パラレル日本国召喚 作:火焔
●日本国
阿野:日本国首相。妻が地球世界に取り残されている
●ロウリア王国
ハーク・ロウリア34世:国主
●クワ・トイネ王国
カナタ:クワ・トイネ国主(エルフ)
●クイラ王国
テヘンラ:クイラ国王(狼系獣人)
◆◆ 日本国 首相官邸 ◆◆
西暦2025年3月(中央暦1645年)
「なんてことだ……」
阿野は映画の中ですらありえないような惨劇に頭を抱える。
あのような前時代的――――いや、生贄などが定常的に行われていた古代を髣髴させるような虐殺。
何より、それを不特定多数の日本国民の目に入ってしまった事が何より問題だ。
数年前、クワ・トイネ―ロウリア戦争であった獣人の惨劇は、今後の国交の事を考えて日本国民には開示しなかった。
それは幸いし、日本人のロウリア国民への感情はクワ・トイネ王国やクイラ王国の国民と同等にまで引き上げる事に成功した。
だが今回の尊厳すら奪う様な行為に、日本国民はパーパルディア皇国への怒りに満ちている。
あの惨劇は日本人だけに留まらず、ニシノミヤコに住んでいたフェン王国民の数百名も同じ様に放映されながら虐殺されていた。
そのため、日本国民の開戦ムードは最高潮に達し、ネット上の書き込みは炎上、開戦デモが至る所で発生している。
直前まで地球帰還派と異世界残留派で民意が真っ二つに割れていたのがウソで在るかのような。
(まさか、列強と呼ばれる世界を代表する国が、こんな野蛮人の集団だったとは……。)
幸いしているのが、政府に対して諜報活動を何故行わなかったのかという非難が無い事である。
やっていたらいたで、何故危険かもわからぬ未開の地に日本人を送るのだと批判があったのだが……。
だが、このロデニウス連合を率いると決めたとき、世界と関わりを持つことを決めたときに諜報員を送ることは決定していた。
服装に疑いを持たれぬ様にロデニウス3カ国から、商人や旅人吟遊詩人のような世界を渡り歩く人間が着る衣服の情報を得て、現代技術を用いて着心地が悪くならない様に改良した物が先月出来上がった。
派手さはないが上質というのは良い意味で人目を引く。商人であれば位の高い人物とコネを持ちやすく、旅人然としていれば、高貴なもののお忍びじゃないかという印象を与えられるからだ。
それを着た諜報員達が、ロデニウス3カ国の商船に乗って各国へ移動している最中だったのだ。
後、一ヶ月。パーパルディア皇国と出会うのが遅ければ、諜報活動により情報を得た日本は惨劇を回避できただろう。
後、半年時間があればヴァルハルが思い描いたシナリオより、さらに良い結果が得られただろう。
だが、パーパルディア皇国第3外務局のロウリア皇国襲撃という暴挙により、全てがご破産になった。
そう、余りにタイミングが悪かった。
日本がこの世界の常識を知るには、ほんの少しだけ時間が足りなかった。
数日後、パーパルディア皇国に行った外交官から、皇国の通達文が届けられた。
それは更に悪い知らせだった。まるで人の尊厳を踏みにじる、家畜のような扱いを日本人に強いるものであったからだ。
これは宣戦布告に等しいものであると。
その外交官は謝罪していた。
「戦争を回避し、国交を正常化するために存在するにも関わらず、火に油を注ぐ自体を招いてしまい申し訳ございませんでした」と。
彼から受け取った会談の録音データを聞く限り、レミールという人物が出てくる前までは至って正常であった。
だが、それ以降は聞くに堪えなかった。
まるで戦争を誘発しているかのような物言い、そして通達文。
彼に非はないだろう。どんな日本人であれ、アレを想定する事は全てを知る神でもない限り不可能だ。
結局、内閣はパーパルディア皇国はフェン王国のときと同じ様に、いちゃもんをつけて戦争したかったのだという結論に落ち着いた。
また、外交官が海王丸から撮影した風景、X線を使用して記録した敵国の船体情報を取得してくれたのは大きな成果だった。
戦列艦は洗練されておらず、地球換算だと初期の戦列艦を魔法の力で無理やり100門級の軍船として成り立たせているというお粗末なものであった。
それは物理学が洗練されていない証左でもあり、日本が万が一にも負けることが無い証明でもあった。
(ただ……何故、クワ・トイネ王国やクイラ王国、ガハラ神国やフェン王国は何事も無く国交を結べたのだろうか?
彼らが特別なのか、パーパルディア皇国が特別なのか?)
阿野は答えの見えない問いに考えを巡らすのだった。
◆◆ 日本、クワ・トイネ、クイラ、ロウリア首脳会談 ◆◆
「――――という事態があり、真に遺憾ですが、我が日本国とパーパルディア皇国は戦争に突入することに決まりました。」
「日本国には真に申し訳ない事をしました。」
阿野の言葉にハーク・ロウリア34世は深々と頭を下げる。
事の発端となったロウリア王国は、未だ魔帝と信じている日本に切り捨てられるかもしれないと戦々恐々としていた。
「我がロウリア王国が責任を持ちまして、パーパルディア皇国との事に当たらせて頂く所存に御座います。」
ならばこそ自身の力のみで切り抜けなければならないと。
「いえ、それには及びません。例え事の発端が何であれ、パーパルディア皇国は相応の報いを受ける必要があります。」
「しかし……」
阿野の言葉にハーク・ロウリア34世は食い下がろうとするが――――
「陛下のお気持ちは嬉しく思います。ですが、陛下の御力を借りずともパーパルディア皇国程度、安易に蹴散らす事が可能です。」
阿野の言葉にハーク・ロウリア34世、クワ・トイネ国王カナタ、クイラ国王テンヘラは絶句する。
日本の技術を下賜されたロデニウス大陸の全力をもってすら、勝つことが出来ないだろう列強パーパルディア皇国を「程度」呼ばわりすることに……。
「阿野首相、日本国はどのくらい勝算がおありでしょうか?」
現実に戻ってきたカナタは、好奇心と聞いてはいけないと予感する恐怖の両方を内に秘めて阿野へと質問する。
阿野はさも当然というばかりに。
「パーパルディア皇国を同時に10国相手にしても、日本国の完勝に終わります。」
カナタ達はもう一度絶句してしまう。理解のレベルを遥かに超えていて、脳が理解を拒絶してしまうのだ。
それでも必死で頭を回転させる。
パーパルディア皇国の海軍は軍船2000隻に達しているはず。自国の軍を隠す事はしないはずだから、日本は2万の軍船を蹴散らす事が可能だといっているのだと。
それだけの戦力差なら、陸軍、空軍も同等なのだろうと……
対して阿野は、彼らから得ていた2000隻という数を全力だとは見ていなかった。
戦力を全て明かすという事は、その対策を取ってくださいと言っているものだ。
現代戦では、どうしても数は特定されてしまうが、装備などの内部情報は機密を徹底してきた。
ただ木造船の様な軍艦毎に大きな装備の変更が出来ないものは、正確な数を知られるのは敗北を意味する。
故に、最大4000隻を想定しての発言だ。
本来であれば、パーパルディア皇国を20国相手にしても完勝するのだ。
「ただ、ご迷惑をお掛けしますが、各国には警戒レベルを引き上げて頂くようお願い申し上げます。費用に関しては全て日本が持ちます。」
阿野は各国王に頭を下げる。
ロデニウス大陸に駐屯している日本軍で防備は問題ないと判断しているが、各国に万が一があってはいけないと。
「……あぁ。わかったぞ。だが、費用に関しては自国で持つ。そこまで面倒を見てもらっては国として立つ瀬が無い。」
衝撃の連続で覇気を失ってしまったクイラ国王のテンヘラは日本国の戦費負担を断る。
カナタもハーク・ロウリア34世もそれに頷く。
「元々、多大な援助を受けている身です。日本国が取りこぼしたくらいの数であれば自国で何とかして見せます。」
「ロウリア王国が発端で起こった事態だ。これ以上、日本国を頼るわけには行かぬ。」
こうしてロデニウス連合の第一歩は望まぬスタートを切ることとなった。
「一つ、カナタ陛下とテンヘラ陛下にお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
会談終了後、阿野は答えの見つからなかった問題を投げかける。
二人は頷き阿野は言葉を続ける。
「ハーク・ロウリア陛下には嫌な事を思い出させるかもしれませんが、我々は当初から友好的な国交を結べたと日本は思っております。
パーパルディア皇国の者が言っていた様な艦砲外交に寄らず、日本国の従来通りの手法で国交を結べたのは、貴国が成熟した国家だったからなのでしょうか?」
それを聞いたカナタ達は如何答えるべきか迷っていた。
「私たちは、当初から友好的であったと思います。
ですが、私たちは初めて出会った時から日本の戦力の高さを認識していました。」
そう、ファーストコンタクトはF-2と竜騎士の出会いだった。
竜騎士が全く追えない速度で飛ぶ機械。ムー国だと、列強だと判断したくらいなのだ。
日本はそのことが抜け落ちているかも知れず、直接的に言う事ができなかった。
「初めて……あっ!!」
阿野は思い出す。あの頃は異常事態であるが故に、臨戦態勢で警戒に当たっていた事を。
日本国民の安全のために、領空侵犯で賠償金を支払う覚悟をもって事に望んだ事を。
そのときにクワ・トイネ王国に出会った事を。
そして日本に招待するときは賓客の安全を考慮して軍艦で伺った事を。
思い起こすとクワ・トイネ王国もクイラ王国もロウリア王国もガハラ神国もフェン王国も全て武力から始まっていた。
5年という時が、それを友好的な出会いだったと都合よく作り変えてしまっていたのだ。
「なるほど……であれば、軍艦で向かえばこのようなことには……」
「いえ、そうはならないでしょう。パーパルディア皇国の者が言っていた様に、日本国にはこの世界における地位が必要でした。
むしろ軍艦で向かえば、プライドが人一倍高いパーパルディア皇国はその力を決して認めようとしないでしょう。
自分達より格上の国がいきなり現れるなんて、彼らが受け入れられるとは到底思えません。」
カナタの言葉に、テヘランもハーク・ロウリア34世も頷く。
結局のところ如何にもならなかったのだ。
軍艦で向かえば決して認めず、超ロデニウス級戦列艦を数十隻引き連れて向かっても、技術を奪おうと今回と同じ結末を迎える。
海王丸で向かった今回は、より興味を引いてしまったに過ぎない。
「そうでしたか……」
知りたかった答えを得る事は出来たが、何の解決にもならない事に阿野は肩を落とす。
だが地球の常識だけで、この世界を平和に過ごす事も出来ない事がわかったのは収穫だった。
(国民は今まで通りでいい。世界の為に国民性を捨てる必要など無い。だが、我々政府は変わらなければならないのだな。日本人が日本人らしく生きられるために。)
阿野はそう決意し、パーパルディアとの開戦に臨んだ。
日本の落ち度も確実にありますが、
結局、パーパルディア皇国につける薬はないんです。
原作ではレイフォルもグラ・バルカス帝国にありえない対応をしていますし、
彼らも皇族が乗船しているのだから、かなり先進的な鉄製船舶で来たと推測しています。
それで尚、あんな態度を取っての結末。
要は、ヴァルハルやカナタの言っていた様に「地位」が必要だったんです。
列強という「地位」を持つもの達だからこそ「地位」がない者を、正しく分析せずに格下、偽者と決め付けるのです。