SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory02 新米たち(ノービス)

 眠る狐亭の一室。

 ローグハンターは作業台に向き合い、黙々と手を動かす。

 既に陽は沈み、さらに二つの月さえも沈みかけているような時間だというのに、彼はただひらすらに手を動かしていく。

 手に入れたフリントロックピストルを修理し、一日でも早く使える物にしなければならない。

 と言っても、武器の修理など彼の管轄外も良いところだ。

 手慣れているピストルだからこそ、こうして作業を出来ていると言っても過言ではない。

 彼は弄っていたピストルを台に置き、疲労を吐き出すように息を吐いた。

 とりあえず目についた不備は直した。これで何か問題が起きれば、銃そのものの問題だろう。

 その判断には、そうであって貰いたいという彼の私情も込みだ。

 彼は座席の背もたれに身を預けると、再び息を吐く。

 件の訓練場が出来れば、試せる機会が増えることだろう。

 いきなり実戦で使おうと思うほど、修理に関する自分の腕には自信がない。

 天井を眺めながらボケッとすること数秒。

 いい加減寝ようと決め、ふと窓の外に目を向ける。

 そこから見える山の輪郭が、僅かに白くなっている。つまり、夜明けまであと僅かだ。

 思いの外作業に没頭していたことに気づいて苦笑すると、音を出さないようにベッドに転がり込む。

 今からでも二、三時間程度の仮眠はとれるだろう。

 眠れるうちに眠ること。

 それもある意味、体が資本たる冒険者の基本だろう。

 

 

 

 

 

 翌日の昼頃。冒険者ギルド。

 その一角には、並んで項垂れている女神官と女魔術師がいた。

 二人は一様に残念そうな顔をしており、女神官に限って言えば、今にも泣き出しそうな程だ。

 珍しく寝過ごしているローグハンターはその場にはいないが、銀髪武闘家をはじめとした一党の仲間たちは、残念と言ったような表情を浮かべていた。

 ゴブリンスレイヤーだけは兜に隠れて見えないが、たぶんそんな顔をしていることだろう。

 暗い雰囲気を放つ彼らに圧されてか、その周囲だけに妙な静けさが漂っている。

 今になって現れたローグハンターは、ギルドに入って早々にその事に気づき、僅かに眼を細めながら彼らの元へ。

 

「……何かあったのか」

 

「あ、遅かったね。おはよ」

 

 珍しく彼よりも早く起きていた銀髪武闘家は、何故かどや顔しながら朝の挨拶をした。

 ローグハンターは別に気にすることなく「おはよう」と返すと、女魔術師と女神官に目を向ける。

 

「で、何があった」

 

「昇級出来ませんでした……」

 

 女魔術師が消え入りそうな声で答え、ローグハンターは「ああ……」と息を吐く。

 毎日のように仕事をしているから、報酬金額や貢献度など、それらを纏めた「経験点」に関しては問題ない筈だ。

 オーガを倒して昇級してからというもの、水の街の地下を駆け回り、小鬼聖騎士率いる群れとの戦いを越え、それなりの金額と貢献度を稼いでいる。

 ならば、何が問題なのかという話になるが……。

 

「一党に銀等級が多すぎるか?」

 

「おそらく、上の方々はそう判断したものと」

 

 彼に応えたのは蜥蜴僧侶だ。

 今回昇級の話がきた二人は、言ってしまえば銀等級六人と一緒に冒険していることが多いのだ。

 報告書には事細かく記載したが、実際は銀等級六人におんぶに抱っこだと判断された可能性がある。

 この場にいる銀等級の面々がそう思っているかと訊かれれば、答えは間違いなく否だ。

 二人には二人の役目があり、しっかりとそれを果たしてくれている。

 だが、審査役の職員にはそれが伝わっていない。それを証明出来なければ、二人は昇級出来ないのだろう。

 諸々と思慮を深めるローグハンターを他所に、妖精弓手が名案を思い付いたかのように言う。

 

「ならさ、白磁と黒曜の子達と冒険させれば良いんじゃないの?」

 

「やっぱりそうなるよね。私たちの時は楽だったのに……」

 

 銀髪武闘家が染々と言うと、ローグハンターは肩を竦める。

 二人はほとんど二人きりで仕事をやってきた。

 昇級のタイミングもほとんど同じで、一段ずつゆっくりと登っていったのだ。

 ローグハンターはまだ若かった頃━━今でも十分若いが━━を思い出し、思わず苦笑。

 思ってみれば、昔から銀髪武闘家には精神的な意味で支えられている。

 支えているつもりが、いつの間にそうなったことやら。

 寝惚けているためか話に入ってこないローグハンターを無視する形で、他の面々が話を進める。

 

「わしら以外の、出来りゃ白磁、黒曜の新人ども」

 

「この時期は新参者が多いですからな。探せばすぐに見つかるでしょうや」

 

「でもさ、知らない人にこの()たち預けて大丈夫なの?」

 

「それなのよね。出来れば顔見知りが良いんだけど……」

 

「わたくしではいけませんの?」

 

「あなたは確定だとしても、女の子三人で冒険に行かせる訳ないでしょ?」

 

 問題の二人と、それぞれの一党の頭目を置き去りにした作戦会議は、あれやこれやと続いていく。

 話に入り込めなかったゴブリンスレイヤーが、何かを思い付いたのか女神官に眼を向けて言う。

 

「おまえの最初の一党ならどうだ」

 

 突然放たれた意見に会議を続けていた五人は黙り込み、その横にいたローグハンターは合点がいったように頷きながら言う。

 

「あの剣士と武闘家か。確かあの二人は白磁の二人と一党を組んでいた筈だ」

 

「内約は」

 

「その二人を含めて前衛三。後衛一の計四人。後衛は至高神の神官だったか……」

 

 ━━全員只人、男女二人ずつだったことには間違いない。

 

 いつかに祭りで出会った彼らの事を必死に捻りだし、彼はそう告げた。

 少々前衛が過多のように思えるが、今更なことだろう。

 ゴブリンスレイヤーは小さく唸ると、女神官と女魔術師のほうに兜を向ける。

 おそらく、二人の意志を確認しておきたいのだろう。

 二人は顔を見合わせると僅かに考え、女神官が「よろしくお願いします」と返す。

 方向が決まればあとは交渉だ。件の四人は見当たらないが、おそらく下水道に潜っているのだろう。

 

「まあ、話は戻ってきてからにでも━━」

 

 ローグハンターがギルドの入口に目を向けると、ちょうど良く件の四人が戻ってきたところだった。

 予想通り下水道に潜っていたのだろう。最低限の臭いは落としてきたとは思うが、まだ何となく臭う。

 ローグハンターはゴブリンスレイヤーと後ろの二人に目配せすると、四人の報告が終わるタイミングを待つ。

 いつかに会った時から少しは成長したのか、表情には仕事終わりだと言うのに僅かな余裕を感じる。

 余裕はいい。慢心は駄目だ、したら死ぬ。

 四人が何やら談笑して酒場の空席を探し始めた頃を見計らい、彼らの元に。

 

「仕事終わりで申し訳ないが、少し話しを良いか」

 

 いきなり声をかけられた四人は思わず身構えが、相手が彼とわかった途端に新米剣士と新米武闘家の二人は思わずホッと息を吐く。

 新米武闘家は彼のほうに向き直り、ニコッと笑いながら問いかける。

 

「ローグハンターさんから声をかけてくるなんて、珍しいですね」

 

「ああ。少し頼みたいことがあってな」

 

 彼は単刀直入に話を切り出し、ギルド端の女神官と女魔術師に目を向ける。

 意図を察せぬ新米四人組は、一様に顔を見合わせて首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

「つまり、私たちはそっちの二人と冒険に行けば良いんですか?」

 

 一通りの話を聞き終えた見習聖女の確認に、いつの間にか交渉役となっていたローグハンターは頷いた。

 

「報酬ならいくらか用意する。どうだ」

 

 その言葉の通り報酬として出せるものがあるが、流石の彼でも限度はある。

 新米四人の戒律が『善』寄りであることが前提となる交渉だ。

 尤も、法を司る至高神の神官が一党にいるのだから、『中立』ならともかく『悪』なんてことはないだろう。

 新人特有の金への執着はあるだろうが。

 四人は顔を見合わせて話し合い、あれやこれやと言っている。

 そのほとんどが報酬についての話であるから、おそらく受けてくれるのだろう。

 彼らの話し合いが終わるのを待つこと数分。

 ようやく話が終わったのか、新米剣士がローグハンターに言う。

 流石に喋り慣れていないからなのか、無駄に力が入っているように見える。

 

「と、とりあえず、受けてみようと思います!」

 

「それは助かる。で、報酬には何を出せばいい」

 

 冒険者にとって、それこそが大事だろう。

 いつかの牧場防衛戦の時にも言ったように、冒険者がタダ働きするなんてことはあり得ない。

 家族の命が懸かっていれば話は変わるかもしれないが、今回は単に顔馴染みの冒険者からの頼みだ。それ相応の報酬を貰わなければ、割りに合わない。

 新米たちもそれは重々承知で、ローグハンターは何を吹っ掛けてくるかを思慮しておく。

 まあ、「食事を奢ってくれ」「冒険に付き合ってくれ」程度のものだろう。

 新米戦士は大きく深呼吸すると、半ばやけくそで彼に言う。

 

「俺たちに剣術を教えてくれ!」

 

「………」

 

 思いもしなかった報酬の要求に、ローグハンターは表情には出さなかったが困惑気味となる。

 剣術を教えてくれと言われても、彼の剣術はそもそも我流だ。大まかな流れは喧嘩殺法と言っても差し支えない。

 困るローグハンターに追撃を放つ形で、新米武闘家が控え目に言う。

 

「……出来ればそちらの武闘家さんにもお願いしたいです」

 

「………」

 

 次々放たれる攻撃のダメージを悟られぬように気を付けながら、ローグハンターは思慮を深める。

 彼らはおそらく農村の出だ。剣術の基本すら知らない可能性がある。

 そこら辺を教えるのならどうにかなるだろう。そこから彼らなりの強さを引き出せるかはわからない。

 銀髪武闘家のほうは、流派は違えど何かしら通じるものがあるんだろう。正式な拳法はよくわからない。

 彼は今回の報酬で一番得のなさそうな見習い聖女に目を向け、目だけで「おまえは?」と問いかける。

 それが通じたからか、見習い聖女は困り顔でため息を吐く。

 

「……何か奢ってください」

 

 彼女だけ予想通りの返答だったのが、唯一の救いだろうか。

 どうしたものかとローグハンターが顎に手をやると、彼の隣にひょいと妖精弓手が腰掛けた。

 

「もう、剣を教えるくらい良いじゃない。もうすぐ訓練場も出来るんだからさ」

 

「それもそうだが……」

 

「なら決まりね!でもあの娘を連れ出す前に、一応どんなものか試させて貰わないと」

 

「……そういうのは交渉役を挟んで貰いたいんだがな」

 

 ローグハンターの苦言を無視して、妖精弓手は問いかける。

 

「それで、あんたはどっちの面倒見るの?」

 

「四人をどう分けてのどっちだ?」

 

「剣士と武闘家、戦士と神官よ」

 

「ようは四人が組む前の一党に分けるんだな」

 

「そうよ」

 

 ローグハンターはため息を漏らし、四人に目を向ける。

 どうにか話にはついてこられているようで、彼らは一様に緊張の面持ちだ。

 前衛二を取るか、前衛一と後衛一を取るか。

 面倒を見るということは、ゴブリンスレイヤーの一党も絡んでくるだろう。

 どちらもこなせる蜥蜴僧侶がいるとはいえ、あちらは専門的な前衛がゴブリンスレイヤーただ一人だ。

 ならば、答えというのはほとんど決まっているようなものではないか。

 彼は肩をすくめ、新米戦士と見習い聖女に目を向けた。

 

「そっちの二人だ。俺の一党に前衛は足りてる」

 

「それじゃあ、そっちの二人はこっち来て」

 

 勝手に話を進める二人に困惑する新米たちに、ローグハンターは笑みながら言う。

 

「振り回して申し訳ないが念のためだ。報酬は弾ませてもらう」

 

「むぅ。そう言われると断れませんねぇ……」

 

 一党の財産管理を担当しているのか、見習聖女は隠しきれていない嬉しそうな笑みを浮かべた。

 一番しっかりしていそうな彼女が一番ちょろいという事実に、ローグハンターは何とも言えない表情となる。

 

「そうだ。二人はあの娘と一党組んでたんでしょ?久しぶりなんだし、挨拶しておけば?」

 

「そ、そうですね。では、お先に……」

 

「失礼します!」

 

 妖精弓手に連れられて、新米剣士と新米武闘家がその場を後にする。

 取り残されたローグハンターと新米戦士、見習聖女の三人は、顔を見合わせて思わずため息を漏らす。

 

「何か簡単な依頼を見つけてくるか。もしかしたら用意されているかもしれないが……」

 

「えと、しばらくの間、よろしくお願いします」

 

「お願いします!」

 

 ローグハンターの言葉に、見習聖女と新米戦士がそれぞれ返す。

 今年になってからも、新たな出会いというのが減る機会はなさそうだった。

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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