SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory06 偽りの鷹(ゴブリンアサシン)VS鷹を狩る者(アサシンハンター)

 女神官の『聖光(ホーリーライト)』の奇跡の閃光が砦の中庭を包み込み、ゴブリンたちの視界を一様に焼き潰す。

 ゴブリンスレイヤーと蜥蜴僧侶の二人は、同じく目潰しされた銀髪武闘家と張り付けにされていた女性を抱えると、ローグハンターたちの元を目指して駆ける。

 ローグハンターは援護のためにグレネードランチャーを使い、目についた弓兵や呪文使い(シャーマン)をまとめて吹き飛ばしていく。

 ゴブリンスレイヤーたちはすれ違い様に何匹かのゴブリンを殺しているが、どうせ戦闘は始まっているのだから、二三匹程度些細な問題だろう。

 彼ら四人がローグハンターたちのいる回廊に飛び込むと、『聖光』の奇跡が役目を終えたように消えていく。

 一拍開けて降り注ぐのは、ゴブリンたちが放った矢の雨だ。

 しかし、どれもこれも的外れであり、当たる気配はない。

 表情を引き締めたローグハンターは、グレネードからバーサークダートに切り替え、音もなく反撃を開始する。

 

「━━で、これからどうする」

 

 エアライフルを装填しつつ、同士討ちをするゴブリンたちに一瞥。順調に数は減っているが、実感が湧かない。

 ゴブリンスレイヤーは盾を掲げて流れ矢に警戒しつつ、いつも通り淡々と告げた。

 

「ふた手に別れる。戦力は四と五だ」

 

 ローグハンターは反撃混じりに「良し」と返すと、身を隠して仲間たちそれぞれに目配せする。

 

「俺とゴブリンスレイヤー、武闘家、神官━━」

 

 彼は最後に令嬢剣士に目を向け、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

「神官の守りを頼めるか。俺たちだけでは捌ききれん」

 

 彼女は不安げな女神官に目を向けると、大きく深呼吸をして自分の得物に手を添える。

 

「わかりましたわ、お任せください!」

 

 帰ってきたのは強がりながらも力強い返事。

 そう言うのなら、頼らせてもらうだけだ。

 

「良し。魔術師はそっちについてくれ」

 

 彼がそう告げると、女魔術師は蜥蜴僧侶たちに目を向けて頷きあう。

 蜥蜴僧侶はちろりと鼻先を舐めると、ゴブリンスレイヤーに問う。

 

「して、拙僧らでこの虜囚と地下の虜囚を運び出せば宜しいか」

 

「頼む。ゴブリンどもはこちらで抑える」

 

「承知。では、お三方、参るとしましゃうや」

 

 彼の言葉に鉱人道士が虜囚を抱き上げて答え、妖精弓手が迷いなく頷くと、女魔術師が頭目であるローグハンターに目を向けた。

 彼は頷くと、その表情を強張らせながら言う。

 

「さっきの白いローブを着たゴブリン。奴に出会ったら気を付けろ」

 

 文字通りの警告に、女魔術師は頷く。

 何故かはわからないが、頭目はあのゴブリンを警戒している。何かあるのだろう。

 蜥蜴僧侶は頷くと、その身を盾にして三人を守りながら、這うようにして回廊を進んでいく。

 大きく迂回することになるだろうから、時間はかかることだろう。

 その為の囮。その為の陽動だ。

 

「それじゃあ、始めるか!」

 

 ローグハンターはそう口にするとエアライフルを背中に戻し、ホルスターから二挺のピストルを引き抜いてそれぞれ発砲。

 火の秘薬(火薬)が爆ぜる音と白い煙が回廊の一角から立ち上ぼり、不運にも頭を吹き飛ばされた仲間を嘲笑っていたゴブリンたちの注意がそちらに向く。

 目的はそれだ。陽動が目立たないでどうする。

 小鬼聖騎士は唾液を撒き散らしながら指示を出し、それを受けたゴブリンたちが武器を片手に動き出す。

 矢の雨はいまだに止まないが、ゴブリンたちは構わず突撃してくる。

 降り注ぐ矢に巻き込まれて何体か殺られていることに気づいているのだろうか。

 ローグハンターはピストルの装填を済ませるとホルスターに押し込みアサシンブレードを抜刀。

 不敵に笑んで隣に立つゴブリンスレイヤーに目を向ける。

 

「削れるだけ削るで良いのか。流石に殺しきれん」

 

「良くはないが、今は構わん。殺るぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーも腰に下げた中途半端な剣を抜き、女神官たちに目を向ける。

 

「行くぞ。姿勢を低くしろ」

 

「奇跡は……」

 

「温存しておけ」

 

「わかりました。お二人は大丈夫ですか」

 

「大丈夫!いつでも良いよ!」

 

「わたくしも、行けますわ!」

 

 ゴブリンスレイヤーは彼女らの返事を聞くと、火打石を叩いて松明に火をつける。

 

「行くぞ!」

 

 ゴブリンスレイヤーは松明片手に駆け出し、その後ろに女性陣が続き、ローグハンターが殿(しんがり)を務める。

 降り注ぐ矢は脅威にならない。ゴブリンの膂力(りょりょく)では大した火力にならないからだ。

 棍棒片手に飛びかかってきたゴブリンの喉元にアサシンブレードの刃を滑り込ませ、頚椎を外して即死させる。

 

「一つ」

 

 ゴブリンが取りこぼした棍棒を右手で奪い、上下左右と殴打(バッシュ)殴打(バッシュ)殴打(バッシュ)と繰り返す。

 一度振るだけでゴブリンの頭蓋が砕け、腕が逆に曲がり、胸が潰れる。

 鍛え抜かれた彼の膂力から放たれる何の変哲もない殴打(バッシュ)でも、それは十分凶器と成りうるものだ。

 

「五、六━━」

 

 頭蓋が潰れたゴブリンが落とした斧を蹴りあげて左手に持つと、手頃な一匹の腹を裂いて振りかぶり、投げ撃つ。

 

「━━七、八!」

 

 空いた左手のアサシンブレードを抜刀し、回転の勢いで刃を振るって斬り伏せる。

 その勢いのまま棍棒を叩きつけ、九、十、十一と討ち倒す(キルストリーク)

 ゴブリンの(とき)の声に、断末魔の声が入り交じり、砦に響き渡る。

 だが彼一人がどんなに倒した所で、ゴブリンたちの勢いが止まることはない。

 数の暴力こそがゴブリンたちにとっての戦略だ。

 どんなに個が強くとも、数には勝てない。

 確かにそれは正しいだろう。だが、その個が多ければ話も違ってくるというもの。

 

「イイイィィィヤッ!」

 

 銀髪武闘家の怪鳥音と共に放たれた回し蹴りが、ゴブリン四匹の体を寸断する。

 足を踏ん張り抜き手を振れば、それは剣の一撃と同義だ。

 ゴブリンたちは打撃によって体を引き裂かれながら死んでいく。

 

「はっ!そこっ!」

 

 令嬢剣士の軽銀製の突剣が振るわれれば、その数だけゴブリンが倒れていく。

 突き、突き、払う。三手で三匹殺れるのならば十分だろう。

 後ろの女神官を守る彼女の姿は凛々しく、まさしく神殿に仕える聖騎士(パラディン)のようだ。

 ローグハンターは横目で彼女らを確認し、また一つゴブリンを殺すとその目を細め、前方で暴れまわるゴブリンスレイヤーに告げる。

 

「後方、大量に来るぞ!」

 

「そうか」

 

 ゴブリンの喉元に刃を突き立て、粗末な槍を奪ったゴブリンスレイヤーは、雑嚢から何やら小瓶を取り出した。

 間髪入れずに放られたそれは、彼らの頭上を飛び越えてゴブリンたちの目前に落ちる。

 中身の粘りけのある液体が飛び散ると、ゴブリンたちはそれに足をとられて転倒していく。

 ローグハンターは手にした手斧を投げ撃つ。

 狙いはゴブリンではなく、液体が飛び散った場所だ。

 斧は石畳に弾かれ、ほんの僅かに()()()()()()()

 瞬間その液体は燃え上がり、転んだゴブリンやそれを乗り越えようとしたゴブリンを火だるまへと変えていく。

 ゴブリンたちが知るよしもないことだが、先程の液体はメディアの油と呼ばれる燃える水(ガソリン)だ。

 進路を一つ減らした程度でゴブリンが減るわけもなく、その数は増えていくばかり。

 いくら捌いてもすぐに次が来る。

 

「フッ!」

 

 ローグハンターは予備動作無しで投げナイフを投げ撃ち一匹仕留め、反転ついでにアサシンブレードを一閃。

 一拍開けて、彼の脇を抜けようとしていた二匹のゴブリンの首から血が吹き出る。

 それとほぼ同時にゴブリンたちの波が止まった。

 どんなに数がいたとしても、目の前で仲間を殺され続ければ躊躇いが生まれ、一匹が躊躇えばそれが伝播し、やがて群れ全体が止まる。

 気づけばローグハンターたちは城壁の端にいた。

 一思いにそこから身を投げれば、遥か下に待ち構える新雪に叩きつけられるだろう。

 彼が大きく息を吐くと、背筋に嫌なものが駆け抜けた。

 この五年で聞くことのなかった、忘れたくとも忘れられない『不吉な囁き声』。

 反射的にタカの眼を発動し、炎の向こうを睨み付ける。

 炎の向こうから、ゴブリンたちの第二波が近づいてきている。

 彼は舌打ちし、仲間たちに声をかける。

 

「不意打ちに注意しろ!」

 

 彼の声に各々の言葉でもって答え、再び身構える。

 ゴブリンの群れに潜んだ小鬼暗殺者(ゴブリンアサシン)の気配を探れるのはローグハンターただ一人。

 だからこそ、ゴブリンたちは彼を狙って殺到し始めた。

 

 

 

 

 

 砦のとある場所。

 扉を前に格闘する妖精弓手を守るため陣取る三人は、遠くから聞こえる怒号や断末魔から、外の五人がまだ無事であることを確かめる。

 

「ところでさ、これで良いの?」

 

 ふと、妖精弓手がそう問いかけた。

 これからやろうとしていることに、まだ疑問を持っているのだろう。

 鉱人道士は「わしに訊くな」と肩をすくめ、蜥蜴僧侶は満足げに笑いながら頷く。

 

「これこそが良いのだ。古今東西、相手限らず城を落とす定石は水攻めが一つ。もう一つは━━」

 

 彼の言葉を遮る形で扉が開かれ、そこに納められていたものを彼らに見せつけた。

 複数個並べられた樽の中に詰められているのは、獣かヒトか、何かの肉を団子状に固めたもの。

 女魔術師は肩を竦めると、不敵に笑んだ。

 

「━━兵糧(ひょうろう)攻めね」

 

 彼女の表情と言葉を聞いた妖精弓手は「まったく誰に似たんだが……」とため息を漏らす。

 鉱人道士も思わず苦笑し、蜥蜴僧侶は腕を組みながらうんうんと何度も頷いて見せる。

 瞬間、女魔術師の掲げていた松明が宙を舞い、樽にぶち当たった。

 松明の炎は闇を照らす道標から、万物を焼き尽くす業火へとその姿を一瞬で変える。

 

 ━━これが、外の皆の役に立てば良いけど……。

 

 女魔術師はふとそう思った。

 そして、彼女の願いは確かに届いたのだ。

 

 

 

 

 

「これで、三十……!」

 

 ローグハンターはそう告げると、ゴブリンの頭蓋にめり込んだ手斧をぶんどり、血振れをくれる。

 彼らを取り囲む炎を壁を越えてきた第二波を凌ぎ、続く第三波を捌いていた時だ。

 突如として、砦の一角から火の手が上がった。

 

「ORAGRA!?」

 

「GRRB!!」

 

 流石のゴブリンたちもこの事には驚き困惑しているようだが、ローグハンターがその隙を見逃すわけもなく、さらに三つの首を刈る。

 荒れた息を整え、ゴブリンスレイヤーに目をやる。

 

「そろそろか!」

 

「ああ、退くぞ。準備を━━」

 

 ゴブリンスレイヤーがそう告げようした時だ。

 ローグハンターの耳に聞こえていた『囁き声』が一気に大きくなり、危険を知らせたのは。

 

「ッ!」

 

 反射的だった。

 彼が手にした錆びの目立つ剣を一閃すると、飛びかかった白い影はそれを籠手で受け、受け止めようとはせずに勢いのまま弾き飛ばされる。

 白い影は転がるようにして勢いを止めると、僅かにへこんだ籠手を撫でた。

 

「GRR━━━」

 

 仕留め損なったことを腹立たしいと思う素振りもなく、小鬼暗殺者は唸る。

 何故失敗したのかを思慮しているのだ。

 ローグハンターは刃こぼれが激しい錆びた剣を投げ捨て、両手のアサシンブレードを抜刀する。

 小鬼暗殺者は彼にならう形で、両手の籠手に仕込まれた仕込み刀をそれぞれ抜刀する。

 ローグハンターは視界の端でゴブリンスレイヤーと小鬼聖騎士の戦闘が始まっていることを確かめると、深く息を吐いた。

 だいぶ疲労も溜まり、動きが精細を欠き始めたタイミングでの奇襲。相手はよくわかっているようだ。

 だが、それ以前に━━。

 

「俺の前でその武器を使う意味を、わかっていないようだな」

 

「GOORG……」

 

 小鬼暗殺者は低く唸り、摺り足で間合いを測る。

 奇襲が通じないのなら、正面から攻めることに切り替えたのだろう。

 銀髪武闘家はゴブリンを蹴散らし、手が空いていない二人の頭目に変わって女神官と令嬢剣士に指示を出す。

 

「二人とも、脱出の準備!急いで!」

 

「はい!」

 

「承知しましたわ!」

 

 女神官が静かに祈りを捧げる横で、令嬢剣士は魔術の発動体である指輪に籠手越しに触れ、真に力ある言葉を口にする。

 

「《トニトルス(雷電)……オリエンス(発生)……》」

 

 ローグハンターが僅かにそちらに気を向けた時、小鬼暗殺者は動き出した。

 この小さな体躯を縮こませ、全力を以て跳んだのだ。

 ローグハンターは一瞬で間合いを詰めてきた小鬼暗殺者の一閃を、首を傾けて頬に掠めさせながら避け、カウンターを狙ってアサシンブレードを振るう。

 だが小鬼暗殺者は空中で体を捻り、無理やり一撃を避けて転がるようにして再び間合いを開ける。

 ローグハンターはしっかりと地に足をつけ、相手の一挙動に注意を向ける。

 

「GOB!」

 

「フッ!」

 

 一人と一匹は正面から向かい合い、斬り結び始める。

 互いの手首に仕込まれた武器の性能はほぼ同じ。ならば、リーチと膂力で上をいくローグハンターが有利か。

 だが、彼らの振るう武器は何より持ち主の技量が要求されるもの。力任せに振り回しても、すぐに折れるだけだ。

 二人はもはや他の冒険者、ゴブリンが入り込む余地の無いほどの圧を放ち、斬り結ぶ。

 小鬼暗殺者の突きを剃らし、反撃で放った一撃は小さな体躯によって避けられ、気を抜く間もなく次が来る。

 突き、剃らし、払い、突き。

 極小の刃を振るって戦う姿は、見る者が見れば、さぞや滑稽に見えるだろう。

 だがその極小の刃は、『骨』という誰しもが持つ防具をすり抜け、内蔵を傷つけるためのものだ。

 先に一撃入れられれば、それが致命傷になることは間違いない。

 地を踏みしめて構えるローグハンターと、跳び跳ねるようにして攻める小鬼暗殺者の姿は、ローグハンターが防戦一方のようにも見えるだろう。

 だが、彼は全ての攻撃を的確に捌き、反撃(カウンター)の突きを放っている。

 並のならず者(ローグ)なら、その回数分殺されていることだろう。

 それでも殺しきれないほど、小鬼暗殺者はすばやい。

 ローグハンターはひたすら凌ぎ、凌いで、そして━━、

 

「ラァッ!」

 

「GOB━━!?」

 

「鬱陶しい」と言わんばかりに、着地の硬直のタイミングを狙って小鬼暗殺者を蹴り飛ばした。

 刃同士の戦いでの突然の蹴りは、流石の小鬼暗殺者にも意外だったようで、それは文字通りの不意打ちだった。

 体をくの字に曲げて吹き飛ばされた小鬼暗殺者だが、すぐさま身を起こして血の混ざった唾を吐く。

 正々堂々の勝負かと思ったらこれである。

 

 ━━これだから『騎士』は嫌いなのだ。

 

 何故そう思ったかなぞ考えることはなく、小鬼暗殺者はそう思慮した。

 だからこそ、見落としてしまった。

 

「《……ヤクタ(投射)》!!」

 

 令嬢剣士の魔術━━『稲妻(ライトニング)』が完成するタイミングを。

 令嬢剣士が突きだした手の先にいるのは、押し寄せてくる大量のゴブリン。

 小鬼暗殺者は考える前に肉体を動かし、ギリギリで駆け抜ける『稲妻』の避けるが、

 

「GRRBGOBRRRR!?」

 

「AGARRA!?」

 

 避けきれなかったゴブリンたちが、一瞬にしてその身を焼かれ、弾けていく。

「狙ってください」と言うように固まっていたのだから、狙われて当然だ。

 実際、強力な術で群れを一網打尽にする戦術は、よく使われるほど常套手段だ。

 ゴブリンたちは、それを知らず、知ると同時に死に絶えた。

 

「皆さん、いつでもどうぞ!」

 

 女神官が叫んだのはその時だ。

 

「先に行け!」

 

 ローグハンターが反射的にそう告げると、ゴブリンスレイヤーが女神官を抱えて城壁から身を投げ、銀髪武闘家が令嬢剣士を担ぐとその後に続く。

 城壁の向こうから二人の悲鳴が聞こえるのは、きっと気のせいではない。

 城壁に固定された二つの鈎縄(かぎなわ)は、きっとそれぞれの持ち主を受け止めたに違いない。

 問題は、

 

「GRRBGOBRGOBR!!!」

 

 取り残されたローグハンターにゴブリンが殺到してくることだ。

 彼は小鬼暗殺者の姿を探すが、いないと見るやすぐ様ゴブリンに背を向けて駆け出す。

 止めようと飛びかかるゴブリンの喉を切り裂き、死体を障害物代わりにして追手を止める。

 途中で懐に手を入れ、取り出した煙幕を石畳に叩きつける。

 突如として生まれた煙は、ゴブリンたちを驚かせ、足を止めさせるには十分すぎる。

 

 ━━だが、縄を手繰り寄せる時間はない。

 

 これからやることは文字通りの賭けだ。

 運は自分で掴むものと言うけれど、今回ばかりは神頼み。

 

「俺は飛べないんだぁ!!!」

 

 彼はそう叫びながら助走の勢いのまま城壁に足をかけ、何の躊躇いもなく両手を広げて身を投げた(イーグルダイブ)

 下で待っていてくれた仲間たちが、驚愕に目を見開いているのが見える。

 それを視認した途端、強烈な重力に引かれて背中から()()()()()()に叩きつけられる。

 ボフッ!と何とも間抜けな音と共に、染み一つない雪原に綺麗な人型にくり貫かれた穴が開く。

 銀髪武闘家や令嬢剣士だけでなく、ゴブリンスレイヤーですら固まる事態に、もはや女神官の目も死んでいる。

 

「IGURARABORRRR!!!!」

 

 怒り狂った小鬼聖騎士が意味不明な叫びをあげると、巨大な城門がゆっくりと開き始めた。

 すぐに移動しなければ、先程となにも変わらない。

 すると、ローグハンターが落ちた場所とは別の場所の雪が盛り上がり、内側から弾けた。

 

「ぷへぇ。いやぁ、小鬼どもの穴蔵など嫌になるわい」

 

「ホントよね。まあ、穴の中に住んでる鉱人が言えたことじゃないだろうけど」

 

「なんじゃと!」

 

 相変わらず賑やかな二人を他所に、両脇に虜囚を抱えた蜥蜴僧侶と、ローブを土に汚した女魔術師が這い出てくる。

 

「とまれ、こちらは無傷でありますや」

 

 蜥蜴僧侶がそう言うと、ゴブリンスレイヤーが「……そうか」と僅かに間を開けてから返す。

 女魔術師は無事だった令嬢剣士の姿にホッと息を吐き、姿の見えない頭目の姿を探した。

 

「あの、彼は……?」

 

「えと、それが……」

 

 女神官がどうにか言葉を吐き出そうとするが、すぐに詰まらせる。

 名の売れた冒険者が「高所から命綱無しで飛び降りた」なぞ、誰が言える。

 いつもと違う様子の女神官や、もはや青ざめている銀髪武闘家を見て、女魔術師はその表情を曇らせる。

 まさか、あの頭目が、ゴブリンに……。

 彼女がそう思慮した時、不意に雪の中から伸びてきた腕に、彼女の足が掴まれた。

 

「ひっ!?」

 

「ん、ああ、すまん……」

 

 彼女が慌ててその場を飛び退くと、ローグハンターが自分で開けた人型の穴から顔を出す。

 妖精弓手は口の端をひきつらせ、眉間を押さえながら彼に言う。

 

「あんた、どこから出てきてるのよ……」

 

「思いの外雪が深くてな。お陰で怪我もなしだ」

 

 彼は悪びれた様子もなくそう告げると、蜥蜴僧侶の尾を借りて身を持ち上げる。

 衣装についた雪を払い、何故か固まっている仲間たちに目を向けた。

 

「……どうかしたか」

 

 彼がそう問いかけると、銀髪武闘家が俯いたまま彼の側に寄り、

 

「んあぁッ!」

 

「お゛ぅ゛ッ!━━……」

 

 籠手を付けたまま放たれた拳が鳩尾に叩き込まれた。

 いつかにも殴られた事はあるが、その時は素手だ。だが、今回は━━。

 彼は崩れかけた膝を無理やり支え、銀髪武闘家を睨んだ。

 当の彼女はそっぽを向き、頬を膨らませている。

 ゴブリンスレイヤーは安堵にも似た息を吐き、彼に問いかける。

 

「行けるのか」

 

「……ああ、何とか」

 

「そうか」

 

 彼はいつも通りの返事をすると、ここに集った仲間たちを見渡す。

 一人だけでは、ここまで上手くは出来なかっただろう。

 だが、やることは一人でやる時と変わりはない。

 

「━━ゴブリンどもは皆殺しだ」

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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