SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory07 白い鷹 黒い鷹

 夜明けの光が差し込む森の中。

 白銀の煌めきに照らされるその場所を、冒険者たちがひた走る。

 万が一転びでもしたらどうなるかは、もはや言うまでもない。

 

 ━━彼らの後ろには死が迫ってきているからだ。

 

「IGARARARARAU!」

 

「ORAGRA!!」

 

 小鬼聖騎士がヤターガンを掲げ、高らかに咆哮する。

 それに呼応するゴブリンたちの様子は、もはや異常だ。

 武器を奪われ、食料を奪われ、虜囚を奪われ、もはやこの群れはどうにもならないだろう。

 後がなくなって自棄になっているようにも見えるが、実際はそうではない。

 この世界の奇跡には、聖戦に関わるものが数多い。

 それは外なる神である覚知神であっても例外ではない。

狂奔(ルナティック)』と呼ばれるその奇跡は、小鬼聖騎士が使ったものに違いない。

 熱狂の渦にあるゴブリンたちに、本来ある筈の恐怖はない。目の前を走る仲間が死のうが、自分が死のうが、関係ないのだろう。

 

「これだからゴブリンって嫌なのよ!」

 

 振り向きざまに矢を放つ妖精弓手が語気を強めて言うと、ローグハンターも振り向きざまにピストルを抜き放ち、発砲混じりに返す。

 

「あれでも減らした!愚痴るな!」

 

「怒る暇あるなら走りなさいよ!あんたが一番遅いのよ!?」

 

殿(しんがり)だ!上も見ておけよ!」

 

「わかってるわよっ!」

 

 ローグハンターの警告に、妖精弓手は木の上に向かって矢を放つ。

 

「GR━━!」

 

 小鬼暗殺者はその矢を次の枝まで飛ぶことで避け、彼女の放った矢は木の幹に突き刺さる。

 反撃として放たれた投げナイフを避け、長耳をひくつかせて不敵に笑んだ。

 

「ゴブリンの癖してやるじゃないの!」

 

「言ってないで走れ!」

 

 二人は迎撃を止めて再び駆け出し、先を行くゴブリンスレイヤーたちの背中を追う。

 目的地は森の先にある谷だ。ゴブリンスレイヤーの立てた作戦を成功させるためには、そこしかない。

 白い息を吐き、必死に体に酸素を回して足を動かす。

 深い雪に足を取られ、普段以上に体力を持っていかれる。この際木の上を行った方が楽なほどだろう。

 現に、悠々と木の上を進む小鬼暗殺者との差が広がらない。ローグハンターを集中的に狙ってくることだけが救いだ。

 時折前方のゴブリンスレイヤーが援護として剣や鶴嘴(つるはし)を放ってくれるだけ、まだ楽だろう。

 虜囚を運ぶ蜥蜴僧侶の背を押す女神官と令嬢剣士の二人の負担も大きい。

 ローグハンターは彼女らの背を追いながら、ぼそりと漏らす。

 

「余裕はないな」

 

「あったり前でしょ、逃げてるんだから!」

 

 妖精弓手はぼやきながら振り向き、再び矢を放つ。

 小鬼聖騎士に向けられて放たれた矢は、その身を盾にするべく飛び出したゴブリンに阻まれた。

 

「ああん、もう!狙い通りだったのに……!」

 

「仲間を庇うか。なるほど」

 

 木の上からつけ狙う小鬼暗殺者にナイフを放って牽制し、ピストルを引き抜いて小鬼聖騎士に向けて発砲。

 ローグハンターの吐いた白い息と硝煙が混ざりあい、風に吹かれて消えていく。

 放たれた弾丸は再びゴブリンに阻まれるが、

 

「━━GOBR!?」

 

 その体躯を貫いて小鬼聖騎士の兜を掠める。

 ローグハンターは舌打ちし、強引にピストルをホルスターに押し込む。

 

「外れたか」

 

「弦の張り、もっと強くしようかしら?」

 

 自身の扱う大弓を眺めながらの一言に、ローグハンターは肩をすくめる。

 

「するのは良いが、おまえの細腕で扱えるのか?」

 

「そうなのよねぇ……」

 

 命懸けの撤退戦、しかもその殿を務めているというのに、二人の間にある空気はいつになく軽い。

 変に力んで失敗するのなら、むしろその方が良いだろう。

 まあ、そうでもしないとやっていられないような状況である事も確かだが。

 そして森を抜け、件の谷にたどり着く。

 一党たちはゴブリンスレイヤーを前衛として陣を取っており、彼とすれ違いざまにローグハンターは反転、横に並ぶ。

 荒れた息を整えながら、ローグハンターは彼に問いかける。

 

「あいつらの準備は」

 

「問題ない」

 

 ゴブリンスレイヤーは淡々と返しながら雑嚢を探り、小瓶を彼に差し出す。

 

強壮剤の水薬(スタミナポーション)だ。飲んでおけ」

 

「助かる」

 

 ローグハンターは荒れた息を無理やり整え、水薬(ポーション)を一息であおる。

 体中にじんわり広がる熱が心地よい。

 ローグハンターは空になった小瓶を森から飛び出してきたゴブリンに向けて投げつけ、同時に思い出したかのように言う。

 

「今のは、受付嬢から貰ったものか?」

 

「ああ」

 

「そうか……」

 

「そうだ」

 

 ローグハンターは大きめのため息を吐き、心の中で受付嬢に謝罪する。

 ゴブリンスレイヤーのために用意したものを、知らなかったとはいえ飲んでしまったのだ。こんな状況でも申し訳ないという気持ちは湧いてくる。

 だが、それが心に僅かなゆとりを生んだことは確かだ。

 ローグハンターは深呼吸すると、その眼に殺気を宿らせる。

 確実に殺しておくべきなのは二匹。この群れの頭目である小鬼聖騎士と、その補佐役である小鬼暗殺者だ。

 ゴブリンスレイヤーが聖騎士を、ローグハンターが暗殺者を。二人は言葉を交わさず、それだけを確かめる。

 

「仕掛けるぞ」

 

「ああ……!」

 

 ゴブリンスレイヤーの淡々とした言葉に、ローグハンターは獰猛な笑みを浮かべて返す。

 見たこともない彼の表情に困惑することはなく、ゴブリンスレイヤーは駆け出した。

 僅かに遅れてローグハンターも駆け出す。

 彼らの二人は捕虜を伴って距離を取り、二人の援護に回る。

 飛び出してきた二人を抑えられるのは、きっとあの二匹しかいない。

 

「IGARURUARA!!!」

 

「む……!」

 

 同じく飛び出してきた小鬼聖騎士とゴブリンスレイヤーが激突し、

 

「GR!!」

 

「フッ!」

 

 岩影から躍り出た小鬼暗殺者をローグハンターが迎え撃つ。

 もはやその奇襲は形だけのものだ。

 最初の激突で、彼にその手の小細工が通用しないことは知っているのだろう。

 ローグハンターと小鬼暗殺者は、その体躯の差をものともせずに斬り結ぶ。

 極小の刃でも相手を死に至らしめることは容易い。

 だが、その極小の刃の扱いに関して言えば、ローグハンターが数段上だ。

 小鬼暗殺者の突きを受け流し、アサシンブレードを振るふりをして無造作に蹴りを放つ。

 今回ばかりは避けられたが、別に問題はないだろう。

 一定の間合いを開けたまま、一人と一匹は摺り足でにじり寄る。

 彼らの振るう武器は、本来戦闘用のものではない。下手に長期戦となれば、破損の危険も高まっていく。

 ローグハンターは深く息を吐き、左腕を垂らして重心を落とす。

 もはや下がることは出来ない。決めるのなら次の一手だ。

 

「GROOO━━……」

 

 小鬼暗殺者も同じ事を考えてか、飛びかからんと膝に力を溜め始める。

 吹雪吹き付ける谷底で、彼らの周囲だけが静寂に包まれていた。

 冒険者も、ゴブリンも、誰も手を出すことはない。

 否、手を出すことが出来ない。まさに侵すことの許されない聖域のように、ぽっかりと穴が開いているのだ。

 

「GOORGGOBR!!!」

 

 小鬼暗殺者は持てる全ての力を持って跳び、ローグハンターとの間合いを一瞬にして詰める。

 本来なら引き倒し、刃を突き立てるのだろうがゴブリンの体躯と膂力では無理だろう。

 だからこそ、小鬼暗殺者は飛び付きざまの一撃に全てを賭けた。

 雪を巻き上げながら跳躍、右手のアサシンブレードを振り上げ、そして渾身の刺突を放ち━━━、

 

「━━━………!??!!!」

 

 伸びきった右腕が宙を舞った。

 ローグハンターが一閃したアサシンブレードの刃には、どす黒い返り血がついている。

 彼の右頬には一筋の赤い線がはいり、血が垂れる。

 それがどうしたと言うのだ。

 軽く頬を掠めただけだ。何の問題もない。

 

「GOORG!!GROOOBR!!?」

 

 小鬼暗殺者は肘から先の無くなった右腕を押さえ、悶え苦しむ。

 ローグハンターはその様子に一瞥くれると、ゴブリンスレイヤーが小鬼聖騎士の頭蓋を砕いたことを確認、そして彼の一党の後衛二人に目を向ける。

 

「━━撃て!」

 

 二人は返答の代わりに、真に力ある言葉を紡ぐ。

 

「《カリブンクルス(火石)……クレスクント(成長)……」

 

「《トニトルス(雷電)……オリエンス(発生)……》」

 

 女魔術師と令嬢剣士は目を合わせ、息を合わせて最後の一節を口にする。

 

「「《……ヤクタ(投射)》!!!」」

 

 放たれた『火球(ファイアボール)』と『稲妻(ライトニング)』の二つは混ざりあい、山を脈動させた。

 大気を焦がす業火と、大気を切り裂く紫電。

 白銀の世界を駆け抜ける二つを、その場にいた全ての者が目で追いかける。

 その二つが穿ったのはゴブリンの群れではない。寸分の狂いなく、山の峰を撃ち抜いたのだ。

 雪の降り積もった山に凄まじい衝撃が走ればどうなるか。それは素人であろうとわかるだろう。

 轟音、震動、それが生み出すは白き死の軍勢。

 時には村を、街さえも滅ぼしうる、決して抗うことの出来ないもの。

 ━━それは、雪崩であった。

 

「……ッ!」

 

 冒険者たちは一様に表情を強張らせ、ゴブリンたちは意味不明の叫びを上げる。

 ゴブリンスレイヤーとローグハンターは互いに頷きあうと、全力を持って駆け出していく。

 足を止めればどうなるかは、雪に埋もれていくゴブリンたちが教えてくれる。

 そして一党は二人に向けて駆け出し、女神官が錫杖(しゃくじょう)を掲げる。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを━━━》」

 

 ふと、何かを感じたローグハンターは、その気配の主に目を向ける。

 戦場の傍らで倒れていた小鬼暗殺者が、残った左腕をゴブリンスレイヤーの背中に向けているのだ。

 口元から血を流し、何本か歯が欠けているように見える。

 目を細めて見れば、籠手から銃口のようなものが覗いているのが見えた。

 籠手に仕込めるほど小型の銃は、彼の時代でも作られていない。そんなものをゴブリンが持っている可能性など、まずないだろう。

 だが、もし、万が一にも、そんな武器があったとしたら。

 その武器が、自分の物よりも威力が高ければ。

 彼の脳裏には、背中を撃ち抜かれるゴブリンスレイヤーと、その動揺で女神官の奇跡が不発に終わる瞬間が映った。

 そうなれば、仲間たちは全滅するだろう。

 そこからは、もはや思考する余裕もなかった。

 ゴブリンスレイヤーと小鬼暗殺者の間に割り込み、その身を盾にしたのだ。

 

「《━━大地の御力でお守りください》!」

 

 女神官の奇跡が発動したのはその直後。

 そして━━━、

 

 バンッ━━━………!

 

 小鬼暗殺者の銃が火を吹き、銃声が谷を駆け抜ける。

 放たれた銃弾は、肉の盾となったローグハンターの左胸を撃ち抜く。

 その結果に、小鬼暗殺者はほくそ笑んだ。

 全てが狙い通り、計画通りになったからだ。

 崩れ落ちるローグハンターの姿を小鬼暗殺者は(わら)い、『聖壁(プロテクション)』に守られた銀髪武闘家は声にならない悲鳴をあげる。

 ゴブリンスレイヤーは反転し彼の救助に向かおうとするが、もはや全てが遅すぎる。

 全てが白に塗り潰され、消えていった━━━。

 

 

 

 

 

 それは痛む体を無理やり動かし、自分を埋める雪を掻き分けて外に出る。

 

「GRRB!!」

 

 冷たい酸素を懸命に吸い、小鬼暗殺者は雪から這い出した。

 仲間は全滅。帰る(いえ)もなければ、もはや帰る余力さえ残っていない。

 だが、それで良いだろう。

 小鬼暗殺者は口元を歪め、音にならない笑い声をあげた。

 あいつを殺した。憎き騎士を、末端だろうが騎士団の一員を殺せたのだ。

 これ以上の成果はないだろう。

 一人で壊れたように嗤う小鬼暗殺者は、次の瞬間信じられないものを見たかのようにその表情を固めた。

 十数メートル先の雪が盛り上がり、そこから何かが這い出ようとしているのだ。

 小鬼暗殺者は左手のアサシンブレードを抜刀し、ジリジリとその場所に近づいていく。

 たった数歩の距離なのに、果てない道を進んでいるかのような錯覚を覚える。

 ある程度の距離を詰めた小鬼暗殺者が、額に流れる汗を拭おうとした時だ、盛り上がっていた雪が内側から爆ぜた。

 

「GO━━━ッ!」

 

 もはや声を出す暇すらなかった。

 両腕があったとしても、きっと何も出来なかっただろう。

 雪の内側から飛び出したローグハンターが、その体躯の差を利用して小鬼暗殺者を組み伏せたのだ。

 ローグハンターは額から流れる血を拭うことなく、左手のアサシンブレードを抜刀する。

 

「例え、おまえがゴブリンであろうと、そうでなかろうと、知ったことか……!」

 

 怨敵を睨み合う一人と一匹の視線が交差する。

 ローグハンターは荒れた息を整え、小鬼暗殺者に告げる。

 

奴ら(アサシン)と同じ装備を纏っているのなら、おまえは」

 

 ━━俺の抹殺対象(ターゲット)だ……!

 

 彼はそう告げ、何よりも信じているその刃で小鬼暗殺者の首を貫いた。

 その瞬間、小鬼暗殺者の懐に仕舞われていた何かが光輝いたのだ━━━。

 

 

 

 

 

 空も、地面も、何もない真っ白な空間。

 そこにいたのは二人の男だった。

 片方は驚愕の表情を浮かべるローグハンター。

 片方はマント付きの白いローブを身に纏った見知らぬ男性だ。少なくとも、ローグハンターよりも年齢は上のように思える。

 ローグハンターに抱き抱えられた男性の精悍な顔立ちは、心なしか穏やかなもの。

 驚愕するローグハンターを他所に、その男性アサシンは彼に目を向ける。

 

「……ああ。あの方が言っていたのは、キミのことだったのか」

 

「あの方、だと……?」

 

 ローグハンターが思わず声を漏らすと、男性アサシンは首を横に振る。

 

「言ったところでわからんさ。だが、あの方は、こちらの世界を知っているようだ」

 

「ッ!そうか……」

 

 ローグハンターはその表情を強張らせ、重々しく息を吐く。

 こちらの世界のことは、アサシン側に既に知れていると判断したのだろう。

 男性アサシンは彼の瞳を覗き、苦笑を漏らす。

 きっと多くの道を示され、選択を迫られることだろう。

 

「━━どうか、悔いのない選択を。若き鷹よ」

 

 男性アサシンはそう言うと満足したか、眠るように息を引き取った。

 ローグハンターは彼の言葉に数瞬迷うと、再び重い息を吐く。

 

「安らかに眠れ。汝が刃は、我と共にあり」

 

 彼がそう言うと、周囲の景色が一変する。

 どこかの礼拝堂なのか、そこには白いローブを纏った人々が集まっている。

 礼拝堂の中央に立つ口元に傷のある男性が、その場にいる(みな)に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「世の人は真実を盲信しようとも、忘れるな」

 

『━━━真実はない』

 

「世の人は法や道徳に縛られるとも、忘れるな」

 

『━━━許されぬことなどない』

 

 彼の言葉に回りのアサシンたちが答えた。

 どこかの教団支部の、いつかの光景なのだろう。

 だが、ローグハンターは不思議とその光景を受け入れていた。

 自分の知るアサシンたちとは決定的に違う何かが、この場にいるアサシンたちから感じられるからだ。

 何が違うのかはわからない。だが、確かに違うのだ。

 呆然と立ち尽くすローグハンターの脇をすり抜けながら、口元に傷のある男が告げる。

 

「ローマ解放の時はきた。我らに勝利を!」

 

『勝利を!』

 

 彼の言葉にアサシンたちが応答する。

 いつかはわからない。どこかもわからない。

 だが、もしもこのアサシンたちに出会えていたのなら、また別の道があったのかもしれない。

 

「━━ミ!キミ!ねぇ、ねぇってば!お願いだから目を開けてよ……!」

 

 どこからか聞こえる声に耳を傾け、ローグハンターはハッとする。

 考えるのも、感傷に浸るのも後だ。

 

 ━━俺には、帰らなければならない場所がある……!

 

 彼はアサシンたちに背を向け、礼拝堂を後にする。

 口元に傷のある男が、彼の背を見送ったことも知らずに━━━。

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞こえてるんでしょ!?ねぇってば!」

 

 銀髪武闘家は倒れるローグハンターに駆け寄り、彼の肩を揺する。

 一切の反応を返さない彼の衣装の左胸には焼け焦げた跡と極小の穴が開き、額からはおびただしい量の血が垂れている。

 そして、極めつけに右腕が本来とは逆の方向に曲がってしまっている。

 彼の横に立つ蜥蜴僧侶が『治癒(リフレッシュ)』の奇跡を使っているが、あまり効果が現れない。

 女神官は自分よりも上位たる彼の奇跡の効果が薄いとみるや水薬(ポーション)を取り出すが、果たして今の彼に飲み込む力が残されているのかどうか。

 念のためと周囲を見張るゴブリンスレイヤーをはじめとした面々は、ちらちらと彼の方へと気を向けていた。

 特に弟子たる令嬢剣士と女魔術師は、今にも泣き出しそうなまでに表情が青ざめている。

 奇跡が一向に効果を示さない事実に蜥蜴僧侶も目を細める中、銀髪武闘家が涙を滲ませながら言う。

 

「こんな所で終わりなんてやだよ!まだ一緒にやりたいことだって、行きたい場所だってあるんだから!」

 

 ━━だからどうか、お願い………。

 

 神にすがり付くように発せられたその言葉が、天上で見守る神々に届いたのかはわからない。

 だが、目の前にいる彼には届いたことは確かだった。

 

「━━ぁ゛」

 

「え?」

 

 ふと、彼の口から言葉が漏れた。

 疲労とダメージからかその声は掠れ、覇気に欠けるが、確かに反応したのだ。

 銀髪武闘家が見つめる先で、ローグハンターは薄く目を開き、苦笑を漏らした。

 

「うるさいぞ……まったく……」

 

「………!」

 

 銀髪武闘家は流れる涙に構うことなく、そっと彼の体を抱き締める。

 彼の耳元で啜り泣き、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を、愛する人に見せたくないのだろう。

 ローグハンターは肩をすくめ、他の仲間たちに目を向けた。

 ゴブリンスレイヤーをはじめとして、全員無事。女魔術師と令嬢剣士が涙を流しているし、女神官も泣きそうになっているから、余程心配をかけてしまったのだろう。

 他の銀等級冒険者たちは、まあ無事だろうなという謎の信頼を寄せているのか、ホッと息を吐く程度。

 兜を被っているゴブリンスレイヤーの表情は伺えないが、じっとこちらを見ている辺り、心配はしてくれたのだろう。

 だが、とりあえず無事だったと彼はホッと息を吐き、違和感を感じた自分の左拳をゆっくりと開いた。

 いつの間にか『金色に輝く三角の何か』が握られていたのだ。

 見る限り、何かの部品だろうか。

 無意識とはいえ掴んだのなら、何か意味のあるものの筈だ。

 彼はその三角の何かを懐にしまい、しまっておいたアサシンブレードをそっと撫でる。

 

 ━━これがなければ、心臓を撃ち抜かれていたな……。

 

 昇り行く朝日に照らされたローグハンターは、銀髪武闘家の耳元でそっと呟く。

 

「それじゃあ、帰るか」

 

「うん。うん……」

 

 彼女はくしゃくしゃになった顔を拭い、太陽のような笑顔を彼に見せる。

 

「帰ろう。皆で」

 

 

 

 

 

 神様たちは、珍しく困惑の表情を浮かべて顔を見合わせていました。

『幻想』や『真実』だけではありません、他の神様も、まるで信じられないものを見るかのようにサイコロと盤に並んだ駒を見比べます。

 ここ最近、()()()()()()()()()()が出て来ているのはわかっていますが、それが些細なことに思える程度に、神様たちには衝撃が走っています。

『幻想』の神様は、再びサイコロの結果と駒を見比べます。

 けれど、何度見たところで結果が変わらないことがわかるだけです。

 フードの彼(ローグハンター)を相手に振った()()()()のサイコロの結果は、端的に言ってしまうと、大がつくほどの失敗(ファンブル)でした。

 けれど、どういうことでしょうか。問題の彼は、仲間たちに囲まれながら平然と歩いています。

 きっと、神様たちは気づいていないのでしょう。そして、気づくこともないのでしょう。

 そもそも彼は、ここの神様たちが作り出した駒ではありません。

 彼を作り出したのは『外なる世界の神様(かつて来たりし者)』です。

 そして、彼の運命を決めるのはサイコロでもなければ、その神様の気紛れでもありません。

 そう、彼の運命を決めるのは彼自身。

 

 ━━運とは、自分で掴むものなのですから………。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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