パラレル日本国召喚 作:火焔
●日本
佐久間:国立魔法研究所職員
●クワ・トイネ公国
キャベジア:ボウル商会の嫡男
シャロット:公国魔法士→公国魔術師に昇進(エルフ)
◆◆ クワ・トイネ公国 バニル市の港 ◆◆
「いやぁ~壮観だなぁ!」
バニル市を本拠地とするボウル商会の嫡男であるキャベジアは、港に悠然と並ぶガレオン船団を見て感嘆の声をあげる。
この港に停泊する巨大な商船は、全て日本人の主導によりロウリア王国で作られたものだ。
「というても、ウチの船はこの2隻だけなんやけどな。」
キャベジアの目の前に停泊しボウル商会の旗を掲げる2隻のガレオン船。もちろん他にも船舶を有するが、ガレオン船に比べれば半分ほどの大きさで、しかも日本製の船のように形が整っていない。
それでも中堅の商会で2隻も手に入れられたのは、キャベジアと会長である父親の先見性があったからだ。
それほどまでに日本製のガレオン船は人気で、今現在で予約は数年待ちだ。
ボウル商会は日本人がロウリアで商船を作る情報を得た直後に5隻の商船を発注した。
そのお陰で1年で2隻も購入する事が出来た。さすがに大商会は更に多くの船を所有しているが、中堅の商会では1隻手に入れられれば御の字と言ったところだ。
だから、港に並ぶガレオン船の旗は同じ物が殆どない。
だからこそ、2つの旗がなびくボウル商会は中堅商会の中でも抜きん出ていると評されているのだ。
「このバニル市も、日本が来てからホントに栄えたなぁ~。1年前は港の大きさだけが取り柄だったこの場所が、今では所狭しと沢山の船がならんどるわ。」
元々はマイハーク市、イズーダ市の中継地点でしかなかったバニル市は、ハンキ将軍とハスド侯爵の連係プレーにより一番最初に日本特区を誘致した。
そこから鉄道、大型トラックによる尋常じゃない流通力で瞬く間にバニル領は発展させた。
さらに日本人が農業機械を引き連れて村や街に居を構えたため、農業生産量も3倍、4倍どころではないくらいに増えているのだ。
バニル領の経済力を羨んだ領主達は、自分の領にも日本特区をと誘致を申し出る、
さすがの日本も全ての場所に誘致する事は難しいと判断し、既に引いた交通網を活用しやすい箇所を選出し土地を借り受けた。
そして今ではクワ・トイネ公国内の日本人特区は10地区を超えて、今でも数を増やし続けている。
その中でも交通の起点となったバニル市は中心地として経済力を大きく向上させ続けていた。
キャベジアは先日、我が商会に届いたガレオン船に乗り一分の無駄も無い機能美に日本の技術力とガレオン船の素晴らしさに酔いしれる。
「流石は列強の船、パーパルディアの商船に勝るとも劣らずやわ。文明国の船でもこれより一回り、二回りも小型や。元々使っていた非文明国の船なんか更に二周りも小さい。それなのに文明国の船よりも安いなんてなぁ……」
ロウリアの木材が10倍で成長する特殊性と電気機械、魔法の併用で製造期間もコストも大幅に抑えられているため、船体価格が圧倒的に安いのも予約殺到の一因となっている。
パーパルディアの商船はパーパルディア硬貨で金貨5,000枚、文明国も自国通貨では金貨5,000枚だ。
(これは貨幣価値による差で、同じ価値ではないことに留意してもらいたい)
それにくらべて日本のガレオン船はクイラ硬貨で金貨2,000枚だ。安い金額ではないが、クワ・トイネで作っていた帆船でも同じくらいしていた。
大きさが倍、性能倍以上で、お値段据え置きとなればお得なのは間違いないだろう。
パーパルディア硬貨とクイラ硬貨の交換比率が1:2と仮定するならば、パーパルディアの1/10の価格なのだ。
実際はもっと厳しい交換レートなので、1/10どころではない。
「このマスト、木の板が張ってあるだけで本当は鉄の管で出来とるらしいなぁ。でも1隻目の船はこんな音せえへんから、最近できた技術なんやろうなぁ~。」
キャベジアが3本のマストの中の最も高いメインマストをノックすると、マストからゴンゴンと中が空洞らしき音が響く。
丸太で作られたマストだと、ゴッゴッともっと鈍い音がするし、重量と強度の問題でこんなに高くは出来ないから事実なんだろうとキャベジアは思う。
それは間違いないのだ。日本はクイラから安く仕入れられる鉄を使い船のマストを作っているのだ。
鋼鉄製のマストの方が強度があり、木で作るより軽くなる。木材を貼り付けているのは偽装で、日本の調査では鉄製のマストが使われている船を見たことが無いので、技術漏洩を考慮しての事だ。
実際はパーパルディアにも鋼鉄のマストを作る技術など無いのだが……それを日本が知る事はない。
キャベジアが船の各所を見回っていると、積荷を運んでいた商会の水夫が声を上げた。
「若旦那!積荷の準備が終わりやした!」
「ご苦労。出立は明日になるので、今日はこれまでにしましょう。」
「ウス! 皆に伝えてきます!」
水夫を見送りキャベジアは船室に所狭しと詰まれた樽を見る。あの中には日本の技術を真似て作った品物も多い。
勿論日本から許可を得たものだけを海外の交易に使用している。
例えば、温度管理が出来る皿や周囲の温度を変化させるアクセサリーなどだ。クワ・トイネで作られたものは、日本で作られたものより品質は大きく劣る。だから対外商品にしてもいいのだろう。魔法陣も日本が最適化したものより敢えて劣化させている。日本が創出した技術を我々が勝手に流出させてはいけないからだ。それでも文明国より少し効率がいいから十分競争力のある商品となる。
後は瓶詰めや乾物、衣服などだ。
特に瓶詰や乾物は、長い航海で不味い・堅い・塩辛いの3拍子揃った船上の食事にも貢献してくれている。
まぁ、売り物なのでそう食わせられないとキャベジアは思うが、食事の質がイイのは水夫達のモチベーションや新たな雇用に繋がるので、幾つかは食べる事を許可している。
本当は日本の乾麺や缶詰が食べたいのだが持ち出し禁止が出ているし、一食に銅貨10~20枚は経費としても結構きついものがあるとキャベジアは残念に思う。
「まぁ、仕方ありませんね。」
キャベジアは船上の食事と、もう一つの仕方ない事、ボウル商会の上になびくロウリア王国の国旗を見上げる。
とある事情でクワ・トイネ、クイラは勢力を弱めていて、ロウリアが勢力を強めていると言うことにしなければならないと国から通達があり、クワ・トイネの国旗ではなく、ロウリアの国旗を掲げているのだ。
お陰で港の船の4割はロウリアの国旗、3割がクワ・トイネとクイラ、そして残りの3割が海外の主に非文明圏の国旗だ。少しばかりだが、文明国の船がこの国に来ているのは光栄だと思う。文明国がこちらに出向いて我々と対等に交易する意志があることが誇らしいのだ。ここまで国力を得られたのは日本のお陰に間違いはない。ロデニウスに属する商人は誰もが感じていることだとキャベジアは確信している。
それを裏付けるのは海外の船に日本製のガレオン船はないことからも分かる。
日本はロデニウス大陸の3カ国にのみガレオン船を卸してくれているのだ。それは日本が我々を信用してくれている証なのだとキャベジアは思う。
だからこそ、誰もがガレオン船を転売などせず、日本の信用に応える為に船を走らせる。自身の利益、それは国の利益につながる。そして優れた日本製品を買う事で日本の利益へとつながっていくのだと。
――――翌日
「お待たせしましたシャロットさん。このたびの航海に魔術師の方が同行して下さるのは非常に心強いです。」
キャベジアは、先日公国魔術師に昇格したシャロットに挨拶をする。
何故同行するかと言うと、今回納入されたガレオン船には、2つの試験運用機能が搭載されているからだ。
もし上手くいけば航海に革新が起こる。内容を知っているキャベジアは心躍らずにはいられなかった。
「よろしくお願いしますわ。今回は日本の研究所で開発された2つの魔法陣の効果確認をさせて下さいませ。」
シャロットもこの大役に緊張と興奮が入り混じっていた。
この実験はクイラ、ロウリアでも共に過ごした彼らが同様の試験運用をしている。
彼らと何より佐久間に十分な効果の確認を報告したいのだ。
「では、出港します。」
キャベジアとシャロットの乗る船は、ガハラ神国、フェン王国で交易し、フィルアデス大陸の非文明国を主に回るルートを通る。
通常であれば3ヶ月の航海だが――――
「波も風も穏やかですわね。今から新機能の試験運用を始めたく思います。キャベジア様、周囲に他国の船はございませんね?」
「はい。水夫が確認しましたが、視界には我々以外の船はございません。」
「ありがとうございます。それでは『起風』の魔法陣から試して見ましょう。こちらは簡単な魔法陣ですので、皆様にもお手伝い頂けますか?」
水夫と言えど、この世界の人間は生活に使うくらいの魔法は誰でも使える。
『起風』の魔法は風を一方向に発生させるだけの簡単な魔法なのだ。
ただ、その大きさが普通ではない。最後方のマストに張られている全ての帆に大きく描かれている。それは、隠蔽のために遠くから見えないように帆と殆ど同じ色で描かれている。
港では帆をたたんでいるため、部外者に見られることはない。
この大きな魔法陣はシャロット一人でも数分は起動できるだろうが何も一人でやる必要はない。100名いる船員で力を合わせれば数時間起動できるからだ。
「さて、皆様、イキますわよ!」
シャロットと船員が複数の魔法陣に魔力を流していく。
簡単な魔法なので、すばやく起動し生み出された適度な追い風がメインマストの横帆に吹き付けられる。
風を得た帆船は速度を上げて、通常の1.2倍の速度で海上を進んでいく。
「順調ですわね。この機能であれば高価な『風神の涙』を使わずに速度を得られますわね。それに、無風の海域でも航海ができますわ。」
シャロットは風を生む『風神の涙』より低燃費で同等の効果が得られるのか分からなかったが、日本の提唱した説が正しいことを確認できてひと安心した。
では何故『風神の涙』より低燃費であったのか。これは『風神の涙』が風を生むまでのプロセスが多いことに由来する。
『風神の涙』は魔法効力を気圧に対して働きかける。そして、魔法的に気圧差を発生させて自然と同じ方法で風を発生させている。
それに対し『起風』は魔法効力で風を生み出している。それだけだ。プロセスが少ない分、魔法陣が簡素になり必要な魔力も減る。
日本人である佐久間達は『発火』や『湧き水』の魔法は物理法則を越えていることを突き止めていた。
魔法『湧き水』が物理法則に準じるならば、水を発生させるために周囲の水蒸気または、酸素、水素を使用しているだろうと湿度計、酸素濃度計などの計器を設置した恒温室で『湧き水』を発動して貰った。
このとき酸素濃度計は変化せず、湿度計に至っては水の発生により湿度が上昇したくらいなのだ。
つまり、周囲の水分に関する物質を集めて水を精製したわけではないことが判明した。
そして『発火』の火を生み出すエネルギーも何処からとも無く現れているのだと分かった。もちろん未来で否定されるかもしれないが、現状では物理法則を越えていると判断されたのだ。
であれば『風神の涙』のように敢えて物理法則に則るより『起風』の様に物理を無視したほうが効率的なのだと結論付けた。
その結果に一つが『起風』を使った帆船の速度向上なのだ。
そして、それは効果的であると実証された。
「シャロットさん、この魔法陣は我々の魔力が尽きるまで使えばいいのですよね?」
「そうですわ。魔力を使い切る事が、魔力の上限を増やす最も正攻法なヤリ方ですわ。」
研究所での実験で、ある単一の魔法を毎日魔力が尽きるまで使用した結果、徐々に発動できる時間が増えていくことが判明した。
1日10秒くらいではあったが、1年鍛錬すれば1時間伸びると思えば大きな成長だ。
佐久間達は魔力量は筋力と近しいのではないかと推測していた。鍛えれば伸びるし、怠ければ減少するのではと。
流石に減らす方向の実験は出来なかったが、実験に協力してくれた全員の魔力量が向上したので、恐らく正しいだろうと日本は判断している。
「さて、それではわたくしはもう1つの運用試験を行いますわ。船首の水を見ていてくださいませんこと?」
「わかりました。何か変化があればお伝えします。」
シャロットはキャベジアの言葉に頷き、船底へと降りていった。
「さて、これは私しか出来ないこと、こちらが最も重要ですわよ!」
シャロットは気合を入れて船底の最前面、波を切り裂いて進む箇所の室内側に描かれている魔法陣に魔力を流す。
魔法陣の細かさから、魔術師になったシャロットでギリギリ発動できる代物だ。
シャロットが苦労の末発動した魔法は――――
『波力沈静』の魔法だった。
ガレオン船など低速な船舶では大きな効力はないが、日本の船舶となれば話は別だ。
速力が上がるほどに波によって抵抗力が増し速度向上の足枷となる。
物理を越えるならばもしやと、ダメ元でシャロットに依頼したのである。
「シャロットさん! 船首の波が穏やかになって、速度がさらに上がりました!!」
キャベジアが船底にいるシャロットに向けて叫んだ。
その言葉から実験は成功したのだと。
「ふぅ……やりましたわ。」
今はまだ魔力効率は『起風』より悪いが、併用できるからいざと言うときに役に立ちそうシャロットは思うが
日本からすれば『起風』なんて物理法則に縛られるか否かの実験でしかなく本命は『波力沈静』なのだ。
魔石でこれを代用できれば日本の船は次の時代へと進むだろうと。
ロデニウス大陸の平均月収は銀貨10~20枚ほど(現在の日本レートだと1~2万円)
くっそ貧しいと思うかもですが、現代のインドでも平均月収では4万円ほどなので、一般労働者で銀貨10枚はそこそこなんですね。
現代だとフィリピンやベトナム、モンゴルの一般人と同じくらいの収入ですかね。
まぁネット情報なので、どこまで真実か張りませんが。
因みに日本製ガレオン船はアルミ合金マストや内装や甲板を強化繊維プラスチックにして、さらなる性能向上とコストダウンを目指していたりします。
ロウリアの船大工には船体を作る重要な作業に力を注いで貰い、内装を統一規格品で簡素化と軽量化して取り付けるだけにして造船期間の短縮を狙っています。
当初はロウリアの亜人雇用確保のためでしたが、想定を遥かに超える数の発注依頼と儲けでちょっと本気になっていたりします。
『波力沈静』か『抵抗軽減』か迷いましたが、今回は軍艦の高速化になる方向にしました。
両方でる予定ですが、『抵抗軽減』いつの間にか完成しているかもしれません……。
パーパルディア公国の人間で日本に対してやらかして欲しい人間は?(パーパルディア結末が分岐します)
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3人ともやらかす欲張りセット