昇降機の扉が開くと共に、令嬢剣士の『
「GBRGOBRRRR!!!???」
した瞬間に、彼女の視界にゴブリンが飛び込んできた。
発射と同時にゴブリンを貫いた『稲妻』は、大きく勢いを落としながらも円盤状の屋上を駆け抜け、さらに多くのゴブリンを焼き焦がしていく。
視線を奥へと向ければ、杖を持った隻眼のゴブリンと、白いローブを纏った隻腕のゴブリンが並んでいた。
隻腕のゴブリンは、何かを投げたかのような体勢になつている。
手頃なゴブリンを投げ飛ばしたのだろう。ゴブリンにしては良い反応だ。
「進め!」
ローグハンターはすぐさま指示を出し、冒険者たちは矢の如き陣形でもって数十というゴブリンからなる群れに切り込んだ。
バスタードソードで一匹二匹とすれ違い様に切り伏せ、振り向き様に大上段から降り下ろして頭蓋を砕く。
「イィイイイイヤッ!」
前衛を務める銀髪武闘家は、蹴りと拳をもってゴブリンを屠り、屍で道を作っていく。
その死体から鉈を拝借したゴブリンスレイヤーが、手慣れた手つきでゴブリンの腹を裂いて首を叩き斬る。
前衛のおかげで楽なものだが、後ろから迫るゴブリンに対処するのは彼だ。
「フッ!」
飛びかかってきたゴブリンに向けてバスタードソードを一閃。首を落として即死させ、死体の影から飛び出した左手のアサシンブレードで喉を突き、血に溺れさせる。
妖精弓手は三本の矢を同時に放ってゴブリンを牽制すると、ローグハンターに向けて言う。
「杖持ちよ!」
ゴブリンの喉にバスタードソードを突き立てると手放し、刺したまま蹴り倒す。
足元の手斧を蹴りあげ、無手になった右手で取ると同時にタカの眼を発動し、金色に輝くゴブリンの姿を確認した。
「見えた!」
手斧でゴブリンの頭蓋を砕き、隙を見て飛び出してきたゴブリンの棍棒をアサシンブレードで受け流し、
「狙えるか!」
「厳しい!」
「なら、援護頼む!」
言うや否や手斧を投げ放ち、矢を放とうとしていたゴブリンを屠ると、エアライフルを右手に構える。
武器を捨てた間抜けな冒険者に挑んだゴブリンをエアライフルのストックで殴打し、その流れで構え、引き金を━━。
「させ、るかぁ……!」
「ッ!」
引こうとした瞬間、エアライフルの銃身がずれた。
何の事はない。ローブのゴブリン━━
驚くのも一瞬のうちで、腕が持っていかれなかっただけましと見きりをつけると銃身部分を投げ捨て、残されたストック部分で小鬼暗殺者に殴りかかる。
「シャッ!」
カトラスで殴打を受け流し、返す刃で真一文字に一閃。
上体を逸らして避けたローグハンターは、鼻先を通りすぎた銀光に一瞥くれて、左手のアサシンブレードをアッパーカットの如く鋭く放つ。
小鬼暗殺者は後ろに跳んでそれを避け、着地と同時に背中の吹き矢を構えて放つ。
音もなく放たれたダートを小首を傾げることで避け、横目でシャーマンの位置を確認。
「爆破する!」
炸裂グレネード入れから一発取り出し、無造作に放り投げる。
「爆破、備えろ!」
ゴブリンスレイヤーの言葉への返答代わりに冒険者たちは姿勢を低くし、一拍あけて爆音とゴブリンの断末魔の二つが混ざって天へと響く。
爆破と共に空中に打ち上げられたシャーマンの眼窩に、絶妙なタイミングで放たれた矢が寸分の狂いなく突き刺さった。
小鬼暗殺者は無惨な死を迎えた仲間の姿に嘆くことはなく、僅かに唸り声をあげるのみ。
その仲間の片目を抉り死角を増やしたのが過去の自分であることと、護衛の任を捨ててローグハンターに挑んでしまった自分の未熟さの二つを、何とも驚くことに悔いているのだ。
━━必ず仇を討ち、森人の里を征服する………!
小鬼暗殺者は大きく息を吸い、そして、
「殺せぇええええええええ!」
唾を撒き散らしながら叫んだ。
ゴブリンスレイヤーたちが思わず目を見開いて驚くことを他所に、ゴブリンたちは各々の武器を掲げて吼える。
何のために仲間を集めたのか。
何のために今までやってきたのか。
何のため?そんなものはわかりきっている!
「冒険者は殺す!森人の里を奪う!何よりも━━━」
カトラスの切っ先をローグハンターに向け、怨嗟の念を孕んだ鷹の如き眼光で睨み付ける。
「━━貴様を、
音を発する度にはっきりとしていく言葉に、冒険者たちは僅かに眉を寄せて困惑を隠しきれない様子だ。
それでも彼らを取り囲んだゴブリンは迫ってきている。
思慮するのは後だと割り切り、各々の得物をもって捌いていくが、銀髪武闘家はゴブリンを迎え撃ちつつローグハンターに視線を向けた。
今確かに騎士と呼ばれていたが、彼が騎士だったなんて話は聞いたことがない。
問いかけたいところだが、その彼は小鬼暗殺者との戦闘に突入している。
「りゃっ!」
カトラスが残像を残しながら空を切り、ストックによる殴打が大気を殴り付ける。
大上段から振られたカトラスをストックで受け止め、互いの息がかかるほどの距離で睨みあう。
生臭い小鬼暗殺者の息に眉を寄せながらも、力を抜くことはしない。
小鬼暗殺者はローグハンターの蒼い瞳を睨み付け、唾と共に吐き捨てる。
「二度と、
「悪いが、俺は何度だろうが
競り合いながらローグハンターは小鬼暗殺者の腹に蹴りを放ち、無理やり間合いを開けさせた。
腹を押さえてうずくまった隙を狙い、ストックを両手で構えて踏み込むが、そんな彼に向けて無数の影が飛びかかる。
そう、これは一対一の決闘ではない。大きな群れの中で起こる戦いの一つでしかないのだ。
小さく舌打ちをしながら飛びかかってきたゴブリンの頭蓋をガンストックで叩き潰し、左手のアサシンブレードを一閃。
三匹のゴブリンの喉を纏めて切り裂き、振り抜いた腕の勢いのままに半回転。遠心力を乗せたガンストックを振り抜き、足元に忍び寄っていたゴブリンの脳髄をぶちまけさせる。
数えるのが馬鹿に思える程の量に囲まれているわけだが、彼はゆっくりと息を吐いて重心を落とす。
前後左右、見渡せばそこにいるのはゴブリンのみで、仲間たちからはだいぶ離されてしまっていた。
視線の先に映る仲間たちは、上手くフォローしあって捌いている。それでも援護を頼む余裕はなさそうだ。
「GBR!!」
「フッ!」
槍を構えて突撃してきたゴブリンの槍を受け流し、血に濡れたガンストックで腕を叩き折る。
濁った悲鳴を無視して槍を奪い取り、膝で半ばからへし折った。
穂先を右手、石突を左手に持って身構える。
殺られた仲間を嘲笑っていたゴブリンが左右から同時に飛びかかり、その後ろに続くようにゴブリンが続く。
先頭のゴブリンの降り下ろした鉈を石突側で受け流し、穂先側で喉を貫き、飛び出た側を掴んで貫通させる。
一瞬で血に
ゴキリ……!と骨の砕ける音が僅かに響き、石突側で背後に回っていたゴブリンの腹を殴り付け、うずくまったところで頭を踏み砕く。
脚の裏に感じる不快な感覚を努めて無視し、更に次のゴブリンに備えようとした瞬間。
「!━━━………」
首筋に鋭い痛みが走った。
痛い筈なのに意識が霞み、眠気に襲われて足元が覚束ない。
沈みかける意識の中で、ローグハンターは何が起きたのかを朧気ながら認識した。
実験の一環として、限界まで弱めたスリープダートを使ったことがあるのだが、その時と同じだ。
視界が歪み、耐えきれずに片膝をついた瞬間、ゴブリンが波となって襲いかかった。
棍棒に頭を殴打され地面に転がり、錆びの目立つ剣で斬られ、ナイフで刺され、槍で突かれ、足蹴にされる。
左手のアサシンブレードを振り回して抵抗してみるものの、体に異常がある状態で相手するには数が多すぎる。
ゴブリンたちの隙間から醜悪に笑む小鬼暗殺者の姿を認め、奴が原因なんだろうと消えかけの意識で思慮し、もう自分にはどうしようとないと、重い瞼を閉じかけ、
「キミ………!」
どこからか聞こえた愛する人の声を最後に、彼の意識は暗い闇の中へと落ちていった。
何て事はない。ただ戦いの中で、不意打ちを貰っただけだ。
冒険者たちにとってはよくある、とてもありふれた結末だろう。
『シンクロ率の慢性度を確認中。
「そんな、そんな……!」
ゴブリンの返り血で頬を濡らしたが銀髪武闘家が、引き倒され、ゴブリンに寄って集って殴られているローグハンターの救助に向かおうとするが、
「なりませぬ!ここからではどちらにしろ……」
爪、爪、牙。ゴブリン三匹を纏めて屠った蜥蜴僧侶が、残された尾で銀髪武闘家の止める。
女魔術師はリストブレードでゴブリンを討ち取りつつ、歯を食い縛り、令嬢剣士は涙を堪えて軽銀の突剣を振るう。
ローグハンターに仕込まれた剣術はより実戦に向いたものへと変わり、相手の急所のみを捉えて無駄がない。
だが、それを教えてくれた人物を救えないようでは意味もないだろう。
「ゴブリン、スレイヤーさん……」
落としかけた錫杖を懸命に手繰り寄せた女神官が、弱々しい声で問いかけた。
何かを期待してのだろうが、ゴブリンスレイヤーは押し黙り、目の前のゴブリンを盾で殴り付ける。
「オルクボルグ……」
妖精弓手は黒曜石の短刀で接近を許したゴブリンを牽制し、矢を奪い取ると流れるようにつがえて放つ。
そうしながらも、彼女はゴブリンスレイヤーの手が僅かに震えていることに気づいていた。
鉱人道士は怒り任せに手斧を振り回し、ゴブリンの体を文字通りばらばらに解体する。
顔についた返り血を気にする様子もなく、ゴブリンスレイヤーに視線を向けた。
「そろそろ、時間じゃい……」
「……ああ」
彼らが陣取っているのは天井の端。見ようによっては追い詰められているとも取れる位置だ。
ゴブリンたちは勝ち誇るようにニヤリと笑い、小鬼暗殺者に関しては満足げな表情だ。
銀髪武闘家は膝から崩れ落ち、光の消えた瞳で彼のいる場所を、ゴブリンが団子になっている場所に目を向けた。
今のなお攻撃は続いており、もはや死体さえも残らないだろう。
「嘘……うそ………」
戦場の真っ只中で涙を流す彼女の姿に、ゴブリンたちは猛ったかのように一斉に嘲笑う。
天に、森に、ゴブリンたちの下品な笑い声が響き渡る。
小鬼暗殺者がカトラスを掲げ、その切っ先を冒険者たちに向けた。
「終わらせろ」
頭目からの端的な指示にゴブリンたちは答え、各々の武器を手に構えた。
男は殺し、女は死んだ分より多くの仲間を産ませて、更に群れを大きくする。
自分に屈服し、嘆き、苦しみ、許しをこいて泣き叫ぶ姿を妄想し、ゴブリンたちは熱が勝手に下半身に集まり、興奮しているからか涎を垂らしている。
「GOORG!GBR!GO━━━━」
そんな中、一匹のゴブリンの喉に槍が生えた。
背後から喉を貫かれ、血に溺れて死に絶える。
後ろが急に静かになったとゴブリンが振り返ると、そこにいたのは、
「…………」
虚ろな金色の瞳をゴブリンに向ける一人の亡霊。
纏っていた衣装は体に張り付くだけの襤褸布と化し、見る影もない。
フードは千切れたのか切れたのか、首もとの残骸を残して無くなっている。
額から垂れる血で顔を真っ赤に染め、最後まで暴れていたため滅多打ちにされた左腕は、力なくだらりと下がる。
体には幾重もの切り傷と刺し傷、打撲痕。もはや怪我をしていない場所を探すほうが難しいだろう。
足は絶えず痙攣し、武器を握る右手の指も何本か異様な方向に捻曲がっている。
その悲鳴につられ、小鬼暗殺者をはじめとした他のゴブリンたち、そして冒険者たちがそちらに目を向けた。
皆が一様に驚く中、とあるゴブリンが彼に挑む。
彼を殺せば褒美が貰えると踏んだのだろう。死にかけた男を殺す程度造作もない。
勝利を確信し、助走をつけて飛びかかった瞬間、ローグハンターは武器を落とし、空いた右手でゴブリンの首を掴む。
「GB!GBR━━━」
逃げようとしたばたと暴れるが、ローグハンターは一切気にした様子もなく右手に力を込め、
ゴキャ!
片手で首をへし折った。
首が明々後日の方向に向いたゴブリンの死体を落とし、手にしていた槍を回収。
「はぁぁぁ━━━………」
深く息を吐きながら腰を落として両足を踏ん張り、目を見開くと共に槍を突き出し
ゴブリンたちを次々とはね飛ばし、あるいは貫いて即死させる。
急停止と同時に槍の穂先を床に突き立てると、謎の衝撃波が天井を駆け抜けた。
「
事態を重く見た小鬼暗殺者が仲間たちを掻き分けながら突撃し、ローグハンターに挑む。
仲間を踏み台にして飛び上がり、落下の勢いを乗せ、大上段から降り下ろすが、
「フッ!」
「!??!!」
片手で振るわれた槍で
大きく体勢を崩し、無防備な姿を確認晒す小鬼暗殺者の腹に槍を突き立て、一気に押し込む。
「GBRA!?」
思わずゴブリンとしての声が漏れるが、小鬼暗殺者は槍の柄を斬ることで無理やり勢いを殺し、腹に刺さった穂先を残したままその場を飛び退く。
ローグハンターは残された石突を投げ捨て、右手のアサシンブレードを抜刀。左手のアサシンブレードは、刃が半ばからひしゃげていた。
「GOORG!!」
「GBR!!」
左右から二匹のゴブリンが襲いかかるが、ローグハンターはそれらに一瞥もくれることはない。
右のゴブリンには相手の突撃の勢いを利用して喉を貫き、左のゴブリンには無理やり左腕を振って血を飛ばす。
いきなり視界が真っ赤に染まったゴブリンがパニックを起こして転倒すると、その頭を踏み砕いた。
右手のアサシンブレードを納刀し、突き刺さったゴブリンの死体から抜く。
ローグハンターは幽鬼さながらに体を揺らすと、鈍く金色に輝く瞳を小鬼暗殺者に向け、対する小鬼暗殺者は腹に刺さった槍の穂先を引き抜き、負けじとローグハンターを睨み付ける。
二人に巻き込まれては堪らんと、ゴブリンたちは勝手に道を開け始めた。
ローグハンターは再び重心を落として構え、小鬼暗殺者はカトラスの刃に血払いをくれて切っ先を彼に向ける。
一触即発。二人が何かしらの行動を起こせば、間違いなく勝負が始まる。
「駄目、戻ってきて!」
誰かの声に一切反応を示さず、ローグハンターは駆け出した。
同時に小鬼暗殺者も動きだし、二人は円盤状の屋上の中央で、激突。
「跳べ!」
誰かの指示を無視し、ローグハンターと小鬼暗殺者は互いの得物で切り結ぶ。
残光を残すカトラスの一閃をアサシンブレードで逸らし、
その瞬間、昇降機の扉が弾け、噴き出した濁流がゴブリンと、ローグハンターを吹き飛ばす。
鉄砲水に押し出され宙に放り出されたこれらの姿を、ゴブリンスレイヤーたちは『
地下に『
その結果がこの状況なのだが、彼らにとってはどうでも良いことだ。
銀髪武闘家は目を凝らし、そして彼らを見つけた。
満身創痍のローグハンターと小鬼暗殺者。一人と一匹は掴み合いながら落下し、場所もお構いなしにアサシンブレードで競り合っている。
ローグハンターの突きが小鬼暗殺者を貫き、対する小鬼暗殺者のアサシンブレードが彼の首を掠めた。
凄まじいまでの速度で落ちる堕ちる彼らを見ていることしか出来ない銀髪武闘家に、その五感が無慈悲なまでに彼の命が消えるまでの時間を、地面に叩きつけられるまでの時間を教えてくれる。
━━━迷っている場合じゃない!
銀髪武闘家はぎゅっと拳を握り、仲間たちに振り返る。
「行ってくる!」
そこに反論を挟む余裕も与えずに、銀髪武闘家は『降下』の術の範囲外へと身を投げた。
彼女を捕まえた重力に引きずり込まれながらも、落ちていくローグハンターの元を目指す。
「――!」
風の音に負けないように声を張り上げ、下で戦い続けているローグハンターに向けて、彼の名を叫んだ。
風に巻かれたその声は肝心の彼には届かず、一切反応を示さなかったが、小鬼暗殺者はほんの僅かに彼女に注意を向けた。
ゴブリンとしての本能が、女ばかりを狙う悪質さが、僅かに残っていたのだろう。
感情を廃したローグハンターと、欲望に悪い意味で誠実なゴブリン。
その違いが、勝負を決めた。
小鬼暗殺者がほんの一瞬、銀髪武闘家に注意を向けた瞬間、ローグハンターのアサシンブレードが閃く。
必殺の細き刃は寸分の狂いなく小鬼暗殺者の喉笛を捉え、手首を捻るとそれに合わせて頸椎を断ち切る。
瞬間、小鬼暗殺者のローブの懐に仕舞われていた
空も地面も全てが白く染まった謎の空間。
何故か無傷のローグハンターは、白いローブを纏う男性━━アサシンを抱き抱えていた。
二度目という事で慣れたのか、前回のように驚いている様子はない。
むしろ、先程まで落ちていたというのに、確かに地に足をつけている感覚があることに驚いているほどだ。
アサシンは血を吐き出し、ローグハンターをまっすぐに見つめる。
「私は、また、負けたのか……」
アサシンはそう言うと瞑目し、「いや……」と呟いて言葉を続ける。
「こちらに来た時点で、奴の手のひらの上。既に私は……」
朧気な視線をローグハンターに向け、アサシンは言う。
「貴様は、負けるな。例え騎士だとて、同じ世界から来た者だ……」
彼はそう言うと血を吐き出し、白眼を剥いて息絶える。
「汝の魂が、我らの
そっと目を閉じさせ、その場にアサシンの遺体を置いた。
その瞬間、景色が一変した。
白一色だった世界が暗くなり、何やら森林を思わせる場所となった。
そこを進む二人の人影に気付き、ローグハンターは目を細める。
フードを被った男が、隣を歩く金髪の男に問いかける。
「信条についてはどうだ?」
「言葉にするのは難しい。真実が存在しないのなら、なぜ何を信じる?全てが許されるのなら、なぜ欲望のままに生きない」
「なぜだろうな?」
金髪の男だけでなく自分にも問われている錯覚を覚え、ローグハンターは眉を寄せた。
「何年も前に来た男とは別人のように思える進歩だな、
フードを被った男の言葉に、ローグハンターは目を見開く。
その男の隣に歩く金髪の男。そいつはケンウェイと呼ばれたのか?
その疑問も落ち着かぬ内に、何やら法螺貝の笛の音が響き渡った。
ケンウェイ船長と呼ばれた男はフードの男に向き直り、確かな信念を込めた視線を向けながら言う。
「俺がもたらした災いだ。俺が共に戦う」
「少し善行を積むくらいでは、真のアサシンにはなれんぞ」
「一歩ずつ進むさ」
フードの男の言葉に、ケンウェイは不敵に笑んで返すと、目深くフードを被った。
その姿は、まさにアサシンだ。
━━━ああ、そうか。
走り出したケンウェイの背中を見送り、ローグハンターは何故か笑みを浮かべた。
マスター・ケンウェイの父はアサシンだった。つまり、あの男がそうなのだろう。
聞いていた話とは違う、自分の父にも似た雰囲気の、頼れる背中。
ローグハンターはその背中が森の中に消えていくまで見つめると、苦笑混じりに肩を竦めた。
「俺と同じ疑問を持ちながら、アサシンとして進んだのか……」
進む道を選ぶことさえも出来なかった自分とは違う。
もし、あの男と出会っていたら、自分は何か違ったのだろうか………。
『━━!――!』
どこからか聞こえる誰かの声。
否、この声が誰のものかは
わかりきっている。
愛する人の姿を思い出した瞬間、懐にしまった謎の三角が光輝く。
『エラー発生。シンクロ中断。シンクロ率確認中……………完了。シンクロ率五十パーセント』
何やら不穏な声が聞こえてきたが、今は良いだろう。
瞬間、回りの景色が崩れていき、そして広がるのは━━━。
「キミ!大丈夫!?」
「………大丈夫じゃあないな!」
眼下に広がる密林と、水を噴き出す塔の姿だった。
強烈な重力に引かれながら、血塗れ傷だらけの自身を抱き寄せる銀髪武闘家に視線を向ける。
「パラシュートだ、急げ!」
「うん!」
答えるのとほぼ同時にパラシュートを展開、強烈な衝撃と共に風に捕まり一気に上昇。
支えるもののない小鬼暗殺者の死骸は、重力に引かれるがままに落ちていく。
銀髪武闘家はホッと息を吐き、慣れぬパラシュート降下に悪戦苦闘。
ローグハンターは彼女の姿に冷や冷やしながらも、全身を駆け抜ける激痛に歯を食い縛って耐える。
「お二人とも、ご無事ですか!」
彼らの僅かに上から、令嬢剣士の声が届いた。
風に押し上げられるがまま、二人は『降下』の術の範囲内へ。
銀髪武闘家はそっと空中に足をつけると、役目を終えたパラシュートを回収し、畳んで雑嚢へと押し込んだ。
ローグハンターはどかりと座り、息を整えると仲間たちに目を向ける。
「全員無事か。上手くいったな」
「「「どこがですか!」」」
「どこがよ!」
女神官、令嬢剣士、女魔術師、妖精弓手の異口同音に、ローグハンターは肩を竦める。
蜥蜴僧侶はそっとローグハンターの背中に手を触れ、何やら詠唱。鉱人道士はやれやれと首を横に振る。
そしてゴブリンスレイヤーは、
「無事、だな……」
珍しく不安げな声で確認を取った。
「ああ、何故かな」
ローグハンターは苦笑混じりにそう返し、ひしゃげた左手のアサシンブレードに目を向ける。
「……仕方ないか」
「治療中ゆえ、あまり動かないでくだされ」
「ああ」
ローグハンターは大きく息を吐き、視線を銀髪武闘家に向けた。
彼女は視線を泳がせ、何かを堪えているのかうずうずと身動ぎしている。
「まあ、帰ってからだな」
「……うん」
何をするかはともかくとして、今の彼は妙に元気そうだが文字通りの瀕死だ。
動くことも許されず、手持ち無沙汰の彼は、ふと視線を他所に向けた。
同時に感嘆の息を漏らし、今日一番の笑顔を浮かべる。
「おまえら、虹だ」
塔から噴き出した水が雨となり、空に虹を掛ける。
冒険者たちもつられるようにそちらに目を向け、各々反応を示す。
天に掛かる虹は彼らの勝利を祝福するように、死んでいった者たちを弔うかのように、キラキラと輝いて見えた━━━。
神様たちは珍しくその手を止めて、目を真ん丸く見開いていました。
『今何が起きたの?』とか『え?うそ~』とか、何やら騒がしい様子です。
『真実』の神様は目を閉じて、先ほど起きたことを思い出します。
神様たちは神妙な面持ちで顔を見合せ、うんうんと唸っています。
すると、ある神様が言いました。
『今回ばかりは、何かおかしくない?』
他の神様たちも続いて『そうだそうだ』と続き、再びフードの彼に視線を向けます。
彼らの背後にいる、妖しく微笑む人影に気づくことなく━━━。
誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。
期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー
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見たい!
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別にいいです……。