SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory03 ゴブリン

「北は山、無理をすれば馬で通れる岩だらけの場所だ。前に狩りに出たが、洞穴の類いはない」

 

「そうか」

 

 村に来た冒険者の相手を任された俺は、村の周辺のことを教えていく。

 案の定、あの子は説教を貰い、おかげで村長への案内を頼まれてしまった。

 この冒険者、何を言っても基本的に「ああ」「そうか」で返ってくる。本当に理解できているのか不安だ。

 冒険者が言う。

 

「金は払う。余っている材木だの柵の材料だのと、後は細工道具を貸してくれ」

 

「それは俺じゃなく、村長に言え」

 

「ああ」

 

 基本無口な冒険者を横目に、こちらの様子を伺う村人たちにも目を向ける。

 娘が助けてくれた冒険者に惚れ、そのままついていってしまった。なんて話があるらしく、余り関わろうとしない。

 同じ余所者で、報酬を求めない俺は、冒険者の相手に都合がいいのだろう。

 それからお互いに話すことはなく、黙々と村を歩く。

 沈黙が痛いとは思わない。むしろ、仕事人というのはこのくらいのほうが良いだろう。

 マスターたちは時々下らない━━好みの女や、その出身地などの━━話をしていたが、やる時はやってくれるのだから何も言えない。

 それに、たまには息抜きも大切とも言っていたな……。

 村長の家の前に到着し、冒険者を中に通す。

 あの男がゴブリンをどう皆殺しに(スレイ)するか、見ものだ。

 

 

 

 

 

 村人たちが歌に合わせて作物を収穫していく。

 村人たちの表情はどこか嬉しげなものであり、その作物を育てる苦労を暗に告げていた。

 余所者である俺が参加することはないが━━、

 

「「…………」」

 

 その代わりに、冒険者と共にひたすら杭を作っていた。

 背中にあるはずのエアライフルを横に置き、万が一に備えてアサシンブレードを両腕に。

 院長に借りたナイフで材木を削り、両端をひたすらに尖らせていく。

 冒険者は時々手を止め、ぼんやりとすることがある。

 それでもすぐに手を動かし始めるのだが、疲れた様子なのはわかる。

 無理を押して来ているのなら、むしろ俺だけでやったほうがいいかも知れない。だが、これは彼の仕事、か。

 

「ねー、おにーちゃん。なんでこれ、両方のはしっこ削ってるの?」

 

 エアライフルに触ろうと俺の隙を伺っていた女の子は、気をそらすためなのかそんな事を訊いてきた。

 さっきまで泣いていたというのに、今はもういつもの笑顔を浮かべている。

 

「用水路に立てるそうだ。ゴブリンが渡って来られないようにな」

 

 黙々と木を削り、杭が出来たら次の杭に取りかかる。

 機械的な作業を黙々と繰り返すのには慣れている。

 慣れた頃に失敗するので、意識して作業することがコツだと教えられた。

 冒険者は少し悩み、俺にも聞こえるように言ってきた。

 

「手伝わなくて良いのか」

 

「ボクが手伝うまでもないと思うの」

 

「俺は余所者だ。訳あってここに滞在しているだけのな」

 

 妙に得意気に胸をそらす女の子と、苦笑混じりに返す俺。

 女の子の手がエアライフルに伸びたので軽く叩いて返し、次の杭に取りかかる。

 川のせせらぎ、村人の歌、木を削る音が混ざりあい、妙に落ち着いてしまう。

 こういった『平穏』の中で生きるのは、いいものだ。

 向こうでは、町を歩き回るだけで刺客に追いかけ回されることが多かった。心休まることなぞ、滅多なことではなかった。

 だからこそ、それを一方的に奪おうとする輩がいるのなら、それを許すわけにはいかない。

 制作中のこの杭は、数を用意したら畑の脇を流れる用水路に突き立てていき、ゴブリンの渡河(とか)を阻止するために使うらしい。

 全力で投げれば武器にもなりそうだが、それなら槍でもナイフでも使ったほうが良いだろう。少々重いからな、これは。

 エアライフルに触れようとする女の子を注意しながら、次の杭に取りかかる。

 

「触るな、危ないから」

 

「ぶー。おにーちゃんのケチ!」

 

「怪我するぞ。大人ならともかく、子供は致死量だ」

 

「それは、武器なのか」

 

 作業を進めながら、冒険者が訊いてきた。

 俺はちらりとエアライフルに目を向け、一度頷く。

 

「俺の故郷で使われていた武器だ。音を出さずに針を飛ばして、相手に毒を打ち込む」

 

「飛ばすとは、それについている太い筒からか」

 

 意外と興味が引かれたのか、さらに訊いてきた。

 気になることは追及する性格なのか。それとも自分でも扱えるようになりたいのか。

 俺は首を横に振り、木を削る。

 

「いや、細いほうからだ。太い筒からは爆弾が……火の秘薬が詰まった袋が飛び出す」

 

 銃口の下に取り付けられたものは『グレネードランチャー』というらしい。

 爆弾を飛ばし、相手を殺害するも良し、ガス弾を飛ばして無力化するも良しだ。

 これを作り出した男は天才であり、狂人であったに違いない。

 どんな人物であれ、天才と狂人は紙一重なのだから。

 

「うえっ」

 

 女の子は露骨に怖そうな顔をして、少し距離を開けた。

 ようやく触るべきではないものと気づいたのだろう。

 削り終えた杭を置き、エアライフルを持ち上げて見せ、レバーアクションで弾を込める。

 吹き矢や弓よりは、格段に扱い易いと思うのだが、先生以外に使っている騎士はいなかった。

 

「おにーちゃんって、『旅人』なんだよね?危なくないの?」

 

「旅には危険が付き物だ。山賊、盗賊、海賊、人拐い。目的も、正義もなく、ただ金のために人を殺す奴は多い。人間は、なろうと思えばどこまでも残酷にも、醜悪にもなれる」

 

「??」

 

 真面目な話をぶつけられたことで、完全にフリーズを始めた女の子に、ため息混じりに言う。

 

「考え過ぎないで、逃げたらどうだ。そろそろ院長が来るぞ」

 

「っ!」

 

 言うが早いか、女の子が脱兎の如く駆けていく。

 あの年であの健脚なら、どこかで転ぶなんてことはないだろう。

 転んだところで、泣きながら戻ってくるに違いない。

「院長が来る」なんて、適当な嘘を吐いたのだから。

 冒険者は杭を纏め、ゆっくりと立ち上がる。

 

「手伝ってくれて、感謝する」

 

「ああ、何かあったら呼んでくれ。余所者同士、助け合おう」

 

「……ああ」

 

 気のない返事。呼ぶつもりがないのか、返すのも面倒になるほど、疲労が溜まっているのか。

 危険だと判断したら、勝手にやらせてもらうしかなさそうだ。

 俺は苦笑混じりに冒険者に言う。

 

「設置するのはいいが、片付けは手伝ってくれるのか?」

 

「そのつもりだが━━」

 

 冒険者は俺に背中を向け、杭を持ったまま用水路を目指して、怠そうにゆっくりと歩き出す。

 

「━━手伝えるとも限らん」

 

 その呟きと、削り出された木片だけを残して━━━。

 

 

 

 

 

 翌日。

 収穫を終えたこの村で、ちょっとした祭りが開かれた。

 神々に感謝を捧げ、来年の豊穣を願う祭りだ。

 もはや見慣れた村の人たちが歌って騒ぎ、ちょっとした贅沢として獣の肉が振る舞われる。

 あの冒険者は、柵を設置しているはずだ。休み抜きで働き続けているが、倒れないのだろうか。

 

「おにーちゃん!これ、おにーちゃんが捕ったお肉だよ!」

 

「そうか。いただこう」

 

 差し出された鹿肉を豪快に焼いたものを受け取り、頬張る。

 溢れ出た肉汁が強烈に熱いが、食事の醍醐味の一つだろう。何かを感じるのは、生きている証拠に他ならない。

 

 ━━あの冒険者は、何か食べているのだろうか。

 

 脳裏にそんな事がよぎる。

 人間というのは、無理をしているのに気づかない時がある。

 あの冒険者が、そんな状態になっていなければいいのだが……。

 楽しい時間ほど早く終わるとは、よく言ったものだ。

 あんなに盛り上がりを見せていた祭りは、すぐに終わりを迎えようとしていた。

 出された食事は食べ尽くされ、煌々と燃えていた篝火は陰り始める。

 西の夕暮れ空には雲がかかり、小さく雷の音まで聞こえる始末。

 村の人たちは急いで片付けを始め、門戸を閉ざし始めた。

 夜にはどしゃ降りの雨とゴブリンの襲来。その二つが間違いなく、同時に訪れるだろう。

 あの冒険者、その雨の中でゴブリンと戦うことになるのか。

 膝の上で眠りこける女の子を抱き上げ、孤児院を目指す。

 この子を寝かしつけたら、装備を整え━━と言ってもアサシンブレードとエアライフルしかないが━━冒険者の加勢に向かう。

 幸い、酒は入れていない。思考もしっかりしているし、腹には満腹にならない程度に物を入れた。

 大事なのは、やれるかではなく、『やる』か『やらない』か。

 結果がどうだとしても、やらなければ結果は訪れない。

 成功するかしないかは、運次第。

 そこまで考え、思わず苦笑が漏れた。

 そうだ、先生がよく言っていたじゃないか。

 

 ━━運とは、自分で掴むものだ。

 

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 

 

 

 真夜中では、月の輝きは太陽に勝ると言う。

 紅い月と緑の月と月が二つあるこの世界においても、それは例外ではない。

 だが、その二つを覆う厚い雲により、輝きが地上に届くことはない。

 小さな松明に照らされ、そのほとんどが闇に包まれた地上で、その冒険者は苦戦していた。否、はっきり言って殺されかけていた。

 四匹殺したまではいい。だが、不意に放たれた投石が兜に直撃し、倒れたところで袋叩きにあっていたのだ。

 うつ伏せに倒れる彼の背中に、棍棒、棍棒、時折斧や鉈が叩き込まれる。

 力任せのその乱打は、薄汚れた革鎧と、その下に着込んだ鎖帷子だけで防ぎきれるものではない。

 

「GOROGR!!」

 

「GRRB!GOORG!!」

 

 ゴブリンどもは、そんな冒険者を嘲笑う。

 一人で挑んできた冒険者を見下し、蹂躙する悦びに浸っている。

 

 ━━こいつを殺せば、大量の肉と女にありつける!

 

 基本的に略奪することしかしない彼らの脳内は、そんな事で埋め尽くされている。

 自分たちの森の中に村があるから、それは俺たちのもの。

 村が何かを作っていたら、それは俺たちのもの。

 俺たちが攻撃しているのではない。冒険者が俺たちを攻撃してくるのだ。

 自分たちのしてきたことを棚にあげ、自分たちを被害者としてしか考えない。

 冒険者を殺そうと、やりやすいように兜の角を持ち、無理やり顔を上げさせる。

 振り上げられる棍棒。あれを三回でもくらえば、兜ごと頭が潰れるだろう。

 冒険者はぼんやりとその事を自覚した。

 ゴブリンに故郷を滅ぼされ、目の前で姉を殺され、自分だけが生き残った。

 

 ━━あの夜が追い付いてきた。

 

 冒険者の脳裏によぎるのは、走馬灯か。

 彼の先生に当たる人物は、そんなものあってたまるかと言うだろう。

 ゴブリンたちは嘲笑う。

 下卑た笑いが雨音に混ざり、周囲の音をかき消した。

 だからだろうか、冒険者を含めて誰も気づかない。

 バシャバシャと音をたて、抜かるんだ畑を進む彼の姿を。

 彼が背中に回されたそれを構え、冒険者にトドメを刺そうとしているゴブリンに向け、引き金を引いたことを。

 音もなく放たれたダートがゴブリンに突き刺さり、強制的に眠らせたことを。

 

「GOB!?」

 

 棍棒を振り上げた一匹が倒れたところで、ようやく異常に気づいたゴブリンたちは慌てふためき、視界の端に捉えた彼のほうに目を向けた。

 それは冒険者も同じこと。彼もその人物に目を向けた。

 後ろで纏められた黒い髪に、背中に背負った妙な筒。身を包むのは鎧でも鎖帷子でもなく、一回りサイズの大きい狩り装束。

 昨日、杭の制作を手伝ってくれた男だ。

 余所者と言っていたが、冒険者という訳でもあるまい。

 どうして出てきたのか。

 冷静な冒険者に反して、ゴブリンたちは嘲笑う。

 間抜けな村人が、間抜けな冒険者を助けに出てきたのだろう。

 二匹のゴブリンが我先にも飛び出した。

 仲間を守るためなんて上等な理由ではない。

 

 ━━あの背中の筒は、俺のものだ!

 

 見たこともないものを欲しがった欲深さ。

 それが彼らの死因だった。

 正面からほぼ同時に飛びかかったその二匹に対して、彼は両腕を突き出す。

 両手首に巻かれた仕込み刀(アサシンブレード)が飛び出し、寸分の狂いなく飛びかかったゴブリンの喉を貫き、手首を捻って頸椎を折る。

 その二匹は、何をされたのかもわからないまま、痛みも恐怖もないままに死んだ。

 ゴブリンにしては、だいぶ上等な死に方だろう。

 彼らが与え続けたものを、最後まで知ることはなかったのだから。

 

「まず二、か」

 

 男はそう呟きながら死体を地面に叩きつけ、アサシンブレードを引き抜く。

 先程まで何も持っていなかった男の手元に、いつの間にか武器が構えられているのだ。

 正確には手首に仕込まれた刃を展開しているだけなのだが、ゴブリンどもはそれがわかるほど賢明ではない。

 彼は倒れる冒険者を睨み、感情を殺した声音で言う。

 

「どうした、冒険者。ここで死ぬつもりか」

 

「GOBR!!」

 

 飛びかかったゴブリンの鉈をアサシンブレードで受け流し、カウンターで首を一突き。

 ゴブリンの鉈を奪い取り、首に穴が空いたゴブリンの頭蓋に叩きつけ、砕く。

 

「三。次」

 

 飛び散る脳随を見ることなく、流れるように次のゴブリンの頭蓋を砕く(キルストリーク)

 

「四」

 

 ただ冷静に、数を刻んでいく。

 刃こぼれ激しい鉈を捨て、殺したゴブリンの斧を蹴りあげ、右手に掴む。

 

「まだ寝ているのか。そのまま何もしないつもりか」

 

 向かってくるゴブリンに一瞥くれ、右手に斧、左手にアサシンブレードを構える。

 

「まあ、そのまま眠れば楽になれるがな」

 

 斧で頭蓋を砕き、アサシンブレードで喉を貫く。

 喉を貫いたゴブリンを盾にし、放たれた矢を防いだ。

 手慣れた動きで、ゴブリンを殺していく男は、煽るように冒険者に声をかけ続けた。

 

「帰る場所はないのか」

 

 その言葉に、幾人かの顔が浮かぶ。

 

 ━━知ったことか。

 

 大きく息を吸って、吐く。

 彼が動き回っているおかげで、ゴブリンどもの注意はそちらに向いている。

 棍棒を持っていた正面のゴブリンは、なぜか眠りについている。

 

『俺の故郷で使われていた武器だ。音を出さずに針を飛ばして、相手に毒を打ち込む』

 

 ふと、男が言っていたことが過った。

 確かに、音は聞こえなかった。便利なものだ。

 

「GOBR!?」

 

「GRRB!」

 

 そんな事を思い出したところで、今さら何になる。

 その男は、視界の端でゴブリンを片付けている。

 一撃で急所を潰し、武器を奪い、勢いのまま次へと向かう。

 

 ━━武器庫は、向こうからやって来るということか。

 

 いまだに自分の兜を掴むゴブリンに目を向ける。

 目には怯えと悦びが混ざっている。

 仲間が死ねば、分け前が増える。そんな事を考えているのだろう。

 そのゴブリンの腰には、鷲の頭を模した柄頭の短刀。鞘はない。

 彼の右手が閃いたのは、その時だった━━━。

 

 

 

 

 

「これで、八」

 

 彼は錆びた刃の剣を片手に、周囲を見渡す。

 あの冒険者が何匹殺したかはわからないが、一人で押さえきれていた━━まあ、殺されかけていたが━━と言うことは、そこまで大規模な群れという訳ではないだろう。

 

「G━━!」

 

「む」

 

 彼を取り囲んでいたゴブリンの一匹が、後ろから首をかっ切られて血に溺れていった。

 横目で確認してみれば、先ほど眠らせたゴブリンの頭は踏み潰され、息絶えている。

 彼は口元に笑みを浮かべ、ゴブリンの背後の冒険者に目を向けた。

 

「ようやくか、遅かったな」

 

「すまん……」

 

 視線の先には、アンバランスに残されていた兜の片角までもが折れ、泥にまみれた冒険者。

 事情を知らねば嘲られるであろう格好だが、それこそが彼が戦い、立ち上がり、生き残った証拠だ。

 彼は錆びた刃を飛びかかってきたゴブリンの胸に突き刺し、一気に押し込む。

 それだけでは死なないのはわかりきっているので、斧を奪って頭をかち割る。

 

「九と━━」

 

 血まみれの斧を振りかぶり、投げ撃った。

 空中を回る斧は、後方で二人が死ぬのを待っていたゴブリンの頭にぶち当たり、命を刈り取る。

 

「━━十だ」

 

 無手になった右手のために、アサシンブレードを展開。警戒しながらタカの目を発動し、冒険者に問いかける。

 

「━━で、いくつ殺した」

 

「六だ。残りはわからん」

 

「合わせて十六。柵の外にもいるようだが、総数は三十いるかいないか、と言ったところか」

 

 柵の外を蠢く赤い影をざっと数えながらそう言うと、冒険者の兜が縦に動く。

 

「おそらく。次が来るぞ」

 

 冒険者の警告と共に、立てられた柵にわざと作られた隙間に、ゴブリンが殺到してきていた。

 数は最低でも十はいる。それだけ見れば、相手の数はこちらの五、六倍だ。

 

 ━━だが、それがどうしたと言うのだ。

 

「ゴブリンは皆殺しだ……!」

 

 冒険者はそう言い、手にした短刀を投げ撃った。

 鷲を模された柄頭のそれは、本物の鷲さながらに、一直線に獲物に襲いかかる。

 それは柵を越えた最初の一匹の喉に突き刺さり、ゴブリンは間抜けた顔をしたまま、血泡を噴いて息絶えた。

 先ほど喉を裂いたゴブリンの腕を踏み砕き、棍棒をぶんどる。

 

「十と七。残りは━━」

 

「十二だ。すぐに終わる」

 

 柵に殺到するゴブリンの群れを睨み、彼はそう言った。

 

 ━━まるで、闇の奥が見えているかのように、断言したのだ。

 

 冒険者がほんの一瞬彼に目を向け、すぐさま視線をゴブリンに戻す。

 冒険者と彼は同時に駆け出し、冒険者は柵の穴のほうへ。彼は柵に正面から突っ込んでいった。

 柵から顔を覗かせたゴブリンの頭を棍棒で叩き割り、彼は柵に乗り、ゴブリンの上から奇襲をかける。

 

「十八!」

 

 冒険者が一匹葬ったことを合図に、両手のアサシンブレードを展開し、飛び降りた勢いのまま二匹を同時に殺す(ダブルアサシン)

 

「二十だ」

 

 倒れたゴブリンの棍棒を奪い、両手で構えてフルスイング。

 棍棒で横殴りに殴られ、顔面がひしゃげたゴブリンは吹き飛び、声をあげることも出来ずに死に晒した。

 

「二十一」

 

 棍棒は血に濡れてなお形を保っている。

 冒険者が三匹仕留めたことを横目に、棍棒を垂直に振り下ろす。

 ゴブリンは手にした錆びた剣で防ごうとするが、棍棒の一撃はその剣ごとゴブリンの頭蓋を砕く。

 

「二十五……」

 

「二十六!」

 

 それと同時に冒険者が一匹仕留め、残るは三匹。

 

「GOBRGOBR!!」

 

 一匹が逃げようと背中を向けるが、その背中にダートが突き刺さる。

 エアライフルを構えた彼は一息吐き、撃ち込んだダートの効果を確かめる。

 

『バーサークダート』。撃たれた対象は激情にかられ、目の前にいるものを敵味方関係なく襲うようになる。

 

 そのダートが刺さったゴブリンは自分の頭を押さえると、狂ったように笑いながら残った仲間に襲いかかった。

 手にした棍棒を何度も振り下ろし、組伏せた一匹を撲殺する。

 狂った仲間と、それに殺された仲間。

 自らが辿る運命に恐れ、最後の一匹は逃げようとするが、

 

 バシャッ!

 

「ッ!」

 

 背後から聞こえた音に、そのゴブリンは振り返る。

 そこにいるのは、雨に濡れ、泥まみれになった、幽鬼のような冒険者。

 足元の水溜まりに足をつけ、斧を片手に見下ろしてきていた。

 自分たちを殺した冒険者に、ゴブリンは膝を屈して許しをこう。

 喚き散らすその言葉が冒険者に伝わることはないが、内容を要約すると、

 

『森の中でひっそり暮らすから、自分だけでも見逃してくれ』

 

 と言ったところか。

 どこまでも自分本位なゴブリンだが、その手はゆっくりと腰に差した短刀に伸びていく。

 

「二十七、八。こちらは終わったぞ」

 

 冒険者ではないほうが、先ほどの二匹を仕留めたことを告げていた。

 ゴブリンにはそんな事は関係ない。自分が助かれば、それでいいのだ。

 最後のゴブリンが顔をあげる。

 その瞬間、ゴブリンの脳みそが地面にぶちまけられた。

 斧を振り下ろした冒険者は、倒れるゴブリンに一瞥くれて、こう告げた。

 

「ゴブリンは皆殺しだ……」

 

「二十と九、か。中途半端な数だな」

 

 雨で返り血を流しながら、槍を片手に彼がそんな事を呟く。

 冒険者はその言葉に、何とも言えない違和感を感じた。

 

「二十九。二十九だと……?」

 

 冒険者は首を捻り、改めて死体の数を数え始める。

 最後の突撃で、数が狂った可能性があったからだ。

 だが、数は二十九から変わることはない。

 拭えぬ違和感を感じながら、二人で村に戻る。

 冒険者の後ろをついて歩き、周辺を警戒する。

 

「む……」

 

 その時、彼の耳に刺客たちの『囁き声』とも違う、『下卑た笑い声』が響いた。

 冒険者にそれが聞こえた様子はない。空耳、という訳でもない。

 彼は意識を集中させてタカの目を発動させると、視線を巡らせる。

 そして、それを見つけた。

 杭が設置された用水路。そこに小さな『赤い影』が見えるのだ。

 彼はそちらに歩き出し、それに気づいた冒険者も彼に続く。

 そこにいたのは、どうにか杭を避けながら用水路を越えたゴブリンだった。たったの一匹。されど一匹。

 たとえ最弱の魔物であろうと、魔物であることに変わりはない。

 用水路を越えるのに力を使い果たしたのか、そのゴブリンは四つん這いになって荒れた息を吐いていた。

 

 ━━だいぶ疲れたが、これで全部俺のものだ!

 

 ゴブリンは醜悪な顔をさらに悦びで歪め、顔をあげた。

 顔をあげたゴブリンの視界に入ったのは、食料でも女でもない。

 

 ━━そこには、二人の死神がいた。

 

 命乞いをする暇も、抵抗する暇もなく、そのゴブリンは死んだ。

 

「……これで、三……十……」

 

 仕留めると共に、冒険者の体が傾く。

 それを支えたのは、横にいた彼だった。

 冒険者はよほど疲れていたのか、気が抜けたのか、気絶したように眠っている。

 

「……院長は起きているだろうか」

 

 雨に濡れながら、彼はため息混じりに呟いた。

 だが、その表情はどこか嬉しそうなものだ。

 この世界における初めての戦いは、勝利で終えることが出来た。

 今回勝てたからといって、次も勝てるかはわからないが、今は目の前の結果を喜べばいい。

 

 ━━次がどうなるかなんて、神々ですらわからないのだから。

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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