SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory04 潜入開始

「なっとくいかなぁーい!」

 

 ゴブリンスレイヤーとローグハンターの一党が合流を果たした翌朝。

 山道を行く妖精弓手は、木柵の檻に入れられていた。

 もちろん入っているのは彼女一人というわけではなく、女神官、女魔術師、令嬢剣士もだ。

 彼女ら四人は申し訳程度のぼろ布一枚だけを身に纏い、手作りの檻に入れられている。

 その檻を運ぶのはゴブリンスレイヤーと鉱人道士だ。

 ゴブリンスレイヤーは薄汚れた鎧を更に汚し、『使役される死体』のような有り様である。

 鉱人道士のほうも何やら怪しげな紋様が描かれた外套に、顔にもそれと同じメイクを施している。

 二人の腰や背には、本来ローグハンターの装備であるものがぶら下がっていた。

 

「なんで私たちが戦利品扱いなのよ!もっと、こうあったでしょ!そっちみたいに!」

 

 吼える妖精弓手が指差した先にはいつもの衣装のローグハンターと、鉱人道士と似た格好をした銀髪武闘家がいた。

 ローグハンターは我関せずといった様子で周囲を警戒し、銀髪武闘家は怪しげな微笑を浮かべた。

 

「ふふ……。僧正様、冒険者が騒がしいわ……」

 

 壊れているかのように声に抑揚がないのは、彼女の演技によるものだろう。

 そんな彼女に声をかけられた蜥蜴僧侶は邪悪な笑みを浮かべてこくりと頷く。

 

「どんなに暴れようと、じきに外なる智恵の神への供物となるのです。むしろこれ程生きがあれば、智恵の神も満足してくださるでしょうや」

 

 そう言う蜥蜴僧侶も顔や鱗に紋様を入れ、邪悪な雰囲気を醸し出している。

 つまるところ、彼らは真っ正面から潜入することにしたのだ。

 敵陣に入るのなら、敵兵に化けるのが一番だろう。

 こそこそ潜入するにしても、相手の情報が無さすぎる。

 潜り込むのはローグハンターだが、流石に危険と一党の三人から待ったがかかったのだ。

 いまだに喚き散らす妖精弓手を無視する形で、ローグハンターは檻の中の三人に目を向けた。

 女神官と女魔術師は━━あまり良いことではないだろうが━━慣れていることだろう。

 問題はこれが初仕事である令嬢剣士だ。寒さに耐えているためか、体が小さく震えている。

 三人は寄り添ってお互いの体温で暖めあっているようだが、それでもすぐに限界が来るのは明白だ。

 ローグハンターは小さく唸ると、檻を運ぶ二人に声をかける。

 

懐炉(かいろ)代わりの何かないか。元気そうなそいつはともかく、三人が倒れるぞ」

 

 突然のそいつ呼ばわりに妖精弓手が長耳を逆立てる中、鉱人道士が髭を擦る。

 

「確かに風まで出てきたかんの。鱗の……おっと、僧正は大丈夫かいな」

 

「拙僧も厚着せねばまともに動けぬ故、なかなか……」

 

 外の五人の中で一番の厚着をしている蜥蜴僧侶は僅かに目を細める。

 

「恐るべき竜は、寒さによって滅びたとも言われているぐらいでありまして」

 

「ご先祖からの弱点なんて、大変ね……」

 

 銀髪武闘家は「ふふふ……」と怪しく笑い、横のローグハンターは小さくため息を漏らす。

 演技をしてくれと頼んだのは確かだ。だが、ここまで役に入り込まなくても良かっただろうに。

 

「まあ、寒いことには寒いか」

 

「な、慣れていますわね……」

 

 唇を震わせる令嬢剣士の言葉に、ローグハンターは頷く。

 

「……氷が大地になっている場所(北極圏)に行ったことがある」

 

「……想像もしたくありませんわ」

 

「俺の先生も『寒い』と断言したからな。まあ、相変わらず動き回っていたが……」

 

 彼は苦笑まじりにそう言うと、鉱人道士が『着火(ティンダー)』の呪文で石に熱を持たせて懐炉代わりに。

 それを布に巻いて檻に入れると、四人はそれを囲んで暖を取り始める。

 ゴブリンスレイヤーはその様子を眺めながら、雑嚢を探って何かの詰まった袋を取り出す。

 

「……城についてからと思ったが」

 

 そう言いながらローグハンターに向けて袋を放り、それを受け取った彼はその中身を確認して目を細める。

 見た目は青い貴石のついた指輪だが、タカの眼を通して見れると緑色に輝いて見える。

 

「なんだ、俺への当て付けか」

 

「深い意味はない」

 

 同じ銀等級で魔法の武具や道具を持っていないのは、世界広しと言えど彼の一党ぐらいだろう。

 ローグハンターはため息混じりに指輪を取り出し、それを隣の銀髪武闘家、前を歩く蜥蜴僧侶に手渡す。

 そのまま自分の分は取らずに袋を女魔術師に手渡した。

 ゴブリンスレイヤーはその様子を見ながら思い出したかのように言う。

 

「『呼気(ブリージング)』の指輪だ。多少なら、寒さも和らぐだろう」

 

「ほぉ、これは確かに。効きますな」

 

 蜥蜴僧侶は愉快そうにその目を細め、ちろりと鼻先を舐める。

 中の四人も僅かに楽になったのか、心なしか表情が和らいだ。

 

「キミはつけないの?」

 

「数に余裕がなさそうだからな」

 

 銀髪武闘家の心配を他所に、ローグハンターは視界の先に見え始めた砦の影を睨み付けた。

 

「そろそろ静かにしろ。演技でもおまえらは捕虜だ」

 

「わかりました。ほら、座りましょう」

 

「むぅ、わかったわよ。静かにしてれば良いんでしょ」

 

 女魔術師に肩を引かれ、妖精弓手は仕方ないと腰を降ろす。

 ついでにその表情を強張らせ、何となく負のオーラを放ち始めた。

 ローグハンターは小さく頷くと、檻の中の四人に目を向ける。

 

「……とりあえず牢屋に入れられるだろうが、外の誰かが近くにいる筈だ。手は出させん」

 

「ふふ、私が守るからね……」

 

 銀髪武闘家が怪しく笑いながら言うが、その笑みは言葉とは裏腹に不気味だ。

 檻の四人がむしろ不安になったのは、ここで言うことではないだろう。

 

 

 

 

 

「たのもう!」

 

 吹雪が吹き付ける城門の前で、蜥蜴僧侶の咆哮が響き渡った。

 いくらゴブリンとはいえ、これを聞き逃すほど愚かではないだろう。

 

「拙僧は外なる智恵の神、緑の月が僧正である!開けられませいっ!」

 

 銀等級まで昇り詰めた聖職者として、その振る舞いは堂々としており、なるほど相応の地位が相応しいだろう。

 

「流石だ。神官では、こうはいかないだろう」

 

「そうね。ふふ、流石……」

 

 銀髪武闘家の言動が本当に演技なのか不安になるが、ローグハンターは蜥蜴僧侶の後ろに控える。

 今の彼の姿は、蜥蜴僧侶の弟子のように見えるだろう。

 問題は、城門が開いてくれるかどうかだ。このまま開かなければ、女性陣がひたすらに辛いだけだろう。

 ローグハンターは肩をすくめ、大きく息を吸って声を張り上げる。

 

「外なる智恵の神の瞳にかけて!知を分かつ友たちよ、どうか我が声に応えたまえ!」

 

 蜥蜴僧侶に負けず劣らずの声量に、ようやく反応があった。

 隙間なく閉じられた城門が、重々しい音をたてながら開き始めたのだ。

 城門を開けるためにどれほどのゴブリンが従事しているかと考えると、相手の数はかなりのものだろう。

 今からその只中に飛び込むと考えると、まったく可笑しくなってくる。

 

「あ、あの……」

 

 ふと声を出したのは、令嬢剣士だろう。

 ローグハンターは小さく振り向くと、その不安に揺れる彼女の瞳をまっすぐに見つめ返す。

 ここで口を開いて敵に疑われる可能性を考慮すれば、下手なことは言えないだろう。

 

「……牢屋に入れたら、俺たちの誰かが見張りにつく。下手に逃げようなんて思うな」

 

 とても遠回しに『側にいるから大丈夫だ』と伝え、令嬢剣士は表情に僅かな余裕が浮かべると、とても小さく頷いた。

 妖精弓手が長耳を震わせ、鋭く言う。

 

「来るわよ」

 

「GROOOBR!」

 

 開かれた門の先にいたのは、小さな体躯。

 ぼろ布を組み合わせてつくられたであろう僧衣は、明らかに体に合っていない。

 威張り散らしているのか、本人は先程の二人のものよりも大きな声を出していると疑わない。

 

「GOORG!GRRB!!」

 

 ローグハンターたちに、小鬼司祭━━おそらくだ━━が何を言っているかを理解することは出来ない。

念話(コミュニケート)』の奇跡によって多少だがゴブリンの言葉を理解出来る蜥蜴僧侶の挙動に合わせ、ローグハンターをはじめとした邪教徒役の面々は頷いたり(こうべ)を垂れたりと、ある意味で忙しい。

 何言か言葉を交わすと、小鬼司祭の先導で城門を潜る。

 初めにたどり着いた砦の中庭には、数えるのが馬鹿に思えてくるほどのゴブリンがたむろしていた。

 かつては戦勝を祝って宴が開かれていたであろうその場所は、ゴブリンの遊び場として血や汚物にまみれ、もはや見る影もない。

 

「……神代の、鉱人の細工による建物。それを、よくここまで汚せるわね」

 

 女魔術師が小声で漏らすと、銀髪武闘家がそっと彼女を睨む。

 

「静かにしなさい。見られてるわよ」

 

 彼女はそう言うと、目だけで中庭を見渡す。

 庭、城壁の上、物見塔、僅かな隙間と、至るところにゴブリンは潜んでいる。

 ゴブリンにしては上等な装備を身に纏っている辺り、かなりの数の冒険者や野盗が襲われたことだろう。

 そのゴブリンたちが、好奇や好色が入り交じった貪欲な眼差しを向けてきている。

 下手に反応すればゴブリンを昂らせるだけなのだが、それがわかっていても令嬢剣士は身を強張らせ、女神官がそっと彼女を抱き締めた。

 ゴブリンスレイヤーとローグハンターの二人は、砦の地形とゴブリンの数を限界まで頭に叩き込んでいく。

 この規模からすると、まだ影に潜むゴブリンや果てにはその子供、そして囚われた女性もいることだろう。

 さて、全滅させるにはどこからどう攻めるべきか。

 

「うむ。さあ、ついて参れ」

 

「わかった。おい、連れてこい」

 

 蜥蜴僧侶の指示にローグハンターが答え、後ろのゴブリンスレイヤーたちに伝達する。

 

「ほいほいっと。いくぞ、鎧の」

 

 鉱人道士はゴブリンスレイヤーに言うと、彼は檻を担ぐ手に力を込める。

 ゴブリンたちの隙間を通り抜けて廊下に進み、腐敗したゴミ汁で滑る階段を下る。

 たどり着いた地下室は薄暗くじめじめとしていて、壁には等間隔で檻がかけられており、地下牢と呼んで差し支えない。

 鉱人手製の牢屋など、これほど洗練されたものはないだろう。

 錆びてなお強固な牢屋と錠前、鎖は、下手な魔物であろうと捕らえられるだろう。

 秩序の名のもとに機能していたその場所は、既にゴブリンたちによって汚され、牢屋の中にいるのは哀れな娘たちだ。

 これからそこに放り込まれる彼女らの顔が、青ざめていく。

 見張り番と思われるゴブリンが、小鬼司祭に出された指示の元、錆びた錠前に同じく錆びた鍵を差し込んで弄くり回す。

 牢屋が開け放たれると、小鬼司祭は蜥蜴僧侶に何やら声をかける。

 

「承知承知。ほれ、我が弟子たち、この娘たちを牢に入れよ」

 

「了解した。ほら、手を貸せ」

 

「ふふ、は~い」

 

 蜥蜴僧侶の指示にローグハンターと銀髪武闘家が頷くと、鉱人道士とゴブリンスレイヤーが支える檻を開け、雑に━━けれど怪我をさせないように━━彼女らを牢屋に入れていく。

 外よりはましだが寒いその牢屋には、腐敗臭が立ち込めており、その臭いの源は十中八九用足し用の穴だろう。

 そこには腐りかけの人の腕が無造作に突っ込まれており、汚物が溢れかえっている。

 健康だけでなく、精神的にも長居はしないに限るだろう。

 四人を牢に入れたローグハンターと銀髪武闘家の二人は、蜥蜴僧侶に頷いて合図する。

 

「では、我が弟子の片割れたる女人と我が従者よ。この祭祀場の主に挨拶に向かうとしよう」

 

 蜥蜴僧侶は銀髪武闘家とゴブリンスレイヤーに目を向けながら言うと、二人は無言で頷く。

 

「ならば、俺はこの(にえ)たちの見張りをするとしよう。傭兵、手伝え」

 

「へいへい。たっぷり金は貰うかんの」

 

 鉱人道士は腰の隠したピストル二挺に手を触れながら言うと、ローグハンターは見張りのゴブリンを横目で睨む。

 蜥蜴僧侶とゴブリンスレイヤーがいれば、とりあえず彼女は大丈夫だろう。

 問題は小鬼司祭がいなくなり、牢屋の四人を出してからだ。

 三人が司祭と聖騎士を押さえてくれている間に、六人でやれることをしなければならない。

 どこにあるかもわからない武器庫を潰し、食料庫を潰し、捕虜がいれば助け出す手立てを考えなければ。

 彼が直立不動で思慮する横で、小鬼司祭と蜥蜴僧侶が何やら話し込み、「承知承知」と彼は何度か頷く。

 小鬼司祭に連れられて、蜥蜴僧侶とゴブリンスレイヤーが歩き出し、銀髪武闘家はそっとローグハンターに目を向けた。

 彼は小さく一度頷き、口だけで『大丈夫だ』と告げる。

 彼女はそれに反応を返すことはなく、彼に背を向けて足を止めていたゴブリンスレイヤーの後に続く。

 地上に伸びる階段の先に消えていって三人の背中を見送った彼は、下卑た笑いを浮かべて近づいてくるゴブリンに目を向けた。

 

「GRRB!GOORGGOBR!!」

 

 何やら喚き散らしているが、その身振り手振りで「そこを退け」と言っているのは理解できる。

 それは良いことなのかと思慮すると、ゴブリンは彼の前で立ち止まり、大量の唾と共に意味不明な言葉を喚く。

 大方「後で混ぜてやるから女をよこせ」とでも言っているのだろう。

 ローグハンターは横目で鉱人道士に目を向け、彼が確かに一度頷いたことを確認するとそこを退いた。

 ゴブリンはその笑みをさらに醜悪に歪め、腰の鍵束からその牢の鍵を見つけると、手慣れた手つきで錠前を開き、相手の恐怖心を煽るようにゆっくりと扉を開け放つ。

 令嬢剣士が思わず「ひっ!」と怯えた声を漏らした瞬間、ゴブリンの首が背後から伸びた腕によってへし折られた。

 ゴブリンを殺害したローグハンターは鍵束をくすめると、四人に目を向けた。

 

「作戦開始だ。行けるか」

 

 有無を言わせぬ確認に、彼女ら四人は確かに頷く。

 砦に入り込むのには成功した。見張りを殺した以上、後はスピード勝負だ。

 鉱人道士は檻の下に隠していた彼女らの装備を引っ張り出すと、それをローグハンター経由で渡す。

 ついでに彼のピストルを返し、二人で左右の通路を警戒する。

 後ろの牢屋の中では、女性陣が手早く着替えていく。

 着替え終えた合図の咳払いを受けた彼は振り返る。

 そこにいたのはいつもの格好の四人だ。

 頼れる相棒の二人がいないのは心許ないが、ここにいるのは六人という本来基本となる一党分の人数。

 かつて六人で世界を救った者たちがいたのだ。

 六人で砦の生命線を絶つことなど、容易いことだろう。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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