SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory03 模擬演習(チュートリアル)

 ギルドでの話し合いを終えたローグハンターたちは、それぞれの一党に別れて依頼に繰り出した。

 ゴブリンスレイヤーの一党は新米剣士と新米武闘家を連れて訓練場予定地近くに出没したゴブリン退治に、ローグハンターの一党は新米戦士と見習聖女を連れてまた別のゴブリン退治だ。

 新米二人の緊張を女魔術師と令嬢剣士の二人がほぐす中、ローグハンターの先導で道を進む。

 今回の依頼はまさに定石通り(テンプレート)だ。

 ゴブリンが出た。作物、家畜が盗まれた。使いに出た娘が拐われた。村の若者ではどうにもならない、助けてくれ。

 話を聞いた限りでは相手は巣穴持ちだ、油断は出来ない。元よりゴブリン相手だからと油断するつもりもないが……。

 銀髪武闘家が周囲を警戒しつつ、新米二人に目を向ける。

 

「焦らず慎重に、私たちの指示通りに動いてね」

 

「「は、はい!」」

 

 彼女の言葉に新米二人が緊張しながらもやる気十分に答えると、ローグハンターは道を外れて森の中へと入っていく。

 五人も彼の後に続いて森の中へ。

 端から見ればいきなり森に入っているように思えるだろうが、ローグハンターの眼にはしっかりと見えているのだ。

 ゴブリンたちの残した大量の痕跡。残り香とも言えるものが。

 森を進みながら、ローグハンターは背中越しに新米二人に言う。

 

「ゴブリンは夜行性だ。俺たちとは昼夜が逆になっている」

 

「……つまり、私たちの真昼が、あっちにとっては真夜中ってことですか?」

 

 見習聖女の確認に、ローグハンターは「そうだ」と一度頷く。

 そして新米二人と令嬢剣士に言い聞かせるように言葉を続けた。

 この五年でゴブリンスレイヤーと共に考え、実践してきた結果で手に入れた情報だ。ゴブリンの生態に変化がなければ間違いはない。

 

「だが、真夜中は警戒が厳重だ。あいつらにとっての早朝や夕方、深夜に仕掛けるぞ」

 

「つまり、わたくしたちにとっての夕方か早朝に仕掛けるのですね」

 

 令嬢剣士の言葉に、ローグハンターは満足そうに頷いた。

 考えてみれば、こうして純粋な洞窟に挑むのは彼女も初めてだろう。

 つまり、慣れぬ三人を連れての洞窟攻略。

 言葉にすれば負担も大きそうだが、経験者もまた三人だ。一人一人が気を配れば、うまく負担も減らせることだろう。

 ある程度森の中を進み、陽が山の影に隠れ始めると、ローグハンターは後続に待ったをかけた。

 彼の視線の先には、岩影にぽっかりと開いた洞穴。人が潜る分には問題ないだろう。

 森の中に続いていた痕跡がそこに伸びているということは、目標のゴブリンの巣穴であることは間違いない。

 もうすぐ日が暮れるが、それは好都合だ。

 今はゴブリンたちにとって早朝。見張りも眠気に襲われていることだろう。

 彼らは近くの茂みから巣穴の様子を探り、ローグハンターは目を細める。

 見張りが一匹。武器は()()()()()()剣だ。

 連れ込まれたのは村娘だけでない。不運な旅人か同業者か、どちらにしてもやることが増えた。

 タカの眼で周囲に他の見張りがいないことを確認し、彼は一党の五人に目配せする。

 各々は自分の得物を握り直し、具合を確かめると頷いた。

 新米二人の額には緊張の汗が流れているが、むしろ良い傾向だ。

 銀等級が二人いるから、相手がゴブリンだからと余裕の表情をされて、突っ込んで行かれても困る。

 彼は深く息を吐くと、懐から取り出した投げナイフを投げ撃った。

 放たれた矢の如く空気を切り裂く投げナイフは、見張りのゴブリンの喉を貫いて声を殺す。

 次いで飛び出したローグハンターが突き刺さった投げナイフで首をかっ斬り、とどめを刺した。

 この間僅か五秒足らず。今まで積んできた経験と、それを実行しうる身体能力があってこそなせる技だろう。

 彼は茂みに潜む一党に目を向け、巣穴を警戒しながら手招きする。

 銀髪武闘家と女魔術師は慣れた様子で音もなく茂みを飛び出したが、令嬢剣士は僅かに音を出し、慣れぬ新米戦士、見習聖女は大きくもたつく。

 想定通り。令嬢剣士も鍛えているとはいえ、まだまだ荒削りなのだ。

 一党六人が揃ったところで、ローグハンターはゴブリンの死体と女性陣に目を向けた。

 銀髪武闘家は気にした様子もなく、意図を察した女魔術師が僅かに表情を青くした。

 そんな先輩の様子に異常を察した令嬢剣士が、ローグハンターに言う。

 

「先生、魔術師さんの様子がおかしいのですわ」

 

「私がおかしくなったみたいに言わないで……」

 

 覇気に欠ける女魔術師の反論に、令嬢剣士は不思議そうな表情で「それは申し訳ありませんわ」と返す。

 ローグハンターはそんな二人に構うことなく、どうせ捨てると開き直って投げナイフを握り直した。

 本来切ることを想定していないだろう投げナイフは、下手に振ればあっさりと折れることだろう。

 そんな投げナイフでやることは、いつもゴブリンスレイヤーがやっていることだ。

 彼は躊躇いなく刃をゴブリンの腹に突き立て、切り開く。

 頭目のいきなりの行動に令嬢剣士と新米二人が声にならない悲鳴をあげるなか、彼はゴブリンの臓物をかき混ぜ始めた。

 

「意外に思うかもしれないが、ゴブリンは嗅覚が鋭い。特に新品の金物なんかを身に付けているとすぐに気づくほどだ」

 

 襤褸布で取り出した臓物を包み、血を染み込ませる。

 彼はそれを持ったまま、無表情で女性陣に目を向けた。

 幽鬼のように彼女らのほうに歩み寄っていくが、銀髪武闘家は慣れた様子で、背中を向けて逃げようとした見習聖女を羽交い締めにした。

 訳も分からぬまま捕まった見習聖女は、足をばたつかせながらローグハンターに言う。

 

「そ、その話とこれは何の関係が━━」

 

「奴らは臭いに敏感だ。特に女、子供、森人の臭いにはな」

 

 いつかにゴブリンスレイヤーが言っていた言葉を借りて説明し、安心させるためなのか、一周回って清々しい笑みを浮かべた。

 

「今からおまえらに血を塗りたくる。慣れろ」

 

 表情とは裏腹に感情の欠落した声を出し、見習聖女と銀髪武闘家に近づいていく。

 令嬢剣士は既に女魔術師に捕まっており、見習戦士に関しては諦めている。

 銀等級の冒険者に挑んだところで、即沈められるに決まっている。

 自分の実力と相手の実力がわかるというのは、とても大切なことだ。

 と言っても、男のローグハンターにやられるのでは余計に抵抗があるのだろう。

 銀髪武闘家に頼んで塗ってもらい、声に出さずに絶叫する見習聖女を横目に、涙目の令嬢剣士に目を向けた。

 目は口ほどにものを言うとは良くいったもので、彼の目は「次はおまえだ」と告げている。

 無駄な抵抗はただ疲れるだけと知るのは、この直後だ。

 

 

 

 

 

 薄暗い洞窟の中は、妙にじめじめとしていて蒸し暑い。

 列の先頭を行くローグハンターは、ちらりと後列を確認した。

 自分を先頭に新米戦士、令嬢剣士、女魔術師、見習聖女、銀髪武闘家の順に続く。

 出来ることなら銀髪武闘家にも前に出て欲しかったが、万が一背後からの奇襲を受けたら総崩れとなる。そんなリスクは負いたくない。

 小さくため息を吐き、目に覇気のない見習聖女と令嬢剣士に気をかける。

 いきなり血を被ったのだから、二人のテンションはいつになく低いものとなっている。

 ゴブリンがそれを知ったら、ここぞとばかりに攻めこんでくることだろう。

 それをさせるほどローグハンターも甘くはない。

 洞窟の暗闇の先に揺れる赤い影を見つけた彼は懐から投げナイフを取り出し、一息吐いてそれを投げ撃った。

 暗闇の奥から断末魔が響き、続いていくつかの足音が迫ってくる。

 タカの眼に映る影から敵の数と種類を特定し、後続に告げる。

 

「数は五。ホブなし、呪文使い(シャーマン)なし。やれるか」

 

 松明片手に表情を強張らせていた新米戦士に声をかけ、その肩を叩く。

 

「やることは鼠と変わらない。死なないように気を付けながら、相手を殺せ」

 

「は、はい……!」

 

 新米戦士は返事を返すと深呼吸して、命を預ける自分の得物を構えた。

 ローグハンターはバスタードソードと短剣を引き抜き、重心を落として構える。

 

「魔術と奇跡は温存。後ろは任せたぞ」

 

「まっかせといて!」

 

 打てば響くような返事。

 後ろに一瞥もくれずにやり取りを終える辺り、彼女への信頼が垣間見てる。

 前衛二人とゴブリンが激突した。

 

「GRB!?」

 

「GO━━━!」

 

 長短一対の刃を飛びかかってきた勢いを利用して突き立て、そのまま引き倒す。

 

「二つ」

 

 彼の脇をすり抜けたゴブリン三匹は殺された無様な仲間を嘲笑い、視線の先にいる女たちに目を向けた。

 いるのは弱そうな男が一人。余裕だろう。

 背後にいる死神は脅威ではないと勝手に決めつけ、襲ってきても問題ないと判断する。

 ゴブリンたちにある謎の自信は、文字通りの慢心でしかない。

 だが、新人相手にはその自信は効果的なものだ。

 

「こんの!」

 

 新米戦士が大上段から剣を振り下ろすが、ゴブリンはそれを避ける。

 最弱といっても相手は魔物。見え見えの攻撃を避ける程度のことは出来る。

 だが、そこから続く連撃を避けきれるかは、個体の能力によるものだ。

 型もなにもないただ力任せの連撃は、ついにゴブリンの胴体を捉え、腹を捌いた。

 聞くに耐えない断末魔と共に腹から臓物をこぼしたゴブリンは崩れ落ち、その先に進んだ二匹のゴブリンは。

 

「遅いですわ!」

 

「GOB━━!?」

 

「RBR!」

 

 軽銀の一閃のもとに屠られた。

 巣穴に潜り込んで最初の遭遇戦は、あっさりと終わった。

 新米剣士は肉を絶った感覚の残る手を見つめ、僅かに震えていることに気づく。

 彼にとって、人型の敵を斬ったのはこれが初めてだった。

 只人(にんげん)でないことはわかっている。相手は滅ぼすべき敵であることもわかっている。

 冒険者になった時に覚悟は決めていた。何を今さら考えているのだ。

 

「……大丈夫?」

 

 見習聖女が彼の顔をそっと覗きこみ、水袋を差し出した。

 彼は礼を言うとそれを受け取り一あおり。火照った体に冷たい水が心地よい。

 ちらりとローグハンターに目を向けると、念のためなのかゴブリンの死体をそれぞれ一突きしていた。

 死んだふりからの奇襲を警戒しているのだろう。

 

「巣穴がどの程度の規模かはわからないが、流石に三十も押し込める広さではないか」

 

「いるとしても二十前後ですかね。最悪三十居ると仮定しておけば……」

 

 女魔術師が杖の石突きに仕込んだ刃でゴブリンの死体を一突きしながら言うと、ローグハンターが頷く。

 

「何匹居たとしても、やることは変わらん」

 

 彼の確認に銀髪武闘家に頷いて後方警戒。

 異常がないようなら前方に目を向け、籠手の具合を確かめる。

 

「進もう。まだ奥にいるだろうから」

 

 彼女の言葉に頷くと、隊列を組み直して洞窟の奥へ。

 気を抜くと呑み込まれてしまうと錯覚するほどの闇の中に、彼らは進んで行くのだ。

 

 

 

 

 

 洞窟の深奥部。

 そこはゴブリンたちの根城となっており、虜囚となった女性たちの姿も見受けられる。

 

「通常が十。ホブが一、呪文使い(シャーマン)なし。頭目はホブか」

 

 洞窟の奥に座り込み、ゴブリンたちを顎で使っているホブを頭目と仮定して、作戦を組み立てる。

 ホブは魔術か奇跡で倒し、他の十はいつも通り死ぬまで殴って殺す。

 見習聖女に目を向け、小声で言う。

 

「あのデカイのはおまえが殺れ。一度限りの奇跡だ、外すなよ。合図は出す」

 

 彼女はそっと頷くと、天秤剣を両手で握る。

 次に銀髪武闘家に目を向けて、いつもとは違う指示を出す。

 

「おまえは後衛を守れ。俺と戦士、剣士の三人で切り込む。二人は固まって背中合わせだ、絶対に死ぬなよ」

 

「うん」

 

「はい」

 

「わかりましたわ」

 

 最後に指示を渡すのは女魔術師だ。

 

「おまえは状況を見て援護だ。頼めるか」

 

「任せてください」

 

 一党内に指示を出し終えると、ローグハンターは松明を受け取りそれを振りかぶり、空間の中央に向けて投げ放つ。

 弧を描いて飛ぶそれは狙い通りに空間の中央に落ち、そこに集っていたゴブリンたちを狼狽えさせる。

 

「行くぞ!」

 

 ローグハンターは真っ先に飛び出し、剣士二人がその後ろに続く。

 

「一つ……!」

 

 ローグハンターはすれ違い様にバスタードソードを一閃し、ゴブリンの首を刈る。

 

「二つ、三つ!」

 

 飛びかかってきたゴブリンに短剣を突き立てて頸椎を砕き、バスタードソードの刃を返してさらにもう一匹。

 視界の端で新米戦士と令嬢剣士の二人が奮闘していることを確認し、動き始めたホブに目を向けた。

 頭目が動いたからか、ゴブリンたちは下卑た笑みを浮かべて舌舐めずり。

 どうせ負けないだろう程度のことを思っているのだろう。

 

「任せたぞ!」

 

「はい!」

 

 彼らの余裕は、たった一人の少女の手によって粉砕されることとなる。

 見習聖女は天秤剣を両手で握り、法を司る至高神への祈りを捧げる。

 

「《裁きの(つかさ)、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し(さぶら)え》!!」

 

 次の瞬間、神鳴る『聖撃(ホーリースマイト)』が剣となって迸り、ホブゴブリンの胸を貫いた。

 肉の焦げる臭いが鼻につくが、まだゴブリンを殲滅しきれていない。

 

「あぁ、くそ!」

 

 血脂によってもはや鈍器となった剣を振り回していた新米戦士に、ローグハンターは足元の棍棒を拾い上げて「使え」と投げ渡す。

 何とか受け取った新米戦士は、渾身の殴打(バッシュ)でゴブリンの頭蓋を一撃で砕いた。

 彼の口から僅かに感嘆の息が漏れたのは、きっと聞き間違いではない。

 

「GRBGOBR!!!」

 

 とあるゴブリンが見習聖女を指差して、前衛三人を無視して彼女に向かっていく。

 想定通り。彼女を守る盾と矛の用意はしてある。

 銀髪武闘家が飛び出し、半月の軌跡を残す蹴りを放つ。

 蹴りの一撃は素人の剣の一撃よりも遥かに強力で、ゴブリンたちの体を寸断した。

 

「あれで八。残り二つ」

 

 ローグハンターが淡々と告げると、その二匹のゴブリンは一目散にある場所を目指す。

 それを察した彼は、投げナイフを取り出しながら女魔術師に向けて叫ぶ。

 

「行かせるな!」

 

「《サジタ()……ケルタ(必中)……ラディウス(射出)》!」

 

 返事の代わりに紡がれたのは、真に力ある言葉だ。

 放たれた『力矢(マジックミサイル)』は一匹のゴブリンの頭を吹き飛ばし、残りの一匹はローグハンターの放った投げナイフが膝裏に突き刺さって転倒する。

 そのゴブリンが目指していたのは虜囚の女性たちのもとだ。肉の盾にでもするつもりだったのだろう。

 その手さえも潰されたゴブリンは、体を転がして近づいてくるローグハンターに目を向けた。

 彼の瞳に宿る殺気はどこまでも純粋で、命乞いは通じないことをゴブリンに教えてくれる。

 そしてそれが本当か試す前に、そのゴブリンは死に絶えた。

 振り下ろされたバスタードソードによって、その醜い頭を叩き斬られたのだ。

 

「ホブ含めて合計十六。これで全てか……」

 

 タカの眼で索敵し、子供がいないことを確かめる。

 いたらいたで殺すだけなのだが、今回はいないようだった。

 彼は小さくため息を吐くと、緊張した面持ちの新米二人に目を向けた。

 

「その女性たちを村に届けたら依頼完了だ。油断するなよ」

 

 彼の言葉はどこまでも淡々としていて、指示も簡単なものだった。

 こうして、新米二人の初めてのゴブリン退治は一党に死者を出すことなく終了したのだ。

 この結果を元に、女魔術師が女神官と合流して色々と考えることだろう。

 今回はあくまで試金石。本番はこれからなのだから。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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