 

 ばっちり目があった黒髪の女の子は、慌てて草むらに飛び込む。

 またあの子か。俺が目が覚めて最初に出会ったあの子は、なぜかわからないが俺についてくるのだ。

 あとで説教されても知らないぞ……。

 今すぐ捕まえてしまったほうがいいのだが、今は鹿を仕留めてしまわなければならない。

 スリープダートは強力な分、効果時間がとても短い。

 一応強化は済ませているが、他の敵に気をとられていると、いつの間にか目を覚ましている。

 だが、先生は「長いだろう」と返してくるのだから、俺が未熟なだけなんだろう。

 エアライフルを背中に戻してナイフを取りだし、眠りにつく鹿の首に突き立てる。

 最初こそ暴れる鹿だったが、頸椎を折った頃には大人しくなった。

 後はこいつを解体するだけだ。

 

「とれた!」

 

「ああ」

 

 女の子が俺の横に来ると、不思議そうに鹿と俺とを見比べていた。

 

「どうかしたか」

 

「えとね、どうやって見つけたの?」

 

「目で見てだ」

 

 ━━タカの目で、な。

 

 女の子の質問に少し意地悪で返すと、女の子は首を傾げた。

 

「でも、ボクには見えなかったよ?」

 

「見ようとするから見えないんだ」

 

 鹿の解体を進めながら、女の子の質問に返していく。

 先生に動物の解体を教えられた時は驚いたが、山でのサバイバルを視野に入れての訓練だったのかもな。

 

「??」

 

 俺の返しに疑問符を浮かべる女の子をよそに、剥がした毛皮をたたみ、体をばらしていく。

 前まではもう少し苦戦していたのだが、手慣れたものだな。

 

「『感覚を研ぎ澄まし、形を聴き、音を見る』だそうだ。俺もよくはわかっていない」

 

「へぇ~」

 

 女の子が思考放棄するまで追い詰めたところで、解体した鹿の肉を袋に詰め、毛皮を担ぐ。

 この子はなんて言い訳をするんだろうな。前は「おにーちゃんが迷子になると大変だから!」と言っていた。

 いつの間に俺が「兄」になったのか聞きたいところだが、子供の言うことだ、気にしたところでどうにもならないだろう。

 二人で手を繋いで━━「はぐれたら大変だ!」と言ってきたからだ━━村に戻ると、村の入り口のところで、男たちが院長や村長と集まって何かを話し合っているところに遭遇した。

 女の子は首を傾げ、俺の手を握る力を強くした。

 院長や村長をはじめ、その話し合いに参加している者の中に、笑顔を浮かべているものはいない。

 何かしら、重大なことが起こったようだ。

 神妙な面持ちで話していた院長が、俺たちの姿を目にして安心したように笑みを浮かべると、こちらに駆け寄ってきた。

 

「いんちょーせんせー!」

 

 女の子もニコニコと笑いながら駆け寄り、そして抱き合うかと思いきや見事な拳骨をくらった。

 頭を押さえながら泣きじゃくる女の子をよそに、院長に訊く。

 

「何かあったのか?ただ事ではないことはわかるが」

 

「その話は、この子を部屋に戻してから、村長様のお家でよろしいですか?」

 

「構わない。この子を部屋に戻したらすぐに行く」

 

 足元で泣きわめく女の子を抱き上げ、孤児院を目指す。

 涙だの鼻水だので服が大変なことになっているが、今はそれどころではないようだ。

 

 ━━最悪、装備を返して貰わなければ。

 

 僅かな予感からそう思慮した。

 この村は森の真ん中にある、いわゆる『開拓村』だ。街道はおろか、行商人すら滅多に来ることはない。

 もしかしたら、山賊や野盗の類いが迫っているのかもしれない。

 そうなれば、俺は全力を持って戦うつもりだ。

 

『平穏』を望む人々を『秩序』のもと守ること。

 

 それが俺の使命なのだから━━━。

 

 

 

 

 

 その日の夜、村長宅。

 村にある他の家に比べて、一二回り大きめのその家に、村長、院長、各家の主人、そして俺が集まっていた。

 全員が全員真面目な顔をしており、問題の大きさを痛感させられる。

 この村で一番の猟師が、悲痛な面持ちで切り出す。

 

「山で、『ゴブリン』の足跡さ見つけただ……」

 

「ゴブリン……だと……?」

 

 突然出てきた単語に、思わず声が漏れる。

 おとぎ話にそんな名前の化け物が出てきた記憶がある。

 

 ━━村を襲い、人々を苦しめる害獣。

 

 月が二つあることを知ったとき並の衝撃だ。おとぎ話の怪物が、実在するとは……。

 俺の呟きを確認したと受けとったのか、猟師が頷く。

 

「んだ。見た感じ、たくさんおる。村さ戻ってくるまでに、生きた心地がしなかっただよ」

 

 額に流れる冷や汗を拭いながら、猟師は胸に手を当てた。

 装備も何もない状態で怪物に襲われるのは、想像もしたくない。

 そもそも、装備があったとしても、その『ゴブリン』の体格、急所、武器防具の有無、数もわからないのに挑めと言われても、流石に困る。

 猟師の言葉を聞いた村長は、蓄えた顎ひげをしごき、確認を取った。

 

「そこでだ、皆の衆。『冒険者』を雇おうと思うのじゃが」

 

 村長の言葉に波紋が広がっていく。

 

「娘に手を出さねぇか、心配だ」

 

「そだけど、十年前も、冒険者を雇った村が生き残ったべ」

 

「雇う前に、金はどうするべ。かき集めても、足りるかどうか」

 

 など、その『冒険者』なる人物について色々と意見が飛んでいく。

 纏めると、報酬と引き換えに、仕事を請け負う傭兵のような者なのだろうか。

 俺も『アサシン迎撃』や『艦隊戦』、『フロンティア戦』と、仕事の報酬で金を貰うことは多々あった。

 彼らも、そういう輩なのだろう。

 俺が思慮を深めていると、村人が俺を指差してきた。

 

「そこの『旅人』さんに頼めねぇか。怪我こそしてたけども、腕はたつんだろ?」

 

「確かに、先生に鍛えてもらった。町にいる暴漢には負けん」

 

「なら━━」

 

「熊や狼の相手もしたことはあるが、ゴブリンの相手はしたことがない。その道のプロを雇うべきだ」

 

 俺の一言に、村人は黙ってしまった。

 村としては出来るだけ出費を抑えたいのだろうが、それで村が滅びれば、元も子もない。

 村長が一度咳払いをし、村人たちに言う。

 

「では、冒険者に頼むとしよう。明日の朝一に、せがれにギルドまで走ってもらおう。頼めるか」

 

 村長の後ろにいた青年は嬉しそうに頷き、「そなら、早めに寝るだ」と部屋に戻っていった。

 親に頼られて嬉しいという気持ちはわかる。だが、空回りしないかが心配だ。

 

「村の若い衆に、見張りを頼みたい。各々がた、頼めるか」

 

 村長の頼みに、村人は一斉に頷く。

 彼らの息子たちが中心に、見回りをしていくことになりそうだ。

 

「『旅人』さんも、滞在中はお願いしてもよろしいですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 即答で返し、ついでに頼む。

 

「それで、装備を返してもらいたいのだが頼めるか。エアライフル(こいつ)だけでは不安だ」

 

 背中のエアライフルを担ぎ直しながらの頼みに、村長は複雑そうな表情になった。

 装備をもらった途端に行方を眩ますと思っているのだろう。

 俺は気付かれない程度に小さく息を吐き、村長に言う。

 

「━━服は後でいい。あれは父から譲り受けた大切なものだ、置いてはいかない」

 

 俺の言葉に、村長は少し考えを巡らせ、渋々と言った様子で頷いた。

 

「……わかりました。お返ししましょう」

 

「ありがとう」

 

 剣は弾き飛ばされたはずだから、あるとしてもフリントロックのピストル二挺と、アサシンブレードが一対だけだろう。

 ピストルのほうは火薬━━こちらでは火の秘薬と言うそうだ━━は湿気っている可能性がある。

 まあ、最悪鈍器程度には使えるはずだ。大抵のものは鈍器として使えるし、生物とは死ぬまで殴れば殺せる。

 装備を返してもらう算段もつき、動き出すのは明日から、と言ったところか。

 この日はこれで解散となり、俺は院長と共に孤児院に戻ることに。

 院長と二人で夜の道を進む中、院長が二つの月を見上げながらこう切り出した。

 

「ところで、旅の方。いつまで滞在するおつもりでしょうか」

 

「……傷も治り、痛みも引いた。この問題が片付けば、行こうと思う」

 

「留まっては、くださらないのですね」

 

 院長の言葉に、俺は無言で頷く。

 俺としては、長居しすぎたとも思っているほどだ。

 俺がいるせいで、院長や子供たちには余計な負担を強いてしまった。

 先程の会議から考えていたことを口にする。

 

「俺は『旅人』だが、先ほど話題に上がった『冒険者』になってみようかと思う。日銭を稼がなければ、飢え死にするだけだからな」

 

「そうですか。あの子は悲しむことでしょうね」

 

 院長は悲哀の表情を浮かべ、そう呟いた。

 あの子とは、いつも俺について回る女の子のことだろう。

 泣き虫だが、あの子はそれ以上に笑う子だ。

 

「短い付き合いの俺が言えた義理でもないが、大丈夫だろう。あの子は、想像よりもしっかりとした子だ。俺がいなくなったところで、腐ったりはしない筈だ」

 

 俺がそう言うと、院長も「そうですね……」と返してきた。

 親を失っても腐らず、好奇心の赴くまま行動するあの子は、確かに危なっかしいが、きっと大物になるだろう。

 何となくだが、そんな予感がする。

 

 

 

 

 

 会議から一週間ほど経った頃。

 太陽がほぼ真上から光を突き刺してくる時間帯に、俺は村の入り口に立っていた。

 いつ来るかもわからない冒険者を待つため、柵に寄りかかり、村の外へと伸びる道で待機しているのだ。

 件のゴブリンたちは夜中に村に忍び込み、収穫間近の作物や家畜を拐っていた。

 しかも、俺のいない時間帯を狙っての犯行だ。

 奴等は何故だか俺を脅威と感じているのか、俺の見張りの時間には何もしてこず、村人が見張る時間に犯行に及ぶ。

 一応だが、昨日村人が仕留めたというゴブリンを見せて貰ったが……。

 

「……厄介そうだ」

 

 子供程度の大きさで緑色の体色をした、人型の怪物。

 その醜い顔は、まさか死ぬとは思っていなかったのか、驚愕の色に染まり、黄色い眼球が半ば飛び出していた。

 解剖しようとも思えたが、流石に彼らや、興味本位で見に来た例の女の子の前ではそれは出来ない。

 

 人型ということは、急所も人間に似ているのだろうか。

 

 小柄だから、少々殺りにくそうだ。

 

 力はそれほどでもないようだが、数が多ければ厄介だ。

 

 夜中に犯行に及ぶということは、夜目が利くのか。

 

 殺された一匹は棍棒を使っていたそうだが、他にも何か武装はあるのか。

 

 戦闘中に背後からの奇襲を受けたらどうするか。

 

 群れを作り、物を盗むということは、死んだふりをする程度の知能はありそうだ。

 

 ゴブリンへの仮説を立ち上げ、対策を思慮する。

 やはり柵を作るように打診するべきか。

 それとも見回りの時間を変えるべきか。

 ひたすらに思慮を深めていくなか、村のほうから誰かが駆けてくる音が聞こえた。

 サイズの合わないサンダルでも引きずっているのか、土と擦れる音も一緒だ。

 

「おにーちゃーん!」

 

 機嫌のいい犬が尻尾を振るように、手をぶんぶん振り回しながら、太陽のような笑顔を浮かべた女の子が駆け寄ってきた。

 出来るだけ外出を避けるように言われているはずだし、院長が見張っていたはずだ。

 昼にしては服に汚れがついているし、もしかしたら、孤児院の壁にあった小さな穴を潜ってきたのかもしれない。

 子供の好奇心は、恐ろしいものだ。

 だからこそ、その子供たちが『自由』に安心して暮らすためには、その周りを囲む『規範』が必要不可欠だ。

 危険な場所に危険だとわかっていて子供━━この世界では15歳から成人として扱われるそうだ━━を放り込むなど、あってはならない。

 人々を縛り付けるだけの『規範』など、意味がない。それではただの『支配』だ。

『規範』の中である程度の『自由』を与え、そのなかで『平穏』を謳歌させる。

『マスター』たちは、それを目指していたはずだ。

 人々を無駄に縛り付けては、反乱を呼び、アサシンどもに付け入る隙を与えるだけだからな。

 だが、『自由』を与えるとは……。

 

 ━━まるで『アサシン』どもが言いそうなことだ。

 

 この世界に来て三ヶ月足らずだが、僅かに自分が変わっているように思える。

『アサシン』も『騎士団』もいないこの世界に来て、視野が広がったのかもしれない。

 もう少し、父からアサシンについて訊いてみるべきだったか?

 

「おにーちゃん、どうしたの?」

 

「いや、考え事をしていた」

 

 ━━こう思うようになったのも、この瞬間を『自由』に生きる、この子のせいか……。

 

「なんで笑ってるのさ~?」

 

「何でもないさ」

 

 女の子は俺の寄りかかる柵によじ登り、その上に座って俺の頬をつついてくる。

 二つほど注意するべきなのだろうが、この子がよじ登った柵は俺の身長よりも低いものだ。落ちても多少痛いで済むだけだろう。

 頬をつつかれるのも、無駄に喋られるよりはましだ。

 二人で日を浴びながら待っていると、道にそって近づいてくる黒い影を視認した。

 少しずつ確かになってくるそれは、一言で言えば『何か変なの』だ。

 年期が入っているのか薄汚れた革鎧に、片角が折れた鉄兜。

 腰には振りやすさを重視したのか、中途半端な剣を下げ、左腕には小振りな円盾(まるたて)

 装備に統一性は見られず、ありふれた数打ちものを適当に見繕ったように見える。

 その『何か変なの』は、俺たちの前で立ち止まり、開口一番にこう告げてきた。

 

「ここがゴブリンの出る村か」

 

 この『何か変なの』が、俺と女の子が見た、最初の冒険者だった。

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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