SLAYER'S CREED   作:EGO

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Memory06 森人の里

 森人たちが住むのは、大木に開いた(うろ)だ。

 客人であるローグハンターとゴブリンスレイヤーの一行が通されたのも当然その一つだ。

 (すだれ)の如く垂れる蔦の扉を抜け、真っ先にたどり着いたのは大きな居間だ。

 透明に思えるほど薄い葉で作られた窓からは、優しい午後の日差しが入り込む。

 部屋にあるほぼ全てのものが植物で形作られ、数少ない人工物も森人手製の飾り布(タペストリ)程度だ。

 ローグハンターは独特な木の臭いを肺一杯に吸い込み、前の世界で立ち寄った先住民の集落を思い出す。

 あちらはあちらで戦争中の訪問という中々に面倒な状況だったが、今回は良い方だろうと思慮する。

 ゴブリンが迫っていることに目をつぶれば、という話だが。

 

「おおぅ、おお、お?」

 

「変な声を出さないでください。おぉ……」

 

「お二人とも、だらしないですわよ?あぁ、これは良いですわ……」

 

 キノコの傘をクッション代わりとした椅子に腰掛けた銀髪武闘家、女魔術師、令嬢剣士の三人が唸る中、牛飼娘や女神官、受付嬢も似たような反応を見せた。

 ローグハンターは女性陣の反応に肩を竦め、輝ける兜の森人に目を向ける。

 

「あれも精霊とか、そちらの力を借りるのか」

 

「おおよそその通りだ。森が好意で形を変え、力を貸してくれているのだよ」

 

「頑健な屋敷ならば鉱人、心地よき家ならば圃人(レーア)、砦は蜥蜴人に任せよとは言いまするが」

 

 輝ける兜の森人の言葉に興味深げに頷きながら、蜥蜴僧侶は苔の絨毯を踏みしめる。

 彼の重い体を受け止め、尾を引きずっても跡を残すことはない。

 蜥蜴僧侶は安堵の息を吐き、目玉をぐるりと回す。

 

「森人の住居というのも、趣深きものですなぁ」

 

 蜥蜴人は戦好きだが、何よりも父祖を、古きを尊ぶのもまた蜥蜴人だ。

 輝ける兜の森人は彼に敬意を称してか一礼して見せた。

 

「そう言って頂けるのはありがたい事だ。だが、祭事のため急ぎで用立てたもの故、いささかお見苦しいところもあると思うが……」

 

「あに様、それちょっと厭味(いやみ)っぽい」

 

 妖精弓手が容赦なく肘で小突き、半眼になって輝ける兜の森人を睨む。

 

「どうせ何ヵ月もかけたんでしょーが」

 

 ふんと鼻を鳴らし、窓際の特等席に座ろうとそちらに目を向けたが、

 

「あぁ!」

 

「……む」

 

 そこにはいつの間にかローグハンターが腰掛けており、窓枠に頬杖をつきながら外の様子を眺めていた。

 その姿には冒険者の持つ荒々しさは微塵もなく、まるで貴族や騎士を思わせる。

 そんな事お構い無しに、妖精弓手は彼に指を突きつけながら言う。

 

「あんた、そこは私が狙ってたのよ!」

 

「狙ってたでは駄目だろう。狙ったのなら確実に取れ」

 

 思いの外キノコの座り心地が気に入ったのか、口外に退く気はないことを伝えると、彼は再び窓の外に目を向けた。

 異種族であろうと魅入らせる美しく若い森人たちが、洗練された衣装を纏い、集落を慣れた様子で跳び回っている。

 子供であろうが大人であろうが、彼らの見せる木々の合間を跳び回るフリーランは、纏う衣装同様に無駄がなく洗練されている。あそこまでたどり着くのに、自分はあと何年かかるのだろうか。

 彼は思わずため息を吐き、居間を注意深く観察していたゴブリンスレイヤーの姿を認めて肩を竦めた。

 

「おまえはどう思う」

 

「滅多に見れるものではないだろう」

 

「……おまえらしい返答で安心したよ」

 

「そうか」

 

 どこに行っても変わらない友人の姿に思わず苦笑を漏らし、妖精弓手とあれやこれやと話し込んでいた輝ける兜の森人に問いかける。

 

「……で、これからの予定は決まっているのか?」

 

「まずは長旅の疲れを癒してもらうとしよう。沐浴と昼餉(ひるげ)の支度をしてある」

 

 妖精弓手との会話をぶったぎった輝ける兜の森人はそう返し、返答を求めて冒険者たちに目を向けた。

 

「どうなさるね?」

 

「俺は荷解きをする」

 

 ゴブリンスレイヤーは即答し、「ゴブリンが来るかもしれん」と付け加えた。

 驚愕する輝ける兜の森人をよそに、ローグハンターは慣れた様子で言う。

 

「なら、俺も手伝うとするか。余り腹が減っていなくてな」

 

「そうか」

 

「……なら、私も残るわ。ねえ様がくるかもしれないし」

 

 相変わらずの二人の頭目に、妖精弓手は処置なしと天を仰いでそう告げた。

 彼女に続いてそれぞれの一党の仲間たちは頷くが、銀髪武闘家だけは不満げに言う。

 

「だったら私も。キミだけに仕事なんて……」

 

「汗流してこい。荷解き程度なら問題にもならん」

 

「でもさぁ」

 

 渋る彼女の姿にローグハンターは困り顔になると、女魔術師がため息混じりに助け船を出す。

 彼女はわざとらしく鼻を引くつかせると、表情をしかめながら呟いた。

 

「少し汗臭いですね」

 

「…っ!わかった入ってくる、今すぐに!」

 

 打てば響くとはこの事だろう。

 先程まで渋っていたというのに、銀髪武闘家は即断して荷物を漁り始めた。

 

「となら、娘っ子どもが水浴びしとる間に何か食うかの」

 

 鉱人道士が髭をしごきながら言うと、蜥蜴僧侶は同意を示して頷いた。

 令嬢剣士が投げられた自分の荷物を捕まえる姿に苦笑を漏らし、牛飼娘が荷解き組に言う。

 

「女の子の荷物、特に着替えには触らないでね」

 

 流石のローグハンターもそこは弁えているためか当然のように頷くが、ゴブリンスレイヤーは荷物の山に目を向けた。

 

「……どれだ」

 

 応じる声の調子は、彼が困っているときのそれだ。

 ローグハンターはそんな彼の姿にやれやれと首を横に振ると、僅かばかりの手伝いとしてタカの眼を発動した。

 森人二人が彼の瞳に金色の輝きが宿ったことに気付き、弾かれるように彼に目を向ける。

 ローグハンターは金色に見える荷物を確認し、指を差して確認する。

 

「それとそれ、あとそこのそれだな」

 

「そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーは頷くが、兜の中で小さく唸る。

 能力の無駄遣い以外の何物でもないのだが、ローグハンターは気にした様子はない。

 敵の居場所から痕跡まで、呪文も制限もなしに使えるその能力は、ゴブリンスレイヤーはいまだに理解しきれてはいない。

 ローグハンターがタカの眼を解除すると、妖精弓手は首を捻った。

 

「前と色が違うのよねぇ……」

 

「色が変わるのか?」

 

「何でかわかんないけど」

 

 妖精弓手は輝ける兜の森人にそう返し、二人はその瞳にローグハンターを映す。

 当の彼は男性陣の荷物を集め、どれから始めようかと首を捻る。

 どうせ誰から始めても同じだろうという結果にたどり着くのに余り時間はかからず、無難に自分の荷物に手をつけ始めた。

 彼に続くようにゴブリンスレイヤーも作業を始め、その他の面々は邪魔にならないうちに洞を後にする。

 

「それじゃ、また後でね」

 

「ああ。のんびりしてこい」

 

 最後に退出しようとしていた銀髪武闘家が振り向きながら言うと、ローグハンターは片手を挙げて笑みを浮かべた。

 相変わらずの笑みに彼女は頷いて、仲間たちの背中を追いかけていった。

 

 

 

 

 

 ど、ど、ど、と。音を立てて水が流れ落ち、白い飛沫を上げた。

 滝かと言われれば確かにそうだが、それは地上に流れるものではない。陽の光を浴びるものでもない。

 それは地の底の川であり、滝であった。

 先程とはうってかわった石の洞。こちらは植物が形を変えたのではなく、流れる水によって削られ、形を変えたのだ。

 さらに滝によって削られた結果、湖を作り出している。

 地下深くにあるにも関わらず、淡く金緑(エメラルド)の輝きを放つのは、湖の底に敷き詰められた苔の仕業だろう。

 その神秘的としか形容出来ない光景を前にした女性陣は、口を開けたまま言葉を発することが出来なくなっていた。

 だが湿気の混ざった地下の冷気で意識も戻し、タオルで隠した裸体をぶるりと揺らした。

 脱いだ衣服は森人の侍女が預り、彼女らは既に退去を済ませている。

 その場に残された彼女らは、不安げに目を合わせた。

 牛飼娘は湖を眺めつつ、慣れているであろう冒険者たちに問いかける。

 

「こ、これ、入っちゃって良いんだよね……?」

 

「沐浴の場所なら、大丈夫じゃないかしら……」

 

 女魔術師が興味深げに洞の中を眺めつつ言うと、銀髪武闘家がそっと爪先で水面を撫でた。

 湧き水特有の冷たさが突き刺さるが、我慢出来ない程ではない。

 

「んー、いつかの雪山に比べれば?」

 

「比較対象がおかしくありませんか?」

 

 受付嬢が苦笑混じりに言うと、令嬢剣士が遠い目をして染々と言う。

 

「あれは、大変でしたわ……」

 

「寒かったですね……」

 

 女神官も同じような表情で続くと、銀髪武闘家が両頬を叩いて「よし!」と気合いを入れた。

 その勢いのままに足から湖に身を沈めていき、足裏に感じる柔らかい苔の感触に僅かに驚く。

 苔なのだから滑るのかと思いきや、逆にしっかりと足を支えてくれるのだ。

 銀髪武闘家は肩まで浸かると後ろを向き、未だに入ってこない仲間たちに笑みを浮かべながら言う。

 

「うん、大丈夫。慣れれば気持ちいいよ」

 

 彼女の言葉を受けた受付嬢らも湖に身を進め、始めは冷たさに身を強張らせたが、すぐに表情を和らげた。

 令嬢剣士は力を抜けたのか、隠す気もなく間の抜けた息を吐く。

 そんな彼女の姿を諌めることはせず、皆一様にそんな様子だ。

 牛飼娘が湖の水を手で掬いながら言う。

 

「井戸水とかよりは温かいかもね。なんでだろ」

 

「地の底に炎の川が流れているって、学院で聞いたわ」

 

「へぇ~」

 

 気の抜けた返答だが、女魔術師は気にした様子もなく洞の中を見渡す。

 冒険者になってから、こんな場所に来たことがあっただろうか。

 彼の一党に加わったことに不満はないが、こうして見ると、なるほど世界は広い。

 そんな彼女の様子に気づいてか、受付嬢が苦笑を漏らす。

 

「あの森人さんが、お二人を連れ出したい気持ちがわかったんじゃないですか?」

 

「何となく、ですけどね……」

 

 女魔術師も苦笑で返すと、銀髪武闘家が「でもさ」と呟く。

 皆の視線が一斉に彼女に向けられたが、気にした様子もなく言う。

 

「彼って、故郷だと結構冒険してたみたいだよ?未開の洞窟を探索したり、手付かずの森を調べたり、氷で出来た大地(北極圏)に行ったり……」

 

 彼女の言葉に仲間たちが「そうなんだ」と似たような反応を示すなか、銀髪武闘家は首を捻る。

 

「こうやって言うと、彼って昔どんな仕事してたんだろ。貴族出の騎士?探検家?」

 

「それにしては、物騒ですよね……」

 

 里に入る直前の話を思い出してか、女神官がそう漏らした。

 いくら貴族だとしても、一人前の印として指に焼印を入れることなんてないだろう。

 探検家だとしても、それならもっと遺跡の探索なんかを受ける筈だ。

 

「先生は探検家というよりも、騎士という方がしっくりきますわ」

 

 令嬢剣士は得意気にそう告げ、更に持論を展開する。

 

「弱きを助け、悪を討ち、非情というわけでもなく後進の指導にも余念がない。本人も都の強者よりも腕がたつだなんて、騎士としか言えませんわ」

 

「キミが彼のことが大好きなことはわかったけど、確かに、騎士、ね……」

 

 銀髪武闘家はそう言うとボケッと洞の天井を眺め、彼の言動を思い出す。

 仲間や友人には優しいが、敵対者には容赦ない。

 剣術は我流ではあるが、先生と呼び慕う何者かから教わった。

 あの吸い込ませるほど美しい蒼い瞳と、闇に紛れる黒い髪。

 時折見せる柔和な笑み、凛々しい表情ときたら……!

 

「ふぇ~」

 

「自分の世界に行ったわ」

 

「先生のことを考える時は、あんな表情をしますわね」

 

 だらしない表情をする銀髪武闘家に向け、慣れている二人はそう評した。

 牛飼娘、受付嬢、女神官はそんなローグハンターの一党に苦笑を漏らす。

 

「ですけど、あの人が騎士だとしたら」

 

 受付嬢はそう言うと、いまだ放心状態の銀髪武闘家に目を向けた。

 

「助けを待つお姫様が、少しアクティブ過ぎませんかね?」

 

 男子が勇者や騎士に憧れるように、女子もまたお姫様や花嫁など、憧れるものも多い。

 所詮のところ夢でしかないのだが………。

 

「良いよねぇ、お嫁さんって」

 

 この中で一番それに近い銀髪武闘家に目を向けながら、牛飼娘は染々と言った。

 次の瞬間にはハッとして赤面すると、わざとらしく笑う友人たちに目を向けた。

 彼女をはじめとして、その場にいるのは全員年頃の女性だ。

 夢だとて、その想いを言葉にしたって良いではないか。

 

 

 

 

 

「店を広げるぞ」

 

 ローグハンターと協力して荷解きとそれらの運搬を終えたゴブリンスレイヤーが、唐突にそう告げた。

「え」と思わず声を漏らしたのは妖精弓手だ。

 彼女は女性陣の荷物━━正確には着替え、特に下着だ━━を眺めていたからか、全くと言って良いほど荷解きが進んでいない。

 

「私、まだ片付いてないんだけど」

 

「俺は触るなと言われているからな」

 

「それ以前に、他人の服を眺めてどうする」

 

 自分が使う予定の奥の部屋から戻ってきたローグハンターは、困り顔でそう言った。

 

「これなら俺とゴブリンスレイヤーだけで十分だったかもな」

 

「それでは服に触れないがな」

 

「そこが難しいところだ」

 

「そうだな」

 

 野郎二人が話す中で、蚊帳の外になった妖精弓手は急いで片付けを始め、その途中で思い付いたかのように言う。

 

「二人とも、喉乾いてない?」

 

「どうしたいきなり」

 

「そろそろ飲み物欲しいかなーって」

 

「そうか」

 

 ローグハンターとゴブリンスレイヤーの相槌を同意と受け取ったのか、彼女は台所に向かう。

 その途中でくるりと振り返り、二人に提案した。

 

「ね、お茶淹れたげよっか。試しに(・・・)

 

「貰えるなら貰おう」

 

「……おまえ、今そいつが何と言ったか聞いていたか?」

 

 即答したゴブリンスレイヤーに、ローグハンターは待ったをかけた。

 妖精弓手の明らかに不穏な一言に、流石の彼も狼狽えたのだろう。

 そんな二人に構うことなく、彼女は既に作業に入っていた。

 棚に押し込められていた香草や薬草の類いを適当に選び、黒曜石の小刀で大雑把に切り刻む。

 それを目分量でドングリを繰り抜いた杯に入れ、水を注ぐ。

 まことの銀(ミスリル)で作られた水差しは、いつまでも冷たさを保つ特別製のもの。

 森に住む彼らとて、冶金の技がないわけではない。現に輝ける兜の森人の兜は、彼らの見せる手で作られたものだ。

 妖精弓手が指を立ててくるりと宙に円を描くと、本来ならあり得ない速度で杯の中の水には色がついている。

 術士でなくとも、彼らが頼めば万物が形を変える。彼らの故郷だからこその技だろう。

 彼女は三つの杯を用意し、ゴブリンスレイヤーと渋い顔をするローグハンターに手渡した。

 

「味は保証しないけど」

 

「ああ」

 

「……おう」

 

 ゴブリンスレイヤーは躊躇いなく、ローグハンターは何とも言えない表情でそれをあおった。

 二人は感想もなくそれぞれの作業に戻り、ゴブリンスレイヤーは何やら作業を始め、ローグハンターはエアライフルの整備を始める。

 黙々と作業する二人に彼女は噛みつこうとするが、邪魔したら悪いかと一瞬躊躇い、ゴブリンスレイヤーの作業に興味を引かれてかそちらに目を向けた。

 これ幸いとローグハンターは作業に没頭し、詰まりや歪み、錆がついていないかを徹底的に調べ上げる。

 次いでピストルを取り出したが、そこでふとある事に気づく。

 森人の里の周辺には、まず間違いなく火避けの(まじな)いが施されている。

 つまり、火打石を打ったところで火花は散らず、火の秘薬に着火できない。つまり━━。

 

「これは鈍器代わりか……」

 

 彼が肩を竦めてホルスターに押し込むと、居間の外にだれかの気配を感じてタカの眼を発動した。

 壁越しに見えるのは二つの青い影。敵でないのなら良いかと、彼はタカの眼を解除してアサシンブレードの整備を始めた。

 尤もやることは刃に錆や欠けがないかを確認し、仕掛けに不備がないかを確かめる程度だ。

 それが終わると同時に、こほんと咳払いがされた。

 

「……なんですか、この有様は」

 

 苛立たしさを隠す気もない筈なのに、その声は歌うように清らかだ。

 それにびくりと反応したのは妖精弓手だ。彼女はそっと居間の入り口に目を向け、驚愕を露にする。

 彼女の視線の先にいるのは、笹葉のように長い耳を持ち、星を散らした銀河を思わせる髪は花冠で更に彩られ、気品溢れる金色の瞳の女性。

 銀糸のドレスを纏った白く細い肢体は、しなやかに高い。

 その顔立ちは、何となくだが妖精弓手に似ているが、彼らの一党に属する妖精弓手とは対象的に、その胸は豊満だった。

 

「……ねえ様!?なんで!?」

 

 妖精弓手が飛び上がりながら言うと、花冠の森姫は気品溢れる所作でため息を漏らす。

 

「なんでも何も、あなたがお祝いに来てくださったというから、挨拶に……」

 

 ふと、花冠の森姫とローグハンターの目が合う。

 金色の瞳と蒼い瞳が一瞬交差して、蒼い瞳が先に視線を逸らした。

 花冠の森姫は妖精弓手に目を向け、そして問いかけた。

 

「彼は、もしかして……」

 

「そうなのよ、ねえ様。多分だけど、爺様が探してた人」

 

 妖精弓手が言うと、彼女は再びローグハンターに目を向けた。

 じろじろと見られる彼は居心地悪そうに彼女らに背を向け、ゴブリンスレイヤーは黙々と作業を進める。

 そんな二人に向けて、花冠の森姫は優雅に一礼して見せた。

 

「妹がいつもお世話になっております。ご迷惑をお掛けしておりませんか?」

 

「いや、いつも助かっている」

 

「まあ、腕は確かだからな」

 

 ゴブリンスレイヤー、ローグハンターは揃って妖精弓手に目を向けながら言うと、今度は彼女が居心地悪そうに視線を泳がせる。

 ローグハンターは彼女の姿に肩を竦め、視界の端に映るもう一人の森人に目を向けた。

 花冠の森姫の侍人と思われる森人の女性が(ひざまず)いて控えていた。

 右半身を隠すように伸ばされた髪から覗く顔立ちに、ローグハンターは僅かに目を細める。

 そして思い当たったのか、同じく彼女に気づいたゴブリンスレイヤーに目配せした。

 ゴブリンスレイヤーは任せると言わんばかりに鉄兜を縦に揺らし、ローグハンターは了解と口の動きだけで伝えると立ち上がる。

 彼は音もなく森人侍女に近づくと、片膝をついて彼女と視線を合わせた。

 

「約束は果たしたぞ」

 

 侍女が顔をあげ、揺れる瞳で彼を見た。

 ローグハンターはその瞳をまっすぐに見つめ、そしてもう一度告げる。

 

「奴らは、皆殺しにした」

 

 それを聞いた侍女の左目から、ほろりと涙が一筋零れ落ちた。

 髪が揺れて、隠されていた右頬が露になる。葡萄のような腫れの名残は、もうない。

 妖精弓手らと出会い、彼女らと始めて挑んだ仕事。その戦いの過程で助けた、一人の森人。

 そう、彼女はかつて、冒険者であったのだ。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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