SLAYER'S CREED   作:EGO

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前話のログハン台詞、「我が名はノーマン!」からの下りを読み直して、某紅魔族の爆裂娘が頭を過ってしまった作者です。



Memory04 決戦目前

 追撃するなら急いだ方がいい。

 冒険者たちは夜を待たずに集落を出発し、雪男の残した痕跡を追って山に踏み入ると決めたのだ。

 見習聖女が中心となって雪男二人を鎮魂し、それを終えたら即刻出立。

 集落を出る間際に「仲間たちの敵を取る!」とやる気の白兎猟兵も合流し、都合七名による雪山登山。

 短い間とはいえしっかりとした休息を挟んだ冒険者たちの足取りは軽く、加えて雪男が慌てて逃げた為か木々が薙ぎ倒され、地面も(なら)されているため歩きやすく、行きに比べれば疲労もしにくい。

 さらに言うのであれば山を熟知した白兎猟兵もいるのだ。遭難する可能性も皆無だろう。

 全てが冒険者たちにとっては好都合であり、ある意味で彼等が運を掴んだ証拠でもあった。

 雪男の残してくれた道を進みつつ、ローグハンターは前をいく白兎猟兵に問いかける。

 

「奴等の巣の場所に目星はついているか」

 

「うん。むしろあれさ」

 

 彼の問いかけに返ってきたのは、あまりにも意外な解答だった。

 白兎猟兵が指差した先には、雪で白く染まった山肌に黒い点が浮かんでいるのだ。

 よくよく目を凝らせばそれは山肌に穿たれた洞窟であり、雪男の足跡もそこに続いているのが一目でわかる。

 

「そう言うのは早く言ってくれ」

 

 ローグハンターはピストルの事を告げなかった自分の事を棚にあげながら言うと、冒険者たちに「集合だ」と告げて近くの岩影を手で示す。

 彼の指示に否を言う者はおらず、全員が洞窟の方を警戒しながら岩影へと入り込んだ。

 洞窟からは見えぬ死角。万が一見張りが来ても、まあ見つかることはないだろう。

 岩影から顔を覗かせながら、ローグハンターは誰に言うわけでもなくぶつぶつと呟く。

 

「相手の情報が何もないまま洞窟に入りたくはない。氷の魔女とかいう奴の顔も見ておきたいからな」

 

「良し」と一人納得して頷くと、彼は一度顔を引っ込めて冒険者たちに告げた。

 

「これから偵察に出る。お前らはここで待機、兎人は──」

 

「ぼくも行く!」

 

「──らしいから、一緒に来てくれ」

 

 フン!と鼻息を荒くしてやる気を見せる白兎猟兵に苦笑を漏らし、ローグハンターはこちらを見つめる銀髪武闘家の頬に手をやった。

 

「洞窟に入って十五分で戻らなかったら、こいつらを連れて山を降りろ。無事に降りられたなら──」

 

「『ギルドに報告して動いて貰え』でしょ?」

 

 彼の手に自分の手を重ねつつ言うと、ローグハンターは「ああ」と頷き、惜しむように彼女の頬から手を離す。

 この会話も何度目だろうかと自問し、また行えると良いがと脳裏で思う。

 随分と楽観的きなったとフッと自嘲し、覚悟を決めると共に岩影から歩み出る。

 彼の後ろに白兎猟兵が続き、顔を見合わせて頷きあった。

 同時にどちらからという訳でもなく走り出し、雪に点々と続く足跡を残しながら洞窟へと迫っていく。

 敵の見張りが出てこない事を願いつつ、その為にも最短距離で。

 走りなれた白兎猟兵の速さもさることだが、只人でありながら遅れることなく追従するローグハンターは、果たして本当に只人なのか。

 二人が洞窟の入り口にたどり着いたのは、ほんの三分足らず。まさに脱兎が如く傾斜のある雪原を駆け抜けたのだ。

 二人の呼吸は僅かに荒れてはあるものの、たかが数秒で落ち着きを取り戻す。

 

「それじゃあ、入るとするか」

 

「おし!」

 

 ローグハンターはそう言いながら瞬き一つでタカの眼を発動し、やる気充分の白兎猟兵が後ろに続く。

 二人は出会ってまで一日として経っていないが、ある程度の信頼を互いに寄せていた。あるいはそう振る舞っているだけかもしれないが、形だけでも姿勢を見せることは大切だ。

 信じて貰いたいのなら、まず相手を信じること。

 ローグハンターの心に刻まれたその言葉は、こうした形で活かされていた。

 こうして最低限の信頼を寄せているからこそ、ローグハンターは兎人との行動を良しとした。

 尤も、銀髪武闘家を除いた他の面々に斥候としての行動が出来るかが不安だったことも本音ではある。

 彼は「課題は多いな」とぼそりと漏らし、獣が口を開けたように広がる闇の中へと一歩を踏み出す。

 洞窟に入ってまず感じたのは、鼓膜を殴り付ける太鼓の音色だった。

 技術もないもない、ただ力任せに太鼓を叩き鳴らす不快な音色。

 そこに雪男たちの下手な歌が合わされば、それだけで相手に痛痒(ダメージ)を与えられそうなものだ。

 だがローグハンターは一切構うことなく、むしろ足音が消えると肯定的に考えることにした。

 タカの眼のお陰で一切光源がなくとも道は把握出来るし、罠があっても即刻気付ける。足音といういつもなら特に気を遣うものを、今回ばかりは気にしないで良いというのは楽で良い。

 足元には砂利でも敷き詰められているのか、踏み出す度に乾いた音をたててはいるが、太鼓の音色と雪男たちの歌が大きすぎてローグハンターの耳にすら届かない。

 音の次に感じたのは強烈な異臭だった。

 大型の獣、その血の臭い。それも腐りかけたそれの臭いだ。

 よく動物を仕留め、毛皮を剥いでいたから彼だからこそわかる、ゴブリンの巣や盗賊の寝倉とはほど遠い臭い。

 一つ言えることは、おそらく雪男たちが仕留めた動物たちに敬意を示していないこと。腐った臭いがするという事は、残飯を食すことなく残しているからに他ならないのだ。

 そういう意味でもローグハンターは不機嫌そうに眉を寄せ、踏み出す一歩に力が入る。

 

「誰でもないのに、アニキがやられたぁ!!!」

 

 そんな彼の思考を冷やすように、がらがら声が洞窟を駆け抜ける。

 隣で白兎猟兵がびくりと体を強張らせたが、すぐに首を振って「大丈夫です」と告げてくる。

 ローグハンターは人差し指を口の前に持っていき、『静かに』と口の動きだけで伝えると、白兎猟兵は小さく頷く。

 そのまま二人は無言で手頃な物影に入り込み、気付かれぬようにと端に積もった雪を口に含む。

 白い息を本来の無色透明のものへと戻し、そっと物影から顔を出し、腰を低く、それこそ這うようにして前進していく。

 

「馬鹿をお言いでないよ!」

 

 逃げ帰った雪男の声に続いたのは、きんきんと頭に響く高い声だった。声の主は進行方向にある広間から発せられたもの。

 二人は通路の影から広間を覗きこみ、様子を探る。

 中央には煌々と燃える火が焚かれ、タカの眼を使わずとも中の様子を見ることが出来た。

 

「誰でもないのにやられたんなら、そりゃ自分でやったって事だろう?」

 

 雪男たちを従えているのは、端的に表すなら白い女だった。

 肌も白ければ髪も白く、身に纏う薄布も白く、装飾品でさえ白い。

 唯一色を持つのは、爛々と輝く血のように赤い瞳だけ。

 広間中央の焚き火は暖を取るものではなく光源として、あるいは彼女の白さを強調する黒い影を生み出す為に利用するためだろう。

 一目見ただけで男なら惚れるであろう美貌の持ち主だが、生憎彼は例外だった。

 

 ──あいつに比べれば微妙だな……。

 

 ローグハンターは顎に手をやって下らない──本人的には大真面目な──事を考え、すぐに思考の片隅に追いやった。

 そんな彼から論外判定された彼女がいるのは、雪男たちに囲まれた一枚岩の壇上だ。

 一目見ただけで頭目とわかる位置にいるのは、彼としてもありがたい。

 タカの眼を使わずとも暗殺目標がわかるのはとても楽だ。

 だが、彼は念のためとタカの眼を発動し、全く注視していなかったものに注目を集めた。

 雪男たちが叩き鳴らす太鼓の一つが、魔術を示す緑色に染まったのだ。それも他の太鼓は認識するまでもないと黒くなったにも関わらず。

 ローグハンターは目を細めて更に注視するが、一体何なのかはわからない。ただ他のものに比べて装飾が派手に感じる程度の代物だ。

 だが、雪男が持っていて良いものではない事は確かだと言える。

 

「しっかりおしよ!せっかく春の精を眠らせて、ウサ公どもからアレを奪ったんだ!」

 

 ──アレとはなんだ。

 

 刹那的な思考をすぐさま捨て去り、耳に意識を傾ける。

 今は盗み聞きの時間だ。情報の整理は後で良い。

 

「けんど、(あね)さん。あの鬼が言うんは、ホントなんかね」

 

 一匹の雪男が何かの骨をしゃぶりながら言うと、白い女は「どうだかね」と首を振った。

 その上品な仕草は貴族を思わせるものだが、ローグハンターにはどうでもいい事だ。

 

「あいつはあたしらを利用するだけ利用しようとしているだけだろうが、それはあたしらも同じことさ」

 

 白い女はそう言うと、口許に薄く冷たい笑みを浮かべた。

 

「あんたらも力を付けておきな!あの鬼どもをぶちのめすんだからね!」

 

『おぉーっ!!!』

 

「その為にも太鼓を鳴らしな!春が来たら一大事だ!」

 

「うっす!」

 

 やる気をみなぎらせた雪男は再び太鼓を叩き始め、その音色がローグハンターと白兎猟兵の鼓膜を殴り付ける。

 圧力を伴う轟音。まるでそこから冷気が放たれているかのような悪寒すらする。

 

 ──軽い気持ちで後輩からの頼みを受けてしまったが、どうやら事は思いの外大きいようだ。

 

 ローグハンターは小さくため息を漏らし、何やらプルプルと震えている白兎猟兵の肩を叩く。

 

「飛び出して行きたい気持ちはわかるが落ち着け。ここは一度──」

 

 そこまで口にして、ふと違和感を覚えた。

 焚き火に照らされて壁一面に黒い影が躍り狂っているが、それはどれも雪男のものばかり。

 最も目立つ場所にいる白い女の影が、全く壁に映っていないのだ。

 ローグハンターは反射的にタカの眼を再発動し、白い女を注視する。

 雪男を含めた大量の赤い影が浮かび上がるが、白い女のものだけが禍々しいまでの迫力を伴っている。

 氷の魔女と聞いていたが、あれは人間ではない。

 彼はそこまで判断すると、乱暴に白兎猟兵の腕を掴んで歩き出す。

 

「え、わ、ど、どうしたんですか?」

 

「質問は後だ。対策を練らなければ」

 

 ローグハンターは早口でそう告げ、どっとため息を吐いた。

 下手をすれば軍が動くような事態になってきている。

 

「至高神よ。流石に恨むぞ」

 

 洞窟の中から妙に試練を強いてくる神への愚痴をこぼし、足早と洞窟を後にする。

 これならゴブリンやならず者(ローグ)を狩っていた方が気が楽だ。

 

 

 

 

 

「氷の魔女はよくわからないけど、アレっていうのは、たぶん矢の事だよ」

 

 外で待機していた冒険者たちと合流を果たした白兎猟兵が、開口一番にそう告げた。

 

「『や』とは、この矢の事で良いのか?」

 

 ローグハンターが背中の矢筒に手をやりながら問うと、白兎猟兵は「父さんの持っていた、特別な矢です」とぽつりと漏らす。

 ふむと顎に手をやって小さく唸ると、「なるほど」と小さく呟く。

 錆びた天秤剣の前で見た幻影は、それを渡していた場面なのだろう。

 それを手に白兎猟兵の父はあの魔女と雪男に挑み、敗れた。

 勇敢だったと称えるべきか、無謀だったと落胆するべきか。

 ともかく、死んだ者を責めても仕方がない。今はその矢が必要だ。

 新米武闘家が洞窟を警戒しつつ、神妙な面持ちで言う。

 

「その矢はもう壊されているのでは……」

 

「いや、どうだろうな」

 

 彼女の言葉を即断すると、忌々しいものを思い出すかのように眉を寄せながら言う。

 

「恐怖の対象を討つには相手を知り尽くす事が先決だ。無知ほど恐ろしいものはない」

 

「つまり、どういうことです?」

 

 少々遠回しなローグハンターの物言いに新米武闘家は首を傾げ、「簡単に言うとだな」と前置きして言葉を変えた。

 

「魔女を自称するなら、まず何を恐れていたかを徹底的に調べてから封じる筈だ。だが、見た限りでそんな痕跡はなかった」

 

「じゃあ、こいつの父ちゃんの矢は残ってるんですね!」

 

 本当にローグハンターの言葉の意味をわかっているのかは定かではないが、新米剣士は白兎猟兵の肩を抱きながら身を乗り出した。

 

「おそらく。まあ、最悪駄目なら──」

 

 ローグハンターは肩を竦めてそう言うと、見習聖女に目を向けてフッと小さく笑んで見せた。

 

「──至高神の『聖なる鉄槌(ホーリースマイト)』に期待しよう」

 

「うぅ……」

 

 彼からの期待に見習聖女は居心地悪そうに身動ぎし、銀髪武闘家も「あんまりプレッシャーかけないの」と彼の額に指で小突く。

 見かけの割にパン!と見事な炸裂音を立てたが、ローグハンターは気にした様子はない。

 額が赤くなり、新米たちにはそこから煙が出ている錯覚さえ覚えるほどだが、ローグハンターは努めて気にしないようにしていた。

 

「……とにかく、どうやって見つけるかだな」

 

 ローグハンターは目を細めながら言うと、洞窟を睨み付けた。

 入り口から広間までは一本道だが、その先の道は複雑に分岐していることだろう。雪男たちの居住地なら尚更だ。

 そんな蟻の巣に身一つで飛び込み、雪男と氷の魔女と戦闘しながら矢を探し回るなど、それこそ至難の技だ。

 雪男はどうにかするとして、氷の魔女は自分が受け持つ他ない。

 新米たちと白兎猟兵、銀髪武闘家だけで洞窟探索が出来るかと問われれば、おそらく無理だろう。白兎猟兵はともかく、只人の彼らでは夜目が利かない。

 

「魔女、探し物──あ!」

 

 不意に何やら考え込んでいた新米戦士が声をあげた。

 冒険者たちの視線が一斉に向けられるが、彼は構うことなく見習聖女に問いかける。

 

「おまえ、あれ持ってるか!」

 

「あれって、どれよ」

 

「あれだよ。えーっと、魔女さんから貰った蝋燭!」

 

「……あれか!」

 

 何やら二人で盛り上がる二人を他所に、ローグハンターは「少し声を落とせ」と告げて冷たい視線を二人に向けた。

 相手の拠点の真ん前で大声で話し合うなど、見つけてくれと言っているようなものだ。

 二人は「「ごめんなさい」」と言いつつも急いで鞄に飛び付き、中身を引っ掻き回して何かを探し始める。

 時折飛んで来る一見冒険には不必要な道具を叩き落としつつ、銀髪武闘家は新米剣士と新米武闘家の二人に問いかけた。

 

「ところでその話題の蝋燭って?」

 

「失せ物探しの蝋燭です。その、前にこの人が下水道で武器を無くしまして……」

 

「その時相談した魔女さんに貰った道具があったですよ。それがその蝋燭です」

 

「武器を無くしたって、お前」

 

 毎度武器をぶん投げていた事を棚にあげ、ローグハンターは呆れたように新米剣士を睨み付けた。

 その視線に気付いて「うっ!」と狼狽えるが、すぐさま「あった!」と見習聖女の声が割り込んできた。

 視線を向けてみれば、彼女の手にはずいぶんとちびっちゃくなった蝋燭が握られている。

 

「使い切らないで良かった……」

 

「貰い物は大事にしてみるもんだな……」

 

 苦労して見つけた見習聖女と新米戦士の二人は額の汗を拭い、ローグハンターと銀髪武闘家に頷いて見せた。

 相手を殺す方法もわかり、必用な道具を見つける手筈も整った。

 ならば、迷う理由は何もない。ここで立ち止まり、矢が破棄される可能性が高まるのなら──、

 

「策は立ててある。行くぞ」

 

 矢筒に納められた鏃が一際ゴツい矢を確認し、ピストルとライフルの火の秘薬の詰め直す。何かの拍子に湿っていたとしても、これなら問題なく撃てるだろう。

 彼の言葉と行動を合図に、冒険者たちも用意を進める。

 銀髪武闘家はセスタスの具合を確かめ、脚甲の留め具を今一度絞め直す。

 その横では新米剣士が革製の兜を被り、籠手と鎧の留め具を締め上げ、新米武闘家は体を動かして筋肉を解し、胸当てとすね当ての具合を確かめる。

 さらにその隣では、

 

解毒薬(アンチドーテ)!」

 

「持った!」

 

「傷薬!」

 

「ついでに軟膏と薬草、持った!」

 

「灯り!」

 

「ランタンと油と松明、物探しの蝋燭、持った!」

 

「地図!」

 

「──は、なくない?ないですよね?」

 

「ああ。地図作り(マッピング)はしていない」

 

「なら、大丈夫!武器と防具!」

 

片手半剣(チェストバスター)よし、ローチキラーよし、ナイフ、ピストルよし!」

 

「……武器に名前を付けたのか」

 

「うす!鎧と兜も問題なし!お前も見るから回れって」

 

「はいはいっと」

 

 見習聖女はその場でくるくる回り、新米戦士に法衣を確認してもらう。

 新米たちの装備確認に時折横槍を入れつつも、ローグハンターは苦笑を漏らした。

 防具を新調した銀髪武闘家が、目をキラキラさせながらあんな事をしてきた思い出がある。

 冒険者の新人時代とは得てしてこんなものなのか。

 苦笑するローグハンターの隣で、銀髪武闘家も懐かしむように──しかしどこか残念そうに──柔らかな笑みを浮かべた。

 

「キミは昔から装備変えなかったから、あんな事しなかったよね……」

 

「したかったのか?」

 

 ローグハンターが腕を組んで肩を竦めると、彼女は「ううん」と首を横に振った。

 

「そう思うとだいぶ変わったよねって話。装備的な意味でね」

 

「まあ、そうだな」

 

 ローグハンターは曖昧に返すと、改めて自分の装備を眺めた。

 森人の里で装備を一新するまでは、父から譲って貰ったテンプル騎士団の制服を纏い、赤十条を背負っていた。

 だが、今はどうだ。遥か昔のご先祖(アルタイル)が残した防具を纏い、アサシンの紋章を背負い、仮とはいえアサシンの一員となっている。

 その変化の中心にいたのは、いつだって彼女だ。彼女がいたからこそ今の自分(ローグハンター)がおり、アサシンとして振る舞った自分がいる。

 

「変わったのは、何も装備だけじゃあないが」

 

「それは勿論。昔に比べれば私を思ってるのか、だいぶわかってくれるからね」

 

「それでもまだ『だいぶ』なのか……」

 

「そりゃそうですよ」

 

 何とも手厳しい銀髪武闘家の言葉に項垂れると、彼女はしてやったりと笑みを浮かべた。

 相変わらず彼女に勝つのは難しそうだとため息を吐き、何やら言いたげな白兎猟兵へと目を向ける。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、良いのかなって思いまして」

 

 白兎猟兵が自前の雑嚢を背負いながら言うと、ローグハンターは首を傾げた。

 

「何か不満でもあるのか?」

 

「ぼくらとしては何にも言うことはないですよ?ただ、ぼくら何かの為に命張ってもらうのが、ちょっとむず痒くてですね」

 

「あはは……」と乾いた笑みを浮かべると、それこそローグハンターは首を傾げて仲間たちに視線を配った。

 銀髪武闘家は肩を回して苦笑を浮かべ、新米剣士と新米武闘家の二人は装備の点検の手を止め、新米戦士と見習聖女の二人は散らかした鞄の中身を拾い集める手を止めた。

 

「確かに、俺たちが救おうとしているのはちっぽけな兎人の村かもしれない。別に救わなくとも、世界は何の問題もなく回るだろう」

 

 ローグハンターはそう断言すると、俯いていた白兎猟兵の肩を掴み、その顔を覗きこんだ。

 宝石のように輝く金色の瞳を真正面から見据えた白兎猟兵の頬が僅かに朱色に染まるが、知ったことかと彼は言う。

 

「それでも助けるさ。あの不断草のスープは美味かったからな」

 

「うんうん。まだ飲み足りないよね」

 

 ローグハンターの言葉に銀髪武闘家がうんうん頷きながら続くと、新米たちに目を向け、にこりと笑って見せた。

 母親のようや慈悲に溢れながら、戦士の力強さを併せ持った彼女だからこそ出来る笑みだ。

 彼女はその笑みを浮かべつつ、愛する娘を宥めるように白兎猟兵の頭を撫でた。

 白い毛皮は触り心地がよく、ピンと立っていた長耳は力が抜けたように垂れていく。

 

「私たちは冒険者。困っている人がいるのならどこまでもってね」

 

 そう、彼女らは冒険者。世界の命運とは何の関係もない場所で、世界の命運とは直接関係のないだろうちっぽけな命を救い続けるもの好きなのだ。

 

 

 

 

 




誤字脱字、アドバイス、感想など、よろしくお願いします。

期限は『Extra Sequence01 いと慈悲深き地母神よ』が完結してから+1週間です。随分と今更な事を聞きますか、ダンまちとゴブリンスレイヤーコラボイベント『Dungeon&Goblins』にログハン一党をぶち込んだものをーー

  • 見たい!
  • 別にいいです……。
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