(完結)ルート2027(初代デジモンアドベンチャー)   作:アズマケイ

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第103話

「大丈夫か、大輔」

 

太一は見るからに意気消沈している大輔を見かねて声をかけた。

 

「姉ちゃんが誘拐されたって、お母さんに言わなきゃ……」

 

じわ、と涙腺が緩む。

 

「大輔、つらいならジュンさんとうちに泊まりにいくって言えば……」

 

「そうだよ、大輔くん。うちに遊びにおいでよ」

 

大輔は俯いたまま首を振った。

 

「1月9日……」

 

「え?」

 

「大輔くん?」

 

「1月9日が姉ちゃんの高校受験の推薦の試験の日なんです……絶対お母さんおかしいってわかっちまう……」

 

あちゃーと太一と光は顔を見あわせた。そういえばジュンは今年中学3年生だから受験生なのである。大切な時期だというのにデジファームのデータをディアボロモンに盗まれてばらまかれたのは自分の責任だからと今回の招集に応じていたのだ。

 

いくらデジタルワールドを何度も救った英雄、選ばれし子供であっでも現実世界に帰ればまだ義務教育も終えていない子供にすぎない。

 

いくら今まで両親に冒険について話して理解を得られたとしても、今回はジュンの行方不明と治の重傷という誤魔化しようがない被害が出てしまった。なんと説明していいのか。小学校3年生の大輔にはまだ荷が重すぎるといえた。

 

「つらいならオレが代わりに説明してやろうか?」

 

「……いいんですか」

 

「おう。ディアボロモンのせいでみんなのところに行けなかったオレたちにも責任あるからさ。これくらいやらせてくれよ」

 

「……お願いします」

 

「大輔、ワシも説明せねばならんじゃろう。ジュンのノートパソコンからで申し訳ないが、ご両親のところに連れて行ってはくれんか?」

 

大輔はうなずいた。そして。

 

デジタルゲートをくぐり抜けた先では、すっかり霧をはらんだ冬の冷たい空気が硬い粉のように瞼や頬に痛かった。冬の月が夜気を白刃のように凍らせる。冬の夕方の空が硝子のような色をしていて、しんしんと冷える冬の夜道が豪華な星空に彩られる。

 

いつもならメリークリスマスとうかれるところだが到底そんな気分にはなれそうもなかった。

 

夜の外気は肌をさすようにはりつめている。

 

太一と光と大輔は無言のまま帰路に着いた。わざわざお台場の臨海公園から帰ってきたのは大輔をそのまま送り届けるためである。これほどまで足取りが重い帰宅は3人とも初めてだった。

 

わざわざチャイムを鳴らす息子を不思議に思った母親が出迎えた途端、大輔はいきなり母親にしがみついて泣き出してしまう。

 

「ど、どうしたの、大輔?ジュンは?」

 

ジュン、の言葉に尋常ではない泣き方がさらに加速する。母親は狼狽する。いつものように「ただいま」の次にはデジタルワールドの大冒険について話してくれるはずの大輔が火がついたように泣いている。こんな時はいつだって真っ先に大輔を慰めるはずのジュンの姿がどこにもない。代わりに付き添いでここまで来てくれたと思われる八神兄妹がいるだけ。それだけで強烈な違和感がそこにはあった。

 

夏休みに選ばれし子供として世界を救ってからずっと成長したと安心していた息子。いきなり泣き虫に戻ってしまったものだから、大輔の背中をさすりながら母親は困ったように太一たちに視線をむけた。

 

「あの、おばさん。実は……」

 

太一と光があまりにも真剣な眼差しでいうものだから、なんとなく嫌な予感がしたらしい。母親は大輔をなだめながら太一たちを家に招き入れた。

 

そして、お茶を準備する母親を待ちながら、太一はしゃくりあげている大輔の代わりにジュンのノートパソコンを起動するのだ。

 

お茶を並べてもらって、母親が席に座るのを待ってから、太一は話し始めるのだ。そして当事者ではないから途中からゲンナイさんにバトンタッチする。母親がゲンナイさんと会うのは、2回目だ。奇しくも1回目はジュンがチョコモンに連れ去られて今回のように行方不明になり、大輔が選ばれし子供になったことを伝えたとき以来だから2回目である。

 

似たような状況だからだろうか、 母親は太一が思っていたよりもはやく状況を把握してくれた。だが表情がかなり固い。大輔があまりにも取り乱しているからだ。

 

「わかったわ」

 

「おばさん……」

 

「大輔のかわりに話してくれてありがとうね、太一くん。ゲンナイさん。光ちゃんも一緒に来てくれてありがとう。大輔も内緒にしないで話してくれてありがとう」

 

太一も光も首をふる。

 

「ジュンは大輔を庇ったんでしょう?あの子らしいわ。めんどくさがり屋さんなところがあるけど、なにかあったら先に動いちゃうのがジュンらしいわね。大輔はおかげですっかりトラウマになっちゃってるのが困り物なんだけど……」

 

母親はためいきをついた。

 

「大丈夫よ、きっと大丈夫。8月の時だってジュンも大輔もちゃんと帰って来てくれたんだもの。難しいことはよくわからないけど、今回だって全部終わったらきっと帰ってきてくれるわ。それは太一くんたちも同じでしょう?」

 

「は、はい!もちろんです!」

 

「絶対みんなで帰ってきます!」

 

「ですって、大輔。いつまで泣いてるの。男の子でしょう?しっかりしなさい。お姉ちゃんを守るのは僕だっていってた大輔はどこに行ったの」

 

「大輔……」

 

「大輔くん……」

 

長い長い沈黙があった。しばらくして大輔はうなずいた。

 

「おれ、がんばる。姉ちゃん絶対助けるんだ」

 

「大輔くん!」

 

「よかった、大輔その意気だぜ。絶対ジュンさん助けような!」

 

「はい!」

 

「よかった、よかった。ありがとうね、太一くん。光ちゃん。もうこんな時間だからそろそろ帰りなさい。お母さんたち心配しちゃうわよ」

 

「あ、ほんとだ。もうこんな時間!」

 

「あの、おばさん」

 

「なあに?」

 

「明日、大輔連れて行ってもいいですか?」

 

母親は瞬き数回、ニッコリと笑った。

 

「ダメっていおうものなら、また光が丘霧事件の時みたいに飛び出しちゃうわ。だからお迎えに来てくれるならむしろ安心ね。だってこの子、デジタルワールドに直接行けるんでしょう?」

 

「あ、あはは……たしかに。大輔一回デジタルワールドに勝手に行こうとしたことあったもんなあ」

 

「うじうじ悩むより即行動がこの子のいいところだけど、それは太一くんみたいな子がいてくれるからこそよ。だから大輔のこと、よろしくね」

 

「わかりました」

 

太一はしっかりと頷いたのだった。

 

太一と光が帰ってからずっとチコモンを抱っこしたままぼーっとしていた大輔は、母親に言われて早めにお風呂に入ることにした。父親には話をしておくからといわれ、いわれるがまま夕食を食べて風呂に入り寝室に向かった。

 

「あれ、だいしけ。こっちじゃないのか?」

 

ジュンの部屋に入っていく大輔にチコモンは疑問符を浮かべた。

 

「寝れないと思うんだ。怖い夢見そうで怖いから姉ちゃんのパソコンで調べてみよう、チコモン。ミレニアモンについて。そしたら怖くなくなるかもしれない」

 

キーワード検索を試みた大輔は知らないページをみつけた。

 

「なんだろこれ」

 

「おれ読めるよ」

 

「えっ」

 

「デジモンアポカリプス、デジモン黙示録って書いてある」

 

大輔は目を丸くするのだ。

 

「デジモンミュージアムにある予言の書!なんでこんなところに?」

 

「さあ?ジュンがなにか調べてたんじゃない?ミレニアモンの名前があるんなら読んでみようよ」

 

「そうだよな」

 

そして。

 

「遼さん......え、なんで遼さんの名前がこんなとこに?」

 

先代の選ばれし子供たちの中に秋山遼の名前がある。

 

「ケイトさんに聞かなきゃ」

 

大輔は大急ぎでメールを打つことにした。

 

 

 

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