パラレル日本国召喚 作:火焔
●日本
林田:陸軍伍長
●パーパルディア皇国
ノトーリア:労働施設管理者(元ではない)
木造の掘っ立て小屋を何棟もくっ付けたたような施設。
間取りの壁は薄い木でテキトーに区切ってあるだけなので、やはりプライベートはない。
シトリーさん達が居た施設の方が数倍マシだ。
ただ、彼女達が居た施設と同様に露天風呂だが入浴施設があるのには驚いた。
「あんたが、日本の兵隊さんか?
あんたから見ても、浴場があるのはおかしいと思うか?」
俺が風呂場を見ていたら、パーパルディア兵のノトーリアがやってきた。
今回は彼から話しを聞く手はずになっている。
「いや、金もかかるだろうに、よく作ったなと思ってな。」
「お、やっぱり必要性がわかるか。ここの奴らは毎日風呂にはいらねぇんだよ。
汚ねぇだろ? 不衛生は病気の元なのにな、それすら知らねぇんだ。
それに比べてあんたは判ってる。まぁ、あんな爆発魔法操るやつだしな。文明水準は高いんだろう。」
彼もパーパルディア皇国兵士だが、ずっとここに居るため、軍事基地の爆撃は免れたらしい。
流石にあの爆発を見て戦意は喪失したようだ。日本国の指示に従ってくれている。
農業施設であるここを閉鎖すると餓死者が大勢出てしまうため、ここだけは止む無く営業中だ。
「で、今日は何の話を聞きに来たんだ?
作物に異常があればちゃんと報告してるぜ?」
「今日は施設の成り立ちや、アルタラス国民の扱いについてだ。」
「ふぅん? 変なことを聞くもんだ。まぁ、いいけどよ。」
俺達は室内に移動して、彼が常駐する部屋のソファーに座った。
「で? 何から聞きたい?」
「先ずはこの施設は何をする所からだ。」
アルタラス人奴隷を使った農業施設ということは知っているが、
鞭で打ったりしているのかとかは聞いてはいない。
「ここでは、周囲の施設や本国に送る食用、商品作物を育てている。ここのメインは食用作物だな。
そういえば知ってるか?
あいつら種を播くとき本当に播くだけなんだぜ?無知にも程がある。
種は発芽を促すために水、光、温度が大事なのによ。
経験的に連作障害があるの位は知ってるらしいが、対処法をしらねぇ。
そんなんでよく生きて来たよな?
あんたは知ってるだろう?」
いきなり農業の薀蓄が出てきたが、パーパルディア皇国は割と近代的な農業ということがわかる。
対してアルタラス王国は原始的な農業ということも……。
「まぁ、水に半日つけるとか、種を傷つけると発芽し易い種類があったり、光好性、嫌光性種子があるとは聞いたことが……」
「ほぅ? 種に傷をつけるのはしらねぇな? 例えばどんな野菜だ?」
「いや、俺も聞いたことあるくらいで何の品種かまでは知らない。」
「そうか、それは残念だ。まぁ、あんたは専門家じゃないしな。しかたねぇ。
あぁ、悪い。話が脱線したな。
まぁそうやって教育しながら、ここで作物を育てているわけだ。」
ここまで聞く分には、技術を与え育てるという真っ当なもので、歪みらしきものは存在しない。
多分、教育がキモなのだろう。
「そりゃ、鞭も振るうさ。属領アルタラスを維持するための食料を生産してるんだからな。
バカやられて凶作なんて事になったらシャレになんねぇ。」
確かに一理はある。飢饉に対して備えるために厳しくなるのは致し方ないのだろう。
多分、ここが運営されてからの流れを聞かないと、歪みは見つからないのだと思う。
「では、この施設の始まりから、今に至るまでの歴史を教えて欲しい。」
「ああ、いいぞ。だけど真似すんなよ。祖国パーパルディアの積み重ねてきた技術なんだからよ。」
真似するつもりなど到底ないが、とりあえず頷いておく。
「まずは、周辺の農村から街に奴隷を集めるんだよ。このときに間引くんだよ。
反乱分子をな。間引いても各施設500人くらいになるよう調整はするが。
あぁ、奴隷生産工場に行くやつとその家族はここで開放だ。
最も重要な施設だからな。家族にも特権が与えられる。」
「特権と間引きとは……?」
「文字通りの意味さ。
特権は労働施設への収容が免除される。奴隷生産工場に送られたヤツの体のいい人質だ。
奴隷生産工場で働く限り、家族は今までの生活が許される。
家族は何してるか何て知らねぇからな。生産工場にいる奴らに感謝するんだよ。何も知らずに仕送りやプレゼントを贈って自分達で奴隷達を縛ってるんだぜ?
次に間引きだ。
不満があって奴隷から解放されたいヤツを募るんだよ。
1:100で俺を倒せたら解放してやるってな。対価は自分の命でな。もちろん俺が1だ。
そんだけいれば勝てるだろうってタカを括るんだ。
だが、パーパルディア皇国の魔法で強化し、戦闘訓練を詰んだ俺と大した武器もねぇ、魔法も封じられている一般人。
余裕を持って勝つんだよ。
で、負けたヤツは民衆の前で拷問の後、処刑する。先ずは恐怖でってのはスタンダードだからな。」
「だが、そんな方法を取り続けていたら、いずれ人がいなくなるだろ。」
(恐らく恐怖で縛り続けるのではないだろうが……)
「あぁ。次にな、こういうんだ。
『施設内で反乱を起こしたら、張本人と近くにいる奴ら50人を処刑する』ってな。
本当に無作為で選ぶんだ。するとどうなる? 自分達は関係ないと思ってた奴らが、いきなり当事者になる可能性が出て来る。
わが身可愛さで同じ国民同時なのに互いに監視しあうんだ。近くにいる奴が謀反を起こしたら殺されるかもしれないからな。
そうやって、内部分裂を起こさせる。ここまでが間引き効果だ。」
「やはり恐怖で支配するんじゃないのか?」
苛立ちが声に出てしまっているのだろう。
「まぁまぁ落ち着けよ。これは始まりだって。
この恐怖がある間に、毎日必ず入浴をすることや、作物の育て方とか絶対に守らなきゃならない規則を叩き込む。
間違った知識で農業されても困るし、感染症なんて俺もヤバイからな。ここは絶対に叩き込む。」
取る方法は間違っているが感染症は本当に恐ろしいものだ。
簡単に万単位の人が命を落とす。だが――――
「もう少し穏便な方法は取れないのか?」
「無理だな。奴らが自分達が病気にかかり難くなった事、作物の育ちが良くなった事を実感させるのが一番効率的だ。
奴らはあんたの思うほど利口じゃない。」
そういわれるとアルタラスの人々を知らない俺は返す言葉がない。
「で、そのあたりの教育はそれくらいだ。
後は多少の飴を与えてやるんだ。奴隷生産工場に行って来たのなら大体わかるだろ?」
「衣食住と三大欲求を満たすんだったな?」
結局はそこか……
だが、あの施設と同じ様に出来るほどのリソースは無いはずだ。
「正解。だが、此処では三大欲求までだ。
あの工場は基幹産業だからな。手厚くするが、ここはそこまでコストはかけない。
恐い顔すんなって。薄々気が付いてたんだろ?」
「……話してくれ」
分かっていても、気分が悪くなるのはどうしようもない……
「食は大してかわらねぇな。コックの質が「最高峰」から「街で人気」に落ちるくらいだ。
奴隷用の食料も「量」「栄養価」重視なのは変わらない。そんなに多品種も作れないからな。
体力が資本だからな。しっかり食わせねぇと生産量も落ちる。」
どの施設でも食べるに困らない様にはしてくれているらしい。
それだけはありがたかった。
「次に睡眠だな。これは非文明国の村でよくある大人数用のベッドだ。1つのベッドを4人で使うのさ。
モノはそこらの家から徴収してくる。足りなきゃ作らせるがな。」
クワ・トイネやクイラ、ロウリアでも農村部はそんなものだ。
1つのベッドを4人で使うのは余裕のあるほうだから良心的なのかもしれないくらいだ。
「おっと、まだ終わりじゃない。
これに関しては、作物の生産高が多い8人のグループに対して褒美を出すんだ。
パーパルディア皇国産のベッドだ。知ってるだろ?」
「ああ、他の施設でも使用してると聞いた。」
「そうだ。大人数用のベッドだが、それを報酬にくれてやるのさ。
すると、グループ間で競い合いが起こるのさ。見た目からして、そこらのベッドとは格が違うからな。羨ましいのさ。」
「そうして内部の対立を深めるのか?」
かの豊臣秀吉も部下を競わせて効率化を図ったそうだ。
ただ、その所為で秀吉亡き後に文官、武官の間で対立が起こり最終的に滅びる事となった。
もちろん一つの要素でしかないが、全く無関係でもないらしい。
それをこの施設内でも起こすということか。
「ご明察通り。特にまともな寝具で寝た事のない貧民層がやる気を出すのさ。
そして最後が性欲だな。
さっきからベッドは4人、8人グループって言ってるだろ? その比率がキモだ。
男女比が3:1。そしてそれを二組で8人グループ。
これが今のスタンダードだ。」
「何故その内訳になる?」
「女には3つ使える所があるだろう? 上に1つ、下に2つ。だから3:1だ。
ここで大事なことがある。
俺達は好きにしていいって言わない事だ。
言っちまうと、俺が言ったからとやりたい放題しだす。」
怒りが胸の内を渦巻くが、捕虜に対しての暴行は許されない。
それに真実を明らかにしなくはならない……。
「それが目的じゃないのか?」
「いや? 性欲がない奴だって僅かながらいるかもしれないだろ?」
ありもしないことをノトーリアは口にする。
「まぁ、施設にしばらくいると性欲を発散する機会も無いわけだ。
しかも入浴は混浴、ベッド内訳も男3、女1だからな、余計溜まるんだろうな。
するとな、最初に誰かが間違いを犯す。
壁は薄い、天井付近は吹き抜け、声が周囲に響く。
何が起きてるか誰でも分かっちまう。
するともうダメだ。他のヤツがヤってるんだからって自分に免罪符を張るんだ。
一気に全部のグループが盛りだす。」
「仕向けている癖に、自分は関係ないような口を利くな!」
「そう怒るなよ。環境を整えただけさ。同胞が大切なら我慢だって出来たはずさ。
あいつらは自己の欲求に負けただけだ。
あんたなら如何だ? 欲に負けたか?」
「日本国軍人がそんなモノに負けるわけが無い!!!」
「そうだな。俺だってそうだ。誇りを捨てるくらいだったら自害する。
だが奴らは違う、負けちまったんだ。」
勢いでありえないと言ったが、日本国民全てが耐えられるだろうか……?
俺は信じたいが、国民全員が強く己を律するのは難しい……。
そうか……ここの女性たちに全ての歪みが押し付けられるのか……
「女性達はどうなる?」
「何も変わらないさ。いや、グループによっては扱いが変わるところが多いな。
女達は軽い仕事に変わり、男達の仕事量が増えるケースが一番多い。
どこかで罪の意識でも感じているじゃないのか?
女が全く何もしないケースもあるし、
稀に女の仕事量に変化がないケースもある。やるだけやって置いてあんまりだよな?
一応、そういう時は言ってやるんだ。『代わりはないぞ?』とな。」
ノトーリアは当たり前のように起こった出来事を述べていく。
いや、パーパルディア皇国民にとっては当たり前なのだろう。
「でな、三大欲求が満たされだすと、諦めるやつが出てくる。
特に貧民だった奴らだ。都市のスラム街に居るだろう?そういう奴ら。
あいつらは食欲も満たせず、睡眠もろくにとれず、性欲なんてもってのほか。
此処では全部得られて住処まで貰える。だから此処に満足しだすんだ。
するとこの中でより良くなろうと努力しだす。
褒美で、寝具を得て、その次は娯楽を得る。俺達がカードゲーム、ボードゲームとかくれてやるんだよ。ポケットマネーでな。
奴らは更に頑張るし、いい循環だろう?
ちゃんと成果を出せば遊ぶ時間くらいやるさ。」
「で、それに気に食わないのが、そいつらが貧困層だって知っている奴らだ。
悔しいよな。自分達より下だった立場のヤツが、自分達よりいい暮らしをしているんだ。
揉め事は俺達が許さないからな。成果で戦うしかない。そうやってどんどん競い合うわけだ。
まぁ、こんな感じで5年だ。
あぁ、因みにヤって産まれたのは飼育施設に送られる。ここに居ても意味無いしな。」
「彼らはお前達のモルモットじゃないんだぞ?」
俺は怒りを隠すことすらしない。いや、できるわけが無い。
人を何だと思っている!
貴様らの玩具じゃないんだぞ!!
「あ~なるほどな。なんでポケットマネー使ってまで、褒美をやるのか俺も理解できなかったんだよ。
必要ならば本国から支給されるはずだしな。
だが、林田さんの言葉で理解できたよ――――
ペットは可愛いもんな?」
俺は無意識にノトーリアの胸倉を掴み、睨みつけていた。
だが殴ってはならない。規律を犯すは日本国軍人足り得ない。
怒りに震える手を解き、ノトーリアを解放する。
「ゲホッ! やっぱりあんた達はスゲェな。そこまで自己を律することが出来るなんてな。
だからこそ分からねぇ。何でこんな事で怒るのかがな。」
「お前には一生分かるまい!!」
「そうだろうな。これが思想の違いってヤツなんだろう。」
「そんなこと――――!!!」
だが、そうなのかもしれない。
500年以上、狂った世界の中で生きていれば否応なしに狂ってしまう。
何より恐ろしい事は、自分が狂っている事にすら分からない事だ……。
狂っているのは俺達なのか? 世界なのか?
アルタラス編はこれにて終了です。
ですが、次はカース編です。
○労働者施設
属領の施設。農業、漁業、鉱業など、体力と人数を要する第一次産業を行う施設。
奴隷飼育施設で生産工場向きではない(相対的に美形でない)人たちが送られる。
遺伝子が選別され、世代を重ねるごとにどんどん美形になっていく。
慰み者にされる彼女達の恨みは元王国へと向く。
自分達を見捨てて逃げようとした王族、貴族へ……