Ace Combat side story of 3 - Emotional Sphere -   作:びわ之樹

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《航空部隊要員各員へ緊急通達。昨晩よりラティオ行政区内のGRDF前線基地に集結していた航空部隊が、本日0900より出撃を開始し、当基地方向へ向かいつつあるとの情報が入った。既に敵の第一次攻撃と思しき奇襲により、前線の防空レーダー施設は機能停止状態にある。
ル・トルゥーア基地は、これより全力を以て邀撃に当たる。制空戦闘が可能な航空部隊は全機発進し、敵編隊予測進路上にて邀撃に当たれ。攻撃機は後方へ空中退避し、状況の変化に備えよ》


第4話 狼煙

 水を打ったような緊張が、アスファルトに反響して澄み渡った空を染める。

 時折基地内放送を揺らす声、走り回る自走式対空砲の駆動音、そして地鳴りのように低く響くサイレン。断続的な機械音の単奏は、ひっきりなしに航空機が離発着し、声が飛び交う普段と比べれば騒音と評するほどのものではない。アスファルトを踏む自らの足音が明瞭に聞こえるなど、真昼間の航空基地にはあるまじき事態であった。

 道すがらの庇の奥、常ならば金属仕掛けの翼がいくつも並ぶ格納庫は、どこもかしこも空、空、空。がらんどうと化したコンクリートの箱の中では、つい数十分前の喧騒から解放された整備員たちが、つかの間の静寂を貪るようにコーヒー片手に椅子へともたれかかっている。額に光る球粒の汗は、彼らが早朝から気を張って働いてきた証左に違いない。

 

 サピン南部、流刑地の綽名が提がるル・トルゥーアの地。狂騒と深沈の間で、この地は晴天の昼前らしからぬ奇妙な静寂の中にあった。

 

「よう。おやっさん、いるか?」

「おう。なんじゃレフ、お前さんまだ基地におったのか。てっきり攻撃隊の連中と後方に逃げたもんかと」

 

 格納庫が並ぶ基地の端のさらに端、まさに僻地の果てとでも言うべき一角。がらくたの山の中におやっさんの姿を認め、レフはまるで行きつけの飲み屋の暖簾をくぐるように庇の中へと入っていった。普段ならば駐機している自らのR-101FR『デルフィナスE』やスフィアのXR-99EC『ヴェパール』の姿はそこになく、代わりに2機のR-101が静かに翼を休めている。整備員は他の格納庫に駆り出されているのか、庫内にはおやっさんの他に整備要員の姿は見当たらない。

 

 理由はいわずもがな、明朝から発令された警戒態勢によるものである。

 先日レフも携わったように、サピン方面のニューコム勢力はここしばらくラティオ方面のゼネラルリソース陣営に対し揺さぶりを強めている。未遂にこそ終わったものの、キャンサー隊が行ったゼネラルの輸送列車襲撃や強行偵察に始まり、フィネッタ港を出港する輸送船への威嚇やGRDF管制下の都市上空での飛行行動など、挑発とも取れるNEUの行動は多岐に渡って行われていた。経済的領土面積で圧倒的に劣るニューコム陣営としては、比較的重要性が低く、したがって戦力も薄いラティオ方面こそが切り崩しの階となると考えたためである。ニューコム上層部によるその決断は、激戦区であるベルカ方面の戦況が芳しくないという噂と、おそらく無関係ではないだろう。

 

 当然ながら、GRDFもこの事態を座視しない。ファト、ウスティオといった各地域から一部の部隊を抽出し、戦力を集結して反撃に撃って出たのである。ニューコムの挑発行為に対する報復としてメディアに大々的に打ち出し、こちらを圧倒的に上回る数で呑み込みにかかってきたのだ。頼みの綱である仲裁役のUPEOはもとよりゼネラルの走狗に過ぎず、おまけに担当すべきオーシア方面本部はサピンの端まで目が届いていない。

 事ここに至り、NEUは総力を挙げた迎撃戦を決断。ル・トルゥーアに居を置く戦闘機隊の全てを迎撃に割き、真正面から対抗する姿勢を示したのである。

 もっとも、NEUとしてはそもそもの目的がベルカ方面の負担軽減であり、真正面からの対抗を謳う割には増援のぞの字すら出さず、ただただ現場への丸投げに終始していた。要はゼネラルが予備戦力の一部をサピン方面へ回した時点で作戦は成功したと言って良く、いわばサピン――就中ル・トルゥーアは体のいい囮にされたという訳である。当初は大規模な本部からの増援を当てにしていたル・トルゥーアの基地司令も、遅ればせながら自らの立ち位置に気づいたようで、今は近傍の基地に顔面蒼白になりながら助けを請うている状況らしい。

 

 パイロットもスタッフも、総力を挙げた迎撃戦。その最中にあって、当のパイロットであるレフ一人がこうして暇を持て余している理由はといえば、他でもない。

 

「謹慎中の奴に、わざわざ丁寧にそんな指示出してくれるかよ。上はいっそ襲撃で死ねとでも思ってるんだろうさ」

「アホ抜かせ。ツナギ姿で基地ブラブラする謹慎者がおるか」

「おやっさんこそ何を見てるんだよ。こうして立派に慎ましく勤めてるってのに。無断で『デルフィナス』引っ張り出して自主的訓練しないだけ褒めて欲しいくらいだけどな」

 

 人を食った言い分を言い放つレフに、おやっさんもやれやれと言わんばかりに肩を竦める。口では謹慎と言いながら、レフの姿と態度は確かに本来の意味のそれとはどう見ても合致していない。

 レフが今こうして基地に残されている理由とは、すなわちそれ――先日の輸送列車襲撃任務の後に、司令部より謹慎を言い渡されたためである。

 曰く、任務を達成できなかったばかりか、機体に細工を施して故意に任務を放棄した疑いあり。始末書を提出の上、疑義を検証ののち処分を決める、とのこと。実際の状況報告の際に、一部始終を聞いていたフォルカーが口添えをしたのも効いたらしい。カールやおやっさん、スフィアに至るまで知らぬ存ぜぬを言い張った――もっともスフィアは本当に知らなかったのだろうが――ために決定的な証拠こそ掴まれなかったものの、怠慢の疑いありとして一週間の謹慎という処分に落ち着いたのであった。

 

 謹慎ということもあり、レフはここ数日、定期任務の領空巡回を始め全ての飛行任務から解かれていた。今回のような大規模任務でも例外ではなく、レフのR-101FRにはレフに代わりカールが登場。例によって後席にフォルカーを乗せ、今はスフィアとともに邀撃戦を行っている筈であった。かくして現在のル・トルゥーアには、暇を持て余したパイロットが一人と、カールのR-101、そしてレフが元々使用していた青い尾翼のR-101だけが残る有様となっていた、という訳である。

 

 もっとも先の通り、当の本人は謹慎など慣れっこであり、今更反省するような純真さなど微塵も持ち合わせてはいない。当然のように執務室をするりと抜け出し、勝手知ったる顔でガラクタ山の冷蔵庫に向かう様こそ、その心根の証左だろう。

 

「いつものチョコミント貰うぜ。代金は上に置いとく」

「あいよ。何ならワインやウイスキー、ウォッカもあるがどうかね」

「おいおい冗談だろ、いくら俺でも日中から酒はやらねえよ。…にしても何だな。本当になんでもあるんだなココ」

 

 冗談めかして笑うおやっさんに、レフも呆れ半分に応じて見せる。冷蔵庫からプラスチック製のカップを取り出し、ポケットから取り出した小銭を冷蔵庫の上に置いて、まじまじと見渡すは周囲。冷蔵庫の上はもちろんのこと、側にある古びた事務机の上にまで、よく見れば酒の瓶が乱雑に置いてある。どこから手に入れて来たのやら、ボロボロのヘルメットや雑誌類、工具に手袋が転がる机の上。その中にワインの瓶を見つけ、レフは何気なしにそれを手に取りラベルをまじまじと眺めた。サピン北部、アルロン地方産の赤ワイン。醸造年は1970年、未開封であるものの温度管理も保存状態もお世辞にもいいとは言い難い。ずっとここに置かれていたとしたら、むしろ劣悪の部類である。

 

「あ、こら。そのワインは駄目だ。ワシのとっておきだからな」

「とっておきにしちゃえらくラフな管理だな…。だいたい1970年物って確かあんまり上等じゃない奴だろ?この前テレビでやってたぜ。俺はこれよりブランデーの方がいい。そしてブランデーよりブランデーケーキの方がいい」

「糖尿になってのたうち回れ甘党め。ちくしょうめテレビなんぞに踊らされおって、ワシ的にはとっておきなんだからいいじゃろうが」

「へいへい。ラジオ借りるぜおやっさん」

 

 『デルフィナス』の下に潜り込みながら、不満と抗議の声を上げるおやっさん。向かうそれらを受け流しながら、レフは愛飲のチョコミントドリンクを片手にソファに腰かけ、テーブルの上に携帯型ラジオを置いた。外付けにいくつか部品が付け足され幾分大柄になったそれは、暇にかまけておやっさんが改造した広い受信域を持つ代物である。雑音交じりながらもまずまず明瞭と言っていい音声が入ってくるまでに、そう時間はかからなかった。

 

《カプリコン隊、目標群カクタスに向かう!距離2200、F-35ARが4機!》

《タウルス3、脱出します!》

《タウルス4、3の位置に入れ。第3波接近中、方位075!サジタリウス隊続け!》

《低空より敵攻撃機侵入!…くそっ!手が足りない!》

 

 無線を介して伝わる声は、いずれも切迫した色を帯びている。その内容から察するに、上回る敵の機数に邀撃中の部隊は手を焼いているようだった。

 ル・トルゥーア基地の所属機は、固定翼機がしめて22機。そのうち6機は制空戦に向かない攻撃機R-201『アステロゾア』であり、現在はヘリともども戦場から遠い位置に空中退避中である。この格納庫にR-101が2機残っているところから差し引きして、現在邀撃に当たっているのは14機になる計算であった。

 問題はその内訳である。14機のうち2機はカールとスフィアの機体になる訳だが、残る12機のうち、最新鋭であるR-101『デルフィナス』はわずか4機しか含まれていないのだ。残る8機は2010年代後半に設計されたR-099『フォルネウス』であり、いわばGRDFが運用する第5世代機と比べ圧倒的な優位がある訳では無い。敵の数は定かではないが、切り札たる『デルフィナス』の数が限られる以上、ニューコム側が苦戦するのも無理は無かった。頼みは近傍の基地に配備されている『デルフィナス』部隊だが、それらにしてもどこまで抽出できるかどうか。

 

「どんな様子かね?」

「よくない感じだな、聞いた感じだとだいぶ押し込まれて来てる。こりゃ抜かれるのも時間の問題だぞ。カールの奴、無事だといいが」

「おや、スフィアの事はいいのかねお目付けさん」

「誰がお目付けだよ誰が。機械なんだし、球コロはどうせ転がってでも帰ってくるだろ」

「…『機械』は、まだ信用できんかね」

「………まあな」

 

 躊躇いがちの声を、無線の雑音がかき消していく。時折混じる爆音、警報、そしてパイロットの焦燥した息遣い。遠い空から落ちて来るその音は、機械を通してなおあまりにも生々しい。

 

 『デルフィナス』の下から這い出し、上半身をもたげたおやっさんが何かを言おうと口を開く。

 ――瞬間、ぴくり、と耳に覚えた違和感。

 目を険しく細めたおやっさんもそれに気づいたらしく、言葉を紡ぐことなくその口は閉じられた。

 

「……警報の音が変わったな」

「警戒レベルが引き上がったようじゃな。おおかた一部の敵機がすり抜けて来たってところか」

「何やってんだ、ったく。…おやっさん、『デルフィナス』今から上げられるか?1機、すぐに」

「もう準備は終わっとる、こうなると思ってたからな。燃料は満タン、装備も目ぼしい物を載せてある」

 

 舌打ち一つ、腰を上げたレフに対し、打てば響くようなおやっさんの応答。壁にかけたヘルメットを手にしながら、思いがけない準備の良さにレフは思わず笑みを履いた。

 

「流石はおやっさん、よく分かってる。もうそろそろあいつらの弾も切れる頃だ、フォローも必要だしな。そろそろ行ってくる」

「おう。…ああ、1個言い忘れた」

「?」

「この辺で敵機を落とす時は、なるべくコクピット狙いで頼む。機体がバラバラになると部品も取りづらいんでな」

 

 フライトジャケットを羽織り、ヘルメットを頭に被せたところで、レフはおやっさんの言葉に思わず躓いた。ちょっと買い物を頼むようなその風情は、人を一体なんだと思っているのか。こちとら圧倒的な不利を前にして、まさに孤軍飛び立つところだというのに。

 

「おいおい。こういう時は『死ぬなよ』とか『生きて還ってこい』みたいな感動的な言葉で見送るもんじゃないのか?」

「かははは!なーにをしおらしいことを言っとる、お前さんが意地や信念と心中するタマかよ。たとえ任務ほっぽり出してでもお前さんは生きて還って来るじゃろ」

「何だよそれ。褒められてんだか何なんだか…」

 

 一歩間違えれば、基地ごと襲撃され死ぬかもしれない数瞬の間。そんな状況を知ってか知らずか、男達は命を素のまま路上に転がすかのように、他愛もない言葉に興じる。冗談めかし、冗談で返し、ふてくされたような呟き一つ。それを最後にタラップへ足をかけたレフの背中に、思いの外に低く、不敵な言葉が突き刺さった。

 

「何を抜かす」

「は」

 

 常とは違う響き。一段上り振り返った先には、凄みを帯びた目と、それでいて柔和な口元で語るおやっさんの姿がある。

 

「何があっても生きて還る。ワシが言える最上級の誉め言葉の積りだったんだがね。死を引っ張ってくる余計なモンを、お前さんは持ってない。だから生きて還って来れる。それはパイロットとしての美徳じゃ」

「………。…ま、褒められたと思って受け取っとくよ」

「おう。じゃ、ま、例の件頼むわ。いい感じに手加減してな」

 

 言葉の終わりに、瞬きした一瞬。それを境にしたかのように、おやっさんの表情はいつものおやっさんに戻っていた。適当な物言いも、見守るような眼差しも常のまま。脳裏に浮かぶフラッシュバックの中だけに、先ほどの面影が幻のように残っている。

 

 タラップを上りきり、コクピットに収まってキャノピーを閉じる。久々の戦闘機型『デルフィナス』だが、コクピットの内装は強行偵察仕様のFR型とそう大きくは変わらない。

 おやっさんがあらかじめ電源を入れておいてくれたのか、機体は既に待機モードに入り、エンジンも暖気を進めつつある。管制モードは、今回は最初から手動。離陸直後から交戦する可能性もある以上、いちいち制御を切り替えるのはタイムロスにもなれば面倒でもある。

 ヘッドマウントディスプレイ(HMD)上に、数多のウインドウや数値が明滅する。機体制御、火器管制系オールグリーン。兵装制御よし。コクピット横の単装25㎜機関砲、主翼下に短距離空対空ミサイル(AAM)6基、胴体下に高機動ミサイル(QAAM)2基、交戦域が近いため増槽はなし。敵の数を考えればどこまで通じるか分からないが、FR型より勝る兵装搭載数はそれだけで頼もしい。

 

「管制塔、聞こえるか。こちら『キャンサー』、予備の『デルフィナス』で上がる。滑走路開けられたし」

《ハァ!?待て『キャンサー』、お前はそもそも謹慎中だろうが!今は自走式対空砲が展開中なんだ、引っ込んでろ!》

「アーアー聞こえない。上がるぞ!」

《聞こえてるだろお前!!『キャンサー』、命令は下していない、戻れ!》

 

 管制官の怒鳴り声を耳の外へ受け流しながら、レフはブレーキを緩めて機体を滑走路へ徐々ににじり寄せてゆく。空は相変わらず快晴、地には空を睨むいくつもの車両の姿。そして右手側、格納庫の庇の下には、こちらへ親指を立てて見送るおやっさんの姿。

 『デルフィナス』の装甲キャノピーでは、外からコクピットの中を見ることはできない。それでも構わず、レフはおやっさんの方へ親指を立てて答えを返して見せた。それを合図にするかのように、『デルフィナス』は滑走路を加速し始め、徐々にその速度を上げてゆく。

 速度が乗った、一瞬。レフは両方の操縦桿を手前へと引き、風を得た機体を急上昇させた。高度120を超えたところで右へと急旋回し、そのまま基地上空を螺旋状に上昇してゆく。

 

《あの跳ねっ帰りめ、本当に離陸しやがった!おい『キャンサー』!》

「まあそう言うな。謹慎を破ってまで基地の危機を護ろうとする健気なパイロットをむしろ褒めてほしいくらいだが。んで、状況は?」

《……チッ、もう上がっちまった物は仕方ない。『キャンサー』、耳かっぽじってよく聞け。現在ウチの飛行隊は基地の東北東40㎞地点で迎撃中だが、敵の一部がすり抜けてこっちに向かって来ている。そのため、補給と追撃を兼ねて一部の部隊を引き返させている所だ。これらが戻ってくるまで、お前は孤軍で戦うことになる》

「他の基地からの増援は?」

《向かって来ているが、どのみち30分はかかる。敵が到達するのが早いな》

「了解。これより迎撃に向かう。生還でもお祈りしといてくれ」

《はいはい。勇敢なるカニさんに神様のご加護がありますよーに》

 

 管制官の情報を脳裏に反芻しながら、レフはHMD上部のメニューバーを目の動きで開き、レーダーレンジを索敵モードへと変更する。

 基地の東北東、40㎞。交戦域は予想より遥かに近かったらしく、広大になったレーダーレンジの中では無数の機影が入り乱れている様が垣間見える。そこから抜け、こちらへ鏃を指す機影は見定められる限り4、いずれも高度1000前後の低空域。あくまでレーダーで捕捉できたものに限られるため、ステルス機を勘定に入れればもう少し増える可能性もあると見ていいだろう。先ほど地上で聞いた無線では、確かF-35AR『アドバンスドライトニング』が敵に混じっていた筈である。

 安全装置解除、レーダーレンジ空戦モードへ移行。右の操縦桿を手前に、左を奥に動かして、レフは横方向へのロールを描きながら『デルフィナス』の機体を降下させた。レーダー上では敵編隊との距離は概ね3600、じき視界内にも捉えられる。

 

 レーダー照射の警報音が、耳鳴りのように低く鼓膜を揺さぶる。

 HMD上に、4つのダイヤモンドシーカーが映し出される。

 遅れてケシ粒のような黒い影、数は確かに4。よくよく見ればそのうちの2機は先行し、残る2機はやや遅れている様も見て取れる。

 データリンク、照会。エレクトロスフィアを介したデータ照合を経て、それぞれの機影の脇に識別コードが表示される。先行する2機は、デルタ翼の戦闘攻撃機であるF-16XA『セイカーファルコン』。そして、後続の2機は。

 

「…『サンダーボルト』…!チッ、厄介なモン投入してやがる」

 

 識別コード、A-10CX『サンダーボルトADV』。A-10『サンダーボルトⅡ』の血を継ぐ、最強の攻撃機の末裔――。その名を目にして、レフは思わず舌打ちを漏らし、同時に安堵した。

 そもそもA-10とは、優れた対地攻撃力と堅牢性を持つ対地攻撃機の代表格である。搭載する対地兵装や30㎜ガトリング砲を駆使すれば単機で小規模拠点の殲滅程度は訳は無く、運用開始から60年以上を経てなおゼネラル陣営で最も警戒される機体の一つとされていた。殊近代化改修型のCX型に至っては元々堅牢な装甲がさらに強化されたことに加え、唯一の非装甲部だったコクピットすらも装甲キャノピーを持つコフィンシステムに換装されており、まさに全身鎧の塊とでもいうべき機体に仕上がっているのである。現状ル・トルゥーアに展開している対空砲を以てしても、集中砲火でエンジン接合部や尾翼を狙わない限り撃墜は難しいであろう。

 厄介な機体。しかしそれゆえに、早いうちに発見できたのは幸運であった。自然、レフの眼もまた第一目標として2機の『サンダーボルト』を追ってゆく。

 

 兵装選択、主翼下AAM。

 相対距離、2200、1800、1500。真正面から肉薄するこちらの針路を見定めたのか、先行する『セイカーファルコン』は左右へ大きく迂回してゆく。続くA-10もまた左右へ旋回する挙動を見せているものの、その機動は明らかに重く、徒に投影面積を広げる結果に終始している。満載した武装、装甲圧により著しく増えた自重を考えると、当然といえば当然であった。

 

 左右を『セイカーファルコン』が抜ける。

 正面左右、機体の腹を晒したA-10が鈍く旋回し矛先を逸らす。

 距離1200、1000。900。狙いはわずかに機動が遅い右の機体。

 

 機体がロックオンを告げた瞬間、レフは2発のミサイルを撃ち放ち、間髪入れず機銃の引き金を引いた。

 

 機体下方から放たれる煙の尾は二筋。『デルフィナス』の速度に加え、音速で飛来するAAMを回避しおおせるには、重装のイボイノシシは些か鈍い。

 鋼鉄の鏃と化したミサイルは、一つがエンジンポッドへ、一つが左主翼の付け根へ突き刺さり、爆散。追い打ちに放たれた25㎜の光軸に残る右翼も貫かれ、両翼を喪ったA-10はきりもみの渦を描きながら地面へと墜ちて行った。

 

「あ、パーツ取り…。……まあいい、次だ次」

 

 一瞬脳裏に過ぎったおやっさんの言葉をすっぱり切り捨てて、レフは頭を巡らせる。加速性能を活かしてぐんぐん距離を離す『セイカーファルコン』とは裏腹に、A-10は左旋回で機体を立て直しながら、眼下の林に腹を掠めそうな低い高度でこちらの矛先を逸らしにかかっている。同時に速度もぐんと落としており、速度差を活かしてこちらの射線を可能な限り躱そうという魂胆が、その機動からも見て取れた。機体の安定性はA-10の方が格段に高いため、もしA-10並みに速度を落として追撃すれば、確実に『デルフィナス』は失速して墜落する。

 

「くそっ、少々骨が折れそうか…。『キャンサー』より管制室へ、『セイカーファルコン』が2機抜けた!」

《了解した。可能な限り早く戻れよ『キャンサー』!》

「おう!可能な限りな!」

 

 一旋回を以て容易に背後を捉え、レフは間髪入れずAAMを2発発射する。

 焔の尾、目標を指し馳せ飛ぶ矢。命中し、爆発に尾翼を千切り飛ばしてなお、A-10はル・トルゥーアを指して飛び続けている。右主翼も半分近くを失っているにも関わらず、信じがたいほどの強靭さだった。

 今後のことを考えると、これ以上ミサイルは使えない。

 減速、ガンレティクル展開。敵機を機銃の射界に捉え、照準がA-10の尾部を囲う。

 使用推奨、QAAM。HMDに示された『機械』の声を無視し、レフはバイザー越しに照準の中を見定めた。

 

 力を籠めると同時に、唸りを上げて曳光弾を吐き出す25㎜機関砲。右へ、左へと体を捩じらせる敵機の機動へ追いすがって、その体には着実に弾痕が増えてゆく。

 しかし、墜ちない。いくら弾痕を刻まれようと、金属片をまき散らそうと、その足は一向に止まらない。ひたすらに機銃を撃ち続けるその間にも、ル・トルゥーアとの距離は着実に縮まってきている。

 

「ち…!なんて頑丈な奴だ」

《『キャンサー』、敵機が基地上空に現れた。そっちはまだか!?》

「もうちょいだ!…くそっ…!」

 

 敵機が速度を落とす。危うくオーバーシュートを招きかけ、慌ててレフも速度を絞る。

 残る尾翼が吹き飛び、エンジンも一方が脱落する。失速警報が耳に響く。それでもなお、A-10を撃墜するには至らない。

 

「ち…!くそったれめ!」

 

 兵装選択、QAAM。高威力、高誘導を誇るそれへとカーソルを合わせるや、レフはボタンを押して1発を撃ち放ち、撃墜を見定める間もなく一気に加速した。

 眼下に過ぎるA-10、ぐんぐんと数字を上げてゆく速度計。遥か後方に一瞬光った爆発にも、レフは一切振り返ることなく機体を馳せてゆく。A-10の強靭さと、機械による制御。自らの判断がそれらに後れを取ったことに、幾ばくかの腹立たしさを感じながら。

 

《『キャンサー』、まだか!?対空砲が攻撃を受けている!》

「もう十秒も無い。待ってろ!」

 

 眼下の林を振り切り、平原を抜け、四角く切り取られた基地の敷地が姿を現す。地上には、炎を上げて燃える対空砲が1基。幸いなことに、まだ滑走路も格納庫も被弾はしていない。当の敵機は――いた。1機は反復攻撃を仕掛けるためか基地から離れる針路を取り、まさに右へ旋回する状況にある。もう1機は対空砲と滑走路へ狙いを定め、やや機首を下げて降下する態勢に入っていた。

 

 地上から光軸が放たれる。

 『セイカーファルコン』がその網を抜け、爆弾の投射範囲内へと対空砲を収めてゆく。猶予は、持ってあと3秒。

 フットペダルを踏みこむ。敵機への急接近を察知したセンサーが警報を響かせる。それでもなお、レフは加速を留めない。

 鼓膜を揺らす、ロックオンの音。

 放つミサイルは、確殺を狙う2発。それらは横から殴り抜けるように『セイカーファルコン』の側面を襲い、近接信管の炸裂で以てその主翼を粉々に打ち砕いた。

 

「もう1機!」

 

 巡らせた目の前に、ダイヤモンドシーカーがゆっくりと敵へと奔りその背を捉える。

 僚機の撃墜を確認したらしく、残る『セイカーファルコン』は反復攻撃を諦め、東へ向けて離脱する態勢へ入った。

 逃がすか。

 口内にそう紡ぎ、レフは乗った速度をそのままに機体を旋回させ、逃げる『セイカーファルコン』に追随する。デルタ翼を持つ『セイカーファルコン』もまた加速力には優れる筈だが、旋回直後の今は速度が明らかに乗り切っていない。レフの『デルフィナス』は瞬く間にその背に追いつき、上方の優位へと占位した。彼我の性能差と相まって、こうなっては敵機は掌の中の雛に等しい。

 

「おやっさんの手前もあるんでな。お前はこっちだ!」

 

 背面、急降下。敵機の直上から『デルフィナス』は逆落としを仕掛け、敵機の予測進路上へ機銃の曳光弾を撃ち放ってゆく。

 その様は、さながら飛鷹を捕える手投げ網。鉛の網の目に主翼の後端を切り裂かれ、『セイカーファルコン』は吸い込まれるように、腹から平原へ突っ込んでいった。

 

「よし。『キャンサー』より管制室、敵攻撃隊の迎撃に成功した。状況はどうだ?」

《よくやった『キャンサー』。よくやったついでに緊急、もう一つだ。補給のため一部の部隊を下げた影響で、前線が後退してきている。方位040へ向かい、殿(しんがり)の部隊を支援せよ。友軍到着まで何とか持たせるんだ》

「了解した。チョコミントアイスバー5本で手を打とうじゃないか」

《始末書提出と相殺だな。いいからとっとと行け》

 

 交わす冗談を背に負いながら、レフは機体を傾けて東北東へと舵を切る。最初の通信と先の管制官の指示を裏付けるように、基地へ向かう友軍の反応が6。主戦場たる交戦域も基地から30㎞地点まで後退してきており、苦戦がレーダー上からも見て取れた。

 光点の位置をそのまま空へ映したかのように、正面からは機影6。弾薬を消耗しよほど焦っているのか、巡航速度を超えた高速でル・トルゥーアへとその鼻先を向けている。

 レフはカメラ精度を調整し、何の気なしに先頭の機体へと焦点を合わせた。R-099と比べ、細身なそのシルエットは数少ないR-101『デルフィナス』系統。機体下部はやや膨らみ、機首下方にも何やら突起物が見える辺りから察するに、戦闘機型の『デルフィナス』ではない。

 ――強行偵察型。

 まさか。その言葉を口内へ押し戻し、凝視したその姿は、見間違えるまでも無く尾翼が青く染められた見慣れた機体である。

 すなわち。

 

「カール…。何だ、誰が真っ先に逃げて来たかと思えば、お前か。俺の機体、傷物にしてくれてないだろうな」

《レフ!?何で、謹慎してた筈じゃ…!機体は大丈夫っスけど、ミサイル使い果たして丸裸っスよ》

《そんなことを言っている場合か!…く、レフ君聞こえるか!こちらフォルカーだ。すぐに交戦域へ向かってくれ!『オーキャス14』が、殿として残っている!》

「何だと!?」

《引き返すように言っても、前席の(カール)は逃げるだの死にたくないだの、まったく言うことを聞かないんだ!頼む、『オーキャス14』を助けてやってくれ!》

《うるせー!俺だって死にたくないんスよ!それにスフィアちゃんも言ってたじゃないっスか!『戦線維持のため先に帰投し補給して下さい』って!》

《我々は『オーキャス』の監督役なんだぞ!あんな言葉を真に…!》

 

 ここに来るまでに相当激しいやりとりを交わしたらしく、カールとフォルカーの言葉の応酬が耳元で騒がしく響く。通信回線を遮断したい衝動に駆られつつも計器盤へと目を遣れば、レーダーレンジの中では機影が4つ、敵性反応の集団の中に残っている様が認められる。

 レフの心には、機密と技術の塊であり、本来真っ先に退避すべきスフィアが自ら殿に残ったという事実が気にかかった。機械ゆえの哀しい性なのか、あるいは。

 その真意は探れないまでも、前線の崩壊は基地の危機へと直結する。フォルカーから頼まれるまでもなく、前線の意地はレフとしてもやらねばならない事だった。

 

「元々その積りだ。球コロがいようがいまいが、前線を維持しないと基地がヤバい」

《…恩に着る》

「球コロのためじゃねえって言ったろ。いいから早く補給に戻れ」

 

 入れ違い、後方へと離れてゆく6つの機影。背に去るそれらへは目を向けず、レフは真正面を見据えてひたすら機体の加速に徹した。レーダーの中には既に友軍の増援の姿も映り始めており、あと10分も持たせれば前線は維持できる。

 

 不意に、レーダーから友軍の光点が一つ消える。

 ゼネラル機を示すマーカーが、残る3機を取り囲むように円状に展開する。

 距離、4000。正面には、既に乱舞する複数の機影。先の1機の残滓らしく、炎を吐いて墜ちてゆく翼が一つ。

 

 レフは先と同様に投影映像を拡大し、戦況と目標を見定める。

 展開するゼネラル機の球陣に取り込められているのは、R-101『デルフィナス』が2機。極力旋回を行わず、球陣を突っ切っては外側から崩す機動を見せる大柄の機体は、後方に延びた特徴的な突起物の様からスフィアの『ヴェパール』と伺い知れる。

 

 無事だったか。

 安堵を感じた自らへ、反射的に抱くのはささくれ立つような苛立ち。

 ちっ、と舌打ち一つ、レフは機銃の引き金に指を合わせ、獲物へ向けて機体を吶喊させた。

 狙うは、動き回る『ヴェパール』の背を追うあまり、隙だらけとなったF-35AR。加速に応じてケシ粒は判別できるほどとなり、やがてキャノピーからはみ出るほどとなって――照準がその機首を捉えた瞬間、レフは引き絞った引き金を引いた。

 

 25㎜口径の矢が、そのコクピットを貫き機首ごと機体からもぎ取ってゆく。

 レフの『デルフィナス』は墜ち行く翼を躱し、眼下に『ヴェパール』を追い抜いて、球陣の渦中へと突進した。

 

「生きてるか諸君。謹慎返上したヒーローのお出ましだ!」

《『キャンサー』!?遅いぞこの野郎!何にせよ助かるぜ!》

《レフ…『キャンサー』。支援、感謝します》

「球コロ助けに来たんじゃねえ。あのバカ共が泣いて頼んできたからついでだ、ついで」

 

 複雑な感情半分、吐き捨てるように返しながら、レフは『デルフィナス』を狙う敵機へと機銃掃射を見舞ってゆく。

 追撃を妨げられ、大きく旋回するF-35AR。連携を崩され、球陣の外へ退き仕切り直しを図るF-15CX。視線を左右へ奔らせ続く目標を見定めるレフの耳に、後方警戒を促す電子音が響いたのはその時だった。

 後方、2機。後方警戒用のカメラから画像を投影すると、カナード翼を装備した小柄な機体がこちらの背を狙い追撃してくる様が見て取れた。機首のカナードと機体形状から察するに、F-16シリーズの近代化改修モデルであるF-16XF『ジャーファルコン』と見て間違いない。

 

「そんな旧式で、『デルフィナス』に喧嘩売るってか!?」

 

 口元に履くは、余裕を示す笑み。

 フットペダルを離し、やや減速。左ロールした機体を横方向へ旋回させ、レフは背後の『ジャーファルコン』を躱すべく回避機動に入ってゆく。元より運動性能はR-101が圧倒的に優り、旋回半径で見ても『ジャーファルコン』には勝ち目はない。

 左旋回、やや下降をかけ螺旋状に転進。単純なその機動だけで、F-16XFはみるみる射界を外されてゆく。

 ――ミサイルアラート。横旋回から後方を()()()、レフはそのまま旋回を継続する。距離が離れている上当てずっぽうに放たれたそれらは、余計な回避行動を取る方が却って危ない。

 機体周囲に爆ぜる炸裂は四連。案の定、定まらない照準の中では精度も低く、炸裂の余波も『デルフィナス』を傷つけることは叶わない。レフは敵機を振り切ったことを確認し、操縦桿を引いて機体を急上昇させた。先の様子だと敵機の一部は短距離空中炸裂ミサイル(SASM)を装備しているようだが、相当接近されなければ大した脅威とはなりえない。

 

 急上昇のまま、装備選択はQAAM。友軍の『デルフィナス』を追い下方ががら空きとなったF-15CXへ死角からそれを発射し、後続のF-35ARへも機銃掃射で牽制を加えていく。

 爆発、墜ち行くF-15CX。敵機の数は依然優勢だが、それでも主力の数はわずかだが減少が見て取れた。増援到達まであと数分、こちらのミサイルが底を付いたことを考慮しても、これならば前線は何とか持たせられる。

 

 爆炎を抜け、急上昇する『デルフィナス』からレフは戦況を俯瞰し状況を断じる。

 ――そうは、させん。

 爆炎で視界が塞がれた、その一瞬。そう言葉に表すかのように、複数のミサイルアラートが響いたのはその時だった。

 

「…何っ!?」

 

 左右の操縦桿を手前に引き、咄嗟に機体を背面水平飛行へ戻す。

 こちらへ向かうミサイルは、コンバットレンジとなったレーダーで認められる限り4。その主はといえばこちらの後方斜め上、上空の優位に占位した2機のF-15CX『スーパーイーグル』と伺い知れた。よくよく『イーグル』とは相性が悪いらしい。

 愚痴をそのまま胸に押し込み、レフは操縦桿を手前へと引き付ける。背面降下に入った機体は速度を得ながら、その下端で横方向へロールし水平へと戻った。間髪入れず、青い尾翼の『デルフィナス』は方向舵を切り右旋回へと入ってゆく。先ほど実証した例に漏れず、低空域でもR-101の運動性は卓越している。まして降下で速度を得て距離を離した今ならば、通常のAAMを回避しおおせる程度訳はない。

 だが。

 

「…!?離れない…か!只のミサイルじゃあないな」

 

 右旋回、次いで切り返しの左。『デルフィナス』に相応しい小半径旋回の繰り返しでありながら、それでもミサイルの誘導は振り切れない。まるで意思を持つかのように、それらは炎の尾を曳きながら食らいついてくる。

 QAAM――脳裏に過ぎるのは、先ほどまで自らが使用していたその兵装名。『デルフィナス』をもってして振り切れないその誘導性能は、その予想を補って余りある。

 

 距離、後方1900。1600。いかに戦闘機といえども速度でミサイルを振り切れる訳は無く、その距離はみるみる詰まってゆく。

 くそったれ。誰に言うでもなくそう吐き出して、レフは文字通り瞬く間にHMD上から防御兵装のメニューバーを選択する。今回はこの前の戦闘の反省を活かし、チャフとフレアの同時散布。それだけ残量も心もとなくなる道理ではあるが、時間を稼げばいい今ならば残数を惜しむ必要は無い。

 

 距離、1300。防御兵装が効力を発揮する射程を読み、まさに射出しようと瞬いた刹那。横方向から突進する別の警報に、レフは思わず心臓を跳ね上げた。

 

「接近警報だと!?」

 

 迫る物体の位置を確かめる間もなく、レフは反射的に操縦桿を引いて、右旋回中の機体を逆方向へと切り返す。見上げるように省みたその先には、尾部へ長い構造物を伸ばす大柄の機体――スフィアの『ヴェパール』の姿。

 

「球コロ…!?」

《近接防御システム、作動》

 

 放たれる、稲妻のような光の環。それが衝撃波となって響くと同時に、迫っていた4基のQAAMは相次いで誘爆し、虚しい花火を空中に爆ぜさせた。ミサイルアラートが鳴りやんだことは言うまでも無く、気づけばレーダー照射警報も今は鳴りを潜めている。

 

「…余計な真似しやがって。何だ、助けた積りか?」

《はい。先ほど支援して頂いたので。おあいこ、です》

「………」

《?用法が間違っていましたか?》

「…何でもねえ。ただ余計なお世話だと思っただけだ」

 

 自らの隣で並行する『ヴェパール』をちらりと横目に捉えてから、レフは上空を見上げる。こちらを取り囲んでいたゼネラルの機体は既に撤退を開始しており、先ほどQAAMを放った2機のF-15CXもその翼を翻す所だった。どうやら友軍の増援が到着したらしく、レーダーには味方を示す青いマーカーが接近しつつある様も見て取れる。この空域での戦闘は、ひとまず終息したと見ていいだろう。

 

 地には、新緑を侵すように点々と灯る炎。東の彼方からは襲撃の残滓と思しき黒煙も立ち上り、サピンの大地と空に戦禍の爪痕を黒く刻み付けている。

 灰色と黒、立ち上る狼煙のような戦闘の痕。

 それがひとまずの終息を示すものなのか、それとも新たな戦火をもたらす予兆に過ぎないのか。

 蒼い尾翼の機体から地を見下ろすレフには、そのいずれにも断じることはできなかった。




《ゼネラルの襲撃による基地への被害は最小限に食い止められた。緊急時を考慮し、レフ・ミハイロヴィチ・ヤコヴレフ航空技官の無断出撃に関する処分は不問とする。
なお、今回の襲撃と時を同じくして、ラティオのフィネッタ港へゼネラルの艦隊が入港したとの情報が入った。未確認情報では対地砲撃能力を備えたミサイル駆逐艦を有する艦隊であり、情報が事実ならばオーシア東方におけるNEUに対し大きな脅威となる。敵航空部隊による一連の襲撃は大規模な陽動であった可能性が高い。
状況が明らかとなるまで、各航空要員は警戒を緩めないように努めよ。以上だ》
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