SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory04 訓練開始

 新米たちとの冒険から一週間程。

 初夏の暑さを感じ始めた頃、建設の進む訓練場の脇に用意された模擬戦用の円陣が真っ先に完成し、既に訓練が始まっていた。

 金属と金属のぶつかる音が響き、続いて稽古をつけられている誰かの声や、その誰かを応援する声援が草原に響く。

 普段静かなその場所も、いつの間にか活気に満ち始めている。

 その一角で行われているとある模擬戦は、既にその模擬戦という領域から外れようとしていた。

 

「盾を下げるな!頭割られたいのか!」

 

「はいぃ!」

 

「流しが早い!もっと引き付けてからだ!」

 

「は、はいっ!」

 

「短剣は飾りか!?もっと意識しろ!」

 

「わ、わかりましたわ!」

 

「そもそも返事をする余裕があるなら手と頭を動かせ!」

 

 ローグハンター指導の元、新米戦士、新米剣士、令嬢剣士が鍛えられているのだ。

 端から見れば新米三人が銀等級に苛められているようにも見えるが、彼が本気で戦えば、三人は間違いなく瞬殺されている。

 こうして持ちこたえられているのは、ローグハンターが加減をしているからこそなのだ。

 

「防ぎ方が甘い!」

 

 模擬戦用に刃の潰された剣でも、当たれば痛いし当たりどころによっては死ぬだろう。

 諸々を考慮して放たれた横凪ぎの一閃は、新米戦士の盾を腕ごと弾き、無防備な腹に柄頭が叩きつけられる。

 息を詰まらせた新米戦士が膝から崩れ落ちるのとほぼ同時、新米剣士が背後から斬りかかる。

 

「こんの!」

 

「不意打ちに声を出す馬鹿がいるか!」

 

 背に回された短剣で弾か(パリィさ)れ、反転の勢いのまま放たれた拳で顎を打ち抜かれる。

 一撃で脳が揺らされた新米剣士はそのままダウン。立ち上がろうにも力が入らないのか、膝が笑ってしまっている。

 残された令嬢剣士は荒れた息を整えつつ、師と同じ長短一対の剣を握り直す。

 勝つことは無理でもせめて一太刀。

 何がなんでも一矢報いなければ、倒れた二人と一党に加えてくれた目の前の師に申し訳ない。

 彼女は長く息を吐くと、真正面から挑みかかった。

 突き、突き、払う。

 教本通りのその動きは、本来の得物である軽銀の突剣ならば相手を死に至らしめるには十分なものだ。

 だが今回の得物は模擬戦用の突剣で、相手は対人においてのプロであるローグハンターだ。

 そんな教本通りの動きではあっさりと見切られ、いなされるのが関の山。問題はそこからどう切り込むかだ。

 流れるように淀みなく、連続で放たれる連撃を捌きつつ、ローグハンターは令嬢剣士に言う。

 

「動きに無駄は減ってきた。だが、まだまだだ!」

 

 突剣を突いた瞬間、ローグハンターが模擬戦用の剣を縦に一閃すると、その勢いのまま突剣が弾き飛ばされる。

 それでも残された短剣で挑むが、ローグハンターはわざと武器を手放して両手を空けると、短剣を握る令嬢剣士の左手の手首を掴み、捻って関節を決めると、そのまま叩きつけるように引き倒す。

 倒されたままじたばた暴れる令嬢剣士の後頭部に奪った短剣を突き付け、そっと小突く。

 

「実戦ならこれで終わりだぞ」

 

「うぅ……」

 

 決着を意味する言葉をかけられ、令嬢剣士は地面に突っ伏す。

 ローグハンターは彼女の上から退くと、令嬢剣士に手を差し出した。

 彼女がその手を借りて立ち上がると同時に、ローグハンターは言う。

 

「おまえは頭が堅いな。ある程度決まった型があるのは良いが、それに拘りすぎた」

 

「はい……」

 

 彼女を立ち上がらせると、いまだに倒れる新米二人に目を向ける。

 

「いつまで寝てる。仲間が時間を稼いでも、そのまま後を追うことになるぞ」

 

 倒れる二人はどうにか手を挙げることで答え、ローグハンターは肩をすくめた。

 誰かに何かを教えるなど、一切経験のないこと。こちらも手探り、先生の見よう見まねだ。

 彼は顎に手をやり、円陣を使う他の冒険者に目を向ける。

 重戦士の一党が何人かの若手を相手にし、片隅では銀髪武闘家が新米武闘家と組み手を行い、豪快にぶん投げていた。

 反射的に受け身をとるあたり、新米武闘家は基礎がしっかりと出来ていると見える。

 女魔術師は魔女の手解きで魔術書を読みとき、時折前衛たちの訓練を観察している。

 他の場所では槍使いが槍を片手に若手を追い回し、ゴブリンスレイヤーが投石紐(スリング)の使い方を手解きしている。

 こうしてみると、意外と訓練場の需要があることに驚く。

 若手は何も知らないまま冒険に出て、そのまま死んでいくのだ。ここにいるだけでも、まだ脈ありだろう。

 ローグハンターはそう判断すると、円陣の柵にもたれる弟子三人に目を向けた。

 必要以上に痛め付けても、次に繋がらなくなってしまう。

 訓練といっても四六時中やるのではなく、十分な休息というのも必要だ。

 昔いた場所では四六時中働いていたのだから、その意味がよくわかる。

 尤も、あの状況ではそうでもしないと逃がしてしまうから仕方ないのだが、その話はいいだろう。

 ローグハンターはため息を吐き、三人に休憩を言い渡すと、近くに放置していた袋を担いで円陣の外に出る。

 ゴブリンスレイヤーが投石紐の説明を終えた頃を見計らい、彼らの使っていた射撃場と思われる場所へ。

 おそらく弓や投槍の練習を考慮して造られたその場所にはいくつかの的があり、それには工房が用意した武具━━もちろん廃棄物だ━━が被せられている。

 彼は先日手に入れたピストルを袋から取り出すと、手慣れた様子で装填し、狙いを定めて引き金を引く。

 新調した火打ち石が火花を散らし、火の秘薬(かやく)を炸裂させて鉄球(だんがん)を吐き出させる。

 放たれた鉄球は的を直撃し、錆の目立つ鎧を見事にへこませた。

 貫通はしていない。威力はローグハンター自前の物より低いのだろう。

 彼はピストルを肩に担いで顎を撫でると、もう一挺も取り出して同じように試し撃ち。

 結果は同じ。使うなら近距離でということか。

 自分のものと同等のものを求めていたわけではないが、さてどうしたものか。

 

「ふふ、調子いかがですか?」

 

 考え込む彼に声をかけたのは、日傘を持った受付嬢だ。

 いつも通りの笑顔には僅かな汗が滲んでいる。

 ローグハンターは「まあまあだな」と返し、腰に吊るした水袋を一あおり。

 ホッと息を吐き、口元に垂れた水を袖で拭って彼女に問う。

 

「視察にでも来たか。ゴブリンスレイヤーなら向こうにいるが」

 

「はい。さっき挨拶はしてきました」

 

 彼女の言葉を聞きながらピストルを装填し、再び発砲。

 吹き出した白い硝煙は、優しい風に吹かれて消えていく。

 受付嬢は何かを思い出してか、可笑しそうに小さく笑う。

 

「どうかしたのか」

 

「いえ、昔を思い出しただけです」

 

「……ああ、あの頃か」

 

 ローグハンターも思い出してか苦笑を漏らした。

 五年、先日新年を迎えたから既に六年前か。

 初めて試し撃ちした時は、新人だった頃の受付嬢を困らせたものだ。

 

「もう六年になるのか」

 

「はい。あっという間ですね」

 

 二人は染々とそう漏らし、いつの間にか過ぎ去った日々に思いを馳せる。

 帰ってこなかった者がいた。

 帰って来た者がいた。

 去っていった者がいた。

 留まり続ける者がいた。

 この六年は、ほとんど出会いと別れの繰り返しだ。

 彼が思い耽っていることを察してか、受付嬢は苦笑混じりに彼に問いかけた。

 

「白磁や黒曜の冒険者さんたちはどうですか?」

 

「俺が面倒を見ているのは白磁だけだが、どうだろうな」

 

 彼は肩をすくめ、僅かに見える円陣のほうに目を向ける。

 未来ある若者たちが、先人たちに挑んでは転ばされ、立ち上がっては転ばされるを繰り返している。

 

「……どんな奴でも死ぬときは死ぬ。ここにいるだけでもまだ良い」

 

「辛口ですね」

 

「適当に繕っても意味がないからな。こういうのははっきり言った方が良いだろう?」

 

「まあ、そうですかね……?」

 

 ローグハンターの言葉に、受付嬢は何とも言えない表情で頷いた。

「ですけど」と呟いて彼に言い返す。

 

「こういう時は、もう少し当たり障りのない答えを言うものですよ?」

 

「知っている。だが、その当たり障りのない答えがよくわからん」

 

「不器用ですね」

 

「あいつの気持ちに気づくのに、三年近くかかった男だぞ」

 

「そうでしたね」

 

 受付嬢はまた可笑しそうに笑い、ローグハンターもつられて笑う。

 銀髪武闘家が見ていれば、さぞや嫉妬したことだろう。

 だが今回見ていたのは、とても不運なことに槍を振り回して新人たちを追いかけ回していたあの男。

 彼は声にならない怒鳴り声をあげ、新人たちを追う足を速めた。

 そして、待ったがかかったのはその直後。

 

「皆さーん!お昼にしましょーう!」

 

「牧場からの差し入れだよー!」

 

 がらがらと荷車を押して現れたのは、女神官と牛飼い娘。

 正式に運営されていない訓練場には、もちろん昼食が出されるなんてことはない。

 牧場主の純粋な善意によるものだ。二人は彼を手伝って運搬の任を任されているのだろう。

 受付嬢は「手伝いに行きますね」と言うとパタパタと駆け出し、その場にはローグハンターだけが残される。

 彼は数瞬思慮し、再びピストルの試し撃ちをしようとした時だ。

 

「おう、ちょっと良いか」

 

「どうした、新人にからかわれたか」

 

 声をかけてきた槍使いに返しつつ、再び発砲。

 ここまでやって不調が出ないのなら、問題はないだろう。

 使い終えたピストルを袋に戻し、肩に担いだ時に槍使いが切り出した。

 

「おまえ、知ってるか?俺とおまえのどっちが強いかで賭けになってるってよ」

 

「おまえが上で良いだろう。俺では悪魔(デーモン)に勝てないからな」

 

「そういう意味じゃねぇ」

 

 槍使いはそう言うと、彼の首もとを掴んでずるずると引きずり始める。

 運んでくれるとは楽でいいなと思いつつ、ローグハンターは言う。

 

「で、何故俺は運ばれている」

 

「おう、まずは飯だ。話はそれからで良いだろうよ」

 

「むぅ……」

 

 何故か獰猛な笑みを浮かべる槍使いに困惑しつつ、ローグハンターは小さく唸る。

 とにかく腹に物を入れなければ。空腹ではやれることも出来なくなってしまう。

 

 

 

 

 

 各々の弁当や出された昼食を食べる新人たちを眺めつつ、ローグハンターは袋に積めていたリンゴをかじる。

 乾いた喉に、リンゴの酸味がちょうど良い。

 彼の前で昼食にがっつく弟子三人の様子に苦笑を漏らし、彼はそれぞれに言った。

 まず餌食になったのは新米戦士だ。

 

「おまえは盾の扱いが雑だな。俺も専門ではないが、もっと盾で殴るぐらいの勢いで良いと思うぞ」

 

「た、盾で殴るんですか?」

 

「ああ。ゴブリンスレイヤーはよくやっている」

 

「そうなんですか……」

 

「それと、受け止めるではなく受け流すだ。相手の武器が戦槌(せんつい)なら腕ごと潰されるぞ」

 

 彼の言葉に新米戦士はわかりやすく体を強張らせ、盾を括っている左腕に手をやった。

 そんな彼を横目に次は新米剣士だ。

 流石の彼も苦笑混じりに指摘する。

 

「おまえは真っ直ぐすぎだ。不意打ちするなら静かにしろ」

 

「は、はい……」

 

「あと、なぜ大上段から振り降ろす。あれほど対処しやすいものはないぞ」

 

「うっ」

 

「前に言った筈だ、剣を細かく振れと。あれは洞窟内に限った話じゃないぞ」

 

「ぐぅ……」

 

 新米剣士は小さく唸り、がくりと顔を降ろした。

 フォローするのは後にして、最後に令嬢剣士に目を向ける。

 弟子でありながら一党でもある彼女には、少々辛口になるのも仕方ないだろう。

 

「おまえはさっきも言ったが堅い。もっと柔軟に対処しろ。実戦で教本通りの状況になることは稀だ」

 

「はい」

 

「それと短剣を生かせ。何も防御用のものでもないんだから、武器としても使え」

 

「………」

 

 自分の短剣を見つめ、思慮を深める令嬢剣士の姿に僅かに感心しつつ、ローグハンターは主のいないアサシンブレードを袋から取り出した。

 三人は首を傾げ、代表して令嬢剣士が問いかける。

 

「先生、それはなんですの?」

 

「俺の故郷で使われていた武器だ。去年の砦で見つけたものをくすねてきた」

 

「それをどうするんですか」

 

 興味を引かれた新米戦士が問うと、ローグハンターは何かを思い付いたのか三人に告げた。

 

「……使ってみるか?」

 

「「「え……」」」

 

 いきなりの提案に困惑する中、ローグハンターは一人でぶつぶつと独り言を口にする。

 

「ああ、そうだな。仮にも弟子を名乗らせるのなら、使い方を学んでもらうのも良いだろう」

 

「あの、先生……?」

 

「そうと決まればやるか。何、使い方はしっかりと━━」

 

「ローグハンター!!!」

 

 善は急げと立ち上がった彼を呼び止めたのは、昼食を終えた槍使いだ。

 彼は円陣の中央に模擬戦用の槍を担いで仁王立ちしており、ローグハンターを睨んできている。

 睨まれている当の彼は首を傾げ、不満げに言う。

 

「なんだ、俺はこれからやることを思いついたんだが」

 

「言ったろ、話があるってよ!」

 

「言われたが、また明日にしてくれ」

 

「いいや、今だ。今しかねぇ!」

 

 捲し立てる槍使いに困惑しながら、ローグハンターは円陣の中に足を進める。

 仕切りの柵を乗り越え、頭を掻きながら槍使いに言う。

 

「それで、なんだ」

 

「俺と勝負しろ!」

 

 槍使いが宣言した瞬間、野次馬で集まっていた冒険者たちの中に衝撃が走る。

 つまりどちらが『辺境最強』かを決める勝負をしようと言うのだ。

 冒険者たちのざわめきは伝播していき、誰かの掛け声で賭けが始まった。

 ローグハンターはその様子を眺めて肩をすくめると、やる気十分な槍使いに言う。

 

「辺境最強はおまえで良いと言ったろ」

 

「いや、称号よりも大事なもんがある」

 

 槍使いはそう言うと、わずかに心配そうな表情をしている受付嬢に目を向けた。

 それをローグハンターに向けていると判断したのか、彼はさらに捲しあげる。

 

「それと、今夜暇なら飲み行くぞ!銀等級の野郎二人は誘ってある!」

 

「それが本題じゃないのか。仲間はずれは寂しいぞ」

 

「負けた方が奢りだ、良いか!」

 

「本題はそこか。……なら、仕方ない」

 

 模擬戦用の武器が突っ込まれた樽を探り、手に馴染んだ物を適当に身繕う。

 長短一対の剣を素振りして、感覚を確かめる。

 

「一本先取で良いのか?」

 

「おう。そんじゃ、始めるか」

 

 槍使いはひゅんと槍を振り、両手で握って重心を落とす。

 トップスピードで突っ込んでくるのは目に見えている。それをどう対処して、どう攻めていくか。

 

「審判は私がやろう。秩序にして善なる聖騎士の私が、不正は許さん!」

 

 何故かやる気十分な女騎士が審判を申し出ると、銀髪武闘家が野次を飛ばす。

 

「で、あなたは誰に賭けたんですか~」

 

「難しい質問だ。槍という長い間合いと、それを手足のように扱いうる槍使い。対するローグハンターには対人戦における絶対的な経験がある。どちらが勝つかだと?実に難しい!」

 

 この女騎士、実に楽しそうである。そしてしれっと論点をずらしている。

 銀髪武闘家はやれやれと言わんばかりに首を振り、同じく困り顔でため息を吐く重戦士に目を向けた。

 女騎士はどこ吹く風で、槍使いとローグハンターに目配せする。

 

「では二人とも、用意は良いか?」

 

「おうよ」

 

「いつでも」

 

 対峙する二人は頷くと、そっと相手たる人物を睨む。

 槍使いが放つ猟犬の如き眼光と、ローグハンターが放つ鷹の如き眼光が交錯し、訓練場には場違いな空気が流れ始める。

 

「では、始め━━!」

 

「ラァッ!」

 

「フッ!」

 

 銀等級二人の戦いは、新人玄人関係なしに冒険者、建設ギルドの関係者たちを魅いらせる。

 二人の戦いは互いの武器が砕け散るまで続き、タイミングを見た受付嬢が待ったをかけたことで、結局は引き分けという結果に落ち着いた。

 本来新人たちが使う筈の訓練場で暴れまわった銀等級二人は、しばらく関係者からの説教を受けることになったのは、もはや言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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