SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory02 上を目指して

 辺境の街、冒険者ギルド。

 その受付で受付嬢は依頼書を確認し、内容を伝えられた銀等級冒険者である重戦士は、何とも言えない表情を浮かべていた。

『悪魔の塔』と呼ばれることとなった謎の遺跡の探索依頼。

 遺跡の探索と聞けば聞こえはいいが、そこにいるのは悪魔(デーモン)かそれに準ずる何物か。

 軽い気持ちで受ければ、間違いなく死ぬだろう。

 特に、()()()()()()()()()()

 内容を一言一句漏らさずに確認した重戦士は、きっぱりと首を横に振る。

 

「無理だな。今うちのが体調崩しやがったもんでな……」

 

 彼は渋い顔をしながら「申し訳ねぇ」と呟く。

 受付嬢も困ったもので、ため息混じりに眉を寄せた。

 重戦士は依頼書を受け取り、その内容をまじまじと見ながら言う。

 

「銀等級の呪文使い(スペルキャスター)と斥候の類いがいれば、話は変わってくるが……」

 

「あなた含めて三人ですか……」

 

「最低人数だ。出来れば前衛三、後衛三の六人は欲しいが……」

 

 その言葉を受けた受付嬢は真剣な表情で書類を確認し、彼の言った基準に合いそうな人物を探す。

 特に今回は国王からの依頼だ。下手な人材を送り出すわけにもいかない。

 銀等級で、前衛もこなせて呪文もたしなんでいる人材なんて……。

 

「受付さん、お困りですか?」

 

 ずいっと重戦士の後ろから顔を出したのは、銀等級冒険者、槍使いだ。

 そう言えばと彼女は思慮し、そして笑顔を貼り付ける。

 

「そういえば、呪文も習っていらっしゃるのでしたか」

 

「ありとあらゆる状況に対応してこその冒険者ですからね!」

 

 彼女の言葉にとても嬉しそうに返すと、重戦士は仕方がないと息を吐いて状況を説明。

 彼は二つ返事で承諾すると、受付嬢はちらりと彼の一党である魔女に目を向けた。

 魔女はひらりと片手を振り、「勝手にやって」と言わんばかりに微笑する。

 それはそれで受付嬢は困るのだが、そう言うのなら頼らせてもらおう。

 

「では、とりあえず二人……で宜しいですか?」

 

「俺は構わん。こいつなら信用できる」

 

 重戦士は頷くが、「まだ足りねぇぞ」とぼやく。

 槍使いも続いて頷き、そして依頼書を確認しつつ言う。

 

「あとは、斥候かね。腕っこきで、最低でも悪魔相手に自衛が出来るぐらいのな」

 

 彼の言葉に重戦士は頷き、顎に手をやってぼそりと言う。

 

「戒律は善に越したことはないが、せめて中立……」

 

「後で揉めるのはごめんだからな」

 

 斥候というのはその役職上、利己的で積極的な傾向が強い。

 宝箱の中身をくすねるなぞ、日常茶飯事だろう。

 必要となる人材を纏めてみると、こんなところか。

 斥候であり、前衛も出来る人物。

 実力もあり、人格も良好。

 公私混同はせず、戒律も善ないし中立。

 そんな人物、果たしているのか。

 人材を探す三人の脳裏によぎるのは、斥候なのに下手な戦士よりも強いあの男。

 だが、彼は先日の一件で体調が━━。

 彼らがそこまで思慮すると、その彼がギルドの自由扉を潜り、中に入ってきたのだ。

 彼は迷うことなく受付に向かい、重戦士、槍使いの後ろに無言で並ぶ。

 

「「「………」」」

 

 三人はそっと彼に目を向け、何度か瞬き。

 当の彼は懐からリンゴを取りだし、無言でしゃりしゃりとかじり始めていた。

 重戦士は二人に目配せし、そして彼に声をかけた。

 

「あー、ローグハンター?」

 

「━━邪魔なら下がるが」

 

 口に含んだリンゴを飲み込んだ彼は、困り顔の重戦士に対して小さく首を傾げる。

 

「おまえの一党の二人、どうした」

 

「魔術師が熱を出してな。あいつに面倒を見させている」

 

 ━━女同士のほうが良いだろう?

 

 彼はそう付け加え、リンゴを一かじり。

 受付嬢は苦笑混じりに彼に訊く。

 

「あの、もしかしてですけど、お一人で依頼を?」

 

「この際鼠退治でも構わんが、出来ればならず者(ローグ)退治はないか」

 

 彼はいつも通りの口調でそう返し、再びリンゴを一かじり。

 三人は目を合わせると、件の依頼書を彼に差し出した。

 彼は無言でそれを受けとると、じっと眺めて「ほぉ」と息を漏らす。

 悪魔の塔なる遺跡の調査と、余裕があればそこにいると思われる邪教徒か魔術師(ローグ)の討伐。

 報酬も良く、彼女らが数日休んでもどうにかなるだろう。

 それに銀等級二人が同行するなら、生存率も高まるというもの。

 いつの間にか芯だけになったリンゴを弄びつつ、彼は一度頷いた。

 

「俺は問題ないが、病み上がりだ。ある程度斥候の技量がある奴が居てくれれば安心だが……」

 

 専門でもないにしろ、斥候の技量がある程度ある人物。

 言い出しっぺの彼も、言いながらその誰かに目星を付けていたのか、視線はギルドの片隅に向けられている。

 重戦士、受付嬢もそれに気づいたのか、納得したように頷く。

 槍使いだけが察せていないのか、小首を傾げていた。

 受付嬢はそんな彼に構うことなく、その彼の元に依頼書を持っていく。

 彼女に声をかけられた彼は、そっと顔を上げていつも通り淡々と問う。

 

「……ゴブリンか?」

 

 

 

 

 

 辺境の街離れたらとある荒野に、何とも不思議な四人組がいた。

 一人目はだんびらを背負った筋骨隆々の男、重戦士。

 二人目は槍を担いだ猛々しい美丈夫、槍使い。

 三人目は目深くフードを被った謎の男、ローグハンター。

 そして最後の一人は、薄汚れた革鎧に鉄兜を被ったみずぼらしい格好の男、ゴブリンスレイヤー。

 全員只人、全員前衛という異色な一党は、目の前の塔を見上げてほぼ同時にため息を漏らす。

 

「ざっと見て、六十階と言ったところか」

 

「正面から突っ込むのは手間だな」

 

 ローグハンターが目測を漏らし、重戦士は顎に手をやり考える。

 槍使いはその意見に頷き、目を細めながら言う。

 

「この手の塔の中は、怪物と罠だらけだろうよ。作った奴はそのくらい性格の悪い奴に決まってらぁ」

 

 足元の潰れた転落死体に目を向けていたゴブリンスレイヤーは、ふむと唸って彼らに言う。

 

「ならば、壁を登るか」

 

 そう言う彼の手には、いつの間にか楔が握られている。

 それを突き立て、足場代わりにして登ろうと言うのだろう。

 ゴブリンスレイヤーは呆れる槍使いを一瞥し、各々に確認を取る。

 

登攀(とうはん)の経験はあるか」

 

「山登り程度ならある。崖もな」

 

「俺も大丈夫だ」

 

 重戦士、槍使いが肯定の言葉を漏らし、ローグハンターは目を細めて口の端を吊り上げる。

 

「このぐらいの高さなら、命綱無しで登ったことが何度かある」

 

 ━━ついでに、同じ回数飛び降りたこともある。

 

 流石にその言葉を飲み込んだが、その言葉を聞いた三人は、

 

「「「………」」」

 

 無言で引いていた。

 この塔は中々の高さだが、ローグハンターは特に怯えた様子はない。むしろ嬉々としていると言って良い。

 そんな彼は表情を引き締めると、顎に手をやりながら言う。

 

「問題は途中で敵に遭遇したらどうするか、だ。無防備にも程があるぞ」

 

「そこは槍使いの魔術に頼るしかないな」

 

 重戦士は槍使いに目を向け、彼は「任せろ!」と胸を叩く。

 

「最悪こいつを使うか。装填は無理だろうから、二発までだな」

 

 ローグハンターが腰のピストルを撫でながら言うと、ゴブリンスレイヤーは塔に楔を打ち込もうと金槌を振るっていた。

 が、再び唸るとその楔をローグハンターの手元に放る。

 それを受け取ったローグハンターは、先端の潰れた楔を眺め、困り顔で肩を竦める。

 

「まず楔を打ち込まなければな。どうする」

 

 彼が問いかけると、おもむろに重戦士が籠手と腕輪を外しにかかった。

 装備を背嚢に押し込み、赤い液体で満たされた瓶を取り出す。おろらく筋力上昇効果のある水薬(ポーション)の類いだろう。

 彼はそれを一息であおり、片手剣と紅玉が填められた指輪を取り出した。

 

「へぇ、身体強化(フィジカルエンチャント)の指輪か」

 

 槍使いが興味深そうに言い、ゴブリンスレイヤーに目を向ける。

 

「見ろよ、ゴブリンスレイヤー。こいつが一流の冒険者の装備って奴だぜ」

 

 他人を見ながら自慢する槍使いに、重戦士は何か言いたげな表情になっているが、目の前の作業に集中する。

 言われたゴブリンスレイヤーは、ぼそりと言う。

 

「……魔剣の類いはないが、指輪ならあるぞ」

 

「へぇ?」

 

「水中呼吸だ。これならゴブリンどもの指に填まらんから、奪われても痛手にならん」

 

 ふと、三人の視線は黙りこんでいたローグハンターに目を向けた。

 彼が魔剣の類いを振るっている姿も、道具を使っている姿を見たこともない。

 三人の視線を受けた彼は、そっと視線を塔の頂上に戻した。

 触れないほうが良いのだろう。

 何せ彼が相手しているのはならず者(ローグ)だ。彼が負けた時、その装備全てが相手のものとなる。

 下手をすれば、ゴブリンスレイヤー以上に負けが許されないのだ。

 重戦士は何も言えない彼を気遣ってか、打ち込んだ楔を掴んでぐいと体を引き上げた。

 

「水薬は経費ってことで良いだろう?差っ引いて四等分だ」

 

 そして片腕で姿勢を保ち、次の楔を打ち込んでさらに上へ。

 ローグハンターの目からすれば「まだまだ」の一言なのだが、だんびら背負っての登攀だということを考慮すれば、そこまで無理は言えないだろう。

 むしろ、その筋力は称賛に値する程だ。

 本来なら板金鎧を着込んだまま跳ね回る彼の先生がおかしいのだが、彼の基準がその先生である以上、その異常さに気づくことが出来ない。

 

「構わん」

 

「問題ない」

 

「あいよ」

 

 三人は重戦士の言葉に即答する。

 報酬の分配で揉めるのは、酒場で飲みながらと相場が決まっている。

 ローグハンターは二人に目配せし、ゴブリンスレイヤーから予備の楔を受け取ると、重戦士に続いて登攀を開始する。

 続いてゴブリンスレイヤーが登り、最後尾に槍使い。

 手慣れた様子で登るローグハンターは、すぐにでも重戦士に追い付いてしまうほどだ。

 登りながらタカの目を発動し、周囲に気を配って時には下の二人にも気にかける。

 目が合う二人からしてみれば、「よく下見れるな」と思う他ないのだが、彼は高さに怯えた様子もなく再び上へと目を向けた。

 そして、左右に気を向けた彼は目を細めると、ピストルをホルスターから引き抜く。

 

「西から来るぞ。数は二。あれは……ガーゴイルと見るが」

 

 西の空に浮かぶ赤い影は、魔力で動く緑も混ざって不気味な輝きを放っている。

 つまり『飛ぶ石像』。これをガーゴイルと呼ばずに何と呼ぶ。

 彼の報告に重戦士もそちらに目を向け、下の槍使いに届くように声を張り上げる。

 

「来たな。頼むぞ!」

 

「おう!」

 

 槍使いは勢いよく返事を返し、魔法の発動体である耳飾りに触れる。

 無機物の筈なのに、まるで生きているかのように迫り来るガーゴイルは、登攀中の冒険者に狙いを定めている。

 しかし槍使いは慌てず騒がず、世の(ことわり)を書き換える真に力ある言葉を口にした。

 

「《ホラ()……セメル(一時)……シレント(停滞)》!!」

 

 途端、吹き付けていた風が止まった。

 槍使いの言葉が世界に満ち、その全てを遅滞させていく。

 風は止まり、音が途絶え、『沈黙(サイレント)』の奇跡とは違う静けさが辺りを支配する。

 彼が行使したのは『停滞(スロウ)』の魔術だ。

 全てが遅滞するその空間では翼が意味を成さず、ガーゴイルたちは重力に引かれて落ちていく。

 数秒かけて数十階分を落下し、微塵に砕けて塵へと還る。

 砕けた石像など、もはや石以外の何物でもない。

 ローグハンターはピストルをホルスターに戻し、槍使いに向けてサムズアップ。

 重戦士は冷静に、ニヤリと笑う槍使いに目を向ける。

 

「それで、あと何回だ」

 

「ああ。あと一回だな、本職じゃねぇ」

 

「それでも二回か。俺のところの魔術師も、まだ二回だけだ」

 

「そいつはまだ黒曜だろ?これからだ」

 

「それもそうだな。次に接敵、更にそれが一体だけなら俺が対処するが。……最悪降りることも考慮しないとな」

 

「そうだな。槍使いの呪文が切れたら、降りて正面から行くぞ」

 

 臨時の頭目である重戦士の決定に、首を横に振る者はいない。

 だがローグハンターが問いかけた。

 

「頂上付近なら、登りきるで良いか」

 

「ああ、その意識で問題ない」

 

 重戦士はそう返すと再び楔を打ち込み、無くなればローグハンターから補充を受ける。

 ふと、ローグハンターは黙々と登攀していく重戦士が背負う、左右に揺れるだんびらに目を向けた。

 下手に勢いがつけば、楔に引っ掛かりかねない。

 要らんお世話だろうなとも思うが、念のためだ。

 

「重戦士」

 

「なんだ」

 

「……引っ掛けるなよ」

 

「う、うるせぇよ……」

 

 何故か不機嫌そうに返されたローグハンターは首を傾げ、下の槍使いは憚ることなく爆笑し、ゴブリンスレイヤーはやれやれと首を横に振る。

 そう、この四人の中ではローグハンターが一番年長だが、冒険者歴では彼以外の三人が上なのだ。

 彼ら三人しか知らないことも、一つや二つあることだろう━━━。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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