パラレル日本国召喚 作:火焔
◆◆ 東パーパルディア海 ◆◆
パーパルディア皇国海軍、総勢2,200隻の内、魔導戦列艦はいくつもの艦隊に分かれて単縦陣で東に帆走している。
日本に北西、西、南西の三方から攻め入り、日本の戦力を分断して海上戦力を壊滅させる。
その後は海上封鎖と陸軍への砲撃支援をする作戦だ。
数でも劣る日本の戦力ならば、間違いなく有効だろうとこの戦略に異論を唱えるものはいなかった。
寧ろ過剰ではないか?という意見まで上がったほどだ。
そして花形の竜母は各艦隊の後方に位置し、索敵から航空支援まで幅広い任務に従事していた。
200隻という驚異的な数は圧巻というほかに無い。
アルタラス制圧戦ですら竜母は20隻だったのだ。それの10倍、パーパルディア皇国の本気度が伺える。
兵士の士気は十分、錬度も申し分ない!それを後押しするかのように風は西から東に吹く。まさに順風満帆だ。
世界がパーパルディア皇国を祝福してくれている。船員達は皆そう思っていた。
西から攻め入る中央艦隊の先頭を、旗艦である超フィシャヌス級戦列艦「インペリアル・レミール」が悠然と走る。
この160門級魔導戦列艦は、皇国最新の技術を持て作られた最先端の軍船である。
逸れに乗船するは海軍最高司令官のバルス。
彼が戦場に立つとき、全ての海戦で完勝。その圧倒的な強さから「海王」との異名をルディアスから賜るほどだ。
「此度の戦いはレミール殿下と皇国の繁栄をもたらすものだ。各員、俺がいるからといって気を抜くなよ」
バルスの言葉に皆は一層気を引き締める。
もちろん誰も気を抜いてないどいない。彼らは古い時代のイギリス海軍のように中流階級、そしてそれ以下の出身のものが多い。
彼らは上級階級を押し退けて旗艦に配備されるほどに優秀な者達なのだ。
他の船も、その様に実力が高いものが優先的に新型艦に配備されている。
ルディアスの治世がパーパルディア至上最も優れているとされているのは、階級に寄らす優秀なものにはチャンスを与える度量、そして貴族たち上流階級が不満を持たない様に上手く手綱を握る人身掌握術。
そんな絶妙なコントロールが出来るのは、パーパルディア皇国の歴史上でもルディアスだけだろう。
海軍だけでなく、陸軍、技術部門、外交部門など様々な分野で実力主義が実施されている。
皇国民達は他者が成功を収めるのを見て、次は自分が!と奮起し、貴族達は増えた税収で事業を拡大する。それにより活躍の場が増える。こんな好循環がルディアスの時代だけで出来上がったのだ。
今回の日本戦もこれの延長線上だと、そう信じていた。ところが――――
「な、何だ!!?? 島が動いてるのか――――!?」
対する日本側――――
日本は7月までの準備期間で何とか人工衛星を打ち上げる事に成功した。
数が圧倒的に少ないため断片的な情報が多いが、鈍足の帆船を補足するには十分だった。
3つの大艦隊に分かれたパーパルディア軍を日本国は各大艦隊に対して3つの艦隊ずつ、計9艦隊(72隻)で相手にすることを決めた。
40発/分の艦砲であれば、およそ2,200隻軍船は全力を出せば1分以内、射程距離等を制限しても数時間で撃破できる。
過剰ではあるが、それくらいの差を見せ付けた方が理解が早いだろうとの判断だ。
それにこの世界で新たに生まれた軍艦も一隻出陣する。
◆◆ 神聖ミリシアル帝国 とある酒場 ◆◆
ここはとある酒場。ここには様々な国の様々な品を扱う商人が集まる。自称情報通の一般人も集まる。
「ついにパーパルディア皇国海軍が日本に向かったんだってな。」
「あぁ。これでパーパルディア皇国の地位がまた高くなるな……」
列強第5位レイフォル出身の商人は悔しそうに酒を煽る。
ルディアスが皇帝になってから、レイフォルとパーパルディアの差は開く一方。
悔しくないわけが無い。
「だが、日本国も一度パーパルディア皇国を退けているんだぞ?」
「地方艦隊の1つだったんだろ? それだったら、多少力のある文明国なら出来るさ。
だが、今回はパーパルディア皇国海軍の主力だろ?
万が一にも勝ち目なんて無いさ。」
この酒場にいる殆どの奴らはそんな下馬評だ。
だが、そう思わないものも極僅かにいる。それは、偶然にも日本人と接触した事のある者達だ。
「いや、俺は日本が勝つと見るね。」
「ハハハッ!!! 何を根拠に!」
彼のいる周りでドッと笑いが巻き起こる。
面白い冗談だ。今回はどんな自称情報通のお笑い芸人なのかと。
だが彼だは、日本を知らないなら無理も無いと心の中で思う。
そして――――
「根拠ならあるさ、これを見てみろ。」
そういいつつ、その商人は懐から懐中時計を取り出した。
石ころでも取り出すのかと手元を見た者達は驚愕に顔をゆがめる。
彼が取り出した懐中時計は時間の書かれていない中央部分がスケルトンになっていて、チチチチチ……と複雑な機構と歯車が噛み合って回転していた。
「こ、こんな緻密な懐中時計ッ! ムーでも見たことが無い!!! 一体何処で!? 一体幾らなんだ!!?」
脂汗を滲ませながら懐中時計を凝視する裕福な商人は、取り立てて普通の商人に見える彼を問い詰める。
「何処の国かは……わかるでしょう?」
「ま、まさか…………?」
全ての主要国家と取引のある裕福な商人は、そんな馬鹿なと思う気持ちと、ここにある至宝と呼ぶべき
「日本です。」
「幾らだ!? 売ってくれ! 金ならある!!」
裕福な商人は普段であればこんな低俗なもの言いで取引を持ちかけたりしない。だが、理性を失ってしまうほどの至宝であれば話は別だ。
「白金貨10枚(1億円)……といいたいところですが、これを売る事はありません。」
「そうか……当たり前だな……。これ程の至宝、たった白金貨10枚で売るはずが無い……」
裕福な商人はしょんぼりするが、平凡な商人は冷や汗で一杯だった。
思いっきり吹っかけたつもりだったのに、白金貨10枚といったときに裕福な商人の目が買う気マンマンだったので非売品にせざる終えなかったのだ。
この懐中時計はそんなに高くないことを知っているから、それを知られたときに消されてしまうだろうと怖気づいた。
彼はクワ・トイネで新しい品が無いか外国の商人が来ない地方都市に出向いていた。
そこで変な服を着ているクワ・トイネ人とは雰囲気の異なる人を見かけて声をかけた。それが始まりだった。
雰囲気の違う人間は、日本人という種族でこの地方都市には観光で来たと。
商品を探していた商人は都市の知識がそこそこあったのだ。
そこで色々あって友人となり、この懐中時計をプレゼントして貰ったのだ。
日本人はこんな安物(3,980円)の時計でいいのか?
と言っていたが、こんな一品が安価で手に入る日本にこの世界は変わると確信したのだ。
「これ程の技術力を軍事に転用すれば……。本当に分からなくなってきたな。」
結果は見えていたと思われた戦いに、投下された爆弾のような衝撃を与えた懐中時計。
見えなくなった戦況を予想する事に口論が飛び交い、活気と共に夜が更けていった。
それは、歴史に残る海戦の前夜だった――――
技術防止法がありますが、個人宛のプレゼント程度であればお咎めはありません。
短い予定だったのに、酒場を入れてしまったばっかりに……